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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  F21Q
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  F21Q
管理番号 1317327
審判番号 無効2014-800053  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-04-02 
確定日 2016-05-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第3875247号発明「発光装置、面光源装置、表示装置及び光束制御部材」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の特許第3875247号についての手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

特願2004-278888号出願 平成16年 9月27日
特許第3875247号の設定登録 平成18年11月 2日
審判請求書提出(請求人) 平成26年 4月 2日
審判事件答弁書提出(被請求人) 平成26年 6月20日
審理事項通知 平成26年 9月 8日
口頭審理陳述要領書提出(被請求人) 平成26年 9月26日
口頭審理陳述要領書提出(請求人) 平成26年 9月29日
上申書提出(請求人) 平成26年10月10日
上申書提出(被請求人) 平成26年10月10日
口頭審理 平成26年10月10日
上申書提出(請求人) 平成26年10月21日
書面審理通知 平成26年10月29日
上申書提出(被請求人) 平成26年11月19日


第2 本件特許発明
特許第3875247号の請求項1?11に係る発明のうち、請求項1、2、4、5、6及び11に係る発明(以下、各請求項の番号に対応させて、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、「本件特許発明4」、「本件特許発明5」、「本件特許発明6」及び「本件特許発明11」という。)は、本件の特許明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、2、4、5、6及び11に記載された次のとおりのものである。

「 【請求項1】
(1A) 発光素子からの光を光束制御部材を介して出射するようになっている発光装置において、
(1B) 前記光束制御部材は、前記発光素子からの光が前記光束制御部材に入射する光入射面と、
(1C) 前記発光素子からの光の出射を制御する光制御出射面とを備え、
(1D) 前記発光装置の基準光軸に沿った方向から見た形状が略円形形状となるように形成されており、
(1E) 前記光制御出射面は、
前記発光装置の基準光軸近傍で且つ前記基準光軸を中心とする所定範囲に位置する球の一部を切り取ったような凹み形状の第1の出射面と、
(1F) この第1の出射面の周囲に連続して形成される第2の出射面とを有し、
(1G) これら第1の出射面と第2の出射面との接続部分が変曲点となっており、
(1Ha) 前記発光素子から出射した光のうち、少なくともその最大強度の光が出射される方向から出射光の強度が最大強度の半分の値となる光が出射される方向までの角度範囲内に出射される光について、前記光束制御部材に入射して前記光制御出射面に到達した前記角度範囲内の光とその到達点(Px)を通り前記発光装置の基準光軸と平行な線とのなす角度をθ1とし、
前記到達点(Px)を通り且つ前記基準光軸に直交する線(A)と前記到達点(Px)における輪郭線に対する接線(B)とのなす角度をθ3とし、
前記光制御出射面の前記到達点(Px)から出射する光の出射角をθ5とすると、
(1Hb) 前記第1の出射面における前記θ3が前記θ1の増加とともに徐々に減少し、
(1I) 前記第2の出射面における前記θ3が前記θ1の増加とともに徐々に増加するようになっており、
(1J) 前記到達点(Px)からの出射光が、前記発光素子から出射される光のうちの前記基準光軸近傍の光を除き、θ5/θ1>1の関係を満足するとともに、
(1K) このθ5/θ1の値をθ1の増加にしたがって徐々に小さくなる方向に変化させる形状に形成されている、
(1L) ことを特徴とする発光装置。」

「 【請求項2】
(2A) 前記光入射面は、前記発光素子の光出射面に密接している
(2B) ことを特徴とする請求項1記載の発光装置。」

「 【請求項4】
(4A) 前記請求項1乃至3のいずれかに記載された複数の発光装置と、
(4B) これら複数の発光装置からの光を拡散・透過する光拡散部材と、を備え、
(4C) 前記複数の発光装置が互いに等間隔で配置され、
(4D) これら複数の発光装置のうちの隣り合う発光装置からの出射光が混ざり合う位置に前記光拡散部材が配置された、
(4E) ことを特徴とする面光源装置。」

「 【請求項5】
(5A) 前記請求項4に記載の面光源装置と、
(5B) この面光源装置からの光を照射する被照明部材と、
(5C) を備えたことを特徴とする表示装置。」

「 【請求項6】
(6A) 発光素子からの光を封止部材と光束制御部材を介して出射するようになっている発光装置において、
(6B) 前記光束制御部材は、前記封止部材に封止された前記発光素子からの光が前記光束制御部材に入射する光入射面と、
(6C) 前記発光素子からの光の出射を制御する光制御出射面とを備え、
(6D) 前記発光装置の基準光軸に沿った方向から見た形状が略円形形状となるように形成されており、
(6E) 前記光制御出射面は、
前記発光装置の基準光軸近傍で且つ前記基準光軸を中心とする所定範囲に位置する球の一部を切り取ったような凹み形状の第1の出射面と、
(6F) この第1の出射面の周囲に連続して形成される第2の出射面とを有し、
(6G) これら第1の出射面と第2の出射面との接続部分が変曲点となっており、
(6Ha) 前記発光素子から出射した光のうち、少なくともその最大強度の光が出射される方向から出射光の強度が最大強度の半分の値となる光が出射される方向までの角度範囲内に出射される光について、前記光束制御部材に入射して前記光制御出射面に到達した前記角度範囲内の光とその到達点(Px)を通り前記発光装置の基準光軸と平行な線とのなす角度をθ1とし、
前記到達点(Px)を通り且つ前記基準光軸に直交する線(A)と前記到達点(Px)における輪郭線に対する接線(B)とのなす角度をθ3とし、
前記光制御出射面の前記到達点(Px)から出射する光の出射角をθ5とすると、
(6Hb) 前記第1の出射面における前記θ3が前記θ1の増加とともに徐々に減少し、
(6I) 前記第2の出射面における前記θ3が前記θ1の増加とともに徐々に増加するようになっており、
(6J) 前記到達点(Px)からの出射光が、前記発光素子から出射される光のうちの前記基準光軸近傍の光を除き、θ5/θ1>1の関係を満足するとともに、
(6K) このθ5/θ1の値をθ1の増加にしたがって徐々に小さくなる方向に変化させる形状に形成されている、
(6L) ことを特徴とする発光装置。」

