• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H
管理番号 1316935
審判番号 不服2015-4944  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-13 
確定日 2016-07-14 
事件の表示 特願2013-111348「振動片、振動子、発振器及び電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月22日出願公開、特開2013-165529〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続きの経緯

本願は、平成13年12月25日(優先権主張 平成12年12月25日)に出願した特願2001-392904号の一部を平成16年6月21日に新たな特許出願(特願2004-182628号)とし、さらに、特願2004-182628号の一部を平成19年9月5日に新たな特許出願(特願2007-230744号)とし、さらに、特願2007-230744号の一部を平成21年11月9日に新たな特許出願(特願2009-256161号)とし、さらに、特願2009-256161号の一部を平成25年5月27日に新たな特許出願(特願2013-111348号)としたものであって、平成25年6月25日付けで手続補正がなされ、平成26年4月18日付けで拒絶理由が通知され、同年6月23日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされ、同年12月10日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成27年3月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


第2.本願発明について

本願の請求項1に係る発明(「以下、本願発明」という。)は、平成26年6月23日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。

「平面視で、一方の基部端部、及び前記一方の基部端部とは反対側にある他方の基部端部を含む基部と、
平面視で、前記基部の前記一方の基部端部から第1の方向に延出し、互いに表裏の関係にある第1の主面及び第2の主面に前記第1の方向に沿って溝部が設けられ、前記第1の方向と直交する第2の方向に沿って並び、且つ、前記第1の方向及び前記第2の方向を含む平面内で互いに接近と離反とを交互に繰り返して屈曲振動する一対の振動腕部と、
を含み、
前記振動腕部は、
前記第2の方向に沿った幅をW、
前記第1の方向及び前記第2の方向に直交する第3の方向に沿った厚さをDとしたとき、
W/D<1.2
の関係を満たし、
前記基部は、
平面視で、前記一方の基部端部及び前記他方の基部端部の間に前記第2の方向に沿った幅が狭められるように切り込み部が設けられ、
且つ、平面視で、前記切り込み部よりも前記他方の基部端部の側に固定領域が配置されていることを特徴とする振動片。」


第3.引用例について

1.引用例1の記載
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先権主張の日前に公開された刊行物である国際公開第00/44092号(平成12年7月27日公開、以下「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審にて付した。

(ア)「二本の振動細棒120は、これらが互いに近づいたり離れたりする方向に振動する。この振動細棒120の表面と裏面のいずれかあるいは両方に溝120aを形成する。溝120aの形成方法は、振動子100の材料を溶解することが可能なエッチング液を用いてフォトリソグラフィーを応用した加工等が用いられる。水晶製の振動子ならば、弗酸系のエッチング液で加工が可能である。」(第9頁第14?18行目)

(イ)「第3図は、第2の実施の形態に係る電極が設けられていない音叉型水晶振動子200を示す概略斜視図である。
この音叉型水晶振動子200は、例えば水晶の単結晶から切り出され音叉型に加工されて形成されている。このとき、第3図に示すX軸が電気軸、Y軸が機械軸及びZ軸が光軸となるように水晶の単結晶から切り出されることになる。このように電気軸が第3図のX軸方向に配置されることにより、高精度が要求される時計及び時計付き機器全般に好適な音叉型水晶振動子200となる。
また、水晶の単結晶から切り出す際、上述のX軸、Y軸及びZ軸からなる直交座標系において、X軸回りに、X軸とY軸とからなるXY平面を反時計方向に約1度乃至5度傾けた、所謂水晶Z板として、音叉型水晶振動子200が形成されることになる。
この音叉型水晶振動子200は、上述の第1の実施の形態に係る音叉型の振動子100と同様に、基部である固定部230と、この固定部230から図においてY軸方向に突出するように形成された例えば2本の振動細棒220とを有している。また、この2本の振動細棒 220の第1及び第2の表面には、第3図に示すように 溝220aがそれぞれ形成されている。」(第10頁第20行目?第11頁第7行目)

(ウ)「以上のように形成されている音叉型水晶振動子200は、例えば共振周波数が32.768kHであるにもかかわらず、従来の32.768kHの音叉型水晶振動子と比べ、小型となっている。例えば第5図に示すように構成されている。」(第12頁第4?6行目)

