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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1317366
審判番号 不服2015-17341  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-24 
確定日 2016-07-21 
事件の表示 特願2012- 4641「半導体装置およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月25日出願公開、特開2013-145770〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成24年1月13日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成26年 7月28日 審査請求
平成27年 1月16日 拒絶理由通知
平成27年 2月26日 意見書・手続補正
平成27年 6月30日 拒絶査定
平成27年 9月24日 審判請求・手続補正
平成27年12月16日 上申書

第2 補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年9月24日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであって,特許請求の範囲の請求項1については,本件補正の前後で以下のとおりである。
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「一方の主表面側に開口し底面および壁面を有する第1トレンチが形成され、炭化珪素からなる基板と、
前記第1トレンチの前記底面上および前記壁面上に接触して配置されたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に接触して配置されたゲート電極とを備え、
前記基板は、
前記基板の前記主表面および前記第1トレンチの前記壁面を含む第1導電型のソース領域と、
前記ソース領域に接触し、前記第1トレンチの前記壁面を含む第2導電型のボディ領域と、
前記ボディ領域に接触し、前記第1トレンチの前記壁面を含む第1導電型のドリフト領域と、
前記ボディ領域に接触し、前記第1トレンチよりも深い領域にまで延在する第2導電型のディープ領域とを含み、
前記第1トレンチは、前記ソース領域および前記ボディ領域を貫通し前記ドリフト領域に達するように形成され、
前記第1トレンチは、前記基板の前記主表面から離れるに従い、前記壁面と前記ディープ領域との距離が大きくなるように形成されている、半導体装置。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正後の,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。
「一方の主表面側に開口し底面および壁面を有する第1トレンチが形成され、炭化珪素からなる基板と、
前記第1トレンチの前記底面上および前記壁面上に接触して配置されたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に接触して配置されたゲート電極とを備え、
前記基板は、
前記基板の前記主表面および前記第1トレンチの前記壁面を含む第1導電型のソース領域と、
前記ソース領域に接触し、前記第1トレンチの前記壁面を含む第2導電型のボディ領域と、
前記ボディ領域に接触し、前記第1トレンチの前記壁面を含む第1導電型のドリフト領域と、
前記ボディ領域に接触し、前記第1トレンチよりも深い領域にまで延在する第2導電型のディープ領域とを含み、前記第1トレンチの底面は、前記ディープ領域の底部と前記ドリフト領域との接触面よりも前記基板の前記一方の主表面側に位置し、
前記第1トレンチは、前記ソース領域および前記ボディ領域を貫通し前記ドリフト領域に達するように形成され、
前記第1トレンチは、前記基板の前記主表面から離れるに従い、前記壁面と前記ディープ領域との距離が大きくなるように形成されている、半導体装置。」
(3)補正事項
本件補正による,特許請求の範囲の請求項1についての補正は,補正前請求項1の「第1トレンチ」について「前記第1トレンチの底面は、前記ディープ領域の底部と前記ドリフト領域との接触面よりも前記基板の前記一方の主表面側に位置し」という限定を付加して,補正後請求項1とするものである。
2 補正の適否
