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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1316637
審判番号 不服2015-1569  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-27 
確定日 2016-07-26 
事件の表示 特願2009-195211「偏光板及びそれを用いた液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月10日出願公開、特開2011- 48050、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年8月26日の出願であって、平成25年3月26日付けで拒絶理由が通知され、同年5月28日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、平成26年2月10日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年4月10日付けで意見書が提出され、同年10月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成27年1月27日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、当審において、平成28年2月18日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由1」という。)が通知され、同年4月5日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年5月9日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由2」という。)が通知され、同年6月7日に意見書が提出されるともに手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成28年6月7日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載の事項によりそれぞれ特定されるものと認められるところ、請求項1ないし5に係る発明(以下、本願の請求項1ないし5に係る発明をそれぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」といい、本願発明1ないし5を総称して「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
保護フィルム、偏光膜、及び基材フィルム上にハードコート層を有するハードコートフィルムがこの順序で積層された偏光板であって、該ハードコート層が500?200000個/mm^(2)の範囲内の個数の突起を有し、かつ該ハードコート層が熱可塑性ポリエステル系樹脂、熱可塑性ポリエステルウレタン系樹脂、及びエチレン性不飽和二重結合を有さないアクリル系樹脂の中から選ばれる少なくとも一種の樹脂を含有し、さらに該ハードコートフィルムのヘーズ値が0.2?0.7%の範囲内であり、
前記ハードコート層は、前記熱可塑性ポリエステル系樹脂、熱可塑性ポリエステルウレタン系樹脂、及びエチレン性不飽和二重結合を有さないアクリル系樹脂の中から選ばれる少なくとも一種の樹脂と、バインダー成分としての活性線硬化性樹脂とを含有する樹脂組成物からなり、該樹脂組成物において、前記活性線硬化性樹脂と、前記少なくとも一種の樹脂の含有比率が質量基準で60:2?100:10の範囲であり、前記少なくとも一種の樹脂と前記バインダー成分の活性線硬化性樹脂とが相分離した状態であることを特徴とする偏光板。
【請求項2】
前記ハードコート層の算術平均粗さRa(JIS B0601:2001)が、3?20nmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の偏光板。
【請求項3】
前記ハードコートフィルムの基材フィルムが、熱可塑性アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とを含有し、該熱可塑性アクリル樹脂と該セルロースエステル樹脂の含有質量比が、熱可塑性アクリル樹脂:セルロースエステル樹脂=95:5?50:50の範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の偏光板。
【請求項4】
前記保護フィルムが、熱可塑性アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とを含有し、該熱可塑性アクリル樹脂と該セルロースエステル樹脂の含有質量比が、熱可塑性アクリル樹脂:セルロースエステル樹脂=95:5?50:50の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の偏光板。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の偏光板を液晶セルの少なくとも一方に有することを特徴とする液晶表示装置。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
(1)原査定
原査定の理由は下記のとおりである。
「この出願については、平成26年 2月10日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
備考
〈全請求項に対して〉
平成26年4月10日付け意見書において「また、引用文献5は、硬化性樹脂原料となる数種類のモノマーまたはオリゴマーを混合させて硬化の際に相分離させることを開示しているだけであり、硬化性樹脂に熱可塑性樹脂を加えて相分離させることについて何ら記載されていません。
したがって、仮に引用文献1に記載されている微粒子の代わりに引用文献5記載の技術を採用したとしても、本願発明の構成に至ることはできません。
さらに、引用文献5に記載されているような構成においては、結果として、硬度が高くなることが予測されますが、適度な可塑性を得ることはできず、変形故障の発生を抑制するといった効果を得ることもできないと思料いたします。」旨、主張している。
しかしながら、引用文献5(特開2007-182519号公報、【0072】【0073】【0088】【0089】【0126】)には、本願請求項1に記載されたエチレン性不飽和二重結合を有さないアクリル系樹脂と、バインダー成分としての活性線硬化性樹脂と、溶媒とを少なくとも含有する樹脂組成物が記載されており、引用文献5(特許請求の範囲、【0026】【0027】【0072】【0073】【0088】【0089】【0126】)に記載されたアンチブロッキング性ハードコートフィルムは、本願のハードコート層と区別がつかず、また同様の効果を奏するものと認められる。
したがって、上記主張は採用しない。」

(2)拒絶理由
上記「平成26年 2月10日付け拒絶理由通知書に記載した理由」は、下記のとおりである。

「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1?5
・引用文献 1?5
・備考 引用文献1(【0050】【0399】【0495】【0519】【0522】【0524】)には、ハードコート層が500?200000個/mm^(2)の範囲内の個数の突起を有する点については記載はないが、該点は、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない(引用文献2(【0046】【0047】)参照)。また、相分離により低ヘイズのハードコート層を形成することは引用文献5(特許請求の範囲、【0026】【0027】)に記載されるように周知であり、引用文献1に記載された粒子を添加するハードコート層に代えて採用することは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。
・・・略・・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2008-191544号公報
2.特開2006-028251号公報
3.特開2003-012859号公報
4.特開2009-179731号公報
5.特開2007-182519号公報」

