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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1316816
審判番号 不服2014-20917  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-16 
確定日 2016-08-03 
事件の表示 特願2013- 81632「偏光板および液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月25日出願公開,特開2013-145404,請求項の数(1)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成18年10月5日に出願した特願2006-273762号(以下,「原出願」という。)の一部を平成25年4月9日に新たな特許出願としたものであって,平成25年10月7日付けで拒絶理由が通知され,同年12月9日に意見書及び手続補正書が提出され,平成26年1月7日付けで拒絶理由が通知され,同年3月10日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年7月7日付けで,平成26年3月10日提出の手続補正書による補正が却下されるとともに,同日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされた。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成26年10月16日に請求されたものであって,当審において,平成27年11月27日付けで拒絶理由が通知され,平成28年2月1日に意見書が提出され,同年2月29日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,同年5月2日に意見書が提出されたものである。

第2 本願の請求項1に係る発明
本願の請求項1に係る発明は,平成25年12月9日提出の手続補正書によって補正された請求項1に記載された事項によって特定される,次のとおりのものと認められる。

「長手方向に透過軸を有する長尺状の偏光子と,該偏光子の一方の側に配置された長手方向に透過軸を有する長尺状の第1の保護層と,を備え,
該第1の保護層が,入射する光を直交する2つの偏光成分に分離し,一方の偏光成分を透過させ,他方の偏光成分を反射させる機能を有し,
該偏光子と該第1の保護層とが,長手方向が一致するように積層されており,
該偏光子の透過軸方向と該第1の保護層の透過軸方向とのなす角度が0°±2°であり,
該偏光子が,配向させたリオトロピック液晶の固化層または硬化層であり,その厚みが0.1μm?5μmである,
長尺状の偏光板。」(以下,「本願発明」という。)

第3 原査定の拒絶の理由について
1 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は,概略次のとおりである。

本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用例1:特開2004-341494号公報
引用例2:特開2005-300978号公報
引用例3:特開2005-255846号公報
引用例4:特開2004-528603号公報

偏光板の偏光子において,二色性に優れたリオトロピック液晶を用いた薄いものは周知である(例えば,引用例3【0082】,引用例4【0011】等参照)。
引用例1に記載のものにおいて,偏光子を上記リオトロピック液晶を用いたものとすることにより,薄い偏光板を得ることは,当業者であれば容易である。

2 原査定の拒絶の理由についての判断
(1)引用例1
ア 引用例1の記載
引用例1は,本願の出願(特許法44条2項の規定により,本願は原出願の出願時に出願したものとみなす。)より前に頒布された刊行物であって,当該引用例1には次の記載がある。(下線は,後述する引用例1発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【請求項2】
ポリビニルアルコールを延伸して得られる偏光膜の少なくとも片側に保護膜を貼合した偏光板であって,波長1064nmのYAGレーザーを励起光として用いた偏光ラマン分光法により得られる該偏光膜の散乱スペクトル強度が下記(式1)及び(式2)を満たし,かつ該偏光膜の厚さが5μm以上21μm以下であることを特徴とする偏光板。
(式1):(Ib108/Ia108)>60
(式2):(Ib154/Ia154)>60
Ia108:励起光であるレーザー光の磁気ベクトルの振動方向と測定対象である偏光膜の延伸方向とを平行に配置した場合のラマンバンド108cm^(-1)の散乱光強度。
Ib108:励起光であるレーザー光の磁気ベクトルの振動方向と測定対象である偏光膜の延伸方向とを垂直に配置した場合のラマンバンド108cm^(-1)の散乱光強度。
Ia154:励起光であるレーザー光の磁気ベクトルの振動方向と測定対象である偏光膜の延伸方向とを平行に配置した場合のラマンバンド154cm^(-1)の散乱光強度。
Ib154:励起光であるレーザー光の磁気ベクトルの振動方向と測定対象である偏光膜の延伸方向とを垂直に配置した場合のラマンバンド154cm^(-1)の散乱光強度。」