本願の願書に最初に添付した明細書の段落0028及び0029並びに図1の記載からみて,本件補正は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであることは明らかであるので,前記補正事項は,特許法第17条の2第3項の規定に適合する。
そして,本件補正は前記1(3)のとおり,本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項を限定的に減縮するものであるから,特許法第17条の2第4項の規定に適合することは明らかであり,また,同法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項)につき,更に検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は,本件補正後の請求項1に記載された,次のとおりのものと認める。(再掲)
「一方の主表面側に開口し底面および壁面を有する第1トレンチが形成され、炭化珪素からなる基板と、
前記第1トレンチの前記底面上および前記壁面上に接触して配置されたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に接触して配置されたゲート電極とを備え、
前記基板は、
前記基板の前記主表面および前記第1トレンチの前記壁面を含む第1導電型のソース領域と、
前記ソース領域に接触し、前記第1トレンチの前記壁面を含む第2導電型のボディ領域と、
前記ボディ領域に接触し、前記第1トレンチの前記壁面を含む第1導電型のドリフト領域と、
前記ボディ領域に接触し、前記第1トレンチよりも深い領域にまで延在する第2導電型のディープ領域とを含み、前記第1トレンチの底面は、前記ディープ領域の底部と前記ドリフト領域との接触面よりも前記基板の前記一方の主表面側に位置し、
前記第1トレンチは、前記ソース領域および前記ボディ領域を貫通し前記ドリフト領域に達するように形成され、
前記第1トレンチは、前記基板の前記主表面から離れるに従い、前記壁面と前記ディープ領域との距離が大きくなるように形成されている、半導体装置。」
(2)引用文献1の記載と引用発明
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2009-117593号公報(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(下線は当審において付加した。以下同じ。)
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、トレンチゲートを有する炭化珪素(以下、SiCという)半導体装置およびその製造方法に関する。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようにトレンチ底部においてゲート絶縁膜を厚くした構造において、例えば、トレンチ側面の膜厚を40nmとし、トレンチ底部の膜厚を200nmに設計してシミュレーションで計算したところ、ドレインに1200V印加した場合、トレンチ内のゲート絶縁膜の電界集中を6.7MV/cmに低減できることが確認できたが、まだ十分ではなく、更なる電界緩和が必要であることが判った。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、トレンチ内に形成するゲート酸化膜での電界集中をより緩和できるSiC半導体装置およびその製造方法に関する。」
(ウ)「【0024】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。ここではSiC半導体装置に備えられる素子として反転型のトレンチゲート構造のMOSFETについて説明する。図1は、本実施形態にかかるトレンチゲート構造のMOSFETの断面図である。なお、図1では、MOSFETの1セル分しか記載していないが、図1に示すMOSFETと同様の構造のMOSFETが複数列隣り合うように配置されている。
【0025】
図1に示すように、表面が(000-1)c面で構成された窒素(n型不純物)濃度が例えば1.0×10^(19)/cm^(3)で厚さ300μm程度のn^(+)型基板1が半導体基板として用いられており、このn^(+)型基板1の表面に窒素濃度が例えば8.0×10^(15)/cm^(3)で厚さ15μm程度のn^(-)型ドリフト層2が形成されている。n^(-)型ドリフト層2の表層部にはp^(+)型ベース領域3が形成されていると共に、このp型ベース領域3の上層部分にn^(+)型ソース領域4が形成されている。
【0026】
