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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C10K
管理番号 1316660
審判番号 不服2015-4337  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-04 
確定日 2016-07-08 
事件の表示 特願2009-174828「燃料ガス精製設備及び燃料ガス精製設備の運転方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 2月10日出願公開、特開2011- 26479〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成21年7月27日の出願であって、平成26年3月24日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年5月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月8日付けで拒絶査定され、これに対し、平成27年3月4日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成27年3月4日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
露点を上回る温度に原料ガスの温度を維持して運転する乾式法により、原料ガスから不純物を除去して高温型燃料電池用の燃料ガスとする燃料ガス精製設備において、
前記原料ガスの成分に応じて前記原料ガスに水蒸気を添加することで前記原料ガスの組成を調整する水蒸気添加手段を備えた
ことを特徴とする燃料ガス精製設備。」
なお、上記請求項1の記載は、平成27年3月4日付け手続補正(審判請求時の補正)において補正されておらず、平成26年5月2日付け手続補正後(原査定時)の記載と変わりはない。

第3 原査定の理由の概要

原査定の理由は、平成26年3月24日付け拒絶理由通知書に記載された理由2を含むものであるところ、要するに、上記した本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1、すなわち、特開2006-128006号公報(以下「引用刊行物」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものである。

第4 当審の判断

当審は、平成27年3月4日に提出された審判請求書の内容を勘案しても、上記した原査定の拒絶理由が依然として妥当すると判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 引用刊行物の記載

