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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1316765
審判番号 不服2015-20153  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-10 
確定日 2016-07-26 
事件の表示 特願2011- 83926「耐移行性通信ケーブル」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月12日出願公開、特開2012-221628、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年4月5日の出願であって、平成27年6月26日付けで拒絶理由が通知され、平成27年8月10日付けで手続補正がされ、平成27年10月7日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成27年11月10日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1-2に係る発明は、平成27年8月10日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-2に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「【請求項1】1本又は複数本の導体と、
前記導体上に被覆された絶縁体と、
前記絶縁体の外周に形成されたシールド層と、
前記シールド層を被覆する可塑剤を有する絶縁性のシースと、
前記絶縁体と前記シースとの間に設けられ、前記絶縁体の外周を覆って前記シースから前記絶縁体への可塑剤の移行を抑制する二軸延伸されたフィルム層と、を備え、
前記フィルム層は、少なくとも4μm以上の厚さを有する
ことを特徴とする耐移行性通信ケーブル。」

第3 原査定の理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1には、複数本の導体、絶縁体、細長いアルミテ-プの両側を接着し円筒形としたシ-ルド層、プラスチツク層(請求項1-2における「フィルム層」に対応)、最外層にポリ塩化ビニルからなるジヤケツト層(請求項1-2における「シース」に対応)を、中心から径方向に順に設けたデータ伝送用シールド付きケーブルが記載されているとともに、プラスチツク層は、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムであるマイラーTM(Mylar(R))からなる2軸延伸熱可塑性フィルムであることが記載(特に、2頁左欄-3頁右欄、FIG.2を参照されたい。)されているところ、プラスチツク層の厚さについて記載はない。
ここで、本願出願前に、塩化ビニル樹脂に含まれる可塑剤が他の物体に移行してそのものの特性を低下することは、ケーブル分野のみならずケーブル分野以外の幅広い技術分野において公知又は周知な課題であり、ケーブル分野においては、塩化ビニル樹脂を用いたシース材に含まれる可塑剤が絶縁体に移行してケーブルの特性を低下することは、当業者にとって自明な課題である。そして、本願出願前に、粘着シートの分野において、軟質塩化ビニル樹脂シートに含まれる可塑剤の移行を低減するために、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを介在させて、軟質塩化ビニル樹脂シートに含まれる可塑剤の透過を遮蔽する技術は文献2に開示(特に、段落0010を参照されたい。)されているとおり周知な技術である。さらに、文献2には、厚さ0.01mm以上(10μm以上)のPETフィルムは、移行する可塑剤を遮蔽する遮蔽性に優れることが開示されている。
これより、引用文献1記載のPETフィルムからなるプラスチツク層の厚さを、周知技術を用いて、塩化ビニルに含まれる可塑剤の移行を効果的に遮蔽するために10μm以上とすることは、当業者であれば容易に想到し得るものである。加えて、引用文献1記載のポリ塩化ビニルからなるジヤケツト層は、可塑剤を含むことは自明な事項である。
これより、請求項1-2に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び文献2に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、依然として、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.米国特許出願公開第2006/0054334号明細書
2.特開平11-42731号公報