p型ベース領域3は、ボロンもしくはアルミニウム(p型不純物)濃度が例えば1.0×10^(19)/cm^(3)、厚さ0.7μm程度で構成されている。n^(+)型ソース領域4は、表層部の窒素濃度(表面濃度)が例えば1.0×10^(21)/cm^(3)、厚さ0.3μm程度で構成されている。
【0027】
また、p型ベース領域3およびn^(+)型ソース領域4を貫通してn^(-)型ドリフト層2に達するように、例えば幅が2.0μm、深さが2.0μmのトレンチ5が形成されている。このトレンチ5の側面と接するようにp型ベース領域3およびn^(+)型ソース領域4が配置されている。トレンチ5の内壁面はゲート酸化膜6にて覆われており、ゲート酸化膜6の表面に形成されたドープトPoly-Siにて構成されたゲート電極7により、トレンチ5内が埋め尽くされている。
【0028】
トレンチ5は、底面がn^(+)型基板1の表面と同じ(000-1)c面、側面が[11-20]方向に延設された面、例えばa(1120)面とされている。ゲート酸化膜6は、トレンチ5の表面を熱酸化することで形成されたものであり、トレンチ5の底部での酸化レートがトレンチ5の側面での酸化レートよりも5倍程度速いことから、ゲート酸化膜6の厚みはトレンチ5の側面上で40nm程度、トレンチ5の底部上で200nm程度となっている。
【0029】
また、隣接するトレンチ5の間に配置されるp型ベース領域3の中央部、つまりn^(+)型ソース領域4を挟んでトレンチ5の反対側に配置されるように、p^(+)型コンタクト領域8が形成されている。そして、このp^(+)型コンタクト領域8の下方において、p型ベース領域3よりも深いp^(+)型ディープ層9が形成されている。本実施形態では、これらp^(+)型コンタクト領域8およびp^(+)型ディープ層9が一体的に構成されており、共に、ボロンもしくはアルミニウム濃度が1.0×10^(17)/cm^(3)?1.0×10^(20)/cm^(3)とされている。p^(+)型ディープ層9は、トレンチ5と同じもしくはトレンチ5よりも深く構成され、例えばp型ベース領域3の表面からの1.5?3.5μmの深さとされている。また、p^(+)型ディープ層9は、トレンチ5の側面から所定距離離間した配置とされるが、この距離は適宜調整可能であり、例えば2?5μm程度とすることができる。
【0030】
なお、p^(+)型ディープ層9はトレンチ5に対して2.0μmもしくはそれ以上深くできるが、後述するようにトレンチ5と同時に形成する場合には図1に示すようにトレンチ5と同じ深さとなる。
【0031】
また、n^(+)型ソース領域4およびp^(+)型コンタクト領域8の表面やゲート電極7の表面には、ソース電極10およびゲート配線11が形成されている。ソース電極10およびゲート配線11は、複数の金属(例えばNi/Al等)にて構成されており、少なくともn型SiC(具体的にはn^(+)型ソース領域4やゲート電極7がnドープの場合にはゲート電極7)と接触する部分はn型SiCとオーミック接触可能な金属で構成され、少なくともp型SiC(具体的にはp^(+)型コンタクト領域8やゲート電極7がnドープの場合にはゲート電極7)と接触する部分はp型SiCとオーミック接触可能な金属で構成されている。なお、これらソース電極10およびゲート配線11は、図示しない層間絶縁膜上に形成されることで電気的に絶縁されており、層間絶縁膜に形成されたコンタクトホールを通じてソース電極10はn^(+)型ソース領域4およびp^(+)型コンタクト領域8と電気的に接触させられ、ゲート配線11はゲート電極7と電気的に接触させられている。
【0032】
そして、n^(+)型基板1の裏面側にはn^(+)型基板1と電気的に接続されたドレイン電極12が形成されている。このような構造により、nチャネルタイプの反転型のトレンチゲート構造のMOSFETが構成されている。
【0033】
このように構成されたMOSFETは、ゲート電極7に対してゲート電圧を印加すると、p型ベース領域3のうちトレンチ5の側面に配置されたゲート酸化膜6と接する部分が反転型チャネルとなり、ソース電極10とドレイン電極12との間に電流を流す。
【0034】
このとき、ドレイン電圧としてシリコンデバイスの10倍近い高電圧(例えば1200V)が使用されるため、この電圧の影響によりゲート酸化膜6にもシリコンデバイスの10倍近い電界がかかり、ゲート酸化膜6(特に、ゲート酸化膜6のうちのトレンチ5の底部において)に電界集中が発生し得る。しかしながら、本実施形態では、トレンチ5と同じもしくはトレンチ5よりも深いp^(+)型ディープ層9を備えた構造としている。このため、p^(+)型ディープ層9とn^(-)型ドリフト層2とのPN接合部での空乏層がn^(-)型ドリフト層2側に大きく伸びることになり、ドレイン電圧の影響による高電圧がゲート酸化膜6に入り込み難くなる。