上記引用刊行物(特開2006-128006号公報)には、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審において付した。)。
・「【請求項1】
高温型の燃料電池と、該燃料電池が作動時に排出する排熱の供給を受け該排熱を利用してバイオマスを熱分解し炭化する炭化装置と、該炭化装置により生成される炭化チャーの燃焼およびガス化と炭化時に揮発したタールを含む熱分解ガスの改質とを行うガス化炉と、該ガス化炉で生成されたガス化ガスを水蒸気の露点温度よりも高い温度で精製するガス精製装置とを備え、さらに前記燃料電池は、前記ガス化炉で生成され前記ガス精製装置で精製されたガス化ガスをエネルギーとして作動するとともに当該作動時に排出する排熱を前記炭化装置に熱源として供給するものであることを特徴とするバイオマスの炭化ガス化高温型燃料電池発電システム。
【請求項2】
前記ガス精製装置は、乾式の精製装置であることを特徴とする請求項1に記載のバイオマスの炭化ガス化高温型燃料電池発電システム。」
・「【発明が解決しようとする課題】・・・
【0009】
また、バイオマス燃料をガス化して得られたガス化ガスを従来のガス精製プロセスで精製した場合には以下のような問題もある。すなわち、低温、湿式のガス精製プロセスを経て、その後、精製ガスを500℃以上の温度で動作する高温型燃料電池に導入する場合、ガス化ガス中の水蒸気不足により、導入された燃料ガス(ガス化ガス)が燃料電池の入口手前で固体炭素に転換して析出してしまい、その分だけ炭素分が無駄に消費されてしまっている。しかも、転換した固体炭素はガス配管等を閉塞させて燃料電池の運転障害を起こす可能性があることから、ひいてはこのような障害が起こることが懸念されている。これらの問題を防ぐ一つの手段としては、ボイラー等を使って別途新たな水蒸気を燃料電池に供給するというものがあるが、新たに蒸気生成することはシステム全体の効率低下につながることから、このような観点からすれば十分な解決方法たりえない。」
・「【0010】
なお、ここで炭素析出の概要について説明を加えておくと以下のとおりとなる(図10参照)。まず、炭素(カーボン)析出反応が与えられた運転条件で析出するか、しないかの判断基準の1つとして、化学式1と化学式2の反応が熱平衡にある場合を考える。
[化1]
ブドワール反応:2CO = C + CO_(2)
[化2]
シフト反応:CO + H_(2)O = H_(2) + CO_(2)
図10は、燃料ガスの組成を炭素C分、水素H分、酸素O分の比率で分配した三相図であり、図中における実線は、化学式1と化学式2の2つの反応が平衡に達している組成をプロットしたものである。実線より上側は、化学式1の反応が右側に進み、炭素析出が進む領域となる。逆に下側の領域は、化学式1の反応が左側に進み、炭素非析出領域となる。図10より、温度が低下するほど炭素析出範囲が広くなり析出が起こり易くなることが分かる。
【0011】
また、図10の三相図には、水蒸気成分を除いた天然ガス組成(CH_(4))、ガス化ガス組成も図示されている。いずれの組成も、水蒸気を除いたドライ組成では、炭素析出領域となるが、天然ガスを電池に導入する場合は、CH_(4)をH_(2)、COに改質するための水蒸気が天然ガスに添加されるために、水蒸気を含んだウェット組成で考えれば炭素非析出領域となる。これに対し、ガス化ガスを電池に導入する場合、常温近傍の低温下でガス精製を行うとすれば、ガス中の水蒸気は水として凝縮してしまうため、ほとんど水蒸気を含まないドライな組成となる。このドライな組成では、上述したように組成的には炭素析出領域となる。」
・「【課題を解決するための手段】・・・
【0019】
