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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23D |
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管理番号 | 1316674 |
審判番号 | 不服2014-6007 |
総通号数 | 200 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-04-02 |
確定日 | 2016-07-06 |
事件の表示 | 特願2009-544917「さらなる長鎖脂肪酸を取り込む食品組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月17日国際公開、WO2008/085840、平成22年 5月 6日国内公表、特表2010-514458〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2008年1月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2007年1月3日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成25年11月28日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成26年4月2日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされ、その後、当審において平成27年6月30日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月7日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1?7に係る発明は、平成28年1月7日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「ステアリドン酸を含む食品であって、ステアリドン酸を含むダイズ油中の脂肪酸の総重量に基づいて少なくとも10重量%のステアリドン酸、少なくとも400ppmのトコフェロールおよび最大で35重量%のリノール酸からなるダイズ油を含み、該食品がさらに3重量%未満のα-リノレン酸を有するダイズ油を含み、ここに食品がダイズ粗挽き粉、ダイズ粉、脱脂ダイズ粉、豆乳、噴霧乾燥豆乳、ダイズタンパク質濃縮物、特定のきめを出したダイズタンパク質濃縮物、加水分解ダイズタンパク質、ダイズタンパク質単離物および噴霧乾燥豆腐よりなる群から選択される、食品。」 第3 引用文献 以下、下線は当審にて付与したものであり、「・・・」は記載の省略を意味する。 1 当審の拒絶の理由に引用された国際公開第2006/052662号(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(なお、対応する「特表2008-519129号公報」による翻訳文を示す。) (1a)「【0004】 ・・・大量のEPAおよびDHAを含有する魚油は不快な味および臭いを有し、それゆえ、食品材料やサプリメントとして望ましくない。・・・ 【0005】 PUFAは、栄養、医薬、工業その他の目的に対して有用であると考えられている。したがって、遺伝子組換え種子から高レベルのPUFAを有する油を抽出することに関心が持たれ;これらの種子は、天然産のものと比較して高濃度のSDAを含有するように改良されている。」(原文の[0004]?[0005]) (1b)「【0026】 I.油組成物 A.酸化安定性 本発明の種々の油組成物は、種々の非動物起源から抽出された油である。有利なことに、本発明の組成物は既知の油組成物よりも優れた安定性を有する。 【0027】 一般に、油の安定性はそれらの使用を決定するために重要である。例えば、高濃度のオメガ-3脂肪酸を有する油は、良い健康的利点を与え、有利なことに、食品成分として用い得ることが知られている。・・・したがって、本発明の態様は、食品成分および/または潜在的な健康的利益のある製品として使用するのに有利な味覚および臭覚特徴を有するオメガ-3脂肪酸の起源を提供する。」(原文の[0026]?