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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01N
管理番号 1316834
審判番号 不服2015-15021  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-08-10 
確定日 2016-08-02 
事件の表示 特願2012-509493「アフィニティークロマトグラフィー用充填剤」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月13日国際公開、WO2011/125674、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年3月29日(優先権主張 平成22年3月31日)を国際出願日とする出願であって、平成26年9月26日付けで拒絶理由が通知され、同年12月3日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成27年4月27日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)され、これに対し、同年8月10日に拒絶査定不服審判が請求され、それと同時に手続補正書が提出され、その後、当審において平成28年5月2日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年6月9日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成28年6月9日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、独立項である請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
(M-1)水酸基を含有しエポキシ基を含有しないメタクリロイル基を含有するビニル単量体 45?95質量部
(M-2)エポキシ基含有ビニル単量体 1?20質量部、
(M-3)(M-1)および(M-2)以外のメタクリロイル基を含有するビニル単量体 0?54質量部、ならびに
(M-4)(M-1)、(M-2)および(M-3)以外のビニル単量体 0?25質量部(但し、(M-1)、(M-2)、(M-3)および(M-4)の合計は100質量部である。)
の共重合体からなる多孔質粒子と、
前記共重合体に含まれるリガンドと結合したエポキシ基以外の残余のエポキシ基を、ブロッキング剤により開環させて得られる開環エポキシ基と、
前記多孔質粒子に結合したリガンドと
を含むことを特徴とする、
アフィニティークロマトグラフィー用充填剤。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
本願の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとするものであり、その理由として、以下のことが指摘されている。
請求項1に記載されている数値範囲に各ビニル単量体の質量部を限定することについての技術的意義の説明やその効果については、本願明細書では何ら記載されていないというべきであり、実施例を参照しても、(M-1)の数値範囲45?95質量部の下限である45質量部の根拠、(M-2)の数値範囲1?20質量部の下限である1質量部の根拠、(M-3)の数値範囲0?59.5質量部の上限である59.5質量部、(M-4)の数値範囲0?25質量部の上限である25質量部について、根拠が見当たらない。そして、どのような単量体をどの程度の量で使用すると、どのような効果が得られるかは、当業者といえども実際の実証無しには把握することが困難であるというのが技術常識であり、例え[0028]等に一応の文言が存在していたとしても、各単量体の量の上限値、下限値を実際の実証を欠く本願発明のようにすることは、発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていない事項を請求項に記載しているものと言わざるを得ない。