しかも、このバイオマスの炭化ガス化高温型燃料電池発電システムでは、水蒸気の露点温度よりも高い温度にてガス化ガスを精製することから、精製された後のガス化ガス(燃料ガス)中に水蒸気が残る。つまり、当該露点温度以下の温度にてガス精製を行うとガス中の水蒸気成分が減少・不足してしまい、これによって固体炭素析出やガス配管の閉塞などが生じるのは上述のとおりであるが、本発明の場合には、ガス化炉で生成されたガス化ガス中の水蒸気をガス精製の過程で損なうことなく燃料電池に導入することが可能となっている。」
・「【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0059】
図1?図4に本発明の一実施形態を示す。本発明にかかるバイオマスの炭化ガス化高温型燃料電池発電システム1は、木質系バイオマスのみならず都市ゴミ等の廃棄物系バイオマスをも燃料に含めた状態で熱分解し炭化することを可能とした炭化装置2と、該炭化装置2により生成される炭化チャーの燃焼・ガス化などを行うガス化炉3と、該ガス化炉3が生成したガスをエネルギーとして作動し発電するとともに当該作動時に排出する排熱を炭化装置2に送る燃料電池14とを備えたシステムとして構成されている(図1参照)。さらに、これに加えて、本実施形態のバイオマスの炭化ガス化高温型燃料電池発電システム1は、ガス化炉3で生成されたガス化ガスを水蒸気の露点温度よりも高い温度で精製するガス精製装置をも備えているものである(図1参照)。なお、図2中においては、各装置等に符号を付している他、各経路の途中にも小さな番号を付して経路順を表現している。この番号は図中の経路が複雑となるのを避けるために同一番号の経路は同一経路であることを示すものでもあり、例えば、図2中右上の熱交換器9の前後の経路(符号10および11)は、炭化機2の真下に示す熱交換器の前後の経路(符号10および11)と同一の経路である。
【0060】
本発明にかかるバイオマスの炭化ガス化高温型燃料電池発電システム1は、木質系等のバイオマスのみならず、都市ゴミ等のような汚い部類に入る廃棄物系バイオマスまでも幅広くその対象に含めること、および「ガス化」「ガス精製」「高温型燃料電池」に関する各種技術を統合して新規なシステムを開発すること、もって地方自治体等のニーズに応えること、等を実現するべく開発されたものである。以下に示す炭化ガス化高温型燃料電池発電システム1は、図1等に示すとおり、発電装置として高温型の燃料電池14を備えているシステムであり、尚かつ、バイオマス(上述したとおり、本明細書では木質系バイオマスのみならず都市ゴミのような廃棄物系バイオマスをも含む概念としてこの表現を用いている)を対象とする炭化ガス化発電システムであり、大きく分けて、「常圧、高温ガス化炉ユニット」(符号Aで示す)、「燃料ガス適正化ユニット」(符号Bで示す)、「高温型燃料電池ユニット」(符号Cで示す)の3つのユニットに分けて考えることができる。以下ではまず各ユニットA,B,Cの概要について説明し、その後、各部分について詳細に説明することとする。
【0061】
常圧、高温ガス化炉ユニットAは、炭化装置(以下、「炭化機」ともいう)2、ガス化炉3、熱交換器9,17等を備えたユニットである。炭化機2は、燃料電池14が作動時に排出する排ガスの排熱を利用してバイオマスの熱分解と炭化を行う装置であり、このように排ガスの顕熱を有効利用したシステムとすることによって例えば高含水のバイオマス(一例として、水分量50%以上のもの)をも対象に含めることを可能としている。
【0062】
