• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A41D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A41D
管理番号 1317413
審判番号 不服2015-6178  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-02 
確定日 2016-07-20 
事件の表示 特願2010-102027「多用途手袋」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月21日出願公開、特開2011- 80185〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成22年4月27日(パリ条約による優先権主張2009年10月12日、米国)の出願であって、平成25年12月19日付けの拒絶理由通知に対して、平成26年5月27日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年11月25日付けで拒絶査定がなされた。
これに対して、平成27年4月2日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同時に手続補正がなされたものである。

2.平成27年4月2日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年4月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(平成26年5月27日付けの手続補正の請求項1)の、
「布材部と該布材部に結合されているエラストマー材から形成されている三次元成形部とを備える多用途手袋であって、
前記三次元成形部は、着用者の掌の少なくとも一部、親指の少なくとも一部、および少なくとも1つの指の少なくとも一部を覆うよう構成されており、
前記掌の中央部に対応する前記三次元成形部の一部が、凹形状を形成するように、前記三次元成形部の縁部から凹んでいる、多用途手袋。」(以下、この発明を「本願発明」という。)を、

本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の、
「布材部と該布材部に結合されているエラストマー材から形成されている三次元成形部とを備える多用途手袋であって、
前記三次元成形部は、着用者の掌の少なくとも一部、親指の少なくとも一部、および少なくとも1つの指の少なくとも一部を覆うよう構成されており、
前記掌の中央部に対応する前記三次元成形部の一部が、凹形状を形成するように、前記掌に対応する前記三次元成形部の部分の縁部から凹んでいる、多用途手袋。」(以下、この発明を「本願補正発明」という。)とする補正を含むものである。

(2)補正の適否
本件補正は、どの部分から「凹んでいる」のかについて、本件補正前の「前記三次元成形部の縁部」から「前記掌に対応する前記三次元成形部の部分の縁部」と限定するものであり、かつ、本願発明と本願補正発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3)引用文献記載の発明及び技術的事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、特開2008-50745号公報(以下、原査定と同様に「引用文献1」という。)には、「作業用手袋」について、以下の発明及び技術的事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
本発明は、ゴムなどの高分子材料が塗布された作業用手袋に関し、特に道具やハンドル、ロープ等を握る際の疲労を軽減させる作業用手袋に関する。」(段落【0001】)

イ 「【背景技術】
編布で構成した手袋は、手軽に手を防護できるため広範囲に使用されている。しかし、工具の利用など握力が必要な場合に編布製の手袋では手袋と工具との間に十分な摩擦力を保持できず滑ってしまう。そこで、ゴム等の高分子材料を塗布した作業用手袋が提案されている。・・・・
【発明が解決しようとする課題】
ところが、これら従来の作業用手袋としては、手掌部と指部を完全に開いた形状あるいは軽く弧を描いた形状で型を取ったものが提案されている。
また、これらの作業用手袋では、装着前の形状が指を伸ばした状態で形成されている。一方、実際に作業時に何らかの工具やハンドルまたはロープ等を使用する場合は、工具やハンドル等を握り続け、或いは掌握運動を繰り返す必要がある。工具やハンドル等を握り続けるためには指を曲げた状態を長時間に亘り維持する必要がある。従来の作業用手袋は上述のように指を伸ばした状態で形成されるため作業用手袋に付着するゴム等の弾性力に反して指を曲げることとなる。すなわち、工具やハンドル等を握るには指には工具やハンドル等を握ることにより生ずる反力とゴム等の弾性に対する反力の2つの力に対抗しながら工具やハンドル等を握ることとなる。この2つの反力に対抗する力を長時間維持するため、かなりのエネルギー消費を強いられることとなる。
・・・・
また、従来では、対磨耗性を有する硬度の高い素材の手袋は、モノを掴むのにこれらの硬度に対向して掴むために使用時の疲労が大きいという課題を有している。
そこで、本発明の目的はゴム等の弾性に対する反力を削減することで長時間使用しても不必要にエネルギーを消費することのない作業用手袋を提供することにある。」(段落【0002】?【0009】)