(イ) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,薄膜で光学性能に優れた偏光膜及び偏光板,並びに表示性能に優れ,額縁状光漏れの改良された液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,液晶表示装置は,携帯電話,テレビ,コンピュータ等様々な用途に用いられるディスプレイとして需要が高まっている。
偏光板は,このような液晶表示装置の普及に伴い,需要が急増している。偏光板は一般に偏光能を有する偏光膜の両面あるいは片面に,接着剤層を介して保護膜が貼り合わせられている。上記のような偏光板に用いられる偏光膜は,一般に,ポリビニルアルコール等からなるポリマーフィルムを,延伸機等を用いて延伸することにより作製されている。また,保護膜としては,光学的に透明で複屈折が小さいことから,主にセルローストリアセテートが用いられている。
【0003】
偏光板が使用される液晶表示装置は,薄型で,軽量で,省消費電力であることなどを特徴としており,偏光板としても,その厚さがより薄く,質量もより軽いものが求められている。偏光板の厚さや,質量を,小さくする方法としては,片側の保護膜をなくすことや,偏光膜や保護膜を薄膜化する方法がある。・・・(中略)・・・
【0004】
一方,液晶表示装置の製造や使用時の温度変化により,液晶ディスプレイ(LCD)の画面周囲の色相が変化する,いわゆる「額縁状光洩れ」が発生することがある。この問題は,15インチ以上の大サイズのLCDで特に顕著で,近時,液晶テレビの普及により,LCDの大サイズ化が進んでいるため,額縁状光漏れの抑制が要望されている。
この額縁状光漏れは,偏光板に加熱ストレスがかかることで,延伸の残留応力により偏光膜が収縮し,その応力が保護膜に作用し保護膜を収縮させるため,LCD周囲部の保護膜の複屈折が大きくなることで生じると考えられる。偏光板の軽量・薄膜化が進む中で,保護膜が薄膜化されているため,LCD周囲部の保護膜の複屈折がより大きくなり,さらに額縁状光漏れが顕著になってしまうことが問題であった。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって,上記状況に鑑み,本発明は,薄膜で光学性能に優れた偏光膜,及び薄膜化した偏光膜を有し,光学性能に優れた偏光板を提供することを目的とする。また,該偏光板を使用し,表示性能に優れ,額縁状光漏れの少ない液晶表示装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は,下記構成の偏光膜,偏光板及び液晶表示装置により解決できる。・・・(中略)・・・
【0010】
(2)ポリビニルアルコールを延伸して得られる偏光膜の少なくとも片側に保護膜を貼合した偏光板であって,波長1064nmのYAGレーザーを励起光として用いた偏光ラマン分光法により得られる該偏光膜の散乱スペクトル強度が下記(式1)及び(式2)を満たし,かつ該偏光膜の厚さが5μm以上21μm以下であることを特徴とする偏光板。
【0011】
(式1):(Ib108/Ia108)>60
(式2):(Ib154/Ia154)>60
【0012】
Ia108:励起光であるレーザー光の磁気ベクトルの振動方向と測定対象である偏光膜の延伸方向とを平行に配置した場合のラマンバンド108cm^(-1)の散乱光強度。
Ib108:励起光であるレーザー光の磁気ベクトルの振動方向と測定対象である偏光膜の延伸方向とを垂直に配置した場合のラマンバンド108cm^(-1)の散乱光強度。
Ia154:励起光であるレーザー光の磁気ベクトルの振動方向と測定対象である偏光膜の延伸方向とを平行に配置した場合のラマンバンド154cm^(-1)の散乱光強度。
Ib154:励起光であるレーザー光の磁気ベクトルの振動方向と測定対象である偏光膜の延伸方向とを垂直に配置した場合のラマンバンド154cm^(-1)の散乱光強度。
・・・(中略)・・・
【0017】
本発明は,波長1064nmのYAGレーザーを励起光として用いた偏光ラマン分光法により得られるラマンバンド108cm^(-1)及び154cm^(-1)の散乱光強度が,特定の値である(上記(式1)及び(式2)を満たす)偏光膜を,膜厚5?21μmと薄膜化して用いることを特徴とする。これにより,光学性能にも優れ,LCDの額縁状光漏れ等の原因となる温度変化による収縮が起きにくい偏光板を提供できる。
【0018】
ポリビニルアルコール(PVA)からなる偏光膜は,PVAをフィルム化した後,通常,高次ヨウ素イオン(I_(3)^(-)やI_(5)^(-))などの二色性分子がフィルム内に導入され,偏光板としての偏光機能はこの二色性分子の配向により発現する。二色性分子の配向度が高いほど,すなわち二色性分子の配向方向とPVAフィルムの延伸方向とのズレが小さいほど,偏光板としての光学性能に優れる(単板透過率及び偏光度が高い(平行ニコル時の透過率が高く,クロスニコル時の透過率が低い))。
本発明で規定する,励起光の偏光面に対して測定試料である偏光膜の延伸方向を垂直に配置した場合の散乱光強度と,平行に配置した場合の散乱光強度との比(Ib108/Ia108)及び(Ib154/Ia154)は,それぞれI_(3)^(-)及びI_(5)^(-)の配向度に相当し,上記の散乱光強度比がともに60より大きくなるとき,光学性能に優れる配向度が実現されていると推定される。
ラマン散乱において,ラマンバンド108cm^(-1)の散乱はI_(3)^(-)イオンに帰属し,ラマンバンド154cm^(-1)の散乱はI_(5)^(-)イオンに帰属すると考えられている(108cm^(-1)の散乱については,M. E.Heyde, L. Rimai etc., J. Amer. Chem. Soc., vol.94, 1972年, p.5222,及びF. Inagaki etc., Bull. Chem. Soc. Jpn., vol.45, 1972年, p.3384など,154cm^(-1)の散乱については,R. C.Teitelbaum etc., J. Amer. Chem. Soc., vol.102, 1980年, p.3322など参照)。
【0019】
本発明者らの知見によれば,I_(3)^(-),及びI_(5)^(-)の配向度,即ち偏光ラマン散乱スペクトル強度の比(Ib108/Ia108)及び(Ib154/Ia154)の値は,PVAフィルムの延伸倍率を上げる,膜厚の厚いPVAフィルムを原反フィルムとして用いることなどで大きくすることができる。具体的には,例えば,60μm以上(より好ましくは85μm以上200μm以下)のPVAフィルムを原反フィルムとして,5?8倍の延伸倍率で延伸することで上記散乱光のスペクトル強度比を60より大きくすることができる。
【0020】
上記構成により,光学性能に優れ,薄膜で温度変化による収縮が少ない偏光板を得ることができる。
また,本発明の液晶表示装置は,上記構成の偏光板を用いるために,表示性能に優れ,額縁状光漏れの少ないものとなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば,薄膜で光学性能に優れる偏光板を提供することができる。また,本発明によれば,表示性能に優れ,額縁状光洩れが起きず,薄手で軽量な液晶表示装置を提供することができる。」

(ウ) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下,本発明について更に詳細に説明する。
1.偏光板の構成
まず,本発明の偏光板を構成する本発明の偏光膜,及び保護膜について説明する。
【0023】
(1)偏光膜
本発明に用いる偏光膜は,ポリビニルアルコール(PVA)を延伸して得られるものである。PVAは,ポリ酢酸ビニルをケン化したポリマー素材であるが,例えば不飽和カルボン酸,不飽和スルホン酸,オレフィン類,ビニルエーテル類のような酢酸ビニルと共重合可能な成分を含有しても構わない。また,アセトアセチル基,スルホン酸基,カルボキシル基,オキシアルキレン基等を含有する変性PVAも用いることができる(以下,これらを含めて「PVA系樹脂」と称する)。
・・・(中略)・・・
【0026】
PVAにはフィルム(原反フィルム)化した後に,二色性分子を導入することが好ましい。PVAフィルムの製造方法は,PVA系樹脂を水又は有機溶媒に溶解した原液を流延して製膜する方法が一般に好ましく用いられる。原液中のポリビニルアルコール系樹脂の濃度は,通常5?20質量%が好ましい。この原液を流延法により製膜することによって,膜厚が好ましくは10?200μm(より好ましくは85μm以上200μm以下)のPVAフィルムを製造することができる。・・・(中略)・・・
【0031】
PVAフィルムに導入する二色性分子としては,I_(3)^(-)やI_(5)^(-)などの高次のヨウ素イオンや二色性染料を好ましく用いることができる。本発明では,高次のヨウ素イオンが特に好ましく使用される。・・・(中略)・・・
【0034】
(2)保護膜
偏光膜は,両面または片面に,透明なポリマーフィルムを保護膜として,接着剤または粘着剤を用いて貼り合わせて使用されることが好ましい。保護膜には,透明性,低複屈折性,適度な剛性といった物性が求められる。・・・(中略)・・・
【0093】
4.偏光板の機能化
本発明の偏光板は,LCDの視野角拡大フィルム,反射型LCDに適用するためのλ/4板,ディスプレイの視認性向上のための反射防止フィルム,輝度向上フィルムや,ハードコート層,前方散乱層,アンチグレア(防眩)層等の機能層を有する光学フィルムと複合した機能化偏光板として好ましく使用される。
【0094】
本発明の偏光板と上述の機能性光学フィルムを複合した構成例を図1に示す。図1に示すように,偏光板の片側の保護膜として機能性光学フィルムを用いて,偏光膜と接着剤を介して接着してもよいし(図1(a)),偏光膜の両面に保護膜を設けた偏光板に粘着剤を介して機能性光学フィルムを接着してもよい(図1(b))。前者の場合,もう一方の保護膜には任意の透明保護膜が使用できる。・・・(中略)・・・
【0095】
以下に本発明の偏光板と複合して使用される機能性光学フィルムについて説明する。・・・(中略)・・・
【0124】
(4)輝度向上フィルム
本発明の偏光板は,輝度向上フィルムと組み合わせて使用することができる。輝度向上フィルムは,円偏光または直線偏光の分離機能を有しており,LCDにおいて偏光板とバックライトの間に配置され,一方の円偏光または直線偏光をバックライト側に後方反射もしくは後方散乱する。バックライト部からの再反射光は,部分的に偏光状態を変化させ,輝度向上フィルム及び偏光板に再入射する際,部分的に透過するため,この過程を繰り返すことにより光利用率が向上し,正面輝度が1.4倍程度に向上する。輝度向上フィルムとしては異方性反射方式及び異方性散乱方式が知られており,いずれも本発明の偏光板と組み合わせることができる。
・・・(中略)・・・
【0127】
本発明の偏光板と輝度向上フィルムは,粘着剤を介して貼合された形態,もしくは偏光板の保護膜の一方を輝度向上フィルムとした一体型として使用することが好ましい。」