燃料ガス適正化ユニットBは、ガス化ガスを精製して燃料ガスとして高温型燃料電池14に送るものであり、また、併せて、塩化水素、硫黄化合物、水銀、ダイオキシン類さらにはダスト(塵埃)といったガス化ガスに含まれる不純物を、少なくとも高温型燃料電池14の許容濃度レベル程度にまで除去することも行うユニットである(図1等参照)。ここで、ガス精製装置5におけるガス精製プロセスは、高温かつ乾式とすることが好ましい。すなわち、ガスを精製装置には乾式と湿式の両方があるが、SOFC(固体酸化物型燃料電池)やMCFC(溶融炭酸塩型燃料電池)といった高温で作動するいわゆる高温型の燃料電池が採用されている場合には、SOFCで900℃?1000℃、MCFCで600℃?700℃の作動温度となるために、生成ガスを600℃以下に冷却した後、乾式のガス精製装置を用いるのが顕熱の損失を防ぐという意味で有効となる。また、低温かつ湿式のガス精製プロセスを経ると、ガス化ガス中の水蒸気不足が生じて燃料ガスが燃料電池14の入口手前で固体炭素に転換するなどの問題が起こりうるが、このように高温かつ乾式とした場合には、ガス化炉3で生成したガス化ガス中の水蒸気を損なわずに燃料電池14へと導入することが可能となる。しかも、このように乾式の精製プロセスを経ることは、ガス中水蒸気の顕熱の損失を防ぐという観点からも好ましい。加えて、従来の低温ガス精製方式だとガス化ガス中の水蒸気成分が失われることによって潜熱の損失をも生じていたが、このような潜熱の損失も防ぐことも可能となるというように、熱の有効利用という観点から望ましい態様だといえる。
【0063】
高温型燃料電池ユニットCは、高温型燃料電池14の他、改質器12、燃焼器13等によって構成されているユニットである(図1参照)。本実施形態における燃料電池14は、常圧、高温ガス化炉ユニットAとの連係が強化された発電装置として設けられている。すなわち、この燃料電池14は、符号26で示す排ガス供給路によって炭化機2と接続されており、当該燃料電池14にて生じる高温の排ガスが図1に示すように直接的に、あるいは途中に設けられた熱交換器を通過してから炭化機2へと供給され、バイオマスの熱分解と炭化を行うために当該排ガスの顕熱が有効活用されるようになっている。高温型燃料電池14には、SOFC(固体酸化物型燃料電池)やMCFC(溶融炭酸塩型燃料電池)といったような高温で作動するものが適用される。
【0064】
続いて、バイオマスの炭化ガス化高温型燃料電池発電システム1の各部分について説明する(図2等参照)。
・・・
【0068】
ガス化炉3は上述の炭化機2により生成される炭化チャー(炭化物)の燃焼・ガス化と、この炭化機2において炭化時に揮発したタールを含む熱分解ガスの改質と、燃料中灰分の溶融・スラグ化とを行う炉で、例えば本実施形態ではこのバイオマスの炭化ガス化高温型燃料電池発電システム1内における唯一の炉として設置されている。
・・・
【0073】
冷却器4は、ガス化炉3にて生成されたガス化ガスを冷却するための装置である(図2参照)。例えば本実施形態の場合には、上述したように高温の状態(例えば1100℃程度)でガス化炉3から送り出されるガス化ガスを、流水との間で熱交換することによって例えば350℃程度にまで冷却することとしている。冷却されたガス化ガスは、後段の燃料ガス適正化ユニットBに送り出されて精製される(図1、図2参照)。
【0074】
ガス精製装置22は、ガス化炉3で生成されたガス化ガスを精製するための装置であり、例えば本実施形態の場合であれば、ハロゲン化物除去器5、ダストフィルター6、不純物フィルター7、精密精製装置10等によって構成されている(図2参照)。ここで、本実施形態においては、ガス精製装置22によってガス化ガスを精製する際、水蒸気の露点温度よりも高い温度で精製することとしている。すなわち、露点以下の温度でガス精製を行うと一部凝縮(液化)することによってガス中の水蒸気成分が不足することがあるが、本実施形態のごとく露点より高い温度で精製すれば、ガス精製の過程においてガス化ガス中の水蒸気を損なうことなく燃料電池14に投入して有効利用することが可能となる。こうした場合には、従来のように燃料電池14内で炭素が析出するのを効果的に抑制することができるようになるし、炭素析出が抑制されればガス配管の閉塞なども防ぐことにもつながる。加えて、凝縮した水蒸気の排水設備も不要となるために設備構成とそのための投資が少なくて済むというさらなる効果も得られる。以上のことからすれば、別の表現をするとここでいう精製時の温度とは水蒸気成分を損なわないようにして炭素析出を抑制するに足る温度ということになり、具体的な数値を挙げれば少なくとも100℃以上、好ましくは120℃以上の温度ということができる。