[0027]) (1c)「【0039】 B.4以上の二重結合を有する脂肪酸を含む油組成物 ・・・ 【0046】 もうひとつの具体例において、加工中または加工後の全種子または油組成物は、組成物中の脂肪酸の全重量に対して約18、19、20、21、22、23、24、25、30、35または40重量%までのリノール酸 (LA; C18:2n6)含有量および組成物中の脂肪酸の全重量に対して少なくとも約0.4、5、10、15、20、25、30、35、40または45重量%のSDA含有量を有する。4以上の炭素-炭素二重結合を有する別のポリ不飽和脂肪酸またはその誘導体は、これらの組成物中のSDAまたはこの節に記載するいずれかの他のSDA組成物の代用とし得ることに留意すべきである。 ・・・ 【0049】 ・・・なお、節I.Bに記載される油組成物は、遺伝子組換えしたアラビドプシス (Arabidopsis)、カノーラ、ニンジン、ココナッツ、コーン (corn)、綿、亜麻(flax)、亜麻仁 (linseed)、トウモロコシ (maize)、パーム核 (palm kernel)、ピーナッツ、ジャガイモ、ナタネ (rapeseed)、サフラワー、ダイズ、ヒマワリ、および/またはタバコから誘導できる。最後に、上記油の組成物はブレンドしない油であり得る。」(原文の[0039]?[0049]) (1d)「【0070】 さらに、本発明の油組成物は、特性の著しい時間変化がない。例えば、組成物中の脂肪酸の全重量に対して少なくとも約0.4、1、2、4、6、8、10、12、14、15、16、17、18、19、20重量%以上の、4以上の炭素-炭素二重結合を有する少なくともひとつのポリ不飽和脂肪酸またはその誘導体を含む油組成物であり、前記組成物は、芳香トータルインパクトスコア差において、開始時に評価した油および約1、2、またはそれ以上の月数まで貯蔵した同一の油と比較したとき、約0.5または1.0未満の差を有する。 【0071】 もうひとつの態様は、組成物中の脂肪酸またはそれらの誘導体の全重量に対して少なくとも約0.4、1、2、4、6、8、10、12、14、15、16、17、18、19、20重量%以上の、4以上の炭素-炭素二重結合を有する少なくともひとつのポリ不飽和脂肪酸またはその誘導体を含む油組成物であり、前記組成物は、芳香/風味トータルインパクトスコア差において、開始時に評価した油および約1、2、またはそれ以上の月数まで貯蔵した同一の油と比較したとき、約0.5または1.0未満の差を有する。」(原文の[0070]?[0071]) (1e)「【0118】 実施例5 芳香実験(官能試験1)の目的は、SDA富化ダイズ油の芳香を特徴付けることにあった。リファレンスの枠組みとして、加工対照ダイズ油(無添加種子油)、ならびにいくつかの市販のダイズ油および、魚油および海藻油を含有するオメガ-3の芳香も試験した。 【0119】 芳香/味/口触り試験(官能試験2)の目的は、SDA富化ダイズ油の芳香、味および口触りを特徴付けることにあった。リファレンスの枠組みとして、加工対照ダイズ油(無添加種子油)、ならびにいくつかの市販のダイズ油および、魚油および海藻油を含有するオメガ-3の芳香、味および口触りも試験した。 【0120】 以下の試験油、対照油および比較油は、スペクトラムR (SpectrumR)標準化官能評価を用いて評価した。 試験油1は15%SDA-富化RBDダイズ油 (LGNBP739406615BJ9);試験油2は15%SDA-富化RBDダイズ油 (LLNBP739406915CK1);試験油3は20%SDA-富化RBDダイズ油 (LMNBP739406920AQ6);試験油4は20%SDA-富化RBDダイズ油 (LHNBP739406920BJ7);試験油5は20%SDA-富化RBDダイズ油 (LEGLP050115725SN5);試験油6は20%SDA-富化RBDダイズ油 (LTAGT050115759SN3);試験油7は等価対照RBDダイズ油 (LMAGT050115757SU0);試験油8は15%SDA-富化RBDダイズ油(LC739406615BX1);試験油9は21%SDA-富化RBDダイズ油 (LZAGT050115759SJ9);試験油10はクエン酸入り17%SDA-富化RBDダイズ油 (LHAGT050716475SO3);試験油11はクエン酸入り17%SDA-富化RBDダイズ油 (LLAGT050716477SY1);および試験油12はクエン酸入り17%SDA-富化RBDダイズ油 (LEAGT050716481SU5)である。対照油1はプールした無添加物からのRBDダイズ油 (LGAGT050115757SU9);対照油2はプールしたクエン酸入り無添加物からのRBDダイズ油 (LNAGT050716474SW4);および対照油3はプールしたクエン酸入り無添加物からのRBDダイズ油 (LMAGT050816495SL7)である。」(原文の[00114]?