【0035】
このため、ゲート酸化膜6内での電界集中、特にゲート酸化膜6のうちのトレンチ5の底部での電界集中を緩和することが可能となる。これにより、ゲート酸化膜6が破壊されることを防止することが可能となる。」
(エ)図1には,基板1,ドリフト層2,ベース領域3及びソース領域4の順でなる積層体の上面側にトレンチ5が開口していること,ドリフト層2がトレンチ5の側面に接していること,及びディープ層9がベース領域3に接触しその底面がドリフト層2に達していること,が記載されていると認められる。
イ 引用発明
前記アより,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「基板,n^(-)型のドリフト層,p型のベース領域及びn^(+)型のソース領域の順でなる積層体の上面側にトレンチが開口しており,トレンチは底面と側面を有し,トレンチの内壁面はゲート酸化膜にて覆われており,ゲート酸化膜の表面にゲート電極が形成されており,前記n^(+)型のソース領域はトレンチの側面と接するように配置され,前記p型のベース領域はトレンチの側面と接して配置され,前記n^(-)型のドリフト層はトレンチの側面と接して配置され,前記p型のベース領域に接触しトレンチより深くその底面が前記n^(-)型のドリフト層に達するp^(+)型のディープ層が構成され,前記トレンチは前記p型ベース領域及び前記n^(+)型のソース領域を貫通して前記n^(-)型のドリフト層に達するように形成されているSiC半導体装置。」
(3)引用文献2の記載と引用発明2
ア 引用文献2
原査定で引用された,本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2005-340685号公報(以下,「引用文献2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
半導体材料として炭化珪素を用いたMOSFET又はIGBT等の電圧駆動のMOS型電力用半導体素子、特にトレンチ型の半導体素子に関する。」
(イ)「【0007】
以上のようなことから、特に1?2kV程度の耐圧を持つトランジスタにおいては、オン抵抗が無視できないため、オン抵抗を微細化により低減できるUMOSFETが有望である。
しかし、実際のデバイスでは、上記で説明したように様々な抵抗成分が存在しており、これら抵抗成分は、絶縁耐圧が低くなればなるほど、ドリフト層の抵抗に対して割合が増加していくことが問題となっている。
また、MOSFETにおいては、以下の式で示されるチャネル抵抗成分が大きな割合を占めているという問題がある。
R_(CH)=L/{WC_(OX) μ_(n)(V_(G)-V_(T))} ・・式(2)
ここで、Lはチャネル長、Wはチャネル幅、C_(OX)は酸化膜容量、μ_(n)はキャリアの移動度、V_(G)はゲート電圧、V_(T)はゲートのしきい値電圧である。この(2)式からR_(CH)は、電子の移動度μ_(n)の影響を大きく受けることがわかる。
【0008】
MOSFETでは炭化けい素とゲート酸化膜との界面に存在するトラップ準位に電子が捕獲されて実際に伝導に寄与する電子の数が減少したり、トラップされた電子によるクーロン散乱のため移動度がバルクの値より低下するという問題がある。以下に移動度向上の取り組みの例を順次説明する。
まず、UMOSFETが作製されるSiCの結晶構造、結晶面について説明する。図13に単位セル構造とMOS界面に主に用いられる六方晶炭化珪素の結晶面を示す。主な六方晶炭化珪素には、一対のSi-Cから成る層がc軸方向に4層周期で積層された構造になっている4H-SiCと6層周期で積層されている6H-SiCがある。4H-SiCでは図13の単位格子内に5層、6H-SiCでは7層含まれている。
図13の(a)は六角柱の上面が(0001)面、底面が(000-1)面であり、(b)は六角柱の側面が(1-100)面、(c)は(1-100)面と垂直な面の(11-20)面、(d)は上面の六角形の一辺を共有しかつ底面と成す角が54.7°である面が、4H(03-38)面あるいは6H(01-14)面と呼ばれている面である。なお、ここで、格子面の記号の説明をすると、負の指数については、結晶学上、数字に上付きのバー(-)を用いるが、電子出願の関係上、数字の前に(-)の符号を付けることとする。そして、等価な対称性を持つ面については{ }で表し、結晶内の方向を示す場合は[ ]で表し、等価な方向すべてを示す場合は〈 〉で表すこととする。