【0075】
さらに加えると、ガス精製時の手法としては乾式と湿式とを選択しうるが、本実施形態のごとき構成のバイオマスの炭化ガス化高温型燃料電池発電システム1においては乾式のガス精製を行うことが望ましい。すなわち、上述したように本実施形態では発電装置として高温型の燃料電池14を採用していることから、当該燃料電池14に供給するガス温度を大きく下げる必要がない。したがって、乾式のガス精製を行い、燃料ガスを高温に維持したまま燃料電池14に供給することとすれば、顕熱の損失を防ぐことができるという意味で有効である。要するに、従来の低温ガス精製方式だと高温なガス化ガスの顕熱が精製中に失われるのみならず、ガス化ガス中の水蒸気成分が失われることによって潜熱の損失をも生じていたのに対し、本実施形態においては上記のごとくガス化ガスを高温に維持したまま供給することが可能であるために、精製プロセス中での熱および物質損失を極力抑え、システム効率の低下を免れることができるという従来にはなかった効果を奏することができる。
【0076】
続いて、ガス精製装置22を構成している各装置について順次説明する。例えば本実施形態では、塩化水素、ダスト(塵埃)、硫黄化合物、水銀、ダイオキシン類といったようなガス化ガス中の不純物を除去するために、上述したハロゲン化物除去器5、ダストフィルター6、不純物フィルター7、精密精製装置10等によってガス精製装置22を構成している。ちなみに、湿式のガス精製方式を用いた場合であればガス化ガス中の不純物成分を除去した後の薬液を廃液として処理する必要が生じるなどの不便があるが、本実施形態ではいずれの装置も乾式でガス精製を行うものとし、これにより、廃液処理に要する設備構成が複雑化したり、ガス精製システムの効率が低下したりするのを回避することとしている。加えて、不純物分離のためにガス精製装置22中で用いられるフィルターについては、いずれも、高温雰囲気下で使用可能なものを用いることとし、高温下での乾式精製過程において精製が十分な程度に実施されるようにしている。
【0077】
ガス精製装置22を構成する各装置のうち、ハロゲン化物除去器5はガス化ガス中のハロゲン化物を除去するための装置として設置されているものである(図2参照)。このハロゲン化物除去器5には、ハロゲン化物(例えばHCl)を吸収するための不純物吸収剤として、ハロゲン化物吸収剤が供給される(図2参照)。
【0078】
ダストフィルター6は、ガス化ガス中のダスト(塵埃)を除去するためのフィルターである。上述したように、本実施形態では精製プロセス中の温度を露点温度より高くすることとしているため、このダストフィルター6におけるガス温度も少なくとも100℃、好ましくは120℃である。ただし、温度の上限に際限がないわけではなく、材質などに応じてガス温度は適宜を一定値以下に制限されることはいうまでもない。一例として、ダストフィルター6がテフロン(デュポン社登録商標、ポリテトラフルオロエチレン)製である場合のガス温度は180℃以下ということになる。
【0079】
不純物フィルター7は、内蔵している活性炭を利用してガス化ガス中の不要成分を除去するための装置である。この不純物フィルター7が除去の対象とする成分は、例えばダイオキシン類、Hg(水銀)、H2S(硫黄化合物)といったものである(図2参照)。不純物フィルター7を通過したガス化ガスは、精製ガスブロワー8によって例えば1.5気圧程度の加圧状態とされてさらに前段の熱交換器9へと送り出される(図2参照)。この熱交換器9は、図示しているように、燃料電池14から排出されて炭化機2を通過した後の排ガスと、不純物フィルター7を通過した後のガス化ガスとの間で熱交換を行うためのものである。不純物フィルター7を通過したガス化ガスはこの熱交換器9にて例えば300℃程度にまで加熱され、その後に精密精製装置10へと送り込まれる。
