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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01B
管理番号 1316938
審判番号 不服2015-8173  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-01 
確定日 2016-07-14 
事件の表示 特願2013-522974「RE123系超電導線材およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月 3日国際公開、WO2013/002372〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、2012年(平成24年)6月29日(国内優先権主張2011年(平成23年)6月30日)を国際出願日とする出願であって、平成26年10月31日付けで拒絶理由が通知され、平成27年1月13日付けで手続補正がなされたが、平成27年2月4日付けで拒絶の査定がなされ、これに対して、同年5月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成27年1月13日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「基材と、前記基材上に形成された中間層と、前記中間層上に形成され、RE_(1)Ba_(2)Cu_(3)O_(7-δ)(REは希土類元素のうちの1種又は2種以上を表す。)の組成式で表される酸化物超電導体を含む酸化物超電導層と、を備え、
前記酸化物超電導層は、前記中間層が形成された前記基材を2m/h以上の速度で移動させながら、前記中間層上に成膜された層であり、
前記酸化物超電導層は、人工ピンとして前記酸化物超電導層中に分散している、0.5?10mol%のHfを含む化合物を有し、
前記酸化物超電導層の膜厚dは、d>1μmであり、
J_(cd)/J_(c1)≧0.9(J_(c1)は前記酸化物超電導層の厚さが1μmの時の臨界電流密度を表し、J_(cd)は前記酸化物超電導層の厚さがdμmの時の臨界電流密度を表す。)の電流特性を満たす、
RE123系超電導線材。」

3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2009/044637号(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、次のア.ないしケ.のとおりの記載がある。
ア.「本発明は、臨界電流特性に優れたRE123系酸化物超電導体とその製造方法に関する。ここで、RE123系酸化物は、化学式:RE_(1±x)Ba_(2±y)Cu_(3±z)O_(7-δ)(RE:Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、及び、Erのいずれか1種又は2種以上)で表示されるRE-Ba-Cu系酸化物を意味する。
背景技術
近年、酸化物超電導材料を用いて超電導線材を製造する技術の研究開発が、日米を中心に活発に行われている。パルスレーザー蒸着法(PLD法)は、高い臨界電流を有する超電導膜を形成することができることから、有望な技術の一つである。
超電導線材を実用化するためには、(i)超電導膜を、金属基材上に成膜することに加え、(ii)超電導膜の臨界電流(Ic)特性を高めることが不可欠である。臨界電流(Ic)を高める方策の一つは、超電導膜の膜厚を厚くすることであるが、PLD法で、膜厚を増大しても、臨界電流(Ic)は、膜厚に比例して向上せずに飽和することが、大きな問題になっている。」(第1頁第6行?第22行)

イ.「(1) RE123系酸化物超電導体の製造方法において、
(i)下記式(1)及び(2)を満たすRE、Ba、及び、Cuを含む酸化物系ターゲット材にパルスレーザーを照射してプルームを形成し、
(ii)上記プルームの中に基材を保持してRE123系酸化物超電導膜を成膜することを特徴とするRE123系酸化物超電導体の製造方法。
0.8≦2RE/Ba<1.0 ・・・(1)
0.8≦3Ba/2Cu<1.0 ・・・(2)
ここで、REは、Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、及び、Erのいずれか1種又は2種以上
(2) 前記酸化物系ターゲット材に、RE123系酸化物超電導膜の中に分散して導入する非超電導物質の素材として、ZrO_(2)、BaZrO_(3)、BaSnO_(3)、BaCeO_(3)、BaHfO_(3)、及び、BaRuO_(3)のいずれか1種又は2種以上を、合計で、7mol%以下添加したことを特徴とする前記(1)に記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。」(第6頁第4?20行)

ウ.「(5) 前記RE123系酸化物超電導膜の超電導相の組成が、下記式(4)及び(5)を満たすことを特徴とする前記(2)又は(3)に記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
1.0≦2RE/Ba≦1.2 ・・・(4)
0.8≦3Ba/2Cu<1.0 ・・・(5)」(第7頁第6?10行)

