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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07K
管理番号 1316555
審判番号 不服2012-22320  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-12 
確定日 2016-06-27 
事件の表示 特願2007-545628「炎症性疾患および免疫調節不全疾患、感染性疾患、病的血管新生およびがんの免疫療法および検出のための方法および組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月15日国際公開、WO2006/063150、平成20年 7月 3日国内公表、特表2008-523083〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2005年12月8日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年12月8日(US)米国〕を国際出願日とする出願であって、平成20年12月5日付けで手続補正がなされ、
平成23年6月14日付けの拒絶理由通知に対して、平成23年12月19日付けで意見書の提出がなされるとともに手続補正がなされ、
平成24年7月6日付けの拒絶査定に対して、平成24年11月12日付けで審判請求がなされると同時に手続補正(以下「第3回目の手続補正」という。)がなされ、
平成26年12月11日付けの補正の却下の決定により第3回目の手続補正が却下されるとともに同日付けで拒絶理由通知がなされ、これに対して、平成27年6月12日付けで意見書の提出がなされるとともに手続補正がなされ、
平成27年6月30日付けの拒絶理由通知(最後)に対して、平成28年1月4日付けで意見書の提出がなされるとともに手続補正(以下「第5回目の手続補正」という。)がなされたものである。

第2 本願の特許請求の範囲の記載
本願の特許請求の範囲の請求項1?23の記載は、補正前の請求項20の削除を目的とする第5回目の手続補正により補正された次のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも2つの異なる標的と特異的に反応するひとつの抗体または融合蛋白質である多特異的アンタゴニストであって、
第1の標的が、
(A)先天的免疫系の炎症促進性エフェクターであって、
(i) IL-4R(インターロイキン4レセプター)、IL-6R(インターロイキン6レセプター)、IL-13R(インターロイキン-13レセプター)、IL-15R(インターロイキン-15レセプター)、IL-17R(インターロイキン-17レセプター)およびIL-18R(インターロイキン-18レセプター)からなる群から選択される、炎症促進性エフェクターレセプター、または
(ii) MIF、HMGB-I、TNF-α、IL-1、IL-4、IL-5、IL-6、IL-12、IL-15、IL-17、およびIL-18からなる群から選択される、炎症促進性エフェクターサイトカイン、または
(iii) CCL19、CCL21、MCP-1、RANTES、MIP-1A、MIP-1B、ENA-78、IP-10、GROB(GROβ)およびエオタキシンからなる群から選択される、炎症促進性エフェクターケモカイン
のいずれか一つである炎症促進性エフェクターと、
(B)凝固因子と、
(C)C3、C5、C3a、C3bおよびC5aからなる群より選択される補体因子またはCD46、CD55、CD59、およびmCRPからなる群より選択される補体調節タンパク質とから選択され、
第2の標的が、CEACAM6である、多特異的アンタゴニスト。
【請求項2】
融合タンパク質である、請求項1に記載の多特異的アンタゴニスト。
【請求項3】
前記アンタゴニストが、少なくとも1つの炎症促進性エフェクターサイトカインまたは炎症促進性エフェクターケモカインと特異的に反応する、請求項1に記載の多特異的アンタゴニスト。
【請求項4】
前記アンタゴニストが炎症促進性エフェクターレセプターを含むか、少なくとも1つの炎症促進性エフェクターレセプターと特異的に反応する、請求項1に記載の多特異的アンタゴニスト。
【請求項5】
前記アンタゴニストが、組織因子及びトロンビンからなる群より選択される少なくとも1つの凝固因子と特異的に反応する、請求項1に記載の多特異的アンタゴニスト。
【請求項6】
前記アンタゴニストが、少なくとも1つの補体因子または少なくとも1つの補体調節タンパク質と特異的に反応する、請求項1に記載の多特異的アンタゴニスト。
【請求項7】
適応的免疫系の抗原またはレセプターを標的化する、請求項1に記載の多特異的アンタゴニスト。
【請求項8】
がん細胞レセプターまたはがん関連抗原を標的化する、請求項1に記載の多特異的アンタゴニスト。
【請求項9】
前記アンタゴニストが、単一の活性成分を含む、請求項1に記載の多特異的アンタゴニスト。