【0080】
精密精製装置10はガス化ガス中の不要成分(不純物)をさらに除去するための装置である。この精密精製装置10(あるいはこれを含むガス精製装置22)を構成するにあたっては、燃料電池14に悪影響を及ぼす不純物を特定し、ガス化ガス中における不純物の濃度が少なくとも燃料電池14の許容レベルとなるまで当該不純物を除去できるような構成とすべきことはいうまでもない。一例を示すと、ガス化ガス中の不純物として例えばHCl、HF、COS、H_(2)Sなどが含まれている場合、精密精製装置10は、例えばハロゲン化物精密除去器10a、COS変換器10b、脱硫器10cなどといった複数の装置から構成することができる(図3参照)。このような精密精製装置10で精製されたガス化ガスは、その後段の熱交換器11にて加熱される。この熱交換器11は、燃料電池14から排出される高温(例えば660℃程度)の排ガスと上記ガス化ガスとの間で熱交換を行うもので、ガス化ガスは加熱されて例えば600℃程度にまで加熱され、改質器12へと投入される(図2参照)。
【0081】
改質器12は、燃料電池14に供給されるガス(燃料ガス)に対し必要な改質処理を行うための装置である(図2参照)。ただし、本実施形態のようにガス化ガスを精製して燃料ガスとしている結果、必要なH_(2)やCO_(2)が既にガス化ガス中に含まれている場合であればこの段階で改質を実施する必要はなく、したがって本実施形態の改質器12は改質器として機能しない場合がある。しかし、バイオマスの炭化ガス化高温型燃料電池発電システム1としては、精製後のガス化ガスだけが燃料ガスとして供給されるばかりでなく、これに加えて天然ガスを補充的に供給するという構成が採られることもある。そこで本実施形態では、いずれにせよ燃料電池14の前段にこのような改質器12を設置しておき、バイオマスの炭化ガス化高温型燃料電池発電システム1がどのような構成となった場合にも柔軟に対応できるようにしている(図2参照)。現状の一般的な燃料電池システムは特定の燃料(天然ガス、バイオマスガス化ガス等)だけを想定した構成となっており、1つのシステムで多様な燃料に対応可能な構成とはなっていないが、本実施形態においては上述したようにバイオマスガス化ガスと天然ガスの両方に対応可能でありいずれの場合にも作動できるようになっている。
【0082】
さらに、本実施形態ではこの改質器12に対し必要な蒸気を供給できる手段を併設している(図2参照)。すなわち、上述したように少なくとも水蒸気の露点温度より高い温度でガス精製を行うようにした本実施形態では、ガス中の水蒸気をできるだけ損なわずに燃料電池14へと送り込むことが可能となっているが、仮にこのガス中の水蒸気が不足した場合であっても蒸気を別途供給可能として対処できるようにしている。この場合の蒸気供給手段はその構成が特に限定されるわけではないが、例えば本実施形態のように廃熱回収ボイラー16からガス化炉3への蒸気供給路を途中で分岐させて改質器12にも必要な蒸気を供給可能な構成とすれば効率的かつ小型なものとすることが可能となる(図2参照)。」
・「【0103】
【図1】本発明にかかるバイオマスの炭化ガス化高温型燃料電池発電システムの構成の概略を3つのユニットに分けて示した図である。
【図2】本実施形態におけるバイオマスの炭化ガス化高温型燃料電池発電システムの構成を示した図である。
・・・
【図10】炭素析出の概要を説明するための図で、燃料ガスの組成を炭素C分、水素H分、酸素O分の比率で分配した三相図である。
【図1】

