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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1316789
審判番号 不服2015-6757  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-09 
確定日 2016-07-15 
事件の表示 特願2012-529070「電子財布のための資産価値記憶、転送システム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月24日国際公開、WO2011/032257、平成25年 2月14日国内公表、特表2013-505487〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成22年3月30日(パリ条約による優先権主張:平成21年9月17日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成26年2月19日付けで拒絶理由通知がなされ,平成26年5月23日付けで意見書とともに手続補正書が提出されたが,平成26年12月5日付けで拒絶査定がなされ,これに対して平成27年4月9日付けで拒絶査定不服審判請求がなされたものである。

第2 本願発明について
特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成26年5月23日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

(本願発明)
「通信媒体と,少なくとも2つの電子財布と,を備える電子資産交換システムであって,
前記電子財布のそれぞれは,
前記通信媒体を介してメッセージを送受信するよう構成されたインターフェイスと,
少なくとも現在の資産価値の額と,それぞれ特異な識別子と,資産転送のログと,を記憶するメモリと,
前記インターフェイスおよび前記メモリに動作的に結合したコントローラと,
を備え,該コントローラは,命令コードの制御下で
a)前記インターフェイスを介して,少なくとも転送すべき資産価値の額を含む資産転送メッセージを受け取り,転送インプロセスを実行して対応する資産価値の転送を前記電子財布に記録し,該転送インプロセスは,受け取った資産転送メッセージを前記ログに記録された先に受け取った資産転送メッセージと比較することにより,受け取った資産転送メッセージが重複であるかどうか判定するステップ,前記受け取った資産転送メッセージが重複でないならば,前記現在の資産価値の額を転送すべき資産価値の額だけ増加させるステップ,および資産転送の情報を前記ログに記録するステップを含む,
b)前記インターフェイスを介して,少なくとも転送すべき資産価値の額を含む資産転送メッセージを受け取り,転送アウトプロセスを実行して前記電子財布からの対応する資産価値の転送を記録し,該転送アウトプロセスは,前記現在の資産価値の額が転送すべき資産価値の額以上であるかどうかを判定するステップ,前記判定が肯定であるならば,転送すべき資産価値の額を含む資産転送メッセージを生成して送信するステップ,前記現在の資産価値の額を前記転送すべき資産価値の額だけ減らすステップ,および資産転送の情報を前記ログに記録するステップを含む,
上記a),b)を行う,前記電子資産交換システム。」

第3 当審の判断
1.引用例
原審の拒絶理由に引用された特開2003-44769号公報(以下,「引用例」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

(1)「【0012】
【発明の実施の形態】以下,本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下では,価値譲渡情報をメールで交換する電子財布端末と,メールホストで構成される蓄積型情報交換システムでの実施形態を示す。図1に,電子財布端末100と電子メールホスト装置130の構成を示す。図の電子財布端末100において,103は演算処理装置(CPU),105はメモリ,107はキーボード,109はディスプレー,111aは出金側カードインターフェース,111bは受取側カードインターフェース,113は通信制御装置,115はバスである。一方,電子メールホスト装置130において,133は演算処理装置(CPU),135は通信制御装置,137は記憶装置,139はメールボックス,141はバスである。
【0013】電子財布端末100において,CPU103は電子財布端末100を統括し,その機能を実現する為の制御を行う。メモリ105は電子財布端末100を制御するプログラムや処理データを格納する。キーボード107はユーザーの入力を受け付け,CPU103の指示によりその結果を通知する。ディスプレー109はユーザーに対して文字等の表示を行う。出金側カードインターフェース111a,受取側カードインターフェース111bはそれぞれ貨幣価値を保持するICカード120a,120bと電子財布端末100のデータ交換を実現する。通信制御装置113は,電子メールホスト装置130との公衆回線117を経由してのデータ交換を実現する。これら電子財布端末100の構成機器はバス115で接続され,バス115経由でCPU103の制御を受ける。」

(2)「【0015】図2に電子財布であるICカード120の概観ならびに構成を示す。図2において,201は演算処理装置(CPU),203はカードインターフェース,205はメモリー,240はバスである。
【0016】CPU201はICカード120を統括し,その機能を実現する為の制御を行う。メモリ205は電子財布端末100を制御する電子バリュー制御プログラム210が置かれ,本発明の特徴である電子バリューの価値譲渡情報生成やその受取り,他のICカード120との間での電子バリューの交換を実現する。つまり,電子バリュー制御プログラムに従って,CPUが動作することにより,ICカードは,価値譲渡手段又は価値受取手段として機能する。また,メモリ205には,各ICカード120を唯一に特定する為のカード識別230,ICカード120相互の通信データを暗号化するために用いる発行者暗号鍵232,前記他のカードからの転出(価値譲渡)情報を受け入れて電子バリューを生成した際の情報を保持する転入履歴234,取引の管理や取引ごとに通信データを変化させる目的で使用する取引カウンター236,そしてICカード120が保持する電子バリューの絶対値を保持するバリュー残高238が置かれている。なお,電子バリューとは,商品やサービスの提供を受けるための権利と交換可能な価値を示す電子的数値情報を意味する。もちろん,電子マネーも電子バリューに含まれる。これらメモリ205上のプログラム,データはカード120内で安全に格納され,外部から値を観測されたり,プログラム210の制御に基づかない書き換えが行えないように保護されている。これらの保護機構については本発明の実現機能とは関連しない為,図示ならびに説明は省略する。」

(3)「【0018】以下では,電子財布端末100のソフトウエアについて詳細に説明する。 図4に,電子財布端末100を制御するプログラム400の流れを示す。電子財布端末制御プログラム400は,電子財布端末100の電源投入時に起動され,ステップS401で,ディスプレー109やキーボード107,カードインターフェース111a,111b,通信制御装置113などを初期状態に設定し,ステップS403で機能を一覧表示して選択を受け付ける。このときディスプレー109の表示は図3に例示したようになる。ここでは,電子財布端末100にセットしたICカード120に対して操作を行う「カード間操作」か,電子メールを利用して,離れた場所の電子財布端末100に電子バリューを送ったり,自分宛てのメールの中から電子バリューの送金用途のメールを選んで受信する「メール送受信」の何れかを選ぶことができる。キーボード107入力による選択が「カード間操作」であった場合,ステップS405に移行し,カード間操作処理を実行する。一方,ステップS403で「メール送受信」が選択された場合には,ステップS407に移行し,メール送受信処理を実行する。
・・・(途中省略)・・・
【0026】続いて,図4のメール送受信処理ステップS407の詳細と処理中のディスプレイ109表示例を図8に示す。 まず,ステップS701でディスプレイ109bに示すような機能一覧を表示して選択を受け付ける。ここでは,電子財布端末100にセットした出金側ICカード120aから指定金額の電子バリューを引き出して指定した電子メールアドレス宛てに送付する「マネーメール送信」か,電子メールホスト装置130に届いている電子メールから電子バリューの送金用途のメールを選んで受信し,受け取り用ICカード120bに当該金額を発生させる「マネーメール受信」の何れかを選ぶことができる。キーボード107入力による選択が「マネーメール送信」であれば,ステップS703でマネーメール送信処理を実行し,ステップS407を終了する。また,キーボード107入力による選択が「マネーメール受信」であれば,ステップS705でマネーメール受信処理を実行し,ステップS407を終了する。 ステップS701での選択が「戻る」の場合には,そのままステップS407を終了する。」

