• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C23C
管理番号 1317016
異議申立番号 異議2015-700262  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-03 
確定日 2016-08-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第5731085号発明「成膜装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5731085号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5731085号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成25年8月30日(パリ条約による優先権主張2013年2月5日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年4月17日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人河久保清により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年3月4日付けで取消理由を通知し、平成28年5月9日付けで意見書が提出されたものである。

2.取消理由の概要
当審において通知した取消理由は、要旨次のとおりである。

本件発明の課題を解決するためには、第2ターゲット電極を複数の第1ターゲット電極の隙間に設ける必要があるが、本件請求項1?4に係る発明では第2ターゲット電極をどこに設けるかについて記載されていないため、本件請求項1?4に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えていると認められ、本件明細書の記載及び本件出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された内容を、本件請求項1?4に係る発明にまで拡張ないし一般化できるといえない。よって、本件特許1?4は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3.判断
本件請求項1?4に係る発明(以下、まとめて、「本件発明」という。)が、本件の発明の詳細な説明において、発明の課題を解決できることを当業者が認識できる範囲のものであるか否か検討する。

本件の発明の詳細な説明をみると、次の事項が記載されていると認められる(なお、「(第1ターゲット電極)」、「(第2ターゲット電極)」、及び、下線は、当審で付したものである。)。

本件発明は、「真空容器のサイズや数に影響することなく、ゲッタリング効果のある材料を装置内に成膜できる成膜装置を提供すること」(段落【0006】)を発明の課題とするものであるところ、「成膜用のターゲットを取り付け可能な第1取り付け部を備える複数の第1ターゲット電極と、前記複数の第1ターゲット電極に対向する位置で基板を保持する基板ホルダーと、ゲッタリング用のターゲットを取り付けるための、前記第1取り付け部よりも小さい第2取り付け部を備える第2ターゲット電極と、を備えること」(段落【0007】)によって、「成膜に用いるターゲット電極(第1ターゲット電極)の取付け位置の隙間に、ゲッタリング効果が高いチタンやタンタルをターゲットGとして搭載する小型のターゲット電極(第2ターゲット電極)が設けられている」ため「ターゲットGとして搭載する小型のターゲット電極(第2ターゲット電極)は、複数設けられた成膜用のターゲット電極(第1ターゲット電極)の隙間に設けられるサイズに調整されているので、真空容器のサイズを大きくしたり、真空容器の数を増加したりする必要がなく、成膜装置のフットプリントを抑えられる」(段落【0008】)こと、すなわち、第2ターゲット電極が、複数の第1ターゲット電極の隙間に設けられる小さなサイズに調整されているので、真空容器のサイズを大きくしたり、真空容器の数を増加したりする必要がないことが記載されている。
また、複数の第1ターゲット電極の隙間に第2ターゲット電極が設けらた構造の例が図示されるとともに、その説明において、「ターゲット電極41(第2ターゲット電極)の取り付け部は、ターゲット電極35?38(第1ターゲット電極)のそれと比べて小型であるため、ターゲット電極41に取付けるターゲットGも成膜用のターゲットA?Dに比べて小さい」「ため、ターゲット電極35?38(第1ターゲット電極)の取り付け位置の隙間にターゲット電極41(第2ターゲット電極)を取り付けることができる」(段落【0021】)ことが記載され、「例えば、ターゲット電極41の第2ターゲット電極は、ターゲット電極35?38のそれぞれの第1ターゲット電極のうち、隣接する任意の2つのターゲット電極の間に取り付けることができる。」(段落【0021】)と、第2ターゲット電極を複数の第1ターゲット電極の隙間に設ける例として、例えば、第2ターゲット電極を隣接する任意の2つの第1ターゲット電極の間に取り付けることが記載されている。
さらに、本件発明では「ターゲット電極41(第2ターゲット電極)を設けても、ターゲット電極35?38(第1ターゲット電極)の配置を変更する必要がないので、真空容器のサイズを変更する必要」や「真空容器を増設する必要」(段落【0022】)がないこと、及び、第2ターゲット電極によって真空容器内にゲッタリング膜を形成した場合において「ターゲット電極41(第2ターゲット電極)をターゲット電極35?38(第1ターゲット電極)の隙間に設けられるサイズにすることで、モジュールサイズに影響を与えることなく、またモジュールの数を増加する必要がないので成膜装置のフットプリントを抑えられ」「ゲッタリング効果で超高真空を得ること」、すなわち、第2ターゲット電極を複数の第1ターゲット電極の隙間に設けられるような小さなサイズにすることによって、真空装置(モジュール)のサイズや数を変更する必要がないことが記載されている。

