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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B |
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管理番号 | 1316709 |
審判番号 | 不服2014-16516 |
総通号数 | 200 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-08-21 |
確定日 | 2016-07-06 |
事件の表示 | 特願2009-208302「有機EL装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月24日出願公開、特開2011- 60549〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、平成21年9月9日に出願した特許出願であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。 平成25年11月 5日:拒絶理由通知(同年同月12日発送) 平成26年 2月10日:手続補正書 平成26年 2月10日:意見書 平成26年 4月16日:拒絶査定(同年同月22日送達) 平成26年 8月21日:手続補正書 平成26年 8月21日:審判請求 平成27年 8月12日:上申書 平成27年 8月25日:拒絶理由通知(同年9月1日発送) 平成27年11月20日:意見書 平成27年11月20日:手続補正書(以下、これによりなされた補正を「本件補正」という。) 2 本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの、以下のものである。 「第1の基板と、一対の電極間に配置された膜厚が2nm?500nmの発光層を有する有機EL装置であって、 前記有機EL装置がマイクロキャビティー構造を有し: 前記発光層からの光を反射する膜厚が10nm?1,000nmの反射層と; 前記発光層からの光を取り出す膜厚が10nm?5,000nmの光取り出し層と; 前記反射層と前記光取り出し層との間に膜厚が10nm?1,000nmの光路長調整層と; 前記発光層からみて光出射方向に屈折率が1.0?1.4の低屈折率層を有し、 前記光路長調整層が前記反射層と前記光取り出し層とに接するように配置されていることを特徴とする有機EL装置。」 3 引用例の記載事項及び引用発明 (1)引用例1 ア 平成27年8月25日付けで通知した当審の拒絶の理由に引用文献1として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特表2008-515129号公報(以下「引用例1」という。)には、「表示装置」(発明の名称)に関して以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与したものである(以下同じ。)。 (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、表示装置に関する。 【背景技術】 【0002】 有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置は、自発光表示装置であって、広視野角及び高速応答を達成し得る。また、有機EL表示装置は、バックライトが不要であるため、薄型軽量に形成可能である。これらの理由から、近年、有機EL表示装置は、液晶表示装置に代わる表示装置として注目されている。 【0003】 ところで、有機EL表示装置の輝度は、有機EL素子に流す電流の密度を高めると増加する。しかしながら、この場合、消費電力が大きくなると共に、有機EL表示装置の寿命が著しく短くなる。このため、高輝度、低消費電力、長寿命を同時に実現するには、有機EL素子の内部で生じた光を有機EL表示装置の外部へ効率的に取り出すこと,すなわち取り出し効率を高めること,が重要である。 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 本発明の目的は、有機EL表示装置の取り出し効率を高めることにある。 【課題を解決するための手段】 【0005】 本発明の一側面によると、背面電極と、前記背面基板と向き合った前面電極と、前記背面及び前面電極間に介在すると共に発光層を含んだ活性層とを備えた発光素子と、前記前面電極の前面側に配置された光散乱層とを具備し、前記発光素子はマイクロキャビティ構造の少なくとも一部を構成し、前記光散乱層に前記マイクロキャビティ構造からの光を照射したときに前方散乱光は後方散乱光と比較して光量がより大きい表示装置が提供される。」 (イ)「【発明を実施するための最良の形態】 【0006】 以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。 【0007】 図1は、本発明の一態様に係る有機EL表示装置を概略的に示す断面図である。図1では、有機EL表示装置を、その表示面,すなわち前面又は光出射面,が上方を向き、背面が下方を向くように描いている。 【0008】 図1に示す有機EL表示装置1は、アクティブマトリクス型駆動方式を採用した上面発光型の有機EL表示装置である。 【0009】 この有機EL表示装置1は、例えば、ガラス基板などの絶縁基板10を含んでいる。 【0010】 絶縁基板10上では、複数の画素がマトリクス状に配列している。各画素は、画素回路と有機EL素子40とを含んでいる。 【0011】 画素回路は、例えば、一対の電源端子間で有機EL素子40と直列に接続された駆動制御素子(図示せず)及び出力制御スイッチ20と、画素スイッチ(図示せず)とを含んでいる。駆動制御素子は、その制御端子が画素スイッチを介して映像信号線(図示せず)に接続されており、映像信号線から供給される映像信号に対応した大きさの電流を出力制御スイッチ20を介して有機EL素子40へ出力する。また、画素スイッチの制御端子は走査信号線(図示せず)に接続されており、走査信号線から供給される走査信号によりスイッチング動作が制御される。なお、これら画素には、他の構造を採用することも可能である。 【0012】 基板10上には、アンダーコート層12として、例えば、SiN_(x)層とSiO_(x)層とが順次積層されている。アンダーコート層12上には、例えばチャネル、ソース及びドレインが形成されたポリシリコン層である半導体層13、例えばTEOS(tetraethyl orthosilicate)などを用いて形成され得るゲート絶縁膜14、及び例えばMoWなどからなるゲート電極15が順次積層されており、それらはトップゲート型の薄膜トランジスタ(以下、TFTという)を構成している。この例では、これらTFTは、画素スイッチ、出力制御スイッチ20、駆動制御素子のTFTとして利用している。また、ゲート絶縁膜14上には、ゲート電極15と同一の工程で形成可能な走査信号線(図示せず)がさらに配置されている。 【0013】 ゲート絶縁膜14及びゲート電極15は、例えば、プラズマCVD法により成膜されたSiO_(x)からなる層間絶縁膜17で被覆されている。層間絶縁膜17上にはソース及びドレイン電極21が配置されており、それらは、例えばSiN_(x)などからなるパッシベーション膜18で埋め込まれている。ソース及びドレイン電極21は、例えば、Mo/Al/Moの三層構造を有しており、層間絶縁膜17に設けられたコンタクトホールを介してTFTのソース及びドレインに電気的に接続されている。また、層間絶縁膜17上には、ソース及びドレイン電極21と同一の工程で形成可能な映像信号線(図示せず)がさらに配置されている。 【0014】 パッシベーション膜18上には、平坦化層19が形成されている。平坦化層19上には、反射層70が配置されている。平坦化層19の材料としては、例えば、硬質樹脂を使用することができる。反射層70の材料としては、例えば、Alなどの金属材料を使用することができる。 【0015】 平坦化層19及び反射層70上には、平坦化層60が形成されている。平坦化層60は、有機EL素子40に平坦な下地を提供する。