(エ) 「【実施例】
【0147】
本発明を詳細に説明するために,以下に実施例を挙げて説明するが,本発明はこれらに限定されるものではない。
【0148】
[実施例1]偏光板の作製
<偏光膜A,偏光板A>
平均重合度が2400,膜厚110μmのPVAフィルムの両面をイオン交換水に浸漬して洗浄した後,該PVAフィルムをヨウ素1.0g/l,ヨウ化カリウム120.0g/lの水溶液に40℃にて80秒浸漬した。さらにホウ酸40g/l,ヨウ化カリウム30g/lの水溶液に40℃にて90秒浸漬後,フィルムの両面から,余剰水分を除去し,特開2002-86554号公報に記載のテンター延伸機に導入した。搬送速度を4m/分として送出し,温度60℃湿度98%雰囲気下で5.5倍に延伸した後,幅を一定に保ち,70℃で4分乾燥し,偏光膜Aを作製した。得られた偏光膜Aの膜厚は20μmであった。
・・・(中略)・・・
【0150】
この後,偏光膜Aの両面に,PVA((株)クラレ製PVA-124H)4%水溶液を接着剤としてケン化処理した保護膜(富士写真フイルム(株)製フジタック,セルローストリアセテート,レターデーション値3.0nm,膜厚80μm)を貼り合わせ,さらに70℃で30分間加熱した。この後,テンターより離脱し,幅方向から3cm,カッターにて耳きりをし,有効幅500mm,長さ50mのロール形態の偏光板Aを作製した。得られた偏光板Aの膜厚は180μmであった。
・・・(中略)・・・
【0181】
上記で作製した偏光板の光学性能を評価した結果を下記表1に示す。
【0182】
【表1】

【0183】
表1に示すように,本発明の偏光板A及び偏光板Bは,偏光ラマン散乱スペクトルにおけるラマンバンド108cm^(-1)及び154cm^(-1)の散乱光強度から得られる値(Ib108/Ia108)及び(Ib154/Ia154)が60以上で,さらに偏光膜の膜厚が21μm以下であり,単板透過率及び偏光度がいずれも高く,さらにクロスニコル時における透過率も低く,光学性能に優れるものであることが分かる。」

イ 引用例1に記載された発明
【0124】に記載された,直線偏光の分離機能を有する輝度向上フィルムが,一方の直線偏光を透過する場合に,他方の直線偏光を透過することは当業者に自明であるから,前記ア(ア)ないし(エ)の記載から,引用例1に,次の発明が記載されていると認められる。

「ポリビニルアルコールをフィルム化した後に,I_(3)^(-)やI_(5)^(-)などの高次のヨウ素イオンを導入し,これを延伸して得られる偏光膜の両面に保護膜を設け,そのうちの片側の保護膜として輝度向上フィルムを用いた機能化偏光板であって,
前記輝度向上フィルムは,一方の直線偏光を反射し他方の直線偏光を透過する機能を有しており,
波長1064nmのYAGレーザーを励起光として用いた偏光ラマン分光法により得られる前記偏光膜の散乱スペクトル強度が下記(式1)及び(式2)を満たし,かつ該偏光膜の厚さが5μm以上21μm以下である機能化偏光板。
(式1):(Ib108/Ia108)>60
(式2):(Ib154/Ia154)>60
Ia108:励起光であるレーザー光の磁気ベクトルの振動方向と測定対象である偏光膜の延伸方向とを平行に配置した場合のラマンバンド108cm^(-1)の散乱光強度。
Ib108:励起光であるレーザー光の磁気ベクトルの振動方向と測定対象である偏光膜の延伸方向とを垂直に配置した場合のラマンバンド108cm^(-1)の散乱光強度。
Ia154:励起光であるレーザー光の磁気ベクトルの振動方向と測定対象である偏光膜の延伸方向とを平行に配置した場合のラマンバンド154cm^(-1)の散乱光強度。
Ib154:励起光であるレーザー光の磁気ベクトルの振動方向と測定対象である偏光膜の延伸方向とを垂直に配置した場合のラマンバンド154cm^(-1)の散乱光強度。」(以下,「引用例1発明」という。)

(2)対比
引用例1発明の「偏光膜」,「『保護膜』として用いた『輝度向上フィルム』」,「一方の直線偏光を反射し他方の直線偏光を透過する機能」及び「機能化偏光板」が,本願発明の「偏光子」,「第1の保護層」,「入射する光を直交する2つの偏光成分に分離し,一方の偏光成分を透過させ,他方の偏光成分を反射させる機能」及び「偏光板」にそれぞれ相当し,引用例1発明の「偏光膜」の膜厚の数値範囲と本願発明の「偏光子」の膜厚の数値範囲は,5μmという値で重複するところ,引用例1発明における「輝度向上フィルム」の透過軸と「偏光膜」の透過軸とのなす角度が略0°に設定されていることが当業者に自明であって,引用例1発明における「偏光膜」の透過軸と「輝度向上フィルム」の透過軸とのなす角度と,本願発明における「偏光子」の透過軸と「第1の保護層」の透過軸とのなす角度とは,略0°である点で共通しているといえるから,引用例1発明と本願発明は,次の点で相違し,その余の点で一致する。

相違点1:
本願発明では,「偏光子」,「第1の保護層」及び「偏光板」が長尺状であって,「偏光子」と「第1の保護層」とが,長手方向が一致するように積層されており,「偏光子」の透過軸と「第1の保護層」の透過軸がいずれも長手方向に設定されているのに対して,
引用例1発明では,「偏光膜」,「輝度向上フィルム」及び「機能化偏光板」が長尺状であるか否かは定かでなく,「偏光膜」の透過軸と「輝度向上フィルム」の透過軸が長手方向に設定されているとはいえない点。

相違点2:
本願発明では,「偏光子」の透過軸方向と「第1の保護層」の透過軸方向とのなす角度が0°±2°であるのに対して,
引用例1発明では,「偏光膜」の透過軸方向と「輝度向上フィルム」の透過軸方向とのなす角度が0°からどの程度ずれてもよいのかは特定されていない点。

相違点3:
本願発明の「偏光子」が,配向させたリオトロピック液晶の固化層または硬化層であるのに対して,
引用例1発明の「偏光膜」は,ポリビニルアルコールをフィルム化した後に,I_(3)^(-)やI_(5)^(-)などの高次のヨウ素イオンを導入し,これを延伸して得られるものである点。