【請求項10】
先天的免疫系の成分または適応免疫系の成分に作用する二次的な治療剤をさらに含む、請求項1に記載の多特異的アンタゴニスト。
【請求項11】
少なくとも2つの異なる標的と特異的に反応するひとつの抗体または融合蛋白質である多特異的アンタゴニストの使用であって、
第1の標的が、
(A)先天的免疫系の炎症促進性エフェクターであって、
(i) IL-4R(インターロイキン4レセプター)、IL-6R(インターロイキン6レセプター)、IL-13R(インターロイキン-13レセプター)、IL-15R(インターロイキン-15レセプター)、IL-17R(インターロイキン-17レセプター)およびIL-18R(インターロイキン-18レセプター)からなる群から選択される、炎症促進性エフェクターレセプター、または
(ii) MIF、HMGB-I、TNF-α、IL-1、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、IL-12、IL-15、IL-17、およびIL-18からなる群から選択される、炎症促進性エフェクターサイトカイン、または
(iii) CCL19、CCL21、IL-8、MCP-1、RANTES、MIP-1A、MIP-1B、ENA-78、IP-10、GROB(GROβ)およびエオタキシンからなる群から選択される、炎症促進性エフェクターケモカイン
のいずれか一つである炎症促進性エフェクターと、
(B)凝固因子と、
(C)C3、C5、C3a、C3bおよびC5aからなる群より選択される補体因子またはCD46、CD55、CD59、およびmCRPからなる群より選択される補体調節タンパク質と
から選択され、
第2の標的が、CEACAM6である、
炎症性または免疫調節不全障害、病的血管新生もしくはがん、および感染性疾患である状態の治療のための医薬であって、前記医薬が前記多特異的アンタゴニストの治療上有効な量を含む医薬の製造における使用。
【請求項12】
前記状態が自己免疫疾患ではない、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記状態が自己免疫疾患である、請求項11に記載の使用。
【請求項14】
前記状態がクラスIII自己免疫疾患である、請求項11に記載の使用。
【請求項15】
前記状態が、敗血症または敗血性ショック、感染性疾患、神経障害、移植片対宿主病または移植片拒絶、急性呼吸窮迫症候群、肉芽腫性疾患、喘息、アテローム性動脈硬化症、悪液質、病的血管新生、がん、血液凝固障害、座瘡、巨細胞性動脈炎または心筋虚血である、請求項11に記載の使用。
【請求項16】
前記アンタゴニストが、単一の活性成分を含む、請求項11?15のいずれかに記載の使用。
【請求項17】
先天的免疫系の成分に作用する二次的な治療剤をさらに含む、請求項11?15のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
凝固に作用する二次的な治療剤をさらに含む、請求項11?15のいずれかに記載の使用。
【請求項19】
適応免疫系の成分に作用する二次的な治療剤をさらに含む、請求項11?15のいずれかに記載の使用。
【請求項20】
前記アンタゴニストが治療物質を含む免疫コンジュゲートである、請求項1に記載の多特異的アンタゴニスト。
【請求項21】
前記アンタゴニストが組み換え活性化プロテインCと抗MIF scFvとを含む、請求項1に記載の多特異的アンタゴニスト。
【請求項22】
前記アンタゴニストが、MIFを標的化する、請求項1に記載の多特異的アンタゴニスト。
【請求項23】
前記第1の標的が、CD59である、請求項1に記載の多特異的アンタゴニスト。」

第3 拒絶理由通知等の概要
平成27年6月30日付けの拒絶理由通知書(以下「先の拒絶理由通知書」という。)には、
その理由3として「この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」との理由と、
その理由4として「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。」との理由が示され、
その「記」には、次の指摘及び審尋がなされている。
『1.理由3及び4について
(1)実施可能要件について
本願明細書の段落0207?0208には「実施例6…腎癌の治療 PSは、70歳齢の白人女性であって、直腸腺癌(T3N2)の直腸腸間膜全摘出およびアジュバント化学放射線療法(連続的な注入の5-フルオロウラシルおよび細分された1.8Gyの用量、5週半の期間にわたって1週あたり5日間、総線量45Gyの外放射線療法)の既往歴を有する。彼女には、術後化学療法を行っておらず、6ヵ月後に、肝臓の右葉下部に2?4cmの直径に及ぶ3つの転移を、そして16.4ng/mLの血清CEA力価を示す。原発性直腸癌は、免疫組織学によって評価され、そしてCD59およびCEACAM6の両方の高い発現を示す。次いで、彼女は、組み換え的に融合されたヒト化抗CD59抗体およびヒト化抗CEACAM6抗体からなる二重特異性抗体の350mgを、投与され、これは、8週間にわたって毎週1回、5週間の期間にわたって、平行してフルオロウラシルの連続注入を与えられる。最後の抗体注入後2ヶ月の追跡時点で、患者の血液CEA力価は、12ng/mLまで低下し、ただし肝臓の転移のサイズではCTスキャンによる変化はない。さらに3ヶ月後、血液CEAは7ng/mlであり、そしてCTスキャンによって最小の肝臓転移が消失し、他の2つは約50%まで縮小している。この疾患は、さらに2ヶ月間安定なままであって、その時点で血液のCEAレベルは、10ng/mLまで上昇するが、肝臓転移のサイズではまだ変化はない。」との記載がなされている。
