ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F |
---|---|
管理番号 | 1316512 |
審判番号 | 不服2015-12333 |
総通号数 | 200 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-06-30 |
確定日 | 2016-06-30 |
事件の表示 | 特願2011- 50502「情報処理装置、メモリ管理方法、およびメモリ管理プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月 4日出願公開、特開2012-190064〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成23年3月8日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 平成26年 9月 5日付け :拒絶理由の通知 平成26年10月29日 :意見書,手続補正書の提出 平成27年 3月23日付け :拒絶査定 平成27年 6月30日 :審判請求書の提出 第2 本願発明 本願の請求項に係る発明は,上記平成26年10月29日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載されたとおりのものであると認められるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,以下のとおりのものである。 「 データを記憶するための記憶装置を用いる情報処理装置であって, 前記記憶装置よりも高速にアクセス可能なメモリと, 前記メモリにおいて複数の記憶領域を論理的に設け,前記記憶領域に他の前記記憶領域を冗長記憶領域として割り当て,前記冗長記憶領域にデータのコピーを格納することが可能なメモリ管理部とを備え, 前記メモリ管理部は,前記メモリの使用率が所定の閾値を超えた場合には,前記冗長記憶領域の割り当てられた複数の前記記憶領域について,前記メモリの使用率が前記所定の閾値以下になるまで,各前記冗長記憶領域を段階的に未使用領域とし, 前記メモリ管理部は,前記冗長記憶領域の割り当てられた複数の前記記憶領域を,前記記憶領域に異常が発生した場合における影響度に応じて複数のレベルに分類し,前記レベルに従って未使用領域とする前記冗長記憶領域を選択し, 前記影響度が変化する,情報処理装置。」 第3 引用例 1 引用例1に記載されている技術的事項および引用発明 (1)本願の出願日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,原審の拒絶査定の理由である平成26年9月5日付けの拒絶理由通知において引用された,特開2009-199478号公報(平成21年9月3日公開,以下,「引用例1」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。 (当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。) A 「【0009】 通常,OSは,アプリケーションを実行しようとするとき,メモリを消費する。OSは,その消費するメモリの量が,システムに搭載されているメモリを大幅に超えると,仮想メモリからのスワップイン,スワップアウトを頻繁に繰り返す。この状態に陥ると,OSは,アプリケーション処理能力が大幅に低下する。一般的に,この現象をスラッシング状態と呼ぶ。 …(中略)… 【0012】 上記で説明したスラッシングの問題が発生しうる場合,通常のシステムでは,あらかじめ,メモリを増設することで,スラッシングを回避することができる。しかし,メモリミラーリングを行っているシステムにおいて,同様の対策を行おうとすると,メモリの増設量は,通常のシステムと比べ,2倍のメモリを必要とする。メモリミラーリングとは,背景技術で説明したとおり,プロセッサが,2枚のメモリに同じデータを書込むことにより,データの冗長性を持たせる機能である。そのため,実際にOSが使用できるメモリは,半分になる。 【0013】 本発明が解決しようとする課題は,上記で説明したスラッシングを,新たなメモリを増設することなく,解決することである。 【0014】 本発明を行うシステムの構成して,計算機内に複数のメモリコントローラが存在し,対になるメモリコントローラ配下に,メモリのセットが存在する。メモリのセットとは,複数のメモリを,ひとつのメモリグループとしたものを示す。メモリのセットには,プライマリメモリのセットと,セカンダリメモリのセットがある。データの書込みの際,対になるメモリコントローラが,プライマリメモリのセットと,セカンダリメモリのセットに,同一のデータを書込むことにより,メモリミラーリングを行う。このような構成の計算機が,同一ネットワーク上に複数存在する。 …(中略)… 【0017】 さらに,OSは,現在のメモリ使用率と,計算機が持っているメモリ使用率の閾値を比較し続ける。現在のメモリの使用率が,メモリ使用率の閾値未満になった場合,OSは,セカンダリのメモリのセットに,保存されているデータを,一旦ハードディスクのスワップ領域に,退避する。そして,F/Wに対して,メモリ使用率が閾値未満になったことを報告する。」 B 「【0021】 図1に,本発明の一実施形態の構成図を示す。計算機200の構成は,メモリコントローラ10に,チャネル30Aと30Zを介して,メモリ20Aと20Zが接続し,同様に,メモリコントローラ11に,チャネル31Aと31Zを介して,メモリ21Aと21Zが接続している。メモリコントローラ10とメモリコントローラ11は,メモリのセット300とメモリのセット301のメモリをミラーリングしており,メモリ20Aと21A,20Bと21Bに同一のデータを,書込む仕組みになっている。メモリは,30Aから30Z,31Aから31Zまで複数接続可能だが,説明を簡略化するために,30A,30Z,31A,31Zだけが,存在する構成で説明する。計算機200内には,上記に述べたメモリミラーリングのセットが100から10nまで,複数存在する。このような構成の計算機が,管理バス70を介して,計算機200から計算機20nまで,計算機200と同一ネットワーク上に存在する。各計算機200は,通信制御部80を介して,外部の計算機20nと,通信することができる。 【0022】 計算機200は,あらかじめ,ユーザによって設定された管理情報60を保有している。この管理情報60には,自動メモリミラーリング制御機能を有効するか否かの情報と,メモリミラーリングを解除するメモリ使用率の閾値がある。自動メモリミラーリング制御機能とは,自動的に,メモリミラーリングの構成を変更する機能である。この制御機能は,計算機200で稼動するOSが,管理情報60に保存されているメモリ使用率の閾値を越えるメモリを,使用したときに,稼動する。この機能の詳細について,図2の制御フローで説明する。」 C 「【0023】 図2(a)と(b)は,先に図1で示した構成において,自動メモリミラーリング機能を制御する動作フロー図を示したものである。この動作フロー図では,OSが,現在稼動しているメモリの使用率と,管理情報60に格納されているメモリ使用率の閾値を,比較した時点での始点( ステップ01)から開始している。 【0024】 OSは,現在使用しているメモリ使用率が,計算機200に格納してあるメモリ使用率の閾値を超えたことを検出したとき(ステップ02),F/Wサービスルーチンコールを用いて,メモリ構成変更指示をF/Wに通報する(ステップ03)。 【0025】 F/Wは,メモリ構成変更指示を,OSから受けると(ステップ04),計算機200に格納してある管理情報60にアクセスし,自動メモリミラーリング制御機能の情報を受信する。自動メモリミラーリング制御機能が,無効であるとき,F/Wは何も行わず,OSに正常値を返す(ステップ08)。自動メモリミラーリング制御機能の設定が有効の場合,F/Wは,現在のメモリ構成の設定を確認するため,システム制御部90に設定してある,メモリ構成状態情報61を参照する。メモリ構成がミラーリング状態ではなかった場合,F/Wは何も行わず,OSに正常値を返す(ステップ08)。メモリ構成がミラーリング状態であった場合は,F/Wは,メモリミラーリングを解除する領域のチェックを行う(ステップ09)。F/Wが,メモリミラーリング領域を,解除できるか否かの判定は,メモリを使用する用途で判断する。この用途については,後述の図4で詳細に説明する。メモリミラーリングを解除できない領域である場合,F/Wは何も行わず,OSに正常値を返す(ステップ08)。メモリミラーリングを解除できる領域である場合,F/Wは,メモリのセット301をHot‐Removeするように,メモリコントローラ11を設定する(ステップ9)。一定時間待っていても,メモリコントローラ11がHot‐Removeを完了しない場合,F/Wは,タイムアウトし,OSに異常終了示すレスポンスを返す(ステップ10)。 【0026】 メモリのセット301のHot‐Remove完了後,F/Wは,ミラーリング機能を解除にするため,メモリコントローラ10とメモリコントローラ11に,ミラーリング機能を無効にする設定を行う(ステップ11)。この設定が完了すると,F/Wは,再びメモリのセット301をHot‐Addするように,メモリコントローラ11を設定する(ステップ12)。Hot-Remove時と同様に,一定時間待っていても,メモリコントローラ11がHot‐Add が完了しない場合,F/Wは,タイムアウトし,OSに異常終了示すレスポンスを返す(ステップ10)。Hot‐Add完了後,F/Wは,Hot‐Addしたメモリのセット301を初期化する(ステップ13)。初期化完了後,F/WはOSに正常終了示すレスポンスを返す(ステップ14)。