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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02D
審判 査定不服 6項4号請求の範囲の記載形式不備 取り消して特許、登録 F02D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F02D
管理番号 1316815
審判番号 不服2015-16005  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-08-31 
確定日 2016-08-02 
事件の表示 特願2013-541667「ノックセンサの故障診断装置及び故障診断方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月10日国際公開、WO2013/065400、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年9月7日(優先権主張2011年11月1日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成25年12月17日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出されるとともに、同日に特許法第184条の8第1項に規定する特許協力条約第34条補正の写しが提出され、平成27年1月8日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成27年3月23日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年6月2日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して平成27年8月31日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、当審において平成28年3月7日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、これに対して平成28年4月27日に特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、平成27年3月23日に提出された手続補正書により補正された明細書、平成28年4月27日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び国際出願時の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。

「 【請求項1】
内燃機関の振動を検出するノックセンサと、
前記ノックセンサの出力信号から抽出されるノッキング振動周波数成分の大きさが第1の閾値を超えた場合に、ノッキングが発生していると判定する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、ノッキングが発生し得ない所定の診断条件が成立しているか否かを判定し、前記診断条件が成立しており、かつ、前記ノックセンサの出力信号から抽出されるノッキング振動周波数成分の大きさが第2の閾値を超えた場合に、前記ノックセンサが故障していると診断し、
更に、前記制御手段は、燃料カットが行われているときであって、かつ燃料カット開始後に所定期間経過してから燃料カットが終了するまでの間、前記診断条件が成立していると判定するノックセンサの故障診断装置。
【請求項2】
前記第1の閾値と前記第2の閾値とを同じ値とする請求項1に記載のノックセンサの故障診断装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記診断条件が成立しているときに、予め設定した単位期間内にノッキング振動周波数成分の大きさが前記第2の閾値を超えた回数をカウントし、カウントした回数が第1の所定回数を超えた場合に、前記ノックセンサが故障していると診断する請求項1又は2に記載のノックセンサの故障診断装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記カウントした回数が前記第1の所定回数を超える状態が連続して第2の所定回数発生した場合に、前記ノックセンサが故障していると診断する請求項3に記載のノックセンサの故障診断装置。
【請求項5】
内燃機関の振動を検出するノックセンサを備えるノックセンサの故障診断方法において、
前記ノックセンサの出力信号から抽出されるノッキング振動周波数成分の大きさが第1の閾値を超えた場合に、ノッキングが発生していると判定する一方、
燃料カットが行われているときであって、かつ燃料カット開始後に所定期間経過してから燃料カットが終了するまでの間、ノッキングが発生し得ない所定の診断条件が成立していると判定し、
前記診断条件が成立しており、かつ、前記ノックセンサの出力信号から抽出されるノッキング振動周波数成分の大きさが第2の閾値を超えた場合に、前記ノックセンサが故障していると診断するノックセンサの故障診断方法。」


第3 原査定の理由について
1.原査定の理由の概要
(1)平成27年1月8日付けで通知した拒絶理由
平成27年1月8日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。

「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1、4-6、12
・引用文献等 1-3
・備考
引用文献1(特に、段落【0055】、【0124】を参照。)には、ノックセンサの出力信号に基づいてノッキングが発生していると判定する制御手段を備え、前記制御手段は、ノッキングが発生しておらず、且つノックセンサの出力信号が所定の閾値を超えた場合、ノックセンサが故障していると診断する、ノックセンサの故障診断装置が記載されている。
ノッキングを判定するためのパラメータとして、ノッキング振動周波数成分を用いることは、周知技術である(例えば、文献2の段落【0006】を参照。)。
次に、燃料カットが行われているときにノッキングが発生しないことは周知の技術的事項であり(例えば、文献3の段落【0058】を参照。)、引用文献1において、ノッキングが発生していない状況として、燃料カットが行われていることを条件とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。また、一般に、制御フェーズが切り替わる際に、切り替わった直後の過渡的な期間における検出値等を用いることを避けることは、常套手段であり、引用文献1においても、燃料カット開始直後の過渡的な期間を避け、所定時間経過してから故障診断を行うものとすることは、発明実施の際に当業者が通常の技術常識をもってなし得ることである。