(4)「【0041】図16にバリュー転出ステップS1011の流れを示す。バリュー転出ステップは,上述のように,送金者のICカード120から受取者のICカードにメールで電子バリューを移動させる際に,送金者のICカードにて行われるステップである。まずステップS1401でコマンド590に指定された引出し金額V554以上のバリュー残高238を持つかどうかを判定し,無ければステップS1411でエラーの応答530を電子財布端末100に出力して即時バリュー送出ステップS1011を終了する。
【0042】ステップS1401でコマンド590に指定された引出し金額V554以上のバリュー残高238があれば,ステップS1403に移行し,バリュー残高238から引出し金額V554を差し引きし,ステップS1404で自カード(出金側)120aの取引カウンタ236に1を加え,ステップS1405で該取引カウンタ236の値562と,カード識別230の値564,ステップS1305で取得した引き出し金額554とコマンド590に指定されたバリュー転出先のカード識別576を結合してチェックサムを付加し,価値譲渡情報である転出情報を生成する。このように,本実施例においては,取引カウンタは,取引の都度にその数を更新していくものであり,従って,取引カウンタの値は,取引毎の唯一な番号(個々の譲渡を特定可能なユニークな番号)を有し,小さな数は取引の日時が古いことを示す数となる。つまり,取引カウンタに記憶される値は取引(譲渡)管理を示す譲渡管理番号である。その後,ステップS1407で該送出情報を,発行者暗号鍵232を用いてDES暗号化し(暗号化転出情報594),ステップS1409で該情報594に送出情報応答識別570を付加して送出情報応答538を生成し,電子財布端末100に出力してバリュー送出ステップS1011を終了する。」

(5)「【0043】図17にバリュー転入ステップS1013の流れを示す。バリュー転出ステップは,上述のように,送金者のICカード120から受取者のICカードにメールで電子バリューを移動させる際に,送金者のICカードにて行われるステップである。まずステップS1501でコマンド592に付加されている暗号化転出情報594を,発行者暗号鍵232を用いてDES復号化して転出情報とし,ステップS1503で該データの内容から計算されるチェックサムと,転出情報内チェックサム536が一致するか確認する。一致する場合は正常と判断しステップS1505に移行し,転出情報内の受取側カード識別576が自カード(受取側)識別230と一致するか確認する。一致する場合にはステップS1507に移行し,転入履歴234に前記転出情報内の出金側カード識別564が記録されているかを判定する。転入履歴234には過去にバリュー転入ステップS1013を正常に終了した時の出金側カード識別564と,同識別で最も最近(最後)にバリュー転入ステップS1013を行った際の出金側取引カウンター560の値を組み合わせて保持している。ステップS1507では転入履歴234内に前記転出情報内の出金側カード識別564があればステップS1509に,無ければステップS1511に移行する。ステップS1509では,転入履歴234で検出した出金側カード識別564と対で記憶している出金側取引カウンター560の値と,転出情報内の出金側取引カウンター560の値を比較し,転出情報内の出金側取引カウンター560の値が大きければステップS1511に移行する。転入履歴に,転入しようとする出金側カード取引カウンター560の値と等しい,もしくはそれを超える取引カウンター560の値が残っている場合,過去に転入済みのメールを再度転入に使用したと判定し,ステップS1517に進み,エラー応答を送出する。このような比較を行うことにより,過去にバリュー転入されていない送金メールの場合だけステップS1511に進み,ステップS1511では,カード120のバリュー残高238に転出情報内の引き出し金額V554の値を加算し,続いてステップS1513では転入履歴234に転出情報内の出金側カード識別564と該情報内の出金側取引カウンター560の値の対を書き込む。このとき,既に同一の出金側カード識別564が記憶済みの場合は,対となる出金側取引カウンター560の値のみ更新する。その後,ステップS1515で正常終了応答528を電子財布端末100に出力してバリュー転入ステップS1013を終了する。
【0044】ステップS1503で転出情報の内容から計算されるチェックサムと,転出情報内チェックサム536が一致しない場合,あるいはステップS1505で転出情報内の受取側カード識別576が自カード(受取側)識別230と一致しない場合,あるいはステップS1509で,転入履歴234で検出した出金側カード識別564と対で記憶している出金側取引カウンター560の値と,転出情報内の出金側取引カウンター560の値が一致,もしくは転出情報内の出金側取引カウンター560の値が小さい場合,ステップS1517に移行し,エラー応答530を電子財布端末100に出力してバリュー転入ステップS1013を終了する。
【0045】このように,本実施例においては,取引毎に取引カウンターの値を更新することにより,出金側のICカードから指定した価値を減算すると共に,減算した価値と等価な価値を1度だけ受取側のICカードで増加させる権利を記録した価値譲渡情報を生成することを実現しており,受取側のICカードにおいて,過去に転入処理を行った取引カウンターの値よりも小さな取引カウンターを持つ電子バリューの転入を禁止することにより,取得した価値譲渡情報に基づいて受取側ICカードの保持する価値を1度だけ指定量増加させることを実現している。」

(6)「【0046】以上説明した電子財布端末100およびICカード120のソフトウエアによって,電子バリューがメール経由で送付される過程を順に説明する。なお,前提として出金側,受取側のICカードは共に同じ発行者暗号鍵232を持っており,出金側カードは送金額以上のバリュー残高238を持つことを前提とする。
【0047】まず電子財布端末100に対して,ユーザーが図4の流れで「メール送受信」を選択し,S407の流れ(図8)でさらに「マネーメール送信」を選択するとステップS703が実行される。図9に示したようにマネーメールの送信相手をメニューで選択(ステップS803),もしくは新規に入力(ステップS805)する。その後ステップS807で送金額V554を入力すると,送金先のメールアドレス905,送金先のカード識別576,送金額V554が確定し,このうちの送金先のカード識別576,送金額V554を用いて電子財布端末100のステップS809は出金側ICカード120aに対してバリュー転出コマンド590を発行する。これに対してICカード120aは図12に示したコマンド判定ステップS1003からバリュー転出ステップS1011に移行し,図16に示したように送金額V554以上のバリュー残高238があれば該バリュー残高238から送金額V554を引いて(ステップS1403),ステップS1405?S1409で,図5に示したような転出情報応答538を生成して電子財布端末100に返す。価値譲渡情報である転出情報応答538には,1)電子バリュー受取カードの識別576,2)電子バリュー出金側カードの識別564,3)電子バリュー出金側カードの取引カウンター560,4)送金額554,5)チェックサム536,が暗号化された状態で付加されている。電子財布端末100は,この応答538から暗号化転出情報594を取り出して前記送金先のメールアドレス905に送付する。
【0048】この一連の操作により,電子メールホスト装置130の記憶装置137に置かれたメールボックス139の送金先のメールアドレス905を保持するユーザーの記憶域に,暗号化転出情報を含み,「送金メール:」という題名を付与された電子メールが蓄積される。
【0049】この後に,送金先のメールアドレス905を保持するユーザーが電子財布端末100の図4の流れで「メール送受信」を選択し,S407の流れ(図8)でさらに「マネーメール受信」を選択するとステップS705が実行される。図11に示したようにステップS705を実行するとステップS901で電子メールホスト装置130に接続して,ステップS903で当該ユーザー宛ての新着メールのリストを取得する。この後,ステップS905で,「送金メール:」という題名のメールがあるかを判定し,(上記説明のように既に「送金メール:」という題名で送付してあるので)ステップS907に移行して該当するメールのうち古い者から順に1件受信してステップS909で受信メールから暗号化転出情報594を取り出す。なお,前述の図8のステップS813でのメール送付時に暗号化転出情報594を添付ファイルにしておけば図11のステップS909で容易に分離できることは言うまでもない。分離した暗号化転出情報594をステップS911ではバリュー転入コマンド596に変換し,受取側ICカード120bに発行する。これに対してICカード120bは図12に示したコマンド判定ステップS1003からバリュー転入ステップS1013に移行し,図17に示したようにステップS1501で暗号化転出情報594から,1)電子バリュー受取カードの識別576,2)電子バリュー出金側カードの識別564,3)電子バリュー出金側カードの取引カウンター560,4)送金額554,5)チェックサム536,を取り出す。ステップS1503によりチェックサム536が正しい,つまりデータが壊れていないことを確認後,ステップS1505で電子バリュー受取カードの識別576が現在処理を行っているICカード120bの識別230と一致するかを確認する。これは,メールの転送などで誤った受信者に送金メールが送付されたり,不正なユーザーが他人のメールを受信して電子バリューを受け取るようなことを防ぐための処理である。次にステップS1507とS1509で電子バリュー出金側カードの識別564が転入履歴234に含まれるか,含まれる場合に転入履歴234に記録された当該出金側カード識別564の転入時の出金側カード取引カウンター560と今回転入する時点での取引カウンター560を比較する。
【0050】転入しようとする出金側カード取引カウンター560の値と等しい,もしくはそれを超える取引カウンター560の値が転入履歴に残っている場合,過去に転入済みのメールを再度転入に使用したと判定する。過去に処理されていない送金メールの場合だけステップS1511に進み,受取側カードのバリュー残高が送金額554だけ加算される。その後,ステップS1513で今処理した転入処理の出金側カードの識別564と転入する時点での取引カウンター560を転入履歴234に書き込む。そして正常終了したことがICカード120bから電子財布端末100に応答で返される。これら一連の処理により,電子メールでの電子バリューの授受が実現される。
【0051】なお,電子メールは受信者から他の受信者に転送することが容易に行え,その後再度元の受信者に戻すことで2つ以上の複製を作ることも容易である。このような複製手段で送金メール自体を複製することは可能であるが,最初のメールに対するバリュー転入ステップS1013で転入履歴234に出金側カード識別564と取引カウンター560を記憶し,過去に転入処理を行った取引カウンターの値よりも小さな取引カウンターを持つ電子バリューの転入を禁止することにより,2回目以降の電子バリューの転入を阻止することができる。」