第4 当審の判断
1.引用文献の記載事項
(1)原査定で引用された米国特許出願公開第2006/0054334号明細書(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次のとおりの記載がある。
「[0022] In this embodiment, each of the conductors 110 is coated with an insulation 112, such as a plastic material. The outer periphery of the insulation 112 is successively covered with a shielding tape 114, two layers of polymeric tapes 116 and 118, and a jacket 120 as an optional component.
[0023] In a preferred embodiment, a grounding drain wire 122 is also provided along the insulated conductors 110, so as to be contained inside the shielding tape 114 together with the conductors 110. The conductors 110 (coated with the insulation 112) and the drain wire 122 constitute the core of the cable. The position of the drain wire 122 is not confined as shown in FIGS. 1 and 2 . The drain wire 122 may be located in a horizontal position so as to be adjacent to or in between the conductors 110 like a flat ribbon tape structure. Various drain wire positions are known in the art and could be used in the present invention.
[0024] Various methods can be considered for covering the conductors 110(coated with the insulation 112) with the shielding tape 114. Preferably, the conductors 110 may be longitudinally wrapped with the shielding tape 114 such that both ends of the shield tape 114 overlap each other along the longitudinal direction of the conductors 110 , as shown in FIG. 1 . This is referred to herein as a "longitudinal wrap."
[0025] When the data transmission cables according to the present invention are differential data transmission cables, at least a pair of conductors contained inside the cable 100 are located in a state parallel to each other.
[0026] The conductors 110 are composed of a single wire conductor formed of, for example, a soft copper wire, a tin-plated soft copper wire, a silver-plated copper alloy wire, and the like or of a stranded wire conductor made by stranding the single wires. Other metal materials, such as aluminum, steel, and the like that are commonly used in making conductors for cables, are appropriate for the present invention. The preferred conductor material is silver plated copper.
[0027] The insulation 112 is preferably composed of a polymeric material which can be, but is not limited to, polyethylene, polypropylene, copolymer of ethylene and tetrafluoroethylene(ETFE),copolymer of tetrafluoroethylene and hexafluiropropylene(FEP), polytetrafluoroethylene(PTFE) resin, copolymer of tetrafluoroethylene and perfluoroalkoxy(PFA), fluorine-containing rubber, or mixtures thereof. The preferred insulation material is polyethylene.
[0028] Referring to FIGS. 3 a and 3b, the shielding tape 114, in accordance with a preferred embodiment of the present invention, includes a metallic sheet 300 coated with an adhesive 302 on the surface of the metallic sheet 300 that faces the insulated conductors 110. The adhesive layer preferably extends over only pre-selected portions of the surface of the metallic sheet 300 so, as shown in FIG. 3b, a plurality of spaced contact pads 306 are provided on the coated surface of the tape. The contact pads 306 are uncoated portions of the coated surface where the metal is exposed. When longitudinally wrapped around the core, the adhesive bonds and seals the overlapping edge portions of the tape together, and metal-to-metal contact is effected between the uncoated pads of the metallic layer and the drain wire 122. Further, the adhesive also secures the shielding tapes to the core, thus minimizing one leg of the core sliding in relation to the other when the cable is bent. The shielding tapes disclosed in U.S. Pat. No.4,746,767 to Gruhn and U.S. Pat. No.5,008,489 to Weeks, Jr. et al., which are incorporated herein by reference, are suitable for the present invention.