平坦化層60の材料としては、例えば、シリコーン樹脂やアクリル樹脂などの透明な樹脂を使用することができる。 【0016】 平坦化層60上には、光透過性の第1電極41が互いから離間して並置されている。各第1電極41は、反射層70と向き合うように配置されている。また、各第1電極41は、パッシベーション膜18、平坦化層19、平坦化層60に設けた貫通孔を介して、ドレイン電極21に接続されている。 【0017】 第1電極41は、この例では、背面電極としての陽極である。第1電極41の材料としては、例えば、ITO(indium tin oxide)のような透明導電性酸化物を使用することができる。 【0018】 平坦化層60上には、さらに、隔壁絶縁層50が配置されている。この隔壁絶縁層50には、第1電極41に対応した位置に貫通孔が設けられている。隔壁絶縁層50は、例えば、有機絶縁層であり、フォトリソグラフィ技術を用いて形成することができる。 【0019】 隔壁絶縁層50の貫通孔内で露出した第1電極41上には、発光層を含んだ有機物層42が活性層として配置されている。発光層は、例えば、発光色が赤色、緑色、又は青色のルミネセンス性有機化合物を含んだ薄膜である。この有機物層42は、発光層以外の層をさらに含むことができる。例えば、有機物層42は、第1電極41から発光層への正孔の注入を媒介する役割を果たすバッファ層をさらに含むことができる。また、有機物層42は、正孔輸送層、ブロッキング層、電子輸送層、電子注入層などもさらに含むことができる。 【0020】 隔壁絶縁層50及び有機物層42は、光透過性の第2電極43で被覆されている。第2電極43は、この例では前面電極である。また、第2電極43は、この例では、各画素共通に連続して設けられた陰極である。第2電極43は、パッシベーション膜18、平坦化層19、取り出し層30、平坦化層60、隔壁絶縁層50に設けられたコンタクトホール(図示せず)を介して、映像信号線と同一の層上に形成された電極配線に電気的に接続されている。 【0021】 それぞれの有機EL素子40は、これら第1電極41、有機物層42、及び第2電極43で構成されている。ここでは、一例として、ITO層上に、CuPc層、α-NPD層、Alq_(3)層、LiF層、MgAg層、及びITO層を順次積層してなるものを有機EL素子40として使用することとする。 【0022】 第2電極43上には、光透過性の保護膜80が形成されている。保護膜80は、外部の水分や酸素などが有機EL素子40と接触するのを防止する。保護膜80の材料としては、例えば、SiN_(x)などの透明誘電体を使用することができる。 【0023】 保護膜80上には、光散乱層90が配置されている。光散乱層90は、透明領域91とその中で分散すると共に透明領域91とは光学特性が異なる複数の粒状領域92とを含んでいる。 【0024】 この光散乱層90は、前方散乱性が後方散乱性よりも大きい。すなわち、この光散乱層90に後述するマイクロキャビティ構造からの光を照射したときに、前方散乱光が後方散乱光と比較して光量がより大きい。前方散乱光の光量のマイクロキャビティ構造からの光の光量に対する比(以下、前方散乱比という)は、典型的には60%以上である。例えば、光散乱層90の前方散乱比は、80%以上である。 【0025】 光散乱層90としては、例えば、金属微粒子及び/又は酸化物粒子を有機物中に分散したものを用いることができる。そのような粒子としては、例えば、粒径が20nm乃至200nmのTiO2粒子を用いることができる。 【0026】 なお、図1に示す有機EL表示装置1では、通常、有機EL素子40の前面側,典型的には光散乱層90の前面側,に偏光板を配置する。また、この有機EL表示装置1では保護膜封止を行っているが、その代わりにガラス封止を行ってもよい。 【0027】 さて、この有機EL表示装置1では、有機EL素子40は、その発光層が放出する光が共振するマイクロキャビティ(微小光共振器)構造の少なくとも一部を形成している。すなわち、この有機EL表示装置1では、有機EL素子40が前方に放出する光は、高強度であり且つ指向性が高い。 【0028】 そのため、光散乱層90を配置していない場合、有機EL素子40が前方に放出した光の殆どは、保護膜80の表面で反射又は全反射されることなく、保護膜80を出射する。しかしながら、有機EL素子40が前方に放出する光は指向性が高いので、光散乱層90を配置しない限り、この有機EL表示装置1で十分な視野角を実現することは難しい。 【0029】 図1の有機EL表示装置1は、有機EL素子40の前方に光散乱層90を配置している。そのため、この有機EL表示装置1は、視野角が広い。 【0030】 但し、有機EL素子40の前方に光散乱層90を配置すると、一部の光は、後方散乱して有機EL素子40に入射する。有機EL素子40に入射した後方散乱光の一部は、上記のマイクロキャビティ構造における共振に寄与するが、残りの後方散乱光の殆どは各種構成要素によって吸収されてしまう。 【0031】 そこで、本態様では、上記の通り、光散乱層90として、前方散乱比が50%よりも大きなものを使用する。例えば、前方散乱比が80%の光散乱層90を使用する。この場合、後方散乱光の光量のマイクロキャビティ構造からの光の光量に対する比(以下、後方散乱比という)は、最大で20%である。後方散乱比が20%であり且つ後方散乱光の1/3が上記のマイクロキャビティ構造における共振に寄与すると考えると、マイクロキャビティ構造が前方に放出する光の約86%を表示に利用することができる。したがって、広視野角と高輝度とを同時に実現することができる。 【0032】 典型的には、前方散乱比が60%以上の光散乱層90を使用する。この場合、後方散乱比が40%であり且つ後方散乱光の1/3が上記のマイクロキャビティ構造における共振に寄与すると考えると、マイクロキャビティ構造が前方に放出する光の約73%を表示に利用することができる。 【0033】 光散乱層90の後方散乱比が40%超,例えば41%以上,である場合、光散乱層90による外部光の散乱が大きい。そのため、この場合、鮮明度が不十分となる可能性がある。 【0034】 この有機EL表示装置1には、様々な変形が可能である。 図2は、図1の有機EL表示装置の一変形例を概略的に示す断面図である。 【0035】 この有機EL表示装置1は、反射層70と第1電極41との間に、取り出し層30を含んでいる。これ以外は、図2の有機EL表示装置1は、図1の有機EL表示装置1と同様の構造を有している。 【0036】 発光層が放出する光の一部は、第1電極41と有機物層42とを含む導波層,すなわちマイクロキャビティ構造,内で反射を繰り返しながら膜面方向に伝播する。この膜面方向に伝播する光は、導波層の主面に対する入射角が大きいと、外部に取り出すことができない。 【0037】 取り出し層30を有機EL素子40の近傍に配置すると、発光層が放出する光の進行方向を変えることができる。そのため、発光層が放出する光を、有機EL表示装置1の外部へと、より高い効率で取り出すことが可能となる。 【0038】 取り出し層30としては、例えば、回折格子層を用いることができる。赤、緑、青色などの発光色に応じて回折格子の格子定数を定めることにより、発光色に基づいて回折格子の格子定数を定めることにより、マイクロキャビティ構造が放出する光の多くを膜面に対してほぼ垂直な方向に進行させることができる。」 (ウ)「【図面の簡単な説明】 【0043】 【図1】本発明の一態様に係る有機EL表示装置を概略的に示す断面図。 【図2】図1の有機EL表示装置の一変形例を概略的に示す断面図。 ・・・(中略)・・・ 【図1】 【図2】 」 (エ)引用例1の図2(上記(ウ)参照。)からは、反射層70上に接して取り出し層30が設けられることが看取される。 イ 引用例1の段落【0034】?【0035】(上記ア(イ)参照。)