(3)判断
まず,相違点3について,検討する。
引用例1発明は,薄膜で光学性能に優れた偏光膜,及び薄膜化した偏光膜を有し,光学性能に優れた偏光板を提供することを解決課題とするものであって(引用例1の【0006】),当該課題を,専ら「偏光ラマン分光法により得られる該偏光膜の散乱スペクトル強度が(式1)及び(式2)を満たす」という構成によって,解決したものである。
しかるに,引用例1の【0018】の説明によれば,前記課題を解決するための構成中の(式1)の左辺及び(式2)の左辺は,それぞれI_(3)^(-)及びI_(5)^(-)の配向度に相当しており,これらをともに60より大きくすることによって,光学性能に優れる配向度が実現されていると推定できるというのであるから,引用例1の記載からは,偏光膜に用いる二色性分子として,I_(3)^(-)やI_(5)^(-)などの高次ヨウ素イオンを用いた場合には,前述した構成によって前述した課題を解決できるものの,高次ヨウ素イオンとは異なる分子を用いた場合には,ラマンバンド108cm^(-1)及び154cm^(-1)の散乱光強度が当該分子の配向度を示すことにはならないことから,前述した構成を採用しても課題を解決することができないと理解される。
そうすると,引用例1発明において,偏光膜として,「ポリビニルアルコールをフィルム化した後に,I_(3)^(-)やI_(5)^(-)などの高次のヨウ素イオンを導入し,これを延伸して得られる」ものを用いること,特に「高次のヨウ素イオン」を導入したものを用いることは,「偏光ラマン分光法により得られる該偏光膜の散乱スペクトル強度が(式1)及び(式2)を満たす」という構成によって前述した課題を解決するための前提となる構成であるから,必要不可欠な構成である。
したがって,たとえ「配向させたリオトロピック液晶の固化層または硬化層」からなる吸収性二色偏光子が本願の出願前に公知であったとしても,引用発明において,「ポリビニルアルコールをフィルム化した後に,I_(3)^(-)やI_(5)^(-)などの高次のヨウ素イオンを導入し,これを延伸して得られる偏光膜」に代えて,「配向させたリオトロピック液晶の固化層または硬化層」からなる吸収性二色偏光子を採用することには,阻害要因があるというべきである。
よって,相違点1及び2の容易想到性について検討するまでもなく,本願発明は,引用例1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)小括
前記(3)のとおりであって,本願発明は,引用例1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。


第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
当審において平成28年2月29日付けで通知した拒絶理由は,概略,本願発明は,引用文献1に記載された発明,及び引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて,又は,引用文献3に記載された発明,及び引用文献1,2に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである(以下,「当審拒絶理由」という。)。
当審拒絶理由で引用した引用文献1ないし3は,次のとおりである。
引用文献1:特表平8-511109号公報
引用文献2:特開2006-62281号公報
引用文献3:特開2002-139625号公報

2 引用例
(1)引用文献1
ア 引用文献1の記載
当審拒絶理由で引用された引用文献1は,本願の出願より前に頒布された刊行物であって,当該引用文献1には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【特許請求の範囲】
1.式:
(クロモゲン)(SO_(3)M)_(n)
(式中,クロモゲンは色素が安定な液晶相で存在することができるものであり,Mはカチオンである。)の水溶性有機色素を含む二色偏光子であって,前記色素は,光が色素を通過すると光を色素が偏光できるように所定の方向に配向された粒子に凝集されている分子を含む,二色偏光子。」

(イ) 「【発明の詳細な説明】
熱安定で且つ耐光堅牢な二色偏光子
発明の背景
本発明はスルホン基を含む水溶性有機色素を基礎とする,有色の熱安定で且つ耐光堅牢な二色偏光子およびその調製方法に関する。
基材表面上に二色性材料の真溶液を適用し,前記表面から溶剤を蒸発させると同時に前記材料をネマティック相とし,前記材料の分子を配向させ,そして配向状態で固化するように緩やかに固化させることにより製造された二色偏光子が存在する。・・・(中略)・・・
偏光膜を基礎とする既知の二色偏光子は次の欠点を有する。
1)これらの二色偏光子は低い偏光特性を有する。というのは,これらの偏光子は限定された時間しかネマティック液晶相で存在しない色素を基礎とするからである。このことは,このような相の高い粘度と相まって,色素分子を有効に配向させない。
2)これらの二色偏光子は低い耐光堅牢度および耐熱性を有する。
3)その製造方法は,配向および色素の表面への適用を同時に行うように1つの工程に組み合わせられない。
4)これらの二色偏光子は,例えば,摩擦または電場若しくは磁場による外部配向影響なしに調製されえない。
発明の要旨
本発明は,特定の態様において,偏光膜を基礎とし,且つ,高い偏光特性を有する熱安定で且つ耐光堅牢な二色偏光子を提供する。
これらの膜は,特定の態様において,式(クロモゲン)(SO_(3)M)_(n)の水溶性有機色素およびその混合物を基礎とする二色偏光子を用いることにより達成することができ,ここで,クロモゲンは液晶状態で存在することができる色素を提供し,そしてMは適切なカチオンである。・・・(中略)・・・
本発明はLCを配向させる方法をも提供する。特定の態様において,この方法は液晶(LC)の適用前に支持体表面に異方性を持たせる必要なく液晶(LC)配向および表面上への適用を組み合わせることが可能である。特定の態様において,LCは2つの表面の間に適用される。その後,2つの表面は分離される。分離の際に,表面の間を分割させる力は分離領域においてLCメニスカスの張力歪みを起こす。薄いLC層の張力はLC分子を均一に配向させる。特定の態様において,分子の配向のために,剪断力が用いられる。」(7ページ1行ないし11ページ21行)

(ウ) 「図面の簡単な説明
図1aは剛性の平坦な支持体表面に適用され,そして柔軟なフィルムにより覆われている液晶の断面図であり,柔軟なフィルムは剛性の表面から剥離されるときに液晶が配向する。
図1bは2枚の柔軟なフィルム間の液晶の断面図であり,フィルムは互いに分離されて,各フィルムで液晶膜が配向する。
図2はロール・トゥー・ロール型方法によるポリマーフィルム上への液晶の適用を例示する図である。
図3a?3dは図2の方法の特定の態様における適用ユニットを例示する図である。」(11ページ下から2行ないし12ページ8行)