[00116]) (1f)「【0137】 実施例6:マヨネーズ調製 ダイズ油(3720g)およびオメガ-3植物性油(1800g)をブレンドして、以下の油組成物を得た」(原文の[00126]) (1g)「【特許請求の範囲】 ・・・ 【請求項4】 組成物中の脂肪酸またはそれらの誘導体の全重量に対して少なくとも約0.4重量%の、4以上の炭素-炭素二重結合を有する少なくともひとつのポリ不飽和脂肪酸またはその誘導体、および少なくとも約400ppmのトコフェロールを含む油組成物。 【請求項5】 組成物中の脂肪酸またはそれらの誘導体の全重量に対して少なくとも約0.4重量%の、4以上の炭素-炭素二重結合を有する少なくともひとつのポリ不飽和脂肪酸またはその誘導体および1重量%未満のトランス-脂肪酸を含む油組成。 【請求項6】 組成物中の脂肪酸またはそれらの誘導体の全重量に対して少なくとも0.4重量%の、4以上の炭素-炭素二重結合を有する少なくともひとつのポリ不飽和脂肪酸またはその誘導体を含み、アラビドプシス、カノーラ、ニンジン、ココナッツ、コーン、綿、亜麻、亜麻仁、トウモロコシ、パーム核、ピーナッツ、ジャガイモ、ナタネ、サフラワー、ダイズ、ヒマワリ、タバコ、およびそれらの混合物よりなる群から選択される遺伝子組換え種子から誘導される油組成物。 【請求項7】 組成物中の脂肪酸またはそれらの誘導体の全重量に対して約3重量%から約30重量%のステアリドン酸またはその誘導体を含み、約3未満のアニシジン値を有し、かつ、約1meq/kg未満のパーオキシド値を有する油組成物。 ・・・ 【請求項14】 約5,000ppmまでのトコフェロールを含む請求項7?13いずれかに記載の組成物。 ・・・ 【請求項28】 請求項1?27いずれかに記載の油を含む、食用組成物。 ・・・ 【請求項34】 マヨネーズ、サラダドレッシング、豆乳、フィルドミルク、ヨーグルト、加工肉、または冷凍練り物である、請求項28に記載の食用組成物。」(原文の54?58頁 CLAIMS4?34) 上記摘示(1c)に、SDA(ステアリドン酸)を含有する油組成物が、遺伝子組換えしたダイズから誘導できることが示され、上記摘示(1g)の【請求項7】及び【請求項14】に、ステアリドン酸及びトコフェロールを含む油組成物が示されていることを踏まえ、上記摘示(1g)の【請求項4】、【請求項6】、【請求項7】の、下線を付した事項に着目すると、引用文献1には、次の油組成物が記載されているといえる。 「油組成物中の脂肪酸またはそれらの誘導体の全重量に対して少なくとも約3重量%から約30重量%のステアリドン酸を含み、少なくとも約400ppmのトコフェロールを含み、ダイズの遺伝子組換え種子から誘導される油組成物。」 そして、上記摘示(1g)の【請求項28】の「請求項1?27いずれかに記載の油を含む、食用組成物。」との記載、及び、同【請求項34】の「豆乳・・・である、請求項28に記載の食用組成物。」との記載を踏まえると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「油組成物中の脂肪酸またはそれらの誘導体の全重量に対して少なくとも約3重量%から約30重量%のステアリドン酸を含み、少なくとも約400ppmのトコフェロールを含み、ダイズの遺伝子組換え種子から誘導される油組成物を含む豆乳。」 2 当審の拒絶の理由に引用された国際公開第2006/052974号(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている(なお、対応する「特表2008-519133号公報」による翻訳文を示す。)。 (2a)「【0005】 一般に、ダイズから抽出された油は、5%?10%のα-リノレン酸 (ALA)含有量を有する。酸化安定性、および風味安定性に影響するいくつかの因子がある。油中のALA量はそれらの因子のうちのひとつである。より少ない二重結合を有する他の脂肪酸よりも速く酸化することが知られているからである。さらに、ALAは、食品中の望ましくない臭い、および風味の発生に対する前駆体である。かくして、低ALA含有量および、食品操作における使用に対する風味、および性能属性において向上した安定性を有する油が求められている。本発明の油はこの要望に合致する。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明のひとつの具体例は、リノール酸またはその誘導体、および組成物中の脂肪酸またはそれらの誘導体の全重量に対して約3重量%未満のα-リノレン酸またはその誘導体を含み、2.0未満のアニシジン値を有し、かつ、非海藻油から誘導される、非硬化植物性油組成物に向けられる。 