【0009】
現在は、(0001)面あるいは(000-1)面が主表面である炭化珪素単結晶インゴットがバルク成長され、そのウェハを切り出し、研磨して(0001)面、(000-1)面を主表面とする炭化珪素ウェハが作製される。従って、DIMOSFETにおいては、これらの面をMOS界面として素子が作製される。
非特許文献1の記載を参照するところによると、4H-SiCの各結晶面上にMOS界面を形成し、その時のMOSFETの移動度を調査した結果、実効移動度(effective mobility)が(0001)、(11-20)、(03-38)面でそれぞれ、3.8cm^(2)/Vs、5.4cm^(2)/Vs、10.6cm^(2)/Vsと(0001)面より(11-20)面や(03-38)面上のMOSFETの移動度が高いことが報告されている。この理由として4Hあるいは6H-SiCの(0001)面はSi(111)面と、4Hあるいは6H-SiCの(11-20)面や4Hあるいは6H-SiCの(1-100)面はSi(110)面と、4H-SiC(03-38)面あるいは6H-SiC(01-14)面はSi(100)面と等価な面と説明されており、Siでも(100)面、(110)面、(111)面の順に移動度が高い。この理由として、原子の面密度が低いほど界面準位密度が下がり、その界面準位に捕獲される伝導電子が少なくなることや捕獲された電子からのクーロン散乱が少なくなることによると説明されている。また、4H-SiC(03-38)面あるいは6H-SiC(01-14)面を用いたMOSFETが特許文献2に記載されている。」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、六方晶炭化珪素ウェハ上にUMOSFETを作製する場合、特許文献3や特許文献4のように主表面が(000-1)面である場合、結晶c軸に平行ならせん転位やマイクロパイプと呼ばれる中空欠陥がUMOSFETが作製される最表面に到達し、逆バイアス時のリーク電流の増加や絶縁破壊電圧の低下を引き起こす問題があった。
また、特許文献5では、(11-20)面を主表面とするSiCウェハをエッチングしてMOS界面として(11-20)面を露出させているが、この(11-20)側壁面は主表面に対して60°の角度とする必要があり、垂直側壁と比較してエッチングが困難であると言う問題がある。
また、特許文献5に記載されているように(1-100)面を主表面とするウェハに垂直にトレンチを掘り(11-20)面を出し、その面上にMOS構造を形成する方法では、トレンチ底のコーナが直角になり、このコーナにおいて電界が集中して、平行平板のpn接合で規定される絶縁耐圧と比べて低い逆電圧で絶縁破壊を引き起こすと言う問題があった。
特許文献3や特許文献4における手法においても移動度はまだ不十分である。また、トレンチ底部の角度が直角であると電界集中を起こし、早期絶縁破壊につながると言う問題もある。」
(エ)「【0020】
(1-100)面は、c軸と垂直な面であるので、らせん転位、マイクロパイプが主表面に露出しないため、大幅に転位密度を低減できる。さらに、上記のトレンチ側壁を用いるとトレンチ底部コーナが鈍角となり、電界集中が緩和される。
(0001)あるいは(000-1)面と成す角が5°以内の面を主表面とする第1の伝導型である4Hあるいは6H型六方晶炭化珪素半導体基板上に基板と同じ構造をもつ炭化珪素がエピタキシャル成長させた同じく第1の伝導型であるドリフト層を有するウェハ上に第2の伝導型であるベース層、さらに第1の伝導型であるソース層を順次形成し、さらに主表面の一部の領域を連続的にソース層およびベース層を完全にエッチング除去した後、少なくともエッチングされた底面、側壁を覆うように絶縁層を形成し、その絶縁層上の少なくとも第2の伝導型であるベース層の側壁を覆うように第1の電極を形成してMOS構造とし、さらにエッチングされていない主表面に絶縁層を介さずに直接第1の伝導型であるソース領域上にオーミック性を有する第2の電極を形成し、主表面の裏面全面にオーミック性を有する第3の電極を形成して作製される金属酸化物半導体-電界効果型トランジスタにおいて、エッチングされたトレンチ側壁が[11-20]方向と平行あるいは成す角が10°以下であり、かつ{0001}面あるいは{000-1}面とトレンチ側面との成す角が54.7°±10°であるようなトレンチ側壁含んだMOSチャネル面を有するようにすると良い。」
(オ)「【0023】
