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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01M |
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管理番号 | 1317004 |
異議申立番号 | 異議2016-700352 |
総通号数 | 200 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-08-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-04-25 |
確定日 | 2016-07-07 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5809783号発明「ガスケット用樹脂組成物、その製造方法及び二次電池用ガスケット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5809783号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5809783号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?15に係る特許についての出願は、平成22年6月23日(優先権主張 平成21年6月23日)に出願され、平成27年9月18日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人東レ株式会社(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 2.本件特許発明 本件特許の請求項1?15に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明15」ということもある。)。 3.申立て理由の概要 申立人は、証拠として、特開2005-317324号公報(以下、「甲第1号証」という。)、特開2009-289617号公報(以下、「甲第2号証」という。)、特開2004-300270号公報(以下、「甲第3号証」という。)、東レ株式会社 樹脂技術部 樹脂開発第2室長 石王 敦による、2016年4月21日付けの実験証明書(以下、「甲第4号証」という。)を提出し、請求項1?15に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである旨主張している。 すなわち、本件特許発明1?15は、甲第1号証記載の発明又は甲第2号証記載の発明と甲第3号証記載の発明とから、当業者が容易に想到し得たものである旨主張している。 4.甲号証の記載事項 (1) 甲第1号証には、「電池」の発明について、図面とともに、以下の事項が記載されている(当審注:「…」は記載の省略を表す。以下同じ。)。 ア 「本発明は、電池容器に安全弁が設けられた電池に関するものである。」(【0001】) イ 「大容量角型の非水電解質二次電池の従来の構成例を図3に示す。この非水電解質二次電池は、ステンレス鋼等からなる筐体1の上端開口部を蓋板2を塞いで溶接により封止した角型の電池容器を用いたものであり、この電池容器の内部には2個の長円筒形の発電要素3,3が収納されている。これらの発電要素3,3は、左右の両端部に突出した双方の正極と負極をそれぞれ共通の集電板4,4に接続することにより電池内部で並列に接続されている。また、蓋板2の左右両端部に形成された貫通孔には、それぞれ外部パッキン5と内部パッキン6を介して正負の端子7,7が貫通して取り付けられている。…蓋板2の下方に突出させた端子7のかしめ部7aを集電板4の貫通孔に嵌入させてかしめによって接続固定することにより、端子7が外部パッキン5と内部パッキン6を上下から圧迫して蓋板2の貫通孔を封口させると共に、この集電板4を介してこの端子7を発電要素3,3の正極又は負極に接続する。なお、実際の製造過程では、まず蓋板2に外部パッキン5,5と内部パッキン6,6を介して集電板4,4と端子7,7をかしめた後に、この集電板4,4に発電要素3,3の正極と負極を接続して筐体1に収納することになる。」(【0002】) ウ 「 以下、本発明の最良の実施形態について図1?図2を参照して説明する。なお、これらの図1?