(7)以上の(1)?(6)の記載についてまとめる。
ア.上記(1)の記載によると,引用例には「価値譲渡情報をメールで交換する電子財布端末と,メールホストで構成される蓄積型情報交換システム」が記載されている。
また,上記(1)の記載によると,「電子財布端末100」において,「CPU103は電子財布端末100を統括し,その機能を実現する為の制御を行い,出金側カードインターフェース111a,受取側カードインターフェース111bはそれぞれ貨幣価値を保持するICカード120a,120bと電子財布端末100のデータ交換を実現し,通信制御装置113は,電子メールホスト装置130との公衆回線117を経由してのデータ交換を実現するもの」であるといえる。
イ.上記(2)の記載によると,「電子財布」として「ICカード120」が使用されることが記載されており,その具体的な構成は,「演算処理装置(CPU)201,カードインターフェース203,メモリー205,バス240から構成され,CPU201はICカード120を統括し,その機能を実現する為の制御を行い,メモリ205は電子財布端末100を制御する電子バリュー制御プログラム210が置かれ,該電子バリュー制御プログラムに従って,CPUが動作することにより,ICカードは,価値譲渡手段又は価値受取手段として機能するものであり,また,メモリ205には,各ICカード120を唯一に特定する為のカード識別230,ICカード120相互の通信データを暗号化するために用いる発行者暗号鍵232,前記他のカードからの転出(価値譲渡)情報を受け入れて電子バリューを生成した際の情報を保持する転入履歴234,取引の管理や取引ごとに通信データを変化させる目的で使用する取引カウンター236,そしてICカード120が保持する電子バリューの絶対値を保持するバリュー残高238が置かれ」るものといえる。
ウ.上記(3)の記載によると,「電子財布端末100のソフトウエア」は,「電子財布端末100にセットしたICカード120に対して操作を行う「カード間操作」か,電子メールを利用して,離れた場所の電子財布端末100に電子バリューを送ったり,自分宛てのメールの中から電子バリューの送金用途のメールを選んで受信する「メール送受信」の何れかを選ぶことができ,さらに,「メール送受信」が選択された場合には,「電子財布端末100にセットした出金側ICカード120aから指定金額の電子バリューを引き出して指定した電子メールアドレス宛てに送付する「マネーメール送信」か,電子メールホスト装置130に届いている電子メールから電子バリューの送金用途のメールを選んで受信し,受け取り用ICカード120bに当該金額を発生させる「マネーメール受信」の何れかを選ぶことができるもの」といえる。
エ.上記(6)の記載によると,「電子財布端末100およびICカード120のソフトウエアによって,電子バリューがメール経由で送付される過程」について記載されており,まず,「電子財布端末100に対して,ユーザーが「メール送受信」を選択し,さらに「マネーメール送信」を選択する」場合に,「送金額V554を入力すると,送金先のメールアドレス905,送金先のカード識別576,送金額V554が確定し(ステップS807),このうちの送金先のカード識別576,送金額V554を用いて出金側ICカード120aに対してバリュー転出コマンド590を発行し(ステップS809),これに対してICカード120aはコマンド判定ステップS1003からバリュー転出ステップS1011に移行する」処理が行われるものである。
また,上記(4)には,該「バリュー転出ステップS1011」についての詳細な処理が記載されている。
そして,上記(6)及び(4)における「マネーメール送信」時の処理についてまとめると,
「電子財布端末100に対して,ユーザーが「メール送受信」を選択し,さらに「マネーメール送信」を選択すると実行され,
送金額V554を入力すると,送金先のメールアドレス905,送金先のカード識別576,送金額V554が確定し(ステップS807),このうちの送金先のカード識別576,送金額V554を用いて出金側ICカード120aに対してバリュー転出コマンド590を発行し(ステップS809),これに対してICカード120aはコマンド判定ステップS1003からバリュー転出ステップS1011に移行するものであり,
バリュー転出ステップS1011は,
送金者のICカード120から受取者のICカードにメールで電子バリューを移動させる際に,送金者のICカードにて行われるステップであり,まず,コマンド590に指定された引出し金額V554以上のバリュー残高238を持つかどうかを判定し(ステップS1401),
無ければエラーの応答530を電子財布端末100に出力して(ステップS1411)終了し,
コマンド590に指定された引出し金額V554以上のバリュー残高238があれば(ステップS1401),バリュー残高238から引出し金額V554を差し引きし(ステップS1403),自カード(出金側)120aの取引カウンタ236に1を加え(ステップS1404),該取引カウンタ236の値562と,カード識別230の値564,ステップS1305で取得した引き出し金額554とコマンド590に指定されたバリュー転出先のカード識別576を結合してチェックサムを付加し,価値譲渡情報である転出情報を生成する(ステップS1405)ものであり,取引カウンタは,取引の都度にその数を更新していくものであり,従って,取引カウンタの値は,取引毎の唯一な番号(個々の譲渡を特定可能なユニークな番号)を有し,取引(譲渡)管理を示す譲渡管理番号であり,その後,該送出情報を,発行者暗号鍵232を用いてDES暗号化し(暗号化転出情報594)(ステップS1407),該情報594に送出情報応答識別570を付加して送出情報応答538を生成し,電子財布端末100に出力し(ステップS1409),バリュー送出ステップS1011を終了し,
電子財布端末100は,この応答538から暗号化転出情報594を取り出して前記送金先のメールアドレス905に送付するものであり,
電子メールホスト装置130の記憶装置137に置かれたメールボックス139の送金先のメールアドレス905を保持するユーザーの記憶域に,暗号化転出情報を含み,「送金メール:」という題名を付与された電子メールが蓄積されるもの」であることが記載されているといえる。
エ.上記(6)の記載によると,「送金先のメールアドレス905を保持するユーザーが電子財布端末100において「メール送受信」を選択し,さらに「マネーメール受信」を選択する」場合に,「電子メールホスト装置130に接続し(ステップS901),当該ユーザー宛ての新着メールのリストを取得し(ステップS903),この後,「送金メール:」という題名のメールがあるかを判定し(ステップS905),該当するメールのうち古い者から順に1件受信し(ステップS907),受信メールから暗号化転出情報594を取り出し(ステップS909),分離した暗号化転出情報594をバリュー転入コマンド596に変換し,受取側ICカード120bに発行し(ステップS911),これに対してICカード120bはコマンド判定ステップS1003からバリュー転入ステップS1013に移行する」処理が行われるものである。
また,上記(5)には,該「バリュー転入ステップS1013」についての詳細な処理が記載されている。
そして,上記(6)及び(5)における「マネーメール受信」時の処理についてまとめると,
「送金先のメールアドレス905を保持するユーザーが電子財布端末100において「メール送受信」を選択し,さらに「マネーメール受信」を選択すると,
電子メールホスト装置130に接続し(ステップS901),当該ユーザー宛ての新着メールのリストを取得し(ステップS903),この後,「送金メール:」という題名のメールがあるかを判定し(ステップS905),該当するメールのうち古い者から順に1件受信し(ステップS907),受信メールから暗号化転出情報594を取り出し(ステップS909),分離した暗号化転出情報594をバリュー転入コマンド596に変換し,受取側ICカード120bに発行し(ステップS911),これに対してICカード120bはコマンド判定ステップS1003からバリュー転入ステップS1013に移行するものであり,
バリュー転入ステップS1013は,
送金者のICカード120から受取者のICカードにメールで電子バリューを移動させる際に,送金者のICカードにて行われるステップであり,まず,コマンド592に付加されている暗号化転出情報594を,発行者暗号鍵232を用いてDES復号化して転出情報とし(ステップS1501),該データの内容から計算されるチェックサムと,転出情報内チェックサム536が一致するか確認し(ステップS1503),一致する場合は正常と判断し,転出情報内の受取側カード識別576が自カード(受取側)識別230と一致するか確認し(ステップS1505),一致する場合には,転入履歴234に前記転出情報内の出金側カード識別564が記録されているかを判定し(ステップS1507),ここで転入履歴234には過去にバリュー転入ステップS1013を正常に終了した時の出金側カード識別564と,同識別で最も最近(最後)にバリュー転入ステップS1013を行った際の出金側取引カウンター560の値を組み合わせて保持しており,
転入履歴234内に前記転出情報内の出金側カード識別564があれば,転入履歴234で検出した出金側カード識別564と対で記憶している出金側取引カウンター560の値と,転出情報内の出金側取引カウンター560の値を比較し(ステップS1509),
転出情報内の出金側取引カウンター560の値が大きければ,カード120のバリュー残高238に転出情報内の引き出し金額V554の値を加算し(ステップS1511),
転入履歴に,転入しようとする出金側カード取引カウンター560の値と等しい,もしくはそれを超える取引カウンター560の値が残っている場合,過去に転入済みのメールを再度転入に使用したと判定し,エラー応答を送出し(ステップS1517),
