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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1316579
審判番号 不服2014-18712  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-19 
確定日 2016-06-28 
事件の表示 特願2012-506359「半導体基板を保持するための工作物保持固定具」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月28日国際公開、WO2010/121701、平成24年10月18日国内公表、特表2012-524984〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年3月31日(パリ条約による優先権主張 2009年4月22日 ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおり。
平成25年11月6日付け 拒絶理由通知
平成26年2月17日 意見書及び手続補正書提出
平成26年5月12日付け 拒絶査定
平成26年9月19日 本件審判請求、同時に手続補正書提出
平成27年5月20日付け 当審拒絶理由通知
平成27年8月20日 意見書提出

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし8に係る発明は、平成26年9月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるもので、その請求項1に記載された事項は以下のとおりである。

「【請求項1】
キャリヤ(1)と、
前記キャリヤ(1)からみて外方に向く1つの保持側面(7)を有して前記キャリヤ(1)上に固定され又は固定され得る保持体(3)と、
前記保持側面(7)上の吸引端(8)に真空を適用するための前記保持体(3)を貫通する少なくとも1つの陰圧チャネル(2)とを備え、前記保持側面(7)が半導体基板(4)の吸引のために柔軟な材料の規定された吸引構造体(6)を有し、
前記規定された吸引構造体(6)が、特に主に前記保持体(3)及び又は前記半導体基板の周辺方向に向かう1又はそれ以上のパス(12)を有し、隆起部(11)及びくぼみ(10)から成る少なくとも1つの前記パス(12)がらせん状に、特に前記保持体(3)の中心(Z)から外に向かう、平坦な半導体基板(4)を保持するための工作物保持固定具。」

第3 引用文献
当審が通知した平成27年5月20日付け拒絶理由に引用した本願優先日前に頒布された刊行物である、特開平9-139413号公報(以下、「引用文献1」という)及び特開2006-66447号公報(以下、「引用文献2」という)には、それぞれ以下の事項が記載されている(以下、下線は理解の便のため当審で付した)。

1. 引用文献1

(1) 引用文献1の記載
ア.
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、クリーンルーム内において基板単体を移送するために用いられる搬送機構に適用される基板搬送部品に関する。さらに詳しくは、シリコンウェハを傷つけることなく搬送することができ、また摩耗粉、塵等のパーティクルの発生が少なく、かつ高耐久性を有する基板搬送部品および該部品を用いた基板搬送装置に関する。」

イ.
「【0016】<実施例1>図1は、本発明にもとづく基板搬送部品の一例を説明するための斜視図である。また、図2は、本発明にもとづく基板搬送部品の構成を説明するためのもので、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【0017】これらの図に示すように、基板搬送部品1は3つの層から構成される。
【0018】第1層2はロックウェル硬度(Mスケール)80以上350以下である可撓性を有する高分子材料を概略短冊状に成型しかつその表面を切削加工したもので、長手方向に沿った一端部近傍に基板保持部8を有し、また他端部近傍に該基板保持部に形成された吸着口5に後述の第2層3を介して連通する空気吸引口6を有する。
【0019】基板保持部8は、基板吸着口5を中心として同心的に形成された複数の円弧状段差部9を有する。この実施例では、相対的に小径のいくつかの段差部9に切欠部が形成されており、基板保持の際に基板吸着口5とこれらの段差部9によって生じる凹部間とが連通可能な状態となっている。ここで、部分的な切欠箇所を有する円弧状の段差部とする理由は、基板10が円形であるため、その形状に対応した形状にすることにより力学的バランスが良くなること、また吸着保持力を高めることができるためである。さらに、上記形状は従来からの問題点であるパーティクルの発生を防ぐためにも好ましい。すなわち、非円弧状の場合は、通常回転刃による切削加工により工作するため、断続切削目となり、仕上面がポーラス状となって、パーティクル発生の一原因となるが、同心円弧状の場合は、固定刃による回転切削加工により工作するため、固定刃の刃先を鏡面に仕上げれば、仕上面に転写され、精緻な仕上面を得ることができ、パーティクル発生防止に効果的である。さらにまた、仕上げ段差を設けることにより、搬送時にひずみに対して、効果的な補強リブとして働く。」