(エ)「また、第5図に示す振動細棒220のX軸方向の長さは、例えば約1.6mm程度であり、各振動細棒220のX軸方向の幅は、例えば0.1mm程度となっている。このような振動細棒220の大きさは、第10図に示す振動細棒12の寸法である2.4mm(Y軸方向)、0.23mm(X軸方向)と比べ、著しく小さくなっている。
一方、この音叉型水晶振動子200のZ軸方向である音叉型水晶振動子の厚みは、例えば約0.1mm程度となっており、これは、従来の音叉型水晶振動子200の厚みと略同様となっている。しかし、本実施の形態に係る音叉型水晶振動子200の振動細棒220には、上述のように溝220aが形成されており、この溝220aは、振動細棒220上においてY軸方向に例えば約1.3mm程度の長さに形成されている。この溝220aのX軸方向の幅は、第5図に示すように例えば約0.07mm程度であり、そのZ軸方向の深さは、例えば約0.02mm程度となっている。」(第12頁第12?19行目)
(当審注:「第5図に示す振動細棒220のX軸方向の長さは、例えば約1.6mm程度であり」とあるのは、第5図からみて「Y軸方向」の誤記である。)

(オ)「次に、以上のような小型の音叉型水晶振動子200の振動細棒220の断面を示したのが第6図(a)である。第6図(a)に示すように振動細棒220には溝220aが図において上下方向にそれぞれ設けられているため、その断面形状が略H形に形成されている。そして、この2力所の溝220aには、それぞれ電極240aが設けられている。また、振動細棒220の両側面にも電極240bがそれぞれ設けられている。」(第12頁第28行目?第13頁第5行目)

(カ)FIG.5

(キ)FIG.6(a)

2.引用例1について
上記(ア)?(キ)の摘記事項から、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「固定部230と、
固定部230からY軸方向に突出するように形成された2本の振動細棒220であって、
振動細棒220には溝220aが第6図(a)において上下方向にそれぞれ設けられているため、断面形状が略H形に形成されてあって、
2本の振動細棒220は、
各振動細棒220のX軸方向の幅は、0.1mm程度であって、
音叉型水晶振動子200のZ軸方向である音叉型水晶振動子の厚みは、約0.1mm程度である、
音叉型水晶振動子。」


3.引用例2、3の記載
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先権主張の日前に公開された刊行物である特開昭49-34789号(昭和49年3月30日公開、以下、「引用例2」という。)、特開平4-90613号(平成4年3月24日公開、以下、「引用例3」という。)には、それぞれ、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審にて付した。

(1)引用例2の記載

(ク)「本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、電気的諸特性が良好で且つ耐振性および耐衝撃性にすぐれた音叉型水晶振動子を提供することを目的とする。」(第1頁右下欄第6?9行目)

(ケ)「以下、本発明の一実施例を第1図に従い説明する。即ち、この場合振動子11はその断面図示上方部をU字形の振動部に形成するとともに図示下方部の巾方向両側縁に切込み部12を形成する。しかして、このような振動子11によるとその振動は図示破線の如き切込み部12の上方部分のみで行なわれ下方部分への振動の影響を全くなくすことができる。従つて、上記下方部分を直接固定部材に固定することが可能になるのでこの下方部分において振動導入線の接続および振動子支持を行なえば従来のように振動導入線を振動部に直接接続したものに比べ発振強度への影響を防止できるとともに導入線の張力による偏差不良およびゼロ温度特性の変化を防止できる等製品のバラツキを極力少なくし、また、その支持構造も簡単にできる。」(第1頁右下欄第10?第2頁左上欄第5行目)

(コ)第1図

(2)引用例3の記載

(サ)「本発明は、圧電振動子の改良に係り、詳しくは当該圧電振動子の音叉部が保持部から独立して振動し得る圧電振動子に関する。」(第1頁左下欄第15?17行目、[産業上の利用分野])

(シ)「ところが、上記従来の圧電振動子では、上記音叉部54a(54b)の圧電振動が上記保持部56a(56b)に伝播されてしまい同音叉部54a(54b)の独立した圧電振動が阻害されていた。」(第1頁左下欄第17?20行目)

(ス)「従って、この圧電振動子では、上記音叉部と保持部とが振動体として不完全ながら切り離された状態となるので、上記音叉部の圧電振動が上記切り込み部により保持部に伝わりにくくなり、同音叉部の圧電振動が従来よりも阻害されず、計算された所定の周波数で振動する。」(第2頁左上欄第16行目?同頁右上欄第1行目)