さらに、{1-100}を主表面とする基板上にUMOSFETを作製した場合において、全素子数の8割の素子が達成できる絶縁耐圧は、垂直にゲートトレンチをエッチングした場合では理論値の60%であったのに対し、できるだけ{1-100}面に近づけた面上にMOS構造を作製した場合では理論値の70%、できるだけ4H-SiC{03-38}面あるいは6H-SiC{01-14}面に近づけた面上にMOS構造を作製した場合では理論値の80%となり、トレンチ底部の炭化珪素外のコーナ角度が大きくなるほど絶縁耐圧が向上すると言う効果が得られた。
{0001}あるいは{000-1}を主表面とする基板上にUMOSFETを作製した場合において、全素子数の8割の素子が達成できる絶縁耐圧は、垂直にゲートトレンチをエッチングした場合では理論値の60%であったのに対し、できるだけ4H-SiC{03-38}面あるいは6H-SiC{01-14}面に近づけた面上にMOS構造を作製した場合では理論値の80%となり、トレンチ底部の炭化珪素外のコーナ角度が大きくなるほど絶縁耐圧が向上すると言う効果が得られた。
【0024】
また、移動度も(11-20)面、(1-100)面とも150cm^(2)/Vsであったのに対し、4H-SiC{03-38}面あるいは6H-SiC{01-14}面上にMOS構造を形成することによって200cm^(2)/Vsの値が得られ、チャネル抵抗を低減できた。」
(カ)「【0033】
図10は半導体基板14の面方位とトレンチ11の面方位を示すための構造図であり、(a)は平面図,(b)は(a)のA-A線の主表面の断面図、(c)はA-A線の主裏面の断面図である。この場合、<0001>方向から見たときのトレンチ11外周の長方形の長辺が[-2110]に平行であり、かつトレンチ外周の長方形の長辺を含む面が(0001)面に対して成す角ができるだけ54.7°に近づくようにエッチングする。そうすると、4H-SiC{03-38}面あるいは6H-SiC{01-14}面に近い面を露出させることができる。このように斜めの角度でエッチングするためには、エッチングマスクをテーパ状にすることと、ガス圧を横方向エッチングを促進することが効果的である。」
イ 引用発明2
前記アより,引用文献2には,次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「炭化珪素を用いたトレンチ型の半導体素子において,基板の主表面とトレンチ側面とのなす角が約54.7度であるトレンチ型の半導体素子。」
(4)本願補正発明と引用発明との対比
ア 本願補正発明の「基板」について,本願明細書段落0045には「ベース基板11と半導体層12とを含み,主表面10Aを有する基板10が準備される。」と記載されており,本願補正発明の「基板」は,基板と半導体層との積層体を含むと解されるので,引用発明における「基板,n^(-)型のドリフト層,p型のベース領域及びn^(+)型のソース領域の順でなる積層体」は,本願補正発明の「基板」に相当すると認められる。
引用発明における「上面」は,本願補正発明の「一方の主表面」に相当すると認められる。
引用発明の「トレンチ」は,下記の相違点に係る構成を除いて「第1トレンチ」に相当すると認められる。
そして,引用発明はSiC半導体装置なので「積層体」が炭化珪素からなることは自明である。
そうすると,引用発明の「基板,n^(-)型のドリフト層,p型のベース領域及びn^(+)型のソース領域の順でなる積層体の上面側にトレンチが開口しており,トレンチは底面と側面を有し」との構成は,下記の相違点に係る構成を除き,本願補正発明の「一方の主表面側に開口し底面および壁面を有する第1トレンチが形成され、炭化珪素からなる基板」を含むとの構成に相当するといえる。
イ 引用発明の「トレンチの内壁面」を覆う「ゲート酸化膜」は,ゲート酸化膜がゲート絶縁膜と等しいこと(前記(2)ア(イ)参照。)から,本願補正発明の「第1トレンチの前記底面上および前記壁面上に接触して配置されたゲート絶縁膜」に相当すると認められる。
ウ 引用発明の「ゲート酸化膜の表面に」形成された「ゲート電極」は,本願補正発明の「前記ゲート絶縁膜上に接触して配置されたゲート電極」に相当すると認められる。
引用発明の「n型」及び「p型」は,それぞれ本願補正発明の「第1導電型」及び「第2導電型」に相当すると認められる。
エ 引用発明の「n^(+)型のソース領域」,「p型のベース領域」,「n^(-)型のドリフト層」及び「p^(+)型のディープ層」は,その位置関係から見て,それぞれ本願補正発明の「第1導電型のソース領域」,「第2導電型のボディ領域」,「第1導電型のドリフト領域」及び「第2導電型のディープ領域」に相当すると認められる。