ウ 「【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成すべく本発明の第一の側面である作業用手袋は、指部と手甲部と手掌部と手首部とから形成されて少なくとも指部と手掌部とが少なくともその一部が高分子材料で被覆されて形成される作業用手袋において、指部と手掌部とを予め湾曲させることにより指部先端部と手掌部腕側端部との間隔を近接させる。」(段落【0010】)

エ 「以下、図面を用いて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【実施例1】
図1?図3は本発明の作業用手袋の外観を説明する図であり、図1が側面図、図2が正面図、図3が裏面図を示す。この作業用手袋は、5本の指部4?12と、手甲部14と、手掌部16及び手首部18とを備え、人間の手に近い形に形成されている。
指部6?12は、いずれも第一関節、第二関節及び第三関節で湾曲した状態に形成される。さらに、親指部4と指部6のそれぞれの先端同士の最短距離は、指部8の先端から手掌部16の腕側端部までの距離をLとすると、L以下となるように構成され、好適にはLの85%以下とすることが望ましい。」(段落【0020】?【0022】)

オ 「この作業用手袋2は繊維製手袋に高分子材料を被覆して構成される。この繊維製手袋は、所定の糸として綿糸を用いて、指部4?12と、手甲部14と、手掌部16については、横メリヤス編みで特に平編で編まれた素材を用いる。・・・・
綿糸は、綿45%、ポリエステル45%、天然ゴム素材5%とその他の成分から構成されるのが好ましい。但し、他の素材として麻糸、毛糸、絹糸、レーヨン糸、ウーリーナイロン糸、ポリエステル糸、ポリウレタン糸又はこれ等の糸の混紡糸を用いることができる。編機のゲージは如何なる針数であっても良い。
図4は、漂白および加硫用の手型20である。手型20は、指部22?30と手甲部32と手掌部と手甲部32と手首部36を備え、これ等を支持するための取手38が手首部36に設けられる。なお、図4において30は図示しないが、小指に相当する部分を指示するものである。」(段落【0023】?【0025】)

カ 「続いて、この手型20に被せた繊維製手袋を高分子材料としてゴムラテックス配合物の原料液中に浸漬し、その後引き上げ加熱して加硫させることにより作られる作業用手袋の製造方法について説明する。
第一の工程は繊維製手袋の漂白工程である。・・・・
漂白した原手を撥水剤で撥水処理する第二工程・・・・
第三工程では、撥水処理後の原手を80℃、60分で乾燥させ、繊維製手袋を手型20に被せる。そしてこの第三工程において、繊維製手袋を後工程のゴムラテックス配合物の原料液中に浸漬する際の液面における浸漬境界線を含む繊維製手袋の表面に浸透剤を塗布する。浸透剤はアニオン系界面活性剤を用い、濃度1%の水溶液にして塗布し、繊維製手袋を親水処理する。繊維製手袋の手甲部に浸透剤を塗布するとともに、掌側の手首近傍部に浸透剤を塗布する。
第四工程では、繊維製手袋を手型20に被せた状態で乾燥室に入れて、繊維製手袋に付着する前記浸透剤を乾燥させるとともに、手型20を80℃に予熱し、その後、繊維製手袋を手型20に被せた状態で手掌部が下に向き且つ手甲部32が上に向くように、天然ゴムラテックスと安定剤と、イオウと、亜鉛華と、加硫促進剤と、顔料等から作られ低温で保持されたゴムラテックス配合物の原料液中に浸漬し、繊維製手袋に原料液を背抜き状態で付着させる。ここで、必要に応じて手甲部まで含めて付着させることもできる。その後、繊維製手袋を原料液から引き上げて100℃以上の温度で加熱して加硫させて作業用手袋2が完成する。」(段落【0026】?【0030】)