【0007】 本発明のさらなる具体例は、リノール酸またはその誘導体、および組成物中の脂肪酸またはそれらの誘導体の全重量に対して約3重量%未満のα-リノレン酸またはその誘導体を含み、2.0未満のアニシジン値;安定化剤が添加されていないとき、0.3meq/kg未満のパーオキシド値;1重量%未満のトランス-脂肪酸;または約80重量%を超えないオレイン酸またはその誘導体、および少なくとも800ppmのトコフェロールのいずれかを有するダイズ油組成物に向けられる。」(原文の[0005]?[0007]) (2b)「【0022】 本発明の油は、味および臭いの点で向上した安定性ならびに低レベルのトランス-脂肪酸を有する。」(原文の[0022]) (2c)「【0075】 もうひとつの具体例において、上記油組成物のいずれもブレンド油組成物であり得る。 前記油組成物は、全種子のブレンド、種子肉、フレーク、微粉 (fines)、混合物、粗製油、精製油、精製漂白油または精製漂白脱臭油のブレンドから得られる。低ALA油組成物と高SDA油組成物、高ステアリン酸油組成物、コーン油組成物、部分硬化油組成物、小麦胚芽 (wheat germ) 油組成物、およびカノーラ (canola) 油組成物とのブレンドまたはエステル交換は、例えば、特に、食品に使用するため、または、フライのための油組成物の安定性、品質および機能を促進する。本発明の油組成物は、本発明の方法で製造された海洋性油および本発明の方法で製造された植物性油;本発明の方法で製造された海洋性油および植物性油;本発明の方法で製造された4以上の炭素-炭素二重結合を有する少なくともひとつのポリ不飽和脂肪酸またはその誘導体を含有する油および本発明の方法で製造された植物性油;本発明の方法で製造された4以上の炭素-炭素二重結合を有する少なくともひとつのポリ不飽和脂肪酸またはその誘導体を含有する油および植物性油;または本発明の方法で製造された4以上の炭素-炭素二重結合を有する少なくともひとつのポリ不飽和脂肪酸またはその誘導体を含有する油および本発明の方法で製造された植物性油のブレンドであり得る。」(原文の[0075]) (2d)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 リノール酸またはその誘導体、および組成物中の脂肪酸またはそれらの誘導体の全重量に対して約3重量%未満のα-リノレン酸またはその誘導体を含み、2.0未満のアニシジン値を有し、かつ、非海藻油から誘導される、非硬化植物性油組成物。 【請求項2】 アーモンド、アボカド、ババシュ、ボラジ、ブラックカラント種子、カノーラ、トウゴマ、ココナッツ、コーン、綿実、エキウム、イブニングプリムローズ、亜麻種子、グズベリー、ブドウ種子、グラウンドナッツ、ヘーゼルナッツ、亜麻仁、マスタード、オリーブ、パーム、パーム核、ピーナッツ、ペリーラ、松の実、ケシの実、カボチャの種、ナタネ、レッドカラント、米ぬか、サフラワー、ゴマの実、ダイズ、ヒマワリ、茶、クルミ、または小麦胚芽の油から誘導される、請求項1に記載の油組成物。 ・・・ 【請求項8】 リノール酸またはその誘導体、組成物中の脂肪酸またはそれらの誘導体の全重量に対して、1重量%未満のトランス-脂肪酸、および約3重量%未満のα-リノレン酸またはその誘導体を含む、ダイズ油組成物。 【請求項9】 組成物中の脂肪酸またはそれらの誘導体の全重量に対して、56.0重量%未満のリノール酸またはその誘導体、および約3重量%未満のα-リノレン酸またはその誘導体を含む、ダイズ油組成物。 【請求項10】 リノール酸またはその誘導体、組成物中の脂肪酸またはそれらの誘導体の全重量に対して、約80重量%を超えないオレイン酸またはその誘導体、および約3重量%未満のα-リノレン酸またはその誘導体、および少なくとも800ppmのトコフェロールを含む、ダイズ油組成物。 ・・・ 【請求項54】 請求項1から53いずれかに記載の油を含む、食用組成物。 ・・・ 【請求項63】 マヨネーズ、サラダドレッシング、豆乳、フィルドミルク、ヨーグルト、加工肉、または冷凍練り物である、請求項54、58または60に記載の食用組成物。」(原文の35?42頁 CLAIM1?63) 3 当審の拒絶の理由に引用された「inform,2004年11月,Vol.15,No.11,752頁」(以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている(なお、当審による翻訳文を示す。)。 (3a)「より健康な食品に対する高まる要求を受けて、モンサントは最近低リノレン酸ダイズの商品化を発表した。