(エ) 「好ましい態様の説明
本発明は式(クロモゲン)(SO_(3)M)_(n)の水溶性有機色素およびその混合物を用いる。クロモゲンは色素が液晶相中に存在することができるようなものである。MはH^(+),NH_(4)^(+)または第1族の金属である。特定の態様において,MはLi^(+),Na^(+),K^(+),Cs^(+)のうちの1つの一価カチオンである。特定の態様において,タイプI?VIIの水溶性有機色素またはその塩および混合物は用いられ,それは幅広い範囲の濃度,温度およびpH値で安定なリオトロピック液晶相(ネマティックおよび六方晶相並びにその混合物)を形成することが判った。特定の態様において,色素が水中で安定な液晶を形成することができるような他のジアゾおよび多環のクラスのクロモゲンは用いられる。・・・(中略)・・・
広い濃度,温度およびpH値の範囲でのLC安定性はリオトロピックLCの配向と革新的に異なる方法により実現されうる。この方法は結晶配向の機械的な力の使用に基づくものであり,例えば,剪断力またはLC層が広がっている2枚の表面のV字型分離の領域に形成されるメニスカスの張力歪みにより生じる力に基づくものである。特定の態様において,これらの方法は単純であり,良好な配向性を提供し,そして支持体表面の異方性を必要としない。
二色偏光子の調製方法は,液晶相中への水溶性有機色素の輸送,このように得られた液晶の基材表面への適用,および液晶分子の同時機械配向,並びに,その後,溶剤蒸発による色素膜の固化を含む。
液晶(LC)が剪断力を受けると配向することはよく知られている。H.G.de Gene,“The Physics of Liquid Crystals”,Claredon Press,Oxford,1974,Part 5.2.1を参照されたい。これを引用により本明細書中に取り入れる。サーモトロピック液晶では,剪断力を止めたときにこのような配向は消失する。リオトロピック液晶の場合,配向状態の固定は,支持体表面に適用された色素溶液膜からの溶剤の蒸発,および,続く前記膜の固化により可能である。・・・(中略)・・・
タイプI?VIIの色素が安定なリオトロピックLCを形成するという事実により,これらの色素は機械的移動,即ち,剪断力により支持体表面上で配向されうる。移動は支持体表面上への色素LCの適用と同時に行われることができる。
剪断力が除去されると分子配向が失われるサーモトロピックLCとは対照的に,リオトロピックLCにおける配向はこのようなLCの高い粘度のために長時間非常に良好に保存されることができる。結果的に,溶剤が蒸発し,そしてLCが固化すると,高い光学異方性が達成される。」(12ページ12行ないし14ページ13行)

(オ) 「図1aはLC層が広げられている2枚の表面のV字型分離において形成されるLCメニスカスにおける張力歪みを生じる力によりLCが配向されるLC適用法を例示する。LC層10は特定の態様において剛性の平坦な支持体表面20上に適用され,そして,ポリマーフィルムであるアクセサリーフィルム30により覆われる。フィルム20および30の間のスペーサー(示していない)はLC層を所定の厚さに保持する。フィルムはある速度Vで剥離され,その速度は特定の態様において一定速度である。フィルム30が剥離されるときに,フィルム30が表面20から分離する領域40においてLC層10上に引き裂き力が作用する。この力は張力歪みを形成し,それがLC10のメニスカスを方向τ_(1),τ_(2)に延伸する。LC中の色素分子は組み合わされて,加工糸状凝集粒子(超分子複合体)を形成し,そして薄いLC層における張力はこれらの粒子を延伸方向τ_(1),τ_(2)に沿って配向させる。同時に,色素分子はこの方向に対して横断方向に配向する。(特定の態様において,各粒子における分子平面および電子遷移モーメントは粒子の長手軸に対して垂直であり,即ち,前記軸に対して略90°の角度を形成する。)。図1aにおいて,分離領域が右に移動するときに,水平に左から右に向かう張力により,凝集粒子は配向される。粒子による光吸収のために,得られた偏光膜を通過した光は粒子に対して垂直平面で偏光されるであろう。」(14ページ下から3行ないし15ページ14行)

(カ) 「図2は柔軟フィルム30上に偏光膜を形成するのに適切なロール・トゥ・ロール型適用法を例示する。
特定の態様においてポリマーフィルムであるフィルム30は供給ロール60から巻出される。フィルム30は矢印70の方向に水平に移動する。液晶10は領域80において90で模式的に示した適用ユニットにより堆積される。90の幾つかの態様を図3a?図3dに例示し,下記に説明する。LC10はフィルム30がユニット90の下を移動している間に堆積されそして配向される。LC10はヒーター100の補助で約20℃?約80℃で乾燥される。乾燥を加速するために強制空気または不活性ガスをも特定の態様において用いてよい。乾燥膜を上に有するフィルム30は引取ロール110で巻き取られる。
図3aにおいて,適用ユニット90はナイフタイプドクターである。ユニット90の底面は若干丸まっている。LC10はユニット90の直ぐ左側で堆積される。液晶10を含むフィルム30がユニット90の下を通過するときに,剪断力(「機械移動」力)がフィルム30の動きの方向と反対方向にユニット90の下で液晶に作用する。結果的に,液晶粒子は左から右に配向する。
図3bにおいて,適用ユニット90は非回転シリンダーである。LCの配向は図3aと同様に起こる。
特定の態様において,別の回転または非回転シリンダー(示していない)がフィルム30の下に配置され,そしてそれがフィルム30と接触しており,フィルム30と適用ユニット90との間の距離が設定され,そしてこのようにして偏光膜の厚さが設定される。
図3cにおいて,適用ユニット90はドロープレートである。液晶10はドロープレート中に注がれ,そしてフィルム30がドロープレートを通過するときにドロープレートの底の孔(裂け目)を通して適用される。液晶凝集粒子は,図3a,3bの場合と同様に,ドロープレートの加工(底)面により加えられる剪断力により配向される。
図3dにおいて,適用ユニット90は反時計回りに回転する回転シリンダーである。液晶10はシリンダーの直ぐ左側に堆積される。液晶粒子は,シリンダー表面が情報に動き,そしてフィルム30から離れる領域40におけるLCメニスカスに作用する張力により配向される。図1aと関連させて上記の議論を参照されたい。
図2および図3a?3dの特定の態様において,スペーサー(示していない)は適用ユニット90の下に配置され,所望の値の偏光膜の厚さを設定される。特定の態様において,スペーサーはユニット90の縁に取り付けられ,例えば,図3b,3dのシリンダーの縁に取り付けられる。
偏光膜の厚さは特定の態様において約0.1mkm(μm(マイクロメートル))?約1.5mkm,ある態様においては約0.4mkm?約0.8mkmの範囲である。特定の態様において,数層の偏光膜を堆積することによりより厚い厚さが得られる。」(16ページ6行ないし17ページ14行)

(キ) 「偏光膜はラッカーまたは接着剤の透明層により,または,積層構造により機械破壊から保護されることができる。・・・(中略)・・・得られる偏光プレートは内部偏光子を含む液晶セルを製造するために用いられることができる。」(18ページ19行ないし下から3行)

(ク) 「

」(30ないし31ページ)