(セ)「しかしながら、この圧電振動子1a(1b)では、従来と異なり、これら第3図、第4図等で示すように上記圧電基板2a(2b)の音叉部5a(5b)と上記保持部10a(10b)との間に略半円形状の切り込み部12a(12b)が形成されている。
それゆえに、この圧電振動子1a(1b)では、上記切り込み部12a(12b)が圧電振動の節目となることにより、上記回路パターン11a(11b)からの電力供給による音叉部5a(5b)の圧電振動の上記保持部10a(10b)への伝達がほぼ阻止される。」(第2頁左下欄第6?17行目)

(ソ)第3図

4.引用例2、3に記載されている事項(周知技術)
上記(ク)?(ソ)の摘記事項から、引用例2、3には、次の事項が記載されている。

「音叉部の圧電振動の影響を保持部に伝達することを阻止するために、音叉部を有する振動子において、音叉部と保持部との間に切り込み部を設けること」(以下、「周知技術」という。)


第4.本件発明と引用発明1との対比

1.対比
本願発明と引用発明1とを対比する。

(1)引用発明1における「固定部230」、「2本の振動細棒220」は、それぞれ、本願発明における「基部」、「一対の振動腕部」に対応する。

(2)引用発明1における「音叉型水晶振動子」は、基部と基部から突出して形成される振動細棒を有するものであるから、本願発明でいうところの「振動片」といえる。

(3)上記摘記事項(カ)のFIG.5(第5図)は、音叉型水晶振動子200を平面視した図であって、固定部230には、振動細棒側の固定部上端部と、振動細棒側と反対側にある固定部下端部が示されているから、引用発明1の「固定部230」は、本願発明の「平面視で、一方の基部端部、及び前記一方の基部端部とは反対側にある他方の基部端部を含む基部」に対応するといえる。

(4)また、同じくFIG.5(第5図)の図中にはX軸、Y軸、Z軸が記載されており、振動細部200は固定部230の振動細部側の固定部上端部からY軸方向に延出することが記載されている。ここで、X軸方向は、Y軸方向と直交する方向であって、Z軸方向は、X軸方向、Y軸方向と直交する方向である。
よって、引用例1における「Y軸方向」、「X軸方向」、「Z軸方向」は、それぞれ、本願発明の「第1の方向」、「第2の方向」、「第3の方向」に対応するといえる。

(5)次に、引用発明1にある、
「固定部230からY軸方向に突出するように形成された2本の振動細棒220であって、
振動細棒220には溝220aが第6図(a)において上下方向にそれぞれ設けられているため、断面形状が略H形に形成されてあって」という事項について検討する。

(5-1)まず、上記(4)を踏まえれば、引用発明1の「固定部230からY軸方向に突出するように形成された2本の振動細棒220」は、本願発明の「平面視で、前記基部の前記一方の基部端部から第1の方向に延出」する「一対の振動腕部」に対応するといえる。

(5-2)次に、引用発明1の「振動細棒220には溝220aが第6図(a)において上下方向にそれぞれ設けられているため、その断面形状が略H形に形成されてあって」について検討する。
上記摘記事項(キ)のFIG.6(a)(第6図(a))は、振動細棒220の断面を示した図であって、FIG.5(第5図)にあるように、振動細棒220のZ方向上面にY軸方向に沿って溝が設けられていることを踏まえると、Z方向下面にもY軸方向に沿って溝が設けられていることは明らかである。
そして、Z方向上面を「第1の主面」とすれば、Z方向上面と表裏の関係にあるZ方向下面は「第2の主面」といえる。また、上記(4)を踏まえると、Y軸方向は「第1の方向」となる。
よって、引用発明1の「振動細棒220には溝220aが第6図(a)において上下方向にそれぞれ設けられているため、その断面形状が略H形に形成されてあって」は、本願発明の「互いに表裏の関係にある第1の主面及び第2の主面に前記第1の方向に沿って溝部が設けられ」た「一対の振動腕部」に対応するといえる。

(5-3)また、上記摘記事項(カ)のFIG.5(第5図)には、2本の振動細棒220がX軸方向に並んで配置している。
そして、X軸方向について上記(4)を踏まえると、引用発明1の「2本の振動細棒220」は、本願発明の「前記第1の方向と直交する第2の方向に沿って並」ぶ「一対の振動腕部」に対応するといえる。