オ 引用発明の「p^(+)型のディープ層」は,「トレンチより深くその底面が前記n^(-)型のドリフト層に達する」もので,引用発明の「トレンチ」は積層体の上面側に開口しその反対側に底面を有するものであるから,本願補正発明にいう「前記第1トレンチの底面は、前記ディープ領域の底部と前記ドリフト領域との接触面よりも前記基板の前記一方の主表面側に位置」するという位置関係を満たすものである。
そうすると,引用発明における「前記p型のベース領域に接触しトレンチより深くその底面が前記n^(-)型のドリフト層に達するp^(+)型のディープ層が構成され」ることは,本願補正発明の「前記ボディ領域に接触し、前記第1トレンチよりも深い領域にまで延在する第2導電型のディープ領域とを含み、前記第1トレンチの底面は、前記ディープ領域の底部と前記ドリフト領域との接触面よりも前記基板の前記一方の主表面側に位置」することに相当すると認められる。
キ 本願補正発明の「前記第1トレンチは、前記ソース領域および前記ボディ領域を貫通し前記ドリフト領域に達するように形成される」ことと,引用発明の「前記トレンチは前記p型ベース領域及び前記n^(+)型のソース領域を貫通して前記n^(-)型のドリフト層に達するように形成されている」こととは,「前記第1トレンチは、前記ソース領域および前記ボディ領域を貫通し前記ドリフト領域に達するように形成される」点で,共通すると認められる。
ク 引用発明の「SiC半導体装置」は,下記の相違点に係る構成を除き,本願発明の「半導体装置」に相当するといえる。
ケ してみると,本願補正発明と引用発明とは,下記(ア)の点で一致し,下記(イ)の点で相違すると認められる。
(ア)一致点
「一方の主表面側に開口し底面および壁面を有する第1トレンチが形成され、炭化珪素からなる基板と、
前記第1トレンチの前記底面上および前記壁面上に接触して配置されたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に接触して配置されたゲート電極とを備え、
前記基板は、
前記基板の前記主表面および前記第1トレンチの前記壁面を含む第1導電型のソース領域と、
前記ソース領域に接触し、前記第1トレンチの前記壁面を含む第2導電型のボディ領域と、
前記ボディ領域に接触し、前記第1トレンチの前記壁面を含む第1導電型のドリフト領域と、
前記ボディ領域に接触し、前記第1トレンチよりも深い領域にまで延在する第2導電型のディープ領域とを含み、前記第1トレンチの底面は、前記ディープ領域の底部と前記ドリフト領域との接触面よりも前記基板の前記一方の主表面側に位置し、
前記第1トレンチは、前記ソース領域および前記ボディ領域を貫通し前記ドリフト領域に達するように形成される、
半導体装置。」
(イ)相違点
本願補正発明では,「前記第1トレンチは、前記基板の前記主表面から離れるに従い、前記壁面と前記ディープ領域との距離が大きくなるように形成されている」のに対し,引用発明は,上記の構成を備えていない点。
(5)相違点についての検討
ア 前記(3)イのとおり,引用発明2は「炭化珪素を用いたトレンチ型の半導体素子において,基板の主表面とトレンチ側面とのなす角が約54.7度であるトレンチ型の半導体素子。」であり,移動度の改善と同時にトレンチ底部での電界集中を避けることを課題としたものである(前記(3)ア(ウ)参照。)。そして,引用発明は,SiC半導体装置において,ゲート絶縁膜での電界集中を緩和することを課題とするもので(前記(2)ア(イ)参照。),また,移動度の改善は,半導体装置における一般的課題である。そうすると,引用発明においてゲート絶縁膜での電界集中を緩和し移動度を改善するために,引用発明2の構成を採用して,基板の主表面とトレンチ側面とのなす角を約54.7度とすることは,当業者が容易に想到し得るものである。そして,その結果引用発明における「トレンチ」は「基板」の主表面から離れるに従い,その壁面とディープ層との距離が大きくなるように形成されることは,明らかである。
以上から,引用発明において相違点1に係る構成とすることは,引用発明2に基づいて当業者が容易になし得たものである。
イ 請求人は,上申書において,引用文献1に記載の発明においては,ドレイン電圧の影響による高電圧がトレンチの底部に位置するゲート酸化膜に入り込みにくくするためにディープ層を設けているので,トレンチの底部とディープ層の底部とはできるだけ近いことが求められるから,「前記第1トレンチは、前記基板の前記主表面から離れるに従い、前記壁面と前記ディープ領域との距離が大きくなるように形成されている」ように改変することに対して阻害要因がある旨主張する。