等の記載を踏まえ、引用例1に記載された図1の有機EL表示装置の変形例である図2の有機EL表示装置に基づいて発明を特定すると、上記アの各記載から、引用例1には、有機EL表示装置の一変形例として、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「絶縁基板10上に、各々が画素回路と有機EL素子40とを含む複数の画素がマトリクス状に配列しており、前記有機EL素子40は、その発光層が放出する光が共振するマイクロキャビティ(微小光共振器)構造の少なくとも一部を形成している、上面発光型の有機EL表示装置1であって、 前記絶縁基板10上には、アンダーコート層12、半導体層13、ゲート絶縁膜14、及びゲート電極15が順次積層されており、 前記ゲート絶縁膜14及び前記ゲート電極15は、層間絶縁膜17で被覆されており、前記層間絶縁膜17上にはソース及びドレイン電極21が配置されており、前記ソース及びドレイン電極21はパッシベーション膜18で埋め込まれており、 前記パッシベーション膜18上には平坦化層19が形成されており、前記平坦化層19上には、反射層70が配置されており、 前記平坦化層19及び前記反射層70上には平坦化層60が形成されており、 前記平坦化層60上には、光透過性の第1電極41が互いから離間して並置されており、 各第1電極41は、前記反射層70と向き合うように配置されている陽極であり、 前記平坦化層60上には、さらに、前記第1電極41に対応した位置に貫通孔が設けられている隔壁絶縁層50が配置されており、 前記隔壁絶縁層50の貫通孔内で露出した前記第1電極41上には、前記発光層を含んだ有機物層42が配置されており、 前記隔壁絶縁層50及び前記有機物層42は、光透過性の陰極である第2電極43で被覆されており、 それぞれの前記有機EL素子40は、前記第1電極41、前記有機物層42、及び前記第2電極43で構成されており、 前記第2電極43上には、光透過性の保護膜80が形成されており、 前記保護膜80上には、光散乱層90が配置されており、 前記反射層70と前記第1電極41との間に前記反射層70上に接して回折格子層からなる取り出し層30を設けることで、前記発光層が放出する光の進行方向を変えて、前記発光層が放出する光を前記有機EL表示装置1の外部へ高い効率で取り出すことが可能な、有機EL表示装置1。」 ウ また、上記アの各記載(特に、段落【0019】?【0021】及び【0035】?【0038】参照。)から、引用例1には、「第1電極上に発光層を含んだ有機物層が配置され、前記有機物層が第2電極で被覆された有機EL素子を含む有機EL表示装置において、前記第1電極及び前記有機物層を含むマイクロキャビティ構造内の膜面方向に伝播する光を外部に取り出すため、回折格子層からなる取り出し層を反射層と前記第1電極との間に設け、前記発光層が放出する光の進行方向を変えることで、前記発光層が放出する光を、前記有機EL表示装置の外部へより高い効率で取り出す」との技術的事項が記載されていると認められる。 (2)引用例2 ア 平成27年8月25日付けで通知した当審の拒絶の理由に引用文献2として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特表2008-515131号公報(以下「引用例2」という。)には、「表示装置」(発明の名称)に関して以下の事項が記載されている。 (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、表示装置に関する。 【背景技術】 【0002】 有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置は自己発光表示装置であって、広視野角及び高速応答を達成し得る。また、有機EL表示装置は、バックライトが不要であるため、薄型軽量に形成可能である。これらの理由から、近年、有機EL表示装置は、液晶表示装置に代わる表示装置として注目されている。 【0003】 有機EL表示装置の主要部である有機EL素子は、光透過性の前面電極と、これと対向した光反射性又は光透過性の背面電極と、それらの間に介在すると共に発光層を含んだ有機物層とで構成されている。有機EL素子は、有機物層に電流を流すことにより発光する電荷注入型の自発光素子である。有機EL素子が放出した光は、指向性のない自然光として、例えばガラス基板を通って表示装置の外部へと進行する。 【0004】 有機EL表示装置は、基板上に形成された多層膜を含んでいる。発光層が放出した光は、この多層膜内で繰り返し反射干渉を生じる。そのため、表示装置の発光効率及びこれが放出する光の色純度は、多層膜の構造に依存する。 【0005】 特許文献1は、光共振器構造,すなわち、マイクロキャビティ構造,を採用した有機EL素子を開示している。この有機EL素子では、発光層を含んだ有機物層は、高反射率の界面で挟まれている。マイクロキャビティ構造は、発光層が放出する光のうち、共振波長の光を強め、それ以外の波長の光を弱める。したがって、有機EL表示装置の有機EL素子にマイクロキャビティ構造を採用すると、表示装置の発光効率とこれが放出する光の色純度とを著しく高めることができる。 【0006】 しかしながら、本発明者らは、本発明を為すに際し、マイクロキャビティ構造を表示装置に採用した場合、以下の問題を生じ得ることを見出している。すなわち、マイクロキャビティ構造を採用した表示装置は、指向性の高い光を放出する。そのため、表示画像の明るさが、観察角度に応じて大きく変化する。加えて、マイクロキャビティ構造の斜め方向に進行する光についての光路長は、マイクロキャビティ構造の法線方向に進行する光についての光路長とは異なっている。そのため、マイクロキャビティ構造を採用した表示装置で表示した画像は、観察角度に応じて色度が変化する。マイクロキャビティ構造を表示装置に採用すると、表示品位が著しく低下する可能性がある。 【特許文献1】特開平11-288786号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明の目的は、マイクロキャビティ構造を採用した表示装置の表示品位を高めることにある。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明の一側面によると、絶縁基板と、前記絶縁基板と向き合った封止部材と、前記絶縁基板と前記封止部材との間に介在すると共に、各々がマイクロキャビティ構造を具備し、前記マイクロキャビティ構造は、反射層と、前記反射層と向き合った半透鏡層と、前記反射層と前記半透鏡層との間に介在した光源とを具備した複数の画素と、前記半透鏡層と向き合った拡散層とを具備した表示装置が提供される。」 (イ)「【発明を実施するための最良の形態】 【0009】 以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。 【0010】 図1は、本発明の一態様に係る表示装置を概略的に示す断面図である。図2は、図1に示す表示装置の部分断面図である。図3は、図1及び図2の表示装置に採用可能な構造の一例を概略的に示す断面図である。なお、図1及び図2では、表示装置を、その表示面、すなわち前面又は光出射面、が上方を向き、背面が下方を向くように描いている。 【0011】 図1及び図2に示す表示装置1は、アクティブマトリクス型駆動方式を採用した上面発光型の有機ELカラー表示装置である。この有機EL表示装置1は、アレイ基板2と、封止部材3とを含んでいる。 【0012】 封止部材3は、この例ではガラス基板であって、そのアレイ基板2との対向面は例えば凹形状を有している。アレイ基板2と封止部材3とは、周縁部同士が例えば接着剤やフリットシールなどで結合しており、これにより、それらの間に気密な密閉空間を形成している。この密閉空間は、例えば、窒素ガスなどの不活性ガスが充填されているか又は真空である。 【0013】 アレイ基板2と封止部材3との間の密閉空間に樹脂などの固体を充填する封止技術を用いてもよい。或いは、封止部材3として、ガラス基板の代わりに、例えば、有機材料層、無機材料層、又は有機材料層と無機材料層との積層体を使用する薄膜封止技術を用いていてもよい。 【0014】 有機EL表示装置1は、その前面側の最表面上に、偏光板4をさらに含んでいてもよい。偏光板4は、表示面が外光を反射するのを抑制するうえで有用である。 【0015】 アレイ基板2は、ガラス基板などの絶縁基板10を含んでいる。 【0016】 絶縁基板10上では、複数の画素がマトリクス状に配列している。各画素は、画素回路と有機EL素子40とを含んでいる。 