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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1317400
審判番号 不服2014-22781  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-07 
確定日 2016-07-20 
事件の表示 特願2011-195170「低コストのInGaAlNに基づくレーザ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月19日出願公開、特開2012- 15542〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2006年8月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年8月25日、米国)を国際出願日とする特願2008-528144号の一部を平成23年9月7日に新たな特許出願としたものであって、同年9月8日に特許請求の範囲の補正がなされ、平成25年6月14日付けで拒絶理由が通知され、同年12月18日に特許請求の範囲の補正がなされたが、平成26年6月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に特許請求の範囲の補正がなされ、当審において平成27年6月17日付けで拒絶理由が通知され、同年9月17日に特許請求の範囲の補正がなされるとともに誤訳訂正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成27年9月17日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次の事項により特定されるものである。

「長さI_(s)および幅b_(s)の基板と、
前記基板上の、エピタキシャル成長されるInGaAlNに基づく半導体と、
前記半導体に形成される長さI_(c)の共振器を有する少なくとも1つのレーザ導波路と、を備え、
前記レーザ導波路が、レーザミラーを形成する少なくとも1つのエッチングされたレーザファセットを有し、
前記レーザ導波路が幅w_(I)のレーザ強度分布を有するとともに、この強度分布が前記レーザ導波路の中心で高く、前記レーザ導波路の両側に向けて低下し、
I_(c)は、次の不等式:exp(-D×w_(I)×I_(c))>0.50を満足するように選択され、
Dは、レーザ導波路の共振器を形成する半導体の活性層における欠陥密度を指定する、チップ。」

3.引用例及び本願明細書の記載
(1)引用例1及び引用発明
原査定の拒絶理由に引用された特開2000-4066号公報(以下「引用例1」という。)には、図とともに次の記載がある(下線は、当審による。)。

ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は窒化物半導体(In_(X)Al_(Y)Ga_(1-X-Y)N、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)よりなるレーザ素子の製造方法に係り、特にエッチングにより形成された共振面から放射されるレーザ光に関して、良好なファーフィールドパターンを有する光の取り出しが可能な窒化物半導体レーザ素子の製造方法に関する。
…。
【0008】そこで、本発明の目的は、レーザ光のファーフィールドパターンが良好で、単一モードのレーザ光が得られ、また素子をチップ状にカットする際に、容易に研磨、スクライビングができるようにする、窒化物半導体レーザ素子の製造方法を提供することである。」

イ 「【0011】
【発明の実施の形態】更に図を用いて本発明を詳細に説明する。図1は基板1上に、n型窒化物半導体層(n型層)2(コンタクト層、光ガイド層及び光閉じこめ層等の積層構造を有する)、活性層3、p型窒化物半導体層(p型層)4(コンタクト層、光ガイド層及び光閉じこめ層等の積層構造を有する)が積層されている窒化物半導体の模式的断面図である(第一の工程)。これを所定のチップサイズになるようなパターンのマスクをかけ、RIE(反応性イオンエッチング)により基板1が露出するまで窒化物半導体201を取り除き、溝を作る(第二の工程)。この溝を作ることで、半導体レーザをチップ化する際に、基板側を研磨して基板1を薄くした際の、窒化物半導体と基板1との格子定数差によるウエハーの反りを小さくすることができ、研磨とその後のスクライバーを用いてウエハーを割る工程を容易にできる。
【0012】図2は第二の工程まで終えたところで、次に第三の工程として、溝201上部にある第一の工程により露出されたn型層平面の隅部202を除去する(第三の工程)。除去する隅部202はダイサーで削っても、またRIE等のエッチングを行っても良い。この隅部202を除去しなければ、出射したレーザが第一の工程により露出されたn型層平面で反射し、ファーフィールドパターンを乱してしまう。」

ウ 「【0015】
【実施例】[実施例1]MOCVD法を用いてサファイア基板上に下記の層構成を形成した。サファイア基板の上に、n型GaNよりなるn型コンタクト層と、n型AlGaNよりなるn型閉じこめ層と、n型AlGaNよりなる光ガイド層と、InGaNよりなる活性層と、p型AlGaNよりなる光ガイド層と、p型AlGaNよりなる光閉じこめ層と、p型GaNよりなるp型コンタクト層とを積層したウエハーを作製する。
【0016】次に、n型層を露出させるためのマスクを形成し、SiCl_(4)ガス、Cl_(2)ガスを用いてRIEを行う。次にマスク除去後に、所定のチップサイズになるようなパターンのマスクをかけ、RIEによりサファイア基板が露出するまでエッチングを行い、溝を形成する。
【0017】次にマスクを除去後に、最上層のp型コンタクト層にp電極を、露出したn型コンタクト層にn電極を、互いに平行なストライプ形状でそれぞれ形成する。次に電極形成により露出されたn型層平面に、レーザチップを分離させるための溝を形成する。溝形成後、溝部上部にあるn型層平面の隅部を、レーザの広がり角が30°以上となるように、ダイサーを用いて削る。
【0018】最後に基板を100μmの厚さまで研磨した後、スクライビングすることにより、レーザチップを得た。以上のようにして得られたレーザチップを実際に発振させたところ、広がり角が30°以上の良好なファーフィールドパターンを得ることができた。」