2 原査定の理由についての当審の判断
(1)引用文献1の記載事項
原査定の理由に引用文献1として引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2008-191544号公報には、次の事項が図とともに記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
ア 「【0050】
〔ハードコート層:活性線硬化樹脂層〕
本発明の反射防止フィルムには、透明樹脂フィルムと反射防止層の間にハードコート層として活性線硬化樹脂を含有する層を設ける。
【0051】
本発明に係る「活性線硬化樹脂層」とは、紫外線や電子線のような活性線(「活性エネルギー線」ともいう。)照射により架橋反応等を経て硬化する樹脂を主たる成分とする層をいう。活性線硬化樹脂としては、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーを含む成分が好ましく用いられ、紫外線や電子線のような活性線を照射することによって硬化させて活性線硬化樹脂層が形成される。活性線硬化樹脂としては紫外線硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂等が代表的なものとして挙げられるが、紫外線照射によって硬化する樹脂が好ましい。
・・・略・・・
【0062】
こうして得た硬化樹脂層には耐傷性、滑り性や屈折率を調整するために無機化合物または有機化合物の微粒子を含んでもよい。
【0063】
ハードコート層に使用される無機微粒子としては、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム、ITO、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。特に、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム等が好ましく用いられる。
【0064】
また有機粒子としては、ポリメタアクリル酸メチルアクリレート樹脂粉末、アクリルスチレン系樹脂粉末、ポリメチルメタクリレート樹脂粉末、シリコン系樹脂粉末、ポリスチレン系樹脂粉末、ポリカーボネート樹脂粉末、ベンゾグアナミン系樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、またはポリ弗化エチレン系樹脂粉末等紫外線硬化性樹脂組成物に加えることができる。特に好ましくは、架橋ポリスチレン粒子(例えば、綜研化学製SX-130H、SX-200H、SX-350H)、ポリメチルメタクリレート系粒子(例えば、綜研化学製MX150、MX300)が挙げられる。
【0065】
これらの微粒子粉末の平均粒径としては、0.01?5μmが好ましく0.1?5.0μm、さらには、0.1?4.0μmであることが特に好ましい。また、粒径の異なる2種以上の微粒子を含有することが好ましい。紫外線硬化樹脂組成物と微粒子の割合は、樹脂組成物100質量部に対して、0.1?30質量部となるように配合することが望ましい。
【0066】
これらのハードコート層はグラビアコーター、ディップコーター、リバースコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター、インクジェット法等公知の方法で塗設することができる。塗布後、加熱乾燥し、UV硬化処理を行う。
【0067】
紫外線硬化性樹脂を光硬化反応により硬化させ、硬化皮膜層を形成するための光源としては、紫外線を発生する光源であれば制限なく使用できる。例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることができる。照射条件はそれぞれのランプによって異なるが、活性線の照射量は、通常5?500mJ/cm^(2)、好ましくは5?150mJ/cm^(2)であるが、特に好ましくは20?100mJ/cm^(2)である。
【0068】
また、活性線を照射する際には、フィルムの搬送方向に張力を付与しながら行うことが好ましく、さらに好ましくは幅方向にも張力を付与しながら行うことである。付与する張力は30?300N/mが好ましい。張力を付与する方法は特に限定されず、バックロール上で搬送方向に張力を付与してもよく、テンターにて幅方向、または2軸方向に張力を付与してもよい。これによってさらに平面性優れたフィルムを得ることができる。
【0069】
ハードコート層塗布液には溶媒が含まれていてもよく、必要に応じて適宜含有し、希釈されたものであってもよい。塗布液に含有される有機溶媒としては、例えば、炭化水素類(トルエン、キシレン、)、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸メチル)、グリコールエーテル類、その他の有機溶媒の中でもから適宜選択し、またはこれらを混合し利用できる。プロピレングリコールモノアルキルエーテル(アルキル基の炭素原子数として1?4)またはプロピレングリコールモノアルキルエーテル酢酸エステル(アルキル基の炭素原子数として1?4)等を5質量%以上、より好ましくは5?80質量%以上含有する上記有機溶媒を用いるのが好ましい。
【0070】
ハードコート層は、JIS B 0601で規定される中心線平均粗さ(Ra)が0.001?0.1μmのクリアハードコート層、または微粒子等を添加しRaが0.1?1μmに調整された防眩性ハードコート層であることが好ましい。中心線平均粗さ(Ra)は光干渉式の表面粗さ測定器で測定することが好ましく、例えばWYKO社製非接触表面微細形状計測装置WYKO NT-2000を用いて測定することができる。
【0071】
さらにハードコート層には、シリコーン系界面活性剤あるいはポリオキシエーテル化合物を含有させることが好ましい。これらは塗布性を高め、これらの成分は、塗布液中の固形分成分に対し、0.01?3質量%の範囲で添加することが好ましい。
・・・略・・・
【0093】
また、ハードコート層は、2層以上の重層構造を有していてもよい。その中の1層は例えば導電性微粒子、または、イオン性ポリマーを含有する所謂帯電防止層としてもよいし、また、種々の表示素子に対する色補正用フィルターとして色調調整機能を有する色調調整剤(染料もしくは顔料等)を含有させてもよいし、また電磁波遮断剤または赤外線吸収剤等を含有させそれぞれの機能を有するようにすることは好ましい。
【0094】
ハードコート層塗布液の塗布方法としては、前述のものを用いることができる。塗布量はウェット膜厚として0.1?40μmが適当で、好ましくは、0.5?30μmである。また、ドライ膜厚としては平均膜厚0.1?30μm、好ましくは1?20μmである。
【0095】
ハードコート層は塗布乾燥後に、紫外線を照射するのがよく、必要な活性線の照射量を得るための照射時間としては、0.1秒?1分程度がよく、紫外線硬化性樹脂の硬化効率または作業効率の観点から0.1?10秒がより好ましい。
【0096】
また、これら活性線照射部の照度は0.05?0.2W/m^(2)であることが好ましい。」
イ 「【0494】
《偏光板》
本発明の反射防止フィルムを用いた偏光板について述べる。
【0495】
偏光板は一般的な方法で作製することができる。本発明の反射防止フィルムの裏面側をアルカリ鹸化処理し、処理した反射防止フィルムを、ヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光膜の少なくとも一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。もう一方の面に該反射防止フィルムを用いても、別の偏光板保護フィルムを用いてもよい。本発明の反射防止フィルムに対して、もう一方の面に用いられる偏光板保護フィルムは面内リターデーションRoが590nmで、20?70nm、Rtが100?400nmの位相差を有する光学補償フィルム(位相差フィルム)であることが好ましい。これらは例えば、特開2002-71957号、特願2002-155395号記載の方法で作製することができる。または、さらにディスコチック液晶等の液晶化合物を配向させて形成した光学異方層を有している光学補償フィルムを兼ねる偏光板保護フィルムを用いることが好ましい。例えば、特開2003-98348号記載の方法で光学異方性層を形成することができる。或いはRoが590nmで0?5nm、Rtが-20?+20nmの無配向フィルムも好ましく用いられる。
【0496】
本発明の反射防止フィルムと組み合わせて使用することによって、平面性に優れ、安定した視野角拡大効果を有する偏光板を得ることができる。
【0497】
裏面側に用いられる偏光板保護フィルムとしては、市販のセルロースエステルフィルムとして、KC8UX2MW、KC4UX、KC5UX、KC4UY、KC8UY、KC12UR、KC4UEW、KC8UCR-3、KC8UCR-4、KC8UCR-5、KC4FR-1、KC4FR-2(コニカミノルタオプト(株)製)等が好ましく用いられる。
【0498】
偏光板の主たる構成要素である偏光膜とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光膜は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがあるがこれのみに限定されるものではない。偏光膜は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。偏光膜の膜厚は5?30μ
m、好ましくは8?15μmの偏光膜が好ましく用いられる。該偏光膜の面上に、本発明の反射防止フィルムの片面を貼り合わせて偏光板を形成する。好ましくは完全鹸化ポリビニルアルコール等を主成分とする水系の接着剤によって貼り合わせる。」
ウ 「【実施例】
【0501】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
・・・略・・・
【0515】
(反射防止フィルムの作製)
上記作製したセルロースエステルフィルム1?8、及び下記市販のセルロースエステルフィルム(コニカミノルタタック KC8UX2MW、KC4UY、KC4UE、KC4FR-1、KC8UCR-5、コニカミノルタオプト(株)製)を支持体(透明樹脂フィルム)として用いて、下記手順により反射防止フィルムをそれぞれ作製した。
【0516】
セルロースエステルフィルム9:コニカミノルタタック KC8UX2MW
セルロースエステルフィルム10:コニカミノルタタック KC4UY
セルロースエステルフィルム11:コニカミノルタタック KC4UE
セルロースエステルフィルム12:コニカミノルタタック KC4FR-1
セルロースエステルフィルム13:コニカミノルタタック KC8UCR-5
反射防止層を構成する各層の屈折率は下記方法で測定した。
【0517】
(屈折率)
各屈折率層の屈折率は、各層を単独で下記で作製したハードコートフィルム上に塗設したサンプルについて、分光光度計の分光反射率の測定結果から求めた。分光光度計はU-4000型(日立製作所製)を用いて、サンプルの測定側の裏面を粗面化処理した後、黒色のスプレーで光吸収処理を行って裏面での光の反射を防止して、5度正反射の条件にて可視光領域(400nm?700nm)の反射率の測定を行った。
【0518】
(金属酸化物微粒子の粒径)
使用する金属酸化物微粒子の粒径は電子顕微鏡観察(SEM)にて各々100個の微粒子を観察し、各微粒子に外接する円の直径を粒子径としてその平均値を粒径とした。
【0519】
《ハードコートフィルムの作製》
上記作製したセルロースエステルフィルム1上に、下記のハードコート層組成物を孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過してハードコート層塗布液を調製し、これをマイクログラビアコーターを用いて塗布し、90℃で乾燥の後、紫外線ランプを用い照射部の照度が100mW/cm^(2)で、照射量を0.2J/cm^(2)として塗布層を硬化させ、ドライ膜厚10μmのハードコート層を形成しハードコートフィルム1を作製した。
【0520】
尚、下記バックコート層組成物1をウェット膜厚14μmとなるように、ハードコート層を塗布した面とは反対の面に押し出しコーターで塗布し、85℃にて乾燥した。
【0521】
(ハードコート層組成物1)
下記材料を攪拌、混合しハードコート層組成物1とした。
【0522】
ペンタエリスリトールトリアクリレート 20質量部
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 60質量部
ウレタンアクリレート(新中村化学工業社製 商品名U-4HA)
50質量部