図2においても、図3に示した従来例と同様の機能を有する構成部材には同じ番号を付記する。 本実施形態は、従来例と同様の大容量角型の非水電解質二次電池について説明する。この非水電解質二次電池は、外部パッキン5と内部パッキン6の構成、及び、蓋板2の排ガス孔2aの形成位置以外は、図3に示した従来例と全く同じものである。従って、図1及び図2に示すように、蓋板2の右側端部の貫通孔には、外部パッキン5と内部パッキン6を介して端子7のかしめ部7aが貫通して取り付けられる。端子7は、円板状の鍔部7bの下方に、下半分が筒状となったこのかしめ部7aが形成されると共に、上方に外部配線との接続のためのねじ部7cが形成されたものである。そして、この端子7は、かしめ部7aが電池容器内部に入り込むので、正極端子である場合には、電解液に溶解しないようにアルミニウム合金等で構成され、負極端子である場合には、負極活物質と合金化しないように銅合金等で構成される。 … 上記外部パッキン5と内部パッキン6は、いずれもPPS(ポリフェニレンサルファイド(スルフィド))等の樹脂を板状にした絶縁封止材である。…」(【0013】?【0016】) エ 「なお、本実施形態の場合、蓋板2の左側端部の貫通孔には、従来例と全く同じ構成の外部パッキン5と内部パッキン6を用いて端子7と集電板4が取り付けられる。そして、従来と同様の製造工程により、これらの集電板4,4に発電要素3,3を接続し筐体1に収納することにより非水電解質二次電池が完成する。」(【0020】) オ 「 」(【図3】) カ 「 」(【図1】) キ 「 」(【図2】) 甲第1号証には、上記摘記事項ア?エ、及び、上記オ?キの図面からすると、「筐体1の上端開口部を蓋板2で塞いで溶接により封止した角型の電池容器を用いた大容量角型の非水電解質二次電池であって、この電池容器の内部には2個の長円筒形の発電要素3,3が収納されており、これらの発電要素3,3は、左右の両端部に突出した双方の正極と負極をそれぞれ共通の集電板4,4に接続することにより電池内部で並列に接続されており、また、蓋板2の左右両端部に形成された貫通孔には、それぞれ外部パッキン5と内部パッキン6を介して正負の端子7,7が貫通して取り付けられており、蓋板2の下方に突出させた端子7のかしめ部7aを集電板4の貫通孔に嵌入させてかしめによって接続固定することにより、端子7が外部パッキン5と内部パッキン6を上下から圧迫して蓋板2の貫通孔を封口すると共に、端子7が発電要素3,3の正極又は負極に接続される大容量角型の非水電解質二次電池において、外部パッキン5と内部パッキン6は、いずれもポリフェニレンサルファイド樹脂を板状にした絶縁封止材である大容量角型の非水電解質二次電池」が記載されているといえる。 ここで、2個の長円筒形の発電要素3,3は、左右の両端部に突出した双方の正極と負極をそれぞれ共通の集電板4,4に接続することにより電池内部で並列に接続されているところ、技術常識からして、これらの長円筒形の発電要素3,3は、いずれも、正極板と負極板とセパレータとを備えているといえるし、また、端子7のかしめ部7aが電池容器内部に入り込むので、端子7が正極端子である場合には、電解液に溶解しないようにアルミニウム合金等で構成されることからして、電池容器内部には前記発電要素3,3とともに電解液が収納されていることは自明の事項といえる。 してみると、甲第1号証には、外部パッキン5と内部パッキン6に注目すると、次のような発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「大容量角型の非水電解質二次電池において用いられる外部パッキン5と内部パッキン6であって、前記大容量角型の非水電解質二次電池には筐体1の上端開口部を蓋板2で塞いで溶接により封止した角型の電池容器が用いられており、前記電池容器の内部には、正極板と負極板とセパレータとをそれぞれ備えている、2個の長円筒形の発電要素3,3とともに電解液が収納されており、これらの発電要素3,3は、左右の両端部に突出した双方の正極板と負極板をそれぞれ共通の集電板4,4に接続することにより前記電池容器の内部で並列に接続されており、また、前記蓋板2の左右両端部に形成された貫通孔には、それぞれ前記外部パッキン5と内部パッキン6を介して正負の端子7,7が貫通して取り付けられており、前記外部パッキン5と内部パッキン6は、いずれもポリフェニレンサルファイド樹脂を板状にした絶縁封止材である、大容量角型の非水電解質二次電池において用いられる外部パッキン5と内部パッキン6。」 (2)甲第2号証には、「電池」の発明について、図面とともに、以下の事項が記載されている。 ア 「電池には、外部に電流を取り出すための正極端子と負極端子が必要である。電池ケースや電池蓋が金属製の場合、電池の端子構造には主に次の2種類が採用されている。 携帯電話用リチウムイオン電池などの小型電池では、主に、電池ケースおよび電池蓋が一方の端子を兼ね、他方の端子は絶縁体を介して電池蓋から取り出されている構造が採用されている。 一方、産業用などの容量が約5Ahを越える大型電池の場合には、主に、正極端子と負極端子がともに絶縁体(パッキン)を介して電池蓋から取り出されている構造が採用されている。」(【0002】?【0004】) イ 「[実施例1] 電池としては、角型電池ケースに長円筒巻回型発電要素を収納した非水電解質二次電池を用い、…帯状正極板は、…正極合剤ペーストを厚さ20μmの帯状アルミニウム集電体の両面に塗布し、乾燥後、ロールプレスで圧縮成型したもので…帯状負極板は、…負極合剤ペーストを厚さ15μmの帯状銅集電体の両面に塗布し、乾燥後、ロールプレスで圧縮成型したもので…セパレータには厚さ25μmの微多孔性ポリエチレンフィルムを用いた。 長円筒巻回型発電要素は、巻芯の周囲に帯状正極板と帯状負極板とをセパレータを介して、必要な回数だけ巻回することによって作製した。 … 正極の集電は、発電要素の下端部から突出した正極合剤層未塗布部でおこない、負極の集電は、発電要素の上端部から突出した負極合剤層未塗布部でおこなった。 得られた長円筒巻回型発電要素を角型アルミニウム合金製の電池ケースに収納し、電解液を注入した後、電池ケースと電池蓋とを溶接することにより、設計容量10Ahの長円筒型非水電解質二次電池とした。… この非水電解質二次電池の正極端子および負極端子は、いずれもパッキンを介して電池蓋に取り付けられており、…。 … パッキン6の材質はポリフェニレンサルファイド(PPS)…とした。」(【0029】?【0039】) ウ 「 」(【図3】) 甲第2号証には、上記摘記事項ア?イ、及び、上記ウの図面からすると、「角型アルミニウム合金製の電池ケースに長円筒巻回型発電要素を収納した大型の長円筒型非水電解質二次電池であって、帯状正極板と帯状負極板とをセパレータを介して必要な回数だけ巻回されて作製された、長円筒巻回型発電要素に対し、その発電要素の下端部から突出した正極合剤層未塗布部で正極の集電がおこなわれ、その発電要素の上端部から突出した負極合剤層未塗布部で負極の集電がおこなわれて、得られた長円筒巻回型発電要素が角型アルミニウム合金製の電池ケースに収納され、電解液が注入された後、電池ケースと電池蓋とを溶接することにより作製された、長円筒型非水電解質二次電池において、この非水電解質二次電池の正極端子および負極端子は、いずれも、ポリフェニレンサルファイドでなるパッキンを介して電池蓋に取り付けられている、大型の長円筒型非水電解質二次電池。」が記載されているといえる。 そして、パッキンに注目すると、甲第2号証には、次のような発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 「大型の長円筒型非水電解質二次電池に用いられるパッキンであって、帯状正極板と帯状負極板とをセパレータを介して必要な回数だけ巻回されて作製された、長円筒巻回型発電要素に対し、その発電要素の下端部から突出した正極合剤層未塗布部で正極の集電がおこなわれ、その発電要素の上端部から突出した負極合剤層未塗布部で負極の集電がおこなわれて、得られた長円筒巻回型発電要素が角型アルミニウム合金製の電池ケースに収納され、電解液が注入された後、電池ケースと電池蓋とを溶接することにより作製された、前記大型の長円筒型非水電解質二次電池において、その二次電池の正極端子および負極端子を前記電池蓋に取り付けるのに用いられる、ポリフェニレンサルファイドでなるパッキン。」 (3)甲第3号証には、「流体の配管用部材」の発明について、以下の事項が記載されている。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)とシリコーン化合物(B)を含有する樹脂組成物からなる流体配管用部材であって、樹脂組成物の25℃に於ける引張伸び率が25?300%であることを特徴とする流体配管用部材。 … 【請求項4】 ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)が、ゲル浸透クロマトグラフィーにより求められる分子量分布のピーク分子量が35000?200000である請求項1に記載の流体配管用部材。 … 【請求項6】 さらに、熱可塑性エラストマー(C)を含有する請求項1?5の何れか一つに記載の流体配管用部材。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 …本発明の課題は、配管が極低温外気に晒される際においても、氷結による破損や破裂等を起こさない、耐低温破断性良好な流体配管用部材、特にジョイント用部材を提供することである。」(【0004】) ウ 「【課題を解決するための手段】 上記課題を解決する為、鋭意検討を重ねた結果、次のような知見を得た。ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)とシリコーン化合物(B)とを含有する樹脂組成物の成形物の伸び率を25?300%に制御した組成物を用いた流体配管用部材は、耐低温破断性が向上する。本発明はこのような知見に基づくものである。」(【0005】) エ 「本発明に用いるポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、PAS樹脂と略記する。)(A)は、下記一般式(1)で示される繰り返し単位を有する、いわゆるポリフェニレンサルファイド樹脂(以下、PPS樹脂と略記する。)であることが、耐熱性、機械特性及び耐薬品性が良好なことから好ましい。」(【0008】) オ 「シリコーン化合物(B)の配合比率は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)及びシリコーン化合物(B)の合計100重量部当たりシリコーン化合物(B)が0.1?20重量部であることが好ましく、特に0.3?3重量部が好ましい。」(【0027】) カ 「本発明の流体配管用部材は、前記樹脂組成物を成形して得る。これら流体配管部材としては、例えばパイプ、ライニング管、袋ナット類、管継ぎ手類(エルボー、ヘッダー、チーズ、レデューサ、ジョイント、カプラー、等)、各種バルブ、流量計、ガスケット(シール、パッキン類)、など流体を搬送する為の配管及び配管に付属する各種の部品が挙げられる。」(【0038】) キ 「以下、本発明に関して、実施例及び比較例により説明する。 〈測定方法及び評価方法〉 1.ピーク分子量の測定 測定対象のPPS樹脂をゲル浸透クロマトグラフにて測定した。 装置;超高温ポリマー分子量分布測定装置(センシュウ科学社製SSC-7000) カラム ;UT-805L(昭和電工社製) カラム温度;210℃ 溶媒 ;1-クロロナフタレン UV検出器(360nm)で6種類の単分散ポリスチレンを校正に用いて分子量分布とピーク分子量を測定した。 2.引張特性-伸び率の測定 測定対象樹脂配合物の試験片をASTM4号ダンベル形状で作成し、ASTMD638に従って、島津製作所製“オートグラフ AG-5000C”にて測定し、引張強さ及び引張破断伸びを測定した。 3.耐充満水凍結試験-耐低温破断性の測定 評価対象樹脂配合物から、両端部がフランジ及びネジ構造で密閉出来る内径22mm、外径28mm、の円筒形状の管継ぎ手を射出成形で作成した。 この中に空気層を含まない様、水中にて水を充填し、両端を密閉した後、水から出して、-20℃の冷凍庫に入れ、2時間放置し、内部の水を完全に凍らせた。その後冷凍庫より取り出して、管継ぎ手の割れを調べて耐低温破断性の評価を行った。 4.ムーニー粘度の測定 JIS K-6300 に従い測定した。 測定条件;ローター L型 予備 1分、作動 4分、100℃ 5.MFRの測定 JIS K-6700 に従い測定した。 … 実施例1?5、比較例1 樹脂配合物ペレットは表1中の材料を均一に混合した後、35mmφの2軸押出機を用い290?330℃で混練りして押し出して得た。次いで、このペレットをインラインスクリュー式射出成形機で、シリンダー温度290?320℃、金型温度130℃、射出圧力80?100MPa、で引っ張り試験用試験片及び低温耐破断性を評価する為の管継ぎ手を成形した。次いで、前述の評価方法で低温耐破断性を評価した。得られた結果を表1に示す。 … 表中の各成分は下記のものを使用した。 … Si-1;ジメチルシリコーンオイル[活性水素及び活性水素と反応する基を含まないシリコーン KF96H-CS(信越シリコーン)] … 実施例6?11、比較例2 樹脂配合物ペレットは表2中の材料を均一に混合した後、35mmφの2軸押出機を用い290?330℃で混練りして押し出して得た。次いで、このペレットをインラインスクリュー式射出成型機で、シリンダー温度290?320℃、金型温度130℃、射出圧力80?100MPa、で引っ張り試験用試験片及び低温耐破断性を評価する為の管継ぎ手を成形した。次いで、前述の評価方法で低温耐破断性を評価した。得られた結果を表2に示す。 【表2】 表中の各成分は下記のものを使用した。 … PPS-2;PPS樹脂;ピーク分子量34,200[大日本インキ化学工業(株)製(LR-2G)] … ELA-1;グリシジルメタアクリル酸(3重量%)、アクリル酸メチル(30重量%)、エチレン(67重量%)から成る、ポリオレフィン系エラストマー。MFR;9 … 表2中のシリコーン化合物(Si-1?Si-4)は、表1と同様のものを用いた。」(【0041】?【0054】) 甲第3号証の上記摘記事項キには実施例6として、「ゲル浸透クロマトグラフにて測定したピーク分子量が34,200であるPPS樹脂94部とポリオレフィン系エラストマー5部とジメチルシリコーンオイル1部とを均一に混合した後、35mmφの2軸押出機を用い290?330℃で混練りして押し出して得た樹脂配合物ペレットをインラインスクリュー式射出成形機で、シリンダー温度290?320℃、金型温度130℃、射出圧力80?100MPaで成形して得た、試験片」が記載されている。 ここで、上記の実施例6は甲第3号証の上記摘記事項アに示された発明の実施例であるところ、上記摘記事項キの【表2】を参照すると、その実施例の試験片は、25℃に於ける引張伸び率が41%である流体配管用部材であるといえるし、上記摘記事項エから、「PPS樹脂」は、「ポリフェニレンサルファイド樹脂」のことといえるし、また、上記摘記事項オからすると、配合比率は重量部で表現されているといえる。 してみると、上記の実施例6には、次のような発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。 「ゲル浸透クロマトグラフにて測定したピーク分子量が34,200であるポリフェニレンサルファイド樹脂94重量部とポリオレフィン系エラストマー5重量部とジメチルシリコーンオイル1重量部とを均一に混合した後、35mmφの2軸押出機を用い290?330℃で混練りして押し出して得た樹脂配合物ペレットをインラインスクリュー式射出成形機で、シリンダー温度290?320℃、金型温度130℃、射出圧力80?100MPaで成形して得た、25℃に於ける引張伸び率が41%である流体配管用部材」であると認められる。 (4)実験証明書として提出された、甲第4号証には、ゲル浸透クロマトグラフにて測定したピーク分子量が35,500であるポリフェニレンサルファイド樹脂、熱可塑性エラストマー及びジメチルシリコーンオイルを94/5/1の割合(重量比)で均一に混合した後、290?330℃に設定した30mmφの2軸押出機を用いて混練して得た熱可塑性樹脂組成物について、シリンダー温度310℃及び金型温度130℃に設定した射出成形機にて、圧縮面側表面積60mm^(2)、厚さ3mmの平板(図1)を成形し、圧縮応力緩和試験片を作製し、その試験片について23℃環境下において10%歪みを負荷した結果、100時間保持した後の圧縮応力は45MPaであったことが記載されている。 図1 圧縮応力緩和試験片 5.対比・判断 (1)本件特許発明1について ア 本件特許発明1と甲1発明との対比・判断 ア-1 本件特許発明1と甲1発明との対比 まず、本件特許発明1と甲1発明とを対比するに、甲1発明における「大容量角型の非水電解質二次電池において用いられる外部パッキン5と内部パッキン6」は、本件特許発明1における「二次電池に用いられるガスケット」に相当することを考慮すると、 本件特許発明1のうちの、「前記ガスケットが熱可塑性エラストマー(A)及びゲル浸透クロマトグラフィーにより求められる分子量分布のピーク分子量として28,000?100,000であるポリアリーレンスルフィド樹脂(B)を含有するガスケット組成物からなり、 前記熱可塑性エラストマー(A)の配合量が、前記熱可塑性エラストマー(A)及びポリアリーレンスルフィド樹脂(B)の合計100質量部に対して1?30重量部であり、 前記樹脂組成物を射出成形して得られる試験片が、一定条件下(23℃、10%歪み、試験片厚さ3mm、圧縮面側表面積60mm^(2))での圧縮応力緩和試験において、100時間後圧縮応力の絶対値が 10MPa以上である」との発明特定事項(以下、この点を「発明特定事項1」という。)