すなわち、本願明細書の実施例6に記載された「組み換え的に融合されたヒト化抗CD59抗体およびヒト化抗CEACAM6抗体からなる二重特異性抗体」について、本願明細書の発明の詳細な説明には、当該「融合」された「二重特異性抗体」の具体的な製造方法の詳細が開示されていない。
このため、当業者といえども過度の試行錯誤をしなければ本願請求項1?24に係る発明の実施をすることができない。
この点に関して、審判請求人は平成27年6月12日付けの意見書において『しかし、実施例6には、「組み換え的に融合されたヒト化抗CD59抗体およびヒト化抗CEACAM6抗体からなる二重特異性抗体」と明記があります。そして、明細書段落0150には、「機能的な二重特異性単鎖抗体(bscAb)はまた、二重特異性抗体とも呼ばれ、組み換え方法を用いて哺乳動物細胞において生成され得る」ことが記載され、同段落には、本願優先日前に知られている学術文献である、Mack et al.,Proc Natl Acad Sci,92:7021-7025,1995を挙げて、「組み換え方法を用いて種々の融合タンパク質を生成してもよい」ことが記載されています。これらの記載、及び、本願優先日当時の技術常識を鑑みれば、当業者であれば、当該融合された二重特異性抗体を製造することは、試行錯誤などすることなく、十分に可能であったと思料致します。』との釈明をしている。
しかしながら、特許法施行規則様式第29〔備考〕6においては、「文章は口語体とし、技術的に正確かつ簡明に発明の全体を出願当初から記載する。この場合において、他の文献を引用して明細書の記載に代えてはならない。」と規定されているところ、他の文献を引用した記載についてはその内容が明確ではない。
そして、本願明細書の「実施例6」においては「平行してフルオロウラシルの連続注入を与えられる」とされているところ、当該実施例6における「3ヶ月後」の「最小の肝臓転位が消失し、他の2つは約50%まで縮小」したという結果は、抗癌剤として知られる「フルオロウラシル」の薬理作用によって専ら得られたともいえるので、当該「実施例6」によっては、当該「組み換え的に融合されたヒト化抗CD59抗体およびヒト化抗CEACAM6抗体からなる二重特異性抗体」の薬理活性が具体的に裏付けられているとはいえない。
さらに、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願請求項3?5、7、9?10、13?14、及び16?23に係る発明の具体例が記載されていない。
してみると、本願請求項1?10及び20?24の『多特異的アンタゴニスト』という「物の発明」について、本願明細書の発明の詳細な説明は、当該「多特異的アンタゴニスト」の具体的な製造方法が開示されていないので、当該「物の発明」について『当業者がその物を製造することができるように記載』されているとは認められない。
また、本願明細書の発明の詳細な説明は、当該「多特異的アンタゴニスト」の薬理活性が具体的に裏付けられているとはいえないので、当該「物の発明」について『当業者がその物を使用できるように記載』されているとは認められない。
同様に、本願請求項11?19の『多特異的アンタゴニストの使用』という「方法の発明」について、本願明細書の発明の詳細な説明は「多特異的アンタゴニスト」の具体的な製造方法が開示されておらず、これが「フルオロウラシル」の併用なしに抗癌作用を発揮できることまでもが裏付けられていないので、当該「方法の発明」について『当業者がその方法を使用できるように記載』されているとは認められない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項1?24に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものではないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。

(2)サポート要件について
本願明細書の段落0208(実施例6)に記載された「組み換え的に融合されたヒト化抗CD59抗体およびヒト化抗CEACAM6抗体からなる二重特異性抗体」については、本願請求項1に係る発明の所定の要件を満たすものである。