「 【請求項11】
(11A) 発光素子または封止部材に封止された発光素子からの光が入射する光入射面と、
(11B) 前記発光素子からの光の出射を制御する光制御出射面とを備え、
(11C) 前記発光素子と共に発光装置を構成するようになっており、
(11D) 前記発光装置の基準光軸に沿った方向から見た形状が略円形形状となるように形成された光束制御部材であって、
(11E) 前記光制御出射面は、
前記発光装置の基準光軸近傍で且つ前記基準光軸を中心とする所定範囲に位置する球の一部を切り取ったような凹み形状の第1の出射面と、
(11F) この第1の出射面の周囲に連続して形成される第2の出射面とを有し、
(11G) これら第1の出射面と第2の出射面との接続部分が変曲点となっており、
(11Ha) 前記発光素子から出射した光のうち、少なくともその最大強度の光が出射される方向から出射光の強度が最大強度の半分の値となる光が出射される方向までの角度範囲内に出射される光について、前記光束制御部材に入射して前記光制御出射面に到達した前記角度範囲内の光とその到達点(Px)を通り前記発光装置の基準光軸と平行な線とのなす角度をθ1とし、
前記到達点(Px)を通り且つ前記基準光軸に直交する線(A)と前記到達点(Px)における輪郭線に対する接線(B)とのなす角度をθ3とし、
前記光制御出射面の前記到達点(Px)から出射する光の出射角をθ5とすると、
(11Hb) 前記第1の出射面における前記θ3が前記θ1の増加とともに徐々に減少し、
(11I) 前記第2の出射面における前記θ3が前記θ1の増加とともに徐々に増加するようになっており、
(11J) 前記到達点(Px)からの出射光が、前記発光素子から出射される光のうちの前記基準光軸近傍の光を除き、θ5/θ1>1の関係を満足するとともに、
(11K) このθ5/θ1の値をθ1の増加にしたがって徐々に小さくなる方向に変化させる形状に形成されている、
(11L) ことを特徴とする光束制御部材。」

上記「1A?1L」、「2A?2B」、「4A?4E」、「5A?5C」、「6A?6L」及び「11A?11L」は、当審が便宜上付した分説記号である。基本的に請求人が使用したものを採用したものであるが、請求人が使用した「1H」、「6H」及び「11H」については、それぞれ、前提条件と第1の射出面に係る構成とにさらに分説することとし、「1Ha、1Hb」、「6Ha、6Hb」及び「11Ha、11Hb」とした。


第3 請求人の主張
1.請求人が主張する請求の趣旨及び理由
請求人は、「特許第3875247号の請求項1,2,4,5,6及び11に係る発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,」との審決を求め、その請求の理由は、新規性の欠如(以下、「無効理由1」という。)及び進歩性の欠如(以下、「無効理由2」という。)であるところ、無効理由1及び2の概要はそれぞれ以下のとおりである。
(無効理由1)
本件の請求項1、2、6及び11に係る特許発明は、甲第1号証の1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(無効理由2)
本件の請求項4及び5に係る特許発明は、甲第1号証の1に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであから、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
また、その他の主な主張は以下のとおりである。

(1)無効理由1について
(審判請求書第36ページ12行?第37ページ12行)
甲第1号証のFIG.7に開示されたmushroom lens39及びFIG.15aに開示されたmushroom lens113の形状は、本件特許の図3,4及び7等に記載の光束制御部材の形状に酷似している。
特に、甲第1号証のFIG.7におけるconcave inner surface39aとconvex outer surface 39bとの関係は、本件特許発明の図3における光出射面8と第2の出射面6bとの関係に極めて近い。
このことからわかるとおり、甲第1号証のFIG.7のmushroom lensにおいて、θ5の値とθ1との値とは、θ1の増加に伴い、徐々に近づいて行く。
(中略)
当該参考図を見れば明らかなとおり、light surfaceからの光のouter surfaceへの到達点が外周側へ移動するのに従い、θ1及びθ5は増加している。更に、θ1が増加するに伴い、θ1及びθ5の値は徐々に近づいている。


【参考図】^(3)

したがって、構成要件1Kは、甲第1号証に開示されている(以下、「請求人の主張1」という。)。

(口頭審理陳述要領書第5ページ8行?第6ページ14行)
甲第1号証には、発明の背景及び発明の概要として、以下の記述がある。
(中略)
「 (中略) 本発明は、・・・
・・・上記軸から離間したレンズ部分へ向けて光線を偏向させ、それによりTIRレンズの出力でより均等に光束を分散させる光線偏向装置と
を含む組み合わせで実施される。」
即ち、甲第1号証に記載された発明は、レンズの縁部よりもレンズ中心部において強くなる光出力を、均一に分散させることを目的とするものである(以下、「請求人の主張2」という。)。

(口頭審理陳述要領書第8ページ1?10行)
ここで、「基準光軸近傍」がどこまでの範囲かが問題となるが、この点、構成要件1Eでは、「基準光軸近傍で且つ前記基準光軸を中心とする所定範囲に位置する球の一部を切り取ったような凹み形状の第1の出射面」(下線追加)と記載されている。すなわち、光制御出射面において、「凹み形状」の部分が「光軸近傍」に相当する部分である。
してみれば、光制御出射面のうちの「凹み形状」の部分については、構成要件1K「θ5/θ1の値をθ1の増加にしたがって徐々に小さくなる方向に変化」を満たす必要はない。従って、当該部分について議論していることからしても、被請求人の主張は失当というほかない(以下、「請求人の主張3」という。)。

(2)無効理由2について
(審判請求書第51ページ3?4行)
甲第1号証に記載された発光装置を複数採用し、それらを等間隔に配置することは、当業者が容易になし得た設計事項にすぎない(以下、「請求人の主張4」という。)。