ここまでのステップまで異常終了せず,動作が完了すると,OSは,ミラーリングするために,使用していたメモリ領域を,新たなメモリ領域として,使用することができる。」 D 「【0032】 図4に,システム内の物理メモリアドレスと,OSが参照可能なアドレス領域の関係の概略図を示す。この図では,計算機が,メモリ20Aとメモリ20Zを,用途別に使用した例を表している。メモリ20Aは,OSがミッションクリティカルなアプリケーション実行するために,利用される。その他,通常のアプリケーションは,メモリ20Zを使用する。 【0033】 図1で説明したように,メモリ20Aとメモリ21Aには,同様のデータが書込まれ,メモリ20Zとメモリ21Zには,同様のデータが書込まれる。また,メモリ21Aとメモリ21Zは,メモリミラーリングにより,OSから参照できない領域とする。今回,説明を簡潔にするため,各メモリの量は全てxとして考える。 【0034】 図4の左図は,本発明が稼動していないときを,右図は本発明が稼動しているときを,示している。本発明が稼動していないとき,OSが使用できる総メモリ量は2xである。ここで,OSのメモリ使用量が,閾値を超えると,図2のステップ踏み,メモリミラーリングを解除する。ただし,OSが,使用しているメモリの領域をチェックし,ミッションクリティカルな用途で使用されているメモリ領域ならば,ミラーリングを解除しない。この判定は,図2のステップ09において,F/Wが行う。 【0035】 図2の全てのステップ経て,図4の右図に示すように,OSが使用できる総メモリ量は,3xとなる。つまり,OSは,通常のメモリミラーリングを行っているときに比べ,1.5倍のメモリを,一時的に使用できるようになったことになる。今回の条件では,全て同一のメモリの量であったため,1.5倍となったが,ミッションクリティカルなアプリケーションに,使用するメモリ量を下げると,この数値は上昇する。 【0036】 さらに,OSが使用するメモリ量が,メモリ使用率の閾値を下回ると,図3に示したステップをふむ。 【0037】 以上,OSが,ミッションクリティカルなアプリケーションに使用しているメモリ領域を除き,部分的にミラーリングを解除することできる。結果,ミッションクリティカルなアプリケーションを稼動しているシステムの可用性を維持しつつ,OSが使用できるメモリ量が増加する。」 (2)ここで,引用例1に記載されている事項を検討する。 ア 上記Aの「本発明を行うシステムの構成して,計算機内に複数のメモリコントローラが存在し,対になるメモリコントローラ配下に,メモリのセットが存在する。メモリのセットとは,複数のメモリを,ひとつのメモリグループとしたものを示す。」との記載,上記Bの「計算機200の構成は,メモリコントローラ10に,チャネル30Aと30Zを介して,メモリ20Aと20Zが接続し,同様に,メモリコントローラ11に,チャネル31Aと31Zを介して,メモリ21Aと21Zが接続している。」との記載からすると,「計算機」は内部に複数のメモリのセットを搭載することが読み取れる。 また,上記Aの「現在のメモリの使用率が,メモリ使用率の閾値未満になった場合,OSは,セカンダリのメモリのセットに,保存されているデータを,一旦ハードディスクのスワップ領域に,退避する。」との記載からすると,「計算機」はデータを記憶する手段としてメモリのセットのほかに「ハードディスク」を搭載することが読み取れるから,引用例1には, “データを記憶するための,ハードディスクと複数のメモリのセットを搭載した計算機” が記載されていると解される。 イ 上記Aの「メモリのセットには,プライマリメモリのセットと,セカンダリメモリのセットがある。データの書込みの際,対になるメモリコントローラが,プライマリメモリのセットと,セカンダリメモリのセットに,同一のデータを書込むことにより,メモリミラーリングを行う。」との記載,上記Bの「メモリコントローラ10とメモリコントローラ11は,メモリのセット300とメモリのセット301のメモリをミラーリングしており,メモリ20Aと21A,20Bと21Bに同一のデータを,書込む仕組みになっている。」との記載からすると,複数の「メモリコントローラ」はそれぞれ,計算機内でメモリのセット毎に配置され,対になる「メモリコントローラ」は,プライマリメモリのセットとセカンダリメモリのセットに,同一のデータを書込むことにより,メモリミラーリングを行うことが読み取れるから,引用例1には, “メモリのセット毎に配置され,プライマリメモリのセットとセカンダリメモリのセットに,同一のデータを書込むことにより,メモリミラーリングを行う複数のメモリコントローラ” が記載されていると解される。 ウ 上記Cの「OSは,現在使用しているメモリ使用率が,計算機200に格納してあるメモリ使用率の閾値を超えたことを検出したとき(ステップ02),F/Wサービスルーチンコールを用いて,メモリ構成変更指示をF/Wに通報する(ステップ03)。 …(中略)… F/Wは,メモリ構成変更指示を,OSから受けると(ステップ04),計算機200に格納してある管理情報60にアクセスし,自動メモリミラーリング制御機能の情報を受信する。 …(中略)… メモリ構成がミラーリング状態であった場合は,F/Wは,メモリミラーリングを解除する領域のチェックを行う(ステップ09)。 …(中略)… メモリミラーリングを解除できる領域である場合,F/Wは,メモリのセット301をHot‐Removeするように,メモリコントローラ11を設定する(ステップ9)。 …(中略)… メモリのセット301のHot‐Remove完了後,F/Wは,ミラーリング機能を解除にするため,メモリコントローラ10とメモリコントローラ11に,ミラーリング機能を無効にする設定を行う(ステップ11)。 …(中略)… ここまでのステップまで異常終了せず,動作が完了すると,OSは,ミラーリングするために,使用していたメモリ領域を,新たなメモリ領域として,使用することができる。」との記載からすると,「OS」は,現在使用しているメモリのセットのメモリ使用率が,計算機に格納してあるメモリ使用率の閾値を超えたことを検出すると,F/Wサービスルーチンコールを用いて,メモリ構成変更指示を「F/W」に通報すると解される。 また,「F/W」は,メモリ構成がミラーリング状態であった場合は,メモリミラーリングを解除できる領域のチェックを行い,ミラーリング機能を解除可能な領域について,各メモリコントローラにミラーリング機能を無効にする設定を行い,ミラーリング機能を解除したメモリ領域を新たなメモリ領域として使用することが読み取れるから,引用例1には, “OSは,現在使用しているメモリ使用率が,計算機に格納してあるメモリ使用率の閾値を超えたことを検出したとき,F/Wサービスルーチンコールを用いて,メモリ構成変更指示をF/Wに通報し,F/Wは,メモリ構成がミラーリング状態であった場合は,メモリミラーリングを解除できる領域のチェックを行い,F/Wは,ミラーリング機能を解除にするため,各メモリコントローラにミラーリング機能を無効にする設定を行い,ミラーリングするために使用していたメモリ領域を,新たなメモリ領域として使用できるように”すること が記載されていると解される。 エ 上記Cの「F/Wが,メモリミラーリング領域を,解除できるか否かの判定は,メモリを使用する用途で判断する。この用途については,後述の図4で詳細に説明する。」との記載,上記Dの「図4に,システム内の物理メモリアドレスと,OSが参照可能なアドレス領域の関係の概略図を示す。この図では,計算機が,メモリ20Aとメモリ20Zを,用途別に使用した例を表している。メモリ20Aは,OSがミッションクリティカルなアプリケーション実行するために,利用される。その他,通常のアプリケーションは,メモリ20Zを使用する。 …(中略)… 図1で説明したように,メモリ20Aとメモリ21Aには,同様のデータが書込まれ,メモリ20Zとメモリ21Zには,同様のデータが書込まれる。」との記載からすると,「F/W」は,メモリミラーリング領域を解除できるか否かの判定をメモリを使用する用途で判断し,当該用途の態様として,OSがミッションクリティカルなアプリケーション実行するために利用すること,通常のアプリケーションが使用することが読み取れる。 また,上記Dの「ここで,OSのメモリ使用量が,閾値を超えると,図2のステップ踏み,メモリミラーリングを解除する。ただし,OSが,使用しているメモリの領域をチェックし,ミッションクリティカルな用途で使用されているメモリ領域ならば,ミラーリングを解除しない。この判定は,図2のステップ09において,F/Wが行う。 …(中略)… 以上,OSが,ミッションクリティカルなアプリケーションに使用しているメモリ領域を除き,部分的にミラーリングを解除することできる。結果,ミッションクリティカルなアプリケーションを稼動しているシステムの可用性を維持しつつ,OSが使用できるメモリ量が増加する。」との記載からすると,メモリ使用量が閾値を超え,メモリミラーリングを解除する場合には,使用しているメモリの領域をチェックし,ミッションクリティカルな用途で使用されているメモリ領域についてはミラーリングを解除しないことが読み取れるから,引用例1には, “F/Wは,メモリミラーリング領域を解除できるか否かの判定をメモリを使用する用途で判断し,当該用途は,OSがミッションクリティカルなアプリケーション実行するために利用すること,通常のアプリケーションが使用することを含み,ミッションクリティカルな用途で使用されているメモリ領域についてはミラーリングを解除しない”こと が記載されていると解される。 (3)以上,ア乃至エの検討によれば,引用例1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 「データを記憶するための,ハードディスクと複数のメモリのセットを搭載した計算機であって, 前記メモリのセット毎に配置され,プライマリメモリのセットとセカンダリメモリのセットに,同一のデータを書込むことにより,メモリミラーリングを行う複数のメモリコントローラを備え, OSは,現在使用しているメモリ使用率が,前記計算機に格納してあるメモリ使用率の閾値を超えたことを検出したとき,F/Wサービスルーチンコールを用いて,メモリ構成変更指示をF/Wに通報し,F/Wは,メモリ構成がミラーリング状態であった場合は,メモリミラーリングを解除できる領域のチェックを行い,F/Wは,ミラーリング機能を解除にするため,各メモリコントローラにミラーリング機能を無効にする設定を行い,ミラーリングするために使用していたメモリ領域を,新たなメモリ領域として使用できるようにし, F/Wは,メモリミラーリング領域を解除できるか否かの判定をメモリを使用する用途で判断し,当該用途は,前記OSがミッションクリティカルなアプリケーション実行するために利用すること,通常のアプリケーションが使用することを含み,ミッションクリティカルな用途で使用されているメモリ領域についてはミラーリングを解除しない,計算機。」 2 引用例2に記載されている技術的事項 本願の出願日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,原審の拒絶査定の理由である平成26年9月5日付けの拒絶理由通知において引用された,特開2007-206826号公報(平成19年8月16日公開,以下,「引用例2」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。 (当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。) E 「【0028】 一方,ステップS7にてノーと判断されたときは,ステップS10に移行して,既にダウンロードされてメモリに格納されている同じ内容の外部データを削除した後,ステップS11にて,メモリに必要な空き容量が有るか否かを判断する。ここで,イエスと判断されたときは,ステップS12にて外部データのダウンロードを開始し,ステップS13にて,ダウンロードした外部データをメモリに保存した後,ステップS9に戻って,メモリのデータによって再生を継続する。 【0029】 これに対し,ステップS11にてノーと判断されたときは,図7のステップS51に移行し,メモリ管理テーブルを参照して,優先度が無いデータの有無を判断し,有りと判断されたときは,ステップS52にて,優先度無しのユーザデータ中で記録日時の最も古いものを削除する。 そして,ステップS53では,メモリに必要な空き容量が確保されたか否かを判断し,ノーと判断されたときはステップS51に戻って同じ手続きを繰り返す。これによって,ステップS53にてイエスと判断されたとき,図4のステップS12に移行し,外部データのダウンロードを開始する。 【0030】 図7のステップS51にて優先度が無いデータが無しと判断されたときは,ステップS54へ移行し,優先度有りのユーザデータ中で記録日時の最も古いものを削除する。そして,ステップS55では,メモリに必要な空き容量が確保されたか否かを判断し,ノーと判断されたときはステップS54に戻って同じ手続きを繰り返す。これによって,ステップS55にてイエスと判断されたとき,図4のステップS12に移行し,外部データのダウンロードを開始する。」 3 参考文献3に記載されている技術的事項 本願の出願日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,平成27年3月23日付けの原審の拒絶査定において提示された,特開昭62-166456号公報(昭和62年7月22日公開,以下,「参考文献3」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。 (当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。) F 「[発明の利用分野] 本発明は,仮想記憶方式を用いた情報処理装置に関する。 …(中略)… [発明の概要] 本発明の情報処理装置は,主メモリ上のページ単位に二重化する機能を有し,一つの論理アドレス(ロジカルアドレス)に対して,それぞれ異なる物理アドレス(実アドレス)に変換するテーブルを持つ。通常,書込みはプライマリ,セカンダリ両方のメモリに実施し,読出しはプライマリメモリから行ない,読出し動作で障害が発生した時は,セカンダリメモリを交替メモリとして使用することを特徴とする。」 第4 対比 1 本願発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「計算機」は,「データを記憶するための,ハードディスクと複数のメモリのセットを搭載」するところ,複数のメモリのセットは「ハードディスク」より高速にアクセス可能であることは明らかである。 そうすると,引用発明の「ハードディスク」,「メモリ」は本願発明の「記憶装置」,「メモリ」に相当し,引用発明の「計算機」は本願発明の「情報処理装置」に対応するものであると言える。 (2)引用発明の「データを記憶するための,ハードディスクと複数のメモリのセットを搭載した計算機」と,本願発明の「データを記憶するための記憶装置を用いる情報処理装置であって,前記記憶装置よりも高速にアクセス可能なメモリ」を備えた「情報処理装置」とを対比すると,上記(1)での検討から,引用発明の「ハードディスク」,「メモリ」は本願発明の「記憶装置」,「メモリ」に相当し,引用発明の複数のメモリのセットは「ハードディスク」より高速にアクセス可能であることは明らかであるから,両者に実質的な違いはないと言える。 (3)引用発明の「計算機」は「メモリのセット毎に配置され,プライマリメモリのセットとセカンダリメモリのセットに,同一のデータを書込むことにより,メモリミラーリングを行う複数のメモリコントローラ」を備えるところ,「メモリのセット」を構成する各「メモリ」は1つの記憶領域とみることができるから,引用発明の「メモリコントローラ」は本願発明の「メモリ管理部」に対応し,引用発明の「メモリのセット」は本願発明の「複数の記憶領域」に相当すると言える。 そして,引用発明の「メモリのセット」は,「プライマリメモリのセット」と「セカンダリメモリのセット」で構成され,「セカンダリメモリ」には,対応する「プライマリメモリ」と同一のデータがコピーされると言えるから,引用発明の「セカンダリメモリ」は本願発明の「冗長記憶領域」に相当すると言える。 そうすると,引用発明の「メモリのセット毎に配置され,プライマリメモリのセットとセカンダリメモリのセットに,同一のデータを書込むことにより,メモリミラーリングを行う複数のメモリコントローラ」と,本願発明の「メモリにおいて複数の記憶領域を論理的に設け,前記記憶領域に他の前記記憶領域を冗長記憶領域として割り当て,前記冗長記憶領域にデータのコピーを格納することが可能なメモリ管理部」とは,後記する点で相違するものの,“メモリにおいて複数の記憶領域を設け,前記記憶領域に他の前記記憶領域を冗長記憶領域として割り当て,前記冗長記憶領域にデータのコピーを格納することが可能なメモリ管理部”である点で共通すると言える。 (4)引用発明では,「OSは,現在使用しているメモリ使用率が,前記計算機に格納してあるメモリ使用率の閾値を超えたことを検出したとき,F/Wサービスルーチンコールを用いて,メモリ構成変更指示をF/Wに通報し,F/Wは,メモリ構成がミラーリング状態であった場合は,メモリミラーリングを解除できる領域のチェックを行い,F/Wは,ミラーリング機能を解除にするため,各メモリコントローラにミラーリング機能を無効にする設定を行い,ミラーリングするために使用していたメモリ領域を,新たなメモリ領域として使用できるように」するところ,使用中のメモリのセットの「メモリ使用率」が所定の「閾値」を超えた場合には,「OS」は「ミラーリングするために使用していたメモリ領域」,すなわち,「セカンダリメモリのセット」を,「新たなメモリ領域として使用できるように」「メモリミラーリングを解除」するとみることができ,引用発明の「メモリ使用率」,「新たなメモリ領域」は本願発明の「メモリの使用率」,「未使用領域」に相当すると言える。 そうすると,引用発明の「OSは,現在使用しているメモリ使用率が,計算機に格納してあるメモリ使用率の閾値を超えたことを検出したとき,F/Wサービスルーチンコールを用いて,メモリ構成変更指示をF/Wに通報し,F/Wは,メモリ構成がミラーリング状態であった場合は,メモリミラーリングを解除できる領域のチェックを行い,F/Wは,ミラーリング機能を解除にするため,各メモリコントローラにミラーリング機能を無効にする設定を行い,ミラーリングするために使用していたメモリ領域を,新たなメモリ領域として使用できるように」することと,本願発明の「メモリ管理部は,前記メモリの使用率が所定の閾値を超えた場合には,前記冗長記憶領域の割り当てられた複数の前記記憶領域について,前記メモリの使用率が前記所定の閾値以下になるまで,各前記冗長記憶領域を段階的に未使用領域と」することとは,後記する点で相違するものの,“メモリの使用率が所定の閾値を超えた場合には,冗長記憶領域の割り当てられた複数の記憶領域について未使用領域と”する点で共通すると言える。 (5)引用発明では,「F/Wは,メモリミラーリング領域を解除できるか否かの判定をメモリを使用する用途で判断し,当該用途は,前記OSがミッションクリティカルなアプリケーション実行するために利用すること,通常のアプリケーションが使用することを含」むところ,「メモリを使用する用途」は「ミッションクリティカルなアプリケーション実行するために利用すること」,「通常のアプリケーションが使用すること」を含んで区分され,区分される用途毎にメモリに異常が発生した場合の影響度が異なることは明らかであるから,異常が発生した場合の影響度に応じて,メモリミラーリング領域を含むメモリを分類していると言える。 