そこで,この主張について検討すると,引用文献1には「p^(+)型ディープ層9は、トレンチ5の側面から所定距離離間した配置とされるが、この距離は適宜調整可能であり、例えば2?5μm程度とする」と記載されている(前記(2)ア(ウ)段落0029参照。)のであって,請求人が主張する「できるだけ近いことが求められる」などということは記載されていない。むしろ,その例示されている距離の下限が2μmとなっていることから,当業者にとってはキャリアの通過領域を確保すべく所定距離離間すべきことが読み取れる。してみると,請求人の前記主張は根拠を欠くと言うべきである。
(6)本願補正発明の効果について
本願補正発明の効果は,引用発明の構成から当業者が予測できる程度のもので,格別なものではない。
(7)まとめ
本願補正発明は,引用文献1及び2にそれぞれ記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 むすび
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明の特許性の有無について
1 本願発明について
平成27年9月24日にされた手続補正は前記のとおり却下された。
そして,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成27年2月26日付け手続補正による補正がされた特許請求の範囲の請求項1に記載された,次のとおりのものと認める。(再掲)
「一方の主表面側に開口し底面および壁面を有する第1トレンチが形成され、炭化珪素からなる基板と、
前記第1トレンチの前記底面上および前記壁面上に接触して配置されたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に接触して配置されたゲート電極とを備え、
前記基板は、
前記基板の前記主表面および前記第1トレンチの前記壁面を含む第1導電型のソース領域と、
前記ソース領域に接触し、前記第1トレンチの前記壁面を含む第2導電型のボディ領域と、
前記ボディ領域に接触し、前記第1トレンチの前記壁面を含む第1導電型のドリフト領域と、
前記ボディ領域に接触し、前記第1トレンチよりも深い領域にまで延在する第2導電型のディープ領域とを含み、
前記第1トレンチは、前記ソース領域および前記ボディ領域を貫通し前記ドリフト領域に達するように形成され、
前記第1トレンチは、前記基板の前記主表面から離れるに従い、前記壁面と前記ディープ領域との距離が大きくなるように形成されている、半導体装置。」
2 引用発明及び引用発明2
引用発明及び引用発明2は,それぞれ前記第2の2(2)イ及び同(3)イで認定したとおりである。
3 対比及び判断
前記第2の1に記載したとおり,本願発明は,本願補正発明から,本件補正による補正事項に係る技術的限定,すなわち,「前記第1トレンチの底面は、前記ディープ領域の底部と前記ドリフト領域との接触面よりも前記基板の前記一方の主表面側に位置し」との構成を取り除いたものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに前記の技術的限定を付加したものに相当する本願補正発明が,前記第2の2(4)ないし(7)に記載したとおり,引用文献1及び2にそれぞれ記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,本願発明は,同様の理由により,引用文献1及び2にそれぞれ記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。
4 まとめ
以上から,本願発明は,引用文献1及び2にそれぞれ記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第4 結言
したがって,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-18 
結審通知日 2016-05-24 
審決日 2016-06-06 
出願番号 特願2012-4641(P2012-4641)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 恩田 和彦儀同 孝信棚田 一也  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 河口 雅英
深沢 正志
発明の名称 半導体装置およびその製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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