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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D |
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管理番号 | 1316513 |
審判番号 | 不服2015-14960 |
総通号数 | 200 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-08-07 |
確定日 | 2016-06-30 |
事件の表示 | 特願2012- 37695「ディスクロータ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月 5日出願公開、特開2013-174261〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯、本願発明 本願は、平成24年2月23日の出願であって、平成27年4月28日付け(発送日:同年5月14日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 そして、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成26年11月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「【請求項1】 黒鉛含有鋳鉄製のディスクロータであって、 脱黒鉛処理によって表面近傍の黒鉛を除去した後、ガス軟窒化処理によって表面に窒化物層と酸窒化物層とを順に積層し、 前記ガス軟窒化処理後に、ビーズショット法による面粗度調整処理を実施してあるディスクロータ。」 第2.刊行物の記載事項 (1)引用発明 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2000-337410号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「ディスクブレーキ用ロータ」に関して、図面と共に次の事項が記載されている。 ア.「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、例えば車両等に制動力を与えるのに好適に用いられるディスクブレーキ用ロータに関する。」 イ.「【0015】 【実施例1】本実施例は4輪の自動車のディスクブレーキ用ロータ(以下、ロータ)の製造に本発明を適用したものである。 【0016】まず、砂型鋳造により作成したJIS FC250製素材に必要な加工を加えてロータとして所定の形状、寸法及び表面粗さに仕上げた。続いて、炭化水素系溶剤を使用した真空洗浄機にて洗浄を行い、ロータ表面に付着した研削油剤を除去した後、このロータを図1に示す熱処理サイクルに従って処理する。 【0017】(1)ガス軟窒化処理 まず、ロータを窒化処理を行う炉に挿入し、窒化処理温度まで昇温する。このとき、ロータが熱の影響によって酸化等を起こさないように、炉内の雰囲気を不活性ガスである窒素にしておく。その後、炉内をアンモニア(NH_(3)):窒素(N_(2)):二酸化炭素(CO_(2))=60:37:3の雰囲気に設定し、処理温度:T1=590℃、処理時間:t1=4.0hの条件でガス軟窒化する。これによりロータは、表面に形成された窒素化合物層(主にFe_(3)N)、該窒素化合物層の下に形成された窒素拡散層、さらに該窒素拡散層の下の母材という構成となる。このときの窒素化合物層の窒素含有量は8?10wt%、窒素拡散層中の窒素含有量は1?5wt%である。」 ウ.「【0022】(4)空冷及び研削 窒素拡散層及び母材の基地組織がベイナイト組織化したロータを空冷し、その後研削することで所定の表面粗さとなるように仕上げる。」 エ.「【0023】上記(1)?(4)の工程によって出来上がった実施例1のロータと、下記の比較例1、比較例2とを後述の(A)顕微鏡観察試験、(B)断面硬さ試験、(C)耐食性試験、(D)摩耗試験に供した。 【0024】比較例1は、JIS FC250製の素材を所定の形状・寸法に加工後、研削により表面仕上げを行った従来のディスクブレーキ用ロータである。 【0025】比較例2は、JIS FC250製の素材を所定の形状・寸法に加工後、実施例の(1)ガス軟窒化処理を施し、その後油中冷却を行ってから研削により表面仕上げを行ったロータであり、前記の特開昭51-27828号にも見られるように一般的に鉄素材の表面硬度を向上させるために行われる窒化処理を行っただけのものである。」 オ.「【0064】(C)耐食性試験 JIS Z2371 塩水噴霧試験に基づいて耐食性試験を行い、供試材としてのロータそれぞれについて、腐食面積率からレイティングナンバ(JIS H8502)を求め、表3にその結果を示した。