(審判請求書第51ページ10?12行)
甲第1号証に記載された発光装置を複数採用し、光拡散部材を「複数の発光装置のうちの隣り合う発光装置からの出射光が混ざり合う位置」に配置することは、当業者が容易になし得た設計事項にすぎない(以下、「請求人の主張5」という。)。

(口頭審理陳述要領書第12ページ5?7行)
本件特許の請求項4の記載は、本件発明4が、「光拡散部材」(構成要件4B)の他に、TIRレンズを備えることを、何ら排除していない(以下、「請求人の主張6」という。)。

2.請求人の証拠方法
請求人は、証拠方法として、審判請求書に添付して以下の甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証を提出し、口頭審理陳述要領書に添付して以下の甲第3号証を提出し、平成26年9月29日付け上申書に添付して以下の甲第4号証を提出している(第1回口頭審理調書参照)。

甲第1号証の1 米国特許第5577493号明細書
甲第1号証の2 甲第1号証抄訳
甲第2号証 特開2003-331604号公報
甲第3号証 実験報告書
甲第4号証 技術説明資料DVDに記録されたパワーポイントデータ
甲第5号証 本件特許公報

また、請求人は、平成26年10月21日付け上申書に添付して、以下の参考資料を提出している。

参考資料1 陳述書の原本及び和訳
参考資料2 米国アリゾナ大学のウエブサイトの写し

第4 被請求人の主張
1.被請求人が主張する答弁の趣旨
被請求人の主張の趣旨は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、」との審決を求め、無効理由1に対しては、本件の請求項1,2,6及び11に係る発明は、甲第1号証に基づく新規性欠如はないから、請求人が主張する無効理由1は存在しなく、また、無効理由2に対しては、本件の請求項4及び5に係る発明は、甲1発明に甲第2号証の記載事項を適用することによる進歩性欠如の主張には理由はなく、請求人が主張する無効理由2は存在しない、というものである。
また、その他の主な主張は以下のとおりである。

(1)無効理由1について
(審判事件答弁書第5ページ18?20行)
請求人の主張は、「まず引用文献の記載事項から引用発明を認定し、この引用発明と本件発明とを対比する」という判断手法を全く履践することなく、しかも、甲1の技術的思想を何ら考慮せずに、極めて主観的、恣意的に甲1の記載事項を断片的かつ部分的に抜き出し、本件発明の新規性を論じたものであって、失当である。

(審判事件答弁書第14ページ14?17行)
本件発明1は、 (中略) TIRレンズを必要不可欠とする甲1発明とは、技術的思想が根本的に相違し、解決課題及び解決手段が異なるものである。

(審判事件答弁書第14ページ22?25行)
甲1の「マッシュルームレンズ」と本件発明1の「光束制御部材」とでは、射出面の曲面形状が一見類似しているかのように錯覚するが、その機能及び光学特性は大きく異なるのである。

(審判事件答弁書第20ページ11?13行)
本件発明の権利範囲外である「射出角θ5が入射角θ1よりも小さくなる(集光される)ような射出面部分を有するレンズも存在し得ることから、請求人の解釈は誤りである。

(審判事件答弁書第21ページ3?5行)
レンズ面が構成要件1Kを満たすか否かは、基準光軸近傍の中央部分における陥没の度合いや曲面の程度などによって決まるのであって、単なる外観形状の類似によって判断されるべきものではないことは言うまでもない。

(2)無効理由2について
(審判事件答弁書第25ページ25行?第26ページ6行)
請求人が認定する相違点1及び2は、甲1の発光装置として不可欠なTIRレンズを捨象して、単に「発光装置」とし、TIRレンズの有無を相違点として認定していない点で誤りである。
また、甲1発明に甲2の記載事項を適用したとしても、これによって得られる構成は、マッシュルームレンズとTIRレンズとの組み合わせよりなる発光装置を等間隔で複数配置したものにとどまり、甲2には、甲1発明からTIRレンズを除外することの動機付けとなり得る記載は何ら存在しない。

(審判事件答弁書第26ページ9?11行)
「光束制御部材」に相当する部材は甲2にも何ら記載されていない以上、甲1発明に甲2の記載事項を組み合わせたとしても、本件発明4には想到し得ない。

2.被請求人の証拠方法
被請求人は、証拠方法として、平成26年9月26日付け上申書に添付して以下の乙第1号証を提出している(第1回口頭審理調書参照)。

乙第1号証 技術説明資料DVDに記録されたパワーポイントデータ

また、被請求人は、平成26年11月19日付け上申書に添付して、以下の参考資料を提出している。

添付資料 ドラビク意見書(Exhibit1,2添付)及び翻訳文


第5 無効理由1(新規性の欠如)についての当審の判断
1.甲第1号証について
(1)甲第1号証(甲第1号証の1)の記載事項及び甲第1号証記載の発明
甲第1号証には、次の事項が記載されている。

ア.第1欄第56?58行
「The invention is usable with displays, such as liquid crystal displays, and enhances their practicality by enabling incandescent light sources to provide uniform brightness.」
(翻訳)
「本発明は、液晶ディスプレイなどのディスプレイに使用でき、白熱光源が均一な明るさを提供できるようにすることによって、それらの実用性を向上させる。」

イ.第2欄第19?21行
「FIG. 7 is a cross section of an incandescent lamp with compact source and its associated light-deviation mushroom lens;」
(翻訳)
「図7は、小型光源とそれに関連する光偏向マッシュルームレンズとを備えた白熱ランプの断面である。」

ウ.第5欄第19?37行
「The thick version of the intensity-mapping deviator lens, herein termed the "mushroom lens" is easier to manufacture but more laborious to calculate. The mushroom lens radial coordinate is a function of RF(Θ), rather than the constant value of the hemispheric Fresnel-lens deviator in FIG. 5. The mushroom lens, as true with the Fresnel deviator lens, must be derived by a facet-by-facet iteration along a candidate profile of its associated TIR lens. A first order method is simply to extrapolate from the previously derived value of Pi, in a series of angles Θi, derived for facet number i according to equation (2). The resultant profile, resembling the head of a mushroom, is given to first order by