イルガキュア184(チバスペシャルティケミカルズ(株)製)
20質量部
イルガキュア907(チバスペシャルティケミカルズ(株)製)
12質量部
ポリエーテル変性シリコーンオイル(信越化学社製 KF-351)
0.8質量部
ポリオキシアルキルエーテル(花王社製 エマルゲン1108)
1.0質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 110質量部
酢酸エチル 110質量部
〈バックコート層組成物1〉
アセトン 54質量部
メチルエチルケトン 24質量部
メタノール 22質量部
セルロースエステル(セルロースアセテートプロピオネート;アセチル基置換度1.9、プロピオニル基置換度0.8) 0.6質量部
超微粒子シリカ2%アセトン分散液
(日本アエロジル(株)製アエロジル200V) 0.2質量部
同様にして、セルロースエステルフィルム、ハードコート層組成物、ハードコート層の膜厚を表1に記載のように変更して、ハードコートフィルム2?25を作製した。
【0523】
(ハードコート層組成物2)
下記材料を攪拌、混合しハードコート層組成物2とした。
【0524】
アクリルモノマー;KAYARAD DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、日本化薬製) 220質量部
イルガキュア184(チバスペシャルティケミカルズ(株)製)
20質量部
シリコン系界面活性剤(FZ-2207、日本ユニカー(株)製)の10%プロピレングリコールモノメチルエーテル液 2質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 110質量部
酢酸エチル 110質量部
(ハードコート層組成物3)
下記材料を攪拌、混合しハードコート層組成物3とした。
【0525】
アクリルモノマー;KAYARAD DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、日本化薬製) 220質量部
イルガキュア184(チバスペシャルティケミカルズ(株)製)
20質量部
イオン液体1 20質量部
シリコン系界面活性剤(FZ-2207、日本ユニカー(株)製)の10%プロピレングリコールモノメチルエーテル液 2質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 110質量部
酢酸エチル 110質量部
(ハードコート層組成物4)
下記材料を攪拌、混合しハードコート層組成物4とした。
【0526】
ペンタエリスリトールトリアクリレート 20質量部
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 60質量部
ウレタンアクリレート(新中村化学工業社製 商品名U-4HA)
50質量部
イルガキュア184(チバスペシャルティケミカルズ(株)製)
20質量部
イルガキュア907(チバスペシャルティケミカルズ(株)製)
12質量部
ポリエーテル変性シリコーンオイル(信越化学社製 KF-351)
0.8質量部
ポリオキシアルキルエーテル(花王社製 エマルゲン1108)
1.0質量部
イオン液体2 5質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 110質量部
酢酸エチル 110質量部
(ハードコート層組成物5)
下記材料を攪拌、混合しハードコート層組成物5(防眩性ハードコート層)とした。
【0527】
ペンタエリスリトールトリアクリレート 20質量部
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 60質量部
ウレタンアクリレート(新中村化学工業社製 商品名U-4HA)
50質量部
イルガキュア184(チバスペシャルティケミカルズ(株)製)
20質量部
イルガキュア907(チバスペシャルティケミカルズ(株)製)
12質量部
ポリエーテル変性シリコーンオイル(信越化学社製 KF-351)
0.8質量部
ポリオキシアルキルエーテル(花王社製 エマルゲン1108)
1.0質量部
架橋ポリスチレン粒子 平均一次粒径3.5μm 5質量部
シリカ粒子 粒径0.1μm 5質量部
イオン液体3 1質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 110質量部
酢酸エチル 110質量部
(ハードコート層組成物6)
下記材料を攪拌、混合しハードコート層組成物6とした。
【0528】
アクリルモノマー;KAYARAD DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、日本化薬製) 220質量部
イルガキュア184(チバスペシャルティケミカルズ(株)製)
20質量部
イオン液体5 10質量部
シリコン系界面活性剤(FZ-2207、日本ユニカー(株)製)の10%プロピレングリコールモノメチルエーテル液 2質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 110質量部
酢酸エチル 110質量部
(ハードコート層組成物7)
下記材料を攪拌、混合しハードコート層組成物7とした。
【0529】
アクリルモノマー;KAYARAD DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、日本化薬製) 220質量部
イルガキュア184(チバスペシャルティケミカルズ(株)製)
20質量部
イオン液体6 10質量部
シリコン系界面活性剤(FZ-2207、日本ユニカー(株)製)の10%プロピレングリコールモノメチルエーテル液 2質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 110質量部
酢酸エチル 110質量部
(ハードコート層組成物8)
下記材料を攪拌、混合しハードコート層組成物8とした。
【0530】
アクリルモノマー;KAYARAD DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、日本化薬製) 220質量部
イルガキュア184(チバスペシャルティケミカルズ(株)製)
20質量部
イオン液体7 10質量部
シリコン系界面活性剤(FZ-2207、日本ユニカー(株)製)の10%プロピレングリコールモノメチルエーテル液 2質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 110質量部
酢酸エチル 110質量部
(ハードコート層組成物9)
下記材料を攪拌、混合しハードコート層組成物9とした。
【0531】
アクリルモノマー;KAYARAD DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、日本化薬製) 220質量部
イルガキュア184(チバスペシャルティケミカルズ(株)製)
20質量部
イオン液体8 10質量部
シリコン系界面活性剤(FZ-2207、日本ユニカー(株)製)の10%プロピレングリコールモノメチルエーテル液 2質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 110質量部
酢酸エチル 110質量部
(ハードコート層組成物10)
下記材料を攪拌、混合しハードコート層組成物10とした。
【0532】
アクリルモノマー;KAYARAD DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、日本化薬製) 220質量部
イルガキュア184(チバスペシャルティケミカルズ(株)製)
20質量部
イオン液体4 2質量部
シリコン系界面活性剤(FZ-2207、日本ユニカー(株)製)の10%プロピレングリコールモノメチルエーテル液 2質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 110質量部
酢酸エチル 110質量部
【0533】
【表1】・・・略・・・
【0534】
《反射防止フィルム101?144の作製》
上記作製したハードコートフィルム1上に、下記のように高屈折率層、次いで、低屈折率層の順に反射防止層を塗設し、反射防止フィルム101を作製した。
・・・略・・・
【0552】
実施例2
次いで、実施例1で作製した反射防止フィルム101?144を用いて下記のようにして偏光板を作製し、それらの偏光板を液晶表示パネル(画像表示装置)に組み込み、視認性を評価した。
【0553】
下記の方法に従って、上記反射防止フィルム101?144とセルロースエステル系光学補償フィルムであるKC4FR-1(コニカミノルタオプト(株)製)各々1枚を偏光板保護フィルムとして用いて偏光板101?144を作製した。
【0554】
(a)偏光膜の作製
けん化度99.95モル%、重合度2400のポリビニルアルコール(以下PVAと略す)100質量部に、グリセリン10質量部および水170質量部を含浸させたものを溶融混練し、脱泡後、Tダイから金属ロール上に溶融押出し、製膜した。その後、乾燥・熱処理してPVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムは平均厚みが40μm、水分率が4.4%、フィルム幅が3mであった。
【0555】
前記したPVAフィルムを予備膨潤、染色、湿式法による一軸延伸、固定処理、乾燥、熱処理の順番で連続的に処理して偏光フィルムを作製した。PVAフィルムを30℃の水中に30秒間浸して予備膨潤し、ヨウ素濃度0.4g/リットル、ヨウ化カリウム濃度40g/リットルの35℃の水溶液中に3分間浸した。続いて、ホウ酸濃度4%の50℃の水溶液中でフィルムにかかる張力が700N/mの条件下で6倍に一軸延伸を行い、ヨウ化カリウム濃度40g/リットル、ホウ酸濃度40g/リットル、塩化亜鉛濃度10g/リットルの30℃の水溶液中に5分間浸漬して固定処理を行った。その後、PVAフィルムを取り出し、40℃で熱風乾燥し、さらに100℃で5分間熱処理を行った。得られた偏光膜は平均厚みが15μmであった。
【0556】
(b)偏光板の作製
次いで、下記工程1?5に従って、偏光膜と偏光板用保護フィルムとを貼り合わせて偏光板101?144を作製した。
【0557】
工程1:光学補償フィルムと反射防止フィルムを2mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に60℃で90秒間浸漬し、次いで水洗、乾燥させた。反射防止フィルムの反射防止層を設けた面にはあらかじめ剥離性の保護フィルム(PET製)を張り付けて保護した。
【0558】
同様に光学補償フィルムを2mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に60℃で90秒間浸漬し、次いで水洗、乾燥させた。
【0559】
工程2:前述の偏光膜を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1?2秒間浸漬した。
【0560】
工程3:工程2で偏光膜に付着した過剰の接着剤を軽く取り除き、それを工程1でアルカリ処理した光学補償フィルムと反射防止フィルムで挟み込んで、積層配置した。
【0561】
工程4:2つの回転するローラーにて20?30N/cm^(2)の圧力で10m/minの速度で張り合わせた。このとき気泡が入らないように注意して実施した。
【0562】
工程5:80℃の乾燥機中にて工程4で作製した試料を2分間乾燥処理し、偏光板を作製した。
【0563】
市販の液晶表示パネル(VA型)の最表面の偏光板を注意深く剥離し、ここに偏光方向を合わせた偏光板101?144を張り付けた。」
エ 上記アないしウから、引用文献1には次の発明(段落番号を併記した。)が記載されているものと認められる。
「【0519】セルロースエステルフィルム上に、下記ハードコート層組成物1を孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して調整したハードコート層塗布液をマイクログラビアコーターを用いて塗布し、90℃で乾燥の後、紫外線ランプを用い照射部の照度が100mW/cm^(2)で、照射量を0.2J/cm^(2)として塗布層を硬化させ、ドライ膜厚10μmのハードコート層を形成してハードコートフィルムを作製し、【0534】該ハードコートフィルム上に、高屈折率層、低屈折率層の順に反射防止層を塗設し、反射防止フィルムを作成し、【0553】該反射防止フィルムと光学補償フィルム各々1枚を偏光板保護フィルムとして用いて作製した偏光板であって、
【0556】下記工程1?5に従って、偏光膜と偏光板用保護フィルムとを貼り合わせて作製した偏光板。