ウ.
「【0020】また、上記第1層2の硬度が上記範囲内に限定される理由は以下の通りである。すなわち、ロックウェル硬度(Mスケール)が80より小さい場合、パーティクルが成形板表面に埋め込まれてしまい、基板汚染の原因となる。また硬度が350より大きい場合、段差部9等によって基板10を傷つけてしまう。さらに、基板10は非常に薄いため、搬送時にストレスを与えることなく吸着するためには、可撓性に富んだ材料を用いなければならない。・・・」

エ.
「【0021】第2層3は、第1層2に設けられた基板吸着口5と空気吸引口6をつなげる吸引空気導入路7が形成された矩形環状部材である。空気吸引口6からの吸引力により、吸着口から空気を吸引し、それによって、基板を吸着保持することができる。・・・」

オ.
「【0024】第3層4は、第2層3を包み込んで第1層2に接着される高分子被膜である。具体的には、高分子材料から成るフィルムを用いて第2層3を包み込むか、またはワニスを塗布して第2層3を覆うように被膜を形成する。フィルムまたはワニスにより被膜を形成することにより、搬送部品をできるだけ薄くし、小ピッチラックに対応させることができる。・・・」

カ. 【図1】


キ.
上記摘記事項オ.の「第3層4は、第2層3を包み込んで第1層2に接着される高分子被膜である。」との記載から、「第2層3」上に「第1層2」が固定されたということができる。
上記摘記事項エ.の「第2層3は、第1層2に設けられた基板吸着口5と空気吸引口6をつなげる吸引空気導入路7が形成された矩形環状部材である。」との記載から「基板吸着口5」は、上記カ.に図示されている「基板保持部8」の表面上に形成されている開口部と、第1層(2)の厚さ方向を貫く通路とを備えていることが、当業者にとって明らかである。
上記摘記事項イ.の「基板保持部8は、基板吸着口5を中心として同心的に形成された複数の円弧状段差部9を有する。この実施例では、相対的に小径のいくつかの段差部9に切欠部が形成されており、基板保持の際に基板吸着口5とこれらの段差部9によって生じる凹部間とが連通可能な状態となっている。」との記載及び上記摘記事項エ.の「基板吸着口5と空気吸引口6をつなげる吸引空気導入路7」との記載から、基板保持部(8)上に、設けられた「基板吸着口5」の開口や「円弧状段差部9」による凹部は、「吸引空気導入路7」を介して空気を吸引するための構造であるといえるから、引用文献1記載の発明は、「吸引構造」を有するといえる。
上記カ.には、「円弧状段差部9」によって、凸部と凹部によって流路が円弧状に形成されていることの図示がある。

(2) 引用文献1記載の発明
上記摘記事項ア.ないしオ.、カ.の図示、及び、認定事項キ.から引用文献1に記載された事項を整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。

「第2層(3)と、
前記第2層(3)からみて外方に向く1つの基板保持部(8)を有して前記第2層(3)上に固定された第1層(2)と、
前記基板保持部(8)上の基板吸着口(5)の開口に負圧を適用するための前記第1層(2)を貫通する少なくとも1つの基板吸着口(5)の通路とを備え、前記基板保持部(8)が半導体基板(10)の吸引のためにロックウェル硬度(Mスケール)の値が80以上350以下である可撓性の材料の吸引構造を有し、
前記吸引構造が、基板吸着口(5)を中心として同心的に形成された複数の円弧状段差部(9)を有し、凸部及び凹部からなる少なくとも1つの流路が円弧状に、相対的に小径のいくつかの円弧状段差部(9)に切欠部が形成された、半導体基板(10)を保持するための基板搬送部品。」