(5-4)そして、上記摘記事項(ア)にあるように、音叉型の振動子では、二本の振動細棒が互いに近づいたり離れたりする方向に振動するものであるから、引用発明1の「2本の振動細棒220」が、互いに近づいたり離れたりする方向、すなわち、平面視上で、互いに近づいたり離れたりする方向に振動することは明らかである。
よって、引用発明1の「2本の振動細棒220」は、「第1の方向及び第2の方向を含む平面内で互いに接近と離反とを交互に繰り返して屈曲振動する一対の振動腕部」に対応するといえる。

(5-5)上記(5-1)?(5-4)をまとめると、引用発明1にある、
「固定部230からY軸方向に突出するように形成された2本の振動細棒220であって、
振動細棒220には溝220aが第6図(a)において上下方向にそれぞれ設けられているため、断面形状が略H形に形成されてあって」は、
本願発明の
「平面視で、前記基部の前記一方の基部端部から第1の方向に延出し、互いに表裏の関係にある第1の主面及び第2の主面に前記第1の方向に沿って溝部が設けられ、前記第1の方向と直交する第2の方向に沿って並び、且つ、前記第1の方向及び前記第2の方向を含む平面内で互いに接近と離反とを交互に繰り返して屈曲振動する一対の振動腕部」に対応するといえる。

(6)引用発明1は「各振動細棒220のX軸方向の幅は、0.1mm程度であって、
振動子200のZ軸方向である音叉型振動子の厚みは、約0.1mm程度である」ものであって、上記(4)を踏まえると、振動細棒は、第2の方向の幅が0.1mm程度であって、第1の方向及び第2の方向に直交する第3の方向に沿った厚みが約0.1mm程度であると言い換えることができる。
そして、幅0.1mm程度と厚み約0.1mm程度との比を取ると、約1程度となることから、引用発明1においても、幅Wと厚さDとの関係が、「W/D<1.2」を満たすものが示されている。
よって、引用発明1の
「各振動細棒220のX軸方向の幅は、0.1mm程度であって、
振動子200のZ軸方向である音叉型振動子の厚みは、約0.1mm程度である」は、
本願発明の「前記振動腕部は、
前記第2の方向に沿った幅をW、
前記第1の方向及び前記第2の方向に直交する第3の方向に沿った厚さをDとしたとき、
W/D<1.2
の関係を満た」す点で一致する。

(7)したがって、引用発明1と本願発明とは、以下の点で一致する。

[一致点]
「平面視で、一方の基部端部、及び前記一方の基部端部とは反対側にある他方の基部端部を含む基部と、
平面視で、前記基部の前記一方の基部端部から第1の方向に延出し、互いに表裏の関係にある第1の主面及び第2の主面に前記第1の方向に沿って溝部が設けられ、前記第1の方向と直交する第2の方向に沿って並び、且つ、前記第1の方向及び前記第2の方向を含む平面内で互いに接近と離反とを交互に繰り返して屈曲振動する一対の振動腕部と、
を含み、
前記振動腕部は、
前記第2の方向に沿った幅をW、
前記第1の方向及び前記第2の方向に直交する第3の方向に沿った厚さをDとしたとき、
W/D<1.2
の関係を満たす、
振動片。」

(8)一方、引用発明1と本願発明とは、以下の点で相違する。

[相違点]
本願発明の振動片は、
「平面視で、前記一方の基部端部及び前記他方の基部端部の間に前記第2の方向に沿った幅が狭められるように切り込み部が設けられ、且つ、平面視で、前記切り込み部よりも前記他方の基部端部の側に固定領域が配置されている」という発明特定事項を有するが、引用発明1には、その点について記載がない点。


第5.当審の判断

(1)[相違点]について

上記「第3.引用例について」の「4.引用例2、3に記載されている事項(周知技術)」に示したように、「音叉部の圧電振動の影響を保持部に伝達することを阻止するために、音叉部を有する振動子において、音叉部と保持部との間に切り込み部を設けること」は周知技術である。

ここで、引用例2、3の図面である上記摘記事項(コ)、(ソ)を考慮すると、当該周知技術にある「切り込み部」は、平面視で、本願発明でいうところの「基部」に相当する部分に、図面横方向、すわなち、「第2の方向に沿った幅が狭められるように」設けられるものである。