を、甲1発明は備えておらず、相違しているものの、その余の点では一致している。 ア-2 当審の判断 (ア) 上述の「発明特定事項1」を備える、本件特許発明1は、本件特許の明細書によれば、ポリアリーレンスルフィド樹脂を用いた従来のガスケットでは、近年求められている高温・高湿の過酷な条件下での気密性や耐電解液性が不十分となっていたことから、優れた耐電解液性及び気密性を兼備した二次電池用ガスケットを提供することを発明が解決しようとする課題としており、熱可塑性エラストマー及び特定範囲のピーク分子量を有したポリアリーレンスルフィド樹脂を含有した樹脂組成物が二次電池用ガスケットとして好ましい応力緩和特性を示し、当該樹脂組成物を用いた二次電池用ガスケットが優れた耐電解液性及び気密性を呈するとの知見に基づいて、前記の課題を解決したものであるとされている(【0002】?【0007】)。 (イ) そして、本件特許の明細書によれば、上述の「発明特定事項1」を備えている本件特許発明1の実施例1?12は、いずれも、二次電池に必要とされる気密性を維持することができ、上記(ア)に示した課題を解決できるのに対し、上述の「発明特定事項1」を備えていない比較例1?5は気密性が不十分であって、上記(ア)に示した課題を解決できないとされ、また、本件特許発明1は、耐湿熱性及び耐電解液性に優れ、一定歪み下で圧縮されても応力緩和が起こりにくく、長期にわたって気密性を維持することができるという発明の効果を奏するものであるとされている(【0009】、【0078】?【0086】)。 (ウ) 上記(ア)?(イ)のような本件特許発明1に対し、甲1発明の外部パッキン5と内部パッキン6は、ポリフェニレンサルファイド樹脂を板状にした絶縁封止材であるから、本件特許の明細書における比較例1?2に相当するところ、そのような絶縁封止材には、上記(ア)に示したような課題があったことは甲第1号証には記載も示唆もされておらず、また、本件特許の優先日当時において、そのような課題のあったことが技術常識であると認めるに足りる客観的証拠は見当たらず、甲1発明における外部パッキン5と内部パッキン6の材質を変更しようとする動機付けがあったとはいえない。 (エ) また、甲3発明が、上記4.(3)に示したとおり、ゲル浸透クロマトグラフにて測定したピーク分子量が34,200であるポリフェニレンサルファイド樹脂とポリオレフィン系エラストマーとを含有する樹脂組成物を用いるものであり、また、その樹脂組成物を、上記4.(3)の摘記事項カに示されているように、ガスケット(シール、パッキン類)とすることが甲第3号証に記載されているとしても、甲3発明は、あくまでも、上記4.(3)の摘記事項イのとおり、配管が極低温外気に晒される際にも、氷結による破損や破裂等を起こさない、耐低温破断性良好な流体配管用部材を提供することを、発明が解決しようとする課題にしている、流体配管用部材に係る発明であるし、ガスケット(シール、パッキン類)についても、上記4.(3)の摘記事項カのとおり、流体を搬送する為の配管に付属する各種の流体配管用部材にすぎないから、甲3発明は、そのようなことを解決しようとする課題にしている流体配管用部材とはなり得ない、甲1発明における外部パッキン5と内部パッキン6に対し、その材質を変更しようとする動機付けとはなり得ない。 (オ) さらに、本件特許発明1が、耐湿熱性及び耐電解液性に優れ、一定歪み下で圧縮されても応力緩和が起こりにくく、長期にわたって気密性を維持することができるという発明の効果を奏することは、甲第1号証及び甲第3号証の記載からでは、予測し得ない。 (カ) 上記(ア)?(オ)の検討を踏まえると、上述の「発明特定事項1」を備える、本件特許発明1は、本件特許の優先権主張日前に、甲1発明と甲第3号証の記載事項に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。 