請求項4について、各閾値は当業者が適宜設定し得るものであり、これらを同じ値とすることにも、格別の困難性は見出せない。
請求項5、6について、回数を条件として診断や推定等を行うことは、周知技術である。

引 用 文 献 等 一 覧
1 特開2005-146924号公報
2 特開2011-174409号公報
3 特開2005-330954号公報」

(2)原査定の概要
原査定の概要は、次のとおりである。

「この出願については、平成27年 1月 8日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考

●理由(特許法第29条第2項)について

・請求項 1、4-6、12
・引用文献等 1-3
引用文献1(特に、段落【0055】、【0124】を参照。)には、ノックセンサの出力信号に基づいてノッキングが発生していると判定する制御手段を備え、前記制御手段は、ノッキングが発生しておらず、且つノックセンサの出力信号が所定の閾値を超えた場合、ノックセンサが故障していると診断する、ノックセンサの故障診断装置が記載されている。
ノッキングを判定するためのパラメータとして、ノッキング振動周波数成分を用いることは、周知技術である(例えば、文献2の段落【0006】を参照。)。
次に、引用文献1に記載の発明は、上述のとおりノッキングが発生していないときにノックセンサの故障診断を行うものであるから、ノッキングが発生していないような状況を選択して故障診断を行うことは、当業者が適宜行い得ることである。そして、燃料カットが行われているときにノッキングが発生しないことは周知の技術的事項である(例えば、文献3の段落【0058】を参照。)から、引用文献1に記載の発明において、ノッキングが発生していないような状況として燃料カットが行われていることを選択し、燃料カットが行われているときにノッキングが発生していないとしてノックセンサの故障診断を行うものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、一般に、制御フェーズが切り替わる際に、切り替わった直後の過渡的な期間における検出値等を用いることを避けることは、常套手段であり、燃料カット開始直後の過渡的な期間を避け、所定時間経過してから故障診断を行うものとすることは、引用文献1及び周知技術に基づく発明実施の際に当業者が通常の技術常識をもってなし得ることである。

請求項4について、各閾値は当業者が適宜設定し得るものであり、これらを同じ値とすることにも、格別の困難性は見出せない。
請求項5、6について、回数を条件として診断や推定等を行うことは、周知技術である。

<引用文献等一覧>
1.特開2005-146924号公報
2.特開2011-174409号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2005-330954号公報(周知の事項を示す文献)」

2.原査定の理由に対する当審の判断
(1)刊行物1
ア 刊行物1の記載事項
原査定の理由に引用された刊行物であって、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2005-146924号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

a)「【0001】
本発明は、吸気系に燃料を噴射する吸気噴射用インジェクタと、燃焼室に燃料を噴射する筒内噴射用インジェクタとを備える内燃機関のノッキング判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の燃焼室に燃料を直接噴射する筒内噴射用インジェクタと、吸気ポートなどの吸気系に燃料を噴射する吸気噴射用インジェクタとを備える内燃機関が知られている(特許文献1等)。
【0003】
この内燃機関では、筒内噴射用インジェクタによる燃料噴射と吸気噴射用インジェクタによる燃料噴射とを機関運転状態に応じて適宜変更することにより、燃費の向上や機関出力の確保等を好適に行うようにしている。
【0004】
他方、内燃機関では通常、ノッキング発生の有無を判定するノッキング判定が行われ、その結果に応じて点火時期等を調整するノッキング制御が実施されている。このノッキング判定は、シリンダブロック等に配設された振動検出センサであるノックセンサを用いて行われ、各気筒の着火後におけるノックセンサの出力信号に基づき、ノッキング発生の有無が判定される。
【特許文献1】特開平7-103048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したような内燃機関において、筒内噴射用インジェクタから燃料が噴射される場合には、吸気噴射用インジェクタから燃料が噴射される場合と比較して燃焼室内の燃料分布に偏りが生じやすくなる。そして燃料分布に偏りが生じている状態で混合気の点火が行われると、燃料濃度の高い部分で急速に燃焼が進むため、混合気の燃焼速度は速くなる傾向にある。このように、筒内噴射用インジェクタによる燃料噴射と吸気噴射用インジェクタによる燃料噴射とでは混合気の燃焼速度が変化し、これに応じてノッキングの発生態様、例えばその発生時期やノッキングによる機関振動のレベル等も変化することがある。そのため、上述したような各インジェクタを備える内燃機関で実施されるノッキングの判定結果について、その信頼性が低下するおそれがある。
【0006】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、吸気噴射用インジェクタと筒内噴射用インジェクタとを備える内燃機関において、ノッキングの判定結果にかかる信頼性の低下を抑制することのできる内燃機関のノッキング判定装置を提供することにある。」(段落【0001】ないし【0006】)