エ.「(15) 前記(2)、(3)、及び、(5)?(11)のいずれかに記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法で製造したRE123系酸化物超電導体であって、RE123系酸化物超電導膜が、3Tの磁場中で60A/cm幅以上の臨界電流特性を有することを特徴とするRE123系酸化物超電導体。
(16) 前記RE123系酸化物超電導膜の超電導相の組成が、下記式(4)及び(5)を満たすことを特徴とする前記(15)に記載のRE123系酸化物超電導体。
1.0≦2RE/Ba≦1.2 ・・・(4)
0.8≦3Ba/2Cu<1.0 ・・・(5)」(第10頁第2?11行)

オ.「(1)RE-Ba-Cu酸化物系ターゲット材の組成
本発明は、前述したように、「所要の組成比で、RE、Ba、及び、Cuを含む酸化物系ターゲット材にパルスレーザーを照射して形成したプルームの中に基材を保持して成膜すると、基材上に、均一で緻密なc軸配向結晶組織を有し、臨界電流特性に優れた所要の膜厚のRE系123系酸化物超電導膜を、従来より速い成膜速度で成膜することができる」との知見に基づいてなされたものである。
そして、本発明の基本思想は、上記知見を前提に、Gd-Ba-Cu酸化物系ターゲット材を用いて行った実験結果に基づいて、下記式(1)及び(2)を満たすRE、Ba、及び、Cuを含む酸化物系ターゲット材(以下「本発明ターゲット材」ということがある。)を用いることを第一の特徴とする。
0.8≦2RE/Ba<1.0 ・・・(1)
0.8≦3Ba/2Cu<1.0 ・・・(2)
なお、2RE/Baは、REがGdの場合と同様に、0.85以上、0.95以下が好ましく、3Ba/2Cuは、0.85以上、0.95以下が好ましい。
ここで、REは、Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、及び、Erのいずれか1種又は2種以上である。これら元素を、超電導特性や臨界電流特性を損なわない組成範囲で、RE123系酸化物を構成する元素として用いることができる。
なかでも、Gdは、Gd-Ba固溶領域が狭く、かつ、臨界温度(Tc)を高める作用をなす元素であるので、本発明ターゲット材を構成する元素として好ましい元素である。その他、94K以上の臨界温度(Tc)が得られるNd、Sm、及び、Euも、本発明ターゲット材を構成する元素として好ましい元素である。
0.8≦2RE/Ba<1.0、及び、0.8≦3Ba/2Cu<1.0の本発明ターゲット材を用いることにより、臨界電流特性に優れたRE123系酸化物超電導膜を、プルームの中に保持した基材上に、膜性状の再現性よく成膜することができるが、RE123系酸化物超電導膜の組成及び特性については後述する。
RE123系酸化物超電導膜の結晶組織中に非超電導物質が均一に分散して存在すると、臨界電流特性が向上するので、本発明ターゲット材は、上記式(1)及び(2)式で規定するRE、Ba、及び、Cuの他に、非超電導物質の供給素材として、ZrO_(2)、BaZrO_(3)、BaSnO_(3)、BaCeO_(3)、BaHfO_(3)、及び、BaRuO_(3)のいずれか1種又は2種以上を、合計で、7mol%以下含むものでもよい。
ターゲット材中に、非超電導物質の供給素材が7mol%を超えて存在すると、RE123系酸化物超電導膜の結晶組織中に導入される非超電導物質の量が過剰になり、かえって、超電導特性を損ねることになる。なお、非超電導物質の供給素材の添加量は、5mol%以下が好ましい。」(第27頁第20行?第29頁第8行)