ここで、本願明細書の段落0016の「がん細胞は、補体活性化を回避することによって、特に、膜結合した補体調節タンパク質、例えば、CD55(分解促進因子)、CD46(膜補因子タンパク質)およびCD59(タンパク質)の発現によって免疫サーベイランスを回避し得、そしてがん細胞の膜上のこれらのタンパク質の過剰発現は、補体活性化からこれらのがんを防御すると考えられる…CD46およびCD55抗体は、CD59抗体と対照的に、有効ではない。このことは、他の標的、または複数の補体調節タンパク質に対する、または補体調節タンパク質および免疫の他のメディエーターの両方に対する抗体の使用が必要であり得ることを示唆する。この一般的な失敗は…抗がん補体固定抗体と組み合わせた膜補体調節タンパク質に対する抗体を用いるがん患者の治療は治療有効性を改善するという他の研究からの示唆と矛盾し、そのため、がん患者においてこのようなストラテジーが最高に実現され得る方法を解明する必要性が残る。」との記載にあるように、各種の抗体の有効性は様々である。
このため、CD59を標的にした場合に得られる有効性を、本願請求項1に包含されるCD46やCD55などの場合にまで一般化できるとは認められない。
この点に関して、審判請求人は平成27年6月12日付けの意見書において『しかし、段落0016は従来技術の記載であって、本願発明と異なる構成を有する技術におけるCD46やCD55の有効性について言及するに過ぎません。本願発明の二重特異性抗体についてまで、この従来技術により言及されているわけではありません。補正後の本願請求項1?24に記載の発明は、実施例6により十分にサポートされており、特許法第36条第6項第1号に適合するようになっていると確信いたします。』との釈明をしている。
しかしながら、一般に『明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(…)が証明責任を負うと解するのが相当である。…当然のことながら,その…範囲が単なる憶測ではなく,実験結果に裏付けられたものであることを明らかにしなければならないという趣旨を含むものである。』とされているところ〔参考判決:平成17年(行ケ)10042号〕、
本願発明の「多特異的アンタゴニスト」において、CD59を標的にした場合に得られる有効性を、CD46やCD55などの場合にまで一般化できることについては、審判請求人によって具体的に立証がなされていない。
ましてや、第1の標的が、CD59の「補体調節タンパク質」と異なる「炎症促進性エフェクター」や「凝固因子」や「補体因子」である場合については、その作用機序が実施例6の具体例の場合と著しく異なるので、本願請求項1及び11に列挙される「第1の標的」の全てにまで発明を一般化できると直ちには認められない。また、本願請求項11、15及び20に列挙される「炎症性または免疫調節不全障害障害」や「敗血症」や「感染性疾患」や「神経障害」などの治療のために、CEACAM6を第2の標的とした「多特異的アンタゴニスト」が有効であると直ちに認められない。
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び/又は本願出願時の技術常識を考慮しても、本願請求項1?23に記載された事項により特定されるもの全てについて、当業者が本願所定の課題を解決できると認識できる範囲にあるとは認められない。
したがって、本願請求項1?23の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

3.審尋
下記の(あ)?(お)で指摘した点について、審判請求人に意見を求めることが必要と考えられるため、審尋しますので回答してください。
(あ)本願明細書の段落0208の実施例6で使用された「組み換え的に融合されたヒト化抗CD59抗体およびヒト化抗CEACAM6抗体からなる二重特異性抗体」が、実際に製造されたのか否かを説明してください。
(い)実施例6の「二重特異性抗体」が実際に製造されているならば、その具体的な製造方法を明らかにしてください。
(う)上記(い)の製造方法が本願出願日前の技術水準において当業者に過度の試行錯誤を有することなく実施可能であることを具体的に説明してください。
(え)実施例6の「フルオロウラシル」の併用なしに、本願発明の「組み換え的に融合されたヒト化抗CD59抗体およびヒト化抗CEACAM6抗体からなる二重特異性抗体」が、癌の治療に有効に作用することを裏付ける実験データがあれば、これを提示してください。
(お)本願発明の「組み換え的に融合されたヒト化抗CD59抗体およびヒト化抗CEACAM6抗体からなる二重特異性抗体」が、本願請求項20に列挙される「敗血症または敗血性ショック、感染性疾患、神経障害、移植片対宿主病または移植片拒絶、急性呼吸窮迫症候群、肉芽腫性疾患、喘息、アテローム性動脈硬化症、悪液質、血液凝固障害、座瘡、巨細胞性動脈炎または心筋虚血の治療」の各々のために有効であることを説明してください。』

また、平成28年1月4日付けの意見書(以下「先の意見書」という。)には、次のとおりの主張ないし回答がなされている。
『(3) 特許法第36条第6項第1号の要件(理由3及び4について)