[0029] Referring back to FIG. 2, in accordance with a preferred embodiment, surrounding the shielding tape 114 are two layers of polymeric tapes 116 and 118 comprised of a polymeric sheet having an adhesive on one surface thereof to form an adhesive tape. The polymeric tapes 116 and 118 are wrapped spirally around the shielding tape 114, in reverse directions relative to each other. For example, if the first polymeric tape 116 is wrapped in a clockwise direction, the second polymeric tape 118 is wrapped in a counterclockwise direction; and vice versa. The polymeric tapes 116 and 118 are preferably constructed of a plastic, such as Mylar^((R)), a polyester film manufacturered by Dupont. Specifically, Mylar^((R)) is a biaxially oriented, thermoplastic film made from ethylene glycol and dimethyl terephthalate(DMT). In a preferred embodiment, the tapes are wrapped such that the adhesive coated surfaces face each other to bind the polymeric tapes together. In such preferred embodiment, the interface between the first polymeric tape 116 and the shielding tape 114 contains no adhesive. Besides Mylar^((R)), other polymeric films, such as Kapton^((R)), are also appropriate for the present invention.
[0030] The jacket 120, although optional, is preferably composed of a polymeric resin, which can be, but is not limited to, polyvinyl chloride(PVC), polyethylene, polypropylene, copolymer of ethylene and tetrafluoroethylene(ETFE),copolymer of tetrafluoroethylene and hexafluiropropylene(FEP), polytetrafluoroethylene(PTFE) resin, copolymer of tetrafluoroethylene and perfluoroalkoxy(PFA), fluorine-containing rubber, and combinations thereof. The jacket 120 can be extruded around the outer periphery of the polymeric tapes 116 and 118 in a uniform thickness by an extruder, or the like.」
(当審訳:[0022] 本実施形態では、各々の導体110は、プラスチック材料のような、絶縁体112で被覆されている。絶縁体112の外周は、シールドテープ114、ポリマーテープ116及び118の二つの層、および任意構成要素としてのジャケット120の順に覆われている。
[0023] 好ましい実施形態では、接地ドレイン線122が、導体110と一緒にシールドテープ114の内部に収容されるように、絶縁導体110に沿って設けられる。導体110(絶縁体112で被覆された)とドレイン線122は、ケーブルのコアを構成する。ドレイン線122の位置は図1,2には限定されない。ドレイン線122は、フラットリボンテープ構造のように、導体110に隣接または間に平行となるように配置される。種々のドレイン線の配置は、当技術分野で公知であり、本発明で使用される。
[0024]様々な方法が、導体110(絶縁体112で被覆された)をシールドテープ114で覆うために考えられる。好ましくは、図1に示すように、シールドテープ114の両端が導体110の長手方向に沿ってお互いに重なるように、導体110は、長手方向にシールドテープ114で包まれる。これを、「縦ラップ」と呼ぶ。
[0025]本発明に係るデータ伝送ケーブルが、差動データ伝送ケーブルである場合、ケーブル100内に含まれる導体の少なくとも一対は、互いに平行な状態で配置される。
[0026] 導体110は、例えば、軟銅線、錫メッキ軟銅線、銀めっき銅合金線等で形成された単線導体、または単線をよった、より線導体で構成される。例えば、アルミニウム、鋼、及び一般にケーブルの導体を製造するのに使用されるような他の金属材料は、本発明に適している。好適な導体材料は、銀メッキされた銅である。
[0027] 絶縁体112は、好ましくは、ポリマーであり、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシ共重合体(PFA)、フッ素ゴム、またはこれらの混合物が挙げれるが、これらに限定はされない。好ましい絶縁材料は、ポリエチレンである。
[0028]図3a及び図3bを参照すると、本発明の好ましい実施形態によれば、シールドテープ114は、金属シート300の絶縁導体110に対向する面に接着剤302で覆った金属シート300を含む。接着材層は、好ましくは、金属シート300の予め選択された部分のみに形成され、図3bに示すように、複数の離間した接触パッド306がテープの接着材層表面に設けられる。接触パッド306は、接着材層の接着材の設けられていない金属が露出した部分である。コアの周りに長手方向に巻き付ける場合、接着材はテープの重なった端部分を結合、密着し、金属接触は、金属層の接着材の形成されていないパッドとドレイン線122との間で行われる。さらに、接着剤は、コアへのシールドテープの固定を確実にし、ケーブルを曲げたときに互いのコアのずれを最小化する。シールドテープは、米国特許第4746767(Gruhn)、米国特許第5008489(Weeks,Jr.)に開示され、参照により本明細書に組み込まれ、本発明に適している。
[0029]図2に戻り、好ましい実施形態によれば、シールドテープ114を包囲するのは、接着テープをなすように、その一方の面に接着剤を有するポリマーシートからなるポリマーテープ116及び118の二つの層である。ポリマーテープ116および118は、互いに逆方向に、シールドテープ114の周りに螺旋状に巻かれる。例えば、第1のポリマーテープ116を時計方向に巻いた場合、第2のポリマーテープ118は反時計回りに巻き、逆の場合は、その逆になる。ポリマーテープ116および118は、好ましくは、マイラー(登録商標)のようなデュポン社製のポリエステルフィルムのようなプラスチックで構成される。具体的には、マイラー^((R))は、エチレングリコールとテレフタル酸ジメチル(DMT)から作られた二軸延伸熱可塑性フィルムである。好ましい実施形態では、テープは、接着剤コーティングされた表面が、ポリマーテープを一緒に結合するように互いに対向するように巻かれる。このような好ましい実施形態では、第1のポリマーテープ116とシールドテープ114との間の界面には接着剤を含まない。マイラー^((R))の他に、例えば、カプトン^((R))のような他のポリマーフィルムもまた、本発明に適している。
[0030] ジャケット120は、オプションであるが、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンとテトラフルオロエチレン(ETFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシ共重合体(PFA)、フッ素ゴム、及びこれらの組み合わせなどのポリマー樹脂が好ましいが、これらに限定はされない。ジャケット120は、押出機などによって均一な厚さのポリマーテープ116および118の外周に押出すことができる。)
(下線は、注目部分に当審が付した。)