カ.「前述したように、従来、1μm以上の膜厚を有し、実用に足る高い臨界電流特性を有する超電導膜を成膜したことは報告されていないが、本発明においては、RE-Ba-Cu酸化物系ターゲット材を構成するRE、Ba、及び、Cuの組成をより具体的に決定することにより、a軸配向結晶が殆ど存在せず、かつ、1μm以上の膜厚を有し、均一でかつ緻密なc軸配向結晶組織を有するRE123系酸化物超電導膜を成膜することができる。
本発明者らは、このことを確認するため、膜厚と臨界電流特性との関係を測定した。その結果の一部を、図13と図14に示す。図13に、Gd_(0.9)Ba_(2)Cu_(3.3)酸化物系ターゲット材を用いて成膜した超電導膜の膜厚と臨界電流特性の関係を示し、図14に、Gd_(0.9)Ba_(2)Cu_(3.3)酸化物中に5mol%のBaZrO_(3)が分散しているターゲット材を用いて成膜した超電導膜の膜厚と臨界電流特性の関係を示す。
図13及び図14に示すように、本発明ターゲット材を用い、基材をプルームの中に保持して成膜すると、膜厚が3.0μmで、自己磁場中での臨界電流が700A/cm幅を超えるGd123系酸化物超電導膜を容易に得ることができる(図中、s.f.、参照)。
図13に示すように、膜厚3.0μmで、3Tの外部磁場(B//c)中での臨界電流が“40A/cm幅”であるが、本発明者らは、本発明のRE123系酸化物超電導膜が、3Tの磁場中で、“40A/cm幅以上”の臨界電流を有することを確認した。この“3T-40A/cm幅以上”は、基材をプルームの外に保持する従来のPLD法では達成できない値である。
図14に示すように、膜組織中に5mol%のBaZrO_(3)が分散している場合、自己磁場中の臨界電流特性(Ic(A))は、多少低下傾向にあるが、外部磁場中の臨界電流(Ic(A))は逆に、100A/cm幅にまで向上している。また、本発明者らは、膜組織中に非超電導物質を7mol%以下含有するRE123系酸化物超電導膜が、3Tの磁場中で、磁場の印加方向によらず、60A/cm幅以上の臨界電流特性を有することを確認した。」(第36頁第23行?37頁26行)

キ.「以上、説明したように、本発明のRE123系酸化物超電導膜は、膜厚1μm以上で、確実に、実用領域の臨界電流特性を備えるものである。
臨界電流特性の良否は、膜組織の良否に依存するから、このように、RE123系酸化物超電導膜が、膜厚1.0μm以上で、実用領域の臨界電流特性を備えていることは、膜組織中に、臨界電流特性を劣化させるa軸配向結晶粒が存在していても極少量であり、膜厚方向の全体にわたり、均一でかつ緻密なc軸配向結晶組織が形成されていることを意味しているといえる。」(第38頁第2?10行)

ク.「(8)基材の材質
本発明において用いる基材は、RE123系酸化物超電導膜を成膜できるものであればよく、特定の材質のものに限定されないが、RE123系超電導体を線材用の素線として使用することを前提とすれば、延伸加工が可能な金属基材、特に、長尺の金属基材が好ましい。具体的には、例えば、ハステロイ上に、MgO、Gd_(2)Zr_(2)O_(7)、CeO_(2)、及び、LaMnO_(3)等の酸化物を積層したものが好ましい。
基材をプルームの中に保持すると、従来より速い成膜速度で成膜することができるということは、プルームの中を所要の速度で通過する基材に対しても、従来より速い成膜速度で成膜することができるということである。したがって、本発明は、所要の速度で移動する長尺金属基材にも適用し得るものである。
即ち、本発明は、所要の速度でプルームを通過する長尺金属基材の上に、実用領域の臨界電流特性を備えるRE123系酸化物超電導膜を、膜性状の再現性よく成膜し得るものである。」(第38頁第16行?第39頁第4行)

ケ.「このことは、RE123系酸化物超電導膜の超電導相内に、結晶のa軸又はb軸方向に粗大化した非超電導相の存在による電流経路の分断、及び、大傾角粒界やBa化合物等による粒界結合の劣化がないことに加え、超電導相中に分散している非超電導相が、磁束をピン止めするピン止め中心として有効に機能していることを示している。このような高い値も、従来のPLD法では得られていない値である。」(第41頁第16?22行)

