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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B23B
管理番号 1316992
異議申立番号 異議2016-700260  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-30 
確定日 2016-07-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第5786770号発明「切削インサート」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5786770号の請求項1-6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5786770号の請求項1-6に係る特許についての出願は,平成24年3月15日に特許出願され,平成27年8月7日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許に対し,特許異議申立人黒滝篤により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第5786770号の請求項1-6の特許に係る発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は,主たる証拠として特開2006-272509号公報(以下「刊行物1」という。)及び従たる証拠として,
特開2008-290237号公報(以下「刊行物2」という。),
特開平1-228706号公報(以下「刊行物3」という。),
特開2000-280105号公報(以下「刊行物4」という。),
特開2007-245337号公報(以下「刊行物5」という。),
特開2007-960号公報(以下「刊行物6」という。),
特開2005-7531号公報(以下「刊行物7」という。),
特開2001-259903号公報(以下「刊行物8」という。),
特開2002-337017号公報(以下「刊行物9」という。),
特開平3-202207号公報(以下「刊行物10」という。),
特開2007-69290号公報(以下「刊行物11」という。),
特許第2657011号公報(以下「刊行物12」という。),
特開平8-229709号公報(以下「刊行物13」という。),
特許第5310547号公報(以下「刊行物14」という。),
特許第4796678号公報(以下「刊行物15」という。),
特開昭50-114682号公報(以下「刊行物16」という。),
を提出し,請求項1-6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから,請求項1-6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

第4 刊行物に記載された発明
1 刊行物1には,図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0016】
図1?図2に示すように、本実施形態のインサート1は、ホルダ工具本体(図示せず)に装着するための上クランプ面と下クランプ面とからなるクランプ手段2を具備する中央本体部3と、中央本体部3の両端に突出した位置に形成された切削端部4とに大別される。切削端部4は、上面であるすくい面5と側面である前逃げ面6及び横逃げ面7から構成されており、すくい面5と前逃げ面6との交差稜線に前切刃8が、すくい面5と横逃げ面7との交差稜線に横切刃9が形成されている。また、前逃げ面6と横逃げ面7を繋ぐコーナー部には断面が円弧状の曲面10が備えられており、該曲面10とすくい面5との交差稜線に円弧状のコーナー切刃11が形成されているとともに、コーナー切刃11と横切刃9との間に直線状のワイパー切刃14が形成されている。」
(2)「【0023】
また、上記研磨加工の研磨方向(研摩痕15)が、ワイパー切刃14の稜線方向に対して45°?90°で形成されていることが好ましい。研磨方向が0°(稜線に平行な方向)?45°の範囲にあると、インサートの製造工程において、加工条件等のミスマッチによってワイパー切刃14にチッピングが生じた場合、切刃上でチッピングが伝播してワイパー切刃14の広範囲にわたってチッピングを生じやすく、切削時におけるワイパー作用が大きく損なわれる結果となる。すなわち、図4に示すように、力Pで研摩される場合に、研摩方向がワイパー切刃14の稜線方向に対して45°?90°である(a)の場合のワイパー切刃方向の分力P1と、研摩方向がワイパー切刃14の稜線方向に対して45°以内である(b)の場合のワイパー切刃方向の分力P2とを比較すると、明らかにP1<P2となり、研摩方向がワイパー切刃14の稜線方向に対して45°以内である方が、研摩時に切刃上に発生したチッピングを切刃上にひきずりやすい。これに対し、研磨方向が45°?90°の範囲にあれば、仮に加工でチッピングが生じたとしても、発生する箇所は局部的な範囲に限られ、切削時におけるワイパー作用が大きく損なわれることがない。」
(3)図1を参照すると,「ワイパー切刃14」については,引用符号「14」が,図1中に1ヶ所記載されている。そして,図4を参照すると,「ワイパー切刃14」が記載されており,図1と図4を参照すれば,図1において「ワイパー切刃14」の引用符号が付されている部分を拡大した図が,図4であると理解するものと認められる。
そうすると,図4に記載された「研摩痕15」に関して,「横逃げ面7には、高さ方向の下方に向かうに従い漸次長手方向のインサート1の内側に向かって延びる研摩痕15が形成されている」ことが見てとれる。