また,引用発明では,「ミッションクリティカルな用途で使用されているメモリ領域についてはミラーリングを解除しない」ところ,異常が発生した場合の影響度の大きい「メモリミラーリング領域」は「新たなメモリ領域」として使用できるようにはしないと解されるから,影響度に従って「新たなメモリ領域」とする「メモリミラーリング領域」,すなわち,「セカンダリメモリ」を選択し,「メモリミラーリング領域」の影響度は「用途」に応じて変化するとみることができる。 そうすると,引用発明の「メモリミラーリング領域」は本願発明の「冗長記憶領域」に相当することは明らかであるから,引用発明の「F/Wは,メモリミラーリング領域を解除できるか否かの判定をメモリを使用する用途で判断し,当該用途は,OSがミッションクリティカルなアプリケーション実行するために利用すること,通常のアプリケーションが使用することを含み,ミッションクリティカルな用途で使用されているメモリ領域についてはミラーリングを解除しない」ことと,本願発明の「メモリ管理部は,前記冗長記憶領域の割り当てられた複数の前記記憶領域を,前記記憶領域に異常が発生した場合における影響度に応じて複数のレベルに分類し,前記レベルに従って未使用領域とする前記冗長記憶領域を選択し,前記影響度が変化する」こととは,後記する点で相違するものの,“冗長記憶領域の割り当てられた複数の記憶領域を,前記記憶領域に異常が発生した場合における影響度に応じて分類し,前記影響度に従って未使用領域とする前記冗長記憶領域を選択し,前記影響度が変化する”点で共通すると言える。 2 以上から,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。 <一致点> 「データを記憶するための記憶装置を用いる情報処理装置であって, 前記記憶装置よりも高速にアクセス可能なメモリと, 前記メモリにおいて複数の記憶領域を設け,前記記憶領域に他の前記記憶領域を冗長記憶領域として割り当て,前記冗長記憶領域にデータのコピーを格納することが可能なメモリ管理部とを備え, 前記メモリの使用率が所定の閾値を超えた場合には,前記冗長記憶領域の割り当てられた複数の前記記憶領域について未使用領域とし, 前記冗長記憶領域の割り当てられた複数の前記記憶領域を,前記記憶領域に異常が発生した場合における影響度に応じて分類し,前記影響度に従って未使用領域とする前記冗長記憶領域を選択し,前記影響度が変化する,情報処理装置。」 <相違点1> 複数の記憶領域(メモリのセット)の設定に関し,本願発明では,「メモリ管理部」が「メモリにおいて複数の記憶領域を論理的に設け,前記記憶領域に他の前記記憶領域を冗長記憶領域として割り当て」るのに対して,引用発明では,「複数のメモリコントローラ」が「メモリのセット毎に配置され,プライマリメモリのセットとセカンダリメモリのセット」を管理するものの,複数の記憶領域が論理的に設けられているかどうか明示されていない点。 <相違点2> メモリの使用率が所定の閾値を超えた場合に,冗長記憶領域(ミラーリングするために使用していたメモリ領域)を未使用領域とすることについて,本願発明では,「メモリ管理部」が「メモリの使用率が前記所定の閾値以下になるまで,各前記冗長記憶領域を段階的に未使用領域」とするのに対して,引用発明では,「OS」が「ミラーリングするために使用していたメモリ領域を,新たなメモリ領域として使用できるように」するものの,所定の閾値以下になるまで段階的に新たなメモリ領域とすることについては言及されていない点。 <相違点3> 冗長記憶領域(メモリミラーリング領域)の影響度に応じた分類に関し,本願発明では,「メモリ管理部」が「冗長記憶領域」を「異常が発生した場合における影響度に応じて複数のレベルに分類」するのに対して,引用発明では,「F/W」が「メモリミラーリング領域を解除できるか否かの判定をメモリを使用する用途で判断」し,「メモリミラーリング領域」を「用途」で分類するものの,複数のレベルに分類することについて特定されていない点。 第5 当審の判断 上記相違点1乃至3について検討する。 1 相違点1について 引用発明では,「複数のメモリコントローラ」が「メモリのセット毎に配置され,プライマリメモリのセットとセカンダリメモリのセットに,同一のデータを書込むことにより,メモリミラーリングを行う」ところ,メモリが「プライマリメモリのセット」と「セカンダリメモリのセット」とにより構成され,「セカンダリメモリのセット」を冗長記憶領域として割り当て,冗長記憶領域に「プライマリメモリのセット」のデータのコピーを格納すると言える。 一方,データの二重化技術に関し,仮想記憶方式の情報処理装置において,主メモリに複数の記憶領域(ページ)を設け,前記記憶領域に他の記憶領域を冗長記憶領域として割り当てて二重化を行い,記憶領域単位で設定・変更可能な構成にすることは,例えば,参考文献3(上記Fを参照)に記載されるように本願出願前には当該技術分野の周知技術であった。 