b)「【0033】
電子制御装置30には、機関運転状態を検出する各種のセンサが接続されている。例えばクランクセンサ31によっては、機関出力軸であるクランクシャフト15の回転角が、ひいては機関回転速度NEが検出される。またアクセルセンサ32によって、アクセル操作量ACCPが検出される。更に気筒12を構成するシリンダブロックに配設されたノックセンサ33によっては、各気筒の燃焼室16内からシリンダブロックに伝達された振動が検出される。」(段落【0033】)

c)「【0048】
次に、電子制御装置30による内燃機関11の点火時期制御について説明する。
電子制御装置30は上記ノックセンサ33の検出結果に基づいて、各気筒でのノッキング発生の有無を判定するノック判定を行い、その結果に応じて点火時期を調整するノック制御を実施している。」(段落【0048】)

d)「【0055】
次に、上記ノック制御におけるノック判定の処理手順を図4に示す。同図4に示される一連の処理は、機関始動後にノック制御の開始条件が成立したときから開始される。
このノック判定処理が開始されると、まずステップS400において、ゲート信号のオン時期及びオフ時期が設定される。ゲート信号は、ノック判定にかかるノックセンサ33の出力信号についてサンプリングを実施する期間を決定する信号で、ノック判定は、ゲート信号がオンとなっている期間のノックセンサ33の出力信号を参照して行われる。すなわち、ここでは、ゲート信号がオンとなっている期間が、ノックセンサ33の出力信号に基づくノック判定が行われる「ノック判定期間」となっている。ちなみにゲート信号のオン時期及びオフ時期は、各気筒の圧縮上死点を基準としたクランク角(ATDC)で表される。
【0056】
ここでのゲート信号のオン時期及びオフ時期の設定は、電子制御装置30のメモリに予め記憶された判定期間算出用の演算マップを参照して行われる。この判定期間算出用の演算マップは、機関回転速度NEと機関負荷Lとの二次元マップとして設定されている。この判定期間算出用の演算マップの設定態様については後述する。
【0057】
ノック判定期間の設定がなされると、以下のステップS410?ステップS460の処理を通じて、気筒毎にノック判定が実施される。本実施形態では、ノック判定期間におけるノックセンサ33の出力信号のピークホールド値VKPEAK(最大値)に基づいてノック判定が行われる。そしてそのピークホールド値VKPEAKの対数変換値LVPKが図5に示すような正規分布を示すとの前提に基づき、今回サンプリングされた対数変換値LVPKのその分布内での位置によりノッキング発生の有無の判定を行うノック判定方式が採用されている。
【0058】
さて、ゲート信号がオンとされ、ノック判定用のゲートがオープンされると(ステップS410:YES)、対象となる気筒のノックセンサ33の出力信号についてそのピークホールドが開始される(ステップS420)。すなわち、ゲート信号がオンとされてからのノックセンサ33の出力信号の最大値であるピークホールド値VKPEAKが求められる。
【0059】
ゲート信号がオフとされて同ゲートがクローズされると(ステップS430:YES)、その時点でのピークホールド値VKPEAK、すなわちノック判定期間におけるノックセンサ33の出力信号の最大値が読み込まれる(ステップS440)。
【0060】
そしてそのピークホールド値VKPEAKに基づいて、ノック判定レベルが更新される(ステップS450)。ここでのノック判定レベルの更新は、以下の態様で行われる。
まず、今回サンプリングされたピークホールド値VKPEAKの対数変換値LVpkに基づき、その対数変換値LVpkの分布傾向を示す分布パラメータ、すなわち先の図5に示される分布中央値Vm及び標準偏差値SGMの更新が行われる。ここでは、それらの更新は、次式(4)?式(7)に基づき行われる。すなわちここでは、分布中央値Vm及び標準偏差値SGMの更新前の値を、今回サンプリングされたピークホールド値VKPEAKの対数変換値LVpkとの対比に基づき増減することで、分布中央値Vm及び標準偏差値SGMが概算により求められている。
【0061】