【0521】
(ハードコート層組成物1)
下記材料を攪拌、混合しハードコート層組成物1とした。
【0522】
ペンタエリスリトールトリアクリレート 20質量部
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 60質量部
ウレタンアクリレート(新中村化学工業社製 商品名U-4HA)
50質量部
イルガキュア184(チバスペシャルティケミカルズ(株)製)
20質量部
イルガキュア907(チバスペシャルティケミカルズ(株)製)
12質量部
ポリエーテル変性シリコーンオイル(信越化学社製 KF-351)
0.8質量部
ポリオキシアルキルエーテル(花王社製 エマルゲン1108)
1.0質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 110質量部
酢酸エチル 110質量部

【0557】工程1:光学補償フィルムと反射防止フィルムを2mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に60℃で90秒間浸漬し、次いで水洗、乾燥させ、反射防止フィルムの反射防止層を設けた面にはあらかじめ剥離性の保護フィルム(PET製)を張り付けて保護した。
【0559】工程2:偏光膜を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1?2秒間浸漬した。
【0560】工程3:工程2で偏光膜に付着した過剰の接着剤を軽く取り除き、それを工程1でアルカリ処理した光学補償フィルムと反射防止フィルムで挟み込んで、積層配置した。
【0561】工程4:2つの回転するローラーにて20?30N/cm^(2)の圧力で10m/minの速度で張り合わせた。このとき気泡が入らないように注意して実施した。
【0562】工程5:80℃の乾燥機中にて工程4で作製した試料を2分間乾燥処理した。」(以下「引用発明」という。)