上記によれば、引用例1には
「窒化物半導体(In_(X)Al_(Y)Ga_(1-X-Y)N、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)よりなり、エッチングにより形成された共振面を備え、単一モードのレーザ光が得られるレーザチップであって、
MOCVD法を用いて、サファイア基板の上に、n型GaNよりなるn型コンタクト層と、n型AlGaNよりなるn型閉じこめ層と、n型AlGaNよりなる光ガイド層と、InGaNよりなる活性層と、p型AlGaNよりなる光ガイド層と、p型AlGaNよりなる光閉じこめ層と、p型GaNよりなるp型コンタクト層とを積層したウエハーを作製し、
RIE(反応性イオンエッチング)を行って、n型層を露出させ、
最上層のp型コンタクト層にp電極を、露出したn型コンタクト層にn電極を、互いに平行なストライプ形状でそれぞれ形成し、
レーザチップを分離させるための溝を形成し、
基板を100μmの厚さまで研磨した後、スクライビングすることにより得られたレーザチップ。」(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)引用例2
同じく、原査定の拒絶理由に引用された特開平7-335987号公報(以下「引用例2」という。)には、次の記載がある。

ア 「【0004】ところで、半導体発光素子を量産化する場合、歩留りの向上、信頼性の向上、寿命の向上をはかる上で、その発振部の活性層における結晶欠陥の存在が問題となる。この結晶欠陥すなわち例えばいわゆる点欠陥、転位はこれ自体が非発光再結合中心(以下NRRCという)となることから、その存在自体が歩留りの低下を来すものであるが、更に、このNRRCの存在によって、発光素子の動作時において、光に変換されなかったエネルギーによって転位および点欠陥の運動を生じ、NRRCを増殖させるという、つまりこの結晶欠陥がNRRC促進欠陥運動の核となり、遂には発光がなされなくなるという寿命低下、信頼性の低下を来す。
【0005】III-V族化合物半導体による半導体発光素子においては、III-V族基板(ウエハー)上にこれと同族化合物半導体のIII-V族半導体によるクラッド層、活性層等の化合物半導体層をエピタキシーしたウエハー(以下エピタキシャルウエハーという)を作製し、このエピタキシャルウエハーから多数の発光素子にチップ化するという構成をとる。この場合、エピタキシャルウエハーは、III-V族基板上にこれと同族のIII-V族半導体層をエピタキシーしてなるものであることから結晶欠陥の改善はかなりはかられているものであり、また欠陥の運動を抑制する研究、開発もかなり進んでいることから、比較的高い歩留り、長寿命、高信頼性を得ている。
【0006】これに対し、II-VI族化合物半導体発光素子においては、このII-VI族化合物半導体層をエピタキシーする基板としては、結晶性にすぐれ、比較的廉価なIII-V族基板が用いられ、これの上にこれとは異なるII-VI族化合物半導体によるクラッド層、活性層等の化合物半導体層をエピタキシーするものであることから、活性層における結晶欠陥の存在、上述した欠陥の運動に対する対処が問題となり、II-VI族化合物半導体発光素子の量産化において上述した歩留り、寿命、信頼性において問題があるところである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明においては、特にII-VI族化合物半導体発光素子において、結晶欠陥に起因する上述した歩留り、信頼性、寿命の問題の解決をはかる。
【0008】すなわち、本発明においては、上述した結晶欠陥の存在による不良品の発生率を小さくして、歩留りの向上をはかるとともに、さらにこの欠陥の運動の閉じ込めを行って転位の成長の阻止、したがって寿命の改善、信頼性の向上をはかるものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】第1の本発明製法は、図1にその一例の略線的断面図を示すII-VI族化合物半導体発光素子1を製造するに当たり、そのII-VI族化合物半導体発光素子1の活性層2を構成する半導体層、すなわちII-VI族化合物半導体エピタキシャルウェハーの活性層2に相当する半導体層の非発光再結合促進欠陥運動の核となる結晶欠陥の密度がn_(nr) cm^( -2)であり、上記結晶欠陥を全く含まない半導体発光素子を得る目標とする割合をR〔%〕(すなわちR={結晶欠陥を全く含まない半導体発光素子の数/作製した半導体発光素子の総数}×100)とするとき、この半導体発光素子1の電流注入領域の面積Sを、次の(数1)の範囲に選定する。
【0010】
【数1】S≦ln(100/R)/n_(nr) cm^(2)」