(LVpk>Vmのとき)
Vm ← Vm+ΔM …(4)

(LVpk≦Vmのとき)
Vm ← Vm-ΔM …(5)

(Vm-SGM<LVpk<Vmのとき:LVpkが図5に示す領域Aにあるとき)
SGM ← SGM-2・ΔS …(6)

(LVpk≦Vm-SGM、またはLVpk≧Vmのとき:LVpkが図5に示す領域Bにあるとき)
SGM ← SGM+ΔS …(7)

なお、分布中央値Vmの更新量ΔMは、今回サンプリングされた対数変換値LVpkと更新前の分布中央値Vmとの差を所定値n1(例えば「4」)で除算した値とされている。また標準偏差値SGMの更新量ΔSは、分布中央値Vmの更新量ΔMを所定値n2(例えば「8」)で除算した値とされている。
【0062】
ノック判定レベルVkdは、こうして更新される分布中央値Vm及び標準偏差値SGMに基づき次式(8)より求められる。

Vkd=Vm+u×SGM …(8)

なお、このu値は、機関回転速度NE等に基づいて可変設定され、基本的には、上記燃焼室16内における混合気の燃焼圧力が高い状態にあるときほど大きな値が設定される。
【0063】
そして、ノック判定レベルVkdと上記対数変換値LVpkとの比較を通じて内燃機関11におけるノッキングの発生の有無が判定される(ステップS460)。すなわち、上記対数変換値LVpkが「ノック判定レベルVkd<対数変換値LVpk」といった範囲にある場合には、内燃機関11にノッキングが発生していると判定される。これとは逆に、上記対数変換値LVpkが「ノック判定レベルVkd≧対数変換値LVpk」といった範囲にある場合には、内燃機関11にノッキングが発生していないと判定される。」(段落【0055】ないし【0063】)

e)「【0124】
・上記ノッキング判定装置によって実行される一処理として、ノックセンサ33の故障等を検出するための異常診断処理を追加するようにしてもよい。これは例えば、ノッキングが発生していないときのノックセンサ33の出力信号、換言すればバックグランドノイズのレベルが所定のフェイル判定値を超えるときに、ノックセンサ33に異常が発生している旨診断するといった態様をもって実施することができる。ここで、上述したように、筒内噴射用インジェクタ17から燃料噴射が実施されるときには、混合気の燃焼速度の増大に起因して上記バックグランドノイズのレベルも大きくなる傾向にある。そこで、筒内噴射用噴射割合Rdが増大するほど上記フェイル判定値がより大きい値に設定されるようにすることで、ノックセンサ33の異常診断に際して、誤診断がなされるといった不具合の発生を抑えることができ、上記異常診断処理を好適に実施することができるようになる。」(段落【0124】)