(2)引用文献2の記載事項
原査定の理由に引用文献2として引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2006-28251号公報には、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステルフィルム及びその製造方法、並びにセルロースエステルフィルムを用いた偏光板及び表示装置に関する。より詳しくは、本発明は、光学用途に利用されるセルロースエステルフィルム(以下、単にフィルムともいう)及びその製造方法に関するものであり、特に液晶表示装置等に用いられる偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、プラズマディスプレイに用いられる反射防止フィルムなどの各種機能フィルム、また有機ELディスプレイ等で使用される各種機能フィルム等にも利用することができるセルロースエステルフィルム及びその製造方法、並びにセルロースエステルフィルムを用いた偏光板及び表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンの薄型軽量化、大型画面化、高精細化の開発が進んでいる。それに伴って、液晶偏光板用の保護フィルムもますます薄膜化、広幅化、高品質化の要求が強くなってきている。偏光板用保護フィルムには、一般的にセルロースエステルフィルムが広く使用されている。セルロースエステルフィルムは通常、巻芯に巻かれてフィルム原反となり、保存、輸送されている。
【0003】
最近の大画面化に伴って、フィルム幅が広く、長い巻長のフィルム原反が要望されている。フィルム原反の幅が広く、巻長が長くなるとフィルム原反での保存性が問題となる。例えばフィルム同士がくっついてフィルムが変形してしまうハリツキ故障や、異物がフィルムの間に挟まったように凸状の変形になってしまう凸状故障などが発生しやすくなる。特にフィルム原反を広幅化して、1.4m以上になると、両サイドに設けたナーリングの効果が小さくなり、フィルム原反の保存性が悪化しやすくなるという問題があった。
【0004】
また、とくに近年の高画質化に伴って、セルロースエステルフィルムの異物除去要求レベルも厳しくなり、今までは問題にされなかった小さい異物も問題視されるようになってきている。
【0005】
このような従来技術の問題防止するために、セルロースエステルフィルムにマット剤としての微粒子を添加する下記の方法が提案されている。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の従来の方法において、セルロースエステルフィルム中の微粒子(マット剤)の添加量を増加させようとすると、セルロースエステルフィルムの異物発生が増えてしまうという問題があった。
【0008】
また、上記特許文献1記載の従来法のように、異物を減らそうとして微粒子添加液を細かいフィルターで濾過すると、フィルターで微粒子の凝集物同士がくっついてさらに凝集し、フィルターに詰まって濾過圧が急激に上昇したりすることが多く、問題であった。また特許文献1記載の方法では、主ドープに微粒子添加液をインラインで添加する時に発生するショックで、さらに微粒子凝集が発生し、これを除去することはできないという問題があった。
【0009】
上記特許文献2の方法では、微粒子と紫外線吸収剤の混合割合を容易に変更できないという問題があるし、また、樹脂や紫外線吸収剤と微粒子を一緒に混合してから分散すると、微粒子の分散状態が悪いという問題もあった。さらに従来は、主ドープを濾過している濾材については、何ら検討がなされていないため、微粒子の数μm以上の凝集物だけを除去することは困難であるという問題があった。
【0010】
また、上記特許文献3記載の方法においては、製膜後のフィルムでの検出では、インラインとは言え、約数時間のタイムラグが生じるため、仕込みでのばらつきが完全には抑えられないという問題があった。
【0011】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、セルロースエステルフィルム原反の保存性に優れ、異物の発生がなく、生産性にも優れたセルロースエステルフィルム、及びその製造方法を提供すること、さらには、該セルロースエステルフィルムを用いた偏光板、及び偏光板を用いた液晶表示装置を提供しようとすることにある。」
ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
つぎに、本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
(セルロースエステルフィルムの表面形状)
本発明によるセルロースエステルフィルムは、微粒子を含有するセルロースエステルフィルムであって、フィルム表面の平均突起高さの2倍以上の高さを持つ突起の数をA、フィルム表面の総突起数をBとしたときに、
1.0×10^(-6)≦A/B≦1.0×10^(-2)であることを特徴としている。
【0042】
ここで、A/Bが1.0×10^(-6)未満の場合は、大きな突起の割合が極端に少なく、セルロースエステルフィルム同士の滑り性が悪くなり長尺での巻き変形を生じ偏光板化する際に歪みなどが生じやすい。A/Bが1.0×10^(-2)を越えると、粗大突起の割合が大きくなり、異物故障として液晶画面でのスポット故障となりやすいため、好ましくない。
【0043】
上記範囲にA/Bを調整する手段は、例えばセルロースエステルフィルムに添加する微粒子の粒度分布を分散機の分散条件を変更することによりシャープにすること、主ドープに添加する微粒子添加液を濾過する、微粒子を添加したドープを濾過する、1次粒子径の粒度分布のシャープな微粒子を使用する、ことなどにより調整可能であるが、これに限定されるものではない。
【0044】
また、本発明によるセルロースエステルフィルムは、フィルム表面の平均突起高さが、2nm?20nmであることが必要であるが、セルロースエステルフィルム表面の平均突起高さが2nm未満では、表面が平滑すぎて、フィルム同士の滑り性が悪くなり、長尺での巻き変形を生じ、偏光板化する際に歪みなどが生じやすいので、好ましくない。セルロースエステルフィルム表面の平均突起高さが20nmを越えると、表面が粗くなるため、フィルムのヘイズが上昇し、液晶表示装置用のフィルムとしては使用できなくなるため、好ましくない。
【0045】
上記範囲に平均突起高さを調整する手段としては、例えば添加する微粒子の粒径を選択する、金属支持体上での乾燥時の乾燥速度を調整する、横延伸時の延伸率、延伸温度を調整する、ことなどにより調整可能であるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
また、本発明によるセルロースエステルフィルムは、フィルム表面の2nm以上の突起密度が、1万?10万個/mm^(2)である。
【0047】
ここで、フィルム表面の2nm以上の突起密度が1万個/mm^(2)未満の場合は、表面が平滑すぎて、フィルム同士の滑り性が悪くなり、長尺での巻き変形を生じ、偏光板化する際に歪みなどが生じやすいので、好ましくない。フィルム表面の2nm以上の突起密度が10万個/mm^(2)を越えると、表面が粗くなるため、フィルムのヘイズが上昇し、液晶表示装置用のフィルムとしては使用できなくなるため好ましくない。
【0048】
上記範囲に突起密度を調整する手段としては、例えば微粒子の添加量を調整する、金属支持体上での乾燥時の乾燥速度を調整する、横延伸時の延伸率、延伸温度を調整する、ことなどにより調整可能であるが、これらに限定されるものではない。」
エ 「【0230】
本発明によるセルロースエステルフィルムは、良好な透湿性、寸法安定性等から液晶表示用部材、詳しくは偏光板用保護フィルムに用いられるのが好ましい。特に、透湿度と寸法安定性に対して共に厳しい要求のある偏光板用保護フィルムにおいて、本発明のセルロースエステルフィルムは好ましく用いられる。
【0231】
本発明による偏光板は、一般的な方法で作製することができる。例えば光学フィルムあるいはセルロースエステルフィルムをアルカリケン化処理し、ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素溶液中に浸漬、延伸して作製した偏光膜の両面に、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。
【0232】
ここで、アルカリケン化処理とは、水系接着剤の濡れを良くし、接着性を向上させるために、セルロースエステルフィルムを高温の強アルカリ液中に漬ける処理のことをいう。
【0233】
本発明によるセルロースエステルフィルムには、ハードコート層、防眩層、反射防止層、防汚層、帯電防止層、導電層、光学異方層、液晶層、配向層、粘着層、接着層、下引き層等の各種機能層を付与することができる。これらの機能層は塗布あるいは蒸着、スパッタ、プラズマCVD、大気圧プラズマ処理等の方法で設けることができる。
【0234】
このようにして得られた偏光板が、液晶セルの片面または両面に設けられ、これを用いて、本発明の液晶表示装置が得られる。
【0235】
本発明によるセルロースエステルフィルムからなる偏光板用保護フィルムを用いることにより、薄膜化とともに、耐久性及び寸法安定性、光学的等方性に優れた偏光板を提供することができる。
【0236】
さらに、本発明による偏光板あるいは位相差フィルムを用いた液晶表示装置は、長期間に亘って安定した表示性能を維持することができる。
【0237】
本発明によるセルロースエステルフィルムは、反射防止用フィルムあるいは光学補償フィルムの基材としても使用できる。」
オ 上記アないしエから、引用文献2には、次の事項(段落番号を併記した。)が記載されているものと認められる。
「【0230】偏光板用保護フィルムに用いられ、【0233】ハードコート層を付与したセルロースエステルフィルムにおいて、
【0011】セルロースエステルフィルム原反の保存性に優れ、異物の発生がなく、生産性にも優れたものとするために、【0046】フィルム表面の2nm以上の突起密度を1万?10万個/mm^(2)としたこと。」(以下「引用文献2の記載事項」という。)