(3-1)実施可能要件について
審判長殿は、拒絶理由通知において、実施例6に記載された二重特異性抗体について、本願明細書の発明の詳細な説明には、当該「融合」された「二重特異性抗体」の具体的な製造方法の詳細が開示されていないから、実施することができない旨をご認定されました。しかし、「融合」された「二重特異性抗体」の製造方法は、本願優先日前に確立されており、当業者であれば、確立された手法を用いて、当該二重特異的抗体を製造することができます。このことは、以下の(5)に詳述する審尋への回答において、参考資料1?4を参照してより詳細に説明しております。
補正後の本願請求項1?23に係る発明は、本願明細書の記載及び本願優先日前の技術常識に基づいて、当業者が実施することができたものです。
(3-2)サポート要件について
審判長殿は、拒絶理由通知において、本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び/又は本願出願時の技術常識を考慮しても、本願請求項1?23に記載された事項により特定されるもの全てについて、当業者が本願所定の課題を解決できると認識できる範囲にあるとは認められない旨ご認定されました。
これに対し、出願人は、前回の議論を繰り返して申し述べるとともに、本願出願時の技術常識を考慮すれば、当業者であれば、認識が可能であることを申し述べます。…
(5)審尋に対する回答
審判官殿は、拒絶理由通知における(あ)?(お)で指摘した点について、審判請求人に意見を求められました。審判請求人は、以下の通りご回答申し上げます。
(あ)に対し、ご質問の二重特異性抗体は、実際に製造されていません。
(い)に対し、実際に製造されていないので、製造方法について明らかにできる事項はありません。…
(え)に対し、実験データは、ありません。
(お)に対し、補正前の請求項20は、削除しました。』

第4 当審の判断
1.理由3(実施可能要件)について
一般に物の構造や名称からその物をどのように作り、どのように使用するかを理解することが比較的困難な技術分野に属する発明の場合に、当業者がその発明の実施をすることができるように発明の詳細な説明を記載するためには、通常、一つ以上の代表的な実施例が必要であり、用途発明(例:医薬)においては、通常、用途を裏付ける実施例が必要であるとされている。
これに対して、本願明細書の段落0207?0208に記載された「実施例6」で投与されたと記載されている「組み換え的に融合されたヒト化抗CD59抗体およびヒト化抗CEACAM6抗体からなる二重特異性抗体」については、先の意見書の「(5)審尋に対する回答」の項では「(あ)に対し、ご質問の二重特異性抗体は、実際に製造されていません。」との回答がなされているので、当該「実施例6」で投与されたとされる「二重特異性抗体」が実際に製造されていたものとは認められない。
このため、本願請求項1及び11に記載された『少なくとも2つの異なる標的と特異的に反応するひとつの抗体または融合タンパク質である多特異的アンタゴニストであって、第1の標的がCD59であり、第2の標的がCEACAM6である、多特異的アンタゴニスト』というアンタゴニスト(拮抗薬、遮断薬とも呼ばれる。)の薬理活性を具体的に裏付ける実験結果が、本願の発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。
そして、先の拒絶理由通知書においては、本願明細書の「実施例6」の結果は、抗癌剤として知られる「フルオロウラシル」の薬理作用によって専ら得られたともいえるので、当該「組み換え的に融合されたヒト化抗CD59抗体およびヒト化抗CEACAM6抗体からなる二重特異性抗体」それ自体の薬理活性が具体的に裏付けられているとはいえないという旨の指摘がなされているところ、この点に関して先の意見書では特段の釈明がなされておらず、本願請求項1及び11に記載された「多特異的アンタゴニスト」が「敗血症または敗血性ショック、感染性疾患、神経障害、移植片対宿主病または移植片拒絶、急性呼吸窮迫症候群、肉芽腫性疾患、喘息、アテローム性動脈硬化症、悪液質、血液凝固障害、座瘡、巨細胞性動脈炎または心筋虚血の治療」の各々のために有効であることの具体的な裏付けも見当たらない。
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願請求項1?10及び20?23の「多特異的アンタゴニスト」という「物の発明」について「当業者がその物を使用できるように記載」されているとはいえず、同請求項11?19の「多特異的アンタゴニストの使用」という「方法の発明」について「当業者がその方法を使用できるように記載」されているとはいえない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項1?23に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものではないから、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