A fourth-order Runge-Kutta would provide any degree of accuracy demanded by ultraprecision engineering, by repeated iterations of Θi, It turns out that the resultant shape closely fits an elliptical toroid. 」
(翻訳)
「“マッシュルームレンズ”と呼ばれる強度マッピング偏向レンズの厚型は、製造がより容易であるが、計算により労力を要する。マッシュルームレンズの動径座標は、図5の半球フレネルレンズ偏向の定数というよりはむしろRF(Θ)の関数である。マッシュルームレンズは、フレネル偏向レンズと同様に、関連TIRレンズの候補プロフィールに沿ったファセットごとの反復に由来しなければならない。第1次方法は、単に、前もって、数式(2)に従うファセット番号iに導かれる一連の角度Θi内のPiの派生値から推定することである。マッシュルームの頭部に類似する結果プロフィールは、数式(7)によって第1次を与えられる。

第4次であるルンゲ・クッタ法は、Θiの度重なる繰り返しによって、超高精度工学により要求される正確さの程度を提供するだろう。その結果として生じる形状は、楕円環状体にしっかりと一致することがわかる。」

エ.第5欄第42?51行
「 FIG. 7 shows the detailed cross section of the deviating mushroom lens 39 that is used with reflector S0 detailed in FIG. 8 and TIR lens 40, detailed in FIG. 9. The TIR lens has profile 41 that is higher than profile 27 of FIG. 6. The entire system is shown in FIG. 10. The mushroom lens 39 has hemispherically concave inner surface 39a, of greater curvature (i.e., smaller radius) than the varying curvatures of convex outer surface 39b, such curvatures decreasing at regions toward axis 24, becoming concave (demagnifying) at central outer surface 39c. 」
(翻訳)
「図7は、図8に詳述されている反射体50と図9に詳述されているTIRレンズ40と共に使用されている偏向マッシュルームレンズ39の詳細な横断面を示している。TIRレンズは、図6のプロフィール27よりも高いプロフィール41を持っている。全体のシステムは、図10に示されている。マッシュルームレンズ39は、凸外面39bの変化する曲率よりも大きな曲率(たとえば、より小さい半径)の半球状凹内面39aを備えている。そのような曲率は、軸24方向の領域において減少し、中央外面39cにおいて凹形状になる(縮小する)。」(上記「reflector S0」は、「reflector 50」の誤記と認められる。)

オ.第5欄第63?第6欄第3行
「 FIG. 11 shows the invention in combination with a liquid crystal display 62 (LCD), acting as its light source. A microstructured diffuser 60, which may be a holographic diffuser, is situated on the surface of the exit face of TIR lens 40. It tends to blur the spatial structure imposed by the facets of the TIR lens. A second diffuser 61 spatially integrates this blurring, so that the TIR lens facets are not visible to viewers of the LCD.」
(翻訳)
「図11は、その光源の働きをする液晶ディスプレイ62(LCD)との組み合わせによる発明を示している。ホログラフィック拡散板であってよい微細構造の拡散板60は、TIRレンズ40の出射面上に位置している。それは、TIRレンズのファセットによって強いられる空間的構造をぼやかす傾向がある。第2の拡散板61は、空間的にこのぼやけを積分するので、TIRレンズのファセットは、LCDの視聴者には見えない。」

カ.第6欄第5?7行
「The TIR lens may consist of plastic; and the smooth mushroom lens can be made of glass, 」
(翻訳)
「TIRレンズは、プラスチックで構成されてもよい。そして、滑らかなマッシュルームレンズは、ガラスで作られることがある。」

キ.第6欄第57?62行
「Light sources without envelopes, such as light emitting diodes (LEDs), can benefit from a mushroom deviator lens. FIG. 15a shows LED 110, with typical power-delivery wire 111 and planar reflector 112. The LED is embedded in mushroom lens 113, shaped to cause TIR lens 114 to have uniform output at exit face 115.」
(翻訳)
「発光ダイオード(LEDs)のように封止材がない光源は、マッシュルーム偏向レンズから恩恵を受けることができる。図15aは、典型的な電源供給ワイヤ111と平面反射体112と共にLED110を示している。TIRレンズ114が出射面115において均一な出射をするように形成され、LEDは、マッシュルームレンズ113に組み込まれ、TIRレンズ114が出射面115において均一な出射をするように形成される。」

ク.第6欄第64行?第7欄第1行
「mushroom lens 113 may be made of an elastomeric material such as optical-grade silicone. Plan view 15b shows how a mushroom lens 113 would deviate from circular profile 115, to correspond to directional differences in a light source. 」
(翻訳)
「マッシュルームレンズ113は、光学等級シリコンのようなエラストマー材料で作ることができる。平面図15bは、マッシュルームレンズ113がどのように円形プロフィール115から偏向して、光源の指向性の相違に一致するのかを示している。」

ケ.第7欄第14?15行
「 In summary, the mushroom-shaped, light-deviating lens is a powerful new way to control the output of a TIR lens.」
(翻訳)
「要約すると、マッシュルーム型光偏向レンズは、TIRレンズの出射を制御する強力で新しい方法である。」

コ.第8欄第19?27行
「12. In combination
a) a TIR lens having a central axis, and toward which light from a light source is to be directed, and
b) a light ray deviator positioned along the path of light travel between said source and the TIR lens, for deviating light rays toward portions of the lens spaced from said axis, thereby to more evenly distribute light flux at the output of said TIR lens,
c) and wherein the deviator has mushroom profile.」
(翻訳)
「12. 組合せにおいて、
a) TIRレンズは、中心軸を備えており、光源からの光はその方向に向けられ、
b) 光源とTIRレンズとの間の光路に沿って設置されている偏向部材は、前記軸から間隔をあけられたレンズ部分に光線を偏向し、それによって、前記TIRレンズの出射で均一に光束を分散させる、
c) 偏向部材はマッシュルームプロフィールを持っている。」