イ 「【0013】第3の本発明は、上述の第1の本発明の構成において、上記欠陥密度n_(nr)が、n_(nr)≧10 ^(5)cm^(-2)である場合において、上記(数1)に基づいて特にその電流注入領域の面積Sを、S≦1.2×10^(-5)cm^(2) とする。」

ウ 「【0027】また、第3の本発明によれば、非発光再結合促進欠陥運動の核となる結晶欠陥の密度n_(nr)が、n_(nr)≧10^( 5) cm ^(-2)である場合において、欠陥のない発光素子を得る割合Rを30%以上とすることができる。そして、このようにRが30%以上であれば、II-VI族化合物半導体発光素子を製造する場合における歩留りとして工業的に実用化できる歩留りとなる。」

エ 「【0038】そして、特に本発明においては、上述の構成による半導体発光素子1を製造するに、特にその電流注入領域14の面積S(すなわち、このストライプ部において、このストライプ部の幅をW、長さをLとするときS=W×L)を、前記(数1)のS≦ln(100/R)/n_(nr) cm^(2)に選定する。」

オ 「【図5】欠陥密度n_(nr)と、歩留りR,R_(D) と、電流注入領域(もしくは電流注入領域の分割領域)の面積Sとの関係を示す図である。
【図6】欠陥密度n_(nr)と、歩留りR,R_(D) と、電流注入領域(もしくは電流注入領域の分割領域)の面積Sとの関係を示す図である。」

(3)本願明細書
本願明細書には、次の記載がある。

ア 「【0005】
InGaAlNに基づくレーザ活性層のエピタキシャル成長のために現在利用可能である基板材料は、高い製造歩留りおよび低コストを実現するための実質的な障害を提供する独特の問題の原因となる。例えば、利用可能な基板は、レーザ活性材料層において異常に高い欠陥密度を生じ、さらに、不可能ではないとしても、基板材料の機械的特性のために、レーザミラーの形成のために機械的な劈開を用いることは、きわめて困難になる。SiCおよびサファイアから構成される基板は、InGaAlNレーザの作製のために用いられているが、これらの材料は、InGaAlN層の格子整合型成長を可能にせず、きわめて高い欠陥密度、低い製造歩留りおよび信頼性に関連する問題点を結果として生じる。Kensaku Motokiらによる2003年8月7日に公開された米国特許出願公開番号第2003/0145783A1号に記載されたように、近年、自立GaN基板がGaNレーザの作製に用いるために利用可能になっている。しかし、最高品質のGaN基板が用いられる場合であっても、レーザ活性層は、約10^(5)cm^(-2)の欠陥密度を呈し、この欠陥密度は、他の材料システムに基づく一般的に市販されている半導体レーザの場合より数桁高い。さらに、これらのGaN基板のサイズは現在、大きくとも直径2インチに限定されており、コストはきわめて高い。低コストが実現されることになっている場合には、歩留りを著しく向上させるためには、レーザ作製歩留りにおける欠陥密度の影響を限定することが重要である。」

イ 「【0012】
GaAs基板およびInP基板に基づく今日の大量生産のダイオードレーザの歩留りおよびコストは、基板品質およびコストによって影響を受けない。これらのレーザデバイス用の基板は一般に、約10^(2)cm^(-2)の欠陥密度を有し、GaN基板のコストより数桁低いコストで、直径6インチまでのより大きなサイズのウェハにおいて利用可能である。」

ウ 「【0025】
ここで、本発明の詳細な説明を始めると、図1Aから図1Cは、端部ファセット16および18を有し、エピタキシャル成長およびエッチングの施されたリッジレーザ14を支持する基板12を含むダイオードレーザチップ10を示している。リッジレーザは、当分野において知られているように、レーザ端部ファセットのエッチングによって形成されるが、本レーザは特別な設計幾何構成を有する。本発明によれば、半導体レーザ構造14は、基板12の上にエピタキシャル成長され、少なくとも下部クラッド層20、活性層22、上部クラッド層24および接触層26を備える。リソグラフィによって画定されたマスクを介したドライエッチングは、長さIcおよび幅bmのレーザメサ30を作製する。リソグラフィおよびエッチングの別の手順は、メサの上部に幅wのリッジ構造32を形成するために用いられる。図1Aから図1Cに概略的に示され、上述したレーザはリッジ型設計であるが、本発明はリッジレーザ構造に限定されるわけではなく、他の半導体レーザ設計に適用することを理解されたい。」