【図2】

【図10】



2 引用発明

(1) 引用刊行物の【図2】には、ガス化炉3で生成されたガス化ガスを、冷却器4、ハロゲン化物除去器5、ダストフィルター6、不純物フィルター7、精製ガスブロワー8、熱交換器9、精密精製装置10、熱交換器11、改質器12を経て、燃料ガスとして高温燃料電池14に供給するようにしたバイオマスの炭化ガス化高温型燃料電池発電システム1が記載されている(当該【図2】を解説した、【0064】?【0082】参照)。
(2) ここで、当該システムの中の「改質器12」に着目すると、引用刊行物の段落【0081】には、「改質器12は、燃料電池14に供給されるガス(燃料ガス)に対し必要な改質処理を行うための装置である(図2参照)。ただし、本実施形態のようにガス化ガスを精製して燃料ガスとしている結果、必要なH_(2)やCO_(2)が既にガス化ガス中に含まれている場合であればこの段階で改質を実施する必要はなく、したがって本実施形態の改質器12は改質器として機能しない場合がある。しかし、バイオマスの炭化ガス化高温型燃料電池発電システム1としては、精製後のガス化ガスだけが燃料ガスとして供給されるばかりでなく、これに加えて天然ガスを補充的に供給するという構成が採られることもある。そこで本実施形態では、いずれにせよ燃料電池14の前段にこのような改質器12を設置しておき、バイオマスの炭化ガス化高温型燃料電池発電システム1がどのような構成となった場合にも柔軟に対応できるようにしている(図2参照)。」と記載されていることから、燃料電池14に供給されるガス(燃料ガス)のH_(2)量が必要量に達していないときや天然ガスを補充的に供給するときには、当該改質器12において、当該ガスは改質され、所望の燃料ガスとなるように最終的な調整が行われるものと解される。そして、改質器12は、同段落【0010】、【0011】、【図10】の記載を参酌すると、水蒸気を添加することにより、H_(2)が生成される(必要量のH_(2)を確保する)ものであると推認される。
また、同段落【0082】には、「さらに、本実施形態ではこの改質器12に対し必要な蒸気を供給できる手段を併設している(図2参照)。すなわち、上述したように少なくとも水蒸気の露点温度より高い温度でガス精製を行うようにした本実施形態では、ガス中の水蒸気をできるだけ損なわずに燃料電池14へと送り込むことが可能となっているが、仮にこのガス中の水蒸気が不足した場合であっても蒸気を別途供給可能として対処できるようにしている。この場合の蒸気供給手段はその構成が特に限定されるわけではないが、例えば本実施形態のように廃熱回収ボイラー16からガス化炉3への蒸気供給路を途中で分岐させて改質器12にも必要な蒸気を供給可能な構成とすれば効率的かつ小型なものとすることが可能となる(図2参照)。」と記載されていることから、ガス化ガス中の水蒸気が不足している場合には、廃熱回収ボイラー16からガス化炉3への蒸気供給路を途中で分岐させるなどして、必要な水蒸気を改質器12に供給可能な構成となっていることが理解できる。
このように「改質器12」は、水蒸気を添加して、必要量のH_(2)及び水蒸気を確保するために設置されたものであるということができる。
(3) さらに、引用刊行物の記載によれば、上記システムの中で、「ハロゲン化物除去器5」、「ダストフィルター6」、「不純物フィルター7」、「精密精製装置10」は、ガス化ガス中の各種不純物を除去するためのものであり(【0076】など)、これらの装置においては、水蒸気の露点温度よりも高い温度、かつ、乾式の条件下でガス精製が行われており、これにより、顕熱の損失防止、および、水蒸気の損失防止(水蒸気の不足により生じる燃料電池入口手前・燃料電池内での炭素析出の防止)がなされている(【請求項1】、【請求項2】、【0009】、【0019】、【0062】、【0074】、【0075】、【0082】などを参照)。
(4) そうすると、上記「改質器12」を含めた、「ガス化炉3」と「高温燃料電池14」の間に配置された種々の装置は、ガス化炉3で生成されたガス化ガスに対して、不純物の除去(析出防止)やH_(2)量・水蒸気量の調整を行うなどして、高温燃料電池14用の燃料ガスとして精良なものとなるよう手を加えるためのものということができ、これらの装置は、まさにガスを「精製」(粗製品に手を加えて精良な品物にすること。純度の高いものにすること。)するためのものであって、「ガス精製設備」と称されるべきものであるということができる。加えて、上記改質器12に投入されるガス化ガスの温度は600℃程度であることに照らすと(【0080】参照)、当該改質器12においても、上記した「水蒸気の露点温度よりも高い温度、かつ、乾式」の条件が維持されていると解されることから、当該改質器12を含めた上記「ガス精製設備」では、当該条件にて一連のガス精製が行われていると解するのが相当である。
(5) 以上を整理すると、引用刊行物には、次の発明(引用発明)が記載されているといえる。
「ガス化炉3で生成されたガス化ガスを、燃料ガスとして高温燃料電池14に供給するためのガス精製設備であって、
上記ガス化炉3と上記高温燃料電池14の間に配置された、ハロゲン化物除去器5、ダストフィルター6、不純物フィルター7、精密精製装置10、改質器12等の装置から構成され、
上記ガス化ガス中のH_(2)量・水蒸気量が不足した場合には、廃熱回収ボイラー16からの水蒸気を上記改質器12に供給可能に構成され、
上記ガス精製設備での一連のガス精製は、水蒸気の露点温度よりも高い温度、かつ、乾式の条件下にて行うもの。」