キ 「【産業上の利用可能性】
本発明に係る作業手袋用手袋を使用することであらゆる作業や、工具及び農具等の道具や自動車、自動二輪、ブルドーザやクレーン等の建設機械、工事車両、トラクタや耕運機等の農業機械のハンドル等を長時間握る作業、建築作業、解体作業、運搬作業、引越し作業、石材業、ブロック作業、鉄鋼業、機械作業、漁業、各種重作業、運送業、倉庫業、物流業などの重量物を運搬する作業、石油精製業、化学工業、ガソリンスタンド等での油の取扱作業、自動車産業、船舶作業、機械の製作組立作業、ごみ回収業、廃品回収業、清掃業、農業、林業、園芸業、土木作業から日曜大工や家庭園芸などの作業で生じる、作業用手袋が要因となる弾性力に抗して握ることにより生ずる疲労を軽減させることができる。」(段落【0061】)

引用文献1には、上記ウによれば「指部と手甲部と手掌部と手首部とから形成されて少なくとも指部と手掌部とが少なくともその一部が高分子材料で被覆されて形成される作業用手袋において、指部と手掌部とを予め湾曲させることにより指部先端部と手掌部腕側端部との間隔を近接させ」ることが記載され、上記オによれば「作業用手袋は繊維製手袋に高分子材料を被覆して構成され、この繊維製手袋は、所定の糸として綿糸を用いて、指部と、手甲部と、手掌部については、横メリヤス編みで特に平編で編まれた素材を用いる」ものであり、上記カによれば、この「繊維製手袋を手型に被せた状態で乾燥室に入れて、繊維製手袋に付着する前記浸透剤を乾燥させるとともに、手型を80℃に予熱し、その後、繊維製手袋を手型に被せた状態で手掌部が下に向き且つ手甲部が上に向くように、天然ゴムラテックスと安定剤と、イオウと、亜鉛華と、加硫促進剤と、顔料等から作られ低温で保持されたゴムラテックス配合物の原料液中に浸漬し、繊維製手袋に原料液を背抜き状態、あるいは、必要に応じて手甲部まで含めて付着させ、繊維製手袋を原料液から引き上げて100℃以上の温度で加熱して加硫させ」ることにより「作業用手袋」を製造することが記載されている。

そうすると、引用文献1には、
「指部と手甲部と手掌部と手首部とから形成されて少なくとも指部と手掌部とが少なくともその一部が高分子材料で被覆されて形成される作業用手袋において、指部と手掌部とを予め湾曲させることにより指部先端部と手掌部腕側端部との間隔を近接させ、
作業用手袋は繊維製手袋に高分子材料を被覆して構成され、
この繊維製手袋は、所定の糸として綿糸を用いて、指部と、手甲部と、手掌部については、横メリヤス編みで特に平編で編まれた素材からなる、作業用手袋。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

また、引用文献1には、「作業用手袋」の製造方法として、「繊維製手袋を手型に被せた状態で乾燥室に入れて、繊維製手袋に付着する浸透剤を乾燥させるとともに、手型を80℃に予熱し、その後、繊維製手袋を手型に被せた状態で手掌部が下に向き且つ手甲部が上に向くように、天然ゴムラテックスと安定剤と、イオウと、亜鉛華と、加硫促進剤と、顔料等から作られ低温で保持されたゴムラテックス配合物の原料液中に浸漬し、繊維製手袋に原料液を背抜き状態、あるいは、必要に応じて手甲部まで含めて付着させ、繊維製手袋を原料液から引き上げて100℃以上の温度で加熱して加硫させて製造する方法。」の技術的事項(以下、「引用文献1の製造方法に係る技術的事項」という。)が記載されている。

(4)本願補正発明と引用発明との対比
ア 本願補正発明の「多用途手袋」が、本願明細書(段落【0003】)の記載によれば、「多用途手袋は、仕事の現場、生産もしくは園芸の施設、または家周りでの庭仕事、建設作業、または雑作業のような領域において使用される。」ものであるところ、引用発明の「作業用手袋」も、引用文献1の記載(前記(3)キ)によれば、工具及び農具等の道具や自動車、自動二輪、ブルドーザやクレーン等の建設機械、工事車両、トラクタや耕運機等の農業機械のハンドル等を長時間握る作業、建築作業、園芸業、土木作業から日曜大工や家庭園芸などの作業等に使用することが想定されるものであり、引用発明の「作業用手袋」は、本願補正発明の「多用途手袋」に相当するものといえる。