イ 引用文献1に記載された発明
引用文献1の図2から,ポリマーフィルム30が供給ロール60から右方向に巻き出していることを看取できる。
また,前記ア(カ)の「剪断力(「機械移動」力)がフィルム30の動きの方向と反対方向にユニット90の下で液晶に作用する。結果的に,液晶粒子は左から右に配向する」という記載中の液晶粒子が,前記ア(オ)で説明された加工糸状凝集粒子(超分子複合体)や凝集粒子のことを指していることが当業者に自明であるから,前記ア(カ)で説明された,各種の適用ユニット90によって液晶10を適用する際に液晶10に作用する剪断力によって,色素が所定の方向に配向された粒子に凝集するものと理解される。
そして,引用文献1の前記ア(ア)ないし(ク)の記載から,前記ア(オ)に記載された「凝集粒子に対して垂直平面で偏光するよう機能する」色素を用いるとともに,前記ア(カ)に記載されたロール・トゥ・ロール型方法によって製造されたロール状の形態の二色偏光子についての発明を把握することができるところ,当該発明の構成は,引用文献1の図2における右側,左側をそれぞれ「右」,「左」として表現すると,次のとおりである。

「ポリマーフィルム30を供給ロール60から右方向に巻出し,
式:(クロモゲン)(SO_(3)M)_(n)
(式中,クロモゲンは色素が安定な液晶相で存在することができるものであり,Mはカチオンである。)
で表され,安定なリオトロピック液晶を形成する水溶性有機色素であって,剪断力によって所定の方向に配向された粒子に凝集して,通過する光を当該粒子に対して垂直平面で偏光するよう機能する水溶性有機色素を含む液晶10を,ナイフタイプドクター,非回転シリンダー又は反時計回りに回転する回転シリンダーからなる適用ユニット90の直ぐ左側で前記ポリマーフィルム30上に堆積し,前記液晶10が前記適用ユニット90の下を通過するときに,剪断力を当該液晶10に作用させることによって,液晶粒子を左から右に配向させるか,又は,前記液晶10をドロープレート中に注ぎ,ドロープレートの底の孔を通して前記ポリマーフィルム30上に適用し,ドロープレートの底面により前記液晶10に加えられる剪断力によって,液晶粒子を左から右に配向させ,
ヒーター100の補助で前記液晶10を約20℃?約80℃で乾燥することによって,約0.1μm?約1.5μmの範囲の厚さの偏光膜とし,
その後,前記ポリマーフィルム30を引取ロール110で巻き取る,
というロール・トゥ・ロール型方法で製造された,
ロール状の形態の二色偏光子。」(以下,「引用発明」という。)

(2)引用文献2
ア 引用文献2の記載
当審拒絶理由で引用された引用文献2は,本願の出願より前に頒布された刊行物であって,当該引用文献2には次の記載がある。(下線は,後述する引用文献2記載の技術的事項の認定に特に関係する箇所を示す。)

(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は液晶ディスプレイなどの各種画像表示装置に使用する光学フィルム積層体に関し,詳しくは反射性偏光フィルムと吸収性偏光フィルムとを積層した光学フィルム積層体に関する。さらにこれを用いた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から,吸収性偏光フィルムは液晶表示装置に多く使用されており,その需要は急激に増加している。さらに,近年では,光学補償機能を付加した吸収性偏光フィルムのように,付加価値の高いものが使用されてきており,例えば,色相,輝度,コントラスト,広視野角等の点で表示品位に対する要求がより一層強く要求される傾向にある。
【0003】
表示品位の中でも特に輝度向上を目的として,反射性偏光フィルムが吸収性偏光フィルムと共に使用されている。反射性偏光フィルムは,通常,液晶表示装置におけるバックライトユニットと偏光フィルムとの間に配置され,本来なら偏光フィルムに吸収されてしまう光を反射して再利用することによって,表示画面の輝度を向上させるものである。このような輝度向上フィルムとしては,例えば,複屈折を有するポリマーの多層積層フィルム,コレステリック液晶フィルム等が知られており,一般に,前記ポリマーフィルムの積層体は直線偏光を反射し,前記コレステリック液晶フィルムは円偏光を反射する。前記コレステリック液晶フィルムは,円偏光を反射するため,1/4波長板を組み合わせて直線偏光を反射させる。
【0004】
例えば,バックライトからの光を,反射偏光フィルムにおいて,P偏光,S偏光とを分離して,いずれか一方の直線偏光を透過させ,透過した直線偏光を吸収性偏光フィルムに供給する。一方,反射偏光フィルムにおいて反射された光は,例えば,前記バックライトの裏側に配置された反射板によって偏光状態が変化され,再度,反射偏光フィルムに戻り,ここでさらに分離されるのである。
【0005】
一般に多層積層フィルムは,屈折率の低い層と高い層とを交互に多数積層したものであり,層間の構造的な光干渉によって,特定波長の光を選択的に反射または透過する光学干渉フィルムとすることができる。また,このような多層積層フィルムは,膜厚を徐々に変化させたり,異なる反射ピークを有するフィルムを貼り合せたりすることで金属を使用したフィルムと同等の高い反射率を得ることができ,金属光沢フィルムや反射ミラーとして使用することもできる。さらには,このような多層積層フィルムを1方向にのみ延伸することで,特定の偏光成分のみを反射する偏光反射フィルムとしても使用できる。
・・・(中略)・・・
【0008】
一方で,吸収二色性偏光フィルムと呼ばれる前記吸収性偏光フィルムは,ポリビニルアルコール(以下「PVA」ということがある。)フィルムにヨウ素または二色性染料を吸着させた後,これを延伸することによって偏光フィルムを調製し,吸収性偏光フィルムの両面に透明性光学フィルム,例えば,トリアセチルセルロース(以下「TAC」ということがある。)等の保護フィルムを積層することによって製造される。
【0009】
上記のような吸収性偏光フィルムの片側にTACの代わりに反射性偏光フィルムを用いることにより,空気層との界面反射を抑制し,より輝度向上性能を向上できる。このような反射性偏光フィルムと吸収性偏光フィルムとを組み合わせることによって,液晶表示装置の輝度特性を向上できる。」

(イ) 「【0026】
[反射性偏光フィルム]
本発明における反射性偏光フィルムの水蒸気透過率は5?20g/m^(2)/dayである必要がある。反射性偏光フィルムの水蒸気透過率が5g/m^(2)/day未満であると,接着剤を介して積層体を構成したときに水蒸気が蒸散せずに接着性が乏しい。反射性偏光フィルムの水蒸気透過率が20g/m^(2)/dayを超えると,高湿度下で光学フィルム積層体が吸湿し,寸法変化を生じるため,液晶表示のゆがみを生じてしまう。
【0027】
反射性偏光フィルムは,耐久性を良好にする観点から,1軸延伸多層積層フィルムであることが,好ましい。以下,この好ましい1軸延伸多層積層フィルムについて説明する。
【0028】
そもそも多層積層フィルムは,屈折率の低い層と高い層とを交互に多数積層したものであり,層間の構造的な光干渉によって,特定波長の光を選択的に反射または透過する光学干渉フィルムとすることができる。このような多層積層フィルムは,膜厚を徐々に変化させたり,異なる反射ピークを有するフィルムを貼り合せたりすることで金属を使用したフィルムと同等の高い反射率を得ることができる。この多層積層フィルムを1方向にのみ延伸することで,特定の偏光成分のみを反射する偏光反射フィルムを得ることができる。
・・・(中略)・・・
【0032】
1軸延伸フィルムを反射性偏光フィルムとして用いる場合,1軸延伸フィルムの延伸方向とフィルム面内方向を基準とする平面に対して平行な偏光成分について,波長400?800nmの平均反射率が90%以上であり,かつ同平面に対して垂直な偏光成分について,波長400?800nmの平均反射率が15%以下であることが好ましい。1軸延伸フィルムの延伸方向とフィルム面内方向を基準とする平面に対して平行な偏光成分について,波長400?800nmの平均反射率が90%以下であると反射偏光フィルムとしての偏光反射性能が不十分であり,液晶ディスプレイなどの輝度向上フィルムのとして十分な性能を発現しないことから好ましくない。好ましくは95%以上,より好ましくは98%以上である。また,同平面に対して垂直な偏光成分について,波長400?800nmの平均反射率が15%以上であると反射偏光フィルムとしての偏光透過率が低下するため,液晶ディスプレイなどの輝度向上フィルムとして性能が劣ることから好ましくない。好ましくは13%以下,より好ましくは10%以下である。」