サ.第8欄第30?33行
「14. The combination of claim 12 wherein the deviator is a lens having an outer surface with said mushroom lens shape, and a concave inner surface of greater curvature than curvature defined by said outer surface.」
(翻訳)
「14. 請求項12との組み合わせにおいて、前記偏向部材は、前記マッシュルームレンズ形状の外面と、前記外面によって規定される曲率よりも大きな曲率の凹内面と、を持つレンズである。」

シ.FIG.7

ス.FIG.8


セ.FIG.9


ソ.FIG.10


タ.FIG.11


なお、甲第1号証の1の「varying curvatures」は、甲第1号証の2の抄訳では「各曲率」としているが、それよりは「変化する曲率」とする方が原文の意に沿ったものであり、同様に、「incandescent」は、「白色」より「白熱」と、「deviate」は、「偏差」より「偏向」と、「by a facet-by-facet」は、「側面×側面」より「ファセットごとの」と、「resembling the head of a mushroom」は、「マッシュルームレンズの頭部に類似する」より「マッシュルームの頭部に類似する」とする方が原文の意に沿ったものであり、そのように翻訳する。

甲第1号証の上記記載事項から、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「小型光源とそれに関連する光偏向マッシュルームレンズとを備えた白熱ランプであって、
液晶ディスプレイなどのディスプレイに使用でき、白熱光源が均一な明るさを提供できるようにすることによって、それらの実用性を向上させ、
マッシュルームレンズ39は、凸外面39bの変化する曲率よりも大きな曲率の半球状凹内面39aを備え、そのような曲率は、軸24方向の領域において減少し、中央外面39cにおいて凹形状になり、
マッシュルームレンズは、関連TIRレンズの候補プロフィールに沿ったファセットごとの反復に由来し、マッシュルームレンズの動径座標はRF(Θ)の関数で、マッシュルームの頭部に類似する結果プロフィールは、数式(7)によって第1次を与えられ、Θiの度重なる繰り返しによって、超高精度工学により要求される正確さの程度を提供し、その結果として生じる形状は、楕円環状体にしっかりと一致し、

拡散板60は、TIRレンズ40の出射面上に位置し、TIRレンズのファセットによって強いられる空間的構造をぼやかす傾向があり、第2の拡散板61は、空間的にこのぼやけを積分する、
白熱ランプ。」


2.本件特許発明1と甲1発明との対比・判断
以下、本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「白熱ランプ」は、本件特許発明1の「発光装置」に相当する。
甲1発明の「白熱光源」は、LED等の発光素子であってもよいものと考えられるので、本件特許発明1の「発光素子」に相当する。
甲1発明の「マッシュルームレンズ39」は、本件特許発明1の「光束制御部材」に対応する。
Fig.7を参照すると、甲1発明は、白熱光源(発光素子)からの光をマッシュルームレンズ39(光束制御部材)を介して出射するようになっているのは明らかであり、甲1発明の「半球状凹内面39a」は、白熱光源(発光素子)からの光がマッシュルームレンズ39(光束制御部材)に入射する面と認められ、本件特許発明1の「光入射面」に相当する。
甲1発明の「軸24」は、 本件特許発明1の「基準光軸」に相当する。
Fig.15bは、「マッシュルームレンズ113がどのように円形プロフィール115から偏向して、光源の指向性の相違に一致するのかを示している」(記載事項ク.)から、発光装置の軸(基準光軸)に沿った方向から見たマッシュルームレンズ113の形状は円形ないしそれに近い形状と認められ、同様のことは、Fig.7に示すマッシュルームレンズ39でも該当すると考えられるので、甲1発明の「マッシュルームレンズ39」は、本件特許発明1の「略円形形状」の構成を備えているといえる。
甲1発明の「マッシュルームレンズ39」は、「マッシュルームの頭部に類似する結果プロフィール」であるから、頭部の中央部が凹んだ形状のものと認められ、「マッシュルームレンズ39」の「凸外面39b」及び「中央外面39c」は、いずれも光の進路に影響を与え白熱光源(発光素子)からの光の出射を制御するということができ、併せてFig.7を参照すれば、甲1発明の「凸外面39b」及び「中央外面39cにおいて凹形状にな」る面は、それぞれ、本件特許発明1の「第2の出射面」及び「発光装置の基準光軸近傍で且つ前記基準光軸を中心とする所定範囲に位置する球の一部を切り取ったような凹み形状の第1の出射面」に相当し、それら「凸外面39b」及び「中央外面39cにおいて凹形状にな」る面は、本件特許発明1の「光制御出射面」に相当する。
甲1発明において、「そのような曲率」とは、「凸外面39bの変化する曲率」のことであるから、「そのような曲率は、軸24方向の領域において減少し、中央外面39cにおいて凹形状になり」という事項は、「凸外面39bの変化する曲率は、軸24方向の領域において減少し、中央外面39cにおいて凹形状になり」という事項と同じであると認められ、これに併せてFig.7を参照すると、甲1発明の「凸外面39bの変化する曲率は、軸24方向の領域において減少し、中央外面39cにおいて凹形状になる」は、各外面の形状が連続的な曲面形状を示すものと認められ、凸外面39bと中央外面39cとは、連続して形成され、かつ、それらの接続部分が変曲点となっていると考えられるから、本件特許発明1の「この第1の出射面の周囲に連続して形成される第2の出射面とを有し、これら第1の出射面と第2の出射面との接続部分が変曲点となっており」という構成に相当する。

以上から、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、また、相違する(分説記号も用いて記載した。)。

<一致点>
「(1A) 発光素子からの光を光束制御部材を介して出射するようになっている発光装置において、
(1B) 前記光束制御部材は、前記発光素子からの光が前記光束制御部材に入射する光入射面と、
(1C) 前記発光素子からの光の出射を制御する光制御出射面とを備え、
(1D) 前記発光装置の基準光軸に沿った方向から見た形状が略円形形状となるように形成されており、
(1E) 前記光制御出射面は、
前記発光装置の基準光軸近傍で且つ前記基準光軸を中心とする所定範囲に位置する球の一部を切り取ったような凹み形状の第1の出射面と、
(1F) この第1の出射面の周囲に連続して形成される第2の出射面とを有し、
(1G) これら第1の出射面と第2の出射面との接続部分が変曲点となっている、
(1L) ことを特徴とする発光装置。」