(3)引用文献5の記載事項
原査定の理由に引用文献5として引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2007-182519号公報には、次の事項が図とともに記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種以上の樹脂からなる第一成分および少なくとも一種以上のモノマー若しくはオリゴマーからなる群から選択される第二成分を含有する硬化性樹脂組成物であって、該組成物の塗布後に前記第1成分の樹脂が相分離により析出し、表面に微細な凹凸を形成するアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記第1成分および第2成分が、共に(メタ)アクリロイル基を含有する請求項1記載のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記硬化性樹脂組成物がさらに無機粒子または有機粒子を少なくとも1種を含む、請求項1または2記載のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
第1成分のSP値と第2成分のSP値との差が1.0以上である、請求項1?3いずれかに記載のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記第1成分の樹脂がガラス転移温度(Tg)2℃以上であり、重量平均分子量2000以上である請求項1記載のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記無機粒子または有機粒子が平均粒子径0.5μm以下である請求項3記載のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記アンチブロッキング性樹脂組成物が光硬化性である請求項1記載のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1?7いずれかに記載のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物をフィルム状に硬化することにより得られたアンチブロッキング性ハードコートフィルムであって、該フィルムが全光線透過率90%以上、ヘイズ2.0%以下を有するクリアー性能を有するアンチブロッキング性ハードコートフィルム。
【請求項9】
ハードコートフィルムの表面がRa(算術平均高さ)0.1μm以下、RzJIS(十点平均粗さ)0.3μm以下である請求項8記載のアンチブロッキング性ハードコートフィルム。
【請求項10】
請求項1?7いずれかに記載のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物を基材上に塗布し、硬化したアンチブロッキング性層状構造体。
【請求項11】
請求項1?7いずれかに記載のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物を基材上に塗布し、硬化したアンチブロッキング性層状構造体をロール上に巻回したアンチブロッキング性層状構造体巻回ロール。
【請求項12】
基材上に請求項1?7いずれかに記載のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物を塗布し、乾燥させて相分離させ、その後硬化することに得られるアンチブロッキング性層状構造体の製造方法。
【請求項13】
前記相分離と硬化が、光を照射することにより行われる請求項12記載の製造方法。」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチブロッキング性光硬化性樹脂組成物、それを基材上に被覆硬化したアンチブロッキング性構造体およその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
PETフィルムなどの熱可塑性フィルムにハードコーティングを施す場合、製造工程で、ロール状に巻回して保存したりすることがある。ハードコートを形成したPETフィルムなどの樹脂基材層上に別の層状体を重ねた場合に、層間に粘着力や化学的な力が働いて、付着状態になり、各層状体を利用するときに、各層状体を剥がすための力が必要であったり、付着力が強くなって剥がすのが困難になったり、あるいはむりやり剥がそうとすると層状体の破壊が起こったりすることがある。
【0003】
そのような場合、基材のハードコーティングの施されていない反対面に、1μm程度のシリカなどの粒子状物を練り込んだ塗料を塗布してバックコートを形成して、表面に凹凸を設けて、各層間の接触面積を小さくすることにより、層状体間の付着を防止することがある。例えば、特開2004-151937号公報(特許文献1)や特開2005-132897号公報(特許文献2)には粒子状物を含有するバックコートを形成した技術が開示されている。
【0004】
上述の粒状物質の利用による層状体間の付着を防止する技術は、有効であるが、粒子の凹凸が表面にまで現れなければならないので、塗膜の厚さが粒径より小さく(例えば、0.5μm程度)にしなければならず、機械的強度が低下すると共に、傷などが付き易く、またぎらつき等も生じる。このような欠点は、透明性を要求される熱可塑性樹脂層の場合には、光学特性や透明性が低下し、致命的な欠点となる。
【0005】
上述の方法はハードコート層の反対面のバックコートに粒子を混入したものである場合、ハードコート層自体にも樹脂粒子を混入して、表面に凹凸を形成する技術も存在する(特開2004-042653号公報(特許文献3)。粒子を混入する場合、表面の凹凸形成の為に膜厚を薄くする必要があり、膜強度が弱くなり傷が付きやすく、塗膜特性が劣化する。また、光化学特性が損なわれることもある。
【0006】
【特許文献1】特開2004-151937号公報
【特許文献2】特開2005-132897号公報
【特許文献3】特開2004-042653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、粒子状物質を用いなくでも、熱可塑性フィルム等の層状体間の付着などの不具合、即ちブロッキング現象を防止することができる技術を提供することを課題とする。」
ウ 「【発明の効果】
【0021】
本発明のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物は、基材上に塗布し必要に応じて乾燥させた後に、硬化(特に、光硬化)させるのみで、表面に凹凸を有する樹脂層であるアンチブロッキング層を設けることができる。得られたアンチブロッキング性ハードコートフィルムは、従来のものよりも硬く、傷が付きにくい。また、平均粒子径0.5μmを超える粒子状物を用いていないので、光学特性が損なわれることが無く、樹脂自体の性能が利用できる。このアンチブロッキング性ハードコートフィルムを樹脂基材と組み合わせたアンチブロッキング性層状構造体を複数枚重ね合わせても、ブロッキング現象(例えば、層間付着)が生じない効果を発揮する。本発明のアンチブロッキング性層状構造体が巻回ロールの場合、ブロッキング現象(例えば、巻回ロールからの剥離の困難性)が起こらない。
【0022】
また、本発明により表面に凹凸を形成した場合、自然発生的に凹凸配置が決まるので、微細凹凸を有する被膜の表面に不規則な凹凸形状を形成することができる。」
エ 「【0039】
第1成分の樹脂として、不飽和二重結合含有アクリル共重合体であるのがより好ましい。第2成分のモノマーまたはオリゴマーとして、多官能性不飽和二重結合含有モノマーまたはそのオリゴマーであるのがより好ましい。なお、本明細書でいう「オリゴマー」とは、繰り返し単位を有する重合体であって、この繰り返し単位の数が3?10であるものをいう。
【0040】
不飽和二重結合含有アクリル共重合体は、例えば(メタ)アクリルモノマーを重合または共重合した樹脂、(メタ)アクリルモノマーと他のエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーとを共重合した樹脂、(メタ)アクリルモノマーと他のエチレン性不飽和二重結合およびエポキシ基を有するモノマーとを反応させた樹脂、(メタ)アクリルモノマーと他のエチレン性不飽和二重結合およびイソシアネート基を有するモノマーとを反応させた樹脂、などが挙げられる。これらの不飽和二重結合含有アクリル共重合体は1種を単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
多官能性不飽和二重結合含有モノマーとして、上記の多官能性モノマー、例えば、多価アルコールと(メタ)アクリレートとの脱アルコール反応物、具体的には、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどを用いることができる。この他にも、ポリエチレングリコール#200ジアクリレート(共栄社化学(株)社製)などの、ポリエチレングリコール骨格を有するアクリレートモノマーを使用することもできる。これらの多官能性不飽和二重結合含有モノマーは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
本発明に有用な第1成分および第2成分の他の一例として、第1成分および第2成分が、共に(メタ)アクリル樹脂を骨格構造に含む樹脂を用いるのが好ましい。この第1成分は、不飽和二重結合含有アクリル共重合体であるのがより好ましく、また第2成分は多官能性不飽和二重結合含有モノマーであるのがより好ましい。
【0043】
第1成分および第2成分が上記組み合わせである場合に好ましい有機溶媒として、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶媒;アニソール、フェネトールプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で用いてもよく、また2種以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0044】
第1成分の樹脂は、好ましくはガラス転移温度(Tg)の下限としては2℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは50℃以上を有する。一方、ガラス転移点の上限としては200℃、好ましくは150℃を有する。ガラス転移温度は、通常の動的粘弾性によるTgの測定方法と同様の方法により得ることができる。このTgは、例えば、RHEOVIBRON MODEL RHEO2000、3000(商品名、オリエンテック社製)等を用いて測定することができる。ガラス転移温度が2℃より低い場合は、アンチブロッキング機能が低下する。
【0045】
本発明のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物には、上記の第1成分および第2成分のほかに、通常使用される樹脂が含まれてもよい。本発明のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物は、上記のような第1成分および第2成分を用いることによって、樹脂粒子などを含ませなくても、凹凸を有する樹脂層を形成することができることに特徴がある。そのため、本発明のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物は、樹脂粒子を含まないのが好ましい。しかしながら、本発明のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、無機粒子または有機粒子、若しくはそれらの複合物を少なくとも一種以上含んでもよい。これらの粒子は、特に表面に凹凸を形成する目的のために添加されるのではなく、相分離や析出を制御して、より均一で微細な凹凸を形成する為に添加される。これらの粒子の粒径は、被膜に透明性が必要である場合には、平均粒径で0.5μm以下、好ましくは0.01?0.3μmである。0.5μmを超えると、若干透明性が低下する。
【0046】
無機粒子の例としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ゼオライト、雲母、合成雲母、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、フッ化マグネシウム、スメクタイト、合成スメクタイト、バーミキュライト、ITO(酸化インジウム/酸化錫)、ATO(酸化アンチモン/酸化錫)、酸化錫、酸化インジウムおよび酸化アンチモンからなる群から選択される少なくとも1種類が挙げられる。
【0047】
有機粒子の例としては、アクリル、オレフィン、ポリエーテル、ポリエステル、ウレタン、ポリエステル、シリコーン、ポリシラン、ポリイミドおよびフッ素粒子からなる群から選択される少なくとも1種類が挙げられる。
【0048】
本発明のアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物は、第1成分と第2成分を、必要に応じた溶媒、重合開始剤、触媒、光増感剤および硬化剤と併せて混合することにより調製される。アンチブロッキング性硬化性樹脂組成物中における第1成分と第2成分との比率は、0.1:99.9?50:50が好ましく、0.3:99.7?20:80がより好ましく、0.5:99.5?10:90がさらに好ましい。重合開始剤、触媒および光増感剤を用いる場合は、第1成分および第2成分そして必要に応じた他の樹脂(これらを合わせて「樹脂成分」という。)100重量部に対して、0.01?20重量部、好ましくは1?10重量部加えることができる。硬化剤を用いる場合は、上記樹脂成分100重量部
に対して、0.1?50重量部、好ましくは1?30重量部加えることができる。溶媒を用いる場合は、上記樹脂成分100重量部に対して、1?9900重量部、好ましくは10?900重量部加えることができる。」
オ 「【0088】
実施例1
多官能不飽和二重結合含有モノマーであるペンタエリスリトールトリアクリレート(このモノマーのSP値:12.7)99重量部と調製例1のアクリル共重合体(この樹脂のSP値:9.9、Tg:113℃、Mw=5200)を1重量部と光開始剤である2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン7重量部を溶媒であるイソプロピルアルコールに混合して、不揮発成分率を40重量%となるように溶液を作製した。
【0089】
この溶液を、23℃で、PETフィルム基板にバーコーター(No.8)にてバーコート塗布し、膜厚が5μmとなるように80℃で1分乾燥して、溶媒を除去乾燥し、その後、この膜を超高圧水銀灯で紫外線を400mJ/cm^(2)のエネルギーとなるように露光して硬化させた。得られたアンチブロッキング性層状構造体(基材:PETフィルム基板およびアンチブロッキング性ハードコートフィルム)について、ΔSP値、全光線透過率(%)、ヘイズ(%)、Ra、RzJIS94、AB性、白ムラ(外観)、硬度および耐スチールウール性について以下に記載の方法で評価した。結果を表1に示す。尚、表1には、第1成分、第2成分およびについて、配合量、SP値、Tg(第1成分のみ)および分子量(第1成分のみ)も記載する。また、粒子についても粒子の種類、平均粒子径および配合量を表1に記載する。
【0090】
また、実施例1のアンチブロッキング性層状構造体の微細凹凸を有する被膜表面上の、超深度形状測定顕微鏡による三次元画像を図4に示す。
【0091】
光線透過率(Tt)
ヘイズメーター(スガ試験機社製)を用いて、防眩フィルムに対する入射光強度(T0)と防眩フィルムを透過した全透過光強度(T1)とを測定し、下記式により全光線透過率(Tt(%))を算出した。
【数6】
【0092】
ヘイズ(曇価)
ヘイズメーター(スガ試験機社製)を用いて、防眩フィルムの拡散透光率(Td(%))および上記全光線透過率(Tt(%))を測定し、ヘイズを算出した。
【数7】
H:ヘイズ(曇価)(%)
Td:拡散透光率(%)
Tt:全光線透過率(%)
【0093】
算術平均高さ(Ra)
表面上の凹凸の粗さ曲線の算術平均高さ(Ra)を、キーエンス製、超深度形状測定顕微鏡を用いてJIS-601に準拠して測定し、Ra値を得た。
【0094】
十点平均粗さ(RzJIS)
表面上の凹凸の十点平均粗さ(RzJIS)を、キーエンス製、超深度形状測定顕微鏡を用いてJIS-B0601の付属書1に準拠して測定し、RzJIS値を得た。
【0095】
AB性
上記組成物から得られた構造体を2×5cmの大きさに切り出し、PETフィルム(易接着層未塗布)面に重ね合わせ、ガラス板に挟んで200g/cm^(2)条件にて、室温、24時間放置し、目視にてブロッキング現象(AB性)を評価した。
【0096】
白ムラ
明室にて、上記組成物から得られた構造体を鋭角(ほぼ水平)方向から観察し目視にて膜の白濁性を評価した。
【0097】
硬度
JIS-K5400にもとづき評価した。(鉛筆硬度試験)
【0098】
耐スチールウール性
500gf/cm^(2)苛重下、スチールウール(#0000番)を10往復、摩擦することより傷がつくがどうか目視にて評価した。
・・・略・・・
【0126】
【表1】