下線部、図1,2によると、引用文献1には、
「2本の導体110と、
前記導体110上に被覆された絶縁体112と、
前記絶縁体112の外周に巻かれたシールドテープ114と、
前記シールドテープ114を包囲するように巻かれたポリマーテープ116,118と、
前記ポリマーテープ116,118の外周に形成されたポリマー樹脂材料のジャケット120とを有し、
前記、ポリマーテープ116,118は、二軸延伸熱可塑性フィルムである、
データ伝送ケーブル。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(2)原査定において、周知技術として挙げられた特開平11-42731号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次のとおりの記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、たとえば遮音材、制振材、緩衝材等に用いられる粘着加工された可塑剤を含む軟質合成樹脂シートにおいて粘着力の低下による位置ずれや剥離、落下を防止するシート材に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、遮音、制振、緩衝等の種々の機能をもたせた軟質合成樹脂シートが使用されているが、製造や施工を簡略にするため、このシートに粘着加工を行うことが多くなってきている。
【0003】
しかしながら、軟質合成樹脂シートは可塑剤を含有しているため、この可塑剤が粘着剤層へ移行し、粘着剤の粘着力を低下させシートの位置ずれや剥離、落下をおこすという課題を有する。」
「【0017】
【作用】
本発明に係る粘着シート材では、軟質合成樹脂シートと粘着剤層との間に遮蔽フィルムが介在してあるので、粘着シート材が高温にさらされたり、荷重が作用したり、長期間にわたって使用されたとしても、軟質合成樹脂シートに含まれる可塑剤が、粘着剤層まで移行することはなくなる。また、粘着剤層に含まれる溶剤が軟質合成樹脂シートまで移行することもなくなる。このため、粘着剤層の粘着力が長期にわたり低下しないと共に、軟質合成樹脂シートの物性も低下せず、シート材が装着された部分の位置ずれ、剥離、落下などを長期にわたり有効に防止することができる。」