上記下線部及び関連記載箇所によれば、引用例1には、
「ハステロイ上にMgO、Gd_(2)Zr_(2)O_(7)、CeO_(2)、及び、LaMnO_(3)等の酸化物を積層した長尺金属基材の上に超電導相がRE_(1±x)Ba_(2±y)Cu_(3±z)O_(7-δ)(RE:Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、及び、Erのいずれか1種又は2種以上)からなるRE123系超電導膜を備え、
前記RE123系酸化物超電導膜は、0.8≦2RE/Ba<1.0、0.8≦3Ba/2Cu<1.0の組成比を満たすRE、Ba、及び、Cuを含む酸化物に、ZrO_(2)、BaZrO_(3)、BaSnO_(3)、BaCeO_(3)、BaHfO_(3)、及び、BaRuO_(3)のいずれか1種又は2種以上の非超電導物質を7mol%以下添加した素材をターゲット材として、PLD法により、前記長尺金属基材を所要の速度で移動させながら、前記長尺金属基材の上に成膜したものであり、
前記RE123系酸化物超電導膜の超電導相の組成は、1.0≦2RE/Ba≦1.2、0.8≦3Ba/2Cu<1.0を満たし、
前記非超電導物質は、RE123系酸化物導電膜の超電導相中に分散し、磁束をピン止めするピン止め中心として機能し、
前記RE123系酸化物超電導層は、膜厚1.0μm以上で、実用領域の臨界電流特性を有し、
5mol%のBaZrO_(3)が超電導膜に分散している場合、3Tの外部磁場中の臨界電流(Ic(A))は、100A/cm幅にまで向上し、超電導膜組織中に非超電導物質を7mol%以下含有するRE123系酸化物超電導膜が、3Tの磁場中で、磁場の印加方向によらず、60A/cm幅以上の臨界電流特性を有する、
RE123系超電導線材。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを比較すると、次のことがいえる。
ア.引用発明の「ハステロイ上にMgO、Gd_(2)Zr_(2)O_(7)、CeO_(2)、及び、LaMnO_(3)等の酸化物を積層した長尺金属基材」の「MgO、Gd_(2)Zr_(2)O_(7)、CeO_(2、)及び、LaMnO_(3)等の酸化物」層は、本願発明の「中間層」といい得るものである。ハステロイ基材上にMgO、Gd_(2)Zr_(2)O_(7)、CeO_(2)等の酸化物を中間層として設けることは、原査定で引用された特開2010-86796号公報の段落【0046】,【0047】の記載からも、明らかである。よって、引用発明の「ハステロイ上にMgO、Gd_(2)Zr_(2)O_(7)、CeO_(2)、及び、LaMnO_(3)等の酸化物を積層した長尺金属基材」は、本願発明の「基材と、前記基材上に形成された中間層」に相当する。

イ.引用発明の「RE123系酸化物超電導膜の超電導相の組成」が「1.0≦2RE/Ba≦1.2、0.8≦3Ba/2Cu<1.0を満た」す「RE_(1±x)Ba_(2±y)Cu_(3±z)O_(7-δ)(RE:Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、及び、Erのいずれか1種又は2種以上)からなるRE123系超電導膜」と、本願発明の「RE_(1)Ba_(2)Cu_(3)O_(7-δ)(REは希土類元素のうちの1種又は2種以上を表す。)の組成式で表される酸化物超電導体を含む酸化物超電導層」とは、いずれも「RE123系酸化物超電導体(REは希土類元素のうちの1種又は2種以上を表す。)を含む酸化物超電導層」である点で共通する。

ウ.引用発明の「PLD法により、前記長尺金属基材を所要の速度で移動させながら、前記長尺金属基材の上に成膜」された「RE123系酸化物超電導膜」と、本願発明の「前記酸化物超電導層は、前記中間層が形成された前記基材を2m/h以上の速度で移動させながら、前記中間層上に成膜された層」とは、いずれも「前記酸化物超電導層は、前記中間層が形成された前記基材を移動させながら、前記中間層上に成膜された層」である点で共通する。

エ.引用発明は超電導膜に非超電導物質としてHfを含む化合物である「BaHfO_(3)」を含み、ターゲットへの非超電導物質の添加割合は7mol%以下であり、ターゲットに含まれる割合と超電導膜中での割合は同様であると考えられるから、引用発明の「ZrO_(2)、BaZrO_(3)、BaSnO_(3)、BaCeO_(3)、BaHfO_(3)、及び、BaRuO_(3)のいずれか1種又は2種以上の非超電導物質を7mol%以下添加した素材をターゲット材」とし、「前記非超電導物質は、RE123系酸化物導電膜の超電導相中に分散し、磁束をピン止めするピン止め中心として機能」することは、本願発明の「前記酸化物超電導層は、人工ピンとして前記酸化物超電導層中に分散している、0.5?10mol%のHfを含む化合物」に相当する。