比較例1及び比較例2に比べて実施例のロータが耐食性に優れていることが分かる。 ・・・略・・・ 【0066】上記(1),(2),(10)?(12)の工程によって出来上がった実施例4のロータは、従来の普通鋳鉄素材からなるロータや窒化処理を行っただけのロータに比べて、酸化物層によって耐食性及び耐磨耗性が向上する。」 カ.上記イ.の段落【0017】の「(1)ガス軟窒化処理 まず、ロータを窒化処理を行う炉に挿入し、窒化処理温度まで昇温する。このとき、ロータが熱の影響によって酸化等を起こさないように、炉内の雰囲気を不活性ガスである窒素にしておく。その後、炉内をアンモニア(NH_(3)):窒素(N_(2)):二酸化炭素(CO_(2))=60:37:3の雰囲気に設定し、処理温度:T1=590℃、処理時間:t1=4.0hの条件でガス軟窒化する。これによりロータは、表面に形成された窒素化合物層(主にFe_(3)N)、該窒素化合物層の下に形成された窒素拡散層、さらに該窒素拡散層の下の母材という構成となる。」との記載、上記ウ.の「研削することで所定の表面粗さとなるように仕上げる。」及び上記エ.の段落【0025】の「実施例の(1)ガス軟窒化処理を施し、その後油中冷却を行ってから研削により表面仕上げを行ったロータであり」との記載からみて、ロータは、ガス軟窒化処理によって表面に窒素化合物層が積層され、前記ガス軟窒化処理後に、研削により所定の表面粗さになるように仕上げられることが分かる。 上記記載事項及び認定事項並びに図示事項を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「砂型鋳造により作成したJIS FC250製素材のデイスクブレーキ用のロータであって、 ガス軟窒化処理によって表面に窒素化合物層を積層し、 前記ガス軟窒化処理後に、研削により所定の表面粗さになるように仕上げるデイスクブレーキ用のロータ。」 (2)刊行物2に記載された技術事項 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開平4-193963号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「鋳鉄材料の複合表面処理方法」に関して、図面(【図1】参照。)と共に次の事項が記載されている。 キ.「[発明が解決しようとする課題] 表面に黒鉛を有する鋳鉄表面への防錆効果は、亀裂やピンホールの無い皮膜を金属表面上へ形成することによって錆の発生を防ぐものである。鋳鉄表面に鋳物砂や黒鉛が存在すると鋳物砂や黒鉛に妨害されて該鋳鉄表面上に表面処理皮膜が完全に形成されず、局部的に露出せる基地との間に局部電池が構成され赤錆が生じることを本発明者は明らかにした。従って、基地中に黒鉛を有する鋳鉄表面に鋳物砂が付着する鋳物に対し、窒化処理や電気Niめっきや無電解Niめっき等の各々単独の処理は、防錆を目的とした表面処理法として完全なものではない。」(公報第2ページ左上欄第8行ないし右上欄第1行) ク.「[課題を解決するための手段] 上記問題を解決するために本発明においては、まず、溶融塩電解処理法によって表面処理皮膜の形成を妨害する鋳鉄表面から約50μm程度の深さまでの表面に露出した鋳物砂及び黒鉛を除去した後に耐食、耐摩耗性向上のために窒化処理、例えば塩浴軟窒化処理を施し、該鋳鉄表面にFe-N化合物層を約1?30μm程度形成する。」(公報第2ページ左下欄第10ないし17行) ケ.「本実施例方法は、(イ)脱黒鉛処理、(ロ)窒化処理、(ハ)表面酸化処理、(ニ)電気Niめっき処理、(ホ)皮膜の安定化熱処理の工程からなる。以下各工程を詳細に説明する。 (イ)溶融塩電解処理による脱黒鉛処理工程 まず、前処理として黒心可鍛鋳鉄試料表面の黒鉛を除去する目的で、水酸化ナトリウムと中性塩類とからなる浴温度460℃のアルカリ性酸化還元浴中に該試料を浸漬し、電解処理により該試料表面を清浄にする。電解手順は(1)該試料を陰極に保持して還元作用により該試料表面の砂及び酸化皮膜を除去する。(2)該試料を陽極に保持して酸化作用により該試料表面の黒鉛を塩浴剤との反応で除去する。(3)前記(2)の工程で該試料表面に生しる酸化皮膜を該試料を再度陰極に保持することにより還元作用にて除去する。 その後、空冷及び水冷にて室温まで冷却したのち、約80℃の湯にて洗浄する。 (ロ)窒化処理工程 試料表面に耐食性及び耐摩耗性を付与する目的で該試料を約350℃に余熱後、約580℃の温度で塩浴軟窒化処理を約1時間施し表面にFe-Nの化合物層を5μm?30μm程度形成する。」(公報第3ページ左上欄第10行ないし右上欄第13行) 上記記載事項及び図示事項を総合すると、刊行物2には、次の技術事項(以下、「刊行物2に記載された技術事項」という。)が記載されている。 「黒鉛を有する鋳物の表面処理において、窒化処理の前処理として、溶融塩電解処理法によって表面処理皮膜の形成を妨害する鋳鉄表面から約50μm程度の深さまでの表面に露出した黒鉛を除去すること。」 