イ 本件特許発明1と甲3発明との対比・判断 イ-1 本件特許発明1と甲3発明との対比 次に、本件特許発明1と甲3発明とを対比するに、甲3発明における「ゲル浸透クロマトグラフにて測定したピーク分子量が34,200であるポリフェニレンサルファイド樹脂94重量部とポリオレフィン系エラストマー5重量部とジメチルシリコーンオイル1重量部とを均一に混合した後、35mmφの2軸押出機を用い290?330℃で混練りして押し出して得た樹脂配合物ペレット」は、本件特許発明1における「熱可塑性エラストマー(A)及びゲル浸透クロマトグラフィーにより求められる分子量分布のピーク分子量として28,000?100,000であるポリアリーレンスルフィド樹脂(B)を含有する樹脂組成物からなり、前記熱可塑性エラストマー(A)の配合量が、前記熱可塑性エラストマー(A)及びポリアリーレンスルフィド樹脂(B)の合計100質量部に対して1?30質量部であ」る樹脂組成物に相当することを考慮すると、以下の点で相違し、その余の点で一致していると認める。 相違点1:本件特許発明1のうちの、「樹脂組成物を射出成形して得られる試験片が、一定条件下(23℃、10%歪み、試験片厚さ3mm、圧縮面側表面積60mm^(2))での圧縮応力緩和試験において、100時間後圧縮応力の絶対値が10MPa以上である」との発明特定事項(以下、この点を発明特定事項1’という。)を、甲3発明が備えているのか否か明らかでない点。 相違点2:本件特許発明1のうちの、「 正極板、負極板、セパレータ、電解液、電池ケース、及び封口体を含む二次電池に用いられるガスケットであって、前記ガスケットは、前記正極板と電気的に接続されている正極端子との接点又は前記負極板と電気的に接続されている負極端子との接点に設けられて」いるとの発明特定事項(以下、この点を発明特定事項2という。)を、甲3発明が備えているのか否か明らかでない点。 イ-2 当審の判断 (ア) 上述の「発明特定事項1’」と「発明特定事項2」とを備える、本件特許発明1は、本件特許の明細書によれば、上記ア-2の(ア)?(イ)に示したとおり、ポリアリーレンスルフィド樹脂を用いた従来のガスケットでは、近年求められている高温・高湿の過酷な条件下での気密性や耐電解液性が不十分となっていたことから、優れた耐電解液性及び気密性を兼備した二次電池用ガスケットを提供することを発明が解決しようとする課題としており、熱可塑性エラストマー及び特定範囲のピーク分子量を有したポリアリーレンスルフィド樹脂を含有した樹脂組成物が二次電池用ガスケットとして好ましい応力緩和特性を示し、当該樹脂組成物を用いた二次電池用ガスケットが優れた耐電解液性及び気密性を呈するとの知見に基づいて、前記の課題を解決したものであるとされ、また、本件特許発明1は、耐湿熱性及び耐電解液性に優れ、一定歪み下で圧縮されても応力緩和が起こりにくく、長期にわたって気密性を維持することができるという発明の効果を奏するものであるとされている。 (イ) ここで、上述の「発明特定事項1’」を甲3発明が備えているのか否かに関し、実験証明書として提出された甲第4号証には、上記4.(4)に示したことが記載されているが、その記載からすると、この実験において用いられた熱可塑性樹脂組成物は、ゲル浸透クロマトグラフにて測定したピーク分子量が35,500であるポリフェニレンサルファイド樹脂、熱可塑性エラストマー及びジメチルシリコーンオイルを混合、混練して得られた樹脂組成物であるから、上記4.(3)の摘記事項アに示した甲第3号証の請求項4の発明特定事項を備えているのに対し、甲3発明では、ゲル浸透クロマトグラフにて測定したピーク分子量が34,200であるポリフェニレンサルファイド樹脂が用いられており、上記4.(3)の摘記事項アに示した甲第3号証の請求項4の発明特定事項を備えていないものであることから、甲第4号証の実験において用いられた熱可塑性樹脂組成物は、甲3発明で用いられた樹脂配合物ペレットとは、樹脂組成が同一視できないといえるし、甲3発明は、上記4.(3)に示したとおり、そもそも、ポリアリーレンスルフィド樹脂とシリコーン化合物を含有する樹脂組成物からなる流体配管用部材であって、樹脂組成物の25℃に於ける引張伸び率が41%である流体配管用部材に係る発明であるにもかかわらず、甲第4号証の実験において熱可塑性樹脂組成物を射出成形して作製した試験片が、甲3発明の樹脂組成物の25℃に於ける引張伸び率が41%であるとの発明特定事項を備えているとは、甲第4号証からは、直ちにはいえないことからして、甲第4号証によっては、甲3発明の追試ができているとはいえず、甲3発明が上述の「発明特定事項1’」を備えているとはいえない。 (ウ) また、上述の「発明特定事項2」については、上記ア-2の(エ)に示したとおり、甲3発明は、あくまでも、上記4.