2 刊行物1に記載された発明
以上より,刊行物1には,
「軸状をなす中央本体部3と,
前記中央本体部3の長手方向の端部に配置され,前記長手方向に直交する高さ方向の上方を向くすくい面5と,
前記中央本体部3の長手方向の端部に配置されて前記すくい面5に交差し,前記長手方向のインサート1の外側を向く前逃げ面6と,前記長手方向及び前記高さ方向に直交する幅方向を向く一対の横逃げ面7とを有する切削端部4と,
前記すくい面5と前記切削端部4との交差稜線をなす前切刃8と横切刃9と,を備え,
前記横逃げ面7には、前記高さ方向の下方に向かうに従い漸次前記長手方向のインサート1の内側に向かって延びる研摩痕15が形成されていることを特徴とするインサート1。」
の発明が記載されている。

3 異議申立人の主張
上記「研摩痕15」に関して,異議申立人は,「図1の斜視図において裏側の横逃げ面7に図4(b)を適用すると、『裏側の横逃げ面7には、高さ方向の下方に向かうに従い漸次長手方向のインサート外側に向かって延びる研磨痕15が形成されている』ことが看取できる。」と主張している(特許異議申立書第12ページ)。
しかしながら,図1の斜視図においては,「横切刃9」,「コーナー切刃11」は表と裏の双方に引用符号が付されているのに対し,「ワイパー切刃14」は,表にしか引用符号が付されていない。
したがって,通常であれば,図4は図1の斜視図の表側の横逃げ面を示したものであると認識できるところ,刊行物1の他の記載からも,図4のものを図1の斜視図の裏側の横逃げ面に適用することを示唆する記載も見受けられず,刊行物1に図4のものを図1の斜視図の裏側の横逃げ面に適用したものが記載されていたとする異議申立人の主張は採用できない。

第5 対比
刊行物1に記載された発明の「中央本体部3」,「すくい面5」,「インサート1」,「前逃げ面6」,「横逃げ面7」,「切削端部4」,「前切刃8と横切刃9」,「研摩痕15」は,それぞれ本件請求項1に係る発明の「インサート本体」,「すくい面」,「インサート」,「正面逃げ面」,「側面逃げ面」,「逃げ面」,「切れ刃」,「研削痕」に相当する。
また,本件請求項1に係る発明においては「インサート」と「切削インサート」という用語を用いているが,刊行物1に記載された発明の「インサート1」は,本件請求項1に係る発明の「切削インサート」にも相当する。

してみると,刊行物1に記載された発明と本件請求項1に係る発明とを対比すると,次の点で相違する。

<相違点1>
本件請求項1に係る発明では,
正面逃げ面には、高さ方向に延びる研削痕が形成されているのに対し,
刊行物1に記載された発明では,
前逃げ面6に関する研削痕が不明である点。

<相違点2>
本件請求項1に係る発明では,
側面逃げ面には、高さ方向の下方に向かうに従い漸次長手方向のインサート外側に向かって延びる研削痕が形成されているのに対し,
刊行物1に記載された発明では,
横逃げ面7には、高さ方向の下方に向かうに従い漸次長手方向のインサート1の内側に向かって延びる研摩痕15が形成されている点。

第6 判断
1 特許法第29条第2項について
(1)本件請求項1に係る発明について
まず,上記相違点2について検討する。
上述したように,刊行物1に記載された発明には,「側面逃げ面には、高さ方向の下方に向かうに従い漸次長手方向のインサート外側に向かって延びる研削痕が形成されている」点は記載されておらず,当業者が容易に想到し得たものとも認められない。
そして,刊行物2-16にもこの点は記載されていない。
したがって,相違点1を検討するまでもなく、本件請求項1に係る発明は,刊行物1-16に記載された発明から当業者が容易になし得るものではない。
(2)本件請求項2-6に係る発明について
本件請求項2-6に係る発明は,本件請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから,上記本件請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により,刊行物1-16に記載された発明から当業者が容易になし得るものではない。
(3)以上のとおり,本件請求項1-6に係る発明は,刊行物1-16に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 むすび
したがって,特許異議申立ての理由及び証拠によっては,請求項1-6に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1-6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-06-29 
出願番号 特願2012-59274(P2012-59274)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B23B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 齊藤 彬  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 落合 弘之
平岩 正一
登録日 2015-08-07 
登録番号 特許第5786770号(P5786770)
権利者 三菱マテリアル株式会社
発明の名称 切削インサート  
代理人 細川 文広  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  

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