2.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、
引用発明の「2本の導体110」、「導体110上に被覆された絶縁体112」、「絶縁体112の外周に巻かれたシールドテープ114」は、それぞれ、本願発明の「1本又は複数本の導体」、「導体上に被覆された絶縁体」、「絶縁体の外周に形成されたシールド層」に相当する。
また、引用発明において、ジャケット120のポリマー樹脂材料が絶縁体であることは明らかであり、ジャケット120はシールドテープ114の外周側にあるから、引用発明の「ポリマーテープ116,118の外周に形成されたポリマー樹脂材料のジャケット120」と本願発明の「シールド層を被覆する可塑剤を有する絶縁性のシース」とは、いずれも、「シールド層を被覆する絶縁性のシース」である点で共通する。
また、引用発明の「ポリマーテープ116,118」と本願発明「フィルム層」とは、いずれも、「絶縁体とシースとの間に設けられ、絶縁体の外周を覆う二軸延伸されたフィルム層」である点で共通する。
また、引用発明の「データ伝送ケーブル」は、「通信ケーブル」ともいい得るものである。

以上によれば、本願発明と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

[一致点]
「1本又は複数本の導体と、
前記導体上に被覆された絶縁体と、
前記絶縁体の外周に形成されたシールド層と、
前記シールド層を被覆する絶縁性のシースと、
前記絶縁体と前記シースとの間に設けられ、前記絶縁体の外周を覆う二軸延伸されたフィルム層と、を備える、
通信ケーブル。」

[相違点1]
絶縁性のシースが、本願発明では「可塑剤」を有するのに対し、引用発明ではそのような特定のない点。
[相違点2]
フィルム層が、本願発明では「シースから前記絶縁体への可塑剤の移行を抑制する」ものであるのに対し、引用発明ではそのような特定のない点。
[相違点3]
フィルム層が、本願発明では「少なくとも4μm以上の厚さを有する」とされているのに対し、引用発明では厚さが特定されていない点。
[相違点4]
通信ケーブルが、本願発明では「耐移行性」と特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定のない点。

3.判断
[相違点2]、[相違点3]について検討する。
引用発明の「二軸延伸されたフィルム層(二軸延伸熱可塑性フィルム)」が何を意図して設けられているのかは、引用文献1の記載からは明らかでないが、引用文献1に可塑剤について記載がないこと、「引用発明のような通信ケーブルにおいては可塑剤の移行が絶縁体に悪影響を及ぼす」ということが、本願出願前に知られていたことを示す証拠は見当たらないこと、等を考慮すると、それが可塑剤の移行の抑制を意図して設けられたものではないことは明らかである。
一方、仮にシースに可塑剤を含ませることが周知であり、引用発明のシース(ジャケット120)に可塑剤を含ませることが、当業者が普通に行うことであったとしても、その「可塑剤」と引用発明の「二軸延伸されたフィルム層」の各材質の組合せについては、無数の組合せが想定され、その想定される全て、あるいは大半の組合せが「可塑剤の移行を抑制する」組合せであることを認め得る証拠はない。
さらに、「二軸延伸されたフィルム層」の厚さについても、その設置目的により、適正な範囲は当然に異なると考えられる。
以上のことは、相違点2、3に係る本願発明の構成を、引用発明を普通に実施したものが当然に有することになる構成であるとはいえないことを意味する。
したがって、上記「可塑剤」(シースに含ませられることがある可塑剤)と引用発明の「二軸延伸されたフィルム層」の各材質の組合せを「可塑剤の移行を抑制する」組合せとし、さらにその「二軸延伸されたフィルム層」の厚さを4μm以上とすることは、そうすることが有益であるという知見を示す証拠がない限り、容易になし得たこととはいえないが、そのような知見を示す証拠は見当たらない。
この点、引用文献2は、可塑剤の移行を抑制すべき場合があることを示す文献ではあるものの、粘着シート材の粘着力の低下を防止するために可塑剤の移行を抑制することが有益であることを示すものに過ぎず、上記「可塑剤」(シースに含ませられることがある可塑剤)と引用発明の「二軸延伸されたフィルム層」の各材質の組合せを「可塑剤の移行を抑制する」組合せとし、さらにその「二軸延伸されたフィルム層」の厚さを4μm以上とすることの有益性を示すものとはいえない。
以上のことは、引用発明において、上記相違点2、3に係る本願発明の構成を採用することが、当業者にとって容易であったとは認められないことを意味する。

したがって、本願発明は、他の相違点を検討するまでもなく、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項2に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1-2に係る発明は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-07-11 
出願番号 特願2011-83926(P2011-83926)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 木村 励  
特許庁審判長 新川 圭二
特許庁審判官 山澤 宏
高瀬 勤
発明の名称 耐移行性通信ケーブル  
代理人 中村 信雄  

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