2. 引用文献2

(1) 引用文献2の記載
ア.
「【0007】
そのため、ウェーハ研磨後のワークチャックは、次のウェーハを研磨する前に吸着面を洗浄する必要が生じる。
図20は、このようなワークチャックを洗浄する洗浄装置と研磨装置の一例を示す概念図である(特許文献1参照)。図20(A)は研磨装置および洗浄装置の概略説明図、図20(B)はワークチャックの吸着面の平面図である。
【0008】
図20(A)において、研磨装置は負圧によって平板状のワークWを吸着保持するワークチャック1と、ワークチャック1の下方に対向配置された定盤2と、定盤2の上方からアルカリ性溶液からなる研磨液3aを供給する管状のスラリー供給部3と、定盤2から側方に離間して配置された洗浄装置4とを備えている。
【0009】
ワークチャック1はその底面をワーク吸着面1bとし、軸1aを中心として回転する。また、ワーク吸着面1bには、図20(B)に示すようにその中心から周縁端近くにまで連続する1条の螺旋吸引溝1cが設けられている。この螺旋吸引溝1cの中心側の端部は軸1aを貫通する吸気路1dを経由して図示を略す吸引装置と連通している。そして、この吸引装置の駆動によって螺旋吸引溝1c内を負圧とすることによりワークWがワーク吸着面1bに吸着保持される。」

イ.図20(A)及び(B)


ウ.
上記摘記事項ア.の「この螺旋吸引溝1cの中心側の端部は軸1aを貫通する吸気路1dを経由して図示を略す吸引装置と連通している。そして、この吸引装置の駆動によって螺旋吸引溝1c内を負圧とすることによりワークWがワーク吸着面1bに吸着保持される。」との記載から、「ワーク吸着面1b」に設けられた「螺旋吸引溝1c」は、内部を負圧としてワークWを吸着、すなわち吸引するための構造であるといえる。
また、上記摘記事項ア.の「ウェーハ研磨後のワークチャック」との記載から、研磨する際のウェーハが円形であることは技術常識であるから、ワークWが円形であることは、当業者にとって自明である。

(2) 引用文献2記載事項
上記(1)の摘記事項ア.、イ.の図示及び認定事項ウ.から、引用文献2には、次の事項(以下、「引用文献2記載事項」という)が記載されている。

「ワーク吸着面1bが円形のワークWの吸引のための構造を有し、前記構造が、ワーク吸着面1bの周縁端近くにまで連続する1条の螺旋吸引溝1cを有し、前記螺旋吸引溝1cは、ワーク吸着面1bの中心から外に向かう、平坦な円形状のワークWを保持するためのワークチャック1。」

第4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「第2層(3)」は、本願発明の「キャリア(1)」に相当する。以下同様に、引用発明の「基板保持部(8)」、「第1層(2)」、「基板吸着口(5)の開口」、「基板吸着口の通路」及び「半導体基板(10)」は、それぞれ、本願発明の「保持側面(7)」、「保持体(3)」、「吸引端(8)」、「陰圧チャネル」及び「半導体基板(4)」に相当する。
引用発明の「基板搬送部品」は、処理対象物である「半導体基板(10)」を保持する作用を奏するものであるといえるから、本願発明の「工作物保持固定具」に相当する。
引用発明の、「吸引構造」は、「基板吸着口(5)を中心として同心的に形成された複数の円弧状段差部(9)を有し、凸部及び凹部からなる少なくとも1つの流路が円弧状に、相対的に小径のいくつかの円弧状段差部(9)に切欠部が形成された」ものであり、本願発明の「吸引構造体(6)」は、「特に主に前記保持体(3)及び又は前記半導体基板の周辺方向に向かう1又はそれ以上のパス(12)を有し、隆起部(11)及びくぼみ(10)から成る少なくとも1つの前記パス(12)がらせん状に、特に前記保持体(3)の中心(Z)から外に向かう」ものであるから、両者は、本願発明の用語を使うと、「保持体(3)の中心から周辺方向に対して、中心の周囲を何周かするように隆起部(11)及びくぼみ(10)から成る少なくとも1つのパス(12)が形成された吸引構造」である限度で相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、かつ、相違する。

<一致点>
「キャリヤ(1)と、
前記キャリヤ(1)からみて外方に向く1つの保持側面(7)を有して前記キャリヤ(1)上に固定された保持体(3)と、
前記保持側面(7)上の吸引端(8)に真空を適用するための前記保持体(3)を貫通する少なくとも1つの陰圧チャネル(2)とを備え、前記保持側面(7)が半導体基板(4)の吸引のための規定された吸引構造を有し、
前記規定された吸引構造が、保持体(3)の中心の周囲を何周かするように隆起部(11)及びくぼみ(10)から成る少なくとも1つのパス(12)が形成成る少なくとも1つの前記パス(12)がらせん状に、特に前記保持体(3)の中心(Z)から外に向かう、平坦な半導体基板(4)を保持するための工作物保持固定具。」