転入履歴234内に前記転出情報内の出金側カード識別564が無ければ,カード120のバリュー残高238に転出情報内の引き出し金額V554の値を加算し(ステップS1511),
続いて転入履歴234に転出情報内の出金側カード識別564と該情報内の出金側取引カウンター560の値の対を書き込み(ステップS1513),正常終了応答528を電子財布端末100に出力し(ステップS1515),バリュー転入ステップS1013を終了し,
そして正常終了したことがICカード120bから電子財布端末100に応答で返され,これら一連の処理により,電子メールでの電子バリューの授受が実現されるもの」であることが記載されているといえる。
オ.以上のことから,上記(1)?(6)には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明)
「価値譲渡情報をメールで交換する電子財布端末と,メールホストで構成される蓄積型情報交換システムであって,
電子財布端末100において,CPU103は電子財布端末100を統括し,その機能を実現する為の制御を行い,出金側カードインターフェース111a,受取側カードインターフェース111bはそれぞれ貨幣価値を保持するICカード120a,120bと電子財布端末100のデータ交換を実現し,通信制御装置113は,電子メールホスト装置130との公衆回線117を経由してのデータ交換を実現するものであり,
電子財布であるICカード120は,演算処理装置(CPU)201,カードインターフェース203,メモリー205,バス240から構成され,CPU201はICカード120を統括し,その機能を実現する為の制御を行い,メモリ205は電子財布端末100を制御する電子バリュー制御プログラム210が置かれ,該電子バリュー制御プログラムに従って,CPUが動作することにより,ICカードは,価値譲渡手段又は価値受取手段として機能するものであり,また,メモリ205には,各ICカード120を唯一に特定する為のカード識別230,ICカード120相互の通信データを暗号化するために用いる発行者暗号鍵232,前記他のカードからの転出(価値譲渡)情報を受け入れて電子バリューを生成した際の情報を保持する転入履歴234,取引の管理や取引ごとに通信データを変化させる目的で使用する取引カウンター236,そしてICカード120が保持する電子バリューの絶対値を保持するバリュー残高238が置かれており,
電子財布端末100のソフトウエアにより,電子財布端末100にセットしたICカード120に対して操作を行う「カード間操作」か,電子メールを利用して,離れた場所の電子財布端末100に電子バリューを送ったり,自分宛てのメールの中から電子バリューの送金用途のメールを選んで受信する「メール送受信」の何れかを選ぶことができ,さらに,「メール送受信」が選択された場合には,電子財布端末100にセットした出金側ICカード120aから指定金額の電子バリューを引き出して指定した電子メールアドレス宛てに送付する「マネーメール送信」か,電子メールホスト装置130に届いている電子メールから電子バリューの送金用途のメールを選んで受信し,受け取り用ICカード120bに当該金額を発生させる「マネーメール受信」の何れかを選ぶことができるものであり,
電子財布端末100およびICカード120のソフトウエアによって,電子バリューがメール経由で送付される過程は,
(i)電子財布端末100に対して,ユーザーが「メール送受信」を選択し,さらに「マネーメール送信」を選択すると実行され,
送金額V554を入力すると,送金先のメールアドレス905,送金先のカード識別576,送金額V554が確定し(ステップS807),このうちの送金先のカード識別576,送金額V554を用いて出金側ICカード120aに対してバリュー転出コマンド590を発行し(ステップS809),これに対してICカード120aはコマンド判定ステップS1003からバリュー転出ステップS1011に移行するものであり,
バリュー転出ステップS1011は,
送金者のICカード120から受取者のICカードにメールで電子バリューを移動させる際に,送金者のICカードにて行われるステップであり,まず,コマンド590に指定された引出し金額V554以上のバリュー残高238を持つかどうかを判定し(ステップS1401),
無ければエラーの応答530を電子財布端末100に出力して(ステップS1411)終了し,
コマンド590に指定された引出し金額V554以上のバリュー残高238があれば(ステップS1401),バリュー残高238から引出し金額V554を差し引きし(ステップS1403),自カード(出金側)120aの取引カウンタ236に1を加え(ステップS1404),該取引カウンタ236の値562と,カード識別230の値564,ステップS1305で取得した引き出し金額554とコマンド590に指定されたバリュー転出先のカード識別576を結合してチェックサムを付加し,価値譲渡情報である転出情報を生成する(ステップS1405)ものであり,取引カウンタは,取引の都度にその数を更新していくものであり,従って,取引カウンタの値は,取引毎の唯一な番号(個々の譲渡を特定可能なユニークな番号)を有し,取引(譲渡)管理を示す譲渡管理番号であり,その後,該送出情報を,発行者暗号鍵232を用いてDES暗号化し(暗号化転出情報594)(ステップS1407),該情報594に送出情報応答識別570を付加して送出情報応答538を生成し,電子財布端末100に出力し(ステップS1409),バリュー送出ステップS1011を終了し,
電子財布端末100は,この応答538から暗号化転出情報594を取り出して前記送金先のメールアドレス905に送付するものであり,
電子メールホスト装置130の記憶装置137に置かれたメールボックス139の送金先のメールアドレス905を保持するユーザーの記憶域に,暗号化転出情報を含み,「送金メール:」という題名を付与された電子メールが蓄積されるものであり,
(ii)送金先のメールアドレス905を保持するユーザーが電子財布端末100において「メール送受信」を選択し,さらに「マネーメール受信」を選択すると,
電子メールホスト装置130に接続し(ステップS901),当該ユーザー宛ての新着メールのリストを取得し(ステップS903),この後,「送金メール:」という題名のメールがあるかを判定し(ステップS905),該当するメールのうち古い者から順に1件受信し(ステップS907),受信メールから暗号化転出情報594を取り出し(ステップS909),分離した暗号化転出情報594をバリュー転入コマンド596に変換し,受取側ICカード120bに発行し(ステップS911),これに対してICカード120bはコマンド判定ステップS1003からバリュー転入ステップS1013に移行するものであり,
バリュー転入ステップS1013は,
送金者のICカード120から受取者のICカードにメールで電子バリューを移動させる際に,送金者のICカードにて行われるステップであり,まず,コマンド592に付加されている暗号化転出情報594を,発行者暗号鍵232を用いてDES復号化して転出情報とし(ステップS1501),該データの内容から計算されるチェックサムと,転出情報内チェックサム536が一致するか確認し(ステップS1503),一致する場合は正常と判断し,転出情報内の受取側カード識別576が自カード(受取側)識別230と一致するか確認し(ステップS1505),一致する場合には,転入履歴234に前記転出情報内の出金側カード識別564が記録されているかを判定し(ステップS1507),ここで転入履歴234には過去にバリュー転入ステップS1013を正常に終了した時の出金側カード識別564と,同識別で最も最近(最後)にバリュー転入ステップS1013を行った際の出金側取引カウンター560の値を組み合わせて保持しており,
転入履歴234内に前記転出情報内の出金側カード識別564があれば,転入履歴234で検出した出金側カード識別564と対で記憶している出金側取引カウンター560の値と,転出情報内の出金側取引カウンター560の値を比較し(ステップS1509),
転出情報内の出金側取引カウンター560の値が大きければ,カード120のバリュー残高238に転出情報内の引き出し金額V554の値を加算し(ステップS1511),
転入履歴に,転入しようとする出金側カード取引カウンター560の値と等しい,もしくはそれを超える取引カウンター560の値が残っている場合,過去に転入済みのメールを再度転入に使用したと判定し,エラー応答を送出し(ステップS1517),
転入履歴234内に前記転出情報内の出金側カード識別564が無ければ,カード120のバリュー残高238に転出情報内の引き出し金額V554の値を加算し(ステップS1511),
続いて転入履歴234に転出情報内の出金側カード識別564と該情報内の出金側取引カウンター560の値の対を書き込み(ステップS1513),正常終了応答528を電子財布端末100に出力し(ステップS1515),バリュー転入ステップS1013を終了し,
そして正常終了したことがICカード120bから電子財布端末100に応答で返され,これら一連の処理により,電子メールでの電子バリューの授受が実現されるものであり,
電子メールは受信者から他の受信者に転送することが容易に行え,その後再度元の受信者に戻すことで2つ以上の複製を作ることも容易であり,このような複製手段で送金メール自体を複製することは可能であるが,最初のメールに対するバリュー転入ステップS1013で転入履歴234に出金側カード識別564と取引カウンター560を記憶し,過去に転入処理を行った取引カウンターの値よりも小さな取引カウンターを持つ電子バリューの転入を禁止することにより,2回目以降の電子バリューの転入を阻止することができる,蓄積型情報交換システム。」