このダイズは、Vistive^(TM)ブランド、すなわち、直接的な消費者の利益、特に改良された食品グレードの油を提供するモンサントの新しい製品ラインの最初のものである。 従来の育種による生産で、この新しいダイズは、食品用途における処理された油の水素化の必要性を減少あるいは除去し、したがって、水素化で生成するトランス脂肪酸をなくする。性能は主なダイズ品種と同程度である。モンサントの主なダイズの育種者と研究科学者は、この品種の開発に10年以上費やした。 Vistiveダイズは、ラウンドアップレディ^((R))特性を持ち、3%以下のリノレン酸を含み(従来の大豆の8%と比較して)、よりよいフレーバプロファイルを有するより安定なダイズ油となる。」(左欄1?24行) 第4 対比 引用発明の「ステアリドン酸を含み、少なくとも約400ppmのトコフェロールを含み、ダイズの遺伝子組換え種子から誘導される油組成物」は、本願発明の「ステアリドン酸を含むダイズ油」であって、「少なくとも400ppmのトコフェロール」「からなるダイズ油」に相当する。そして、引用発明の「脂肪酸またはそれらの誘導体の全重量に対して少なくとも約3重量%から約30重量%のステアリドン酸」と、本願発明の「脂肪酸の総重量に基づいて少なくとも10重量%のステアリドン酸」とは、「脂肪酸の総重量に基づいて所定量のステアリドン酸」の点で共通する。 引用発明の「豆乳」は、ステアリドン酸を含む油組成物を含むから、本願発明の「ステアリドン酸を含む食品」に相当し、さらに、「ここに食品がダイズ粗挽き粉、ダイズ粉、脱脂ダイズ粉、豆乳、噴霧乾燥豆乳、ダイズタンパク質濃縮物、特定のきめを出したダイズタンパク質濃縮物、加水分解ダイズタンパク質、ダイズタンパク質単離物および噴霧乾燥豆腐よりなる群から選択される、食品」に相当する。 よって、本願発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。 [一致点] 「ステアリドン酸を含む食品であって、ステアリドン酸を含むダイズ油中の脂肪酸の総重量に基づいて所定量のステアリドン酸、少なくとも400ppmのトコフェロールからなるダイズ油を含み、ここに食品がダイズ粗挽き粉、ダイズ粉、脱脂ダイズ粉、豆乳、噴霧乾燥豆乳、ダイズタンパク質濃縮物、特定のきめを出したダイズタンパク質濃縮物、加水分解ダイズタンパク質、ダイズタンパク質単離物および噴霧乾燥豆腐よりなる群から選択される、食品。」 [相違点1] ステアリドン酸を含むダイズ油について、ステアリドン酸の「所定量」が、本願発明は「少なくとも10重量%」であるのに対し、引用発明は、「少なくとも約3重量%から約30重量%」である点。 [相違点2] ステアリドン酸を含むダイズ油について、本願発明は「最大で35重量%のリノール酸」を含むことが特定されているのに対して、引用発明は、このような特定がなされていない点。 [相違点3] 本願発明は、「さらに3重量%未満のα-リノレン酸を有するダイズ油を含み」と特定されているのに対し、引用発明は、このような油を含むとはされていない点。 第5 判断 (1)相違点1について 引用発明に係る「少なくとも約3重量%から約30重量%」は、その上限値として「約30重量%」の例を含むといえ、これは本願発明の「少なくとも10重量%」に相当するから、相違点1は実質的な相違点ではないといえる。 そうでなくとも、引用文献1には、高濃度のSDAを含有する遺伝子組換え種子に関心が持たれていることが示され(摘示(1a))、油組成物中の脂肪酸の全重量に対するSDA含有量について、10、15、20、25、30、35、40または45重量%という個別の数値が示され(摘示(1c))、実施例として15%や20%SDAのダイズ油が示されている(摘示(1e))ことから、引用発明に係る「少なくとも約3重量%から約30重量%」の範囲から、10重量%以上の範囲を選択することにより、相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たことである。 (2)相違点2について 引用文献1の「油組成物は、組成物中の脂肪酸の全重量に対して約18、19、20、21、22、23、24、25、30、35または40重量%までのリノール酸」を含むとの記載(摘示(1c))によれば、引用発明について、35重量%までのリノール酸を含む例も想定されているといえる。そうすると、相違点2は実質的な相違点ではない。 そうでなくとも、引用文献1には、上記のとおり、35重量%までのリノール酸を含むことが示されている一方、本願明細書の記載に照らし、本願発明が最大で35重量%のリノール酸を含む点に臨界的な意義は認められないから、相違点2に係る本願発明の構成は、上記引用文献1の記載を参酌して当業者が容易に想到し得たものにすぎない。 (3)相違点3について 「3重量%未満のα-リノレン酸を有するダイズ油」は、引用文献2(摘示(2d))、引用文献3(摘示(3a))に示されている。 なお、本願発明の「3重量%未満のα-リノレン酸を有するダイズ油」は、本願明細書に「従来の育種を介して開発した基礎となるVISTIVEダイズ油は伝統的なダイズに見出される典型的な8%のレベルと比較して3%未満のリノレン酸を含んでいた。」(【0060】)と記載されていることに照らせば、引用文献3に示されるダイズ油を具体例としていることが認められる。 そして、引用文献1の摘示(1f)に、マヨネーズ調製について「ダイズ油(3720g)およびオメガ-3植物性油(1800g)をブレンドして、以下の油組成物を得た」と記載され、引用文献2の摘示(2c)に、「上記油組成物のいずれもブレンド油組成物であり得る。」及び「低ALA油組成物と高SDA油組成物、・・・とのブレンドまたはエステル交換は、例えば、特に、食品に使用するため、または、フライのための油組成物の安定性、品質および機能を促進する。」と記載されていることから、食品に使用するための油組成物をブレンドして使用することは普通のことといえる。さらに、上記引用文献2には、低ALA(α-リノレン酸)油組成物と高SDA(ステアリドン酸)油組成物をブレンドすることが記載されているから、引用発明に係る油組成物(高SDA油組成物)に「3重量%未満のα-リノレン酸を有するダイズ油」(低ALA油組成物)をブレンドすることの示唆もあるといえる。 また、引用発明に係る油組成物と、引用文献2に記載された3重量%未満のα-リノレン酸を有するダイズ油とは、豆乳に含ませ得る油組成物である点で軌を一にするものであるところ(摘示(1g)の【請求項34】、摘示(2d)の【請求項63】)、両者をブレンドするのを阻害する要因も見当たらない。 してみれば、相違点3に係る本願発明の構成は、上記引用文献2、3に示される「3重量%未満のα-リノレン酸を有するダイズ油」を引用発明に係る油組成物(ダイズ油)にブレンドして使用することにより、当業者が容易に想到し得たものである。 (4)効果について 本願発明が、引用発明及び引用文献1?3記載の技術事項から予測できない格別顕著な効果を奏するものとは認められない。 請求人は、引用文献を組み合わせたとしても、得られる食品が各々の引用文献に記載された独立した油と同じ酸化特性を有するかは明らかでない旨を主張し、更に、本願発明が、魚類または藻類に由来するオメガ-3油を含む食品と比較して顕著に低い不快な臭いを有すること、経時的により少ない不快な臭いを発生する観点から有利な安定性を有することを主張する(平成28年1月7日付け意見書「理由1について」)。 しかし、引用発明に係る油組成物は、「既知の油組成物よりも優れた安定性」及び「有利な味覚および臭覚特徴」を有し(摘示(1b))、「特性の著しい時間変化がない」(摘示(1d))ものである。そして、引用文献2の油は、「風味」及び「向上した安定性」を有し(摘示(2a))、「味および臭いの点で向上した安定性」を有する(摘示(2b))ものである。一方、魚油は酸化されやすく、不快な味と臭いを有することが周知である(摘示(1a))。そして、味と臭い及びそれらの安定性が優れているダイズ油同士をブレンドした油が、魚油と比較して、味と臭い及びそれらの安定性が優れたものであることは、容易に予測できることである。 よって、本願発明の効果は、引用発明及び引用文献1?3記載の技術事項から予測できる範囲のものであり、上記請求人の主張は採用できない。 第6 むすび したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献1?3記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-02-04 |
結審通知日 | 2016-02-09 |
審決日 | 2016-02-22 |
出願番号 | 特願2009-544917(P2009-544917) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A23D)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小金井 悟 |
特許庁審判長 |
千壽 哲郎 |
特許庁審判官 |
佐々木 正章 紀本 孝 |
発明の名称 | さらなる長鎖脂肪酸を取り込む食品組成物 |
代理人 | 佐藤 剛 |
代理人 | 山崎 宏 |
代理人 | 田中 光雄 |