<相違点1>
本願発明の「吸引端(8)」に適用されるのは、「真空」であるのに対し、引用発明の「基板吸着口(5)の開口」に適用されるのは、「負圧」である点。

<相違点2>
「吸引構造」について、本願発明の「吸引構造体(6)」は「半導体基板(4)の吸引のために柔軟な材料」であるのに対し、引用発明の「吸引構造」は、「ロックウェル硬度(Mスケール)の値が80以上350以下である可撓性の材料」である点。

<相違点3>
「吸引構造」について、本願発明の「吸引構造体(6)」の「パス(12)」は、「らせん上に、特に・・・保持体(3)の中心(Z)から外に向かう」ものであるのに対し、引用発明の「流路」は、「同心的に形成された複数の円弧状」である点。

第5 検討
上記相違点1ないし3について検討する。

1. 相違点1について
引用発明が「負圧」を適用するのは、「半導体基板(10)」の「基板保持部(8)」に対向する面の圧力を反対側の面の圧力よりも低下させて、「半導体基板(10)」を「基板保持部(8)」に対して、当該圧力の差によって吸着固定しようとするためであるところ、吸着固定手段として、「真空」を適用することは、慣用手段に過ぎないものである。
そうすると、引用発明において、適用する圧力を「負圧」に代えて、「真空」とすることは、「基板保持部(8)」に対向する面の反対側の面の圧力がどのようなものであっても、「半導体基板(10)」を固定できるようにしようとして、従来周知の「真空」を適用することで、当業者が容易になし得た事項である。

2. 相違点2について
上記1.(1)の摘記事項ウ.の「ロックウェル硬度(Mスケール)が80より小さい場合、パーティクルが成形板表面に埋め込まれてしまい、基板汚染の原因となる。また硬度が350より大きい場合、段差部9等によって基板10を傷つけてしまう。さらに、基板10は非常に薄いため、搬送時にストレスを与えることなく吸着するためには、可撓性に富んだ材料を用いなければならない」との記載から、引用発明の「吸引構造」の硬さの下限は、「パーティクルが成形板表面に埋め込まれない」ために設定されているから、非常に薄い基板を吸引して搬送する際に、搬送時にストレスを与えることなく吸着するとの効果は、当該下限の「硬さ」よりもさらに下回るものであれば、より高いものとなることが、当業者は引用文献1の記載から理解できる。そうすると、上記搬送時に生じる課題をより確実に解決するために、引用発明の「吸引構造」の素材として、「半導体基板(4)の吸引のために柔軟な材料」を選択することは、当業者が容易に想到し得た事項である。

3. 相違点3について
上記引用文献2記載事項の「螺旋吸引溝1c」も、平坦な円形状の「ワークW」を保持するために、「ワーク吸着面1b」の中心から周縁端近くにまで形成されたものであるから、円形の「ワークW」の形状に対応したものであるといえ、さらに、「螺旋吸引溝1c」を介して「ワークW」の全表面に対して作用する陰圧は増大することが、当業者には理解できる。
そうすると、引用発明の「吸引構造」の「流路」の配置について、「半導体基板(10)」の全表面に対して確実に陰圧を作用させるために、上記相違点3に係る構成を採用することは、加工の手間等を勘案して、「ワークW」を保持する「ワーク吸着面1b」の中心から周縁端近くにまで「螺旋吸引溝1c」を形成した点で共通する形状であって、同様な効果を奏する、上記引用文献2記載事項のものを採用することで当業者が容易になし得た事項である。

4. 効果について
本願発明によってもたらされる効果も、引用発明、引用文献2記載事項及び従来周知の事項から当業者が予測し得る以上のものであるとは認められない。

5. 小括
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2記載事項及び従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-25 
結審通知日 2016-02-01 
審決日 2016-02-15 
出願番号 特願2012-506359(P2012-506359)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金丸 治之牧 初  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 久保 克彦
落合 弘之
発明の名称 半導体基板を保持するための工作物保持固定具  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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