イ 上記ア及び図面の記載から分かること
a)上記アa)ないしe)並びに図1及び4の記載によれば、刊行物1には、ノックセンサの異常診断装置又はノックセンサの異常診断方法が記載されていることが分かる。

b)上記アb)ないしe)並びに図1及び4の記載によれば、ノックセンサの異常診断装置又はノックセンサの異常診断方法は、内燃機関の振動を検出するノックセンサ33を備えることが分かる。

c)上記アb)ないしd)並びに図1及び4の記載によれば、ノックセンサの異常診断装置又はノックセンサの異常診断方法は、電子制御装置30により、ノックセンサ33の出力信号から求められる対数変換値LVpkの大きさがノック判定レベルVkdを超えた場合に、ノッキングが発生していると判定することが分かる。

d)上記アb)ないしe)並びに図1及び4の記載によれば、ノックセンサの異常診断装置又はノックセンサの異常診断方法は、電子制御装置30により、ノッキングが発生していないときであり、かつ、ノックセンサ33の出力信号の大きさが所定のフェイル判定値を超えた場合に、前記ノックセンサ33に異常が発生していると診断することが分かる。

ウ 引用発明1
上記ア及びイを総合して、本願発明1の表現に倣って整理すると、刊行物1には、次の事項からなる発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認める。
「内燃機関の振動を検出するノックセンサ33と、
前記ノックセンサ33の出力信号から求められる対数変換値LVpkの大きさがノック判定レベルVkdを超えた場合に、ノッキングが発生していると判定する電子制御装置30と、を備え、
前記電子制御装置30は、ノッキングが発生していないときであり、かつ、前記ノックセンサ33の出力信号の大きさが所定のフェイル判定値を超えた場合に、前記ノックセンサ33に異常が発生していると診断する、ノックセンサの異常診断装置。」

エ 引用発明2
上記ア及びイを総合して、本願発明5の表現に倣って整理すると、刊行物1には、次の事項からなる発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認める。
「内燃機関の振動を検出するノックセンサ33を備えるノックセンサの異常診断方法において、
前記ノックセンサ33の出力信号から求められる対数変換値LVpkの大きさがノック判定レベルVkdを超えた場合に、ノッキングが発生していると判定し、
ノッキングが発生していないときであり、かつ、前記ノックセンサ33の出力信号の大きさが所定のフェイル判定値を超えた場合に、前記ノックセンサ33に異常が発生していると診断するノックセンサの異常診断方法。」

(2)本願発明1について
ア 対比
本願発明1(以下、「前者1」ともいう。)と引用発明1(以下、「後者1」ともいう。)とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者1における「内燃機関」は、前者1における「内燃機関」に相当し、以下同様に、「ノックセンサ33」は「ノックセンサ」に、「ノックセンサ33の出力信号」は「ノックセンサの出力信号」に、「ノック判定レベルVkd」は「第1の閾値」に、「電子制御装置30」は「制御手段」に、「所定のフェイル判定値」は「第2の閾値」に、「ノックセンサの異常診断装置」は「ノックセンサの故障診断装置」に、それぞれ相当する。

・後者1における「前記ノックセンサ33の出力信号から求められる対数変換値LVpkの大きさがノック判定レベルVkdを超えた場合に、ノッキングが発生していると判定する」は、前者1における「前記ノックセンサの出力信号から抽出されるノッキング振動周波数成分の大きさが第1の閾値を超えた場合に、ノッキングが発生していると判定する」に、「前記ノックセンサの出力信号から求められる検出結果の大きさが第1の閾値を超えた場合に、ノッキングが発生していると判定する」という限りにおいて一致する。

・後者1における「前記電子制御装置30は、ノッキングが発生していないときであり、かつ、前記ノックセンサ33の出力信号の大きさが所定のフェイル判定値を超えた場合に、前記ノックセンサ33に異常が発生していると診断する」は、前者1における「前記制御手段は、ノッキングが発生し得ない所定の診断条件が成立しているか否かを判定し、前記診断条件が成立しており、かつ、前記ノックセンサの出力信号から抽出されるノッキング振動周波数成分の大きさが第2の閾値を超えた場合に、前記ノックセンサが故障していると診断」するに、「前記制御手段は、ノッキングが発生していないときであり、かつ、前記ノックセンサの出力信号の大きさが第2の閾値を超えた場合に、前記ノックセンサが故障していると診断」するという限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「内燃機関の振動を検出するノックセンサと、
前記ノックセンサの出力信号から求められる検出結果の大きさが第1の閾値を超えた場合に、ノッキングが発生していると判定する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、ノッキングが発生していないときであり、かつ、前記ノックセンサの出力信号の大きさが第2の閾値を超えた場合に、前記ノックセンサが故障していると診断するノックセンサの故障診断装置。」の点で一致し、次の点で相違している。