2.対比
そこで,本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「電子財布であるICカード120は,演算処理装置(CPU)201,カードインターフェース203,メモリー205,バス240から構成され,CPU201はICカード120を統括し,その機能を実現する為の制御を行い,メモリ205は電子財布端末100を制御する電子バリュー制御プログラム210が置かれ,該電子バリュー制御プログラムに従って,CPUが動作することにより,ICカードは,価値譲渡手段又は価値受取手段として機能するものであり,また,メモリ205には,各ICカード120を唯一に特定する為のカード識別230,ICカード120相互の通信データを暗号化するために用いる発行者暗号鍵232,前記他のカードからの転出(価値譲渡)情報を受け入れて電子バリューを生成した際の情報を保持する転入履歴234,取引の管理や取引ごとに通信データを変化させる目的で使用する取引カウンター236,そしてICカード120が保持する電子バリューの絶対値を保持するバリュー残高238が置かれており」との事項によると,「電子財布であるICカード120」には,その「メモリ205」に「ICカード120が保持する電子バリューの絶対値を保持するバリュー残高238」が置かれ,「CPUが動作することにより,ICカードは,価値譲渡手段又は価値受取手段として機能する」ものであることから,本願発明の「電子財布」に相当するものである。
また,引用発明の「電子財布であるICカード120」の「メモリ205」には,「各ICカード120を唯一に特定する為のカード識別230」,「前記他のカードからの転出(価値譲渡)情報を受け入れて電子バリューを生成した際の情報を保持する転入履歴234」及び「ICカード120が保持する電子バリューの絶対値を保持するバリュー残高238」が置かれており,これらは本願発明の「電子財布」の「メモリ」,及び,当該「メモリ」に記憶される「それぞれ特異な識別子」,「資産転送のログ」及び「現在の資産価値の額」に相当するものである。
また,引用発明の「電子財布であるICカード120」は,「演算処理装置(CPU)201,カードインターフェース203,メモリー205,バス240から構成され」ており,上記「カードインターフェース203」は,「電子財布であるICカード120」の外部とメッセージを送受信するように構成されるものであるから,本願発明の「メッセージを送受信するよう構成されたインターフェイス」に対応し,また,上記「演算処理装置(CPU)201」は,「バス240」を介して「カードインターフェース203」と「メモリー205」に結合され,「電子バリュー制御プログラム210」に従って動作すること,すなわち命令コードの制御下で「電子財布であるICカード120」を「価値譲渡手段又は価値受取手段」として機能させるものであることから,引用発明の「演算処理装置(CPU)201」は本願発明の「コントローラ」に相当するものである。
(2)引用発明の「価値譲渡情報をメールで交換する電子財布端末と,メールホストで構成される蓄積型情報交換システム」,「電子財布端末100において,CPU103は電子財布端末100を統括し,その機能を実現する為の制御を行い,出金側カードインターフェース111a,受取側カードインターフェース111bはそれぞれ貨幣価値を保持するICカード120a,120bと電子財布端末100のデータ交換を実現し,通信制御装置113は,電子メールホスト装置130との公衆回線117を経由してのデータ交換を実現するものであり」,及び,「電子財布端末100のソフトウエアにより,電子財布端末100にセットしたICカード120に対して操作を行う「カード間操作」か,電子メールを利用して,離れた場所の電子財布端末100に電子バリューを送ったり,自分宛てのメールの中から電子バリューの送金用途のメールを選んで受信する「メール送受信」の何れかを選ぶことができ,さらに,「メール送受信」が選択された場合には,電子財布端末100にセットした出金側ICカード120aから指定金額の電子バリューを引き出して指定した電子メールアドレス宛てに送付する「マネーメール送信」か,電子メールホスト装置130に届いている電子メールから電子バリューの送金用途のメールを選んで受信し,受け取り用ICカード120bに当該金額を発生させる「マネーメール受信」の何れかを選ぶことができるものであり」との事項によれば,引用発明の「蓄積型情報交換システム」は,「電子財布端末100にセットした出金側ICカード120aから指定金額の電子バリューを引き出して指定した電子メールアドレス宛てに送付」し,また,「電子メールホスト装置130に届いている電子メールから電子バリューの送金用途のメールを選んで受信し,受け取り用ICカード120bに当該金額を発生させる」ことにより,「出金側ICカード120a」及び「受け取り用ICカード120b」の2つの電子財布の間で,「公衆回線117を経由してのデータ交換」による「電子バリュー」の価値譲渡及び価値受取を行うものであることから,引用発明も「公衆回線」と「2つの電子財布」とを備える「電子資産交換システム」であるといえる。
そうすると,本願発明と引用発明は,後記する点で相違するものの,
「通信媒体と,少なくとも2つの電子財布と,を備える電子資産交換システムであって,
前記電子財布のそれぞれは,
メッセージを送受信するよう構成されたインターフェイスと,
少なくとも現在の資産価値の額と,それぞれ特異な識別子と,資産転送のログと,を記憶するメモリと,
前記インターフェイスおよび前記メモリに動作的に結合したコントローラと,
を備え」
る点,及び,
「該コントローラは,命令コードの制御下」
で動作するものである点で共通する。
(3)本願発明のb)の処理と,引用発明の(i)で示す処理を対比する。
(3-1)引用発明の(i)で示す処理は,「電子財布端末100に対して,ユーザーが「メール送受信」を選択し,さらに「マネーメール送信」を選択すると実行され」るものであり,「送金額V554」を入力すると,「送金先のカード識別576,送金額V554を用いて出金側ICカード120aに対してバリュー転出コマンド590を発行し(ステップS809)」,「これに対してICカード120aはコマンド判定ステップS1003からバリュー転出ステップS1011に移行する」ものであり,該「バリュー転出コマンド590」により(i)で示す「バリュー転出ステップS1011」が実行されてバリューの転送が行われるものである。また,「電子財布端末100」から発行された「バリュー転出コマンド590」が,該「電子財布端末100」の「出金側カードインターフェース111a」と接続された「出金側ICカード120a」の「カードインターフェース203」を介して受け取られるものであるから,前記「バリュー転出コマンド590」に含まれる「送金先のカード識別576」及び「送金額V554」を「出金側ICカード120a」が受け取ることは,本願発明の「前記インターフェイスを介して,少なくとも転送すべき資産価値の額を含む資産転送メッセージを受け取り」に相当するものである。
(3-2)引用発明では「バリュー転出コマンド590」により「ICカード120a」は「バリュー転出ステップS1011に移行する」ものであり,該「バリュー転出ステップS101」は,「送金者のICカード120から受取者のICカードにメールで電子バリューを移動させる際に,送金者のICカードにて行われるステップ」であることから,引用発明の「バリュー転出ステップS1011」は本願発明の「転送アウトプロセス」に対応するものである。
また,引用発明の「バリュー転出ステップS1011」では,「まず,コマンド590に指定された引出し金額V554以上のバリュー残高238を持つかどうかを判定し(ステップS1401)」ており,当該ステップは本願発明の「前記現在の資産価値の額が転送すべき資産価値の額以上であるかどうかを判定するステップ」に相当する。
(3-3)引用発明の「コマンド590に指定された引出し金額V554以上のバリュー残高238があれば(ステップS1401),バリュー残高238から引出し金額V554を差し引きし(ステップS1403)」によれば,上記(3-2)の判定が肯定であれば,「バリュー残高238」から「引出し金額V554」を差し引くのであるから,引用発明の当該処理は,本願発明の「前記判定が肯定であるならば」という条件において行われる「前記現在の資産価値の額を前記転送すべき資産価値の額だけ減らすステップ」に相当する。