【0127】
【表2】

【0128】
上記実施例と比較例から明らかなように、アンチブロッキング性の高い層状構造体が実施例1?8では得られている。本発明に記載の樹脂(第一成分)による相分離による凹凸形成手法は、実施例4と5を比較した場合、粒子存在下での凹凸形成(実施例5)をさせた方が凹凸形状の構造が制御されることで、より白濁感のないクリアーなアンチブロッキング構造体を得ることができる。」
カ 上記アないしオから、引用文献5には、次の事項(段落番号を併記した。)が記載されているものと認められる。
「【請求項1】【請求項8】少なくとも一種以上の樹脂からなる第一成分および少なくとも一種以上のモノマー若しくはオリゴマーからなる群から選択される第二成分を含有する硬化性樹脂組成物の塗布後に前記第1成分の樹脂が相分離により析出し、表面に微細な凹凸を形成するアンチブロッキング性硬化性樹脂組成物をフィルム状に硬化し、全光線透過率90%以上、ヘイズ2.0%以下とした、クリアー性能を有するアンチブロッキング性ハードコートフィルムであって、
具体的には、【0088】多官能不飽和二重結合含有モノマーであるペンタエリスリトールトリアクリレート99重量部とアクリル共重合体を1重量部と光開始剤である2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン7重量部を溶媒であるイソプロピルアルコールに混合して、不揮発成分率を40重量%となるように溶液を作製し、【0089】この溶液を、23℃で、PETフィルム基板にバーコーター(No.8)にてバーコート塗布し、膜厚が5μmとなるように80℃で1分乾燥して、溶媒を除去乾燥し、その後、この膜を超高圧水銀灯で紫外線を400mJ/cm^(2)のエネルギーとなるように露光して硬化させて得た、アンチブロッキング性ハードコートフィルム。」(以下「引用文献5の記載事項」という。)

(4)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「偏光膜」、「セルロースエステルフィルム」、「ハードコート層」、「偏光板」、「ハードコート層組成物1」、「ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ウレタンアクリレート(新中村化学工業社製 商品名U-4HA)」は、それぞれ、本願発明の「偏光膜」、「基材フィルム」、「ハードコート層」、「偏光板」、「樹脂組成物」及び「活性線硬化性樹脂」に相当する。
イ 引用発明の「反射防止フィルム」は、「セルロースエステルフィルム」(基材フィルム;引用発明の「」に続く()内の用語は、対応する本願発明の用語を表す。以下同様。)上に「ハードコート層」(ハードコート層)を形成したハードコートフィルム上に高屈折率層、低屈折率層の順に反射防止層を塗設して作製したものであるから、本願発明の「ハードコートフィルム」に相当する。
ウ 引用発明の「光学補償フィルム」は、偏光板保護フィルムとして用いられているから、本願発明の「保護フィルム」に相当する。
エ 引用発明は、工程3において、「偏光膜」(偏光膜)に付着した過剰の接着剤を軽く取り除き、それを工程1でアルカリ処理した「光学補償フィルム」(保護フィルム)と「反射防止フィルム」(ハードコートフィルム)で挟み込んで、積層配置したものである。そうすると、引用発明の「偏光板」と、本願発明の「偏光板」とは、「保護フィルム、偏光膜、及び基材フィルム上にハードコート層を有するハードコートフィルムがこの順序で積層された」という点で一致する。
オ 引用発明において、「ハードコート層組成物1」(樹脂組成物)は、「ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ウレタンアクリレート(新中村化学工業社製 商品名U-4HA)」(活性線硬化性樹脂)を含有し、「ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ウレタンアクリレート(新中村化学工業社製 商品名U-4HA)」(活性線硬化性樹脂)がバインダー成分であることは技術常識からみて明らかである。してみると、引用発明の「ハードコート層」と、本願発明の「ハードコート層」とは、「バインダー成分としての活性線硬化性樹脂を含有する樹脂組成物からなる」点で一致する。
カ 上記アないしオからみて、本願発明1と引用発明とは、
「保護フィルム、偏光膜、及び基材フィルム上にハードコート層を有するハードコートフィルムがこの順序で積層された偏光板であって、前記ハードコート層は、バインダー成分としての活性線硬化性樹脂を含有する樹脂組成物からなる偏光板。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
ハードコート層が、
本願発明1では、「500?200000個/mm^(2)の範囲内の個数の突起を有し」、「熱可塑性ポリエステル系樹脂、熱可塑性ポリエステルウレタン系樹脂、及びエチレン性不飽和二重結合を有さないアクリル系樹脂の中から選ばれる少なくとも一種の樹脂を含有し」、「前記活性線硬化性樹脂と、前記少なくとも一種の樹脂の含有比率が質量基準で60:2?100:10の範囲であり、該樹脂組成物において、前記少なくとも一種の樹脂と前記バインダー成分の活性線硬化性樹脂とが相分離した状態である」のに対して、
引用発明では、上記構成が明らかでない点。