2.理由4(サポート要件)について
一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人…が証明責任を負うと解するのが相当である。』とされている〔平成17年(行ケ)10042号判決参照〕。
そして、本願請求項1?23に係る発明の解決しようとする課題は、本願明細書の段落0030?0031等の記載からみて『種々の炎症性および免疫調節不全疾患、感染性疾患、病的血管新生およびがんの治療において多特異的アンタゴニストを用いる新規でかつ十分耐えられる方法の提供』にあるものと認められる。
しかしながら、一般に化学物質の発明の有用性をその化学構造だけから予測することは困難であり、試験してみなければ判明しないことは当業者の広く認識しているところであるところ、上記審尋(あ)に対する回答から明らかなように、本願明細書の「実施例6」で投与されたと記載されている「組み換え的に融合されたヒト化抗CD59抗体およびヒト化抗CEACAM6抗体からなる二重特異性抗体」は実際に製造されておらず、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願請求項1?23に係る発明について、実際に試験してみた結果を示す実施例についての記載があるとはいえない。
このため、本願明細書の発明の詳細な説明の「実施例6」の記載によっては、本願請求項1及び11に記載された発明が、当該発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるとは認められない。
また、仮に上記「実施例6」のCD59を標的にした場合の具体例に有効性があると認められるとしても、本願明細書の段落0016の「CD46及びCD55抗体は、CD59抗体と対照的に、有効ではない。」との記載にあるように、各種の抗体の有効性は様々である。
このため、本願明細書の発明の詳細な説明の記載によっては、本願請求項1に包含されるCD46やCD55などを標的にした場合にまで有効性を認めることはできず、CD46やCD55などを標的にした場合の有効性を本願出願時の技術常識に照らして当業者が認識できるといえる具体的な根拠も見当たらない。
ましてや、第1の標的が、CD59などの「補体調節タンパク質」と異なる「炎症促進性エフェクター」や「凝固因子」や「補体因子」である場合については、その作用機序がCD59を標的にした実施例6の具体例の場合と著しく異なるので、本願請求項1及び11に列挙される「第1の標的」の選択肢の全てが、本願請求項1及び11に記載された発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるとは認められない。
さらに、例えば、本願請求項15に列挙される「敗血症または敗血性ショック、感染性疾患、神経障害、移植片対宿主病または移植片拒絶、急性呼吸窮迫症候群、肉芽腫性疾患、喘息、アテローム性動脈硬化症、悪液質、病的血管新生、がん、血液凝固障害、座瘡、巨細胞性動脈炎または心筋虚血の治療」の各々のために、本願請求項1及び11に記載された「多特異的アンタゴニスト」の全てが有効であることの具体的な裏付けも見当たらない。
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び/又は本願出願時の技術常識を考慮しても、本願請求項1?23に記載された事項により特定されるもの全てについて、当業者が本願所定の課題を解決できると認識できる範囲にあるとは認められない。
したがって、本願請求項1?23の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

3.むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項に規定する要件を満たしていないから、その余の事項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-01 
結審通知日 2016-02-02 
審決日 2016-02-16 
出願番号 特願2007-545628(P2007-545628)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C07K)
P 1 8・ 537- WZ (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 悠美子  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 齊藤 真由美
木村 敏康
発明の名称 炎症性疾患および免疫調節不全疾患、感染性疾患、病的血管新生およびがんの免疫療法および検出のための方法および組成物  
代理人 河村 英文  
代理人 奥山 尚一  
代理人 松島 鉄男  
代理人 中村 綾子  
代理人 有原 幸一  

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