【0017】 画素回路は、例えば、一対の電源端子間で有機EL素子40と直列に接続された駆動トランジスタ(図示せず)及び出力制御スイッチ20と、画素スイッチ(図示せず)とを含んでいる。駆動トランジスタのゲートは、画素の列に対応して敷設された映像信号線(v図示せず)に画素スイッチを介して接続されている。駆動トランジスタは、映像信号線から供給される映像信号に対応した大きさの電流を、出力制御スイッチ20を介して、有機EL素子40へと出力する。画素スイッチのゲートは、画素の行に対応して敷設された走査信号線(図示せず)に接続されている。画素スイッチのスイッチング動作は、走査信号線から供給される走査信号によって制御される。なお、画素回路には、他の構造を採用することも可能である。 【0018】 絶縁基板10上には、アンダーコート層12として、例えば、SiN_(x)層とSiO_(x)層とが順次形成されている。アンダーコート層12上には、例えばチャネル、ソース及びドレインが形成されたポリシリコン層である半導体層13、例えばTEOS(tetraethyl orthosilicate)などを用いて形成されるゲート絶縁膜14、及び例えばMoWなどからなるゲート電極15が順次積層されており、それらはトップゲート型の薄膜トランジスタ(以下、TFTと称す)を構成している。この例では、画素スイッチ、出力制御スイッチ20、駆動トランジスタのTFTとして利用している。また、ゲート絶縁膜14上には、ゲート電極15と同一工程で形成可能な走査信号線がさらに配置されている。 【0019】 ゲート絶縁膜14及びゲート電極15は、例えばプラズマCVD法などにより成膜されたSiO_(x)などからなる層間絶縁膜17で被覆されている。層間絶縁膜17上にはソース及びドレイン電極16が配置されており、それらは、例えばSiN_(x)などからなるパッシベーション膜18で被覆されている。ソース及びドレイン電極16は、例えばMo/Al/Moの三層構造を有しており、層間絶縁膜17に設けられたコンタクトホールを介してTFTのソース及びドレインにそれぞれ電気的に接続されている。また、層間絶縁膜17上には、ソース及びドレイン電極16と同一の工程で形成可能な映像信号線がさらに配置されている。 【0020】 パッシベーション膜18上には、平坦化層19が形成されている。平坦化層19上には光反射性の第1電極41が、互いから離間されて並置されている。各第1電極41は、パッシベーション膜18及び平坦化層19に設けた貫通孔を介して出力制御スイッチ20のドレイン電極16に接続されている。 【0021】 第1電極41は、この例では陽極である。第1電極41の材料としては、例えばAl、Ag、Au、Crなどを用いることができる。 【0022】 平坦化層19上には、隔壁絶縁層50がさらに配置されている。この隔壁絶縁層50には、第1電極41に対応した位置に貫通孔が設けられている。隔壁絶縁層50は、例えば、有機絶縁層であり、フォトリソグラフィ技術を用いて形成することができる。 【0023】 隔壁絶縁層50の貫通孔内で露出した第1電極41上には、発光層420を含んだ活性層,或いは有機物層,42が配置されている。 【0024】 発光層420は、例えば、発光色が赤色、緑色、又は青色のルミネセンス性有機化合物を含んだ薄膜である。活性層42は、発光層420以外の層をさらに含むことができる。活性層42は、例えば、発光層420への正孔の注入を媒介する役割を果たす正孔注入層421をさらに含むことができる。また、活性層42は、正孔輸送層422、正孔ブロッキング層423、電子輸送層、電子注入層425、バッファ層426などもさらに含むことができる。発光層420以外の層には、無機材料及び有機材料の何れを使用してもよい。 【0025】 隔壁絶縁層50及び活性層42は、光透過性の第2電極43で被覆されている。第2電極43は、この例では、陰極である。また、第2電極43は、この例では、全画素に対応した領域に広がった連続膜としての共通電極である。第2電極43は、パッシベーション膜18と平坦化層19と隔壁絶縁層50とに設けられたコンタクトホール(図示せず)を介して、映像信号線と同一の層上に形成された電源線(図示せず)に電気的に接続されている。各有機EL素子40は、第1電極41、活性層42、第2電極43により構成されている。 【0026】 第2電極上には、拡散層60が配置されている。拡散層60には、様々な構造を採用することができる。」 (ウ)「【0033】 この表示装置1において、有機EL素子40は、マイクロキャビティ構造MCの少なくとも一部を形成している。マイクロキャビティ構造MCは、互いに向き合った反射層RF及び半透鏡層HMと、それらの間に介在した光源LSとを含んでいる。この例では、反射層RFは第1電極41である。半透鏡層HMは、例えばMgAgからなるバッファ層426である。光源LSは、正孔注入層421と正孔輸送層422と発光層420と正孔ブロッキング層423と電子注入層425とを含んだ積層体である。 【0034】 反射層RFは、光反射性を有する層であり、典型的には金属薄膜である。半透鏡層HMは、光透過性と光反射性とを有する層である。半透鏡層HMは、反射層RFと比較して透過率がより大きい。反射層RFは、半透鏡層HMと比較して反射率がより大きい。例えば、反射層RFの反射率は30%以上であり、半透鏡層HMの反射率は15%以上である。 【0035】 マイクロキャビティ構造MCでは、波長λが下記等式(1)に示す関係を満足している光は強められる。他方、波長λが下記等式(2)に示す関係を満足している光は弱められる。なお、Lは反射層RFと半透鏡層HMとの間の光路長であり、Φ1は半透鏡層HMで反射されることによる光の位相シフトであり、Φ2は反射層RFで反射されることによる光の位相シフトであり、mは整数である。 【数1】 【0036】 等式(1)及び(2)から明らかなように、マイクロキャビティ構造MCを採用すると、特定の方向から観察した画像の輝度と色純度とを高めることができる。但し、光路長Lは、視角θの関数である。具体的には、光路長Lは、1/cosθに比例する。 【0037】 したがって、光路長Lの最小値L_(0)を大きくすると、指向性が高くなる。すなわち、視角θの僅かなずれが、輝度に大きく影響する。 【0038】 他方、光路長Lの最小値L_(0)を小さくすると、視角θのずれが輝度に与える影響は小さくなる。但し、この場合、発光色が互いに異なる画素間で、光路長Lの最小値L_(0)を等しくすることが難しくなる。すなわち、表示装置の構造やその製造プロセスが複雑化する可能性がある。 【0039】 この表示装置1では、マイクロキャビティ構造MCの前面側に、拡散層60を配置している。そのため、以下に説明するように、表示画像の明るさが観察角度に応じて大きく変化することや、表示画像の色度が観察角度に応じて大きく変化することを防止できる。すなわち、本態様によると、高い表示品位を実現できる。」 (エ)「【0048】 図1及び図2に示す表示装置1のマイクロキャビティ構造MCには、様々な変形が可能である。 【0049】 図12及び図13は、図1及び図2の表示装置に採用可能な構造の他の例を概略的に示す断面図である。 【0050】 図12のマイクロキャビティ構造MCでは、第1電極41は、光透過性電極である。そして、第1電極41の背面側には、反射層RFが配置されている。これ以外は、図12のマイクロキャビティ構造MCは、図3のマイクロキャビティ構造MCとほぼ同様の構造を有している。なお、このマイクロキャビティ構造MCは、正孔ブロッキング層423と電子注入層425との間に電子輸送層424をさらに含んでいる。 【0051】 図12のマイクロキャビティ構造MCにおいて、第1電極41の材料としては、例えばITO(indium tin oxide)を使用することができる。また、反射層RFの材料としては、例えば、Al、Al合金、Ag、Ag合金、Au、及びCuなどを使用することができる。」 (オ)「【0064】 上述した表示装置1には、以下の構成を採用してもよい。 図16は、図1及び図2に示す表示装置の画素の一部に採用可能な構造の一例を概略的に示す断面図である。図17は、図1及び図2に示す表示装置の画素の他の一部に採用可能な構造の一例を概略的に示す断面図である。 