(3-4)引用発明では上記(3-3)の「コマンド590に指定された引出し金額V554以上のバリュー残高238があれば(ステップS1401),バリュー残高238から引出し金額V554を差し引きし(ステップS1403)」,さらに「自カード(出金側)120aの取引カウンタ236に1を加え(ステップS1404),該取引カウンタ236の値562と,カード識別230の値564,ステップS1305で取得した引き出し金額554とコマンド590に指定されたバリュー転出先のカード識別576を結合してチェックサムを付加し,価値譲渡情報である転出情報を生成する(ステップS1405)ものであり,取引カウンタは,取引の都度にその数を更新していくものであり,従って,取引カウンタの値は,取引毎の唯一な番号(個々の譲渡を特定可能なユニークな番号)を有し,取引(譲渡)管理を示す譲渡管理番号であり,その後,該送出情報を,発行者暗号鍵232を用いてDES暗号化し(暗号化転出情報594)(ステップS1407),該情報594に送出情報応答識別570を付加して送出情報応答538を生成し,電子財布端末100に出力し(ステップS1409),バリュー送出ステップS1011を終了」するものである。
この事項によれば,引用発明は「自カード(出金側)120aの取引カウンタ236に1を加え(ステップS1404),該取引カウンタ236の値562と,カード識別230の値564,ステップS1305で取得した引き出し金額554とコマンド590に指定されたバリュー転出先のカード識別576を結合してチェックサムを付加し,価値譲渡情報である転出情報を生成する(ステップS1405)」ものであり,ここで,上記「取引カウンタ」は「取引の都度にその数を更新していくものであり,従って,取引カウンタの値は,取引毎の唯一な番号(個々の譲渡を特定可能なユニークな番号)を有し,取引(譲渡)管理を示す譲渡管理番号であり」,生成された「転出情報」は「引き出し金額554」を含み,暗号化されて「暗号化転出情報594」とされ,さらに「送出情報応答識別570を付加して送出情報応答538を生成し」,「電子財布端末100」に出力されるものであるから,引用発明の「転出情報」の生成,及び,「電子財布端末100」への出力は,本願発明の「転送すべき資産価値の額を含む資産転送メッセージを生成して送信するステップ」に相当するものである。
(3-5)そして,引用発明は,「バリュー転出ステップS1011」を実行することにより,「バリュー残高238から引出し金額V554を差し引きし(ステップS1403)」との処理が行われ,「電子財布」である「出金側ICカード120a」から「引出し金額V554」(「資産価値」)の「差し引き」(転送)が記録されるものであることから,引用発明のこれらの処理は本願発明の「転送アウトプロセスを実行して前記電子財布からの対応する資産価値の転送を記録し」に相当するものである。
(3-6)以上の(3-1)?(3-5)の検討によれば,本願発明と引用発明は,後記する点で相違するものの,
「b)前記インターフェイスを介して,少なくとも転送すべき資産価値の額を含む資産転送メッセージを受け取り,転送アウトプロセスを実行して前記電子財布からの対応する資産価値の転送を記録し,該転送アウトプロセスは,前記現在の資産価値の額が転送すべき資産価値の額以上であるかどうかを判定するステップ,前記判定が肯定であるならば,転送すべき資産価値の額を含む資産転送メッセージを生成して送信するステップ,前記現在の資産価値の額を前記転送すべき資産価値の額だけ減らすステップ,を含む」
点で共通する。
(3-7)上記(3-4)で示した引用発明の「転出情報」の「電子財布端末100」への出力は,「出金側ICカード120a」の「カードインターフェース203」によりなされるものであり,また,その後「電子財布端末100は,この応答538から暗号化転出情報594を取り出して前記送金先のメールアドレス905に送付するものであり,電子メールホスト装置130の記憶装置137に置かれたメールボックス139の送金先のメールアドレス905を保持するユーザーの記憶域に,暗号化転出情報を含み,「送金メール:」という題名を付与された電子メールが蓄積されるもの」であることから,「出金側ICカード120a」で生成した「転出情報」が「カードインターフェース203」により「公衆回線117」を介して送信されるものである。
そうすると,引用発明の「カードインターフェース203」も,本願発明の「通信媒体を介してメッセージを送信するよう構成されたインターフェイス」であるといえる。
(4)本願発明のa)の処理と,引用発明の(ii)で示す処理を対比する。
(4-1)引用発明の(ii)で示す処理は,「送金先のメールアドレス905を保持するユーザーが電子財布端末100において「メール送受信」を選択し,さらに「マネーメール受信」を選択する」と実行される処理であり,まず「電子財布端末100」により「電子メールホスト装置130に接続し(ステップS901),当該ユーザー宛ての新着メールのリストを取得し(ステップS903),この後,「送金メール:」という題名のメールがあるかを判定し(ステップS905),該当するメールのうち古い者から順に1件受信し(ステップS907),受信メールから暗号化転出情報594を取り出し(ステップS909),分離した暗号化転出情報594をバリュー転入コマンド596に変換し,受取側ICカード120bに発行し(ステップS911)」との処理が行われ,次に「これに対してICカード120bはコマンド判定ステップS1003からバリュー転入ステップS1013に移行する」ものであり,該「バリュー転入コマンド596」により(ii)で示す「バリュー転入ステップS1013」が実行されてバリューの転入が行われるものである。
また,上記「バリュー転入コマンド596」は,受信メールから取り出して分離した「暗号化転出情報594」を変換したものであるが,「コマンド592に付加されている暗号化転出情報594を,発行者暗号鍵232を用いてDES復号化して転出情報とし(ステップS1501)」との事項から,該「バリュー転入コマンド596」は「コマンド592」と「暗号化転出情報594」で構成されるものであり,当該「暗号化転出情報594」は,上記(3-4)で示したように「転出情報」を暗号化したものであって,該「転出情報」には「引き出し金額554」が含まれている。
そして,「電子財布端末100」から発行された上記「バリュー転入コマンド596」は,該「電子財布端末100」の「受取側カードインターフェース111b」と接続された「受取側ICカード120b」の「カードインターフェース203」を介して受け取られるものであるから,該「バリュー転入コマンド596」に含まれ,前記「引き出し金額V554」を含む「転送情報」を「受取側ICカード120b」が受け取ることは,本願発明の「前記インターフェイスを介して,少なくとも転送すべき資産価値の額を含む資産転送メッセージを受け取り」に相当するものである。
(4-2)引用発明では「バリュー転入コマンド596」により「ICカード120b」は「バリュー転入ステップS1013に移行する」ものであり,該「バリュー転入ステップS1013」は,「送金者のICカード120から受取者のICカードにメールで電子バリューを移動させる際に,送金者のICカードにて行われるステップ」であることから,引用発明の「バリュー転入ステップS1013」は本願発明の「転送インプロセス」に対応するものである。
(4-3)引用発明の「バリュー転入ステップS1013」では,まず「コマンド592に付加されている暗号化転出情報594を,発行者暗号鍵232を用いてDES復号化して転出情報とし(ステップS1501),該データの内容から計算されるチェックサムと,転出情報内チェックサム536が一致するか確認し(ステップS1503),一致する場合は正常と判断し,転出情報内の受取側カード識別576が自カード(受取側)識別230と一致するか確認し(ステップS1505)」との処理が行われる。