オ.引用発明の「前記RE123系酸化物超電導層は、膜厚1.0μm以上で、実用領域の臨界電流特性を有」することは、本願発明の「前記酸化物超電導層の膜厚dは、d>1μm」に相当する。

カ.引用発明の「 5mol%のBaZrO_(3)が超電導膜に分散している場合、3Tの外部磁場中の臨界電流(Ic(A))は、100A/cm幅にまで向上し、超電導膜組織中に非超電導物質を7mol%以下含有するRE123系酸化物超電導膜が、3Tの磁場中で、磁場の印加方向によらず、60A/cm幅以上の臨界電流特性を有する」ことと、本願発明の「J_(cd)/J_(c1)≧0.9(J_(c1)は前記酸化物超電導層の厚さが1μmの時の臨界電流密度を表し、J_(cd)は前記酸化物超電導層の厚さがdμmの時の臨界電流密度を表す。)の電流特性を満たす」こととは、いずれも、「前記酸化物超電導層の臨界電流密度が特定の電流特性を有する」という点で共通する。

(1) したがって、本願発明と引用発明とは、次の一致点、相違点を有する。
[一致点]
基材と、前記基材上に形成された中間層と、前記中間層上に形成され、RE123系酸化物超電導体(REは希土類元素のうちの1種又は2種以上を表す。)を含む酸化物超電導層と、を備え、
前記酸化物超電導層は、前記中間層が形成された前記基材を移動させながら、前記中間層上に成膜された層であり、
前記酸化物超電導層は、人工ピンとして前記酸化物超電導層中に分散している、0.5?7mol%のHfを含む化合物を有し、
前記酸化物超電導層の膜厚dは、d>1μmであり、
前記酸化物超電導層の臨界電流密度が特定の電流特性を有する、
RE123系超電導線材。

[相違点1]
超電導層のRE123系酸化物超電導体の組成が、本願発明ではRE_(1)Ba_(2)Cu_(3)O_(7-δ)であるのに対し、引用発明ではRE_(1±x)Ba_(2±y)Cu_(3±z)O_(7-δ) (1.0≦2RE/Ba≦1.2、0.8≦3Ba/2Cu<1.0)である点。
[相違点2]
酸化物超電導層を成膜する際の基材の移動速度が、本願発明では2m/h以上であるのに対し、引用発明では特定されていない点。
[相違点3]
特定の電流特性が、本願発明ではJ_(cd)/J_(c1)≧0.9(J_(c1)は前記酸化物超電導層の厚さが1μmの時の臨界電流密度を表し、J_(cd)は前記酸化物超電導層の厚さがdμmの時の臨界電流密度を表す。)のに対し、引用発明ではそのような特定がされていない点。

5.判断
ア.[相違点1]について
引用発明において、2RE/Ba=1.0のときのRE:Baの組成比は、1:2であり、0.8≦3Ba/2Cu<1.0であるから、引用発明のRE123系酸化物超電導体はRE_(1)Ba_(2)Cu_(3+z)O_(7-δ) (0<z≦0.75)の組成のものを含んでいる。
そうすると、引用発明のRE123系酸化物超電導体RE_(1)Ba_(2)Cu_(3+z)O_(7-δ) (0<z≦0.75)はz=0を含まないが、RE_(1)Ba_(2)Cu_(3)O_(7-δ)、すなわち、RE:Ba:Cuの組成比を1:2:3とすることは、特別な組成比ではなく、RE123系酸化物超電導体の最も一般的な組成比であるから、引用発明において、RE123系酸化物超電導体の組成をRE_(1)Ba_(2)Cu_(3)O_(7-δ)とすることは当業者が容易に想到し得た事項である。
この点、「五十嵐 他,”RE123薄膜超電導線材”,フジクラ技報,株式会社フジクラ,2008年12月,第3巻,第115号,pp.46-54」p.46左欄,p.50左欄第8?26行には、RE_(1)Ba_(2)Cu_(3)O_(y)に人工ピンを導入することにより、磁場中での臨界電流密度を向上させることが記載されていることからも、引用発明において、RE123系酸化物超電導体の組成をRE_(1)Ba_(2)Cu_(3)O_(7-δ)とすることは当業者が容易に想到し得た事項であったといえる。