第3.対比 本願発明と引用発明とを対比すると、その技術的意義、機能または構造からみて、引用発明における「砂型鋳造により作成したJIS FC250製素材」は本願発明における「黒鉛含有鋳鉄」に相当し、同様に、「デイスクブレーキ用のロータ」は「ディスクロータ」に相当する。 また、引用発明における「ガス軟窒化処理によって表面に窒素化合物層を積層し」は、ガス軟窒化処理により設けられた窒素化合物層には窒化物層の上面に酸窒化物層が形成されていることは明らかであるから、本願発明における「ガス軟窒化処理によって表面に窒化物層と酸窒化物層とを順に積層し」に相当する。 そして、引用発明における「研削により所定の表面粗さになるように仕上げる」は、「面粗度調整処理を実施してある」という限りにおいて、本願発明における「ビーズショット法による面粗度調整処理を実施してある」と共通する。 そこで、両者は、本願発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。 [一致点] 「黒鉛含有鋳鉄製のディスクロータであって、 ガス軟窒化処理によって表面に窒化物層と酸窒化物層とを順に積層し、 前記ガス軟窒化処理後に、面粗度調整処理を実施してあるディスクロータ。」 そして、両者は次の各点で相違する。 [相違点1] 本願発明においては、脱黒鉛処理によって表面近傍の黒鉛を除去した後、ガス軟窒化処理がなされるのに対し、引用発明においては、ガス軟窒化処理の前に脱黒鉛処理を行うものではない点。 [相違点2] 本願発明においては、面粗度調整処理を実施する方法が「ビーズショット法」であるのに対して、引用発明においては、「研削」である点。 第4.当審の判断 まず、相違点1について検討する。 上記のとおり、刊行物2には、「黒鉛を有する鋳物の表面処理において、窒化処理の前処理として、溶融塩電解処理法によって表面処理皮膜の形成を妨害する鋳鉄表面から約50μm程度の深さまでの表面に露出した黒鉛を除去すること。」が記載されている。 そして、引用発明及び刊行物2に記載された技術事項はいずれも黒鉛を有する鋳物に窒化処理を行うという共通の技術分野に属するものであり、また、刊行物1には、第2.(1)オ.で摘記したように供試材に対する耐食性試験の結果が記載されていることから、引用発明は刊行物2に記載された発明と同様の防食という課題を有すると解されるから、引用発明に刊行物2に記載された技術事項を適用する動機付けは十分にあるといえる。 してみれば、引用発明に、前処理として黒鉛を除去するという上記刊行物2に記載された技術事項を適用することにより、ガス軟窒化処理の前に脱黒鉛処理によって表面近傍の黒鉛を除去するようにして、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 次に、相違点2について検討する。 粗面化といった面粗度を調整処理を実施する方法として、「ビーズショット法」は周知である(以下、「周知技術」という。例えば、特表2010-534807号公報の段落【0013】及び特開2004-125025号公報の段落【0021】等参照。)。 そして、引用発明において、所定の表面粗さとするために、面粗度調整処理として上記周知技術を適用することを阻害する事情もないから、引用発明に上記周知技術を適用して、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 また、本願発明を全体としてみても、本願発明の効果は、引用発明、刊行物2に記載された技術事項及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。 したがって、本願発明は、引用発明、刊行物2に記載された技術事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第5.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明、刊行物2に記載された技術事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-04-19 |
結審通知日 | 2016-04-26 |
審決日 | 2016-05-17 |
出願番号 | 特願2012-37695(P2012-37695) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F16D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 森本 康正、中尾 麗 |
特許庁審判長 |
森川 元嗣 |
特許庁審判官 |
中川 隆司 内田 博之 |
発明の名称 | ディスクロータ |
代理人 | 特許業務法人R&C |
代理人 | 特許業務法人R&C |
代理人 | 特許業務法人R&C |