また、当該周知技術の切り込み部は、音叉部の圧電振動の影響を保持部に伝達することを阻止するために設けられるものである。

そして、引用例2、3の図面である上記摘記事項(コ)、(ソ)を考慮すると、保持部に振動の影響が伝達しないように、当該周知技術にある「保持部」は、平面視で、本願発明でいうところの「基部」に相当する部分の、「切り込み部」の図面下方向、すわなち、「平面視で、前記切り込み部よりも前記他方の基部端部の側に」配置されるものである。

してみれば、当該[相違点]に係る本願発明の発明特定事項は、周知技術に示されているといえる。

そして、2本の振動細棒を有する音叉型振動子である引用発明1の音叉型水晶振動子においても、振動細部の圧電振動の影響により、固定部へ振動漏れが生じ得ることは当業者に明らかである。

よって、引用発明1の固定部への振動漏れを解決するために、引用発明1に当該周知技術を適用することで、引用発明1の固定部に、X軸方向に沿った幅が狭められるように切り込み部を設けること、及び、切り込み部の固定部下端側に保持部を設けること、は、当業者が容易に想到し得ることである。


(2)また、本願発明の構成によってもたらされる効果は、引用発明1及び周知技術より当業者であれば容易に予測することができる程度のものである。


(3)したがって、本願発明は、引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第6.その他
審判請求人は、平成27年3月13日付け審判請求書にて次のように主張しているので検討する。(なお、以下にある、「引用文献2」、「引用文献9」、「引用文献7」は、それぞれ、本審決でいう「引用例1」、「引用例2」、「引用例3」である。)

「しかしながら、本願の各請求項に係る発明は、振動片の小型化のために、図13(b)のように振動腕の断面の幅Wを狭めた場合に、振動腕が矢印Bの方向に屈曲振動するとき、矢印Cの垂直成分の振動が生じて、振動腕が矢印Eの方向に振動してしまい、その結果として、振動片自体が垂直方向に振動して不安定になり基部からエネルギーがどんどん漏洩していってしまうという課題に対応するものであります。
審査官は、引用文献2記載の振動子は、基部方向への振動漏れという課題を内在していたといえると指摘されていますが、引用文献2では、振動子の小型化のために振動腕の断面の幅Wを狭めたような振動子を想定しているわけではなく又このような場合に矢印C方向(垂直方向)の振動が問題となることも想定されておらず、単に振動子を支持する場合に振動漏れが生じることを述べているに過ぎません。言うまでもなく、振動子の支持部から某かの振動漏れが生じることは、技術常識を述べているに過ぎません。
すなわち、引用文献2記載の振動子では、本願の各請求項に係る発明のように矢印C方向(垂直方向)の振動に対処するものではなく又振動子の振動漏れの低減を溝320aを固定部にかけて形成するという構成によって図ることが記載されているものであります。

(略)

これらの引用文献3乃至9についても、拒絶査定において、先の文献3-9は、音叉型振動子の基部への振動漏れを抑制するための切り込み部が周知の技術であることを示すために提示した文献に過ぎず、該意見書を参酌しても、このような周知の技術を先の文献2に記載された発明に採用する上で、何故、上記「異なる振動モード」、「本願発明の掲げた課題の有無」及び「切り込み部が従来技術であること」が阻害要因となるのかその理由が明確でなく理解できないと記載されています。
この点については、意見書で述べたとおりでありますが、振動子の小型化のために振動腕の断面の幅Wを狭めたような振動子を想定しているわけではなく又このような場合に矢印C方向(垂直方向)の振動が問題となることも想定されていない技術事項を、この点が問題となる振動子に対して適用することに阻害要因があるものと思料致します。」

審判請求人の主張は、要するに、本願発明の課題を想定していない引用文献2に、同じく本願発明の課題を想定していない引用文献3?9を組み合わせることはできない、というものである。

しかしながら、「第5.当審の判断」の「(1)[相違点]について」にて示したように、2本の振動細棒を有する音叉型振動子である引用発明1の音叉型水晶振動子においても、振動細棒の圧電振動の影響により、固定部へ振動漏れが生じ得ることは当業者に明らかであって、そのような技術課題に対し、切り込み部を設けるという周知技術を適用することに阻害要因が存在するとはいえない。

よって、審判請求人の上記主張は採用できない。


第7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-27 
結審通知日 2016-05-10 
審決日 2016-05-27 
出願番号 特願2013-111348(P2013-111348)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 畑中 博幸  
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 古市 徹
水野 恵雄
発明の名称 振動片、振動子、発振器及び電子機器  
代理人 特許業務法人 英知国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