イ.[相違点2]について
引用発明も基材を移動させながら成膜を行うものであり、その移動速度は、成膜する酸化物超電導層の厚さと、パルスレーザのエネルギー、レーザをスキャンしているか、レーンの数(基材の通過回数)等によって当業者が決定する設計事項である。そして、拒絶査定時に移動速度を示す周知技術として挙げられた特開2010-121204号公報(以下、「引用例4」という。)の段落【0010】には、従来技術として、RE123系酸化物超電導体を18m/hの移動速度で成膜すること、段落【0055】,【0056】には、従来技術として10m/h、レーザを基材幅方向にスキャンすることにより31m/hの移動速度で成膜を実現できることが記載されていることから、RE123系酸化物超電導膜を成膜する際に10m/hを超える速度で基材を移動させることは一般的であったといえる。
したがって、引用発明において、基材の移動速度を2m/h以上とすることは当業者が容易に想到し得た事項である。

この点に関し、請求人は、審判請求の理由において、引用例1記載の成膜速度では、基材の移動速度を2m/hとすることはできない旨、及び、引用例4に記載された基材の移動速度は人工ピンを含まない超電導膜の成膜であるから、引用例1の移動速度には適用できない旨主張しているが、次の理由で採用できない。
(a)引用例4の段落【0009】,【0052】、図4や、上記の「五十嵐 他,”RE123薄膜超電導線材”,フジクラ技報,株式会社フジクラ,2008年12月,第3巻,第115号,pp.46-54」のp.50右欄31?33行,図10には、複数レーンで、プルームに対して基材を複数回通過させることにより高速化を図ることが記載されているように、基材の移動速度の高速化は周知技術であることから、これらの周知技術を採用することによって、引用発明において、基材の移動の高速化を図り、移動速度を2m/hとすることは当業者が容易に想到し得た事項である。
(b)引用発明は、基材を移動させながらRE123系超電導膜を成膜するものであり、人工ピンの導入のあるなしによって成膜方法が変わるものでもない。この点、上記の「五十嵐 他,”RE123薄膜超電導線材”,フジクラ技報,株式会社フジクラ,2008年12月,第3巻,第115号,pp.46-54」のp.50左欄第8行?p.51右欄第9行には、RE123酸化物超電導体に人工ピンを導入しない層と人工ピンを導入させた層とを基材を40m/h(実効線速6.7m/h)で移動させながら6層成膜することが記載されている。したがって、引用発明において、2m/h以上の移動速度で人工ピンを導入した層を成膜することが困難であったとはいえない。

ウ.[相違点3]について
引用例1の図14の3T磁場中での人工ピンを含むRE123系超電導膜厚と臨界電流(Ic(A/cm幅))との関係では、膜厚に比例して臨界電流(Ic(A/cm幅))はリニアに増加しているから、臨界電流密度は、膜厚1μm?5.5μmの範囲で一定といえ、J_(cd)/J_(c1)は1に近いものといえる。したがって、引用発明の臨界電流密度特性を、J_(cd)/J_(c1)≧0.9(J_(c1)は前記酸化物超電導層の厚さが1μmの時の臨界電流密度を表し、J_(cd)は前記酸化物超電導層の厚さがdμmの時の臨界電流密度を表す。)とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。

エ.総合判断
以上判断したとおり、本願発明における上記相違点1ないし3に係る構成はいずれも当業者が容易に想到し得たものであり、また、各相違点を総合しても本願発明は当業者が想到することが困難なものとはいえない。
そして、本願発明の作用効果も、引用例1から当業者が予測できる範囲のものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-11 
結審通知日 2016-05-17 
審決日 2016-05-30 
出願番号 特願2013-522974(P2013-522974)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神田 太郎  
特許庁審判長 和田 志郎
特許庁審判官 山田 正文
高瀬 勤
発明の名称 RE123系超電導線材およびその製造方法  
代理人 五十嵐 光永  
代理人 志賀 正武  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 清水 雄一郎  
代理人 小室 敏雄  

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