相違点2:
本願発明1では、「ハードコートフィルムのヘーズ値が0.2?0.7%の範囲内であ」るのに対し、
引用発明では、ハードコートフィルムのヘーズ値が明らかでない点。

(5)判断
上記相違点1について検討する。
ア 引用文献2の記載事項(上記(2)エ)は「偏光板用保護フィルムに用いられ、ハードコート層を付与したセルロースエステルフィルムにおいて、セルロースエステルフィルム原反の保存性に優れ、異物の発生がなく、生産性にも優れたものとするために、フィルム表面の2nm以上の突起密度を1万?10万個/mm^(2)としたこと。」というものであるが、引用文献2には、ハードコート層自体が突起を有することについては明示されていない。
イ また、引用文献5の記載事項(上記(3)オ)は、要するに、第一成分を多官能不飽和二重結合含有モノマーであるペンタエリスリトールトリアクリレート99重量部とし、第二成分をアクリル共重合体1重量部とし、前記第一成分が相分離して析出し、表面に微細な凹凸を形成された、アンチブロッキング性ハードコートフィルムであるが、引用文献5の【0048】(上記(3)エ)には、第1成分と第2成分との比率が「0.1:99.9?50:50」(言い換えると「0.1:100?100:100」。以下同様。)が好ましく、「0.3:99.7?20:80」(「0.3:100?25:100」)がより好ましく、「0.5:99.5?10:90」(「5:100?11:100」)がさらに好ましいと記載されている。
ウ 引用文献1の【0062】(上記(1)ア)には、「こうして得た硬化樹脂層には耐傷性、滑り性や屈折率を調整するために無機化合物または有機化合物の微粒子を含んでもよい。」と記載されている。そうすると、引用発明においても、活性線硬化樹脂層からなるハードコート層の表面の滑り性をよくすることは当業者が適宜なし得たことであったかもしれない。しかしながら、引用文献1には、ハードコート組成物(例えば【0523】?【0532】(上記(1)イ)ハードコート組成物2?6参照。)に、活性線硬化性樹脂の他に熱可塑性ポリエステル系樹脂、熱可塑性ポリエステルウレタン系樹脂、及びエチレン性不飽和二重結合を有さないアクリル系樹脂の中から選ばれる少なくとも一種の樹脂(以下「熱可塑性ポリエステル系樹脂等」という。)を含有していることの記載はなく、該熱可塑性ポリエステル系樹脂等を含有させる必要性も見出せない。
エ してみると、引用文献5の記載事項に接した当業者であっても、引用発明において、ハードコート層に熱可塑性ポリエステル系樹脂等を含有させるという着想には到らない。仮に、引用発明において、ハードコート層に熱可塑性ポリエステル系樹脂等を含有させることが当業者にとって容易であったとしても、活性線硬化性樹脂と熱可塑性ポリエステル系樹脂等との含有比率を質量基準で60:2?100:10の範囲にし、熱可塑性ポリエステル樹脂等と活性線硬化性樹脂とが相分離した状態にしたことを前提に、フィルム表面の2nm以上の突起密度を1万?10万個/mm^(2)とすることは、引用文献2の記載事項及び引用文献5の記載事項を考慮しても、当業者が容易に想到し得たものではない。
オ 以上のとおり、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明1の構成となすことは、当業者が引用文献2の記載事項及び引用文献5の記載事項に基づいて容易になし得たものではない。なお、引用文献2の記載事項及び引用文献5の記載事項がそれぞれ周知技術であったとしても、引用発明に、各周知技術を適用する動機がないのであるから、上記相違点1に係る本願発明1の構成が当業者にとって容易でないという結論に変わりはない。
カ したがって、引用文献1には、上記相違点1に係る本願発明1の構成が開示されてなく、しかも、当該構成が引用文献2の記載事項及び引用文献5の記載事項から想到容易であるともいえないから、上記相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者が引用文献1に記載された発明、引用文献2の記載事項及び引用文献5の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。

コ 本願発明2ないし5について
本願発明1が、当業者が引用文献1に記載された発明、引用文献2の記載事項及び引用文献5の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものでもないのであるから、本願発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加した本願発明2ないし5も同様に、当業者が引用文献1に記載された発明、引用文献2の記載事項及び引用文献5の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるともいえない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
(1)当審拒絶理由1の概要
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項1は、「偏光板」という物の発明であるが、「前記ハードコート層は、前記熱可塑性ポリエステル系樹脂、熱可塑性ポリエステルウレタン系樹脂、及びエチレン性不飽和二重結合を有さないアクリル系樹脂の中から選ばれる少なくとも一種の樹脂と、バインダー成分として活性線硬化性樹脂と、溶媒とを少なくとも含有する樹脂組成物において、前記活性線硬化性樹脂と、前記少なくとも一種の樹脂の含有比率が質量基準で60:2?100:10の範囲であり、前記少なくとも一種の樹脂と前記バインダー成分の活性線硬化性樹脂を相分離させるとともに、前記活性線硬化性樹脂を硬化させることで得られたものである」との記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。
ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
しかしながら、本願明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるとも言えない。
したがって、請求項1に係る発明及び該請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2ないし5に係る発明は明確でない。

(2)当審拒絶理由2の概要
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。


1 請求項1には「前記ハードコート層は、前記熱可塑性ポリエステル系樹脂、熱可塑性ポリエステルウレタン系樹脂、及びエチレン性不飽和二重結合を有さないアクリル系樹脂の中から選ばれる少なくとも一種の樹脂と、バインダー成分として活性線硬化性樹脂と、溶媒とを少なくとも含有する樹脂組成物において、前記活性線硬化性樹脂と、前記少なくとも一種の樹脂の含有比率が質量基準で60:2?100:10の範囲である」と記載されているが、請求項1は「偏光板」という物の発明であり、「ハードコート層」は硬化した層であるところ、該「ハードコート層」が、揮発しているはずの「溶媒」を含む「樹脂組成物」を基に特定される記載は不明りょうである。

2 請求項1において、「一種の樹脂」と「活性線硬化性樹脂」とが「相分離の状態」であることが特定されていないが、「一種の樹脂」と「活性線硬化性樹脂」とからなるハードコート層を有するハードコートフィルムにおいて、前記状態が特定されていないハードコート層が500?200000個/mm^(2)の突起を有し、ヘーズ値が0.2?0.7%の範囲であることは発明の詳細な説明に記載されていない。

したがって、請求項1に係る発明及び該請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2ないし5に係る発明は明確でなく、また、発明の詳細な説明に記載したものでもない。

2 当審拒絶理由についての当審の判断
(1)当審拒絶理由1について
平成28年4月5日付け手続補正及び平成28年6月7日付け手続補正によって、請求項1にその物の製造方法が記載されているといえなくなり、当審拒絶理由1(上記1(1))は解消した。

(2)当審拒絶理由2について
ア 拒絶の理由「1」について
平成28年6月7日付け手続補正(以下単に「補正」という。)によって、補正前の請求項1に記載されていた「溶媒」が削除され、拒絶の理由「1」は解消した。
イ 拒絶の理由「2」について
補正により、請求項1において、「一種の樹脂」と「活性線硬化性樹脂」とが「相分離の状態」であることが特定され、拒絶の理由「2」は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-07-11 
出願番号 特願2009-195211(P2009-195211)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 河原 正
鉄 豊郎
発明の名称 偏光板及びそれを用いた液晶表示装置  
代理人 宇佐美 綾  
代理人 小谷 昌崇  
代理人 小谷 悦司  

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