[相違点1]
「前記ノックセンサの出力信号から求められる検出結果の大きさが第1の閾値を超えた場合に、ノッキングが発生していると判定する」ことに関し、本願発明1においては、「前記ノックセンサの出力信号から抽出されるノッキング振動周波数成分の大きさが第1の閾値を超えた場合に、ノッキングが発生していると判定する」のに対して、引用発明1においては、「前記ノックセンサ33の出力信号から求められる対数変換値LVpkの大きさがノック判定レベルVkdを超えた場合に、ノッキングが発生していると判定する」点(以下、「相違点1」という。)。

[相違点2]
「前記制御手段は、ノッキングが発生し得ない診断条件が成立しており、かつ、前記ノックセンサの出力信号の大きさが第2の閾値を超えた場合に、前記ノックセンサが故障していると診断」することに関し、本願発明1においては、「前記制御手段は、ノッキングが発生し得ない所定の診断条件が成立しているか否かを判定し、前記診断条件が成立しており、かつ、前記ノックセンサの出力信号から抽出されるノッキング振動周波数成分の大きさが第2の閾値を超えた場合に、前記ノックセンサが故障していると診断」するのに対して、引用発明1においては、「前記電子制御装置30は、ノッキングが発生していないときであり、かつ、前記ノックセンサ33の出力信号の大きさが所定のフェイル判定値を超えた場合に、前記ノックセンサ33に異常が発生していると診断する」点(以下、「相違点2」という。)。

[相違点3]
本願発明1においては、「更に、前記制御手段は、燃料カットが行われているときであって、かつ燃料カット開始後に所定期間経過してから燃料カットが終了するまでの間、前記診断条件が成立していると判定する」のに対して、引用発明1においては、電子制御装置30がそのような判定をするものであるのか否か不明である点(以下、「相違点3」という。)。

イ 判断
事案に鑑み、まず、相違点3について検討する。
原査定の理由に引用された刊行物であって、本願の優先日前に公開された刊行物である特開2011-174409号公報(以下、「刊行物2」という。)及び特開2005-330954号公報(以下、「刊行物3」という。)の何れにも、燃料カットが行われているときに、ノックセンサの故障診断を行なうことは記載されていない。
ここで、刊行物3の段落【0058】において、フューエルカット時には、燃焼(ノッキングを含む)による振動の発生は無いため、フューエルカット時にエンジン100自体の振動波形を検出する技術事項が示されている。
しかしながら、当該技術事項は、メモリに記憶され、検出した振動波形と比較されて、ノッキングが発生したか否かの判定に用いられるノック波形モデルを補正するためのもの(刊行物3の段落【0042】、【0043】及び【0059】を参照。)であり、ノックセンサの故障診断を行うためのものとはいえない。
また、上記1.(2)で示されているように、燃料カットが行われているときにノッキングが発生しないこと自体は、本願の優先日前に周知の技術的事項(例えば、刊行物3の段落【0058】を参照。)であり、また、引用発明1が、ノッキングが発生していないときにノックセンサの故障を診断するものであるとしても、刊行物1の段落【0124】における「・上記ノッキング判定装置によって実行される一処理として、ノックセンサ33の故障等を検出するための異常診断処理を追加するようにしてもよい。これは例えば、ノッキングが発生していないときのノックセンサ33の出力信号、換言すればバックグランドノイズのレベルが所定のフェイル判定値を超えるときに、ノックセンサ33に異常が発生している旨診断するといった態様をもって実施することができる。ここで、上述したように、筒内噴射用インジェクタ17から燃料噴射が実施されるときには、混合気の燃焼速度の増大に起因して上記バックグランドノイズのレベルも大きくなる傾向にある。そこで、筒内噴射用噴射割合Rdが増大するほど上記フェイル判定値がより大きい値に設定されるようにすることで、ノックセンサ33の異常診断に際して、誤診断がなされるといった不具合の発生を抑えることができ、上記異常診断処理を好適に実施することができるようになる。」(下線は当審で付した。)との記載によれば、引用発明1において、燃料噴射時のノッキングが発生しない状態が想定されているのであるから、周知の技術的事項に基づき、燃料カットが行われているときに、ノックセンサの故障診断を行なうことは、当業者が容易に着想し得るものではない。
さらに、上記1.(2)で示されているように、ノッキングを判定するためのパラメータとして、ノッキング振動周波数成分を用いることは、本願の優先日前に周知技術(例えば、刊行物2の段落【0006】を参照。)であり、また、一般に、制御フェーズが切り替わる際に、切り替わった直後の過渡的な期間における検出値等を用いることを避けることは、本願の優先日前に常套手段であるとしても、引用発明1において、燃料カットが行われているときに、ノックセンサの故障診断を行なうことは、当業者が容易に着想し得るものではない。
そうすると、引用発明1において、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
そして、本願発明1は、上記相違点3に係る発明特定事項を含むことにより、ノックセンサの故障診断を高精度に行えるものである。
したがって、本願発明1は、上記相違点1及び2の検討をするまでもなく、引用発明1、周知技術、周知の技術的事項及び常套手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本願発明5について
ア 対比
本願発明5(以下、「前者2」ともいう。)と引用発明2(以下、「後者2」ともいう。)とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者2における「内燃機関」は、前者2における「内燃機関」に相当し、以下同様に、「ノックセンサ33」は「ノックセンサ」に、「ノックセンサの異常診断方法」は「ノックセンサの故障診断方法」に、「ノックセンサ33の出力信号」は「ノックセンサの出力信号」に、「ノック判定レベルVkd」は「第1の閾値」に、「所定のフェイル判定値」は「第2の閾値」に、それぞれ相当する。