【0065】 図16の構造は、反射層RFと第1電極41との間に光学調整層70をさらに含んでいること以外は、図12の構造と同様である。図17の構造は、図12の構造と同様である。 【0066】 上記等式(1)及び(2)から分かるように、法線方向から画面を観察した場合の輝度は、波長λと光路長Lとに依存する。そのため、マイクロキャビティ構造MCによって発光効率及び色純度を高める効果を、発光色が互いに異なる全ての画素で得るためには、通常、発光色毎に光路長Lを設定する必要がある。 【0067】 しかしながら、一般に、有機EL素子40の層構造は、電子・正孔の注入バランスや輝度劣化などを考慮して決定する。そのため、最適な光路長Lを実現することが難しい場合がある。 【0068】 このような場合には、例えば、或る発光色の画素に図16の構造を採用し、他の発光色の画素に図17の構造を採用する。図16の構造を採用した画素は、光学調整層70を含んでいるので、図17の構造を採用した画素とは光路長Lが異なっている。図16の構造を採用した画素では、光学調整層70の光学特性と厚さとによって、光路長Lを最適化することができる。しかも、光学調整層70は陽極41と反射層RFとの間に配置するので、電子・正孔の注入バランスや輝度劣化などに影響を与えない。 【0069】 したがって、或る発光色の画素に図16の構造を採用し、他の発光色の画素に図17の構造を採用すると、電子・正孔の注入バランスや輝度劣化などに影響を与えることなく、法線方向から画面を観察した場合の輝度などを最適化することができる。すなわち、より優れた表示品位を実現することが可能となる。 【0070】 図18は、光学調整層として屈折率が1.5の樹脂層を用いた場合における光学調整層の厚さと干渉次数との関係の例を示すグラフである。図中、横軸は光学調整層70の厚さを示し、縦軸はマイクロキャビティ構造MC中を膜面に対して法線方向に進行する光の干渉次数を示している。また、図中、参照符号B、G、Rは、それぞれ、発光色が青(λ=480nm)、緑(λ=530nm)、赤(λ=630nm)の画素についてシミュレーションを行うことにより得られたデータを示している。なお、このシミュレーションに際しては、発光色が青、緑、赤の有機EL素子40は、発光層420の材料が異なること以外は同一の構造を有しているとした。 【0071】 図18に示すデータによると、発光色が青及び緑色の画素については、例えば光学調整層70の厚さを約100nmとした場合に、干渉次数は整数に近い値(約2)になる。また、発光色が赤色の画素については、例えば光学調整層70を配置しない場合に、干渉次数は整数に近い値(約1)になる。すなわち、発光色が青及び緑色の画素にのみ厚さ約100nmの光学調整層70を配置すると、各発光色の画素で高い正面輝度が得られる。 【0072】 以上、或る色で発光する画素についてのみ、陽極41と反射層RFとの間に光学調整層70を配置することを説明したが、先の効果は、他の構造を採用した場合にも得ることができる。例えば、全ての画素について陽極41と反射層RFとの間に光学調整層70を配置し、発光色が互いに異なる画素間で、光学調整層70の光学的厚さを異ならしめてもよい。例えば、図18に示す例では、発光色が青及び緑色の画素に厚さ約100nmの光学調整層70を配置し、発光色が赤色の画素に厚さ約180nmの光学調整層70を配置してもよい。」 (カ)「【図面の簡単な説明】 【0074】 【図1】本発明の一態様に係る表示装置を概略的に示す断面図。 【図2】図1に示す表示装置の部分断面図。 【図3】図1及び図2の表示装置に採用可能な構造の一例を概略的に示す断面図。 ・・・(中略)・・・ 【図12】図1及び図2の表示装置に採用可能な構造の他の例を概略的に示す断面図。 ・・・(中略)・・・ 【図16】図1及び図2に示す表示装置の画素の一部に採用可能な構造の一例を概略的に示す断面図。 【図17】図1及び図2に示す表示装置の画素の他の一部に採用可能な構造の一例を概略的に示す断面図。 【図18】光学調整層として屈折率が1.5の樹脂層を用いた場合における光学調整層の厚さと干渉次数との関係の例を示すグラフ。 ・・・(中略)・・・ 【図1】 【図2】 【図3】 ・・・(中略)・・・ 【図12】 ・・・(中略)・・・ 【図16】 【図17】 【図18】 」 イ 引用例2の段落【0010】及び【0064】(上記ア(イ)及び(オ)参照。)等の記載を踏まえると、上記アの各記載からは、図16に示された「構造の一例」を画素の一部に採用した、図1及び図2に示された「一態様に係る表示装置」の発明を把握することができるところ、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 「アレイ基板2と、封止部材3とを含む上面発光型の有機EL表示装置1であって、 前記アレイ基板2と前記封止部材3との間に、窒素ガスなどの不活性ガスが充填されているか又は真空である気密な密閉空間を形成しているものであり、 前記アレイ基板2は、絶縁基板10を含んでおり、 前記絶縁基板10上には、各々が画素回路と有機EL素子40とを含む複数の画素がマトリクス状に配列しており、 前記絶縁基板10上には、アンダーコート層12、半導体層13、ゲート絶縁膜14、及びゲート電極15が順次積層されており、 前記ゲート絶縁膜14及び前記ゲート電極15は、層間絶縁膜17で被覆されており、前記層間絶縁膜17上にはソース及びドレイン電極16が配置されており、前記ソース及びドレイン電極16はパッシベーション膜18で被覆されており、 前記パッシベーション膜18上には、平坦化層19が形成されており、前記平坦化層19上には第1電極41が、互いから離間されて並置されており、 前記平坦化層19上には、前記第1電極41に対応した位置に貫通孔が設けられている隔壁絶縁層50がさらに配置されており、 前記隔壁絶縁層50の貫通孔内で露出した前記第1電極41上には、バッファ層426及び発光層420を含んだ活性層42が配置されており、 前記隔壁絶縁層50及び前記活性層42は、第2電極43で被覆されており、各有機EL素子40は、前記第1電極41、前記活性層42、前記第2電極43により構成されており、 前記第2電極43上には、拡散層60が配置されており、 前記有機EL素子40は、マイクロキャビティ構造MCの少なくとも一部を形成しており、前記マイクロキャビティ構造MCは、互いに向き合った反射層RF及び半透鏡層HMと、それらの間に介在した光源LSとを含んでおり、前記半透鏡層HMは、MgAgからなる前記バッファ層426であり、前記光源LSは前記発光層420を含んだ積層体であり、 前記第1電極41は、光透過性電極であり、前記第1電極41の背面側には、前記反射層RFが配置されており、 前記有機EL表示装置1の前記画素のうち発光色が青及び緑色の画素に厚さ約100nmの光学調整層70が、発光色が赤色の画素に厚さ約180nmの光学調整層70が、それぞれ前記反射層RFと前記第1電極41との間に配置されており、前記反射層RFと前記半透鏡層HMとの間の光路長Lが前記光学調整層70によって最適化される、 有機EL表示装置1。」 ウ また、上記アの各記載(特に、段落【0011】、【0023】、【0025】、【0035】、【0064】?【0072】参照。)から、引用例2には、「第1電極上に発光層を含んだ活性層が配置され、前記活性層が第2電極で被覆された有機EL素子を含む有機EL表示装置において、マイクロキャビティ構造MCによって発光効率及び色純度を高める効果を、電子・正孔の注入バランスや輝度劣化などに影響を与えることなく、発光色が互いに異なる全ての画素で得るため、発光色毎に反射層RFと半透鏡層HMとの間の光路長Lを設定するための光学調整層を、前記反射層RFと前記第1電極との間に配置し、マイクロキャビティ構造MC中を膜面に対して法線方向に進行する光の干渉次数が整数に近い値となるように、前記光学調整層の厚さを設定する」との技術的事項が記載されていると認められる。 4 本願発明と引用発明1との対比及び判断 (1)対比 本願発明と引用発明1とを対比すると、以下のとおりとなる。 ア 「第1の基板」について 引用発明1の「絶縁基板10」は、本願発明の「第1の基板」に相当する。 