(ウ) 「【0051】
[1軸延伸多層積層フィルム]
本発明における1軸延伸多層積層フィルムは,上述の第1の層および第2の層を,交互に少なくとも合計501層積層したものである。なお,本発明における1軸延伸多層積層フィルムは,前述のとおり,目的とする反射偏光フィルムとしての光学特性を満足するために,少なくとも1軸方向に延伸されている。・・・(中略)・・・
【0052】
延伸方向については,特に限定されないが,一般に吸収性偏光フィルムは,機械方向に延伸して製造することから,ロール状態での貼り合せが可能になることから,1軸延伸多層積層フィルムについても機械方向に延伸したものが好ましい。」

イ 引用文献2に記載された技術的事項
引用文献2の【0004】の「反射偏光フィルムにおいて,P偏光,S偏光とを分離して,いずれか一方の直線偏光を透過させ,透過した直線偏光を吸収性偏光フィルムに供給する。」とは,反射偏光フィルムを透過した直線偏光が,吸収性偏光フィルムを透過すること,すなわち,反射偏光フィルムと吸収性偏光フィルムの透過軸が平行であることを指していることが,当業者に自明であり,引用文献2の【0032】の「1軸延伸フィルムの延伸方向とフィルム面内方向を基準とする平面に対して平行な偏光成分について,波長400?800nmの平均反射率が90%以上であり,かつ同平面に対して垂直な偏光成分について,波長400?800nmの平均反射率が15%以下である」とは,1軸延伸フィルムが,延伸方向に平行な偏光成分を反射し,延伸方向に垂直な偏光成分を透過する反射性偏光フィルムとして機能することに他ならないから,前記ア(ア)ないし(ウ)の記載から,引用文献2には,次の技術的事項(以下,「引用文献2記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。

(ア) 液晶表示装置に使用される偏光部材として,屈折率の低い層と高い層とを交互に多数積層し,これを1方向にのみ延伸することで製造され,特定の偏光成分のみを反射する1軸延伸多層積層フィルムからなる反射性偏光フィルムを,吸収性偏光フィルムに,両偏光フィルムの透過軸が平行となるように積層したものを用いることによって,液晶表示装置の輝度特性を向上できること。
(イ) 前記(ア)の吸収性偏光フィルムとして,ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素または二色性染料を吸着させた後,これを機械方向に延伸することによって偏光フィルムを調製し,当該偏光フィルムの両面に保護部材を積層して製造される吸収性偏光フィルムを用いる場合には,反射性偏光フィルムとして,機械方向に延伸した1軸延伸多層積層フィルムを用い,当該1軸延伸多層積層フィルムを,前記吸収性偏光フィルムの両面に設けられる保護部材のうちの一方に代えて積層することによって,ロール状態での貼り合わせが可能になるとともに,空気層との界面反射を抑制でき,さらに液晶表示装置の輝度特性を向上できること。

(3)引用文献3
ア 引用文献3の記載
当審拒絶理由で引用された引用文献3は,本願の出願より前に頒布された刊行物であって,当該引用文献3には次の記載がある。(下線は,後述する引用文献3記載の技術的事項の認定に特に関係する箇所を示す。)
「【0008】
【発明の実施形態】本発明による偏光部材は,自然光を入射させて裏面からの透過光として直線偏光が得られるシート状の部材であり,その部材面に対する法線から仰角80度までの任意な角度で自然光を入射させた場合に,その透過スペクトルの520?640nmの波長範囲において波長域20nm以内における透過光の透過率差が6%以下であるものよりなる。その例を図1に示した。4が偏光部材である。なお図例は液晶表示装置としたものを示しており,41は吸収型偏光板,5は液晶セル,8は光源である。
【0009】偏光部材としては,自然光を入射させて裏面からの透過光として直線偏光を得ることができるシート状の部材が用いられる。従って偏光子として機能しうる適宜なものを用いうる。ちなみにそのシート状部材の例としては吸収型偏光板,又はその吸収型偏光板と直線偏光を透過する反射型偏光板とをその反射型偏光板による直線偏光の透過軸と吸収型偏光板の透過軸とが平行となるように積層したものなどがあげられる。
【0010】前記の吸収型偏光板としては,自然光を入射させると直線偏光が透過し他の光は吸収される適宜なものを用いることができその種類について特に限定はない。一般には偏光フィルムやその片面又は両面を透明保護層で保護したものなどが用いられる。また例えばリオトロピック液晶性二色性染料の如く透明基材上等に塗工し配向状態の薄膜を形成することで偏光子として機能するものなども吸収型偏光板として用いうる。
・・・(中略)・・・
【0015】一方,上記した直線偏光を透過する反射型偏光板としては,例えば薄膜を積層した多層膜からなりその界面反射を介して入射光を振動面が直交する直線偏光からなる反射光と透過光に分離する直線偏光分離シート(3M社製,DBEF等)や,グランジャン配向のコレステリック液晶層からなり入射光を左右一方の円偏光からなる反射光と透過光に分離する円偏光分離シートと1/4波長板との積層体からなるものなどがあげられる。ちなみに図1の例では円偏光分離シート1と1/4波長板2との積層体からなる反射型偏光板を示している。
【0016】斯かる反射型偏光板は,前記の偏光分離機能を利用して,バックライト等の光源からの光を入射させて得た直線偏光からなる透過光をその振動面が透過軸と平行となるように積層して吸収ロスが低減されるようにした吸収型偏光板に供給して液晶表示等に利用しうる光量を増大し輝度を向上させうるものである。また反射型偏光板による反射光を反射層等を介し反転させて再入射させその一部又は全部を所定の直線偏光として吸収型偏光板を透過させ,更に利用光を増量して輝度の向上を図る使用方法も採りうるものである。」