(3)の摘記事項イのとおり、配管が極低温外気に晒される際にも、氷結による破損や破裂等を起こさない、耐低温破断性良好な流体配管用部材を提供することを、発明が解決しようとする課題にしている、流体配管用部材に係る発明であるし、ガスケット(シール、パッキン類)についても、上記4.(3)の摘記事項カのとおり、流体を搬送する為の配管に付属する各種の流体配管用部材にすぎないから、甲3発明を、そのようなことを解決しようとする課題にしている流体配管用部材とはなり得ない、甲1発明における外部パッキン5と内部パッキン6に変更して上述の「発明特定事項2」を備えるようにすることは合理性なこととはいえない。 (エ) さらに、上記ア-2(オ)に示したとおりの、本件特許発明1の発明の効果は、甲第1号証及び甲第3号証の記載からでは、予測し得ない。 (オ) 上記(ア)?(エ)の検討を踏まえると、上述の「発明特定事項1’」及び「発明特定事項2」を備える、本件特許発明1は、本件特許の優先権主張日前に、甲3発明と甲第1号証の記載事項に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。 ウ 本件特許発明1と甲2発明との対比・判断 甲第2号証は、公開日が、本件特許発明1の出願日前であるが優先日の後の平成21年12月10日であるところ、異議申立人は、異議申立書第20頁第9?22行において、本件特許発明1の発明特定事項のうちの、ポリアリーレンスルフィド樹脂のピーク分子量の下限値が28,000であることは、本件特許の優先権主張の基礎出願(特願2009-148583号)には記載も示唆もないから、甲第2号証は、本件特許発明1の出願日前の公知文献となり得る旨主張している。 そこで、本件特許の優先権主張の具体的効果の検討を行う前に、本件特許発明1と甲2発明とを対比してみるに、上記4.(2)に示したとおり、甲2発明は、大型の長円筒型非水電解質二次電池に用いられる、ポリフェニレンサルファイドでなるパッキンの発明であるから、甲1発明と同様の発明であるといえ、上記ア-1と同様の検討により、本件特許発明1のうちの、上述の「発明特定事項1」を、甲2発明が備えおらず、相違しているところ、上記ア-2と同様の検討により、上述の「発明特定事項1」を備える、本件特許発明1は、本件特許の出願日前に、甲2発明と甲第3号証の記載事項に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。 してみると、本件特許の優先権主張の具体的効果の検討を行うまでもなく、本件特許発明1は、甲第2号証と甲第3号証の記載事項に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。 エ 小括 上記ア?ウで検討したとおり、本件特許発明1は、甲第1号証記載の発明又は甲第2号証記載の発明と甲第3号証記載の発明から、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 (2) 本件特許発明2?15について、 本件特許発明2?15は、いずれも、本件特許発明1の発明特定事項を含むものであるから、上記(1)本件特許発明1についてと同様の検討により、甲第1?3号証記載の発明に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。 6.むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?15に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-06-28 |
出願番号 | 特願2010-142585(P2010-142585) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(H01M)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 井原 純、増山 慎也 |
特許庁審判長 |
木村 孔一 |
特許庁審判官 |
小川 進 河野 一夫 |
登録日 | 2015-09-18 |
登録番号 | 特許第5809783号(P5809783) |
権利者 | DIC株式会社 |
発明の名称 | ガスケット用樹脂組成物、その製造方法及び二次電池用ガスケット |
代理人 | 細田 浩一 |
代理人 | 伴 俊光 |
代理人 | 河野 通洋 |