以上の記載事項等からみて、本件の発明の詳細な説明には、成膜装置において、第2ターゲット電極を、複数の第1ターゲット電極の隙間に設けられる小さなサイズに調整することによって、「真空容器のサイズや数に影響することなく、ゲッタリング効果のある材料を装置内に成膜できる成膜装置を提供する」という発明の課題を解決できることが開示されていると認められ、そのような第2ターゲット電極を設置した構造の例として、第2ターゲット電極を隣接する任意の2つの第1ターゲット電極の間に取り付けることが記載されているといえる。

そして、小さなサイズに調整した第2ターゲット電極を設置するのであれば、複数の第1ターゲット電極の設置されていない部分のスペース、すなわち、第1ターゲット電極の隙間、に設置することが可能となるため、第2ターゲット電極のために、新たに真空容器のサイズや数を増やす必要がないことは、当業者にとって合理的に理解できることと認められる。
また、複数の第1ターゲット電極の隙間として、隣接する2つの第1ターゲット電極の間以外のスペース(例えば、第1ターゲット電極と、その設置部位の周縁部との間のスペース(必要であれば、平成28年7月22日付け応対記録参照。))もあり得ることは、当業者にとって明らかと認められるから、斯かる隙間が隣接する2つの第1ターゲット電極の間のスペースに限定されるものでないことも合理的に理解できる。
(なお、特許権者が平成28年5月9日付け意見書で主張するように第2ターゲット電極が成膜装置内の何処の箇所に設置されたとしても、ゲッタリング等のターゲットとしての機能自体を果たすことは明らかと認められる。)

よって、本件発明は、第2ターゲット電極の設置箇所を特定しないものであっても、本件の発明の詳細な説明において、発明の課題を解決できることを当業者が認識できる範囲のものであって、本件発明に係る特許が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。

4.申立て理由についての補足
特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件請求項1?5に係る発明は、下記の甲第1?5号証(以下、「甲1」?「甲5」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるという特許法第29条第2項に係る申立て理由についても主張している。
しかしながら、当該申立て理由は、甲1に記載された発明のゲッタ(ゲッタリング)効果を有するターゲット電極のサイズを甲2、3の技術的事項に基づいて小さなサイズにすることは当業者にとって容易とするものと認められるところ、甲2は主ターゲットの成膜を補うための補助ターゲットに係るものであってゲッタリング用のターゲットに係るものではないし、甲3は図面上の一見ではゲッタリング用のターゲットが小さなサイズと視認されるものの実施例の記載(主ターゲットと同じサイズ(直径200mm)と認められる。)等を参照するとそのようなものと認めることはできないから、甲2、3の技術的事項に基づいて甲1のゲッタ(ゲッタリング)効果を有するターゲットを小さなサイズにすることを当業者が容易になし得たこととはいえないし、甲4、5の技術的事項を考慮しても、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、特許異議申立書における特許法第29条第2項に係る申立て理由は採用の限りでない。
甲第1号証:特開2009-65181号公報
甲第2号証:特開2007-302912号公報
甲第3号証:特開昭61-3323号公報
甲第4号証:特開2011-1597号公報
甲第5号証:特開2010-106290号公報

5.むすび
したがって、上記取消理由によって、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできないし、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-07-22 
出願番号 特願2014-555034(P2014-555034)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C23C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 安齋 美佐子吉野 涼  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 永田 史泰
新居田 知生
登録日 2015-04-17 
登録番号 特許第5731085号(P5731085)
権利者 キヤノンアネルバ株式会社
発明の名称 成膜装置  
代理人 木村 秀二  
代理人 高柳 司郎  
代理人 大塚 康弘  
代理人 大塚 康徳  
代理人 下山 治  
代理人 永川 行光  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