エ 「【0029】
長手軸またはレーザ導波路14の方向に対して垂直な方向であり、かつ基板12の平面におけるレーザ強度分布は、中心で高く、側部に向かって減少する。一般に、レーザ強度分布は、ガウス分布によって適切に記載され得る。実際の目的のために、w_(I)はここでは強度がその中心値の1/e^(3)まで減少される点の間の幅として定義される。」

4.対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「レーザチップ」は、「溝を形成し、基板を100μmの厚さまで研磨した後、スクライビングすることにより得られた」ものであるから、その形状は、長方形と推認されるところであり、本願発明と同様に「長さI_(s)および幅b_(s)の基板」を備えるものと認められる。
(2)引用発明の「レーザチップ」は、「窒化物半導体(In_(X)Al_(Y)Ga_(1-X-Y)N、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)よりな」るレーザチップであって、「MOCVD法を用いて、サファイア基板の上に、n型GaNよりなるn型コンタクト層と、n型AlGaNよりなるn型閉じこめ層と、n型AlGaNよりなる光ガイド層と、InGaNよりなる活性層と、p型AlGaNよりなる光ガイド層と、p型AlGaNよりなる光閉じこめ層と、p型GaNよりなるp型コンタクト層とを積層した」ものであるから、本願発明と同様に「前記基板上の、エピタキシャル成長されるInGaAlNに基づく半導体」を備えるものといえる。
(3)引用発明は、「共振面を備え」、「p型コンタクト層にp電極を…ストライプ形状で…形成」した「レーザチップ」であるから、p電極のストライプ形状に対応する形状のレーザ導波路を有しているものと認められるところであり、本願発明と同様に「前記半導体に形成される長さI_(c)の共振器を有する少なくとも1つのレーザ導波路」を備えているものといえる。
(4)引用発明は、「エッチングにより形成された共振面を備え」る「レーザチップ」であるから、本願発明と同様に「前記レーザ導波路が、レーザミラーを形成する少なくとも1つのエッチングされたレーザファセットを有」するものといえる。
(5)以上のことから,両者は、
「長さI_(s)および幅b_(s)の基板と、
前記基板上の、エピタキシャル成長されるInGaAlNに基づく半導体と、
前記半導体に形成される長さI_(c)の共振器を有する少なくとも1つのレーザ導波路と、を備え、
前記レーザ導波路が、レーザミラーを形成する少なくとも1つのエッチングされたレーザファセットを有する、チップ。」の点で一致する。
(6)一方、両者は、次の点で相違する。
本願発明では、「前記レーザ導波路が幅w_(I)のレーザ強度分布を有するとともに、この強度分布が前記レーザ導波路の中心で高く、前記レーザ導波路の両側に向けて低下し、
I_(c)は、次の不等式:exp(-D×w_(I)×I_(c))>0.50を満足するように選択され、
Dは、レーザ導波路の共振器を形成する半導体の活性層における欠陥密度を指定する」とされているのに対し、引用発明がこのようなものであるか不明な点。