次に,「一致する場合には,転入履歴234に前記転出情報内の出金側カード識別564が記録されているかを判定し(ステップS1507),ここで転入履歴234には過去にバリュー転入ステップS1013を正常に終了した時の出金側カード識別564と,同識別で最も最近(最後)にバリュー転入ステップS1013を行った際の出金側取引カウンター560の値を組み合わせて保持しており,転入履歴234内に前記転出情報内の出金側カード識別564があれば,転入履歴234で検出した出金側カード識別564と対で記憶している出金側取引カウンター560の値と,転出情報内の出金側取引カウンター560の値を比較し(ステップS1509)」との処理が行われ,さらに「転出情報内の出金側取引カウンター560の値が大きければ,カード120のバリュー残高238に転出情報内の引き出し金額V554の値を加算し(ステップS1511),転入履歴に,転入しようとする出金側カード取引カウンター560の値と等しい,もしくはそれを超える取引カウンター560の値が残っている場合,過去に転入済みのメールを再度転入に使用したと判定し,エラー応答を送出し(ステップS1517),転入履歴234内に前記転出情報内の出金側カード識別564が無ければ,カード120のバリュー残高238に転出情報内の引き出し金額V554の値を加算し(ステップS1511)」との処理が行われるものである。
ここで,「転入履歴234」は「過去にバリュー転入ステップS1013を正常に終了した時の出金側カード識別564と,同識別で最も最近(最後)にバリュー転入ステップS1013を行った際の出金側取引カウンター560の値を組み合わせて保持」するものであり,また,「取引カウンター560」は,前記(3-4)で示したように「取引カウンタの値は,取引毎の唯一な番号(個々の譲渡を特定可能なユニークな番号)を有し,取引(譲渡)管理を示す譲渡管理番号」を意味するものである。
そして,上記「転入履歴234に前記転出情報内の出金側カード識別564が記録されているかを判定し(ステップS1507)」,及び,「転入履歴234内に前記転出情報内の出金側カード識別564があれば,転入履歴234で検出した出金側カード識別564と対で記憶している出金側取引カウンター560の値と,転出情報内の出金側取引カウンター560の値を比較し(ステップS1509)」との判定及び比較処理により,「転入履歴234内に前記転出情報内の出金側カード識別564が無ければ」または「転出情報内の出金側取引カウンター560の値が大きければ」と判定された場合にのみ「カード120のバリュー残高238に転出情報内の引き出し金額V554の値を加算し」との処理が行われ,また,「転入履歴に,転入しようとする出金側カード取引カウンター560の値と等しい,もしくはそれを超える取引カウンター560の値が残っている場合,過去に転入済みのメールを再度転入に使用したと判定し,エラー応答を送出し(ステップS1517)」との処理が行われるものであり,当該処理は受け取った「転出情報」に含まれる「出金側カード識別564」と「出金側取引カウンター560の値」を,「転入履歴234」に記録された「正常に終了した時の出金側カード識別564と,同識別で最も最近(最後)にバリュー転入ステップS1013を行った際の出金側取引カウンター560の値を組み合わせ」と比較することにより,重複であるかどうかを判定し,重複でないならば「カード120のバリュー残高238に転出情報内の引き出し金額V554の値を加算し」との処理が行われるものであり,それにより引用発明では「電子メールは受信者から他の受信者に転送することが容易に行え,その後再度元の受信者に戻すことで2つ以上の複製を作ることも容易であり,このような複製手段で送金メール自体を複製することは可能であるが,最初のメールに対するバリュー転入ステップS1013で転入履歴234に出金側カード識別564と取引カウンター560を記憶し,過去に転入処理を行った取引カウンターの値よりも小さな取引カウンターを持つ電子バリューの転入を禁止することにより,2回目以降の電子バリューの転入を阻止することができる」との効果を得られるものである。
そうすると,本願発明と引用発明は,後記する点で相違するものの,
「転送インプロセスは,受け取った資産転送メッセージを前記ログに記録された先に受け取った資産転送メッセージと比較することにより,受け取った資産転送メッセージが重複であるかどうか判定するステップ,前記受け取った資産転送メッセージが重複でないならば,前記現在の資産価値の額を転送すべき資産価値の額だけ増加させるステップ」
を備える点で共通する。
(4-4)引用発明は,「続いて転入履歴234に転出情報内の出金側カード識別564と該情報内の出金側取引カウンター560の値の対を書き込み(ステップS1513),正常終了応答528を電子財布端末100に出力し(ステップS1515),バリュー転入ステップS1013を終了し」との処理が行われるものであり,この「転入履歴234に転出情報内の出金側カード識別564と該情報内の出金側取引カウンター560の値の対を書き込み(ステップS1513)」は,本願発明の「資産転送の情報を前記ログに記録するステップ」に相当するものである。
(4-5)そして,引用発明は,「バリュー転入ステップS1013」を実行することにより,「カード120のバリュー残高238に転出情報内の引き出し金額V554の値を加算し(ステップS1511)」との処理が行われ,「電子財布」である「受取側ICカード120b」に「引き出し金額V554」(「資産価値」)の「加算」(転送)が記録されるものであることから,引用発明のこれらの処理は本願発明の「転送インプロセスを実行して対応する資産価値の転送を前記電子財布に記録し」に相当するものである。
(4-6)以上の(4-1)?(4-5)の検討によれば,本願発明と引用発明は,後記する点で相違するものの,
「a)前記インターフェイスを介して,少なくとも転送すべき資産価値の額を含む資産転送メッセージを受け取り,転送インプロセスを実行して対応する資産価値の転送を前記電子財布に記録し,該転送インプロセスは,受け取った資産転送メッセージを前記ログに記録された先に受け取った資産転送メッセージと比較することにより,受け取った資産転送メッセージが重複であるかどうか判定するステップ,前記受け取った資産転送メッセージが重複でないならば,前記現在の資産価値の額を転送すべき資産価値の額だけ増加させるステップ,および資産転送の情報を前記ログに記録するステップを含む」
点で共通する。
(4-7)上記(4-1)で示したように,引用発明の「転出情報」は,「電子財布端末100」の「受取側カードインターフェース111b」を介して,「受取側ICカード120b」の「カードインターフェース203」により受信されるものであり,また,当該「転出情報」は「公衆回線117」を介して受信されたものである。
そうすると,引用発明の「カードインターフェース203」も,本願発明の「通信媒体を介してメッセージを受信するよう構成されたインターフェイス」であるといえる。
(5)以上の(1)?(4)によれば,本願発明と引用発明は,以下の点で一致し,また,相違する。
<一致点>
「通信媒体と,少なくとも2つの電子財布と,を備える電子資産交換システムであって,
前記電子財布のそれぞれは,
前記通信媒体を介してメッセージを送受信するよう構成されたインターフェイスと,
少なくとも現在の資産価値の額と,それぞれ特異な識別子と,資産転送のログと,を記憶するメモリと,
前記インターフェイスおよび前記メモリに動作的に結合したコントローラと,
を備え,該コントローラは,命令コードの制御下で
a)前記インターフェイスを介して,少なくとも転送すべき資産価値の額を含む資産転送メッセージを受け取り,転送インプロセスを実行して対応する資産価値の転送を前記電子財布に記録し,該転送インプロセスは,受け取った資産転送メッセージを前記ログに記録された先に受け取った資産転送メッセージと比較することにより,受け取った資産転送メッセージが重複であるかどうか判定するステップ,前記受け取った資産転送メッセージが重複でないならば,前記現在の資産価値の額を転送すべき資産価値の額だけ増加させるステップ,および資産転送の情報を前記ログに記録するステップを含む,
b)前記インターフェイスを介して,少なくとも転送すべき資産価値の額を含む資産転送メッセージを受け取り,転送アウトプロセスを実行して前記電子財布からの対応する資産価値の転送を記録し,該転送アウトプロセスは,前記現在の資産価値の額が転送すべき資産価値の額以上であるかどうかを判定するステップ,前記判定が肯定であるならば,転送すべき資産価値の額を含む資産転送メッセージを生成して送信するステップ,前記現在の資産価値の額を前記転送すべき資産価値の額だけ減らすステップ,を含む
上記a),b)を行う,前記電子資産交換システム。」