<相違点>
本件特許発明1では、「光制御出射面」は、「(1Ha) 前記発光素子から出射した光のうち、少なくともその最大強度の光が出射される方向から出射光の強度が最大強度の半分の値となる光が出射される方向までの角度範囲内に出射される光について、前記光束制御部材に入射して前記光制御出射面に到達した前記角度範囲内の光とその到達点(Px)を通り前記発光装置の基準光軸と平行な線とのなす角度をθ1とし、
前記到達点(Px)を通り且つ前記基準光軸に直交する線(A)と前記到達点(Px)における輪郭線に対する接線(B)とのなす角度をθ3とし、
前記光制御出射面の前記到達点(Px)から出射する光の出射角をθ5とすると、
(1Hb) 前記第1の出射面における前記θ3が前記θ1の増加とともに徐々に減少し、
(1I) 前記第2の出射面における前記θ3が前記θ1の増加とともに徐々に増加するようになっており、
(1J) 前記到達点(Px)からの出射光が、前記発光素子から出射される光のうちの前記基準光軸近傍の光を除き、θ5/θ1>1の関係を満足するとともに、
(1K) このθ5/θ1の値をθ1の増加にしたがって徐々に小さくなる方向に変化させる形状に形成されている」のに対し、
甲1発明では、マッシュルームレンズが、そのような形状及び出射光の状態を満たすか否かが定かでない点。

上記相違点について検討する。

なお、以下、当審における判断では、分説記号を用いて構成を示すこともある。

(ア)1Jの「基準光軸近傍」について
請求人は、1Eの記載からすると、1J及び1Kの記載は、凹み形状の第1の出射面を除いている旨主張している(請求人の主張3)。
しかし、1Ha、1Hb、1I、1J、1Kは、本件特許発明1のレンズ表面形状及び出射光の特性を特定するための構成であって、それらを一体として備えることで意味をなすものである。そして、本件特許明細書の実施例等を参酌すると、1J及び1Kの記載は、第1の出射面を除くものを対象としているとはいえない。
すなわち、本件特許明細書(段落【0032】、【0034】及び【0038】等)の記載を参酌すると、1Eの「基準光軸近傍で且つ・・・凹み形状の第1の出射面」の「基準光軸近傍」は、基準光軸を0°とした場合、変曲点である±16°まで(凹み形状)の範囲を意味し、1Jの「基準光軸近傍の光を除き」の「基準光軸近傍」は、基準光軸を0°とした場合、±5°以内程度までの範囲を意味し、これらの意味する角度の範囲が異なるのは明らかである。
これらのことから、1Jの「基準光軸近傍の光を除き」の「基準光軸近傍」は、1Eの「基準光軸近傍で且つ・・・凹み形状の第1の出射面」の「基準光軸近傍」よりも、基準光軸により近く、狭い範囲の「基準光軸近傍」を意味していると考えるのが妥当である。
したがって、本件特許発明1の1J及び1Kの構成は、請求人が主張するように、第1の出射面の全体が該当しないとするのではなく、基準光軸により近く狭い範囲の基準光軸近傍を除いた第1の出射面については該当するものとして、以下、(イ)及び(ウ)で判断する。

(イ)「第1の出射面」の形状及び出射光(1Ha、1Hb、1J、1K)について
請求人は、請求人の主張3のとおり、第1の出射面の出射光の状態(1J及び1K)は本件特許発明1には含まれないものと主張するものであって、第1の出射面の出射光の状態(1J及び1K)については、審判請求書、口頭審理陳述要領書、甲第3号証及び甲第4号証において、実質的に、争うものではない。
また、基準光軸近傍を除いた「第1の出射面」について、甲第1号証に記載の事項(特にFig.7)が、1Ha、1Hb、1J及び1Kを満たすといえる根拠もない。
したがって、甲1発明は、本件特許発明1の1Ha、1Hb、1J及び1Kを満たしているということはできない。

(ウ)「第2の出射面」の形状及び出射光(1Ha、1I、1J、1K)について
請求人は、第1号証のFig.7に接した当業者は、そのレンズ形状が特異点を含んだものとは認識しない旨も主張する(第1回口頭審理調書を参照)。
しかし、甲第1号証には、「図7は、・・・詳細な横断面を示している。」及び「マッシュルームレンズ39は、凸外面39bの変化する曲率よりも大きな曲率(たとえば、より小さい半径)の半球状凹内面39aを備えている。そのような曲率は、軸24方向の領域において減少し、中央外面39cにおいて凹形状になる(縮小する)。」(記載事項エ.参照。)と記載されていることから、Fig.7のレンズ表面の形状は、凸外面39bの変化する曲率が軸24方向の領域において減少していき中央外面39cにおいて凹状になるとはいえるが、前記「詳細な横断面」とされるFig.7は、単なる説明図であって、実際に用いられるレンズの正確な表面形状(微小な凹凸や変曲点の位置など形状の細部)についてまで特定し得るものではない。
また、甲1発明は、「マッシュルームレンズは、関連TIRレンズの候補プロフィールに沿ったファセットごとの反復に由来し、マッシュルームレンズの動径座標はRF(Θ)の関数で、マッシュルームの頭部に類似する結果プロフィールは、数式(7)によって第1次を与えられ、Θiの度重なる繰り返しによって、超高精度工学により要求される正確さの程度を提供」するものであり、甲第1号証には、「図7は、図8に詳述されている反射体50と図9に詳述されているTIRレンズ40と共に使用されている偏向マッシュルームレンズ39の詳細な横断面を示している。)」(記載事項エ.参照。)と記載されていることから、甲第1号証のFig.7のレンズ表面の形状は、TIRレンズ形状に対応して緻密に設計されるものであって、TIRレンズ形状と無関係に単独で設計されるものではないと認められ、また、甲第1発明と本件特許発明1とは、解決しようとする課題も異なり、技術思想は別々のものであると認められる。
さらに、請求人の主張2について検討すると、甲第1号証に記載された装置は、TIRレンズと光線偏向装置(マッシュルームレンズ)とを含む組み合わせで実施されるものであるので、甲第1号証の目的としての「より均等に光束を分散させる」との記載は、光線偏向装置(マッシュルームレンズ)自体についていうものとは認められない。したがって、甲第1号証に記載された装置から、TIRレンズを取り除いた、Fig.7のレンズ部分の目的や作用効果についての請求人の主張2は、当を得ているとはいえない。
そして、そもそも甲第1号証のFig.7の図面は、上記したように単なる説明図であって、レンズの正確な形状を特定することはできないし、まして審判請求書の第37頁の参考図(請求人の主張1)及び甲第3号証の第2ページの図2で請求人が行うように、甲第1号証のFig.7の図面の一部分に補助線等の作図を用いて、レンズの正確な表面形状及び出射光の状態(多数の正確な点列データから緻密な計算によって求める必要がある表面形状及び出射光の状態)を、基準光軸近傍から半値角までの必要とする範囲に渡って、具体的に特定することができるものではない。
以上のことから、甲第1号証のFig.7のレンズ表面の形状は、審判請求書において請求人が主張するように、一見すれば、本件特許発明1に「酷似している」ないし「極めて近い」というだけであり、設計図のように緻密な図面でもない甲第1号証のFig.7に示されているレンズ表面の形状及び出射光の状態と、本件特許発明1のレンズ表面の形状及び出射光の状態とが、同一であるという具体的な根拠はない。
そうすると、甲第1号証に記載の技術事項及び技術常識を参酌しても、甲第1号証のFig.7からは、本件特許発明1のHa、1I、1J及び1Kに係る構成は特定できない。