5.判断
上記相違点について検討する。
(1)まず、「レーザ強度分布」について検討する。
引用発明の「レーザチップ」は、「n型GaNよりなるn型コンタクト層と、n型AlGaNよりなるn型閉じこめ層と、n型AlGaNよりなる光ガイド層と、InGaNよりなる活性層と、p型AlGaNよりなる光ガイド層と、p型AlGaNよりなる光閉じこめ層と、p型GaNよりなるp型コンタクト層とを積層し」、「p型コンタクト層にp電極を…ストライプ形状で…形成」したものである。
一方、本願明細書の【0025】には、図1Aから図1Cを参照して、「少なくとも下部クラッド層20、活性層22、上部クラッド層24および接触層26を備え」、「上部に幅wのリッジ構造32を形成」した「半導体レーザ構造14」が記載され、本願明細書の【0029】には、「レーザ強度分布」について、「中心で高く、側部に向かって減少する。一般に、レーザ強度分布は、ガウス分布によって適切に記載され得る。実際の目的のために、w_(I)はここでは強度がその中心値の1/e^(3)まで減少される点の間の幅として定義される。」と記載されている。
ここで、引用発明の「(ストライプ形状の)p電極」は、本願の上記「リッジ構造32」に相当するものと認められ、本願の上記「半導体レーザ構造14」において、「レーザ強度分布」が、記載されるように「中心で高く、側部に向かって減少する」ものであり、また、「ガウス分布によって適切に記載され得る」ものであることを考えれば、本願の上記「半導体レーザ構造14」と同様の構造を有し、「単一モードのレーザ光が得られる」引用発明のレーザチップにおいても、そのレーザ強度分布は、「中心で高く、側部に向かって減少する」ものであり、「ガウス分布によって適切に記載され得る」ものと推認されるから、引用発明も本願発明と同様に「レーザ導波路が幅w_(I)のレーザ強度分布を有するとともに、この強度分布が前記レーザ導波路の中心で高く、前記レーザ導波路の両側に向けて低下」するものであると認められる。
したがって、レーザ強度分布は、本願発明と引用発明の格別の相違点とはいえない。
(2)次に、本願発明において、共振器の長さI_(c)がexp(-D×w_(I)×I_(c))>0.50を満足するものとされている点について検討する。
本願明細書の【0012】に記載されるように「GaAs基板およびInP基板」のIII-V族化合物半導体では、約10^(2)cm^(-2)の欠陥密度の基板が利用可能であるのに対し、III-V族化合物半導体といっても、InGaAlNレーザに利用可能な基板は、レーザ活性材料層において異常に高い欠陥密度を生じ、最高品質のGaN基板が用いられる場合であっても、レーザ活性層は、約10^(5)cm^(-2)の欠陥密度を呈するものであるところ、引用例2には、上記3.(2)アのごとく、結晶欠陥の存在による不良品の発生率を小さくして、歩留りの向上をはかるために、「活性層2に相当する半導体層の非発光再結合促進欠陥運動の核となる結晶欠陥の密度がn_(nr) cm^( -2)であり、上記結晶欠陥を全く含まない半導体発光素子を得る目標とする割合をR〔%〕(すなわちR={結晶欠陥を全く含まない半導体発光素子の数/作製した半導体発光素子の総数}×100)とするとき、この半導体発光素子1の電流注入領域の面積Sを、次の(数1)の範囲に選定する。
【0010】
【数1】S≦ln(100/R)/n_(nr) cm^(2) 」と記載されている。
ここで、引用例2の「n_(nr) 」は、本願発明における「D」に相当するところであり、また、「R」は、上記3.(2)オに記載されるように歩留りのことであり、引用例2では、上記3.(2)ウのように「30%以上であれば、・・・実用化できる歩留りとなる」と記載されているが、歩留まりは、30%以上より50%を超える方が望ましいことが明らかであるから、引用例2には、電流注入領域の面積Sを
S<ln(100/50)/D を満たすようにすることが記載ないし示唆されているものと認められる。
ここで、電流注入領域の面積Sは、上記3.(2)エに記載されるようにストライプ状の電流注入領域の幅をW、長さをLとするときS=W×Lであるが、電流注入領域の長さLは、本願発明でいうレーザ導波路の共振器の長さI_(c) に相当するものと認められ、また、半導体レーザは、活性層の電流が流れる部位において発光が生じるものであるから、電流注入領域の幅Wとレーザ強度分布の幅w_(i)には対応関係があり、W≒w_(i)といって差し支えのないものであると認められる。
してみると、引用例2に記載されるごとく、S=W×I_(c) <ln(100/50)/Dを満たすようなI_(c) を選択するに際して、w_(i)<Wであれば、w_(i)×I_(c) <ln(100/50)/Dとなることが理解されるところであり、また、W<w_(i) であったとしても、W≒w_(i )であるから、w_(i)×I_(c) <ln(100/50)/Dを満たす程度に小さいI_(c) を採用することに格別の困難性は認められない。
そして、I_(c) がw_(i)×I_(c) <ln(100/50)/Dを満たすということは、I_(c)がexp(-D×w_(I)×I_(c))>0.50を満足するということに外ならない。
(3)したがって、上記相違点に係る本願発明の構成は、引用発明において、結晶欠陥の存在による不良品の発生率を小さくして、歩留りの向上をはかるという引用例2に記載される技術事項を適用することにより、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、本願発明によって、当業者が予期し得ない格別顕著な効果が奏されるとは認められない。

6.むすび
以上のとおりであって、本願発明は、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-19 
結審通知日 2016-02-23 
審決日 2016-03-07 
出願番号 特願2011-195170(P2011-195170)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 日夏 貴史百瀬 正之  
特許庁審判長 河原 英雄
特許庁審判官 近藤 幸浩
▲高▼ 芳徳
発明の名称 低コストのInGaAlNに基づくレーザ  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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