イ 「発光層」について 引用発明1の「発光層」は、本願発明の「発光層」に相当する。また、引用発明1の「『第1電極41』及び『第2電極43』」は、本願発明の「一対の電極」に相当し、引用発明1では、「発光層」を含んだ「有機物層42」が、「第1電極41上に」「配置され」るとともに、「第2電極43で被覆され」ていることから、引用発明1の「発光層」と、本願発明の「発光層」は、「一対の電極間に配置された」点で共通する。 ウ 「反射層」について 引用発明1の「反射層70」は、本願発明の「反射層」に相当する。引用発明1は、「光透過性の第1電極41」が「反射層70と向き合うように配置」されている「上面発光型の有機EL表示装置」であるから、「反射層70」は「第1電極41」を透過してきた「発光層」からの光を上面に向けて反射しているものである。よって、引用発明1の「反射層70」と、本願発明の「反射層」は、「発光層からの光を反射する」点で共通する。 エ 「光取り出し層」について 引用発明1の「取り出し層30」は、「発光層が放出する光の進行方向を変えて、前記発光層が放出する光を前記有機EL表示装置1の外部へ高い効率で取り出す」ことを可能とする「回折格子層」からなるものである。ここで、本願の明細書には、「本発明において、光取り出し層は、後述の発光層からの光の方向を積極的に変えて有機EL装置の外部へ光を取り出すものであれば、特に制約はない。」(段落【0024】)及び「なお、本発明において、光取り出し層による発光層からの光を取り出すとは、光取り出し層に入射した光(以下、光取り出し層に限らず、入射光とも称する。)が、最終的に有機EL装置の出射方向に出射し得るように光路を変更することをいう。このような変更の態様としては、例えば、光取り出し層への入射光を任意に散乱したり、入射光を回折したり、屈折率の異なる複数の層を通過させることで入射光を任意に屈折したり、散乱する態様が挙げられる。」(段落【0028】)との記載があるところ、引用発明1の「回折格子層」からなる「取り出し層30」は、「入射光を回折」する態様の「光取り出し層」に他ならない。したがって、引用発明1の「取り出し層30」は、本願発明の「光取り出し層」に相当し、両者は「発光層からの光を取り出す」点で共通する。 オ 「有機EL装置」について 引用発明1の「有機EL表示装置1」は、「前記第1電極41、前記有機物層42、及び前記第2電極43で構成」された「有機EL素子40」を有しており、「有機EL素子40は、その発光層が放出する光が共振するマイクロキャビティ(微小光共振器)構造の少なくとも一部を形成」しているものであるから、引用発明1の「有機EL表示装置1」と、本願発明の「有機EL装置」は、「マイクロキャビティー構造を有」する点で共通する。 (2)一致点及び相違点 上記(1)から、本願発明と引用発明1の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 (一致点) 「第1の基板と、一対の電極間に配置された発光層を有する有機EL装置であって、 前記有機EL装置がマイクロキャビティー構造を有し: 前記発光層からの光を反射する反射層と; 前記発光層からの光を取り出す光取り出し層と; を有する有機EL装置。」 (相違点1)発光層が、本願発明では「膜厚が2nm?500nm」であるのに対し、引用発明1では膜厚が特定されていない点。 (相違点2)反射層が、本願発明では「膜厚が10nm?1,000nm」であるのに対し、引用発明1では膜厚が特定されていない点。 (相違点3)光取り出し層が、本願発明では「膜厚が10nm?5,000nm」であるのに対し、引用発明1では膜厚が特定されていない点。 (相違点4)本願発明は、「前記発光層からみて光出射方向に屈折率が1.0?1.4の低屈折率層を有」するのに対し、引用発明1は低屈折率層を有していない点。 (相違点5)本願発明では、「前記反射層と前記光取り出し層との間に膜厚が10nm?1,000nmの光路長調整層」を有し、「前記光路長調整層が前記反射層と前記光取り出し層とに接するように配置されている」のに対し、引用発明1は光路長調整層を有していない点。 (3)判断 ア 相違点1及び2について (ア)有機EL装置において、反射層として厚さ100?200nm程度のものを用いること、及び発光層として厚さ10?40nm程度のものを用いることは、それぞれ本願の出願時に周知技術であったと認められる(以下「周知技術1」という。当該周知技術について、特開2003-149641号公報の段落【0061】及び【0065】、並びに特開2006-278128号公報の段落【0108】?【0109】及び【0114】等を参照。)。 (イ)引用例1には、「反射層70」及び「発光層」の膜厚を特定のものに限定すべき記載はないことから、引用発明1において「反射層70」(反射層)及び「発光層」(発光層)の膜厚を適宜設定することは当業者の設計的事項であり、本願の出願時における上記周知技術1を考慮すると、「反射層70」の膜厚を100?200nmの範囲の値、「発光層」の膜厚を10?40nmの範囲の値とすることで、上記相違点1及び2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なしえたことである。 イ 相違点3について (ア)有機EL装置において、光取り出し層として機能する回折格子層として、その膜厚が100nm?2000nmという範囲内の値であるものはa?dで示されるとおり本願の出願時に周知技術であったと認められる(以下「周知技術2」という。)。 a 特開2005-268046号公報の段落【0029】?【0030】、【0032】及び図3?4には、有機EL素子における光の外部取出効率を向上させるための回折格子13aを、厚さ1μm程度の窒化シリコン層からなる高屈折率層12上に形成された深さ250nmの溝と、膜厚50nmのシリコン酸化膜層13で形成することが記載されており、回折格子13aを形成する層の厚さとしては1050nm程度のものが記載されている。 b 特開2006-269163号公報の段落【0065】?【0069】、【0117】?【0125】及び図4?5には、有機EL素子における光取り出し層203として、厚み約2μmのポリメチルメタクリレートを塗布後に回折格子として機能する深さ100nmの凹凸を正方格子状に形成することが記載されており、光取り出し層203の厚さとしては約2000nmのものが記載されている。 c 特開2006-100430号公報の段落【0004】?【0005】、【0051】?【0058】及び図4には、有機EL素子の光取り出し効率を高めるための回折格子30として、厚さ100nmの有機物からなる薄膜31に凹部を設け、当該凹部をLow-k膜32で埋め込んだものを用いることが記載されており、回折格子30の層の厚さとしては100nmのものが記載されている。 d 特開2006-221976号公報の段落【0005】?【0006】、【0059】?【0064】及び図8には、有機ELディスプレイにおいて光取り出し効率を上げるための回折格子として、200nmの高さのSiN膜82に回折パターンを形成することが記載されており、回折格子の層の厚さとしては200nmのものが記載されている。 (イ)引用発明1の「取り出し層30」(光取り出し層)は、「発光層が放出する光の進行方向を変えて、前記発光層が放出する光を前記有機EL表示装置1の外部へ高い効率で取り出す」ことを可能とする回折格子層である。 (ウ)引用例1には、「取り出し層30」の膜厚を特定のものに限定すべき記載はないことから、引用発明1において「取り出し層30」(光取り出し層)の膜厚を適宜設定することは当業者の設計的事項であり、本願の出願時における上記周知技術2を考慮すると、「取り出し層30」の膜厚を100nm?2000nmの範囲の値とすることで、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なしえたことである。 ウ 相違点4について (ア)発光素子からの光の取り出し効率を高めるために、保護層と電極との間に屈折率1.01?1.30の低屈折率層を設けることは、本願の出願時に周知技術であったと認められる(以下「周知技術3」という。当該周知技術について、特開2002-278477号公報の段落【0006】?