(エ)上記(ア)?(ウ)を踏まえれば、本件特許発明1は、上記相違点(1Ha、1Hb、1I、1J及び1K)で甲1発明と相違するものというべきである。

したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものではない。

(オ)口頭審理の後で提出された請求人の上申書等について
請求人の平成26年10月21日付け上申書等(添付された参考資料1を含む)の提出は、口頭審理後であって、しかもその記載内容は、新たな事実を基礎とした理由を追加するものと認められ、請求の理由の要旨を変更するものであるので採用できない。
なお、この上申書等の記載内容は、米国特許第7348723号(本件特許公報のファミリー)の請求項1と甲第1号証とを対比するものであり、本件特許発明には関係がないし(請求項1では、本件特許発明1で特定されている「θ3」に係る特定はないし)、また、被請求人の平成26年11月19日付け上申書等での主張のとおり、技術的に不正確であるので、本件特許発明の新規性及び進歩性を否定する根拠とすることはできない。

3.本件特許発明2と甲1発明との対比・判断
本件特許発明1を引用する本件特許発明2は、上記2.に示すとおり、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものではない。

4.本件特許発明6と甲1発明との対比・判断
本件特許発明6の6Ha、6Hb、6I、6J及び6Kと、本件特許発明1の1Ha、1Hb、1I、1J及び1Kとは、同じ構成であるから、本件特許発明6と甲1発明とを対比すると、少なくとも、上記2.に示した相違点で相違しており、それらの相違点についての判断は、上記2.に示すとおりである。
したがって、本件特許発明6は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものではない。

5.本件特許発明11と甲1発明との対比・判断
本件特許発明11の11Ha、11Hb、11I、11J及び11Kと、本件特許発明1の1Ha、1Hb、1I、1J及び1Kとは、同じ構成であるから、本件特許発明11と甲1発明とを対比すると、少なくとも、上記2.に示した相違点で相違しており、それらの相違点についての判断は、上記2.に示すとおりである。
したがって、本件特許発明11は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものではない。

6.無効理由1(新規性の欠如)についてのまとめ
本件特許発明1、2、6及び11は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものではない。


第6 無効理由2についての当審の判断
1.甲第1号証及び甲第2号証について
(1)甲第1号証(甲第1号証の1)の記載事項及び甲第1号証記載の発明
第5 1.(1)に示すとおりである。

(2)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、発明の名称「バックライトユニット」に関して、図1?5と共に、次の事項が記載されている。

ア.段落【0030】
「・・・基板12には、横方向にX1、縦方向にY1の配列ピッチで発光ダイオードが均一に配置されている。・・・」

イ.段落【0031】
「図4は、均斉度向上のための拡散板14の取付位置を示すバックライトユニットの側面図である。図4では、1枚の拡散板14を取り付ける場合を示している。すなわち、拡散板14は基板12と所定の間隔H1を保って表示面部の背面に配置されている。この所定の間隔H1は、基板12上の発光ダイオード13の配置ピッチX1と同寸法もしくはそれよりも大きい寸法としている。これは、所定の間隔H1が発光ダイオード13の配置ピッチX1より小さい場合には、発光ダイオード13からの光は拡散板14で十分に拡散しきれず、拡散板14に発光ダイオード13からの光源の像が円形もしくは楕円形の面光源として残り、均斉度が低下するからである。」

ウ.段落【0032】
「・・・発光ダイオード13を配置を施した基板12に、発光ダイオードの配置ピッチと同寸法もしくは大きい寸法の位置に、拡散板14を配置するので、発光ダイオード13を光源とする光が拡散板14で適正に拡散できる。従って、均斉度が向上する。」

2.本件特許発明4と甲1発明との対比・判断
本件特許発明4(本件特許発明1を引用する本件特許発明4)と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「第2の拡散板61」は、ぼやけを積分するものであり、本件特許発明4の「光拡散部材」に相当する。
本件特許発明4において本件特許発明1を引用している部分についての一致点及び相違点は、上記第5 2.で示したとおりである。