2 原査定の理由の判断
(1)特許法第36条第6項第1号の規定は、特許請求の範囲の記載について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることを要件とし、発明の詳細な説明において開示された技術的事項と対比して広すぎる独占権の付与を排除しているのであるから、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解されることが通例である(例えば、平成27年4月28日判決言渡 平成25年(行ケ)第10250号、等参照)。
本願発明は、特定のビニル単量体を用いた重合体からなる多孔質粒子と、前記多孔質粒子に結合するリガンドとを含むことにより、タンパク質の動的結合容量が高く、しかも耐アルカリ性および保存安定性に優れたアフィニティークロマトグラフィー用充填剤を提供することを課題とするものであり(段落【0009】参照)、当該課題を解決する手段として、ある特定の「共重合体からなる多孔質粒子と、前記共重合体に含まれるリガンドと結合したエポキシ基以外の残余のエポキシ基を、ブロッキング剤により開環させて得られる開環エポキシ基と、前記多孔質粒子に結合したリガンドとを含むこと」としたものである。
そして、その特定の共重合体として、
「(M-1)水酸基を含有しエポキシ基を含有しないメタクリロイル基を含有するビニル単量体 45?95質量部
(M-2)エポキシ基含有ビニル単量体 1?20質量部、
(M-3)(M-1)および(M-2)以外のメタクリロイル基を含有するビニル単量体 0?54質量部、ならびに
(M-4)(M-1)、(M-2)および(M-3)以外のビニル単量体 0?25質量部(但し、(M-1)、(M-2)、(M-3)および(M-4)の合計は100質量部である。)の共重合体」を特定しているものであり、発明の詳細な説明に記載されている各実施例における(M-1)、(M-2)、(M-3)および(M-4)に相当する単量体の重量部を、(M-1)、(M-2)、(M-3)および(M-4)の順に括弧書き(「重量部」との記載略)で記載すると、実施例1(50,10,40,0)、実施例2(50,10,40,0)、実施例3(90,10,0,0)、実施例4(70,30,0,0)、実施例5(80,20,0,0)、実施例6(90,10,0,0)、実施例7(95,5,0,0)、実施例8(50,10,40,0)、実施例9(60,10,20,10)であり、上記本願発明の範囲を満たすものが記載されており、これらの共重合体からなる多孔質粒子に対し、前記共重合体に含まれるリガンドと結合したエポキシ基以外の残余のエポキシ基を、ブロッキング剤により開環させて得られる開環エポキシ基と、前記多孔質粒子に結合したリガンドとを含ませることで、タンパク質の動的結合容量が高く、しかも耐アルカリ性および保存安定性に優れたアフィニティークロマトグラフィー用充填剤を提供することが記載されている。
そして、発明の詳細な説明には、共重合体を構成する(M-1)、(M-2)、(M-3)および(M-4)の単量体の重量部の範囲を決める技術的意義として、
段落【0028】に「(M-1)水酸基を含有しエポキシ基を含有しないメタクリロイル基を含有するビニル単量体の使用量は、共重合体を構成する全単量体100質量部のうち、40?99.5質量部、好ましくは45?95質量部である。(M-1)が40質量部未満であると、リガンドの活性が低くなるためタンパク質の動的結合量が低くなり、99.5質量部を超えると、(M-2)が0.5質量部未満となることから、リガンドの結合量が減ってタンパク質の動的結合量が低くなる。」
段落【0032】に「(M-2)エポキシ基含有ビニル単量体の使用量は、共重合体を構成する全単量体100質量部のうち、0.5?30質量部、好ましくは1?20質量部である。(M-2)が0.5質量部未満であると、リガンドの結合量が減ってタンパク質の動的結合量が低くなり、30質量部を超えると、保存中にリガンドの活性が低くなってタンパク質の動的結合量が低くなる。」
段落【0036】に「(M-3)上記(M-1)および(M-2)以外のメタクリロイル基を含有するビニル単量体の使用量は、共重合体を構成する全単量体100質量部のうち、0?59.5質量部、好ましくは0?50質量部である。(M-3)が59.5質量部を超えると、リガンドの活性が低くなってタンパク質の動的結合量が低くなる。」
段落【0037】に「(M-4)は、25質量部を超えると、タンパク質の動的結合量が低下したり、耐アルカリ性が低下したりする。」と記載されている。
これらの発明の詳細な説明の記載から、本願発明で特定される(M-1)、(M-2)、(M-3)および(M-4)の単量体の重量部の範囲は、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものということができ、上記各実施例の記載を参照するにサポート要件を充足しているといえる。

(2)小括
したがって、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているといえる。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
平成28年6月9日付けの手続補正書による補正前の特許請求の範囲の記載について、(M-3)のビニル単量体が「59.5質量部」であると、100質量部に対する残余の質量部は、40.5質量部にしかならないから、上記の記載からみると、必須のビニル単量体である(M-1)及び(M-2)はそれぞれの下限値である45質量部と1質量部でも合計が46質量部となり、40.5質量部を超えることになり、「(M-1)、(M-2)、(M-3)および(M-4)の合計は100質量部である」ことと矛盾することになるから、請求項1に係る発明において、ビニル単量体(M-1)、(M-2)、(M-3)及び(M-4)の質量部の割合が、(M-1)及び(M-2)の上記割合として決定されるものであるのか、(M-3)の上記割合を前提として決定されるものであるのか、請求項1に係る発明は明確でないことから、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとしたものである。

2 当審拒絶理由の判断
平成28年6月9日付け手続補正書によって、「(M-3)(M-1)および(M-2)以外のメタクリロイル基を含有するビニル単量体 0?59.5質量部」が「(M-3)(M-1)および(M-2)以外のメタクリロイル基を含有するビニル単量体 0?54質量部」と補正されたことにより、(M-3)の重量部の範囲は、(M-1)及び(M-2)の上記割合として決定されるものであることが明確になったことから、上記当審拒絶理由で指摘した事項は解消された。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審の拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-07-20 
出願番号 特願2012-509493(P2012-509493)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 加々美 一恵  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 渡戸 正義
三崎 仁
発明の名称 アフィニティークロマトグラフィー用充填剤  
代理人 高野 登志雄  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 村田 正樹  
代理人 山本 博人  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  

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