・後者2における「前記ノックセンサ33の出力信号から求められる対数変換値LVpkの大きさがノック判定レベルVkdを超えた場合に、ノッキングが発生していると判定」するは、前者2における「前記ノックセンサの出力信号から抽出されるノッキング振動周波数成分の大きさが第1の閾値を超えた場合に、ノッキングが発生していると判定する」に、「前記ノックセンサの出力信号から求められる検出結果の大きさが第1の閾値を超えた場合に、ノッキングが発生していると判定する」という限りにおいて一致する。

・後者2における「ノッキングが発生していないときであり、かつ、前記ノックセンサ33の出力信号の大きさが所定のフェイル判定値を超えた場合に、前記ノックセンサ33に異常が発生していると診断する」は、前者2における「前記診断条件が成立しており、かつ、前記ノックセンサの出力信号から抽出されるノッキング振動周波数成分の大きさが第2の閾値を超えた場合に、前記ノックセンサが故障していると診断する」に、「ノッキングが発生していないときであり、かつ、前記ノックセンサの出力信号の大きさが第2の閾値を超えた場合に、前記ノックセンサが故障していると診断する」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「内燃機関の振動を検出するノックセンサを備えるノックセンサの故障診断方法において、
前記ノックセンサの出力信号から求められる検出結果の大きさが第1の閾値を超えた場合に、ノッキングが発生していると判定し、
ノッキングが発生していないときであり、かつ、前記ノックセンサの出力信号の大きさが第2の閾値を超えた場合に、前記ノックセンサが故障していると診断するノックセンサの故障診断方法。」の点で一致し、次の点で相違している。

[相違点1’]
「前記ノックセンサの出力信号から求められる検出結果の大きさが第1の閾値を超えた場合に、ノッキングが発生していると判定する」ことに関し、本願発明5においては、「前記ノックセンサの出力信号から抽出されるノッキング振動周波数成分の大きさが第1の閾値を超えた場合に、ノッキングが発生していると判定する」のに対して、引用発明2においては、「前記ノックセンサ33の出力信号から求められる対数変換値LVpkの大きさがノック判定レベルVkdを超えた場合に、ノッキングが発生していると判定する」点(以下、「相違点1’」という。)。