【0009】、【0039】、【0044】及び図3、特開2003-133070号公報の段落【0023】、【0149】、【0161】及び図12、等を参照。)。 (イ)引用例1には、「有機EL表示装置の取り出し効率を高める」という課題が記載されている(上記3(1)ア(ア)の段落【0004】参照。)。よって、引用発明1において、発光層からの光の取り出し効率をさらに高めるため、当該周知技術3を適用し、「第2電極43」と「保護膜80」に屈折率1.01?1.30の低屈折率層を設けることで、上記相違点4に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到しえたことである。 (ウ)あるいは、有機EL素子において、光の取り出し効率を高めるために、ガラスなどの封止材と電極との間に不活性ガスで満たされたギャップを設けることは、本願の出願時に周知技術であったと認められる(以下「周知技術4」という。当該周知技術について、特開2003-264083号公報の段落【0017】、【0033】?【0034】及び図1、並びに、特開2001-196164号公報の段落【0004】、【0007】、【0012】及び図1等を参照。)。また、不活性ガスの屈折率は1.0である。 (エ)引用例1には、「有機EL表示装置の取り出し効率を高める」という課題が記載されており(上記3(1)ア(ア)の段落【0004】参照。)、保護膜封止の代わりにガラス封止を行うことが示唆されている(上記3(1)ア(イ)の段落【0026】参照。)。よって、引用発明1において、保護膜封止の代わりにガラス封止を行う際、発光層からの光の取り出し効率をさらに高めるため、当該周知技術4を適用し、「第2電極43」と「保護膜80」に屈折率1.0の不活性ガスを設けることで、上記相違点4に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到しえたことである。 エ 相違点5について (ア)引用例2には、上記3(2)ウのとおり、「第1電極上に発光層を含んだ活性層が配置され、前記活性層が第2電極で被覆された有機EL素子を含む有機EL表示装置において、マイクロキャビティ構造MCによって発光効率及び色純度を高める効果を、電子・正孔の注入バランスや輝度劣化などに影響を与えることなく、発光色が互いに異なる全ての画素で得るため、発光色毎に反射層RFと半透鏡層HMとの間の光路長Lを設定するための光学調整層を、前記反射層RFと前記第1電極との間に配置し、マイクロキャビティ構造MC中を膜面に対して法線方向に進行する光の干渉次数が整数に近い値となるように、前記光学調整層の厚さを設定する」との技術的事項が記載されている。 (イ)引用発明1において、「有機EL表示装置1」(有機EL装置)は、「マイクロキャビティ(微小光共振器)構造の少なくとも一部を形成している」「有機EL素子40」「を含む複数の画素がマトリクス状に配列」したものであり、引用例1(上記3(1)ア(イ)の段落【0019】及び【0038】を参照。)には、「発光層」として「発光色が赤色、緑色、又は青色」のものを用い、「取り出し層30」について「赤、緑、青色などの発光色に応じて回折格子の格子定数を定める」ことが記載されている。よって、引用例1には、引用発明1においてマイクロキャビティ構造を備えたそれぞれの画素が複数の色で発光することが示唆されているといえる。しかるに、マイクロキャビティ構造MCによって発光効率及び色純度を高める効果が、電子・正孔の注入バランスや輝度劣化などに影響を与えることなく、全ての画素で得られたほうが望ましいことは当業者にとって自明である。 (ウ)よって、引用発明1において、マイクロキャビティ構造を備えたそれぞれの画素が複数の色で発光する際、マイクロキャビティ構造MCによって発光効率及び色純度を高める効果を、電子・正孔の注入バランスや輝度劣化などに影響を与えることなく、全ての画素で得るために、引用例2に記載の技術的事項を適用し、光路長を設定するための「光学調整層」(本願発明の「光路長調整層」に相当する。)を、「反射層70」(反射層)と「第1電極41」との間に設けることは、当業者が容易に想到しえたことである。その際、「光学調整層」(光路長調整層)の位置として、「反射層70」と「取り出し層30」の間を選択することは、当業者が適宜なし得た設計上の事項にすぎない。また、「光学調整層」(光路長調整層)の厚さは、各色のマイクロキャビティ構造内の干渉次数がそれぞれ整数に近い値になるよう、各色の波長、各層の屈折率及び膜厚等に基づいて適宜決定するものであるところ、引用例2(上記3(2)ア(オ)の段落【0071】?【0072】参照。)には、発光色が青及び緑色の画素にのみ厚さ約100nmの光学調整層を配置することや、発光色が青及び緑色の画素に厚さ約100nmの光学調整層を配置し、発光色が赤色の画素に厚さ約180nmの光学調整層を配置することが例示されていることからみて、引用発明1に設けた「光学調整層」(光路長調整層)の厚さを10nm?1,000nmの範囲を満たす値とすることは格別のものではない。したがって、引用発明1に引用例2に記載の技術的事項を適用し、上記相違点5に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到しえたことである。 (4)効果 上記相違点1?5に係る本願発明の発明特定事項により奏される効果について、格別顕著な点は見いだせない。 (5)小括 以上のとおり、本願発明は、出願前に日本国内または外国において頒布された引用例1に記載された引用発明1、引用例2に記載の技術的事項及び各周知技術に基づいて、出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 5 本願発明と引用発明2との対比及び判断 (1)対比 本願発明と引用発明2とを対比すると、以下のとおりとなる。 ア 「第1の基板」について 引用発明2の「絶縁基板10」は、本願発明の「第1の基板」に相当する。 イ 「発光層」について 引用発明2の「発光層420」は、本願発明の「発光層」に相当する。また、引用発明2の「『第1電極41』及び『第2電極43』」は、本願発明の「一対の電極」に相当し、引用発明2では、「発光層420」を含んだ「活性層42」が、「第1電極41上に」「配置され」るとともに、「第2電極43で被覆され」ていることから、引用発明2の「発光層420」と、本願発明の「発光層」は、「一対の電極間に配置された」点で共通する。 ウ 「反射層」について 引用発明2は、「互いに向き合った反射層RF及び半透鏡層HMと、それらの間に介在した光源LSとを含」む「マイクロキャビティ構造MC」が形成された「上面発光型の有機EL表示装置」であるから、光源LSからの光を反射層RFで反射し、少なくとも一部の光を半透鏡層HMで反射して共振させていることは明らかである。そして、「光源LSは前記発光層420を含」むことから、引用発明2の「反射層RF」と、本願発明の「反射層」は、「発光層からの光を反射する反射層」である点で一致する。 エ 「光路長調整層」について 引用発明2の「光学調整層70」は、「反射層RFと前記半透鏡層HMとの間の光路長L」を「最適化」するものであるから、本願発明の「光路長調整層」に相当する。引用発明2の「光学調整層70」は、膜厚が「約100nm」及び「約180nm」であることから、本願発明の「光路長調整層」と「膜厚が10nm?1,000nm」である点で共通する。 オ 「有機EL装置」について 引用発明2の「有機EL表示装置1」は、本願発明の「有機EL装置」に相当する。引用発明2の「有機EL表示装置1」には、「マイクロキャビティ構造MC」が形成されていることから、引用発明2の「有機EL表示装置1」と、本願発明の「有機EL装置」は、「マイクロキャビティー構造を有」する点で共通する。 カ 「低屈折率層」について 引用発明2の「密閉空間」は、「窒素ガスなどの不活性ガスが充填されているか又は真空」である。ここで、本願の明細書には、「低屈折率層の構造及び大きさ等については、上記の条件を満たすものであれば、特に制約はなく、加圧の点で、空気などからなる中空の層の態様であってもよく」(段落【0145】)及び「この封止用ガラス部材においてこのようにしてザグリ加工された部分には、空気(屈折率n=1)で満たされた中空で構成された低屈折率層が形成された。」