以上から、本件特許発明4と甲1発明とは、以下の点で一致し、また、相違する(分説記号も用いて記載した。)。

<一致点>
「(1A) 発光素子からの光を光束制御部材を介して出射するようになっている発光装置において、
(1B) 前記光束制御部材は、前記発光素子からの光が前記光束制御部材に入射する光入射面と、
(1C) 前記発光素子からの光の出射を制御する光制御出射面とを備え、
(1D) 前記発光装置の基準光軸に沿った方向から見た形状が略円形形状となるように形成されており、
(1E) 前記光制御出射面は、
前記発光装置の基準光軸近傍で且つ前記基準光軸を中心とする所定範囲に位置する球の一部を切り取ったような凹み形状の第1の出射面と、
(1F) この第1の出射面の周囲に連続して形成される第2の出射面とを有し、
(1G) これら第1の出射面と第2の出射面との接続部分が変曲点となっている、
(1L) ことを特徴とする発光装置、
(4A’) 前記された発光装置と、
(4B’) この発光装置からの光を拡散・透過する光拡散部材と、を備え、
(4C’) 前記発光装置が配置され、
(4D’) 前記光拡散部材が配置された、
(4E) ことを特徴とする面光源装置。」

<相違点1>
本件特許発明4は、「Ha、1Hb、1I、1J及び1K」を備えているのに対して、甲1発明は、マッシュルームレンズが、そのような形状及び出射光の状態を満たすか否かが定かでない点。

<相違点2>
「発光装置」について、本件特許発明4は、「複数の発光装置」であり、「複数の発光装置が互いに等間隔で配置され」ているのに対して、甲1発明は、そのように特定されるものではない点。

<相違点3>
「光拡散部材」について、本件特許発明4は、「これら複数の発光装置のうちの隣り合う発光装置からの出射光が混ざり合う位置に光拡散部材が配置された」のに対して、甲1発明は、そのように特定されるものではない点。

以下、各相違点につて判断する。

<相違点1について>
上記第5 2.に示すとおり、相違点1に係る構成(1Ha、1Hb、1I、1J及び1K)は、甲第1号証には、記載されているとすることはできず、また、当業者が容易になし得たものとする根拠もみあたらない。

<相違点2及び3について>
(ア)請求人は、審判請求書において、甲1発明に甲第2号証に記載の技術的事項を適用することで、相違点2については、「甲第1号証に記載された発光装置を複数採用し、それらを等間隔に配置することは、当業者が容易になし得た設計事項にすぎない(請求人の主張4)。」と、相違点3については、「甲第1号証に記載された発光装置を複数採用し、光拡散部材を「複数の発光装置のうちの隣り合う発光装置からの出射光が混ざり合う位置」に配置することは、当業者が容易になし得た設計事項にすぎない(請求人の主張5)。」と、主張する。
さらに、請求人は、口頭審理陳述要領書において、「本件特許の請求項4の記載は、本件発明4が、「光拡散部材」(構成要件4B)の他に、TIRレンズを備えることを、何ら排除していない(請求人の主張6)。」と主張する。

(イ)甲第1号証のFig.11のマッシュルームレンズ39は、TIRレンズ40に応じて設計されるもので一体不可分なものであり、甲第2号証に記載の技術的事項を甲1発明に適用することで、甲第1号証のFig.11等に示される、マッシュルームレンズ39、TIRレンズ40及び第2の拡散板61(光拡散部材)を一体とした発光装置を、等間隔で複数配置し上記相違点2に係る構成を得ること自体は、容易になし得たともいい得る。
しかし、その場合は、甲第1号証のFig.3,FIg.14,Fig.14aにあるようなTIRレンズ40で平行な光とした発光装置を、等間隔で複数配置したものとなるに留まるだけであり、射出光が混じり合う位置に第2の拡散板61(光拡散部材)を配置し得ないから、上記相違点3に係る構成が、容易になし得たとはいえない。
また、甲1発明に記載の第2の拡散板61(光拡散部材)は、拡散板60と協働することで、TIRレンズのファセットの影響による不均一な光の状態を見えなくするために設けられているものであって(記載事項オ.参照)、出射光が混ざり合う位置に配置するためのものとは機能が異なると考えられ、その第2の拡散板61(光拡散部材)を出射光が混ざり合う位置に配置する動機付けもない。
したがって、甲第1号証のFig.11に示される発光装置を等間隔で複数配置し得たとしても、請求人の主張5は採用することはできず、上記相違点3に係る本件特許発明4の構成は、容易になし得たとはいえない。

(ウ)本件特許明細書にはTIRレンズについての記載はなく、本件特許明細書の段落【0062】及び【0066】の記載事項並びに図10及び図11を参酌すると、本件特許発明4は、光束制御部材と光拡散部材との間には、少なくとも光を大きく偏向するTIRレンズ等を設けないものであると考えられる。そうすると、口頭審理陳述要領書における前記請求人の主張6を採用することはできず、また、TIRレンズ等を備えない本件特許発明4と、甲第1号証のFig.11のマッシュルームレンズ39とTIRレンズ40とが一体不可分なものとを比較すること自体に意味はみいだせない。

したがって、本件特許発明4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

3.本件特許発明5と甲1発明との対比・判断
本件特許発明4に他の発明特定事項を直列的に付加している本件特許発明5は、上記2.に示したと同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

4.無効理由2(進歩性の欠如)についてのまとめ
本件特許発明4及び5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第7 むすび
以上のとおり、請求人の主張する無効理由及び証拠方法によっては、本件特許発明1、2、4、5、6及び11に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
 
審理終結日 2015-02-26 
結審通知日 2015-03-02 
審決日 2015-03-18 
出願番号 特願2004-278888(P2004-278888)
審決分類 P 1 123・ 113- Y (F21Q)
P 1 123・ 121- Y (F21Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柿崎 拓  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 新海 岳
出口 昌哉
登録日 2006-11-02 
登録番号 特許第3875247号(P3875247)
発明の名称 発光装置、面光源装置、表示装置及び光束制御部材  
代理人 永島 孝明  
代理人 若山 俊輔  
代理人 安國 忠彦  
代理人 升永 英俊  
代理人 久米川 正光  
代理人 佐藤 睦  
代理人 綾 聡平  
代理人 阪 和之  

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