3 対比

本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「ガス化炉3で生成されたガス化ガス」は、本願発明における「原料ガス」に相当するものである。そして、引用発明に係るガス精製設備は、これを構成する「ハロゲン化物除去器5、ダストフィルター6、不純物フィルター7、精密精製装置10、改質器12等の装置」によって、当該ガス化ガス(原料ガス)中の各種不純物を除去し、これを所望の燃料ガスとして、高温燃料電池(本願発明における「高温型燃料電池」と同意)に供給するものであるところ、そこでのガス精製条件は、「水蒸気の露点温度よりも高い温度、かつ、乾式」であることから、引用発明に係るガス精製設備は、本願発明における「露点を上回る温度に原料ガスの温度を維持して運転する乾式法により、原料ガスから不純物を除去して高温型燃料電池用の燃料ガスとする燃料ガス精製設備」に相当するものといえる。
また、引用発明に係るガス精製設備は、「ガス化ガス中のH_(2)量・水蒸気量が不足した場合には、廃熱回収ボイラー16からの水蒸気を上記改質器12に供給可能に構成され」るものであるところ、この構成は、ガス化ガス(原料ガス)の成分であるH_(2)量・水蒸気量に応じて、当該ガス化ガス(原料ガス)に水蒸気を添加して、その成分組成を調整するものにほかならず、本願発明における「前記原料ガスの成分に応じて前記原料ガスに水蒸気を添加することで前記原料ガスの組成を調整する水蒸気添加手段」に相当する構成であるということができる。
そうすると、両者はともに、「露点を上回る温度に原料ガスの温度を維持して運転する乾式法により、原料ガスから不純物を除去して高温型燃料電池用の燃料ガスとする燃料ガス精製設備」である上、「前記原料ガスの成分に応じて前記原料ガスに水蒸気を添加することで前記原料ガスの組成を調整する水蒸気添加手段」を備えたものである点でも共通するのであるから、引用発明は、本願発明の構成要件をすべて充足するといえ、これらの間に相違点は見当たらない。
したがって、本願発明は、引用刊行物に記載された発明(引用発明)であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

4 審判請求人の主張について

審判請求人は審判請求書において、上記引用刊行物記載の改質器12は、図1の燃料電池ユニットCに属する、いわゆる燃料電池の内部改質器に相当するものであるから、引用刊行物記載の技術は、当該燃料電池ユニットCにおいて水蒸気を添加するものであり、一方、燃料ガス適正化ユニットB(ガス精製設備)では、露点温度以上で運転を行うことにより、水蒸気を添加する必要がないようにすることを特徴とするものであって、むしろ本願発明のようなガス精製設備への水蒸気の積極的な添加を否定する技術である旨主張する。
確かに、引用刊行物の段落【0062】、【0063】及び【図1】に記載のとおり、上記「改質器12」は、「燃料電池ユニットC」に属するものとされ、「燃料ガス適正化ユニットB」に属する「ガス精製装置22」とは異なるユニットのものとして位置づけられている。
しかしながら、上記「改質器12」がガス精製設備を構成するものであるか否かは、一般にガス精製設備と呼称されているものの範疇と当該改質器の本来的な役割を踏まえて判断すべきであって、引用刊行物において、当該改質器が「燃料ガス適正化ユニットB」(ガス精製装置22)に属するものとして位置づけられているか否かといった、単なる引用刊行物上での取り決めというべき事項に依拠して判断すべきではない。また、実際、本願発明に係るガス精製設備も一般的な意味でのガス精製設備であると解され、特別に定義づけられたものであると認めるに足りる根拠は見当たらない。そうである以上、上記2(3)において説示したとおり、上記「改質器12」は、その本来的な役割からみて、一般にいわれるガス精製設備の構成要素と捉えて解するのが合理的であって、当該改質器が「燃料ガス適正化ユニットB」に属するものであるか否かといった形式上の区分けは、当該合理的解釈を左右するものではないというべきである。
したがって、審判請求人の主張を採用することはできない。

第5 むすび

以上検討のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用刊行物に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、特許を受けることができないものである。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-10 
結審通知日 2016-05-11 
審決日 2016-05-25 
出願番号 特願2009-174828(P2009-174828)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C10K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安積 高靖福山 則明平塚 政宏  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 岩田 行剛
日比野 隆治
発明の名称 燃料ガス精製設備及び燃料ガス精製設備の運転方法  
代理人 栗原 浩之  

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