(段落【0196】)と記載されており、本願発明の「低屈折率層」は「空気」の層を含むものである。また、「窒素ガス」及び「真空」の屈折率はいずれも1.0である。よって、引用発明2の「密閉空間」は、本願発明の「低屈折率層」に相当し、両者は「屈折率が1.0?1.4」である点で共通する。また、引用発明2の「密閉空間」は、「アレイ基板2と、封止部材3とを含む上面発光型の有機EL表示装置1」における「前記アレイ基板2と前記封止部材3との間」に形成されているものであり、上面発光型の有機EL表示装置は封止部材側に光出射するものであるから、引用発明2の「密閉空間」は、「アレイ基板2」に形成された「活性層42」に含まれる「発光層420」からみて光出射側に形成されているといえる(現に、引用例2の図1及び図2からも、そのような構成となっていることが理解できる。)。よって、引用発明2の「有機EL表示装置1」と、本願発明の「有機EL装置」は、「前記発光層からみて光出射方向に屈折率が1.0?1.4の低屈折率層を有」する点で共通する。 (2)一致点及び相違点 上記(1)から、本願発明と引用発明2の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 (一致点) 「第1の基板と、一対の電極間に配置された発光層を有する有機EL装置であって、 前記有機EL装置がマイクロキャビティー構造を有し: 前記発光層からの光を反射する反射層と; 膜厚が10nm?1,000nmの光路長調整層と; 前記発光層からみて光出射方向に屈折率が1.0?1.4の低屈折率層を有する有機EL装置。」 (相違点1)発光層が、本願発明では「膜厚が2nm?500nm」であるのに対し、引用発明2では膜厚が特定されていない点。 (相違点2)反射層が、本願発明では「膜厚が10nm?1,000nm」であるのに対し、引用発明2では膜厚が特定されていない点。 (相違点3)本願発明は、「発光層からの光を取り出す膜厚が10nm?5,000nmの光取り出し層」を有するのに対し、引用発明2は光取り出し層を有していない点。 (相違点4)光路長調整層が、本願発明では、「反射層と前記光取り出し層との間に」「反射層と前記光取り出し層とに接するように配置されている」のに対し、引用発明2では、「反射層RFと前記第1電極41との間」に配置されている点。 ア 相違点1及び2について (ア)有機EL装置において、上記4(3)ア(ア)において周知技術1として示したとおり、反射層として厚さ100?200nm程度のものを用いること、及び発光層として厚さ10?40nm程度のものを用いることは、それぞれ本願の出願時に周知技術であったと認められる。 (ウ)引用例2には、「反射層RF」及び「発光層420」の膜厚を特定のものに限定すべき記載はないことから、引用発明1において「反射層RF」及び「発光層420」の膜厚を適宜設定することは当業者の設計的事項であり、本願の出願時における上記周知技術1を考慮すると、「反射層RF」(反射層)の膜厚を100?200nmの範囲の値、「発光層420」(発光層)の膜厚を10?40nmの範囲の値とすることで、上記相違点1及び2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なしえたことである。 イ 相違点3について (ア)引用例1には、上記3(1)ウのとおり、「第1電極上に発光層を含んだ有機物層が配置され、前記有機物層が第2電極で被覆された有機EL素子を含む有機EL表示装置において、前記第1電極及び前記有機物層を含むマイクロキャビティ構造内の膜面方向に伝播する光を外部に取り出すため、回折格子層からなる取り出し層を反射層と前記第1電極との間に設け、前記発光層が放出する光の進行方向を変えることで、前記発光層が放出する光を、前記有機EL表示装置の外部へより高い効率で取り出す」との技術的事項が記載されている。 (イ)引用発明2において、「有機EL表示装置1」(有機EL装置)は、「マイクロキャビティ構造MCの少なくとも一部を形成して」いる「有機EL素子40」「を含む複数の画素がマトリクス状に配列」したものである。引用例2(上記3(2)ア(ア)の段落【0005】参照。)には、マイクロキャビティ構造を採用することで、表示装置の発光効率を高められることが記載されているところ、当該構造における光の取り出し効率を高めたほうが望ましいことは当業者に自明である。 (ウ)よって、引用発明2において、マイクロキャビティ構造を採用した有機EL表示装置の光の取り出し効率を高めるため、引用例1に記載の技術的事項を適用し、回折格子層からなる「取り出し層」(本願発明の「光取り出し層」に相当する。)を、「反射層RF」(反射層)と「第1電極41」との間、具体的には、「反射層RF」(反射層)と「光学調整層70」(光路長調整層)の間、あるいは「光学調整層70」(光路長調整層)と「第1電極41」との間に設けることは、いずれも当業者が容易に想到しえたことである。その際、引用発明2に設ける「取り出し層」の膜厚を適宜設定することは当業者の設計的事項であるところ、上記4(3)イ(ア)に周知技術2として示したとおり、有機EL装置に用いられる光取り出し層として機能する回折格子層として、その膜厚が100nm?2000nmという範囲内の値であるものは本願の出願時に周知技術であったと認められることから、当該周知技術2を考慮すると、引用発明2に引用例1に記載の技術的事項を適用する際、「取り出し層」(光取り出し層)の膜厚を100nm?2000nmの範囲の値とすることで、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なしえたことである。 ウ 相違点4について 上記イ(ウ)に記載したとおり、引用発明2に引用例1に記載の技術的事項を適用し、回折格子層からなる「取り出し層」を、「反射層RF」(反射層)と「光学調整層70」(光路長調整層)の間、あるいは「光学調整層70」(光路長調整層)と「第1電極41」との間に設けることは、いずれも当業者が容易に想到しえたことであるところ、光取り出し層を設けるに際して、どちらの位置を選択するかは、当業者が適宜なし得た設計上の事項にすぎない。引用発明2は、「反射層RF」(反射層)と「第1電極41」との間に「光学調整層70」(光路長調整層)を含み、それ以外の層は含まれていないところ、引用発明2に引用例1に記載の技術的事項を適用して、回折格子層からなる「取り出し層」を、「光学調整層70」(光路長調整層)と「第1電極41」との間に設けることとした場合には、「光学調整層70」(光路長調整層)は、「反射層RF」(反射層)と「取り出し層」との間に両層に接して配置されることとなる。 よって、引用発明2に引用例1に記載の技術的事項を適用し、上記相違点4に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到しえたことである。 (4)効果 上記相違点1?4に係る本願発明の発明特定事項により奏される効果について、格別顕著な点は見いだせない。 (5)小括 以上のとおり、本願発明は、出願前に日本国内または外国において頒布された引用例2に記載された引用発明2、引用例1に記載の技術的事項及び各周知技術に基づいて、出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 6 むすび 以上のとおりであるから、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-02-02 |
結審通知日 | 2016-02-09 |
審決日 | 2016-02-24 |
出願番号 | 特願2009-208302(P2009-208302) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H05B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 井亀 諭、後藤 慎平 |
特許庁審判長 |
藤原 敬士 |
特許庁審判官 |
佐竹 政彦 清水 康司 |
発明の名称 | 有機EL装置 |
代理人 | 廣田 浩一 |