[相違点2’]
「ノッキングが発生していないときであり、かつ、前記ノックセンサの出力信号の大きさが第2の閾値を超えた場合に、前記ノックセンサが故障していると診断する」ことに関し、本願発明5においては、「前記診断条件が成立しており、かつ、前記ノックセンサの出力信号から抽出されるノッキング振動周波数成分の大きさが第2の閾値を超えた場合に、前記ノックセンサが故障していると診断する」のに対して、引用発明2においては、「ノッキングが発生していないときであり、かつ、前記ノックセンサ33の出力信号の大きさが所定のフェイル判定値を超えた場合に、前記ノックセンサ33に異常が発生していると診断する」点(以下、「相違点2’」という。)。

[相違点3’]
本願発明5においては、「燃料カットが行われているときであって、かつ燃料カット開始後に所定期間経過してから燃料カットが終了するまでの間、ノッキングが発生し得ない所定の診断条件が成立していると判定」するのに対して、引用発明2においては、そのような判定をするのか否か不明である点(以下、「相違点3’」という。)。

イ 判断
相違点3’は、上記(2)アにおける相違点3と同様の相違点であり、上記(2)イの検討を踏まえると、同様の理由により、相違点3’に係る本願発明5の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。
そして、本願発明5は、上記相違点3’に係る発明特定事項を含むことにより、ノックセンサの故障診断を高精度に行えるものである。
したがって、本願発明5は、上記相違点1’及び2’の検討をするまでもなく、引用発明2、周知技術、周知の技術的事項及び常套手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり、本願発明1は、引用発明1、周知技術、周知の技術的事項及び常套手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願発明2ないし4は、本願発明1をさらに限定したものであるので、同様に、引用発明1、周知技術、周知の技術的事項及び常套手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
さらに、本願発明5は、引用発明2、周知技術、周知の技術的事項及び常套手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。


第4 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、次のとおりである。

「<理由1>
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


国際特許出願(PCT/JP2012/072863)において、特許協力条約第34条(2)(b)の規定に基づく補正により、特許請求の範囲における請求項2、3及び7ないし11は削除されたところ、本件出願において、特許請求の範囲における請求項2、3及び7ないし11は削除されたままである。
そして、本件出願の請求項4ないし6において、削除された請求項2及び3を直接又は間接的に引用しているため、請求項2及び3を引用した場合の発明特定事項が特定できない。
よって、本件出願の請求項4ないし6の記載では、本件出願の請求項4ないし6に係る発明が不明確である。


<理由2>
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第4号に規定する要件を満たしていない。


本件出願の特許請求の範囲において、請求項1、4ないし6及び12が記載されているところ、請求項2、3及び7ないし11が削除されたので、請求項に付した番号が記載する順序に連続番号となっていない。
よって、本件出願における特許請求の範囲の記載は、特許法施行規則第24条の3第2号(経済産業省令)で定めるところにより記載されたものではない。」

2.当審拒絶理由の判断
(1)理由1についての判断
平成28年4月27日提出の手続補正書による特許請求の範囲についての補正によって、特許請求の範囲の記載における各請求項の記載は上記第2に記載したとおりのものとなった。
このことにより、当審拒絶理由の通知時における請求項4ないし6は、上記補正によって請求項2ないし4に繰り上げられ、現存の先行する請求項を直接又は間接に引用するものとされ、発明特定事項を特定できるものとなった。
よって、当審拒絶理由の理由1は解消した。

(2)理由2についての判断
平成28年4月27日提出の手続補正書による特許請求の範囲についての補正によって、請求項に付した番号が記載する順序に連続番号となった。
よって、当審拒絶理由の理由2は解消した。


第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-07-19 
出願番号 特願2013-541667(P2013-541667)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (F02D)
P 1 8・ 538- WY (F02D)
P 1 8・ 121- WY (F02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 立花 啓  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 松下 聡
槙原 進
発明の名称 ノックセンサの故障診断装置及び故障診断方法  
代理人 富岡 潔  
代理人 小林 博通  

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