また,メモリに複数の記憶領域を設け,前記記憶領域の一部を冗長記憶領域として割り当て,前記冗長記憶領域にデータのコピーを格納することを,プライマリメモリのセットとセカンダリメモリのセットとから構成されるメモリにおいて実施するか,複数の記憶領域を論理的に設けた仮想記憶方式のメモリにおいて実施するかは,当業者であれば必要に応じて選択し得た設計的事項である。 そうすると,引用発明において上記周知技術を適用し,複数の記憶領域を構成するプライマリメモリのセットとセカンダリメモリのセットに対してメモリミラーリングを行うことに代えて,適宜,複数の記憶領域を論理的に設けたメモリに対して冗長記憶領域を割り当て,冗長記憶領域にデータのコピーを格納すること,すなわち,上記相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。 2 相違点2について 引用発明では,「OSは,現在使用しているメモリ使用率が,前記計算機に格納してあるメモリ使用率の閾値を超えたことを検出したとき」,「F/W」は「ミラーリングするために使用していたメモリ領域を,新たなメモリ領域として使用できるようにし」,冗長記憶領域の割り当てられた複数の記憶領域について部分的に未使用領域とするところ,メモリにおいて割り当てられていた記憶領域を部分的に解放して空き領域とすることを,空き領域が一定値以上の容量になるまで段階的に行うことは,例えば,引用例2(上記Eを参照)に記載されるように本願出願前には当該技術分野の周知技術であった。 また,引用発明における「OS」,「F/W」は,メモリ使用率を検出し,「メモリコントローラ」と協働してメモリミラーリングを制御することから,「計算機」が備える「メモリ管理部」とみることができる。 そうすると,引用発明において上記周知技術を適用し,メモリ管理部が,ミラーリングするために冗長記憶領域として使用していたメモリ領域を,使用しているメモリ使用率が所定の閾値以下になるまで段階的に新たなメモリ領域とすること,すなわち,上記相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。 3 相違点3について 引用発明では,「F/W」が「メモリミラーリング領域を解除できるか否かの判定をメモリを使用する用途で判断」し,「メモリミラーリング領域」を「用途」で分類するところ,「メモリを使用する用途」は「ミッションクリティカルなアプリケーション実行するために利用すること」,「通常のアプリケーションが使用すること」を含んで区分されることから,冗長記憶領域の割り当てられた複数の記憶領域を,異常が発生した場合における影響度に応じて複数に分類すると言える。 そして,引用発明の「ミッションクリティカルなアプリケーション実行するために利用すること」や「通常のアプリケーションが使用すること」で区分されたそれぞれの「メモリを使用する用途」は,本願発明の「冗長記憶領域」に「異常が発生した場合における影響度」に応じた「レベル」に相当する分類(カテゴリ)の態様とみることができ,冗長記憶領域を,異常が発生した場合における影響度に応じて複数のレベルに分類する点で引用発明と本願発明との間に実質的な違いはないと言える。 また,引用発明では,「F/W」が「メモリミラーリング領域を解除できるか否かの判定をメモリを使用する用途で判断」するところ,「F/W」はメモリミラーリングを制御することは明らかであるから,「計算機」が備える「メモリ管理部」とみることができる。 そうすると,引用発明において,適宜,メモリ管理部が,メモリミラーリング領域を解除できるか否かの判定をメモリを使用する用途で判断し,メモリミラーリング領域を異常が発生した場合における影響度に応じて複数のレベルに分類すること,すなわち,上記相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。 4 小括 上記で検討したごとく,相違点1乃至3に係る構成は当業者が容易に想到し得たものであり,そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,引用発明及び当該技術分野の周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。 第6 むすび 以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-04-25 |
結審通知日 | 2016-04-26 |
審決日 | 2016-05-16 |
出願番号 | 特願2011-50502(P2011-50502) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G06F)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 酒井 恭信 |
特許庁審判長 |
高木 進 |
特許庁審判官 |
辻本 泰隆 須田 勝巳 |
発明の名称 | 情報処理装置、メモリ管理方法、およびメモリ管理プログラム |
代理人 | 特許業務法人ブライタス |