<相違点>
本願発明のb)における「転送アウトプロセス」では,「資産転送の情報を前記ログに記録するステップ」を備えているが,当該「転送アウトプロセス」に相当する引用発明の「バリュー転出ステップS1011」ではそのようなステップを備えていない点。

3.相違点についての判断
いわゆる電子財布として使用されるICカードについて,
例えば,特開2001-307048号公報には,
「【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は,電子財布などと称される金銭支払い機能を有するICカードに関するものである。
・・・(途中省略)・・・
【0009】更に,ICモジュール1は図3に示されるように構成されている。ICモジュール1には,CPU301,EEPROM302,コプロセッサ303,ROM304,RAM305,バッテリ306が具備されている。CPU301は,ICカード全体を制御しR0M304に記憶されたアプリケーションプログラム等を実行するものである。EEPROM302には,電子財布として用いるための金額情報や所有者認証用のオーナ固有データ,送金履歴に使用される所有者名情報等が書き込まれている。コプロセッサ303は,所有者認証の際の演算などを行うものである。ROM304には,ICカードにおいて用いられるOSやアプリケーションなどのプログラムが記憶され,RAM305は,アプリケーションプログラムの実行の際ワーキングエリアとして用いられる。バッテリ306は,各部に電源供給を行うものであり,充電可能な構成を有している。
【0010】図4には,EEPROM302に記憶される金額情報,入金出金履歴情報のテーブル(金銭情報記憶手段)の一例が示されている。このテーブルは,年月日時分の情報,入金と出金の金額の情報,残高の情報,備考として取引に係る相手名と識別IDが記憶されるように構成され,その内容は必要に応じて参照等のため表示に供され,銀行に設置された電子端末により取り出されて銀行口座の内容に反映されるように使用される。
【0011】赤外線通信モジュール2は,同様の赤外線通信モジュールを有する他のICカード,金融機関や小売店などに設置された電子端末との間において通信を行う機能を有する。赤外線通信モジュール2を介したICカード間において,又はICカードと上記電子端末との間において,金銭に係る取引を行い,その履歴がCPU301によってEEPROM302の上記テーブルに反映される。」(なお,下線は当審において付加したものである。)と記載され,
また,特開2003-108904号公報には,
「【0048】[電子マネーカード]電子マネーカード350は,電子マネーを使用するための電子財布として機能するICカードであり,ほぼ名刺版の大きさのプラスチックカードの内部にICチップや電源等を収容して構成される。その表面には,この電子マネーカードの名称やクレジットカード番号等が視認できるように印刷されている。電子マネーカード350は,図2に示されているように,制御部352,メモリ354,通信部356,及びアンテナ358を備えている。
【0049】制御部352はメモリ354に対するデータの読み書きの制御,及びカードリーダ310とデータ通信を行うための通信部356の制御,その他の制御を行う。
【0050】メモリ354には,図3に示されているようなカード情報が記憶されている。カード情報は,この電子マネーサービスの提供を受けるための電子マネーカードID(本実施の形態では16桁の番号),独自ID,カード発行年月日(有効期間を含む),電子マネーの残高,入金履歴,出金履歴,その他の情報で構成される。
【0051】なお,独自IDとは,電子マネーカードID又は該顧客を識別するための他の識別情報に一義的に変換可能な情報である。即ち,インターネット等を経由して電子マネーカードIDを含む情報の送受信を行った場合に,該情報が外部に漏洩する恐れがあり,該電子マネーカードIDを悪用されかねないので,端末300からはこの独自IDを含む情報を送信し,これを受信したマネーサーバ200において,該独自IDに基づいて電子マネーカードIDあるいは該顧客を識別するための他のIDに変換することにより,電子マネーカードID等の重要な情報を保護するために使用する識別情報である。
【0052】電子マネーカード350をカードリーダ310に近接させる(かざす)と,カードリーダ310から情報の読出命令又は情報の書込命令がなされるので,通信部356を介してこれを受信し,情報の読出命令である場合には,メモリ354からカード情報を読み出して,カードリーダ310に送信し,情報の書込命令である場合には,カードリーダ310から送られてくる書込情報(残高,入金履歴,出金履歴等)をメモリ354に書き込む。」(なお,下線は当審において付加したものである。)
と記載されているように,入金履歴と出金履歴の両方の履歴を電子財布として使用されるICカード内のメモリに記録することは周知の技術である。
そして,一般に金銭の授受においては,その証拠としてそれぞれの記録を残すことは商取引上の常識であり,また,電子財布の技術においてもその証拠として入金履歴と出金履歴の両方の記録を残しておくことは上記のように周知の技術であることから,引用発明の「電子財布であるICカード120」においても,「バリュー転入ステップS1013」における入金履歴に相当する「転入履歴234」の記録に加えて,さらに「バリュー転出ステップS1011」においても出金履歴として,電子バリューの転出の履歴を記録することにより金銭の授受の証拠を残し,上記相違点に係る構成とすることは,当業者であれば容易に想到しえたことである。
そして,本願発明の奏する作用効果は,引用発明及び周知技術の作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

4.まとめ
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第4 むすび
以上のとおり,請求項1に係る発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-15 
結審通知日 2016-02-16 
審決日 2016-02-29 
出願番号 特願2012-529070(P2012-529070)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡北 有平塩田 徳彦  
特許庁審判長 手島 聖治
特許庁審判官 川崎 優
金子 幸一
発明の名称 電子財布のための資産価値記憶、転送システム  
代理人 特許業務法人OFH特許事務所  

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