イ 引用文献3に記載された技術的事項
前記アにおいて摘記した記載から,引用文献3には,次の技術的事項が記載されていると認められる。

液晶表示装置に用いる偏光部材として,例えば,透明基材上にリオトロピック液晶性二色性染料の配向状態の薄膜を形成してなる吸収型偏光板に,薄膜を積層した多層膜からなりその界面反射を介して入射光を振動面が直交する直線偏光からなる反射光と透過光に分離する直線偏光分離シートからなる反射型偏光板を,両偏光板の透過軸が平行となるように積層したものを用いることによって,液晶表示装置の輝度を向上することができること。(以下,「引用文献3記載の技術的事項」という。)

3 対比
(1) 引用発明の「偏光膜」,「安定なリオトロピック液晶を形成する水溶性有機色素」及び「二色偏光子」は,本願発明の「偏光子」,「リオトロピック液晶」及び「偏光板」に,それぞれ相当する。

(2) 引用発明は,「ロール状の形態の二色偏光子」であるから,当該「二色偏光子」(本願発明の「偏光板」に相当する。以下,「3 対比」の欄において,引用発明の構成に付したカッコ中の記載は,当該構成に相当する本願発明の構成を示す。)及びその層構成である「偏光膜」(偏光子)は「長尺状」であるといえる。
したがって,引用発明と本願発明は,「長尺状の偏光子を備える,長尺状の偏光板」である点で共通する。

(3) 引用発明の「偏光膜」(偏光子)は,剪断力によって所定の方向に配向された粒子に凝集して,通過する光を当該粒子に対して垂直平面で偏光するよう機能する「水溶性有機色素」(リオトロピック液晶)を含む液晶10を,ナイフタイプドクター又は非回転シリンダーからなる適用ユニット90の直ぐ左側でポリマーフィルム30上に堆積し,液晶10が適用ユニット90の下を通過するときに,剪断力を当該液晶10に作用させることによって,液晶粒子を左から右に配向させ,ヒーター100の補助で液晶10を約20℃?約80℃で乾燥することによって,約0.1μm?約1.5μmの範囲の厚さとしたものであるところ,乾燥によって,液晶10が固化していることが明らかであり,当該固化した液晶10を「水溶性有機色素」(リオトロピック液晶)の「固化層」ということができる。
また,当該「偏光膜」の「約0.1μm?約1.5μm」という厚さの数値範囲は,本願発明の「厚みが0.1μm?5μmである」という「偏光子」の厚みに関する規定を満足する。
したがって,引用発明の「偏光膜」と本願発明の「偏光子」は,「配向させたリオトロピック液晶の固化層または硬化層であり,その厚みが0.1μm?5μmである」点で共通する。

(4) 前記(1)ないし(3)に照らせば,本願発明と引用発明とは,
「長尺状の偏光子を備え,
該偏光子が,配向させたリオトロピック液晶の固化層または硬化層であり,その厚みが0.1μm?5μmである,
長尺状の偏光板。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:
本願発明の「偏光子」は,長手方向に透過軸を有するのに対して,
引用発明の「偏光膜」は,左から右に配向された凝集粒子に対して垂直方向,すなわち,長手方向と直交する方向に透過軸を有する点。

相違点2:
本願発明では,入射する光を直交する2つの偏光成分に分離し,一方の偏光成分を透過させ,他方の偏光成分を反射させる機能を有し,長手方向に透過軸を有する長尺状の第1の保護層が,「偏光子」の一方の側に,長手方向が一致するように積層されており,「偏光子」の透過軸方向と第1の保護層の透過軸方向とのなす角度が0°±2°に設定されているのに対し,
引用発明では,このような第1の保護層を有していない点。

4 判断
まず,相違点1の容易想到性について検討する。
引用文献1の前記2(1)ア(イ)の記載によれば,引用発明は,既知の二色偏光子が有していた,
(1)限定された時間しかネマティック液晶相で存在せず,有効に配向されないことから,低い偏光特性を有する。
(2)低い耐光堅牢度および耐熱性を有する。
(3)製造方法において,色素の配向と色素の基材表面への適用を同時に行うことができない。
(4)例えば摩擦または電場若しくは磁場等による配向をする必要がある。
という欠点を改善するためになされた発明であって,色素として,「式:(クロモゲン)(SO_(3)M)_(n)
(式中,クロモゲンは色素が安定な液晶相で存在することができるものであり,Mはカチオンである。)
で表され,安定なリオトロピック液晶を形成する水溶性有機色素」を採用し,「液晶10を,ナイフタイプドクター,非回転シリンダー又は反時計回りに回転する回転シリンダーからなる適用ユニット90の直ぐ左側で前記ポリマーフィルム30上に堆積し,前記液晶10が前記適用ユニット90の下を通過するときに,剪断力を当該液晶10に作用させることによって,液晶粒子を左から右に配向させるか,又は,前記液晶10をドロープレート中に注ぎ,ドロープレートの底の孔を通して前記ポリマーフィルム30上に適用し,ドロープレートの底面により前記液晶10に加えられる剪断力によって,液晶粒子を左から右に配向させ」るという方法によって,色素の配向と色素の基材表面への適用を同時に行うようにしたものと理解される。
しかるに,引用発明において,「偏光膜」の透過軸を長手方向と一致させるには,長手方向と直交する方向に凝集粒子が配向するようにするか,凝集粒子が長手方向に配向すると透過軸が長手方向となるような色素を採用するほかないところ,引用発明が解決しようとする課題の一つである「色素の配向と色素の基材表面への適用を同時に行う」ことを実現しつつ,長手方向と直交する方向に凝集粒子を配向させることができるような手法が公知であったことを示す証拠や,「式:(クロモゲン)(SO_(3)M)_(n)
(式中,クロモゲンは色素が安定な液晶相で存在することができるものであり,Mはカチオンである。)
で表され,安定なリオトロピック液晶を形成する水溶性有機色素」に該当する物質で,凝集粒子が長手方向に配向すると透過軸が長手方向となるような物質が公知であったことを示す証拠は,引用文献2及び3を含め,見当たらないから,例え当業者といえども,引用発明を,「偏光膜」の透過軸を長手方向と一致させるような構成とすることが,容易であったとはいえない。
したがって,相違点2の容易想到性について検討するまでもなく,本願発明は,引用文献1に記載された発明,引用文献2記載の技術的事項,及び引用文献3記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 引用文献3に記載された発明を主引例とする当審拒絶理由について
引用文献3に記載された発明を主引例とする当審拒絶理由について検討すると,引用文献3には,吸収型偏光板に反射型偏光板を透過軸が平行となるように積層した偏光部材について,ロールトゥロールで形成することについては,記載も示唆もないところ,偏光部材をロールトゥロールで形成する技術を開示する引用文献1及び2には,当該偏光部材の透過軸を長手方向に設定することは記載も示唆もされていないから,偏光子及び第1の保護層が長手方向に透過軸を有する旨の発明特定事項を有する本願発明が,引用文献3に記載された発明,及び引用文献1,2に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

6 小括
以上のとおりであるから,当審拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。


第5 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-07-20 
出願番号 特願2013-81632(P2013-81632)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 清水 康司
道祖土 新吾
発明の名称 偏光板および液晶表示装置  
代理人 籾井 孝文  

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