イ 引用発明の「高分子材料」は、引用文献1の製造方法に係る技術的事項によれば、「天然ゴムラテックスと安定剤と、イオウと、亜鉛華と、加硫促進剤と、顔料等から作られ低温で保持されたゴムラテックス配合物」からなり、この「ゴムラテックス配合物」は、「繊維製手袋」に付着させ加熱・加硫することによりゴム弾性を示すものである。一方、本願明細書(段落【0033】)に、「エラストマー材」として、熱可塑性加硫ゴム(TPV)および熱可塑性ゴム(TPR)が例示され、また、一般に、常温でゴム弾性を示す高分子物質を「エラストマー」というから、引用発明の「高分子材料」は、本願補正発明の「エラストマー材」に相当するものといえる。

ウ 引用発明の「繊維製手袋」は「横メリヤス編みで特に平編で編まれた素材を用い」、「高分子材料を被覆」するものであるが、本願補正発明の「布材部」も、「エラストマー材」が結合されるものであり、本願明細書(段落【0019】、【0024】?【0025】)には、エラストマー材の吸収性を改善する編まれた親水性材料(ナイロン材)により形成されるものであると記載されているから、引用発明の「繊維製手袋」は、本願補正発明の「布材部」に相当するものといえる。

エ また、「結合」するとは、結び合わせて一つになることをいう(広辞苑第六版)ところ、引用発明の「繊維製手袋」に付着され加熱・加硫される「高分子材料」は、建築作業や園芸作業の「作業用手袋」としての使用に耐える程度に、基材である「繊維製手袋」と結合し、離れないように構成されるはずである。このことは、引用文献1(前記(3)カ)に「第三工程では、・・・・繊維製手袋を後工程のゴムラテックス配合物の原料液中に浸漬する際の液面における浸漬境界線を含む繊維製手袋の表面に浸透剤を塗布する。」旨記載され、繊維製手袋にゴムラテックス配合物が良く浸透するようにして、より結合性を上げようとしていることからも明らかである。
そうすると、引用発明の「高分子材料」は、本願補正発明と同様に、基材である「繊維製手袋」に結合されているものといえる。

オ 本願補正発明の「布材部に結合されているエラストマー材から形成されている三次元成形部」は、「着用者の掌の少なくとも一部、親指の少なくとも一部、および少なくとも1つの指の少なくとも一部を覆うよう構成され」たものであるが、「覆う」ことは「被覆する」ことともいえる。
ゆえに、引用発明の「高分子材料で被覆され」た「少なくとも指部と手掌部」の「少なくともその一部」は、本願補正発明の「三次元成形部」と、エラストマー材(高分子材料)が形成されている被覆部という限りにおいて一致する。

カ よって、本願補正発明と引用発明は、
「布材部と該布材部に結合されているエラストマー材から形成されている被覆部とを備える多用途手袋」で一致し、下記の点で相違する。

《相違点》
被覆部が、本願補正発明では、「着用者の掌の少なくとも一部、親指の少なくとも一部、および少なくとも1つの指の少なくとも一部を覆うよう構成され」、「掌の中央部に対応する三次元成形部の一部が、凹形状を形成するように、掌に対応する三次元成形部の部分の縁部から凹んでいる」「三次元成形部」であるのに対し、
引用発明では、「少なくとも指部と手掌部とが少なくともその一部が高分子材料で被覆されて形成され」、「指部と手掌部とを予め湾曲させることにより指部先端部と手掌部腕側端部との間隔を近接させ」たものである点。

(5)判断
ア 引用発明は「少なくとも指部と手掌部とが少なくともその一部が高分子材料で被覆されて形成され」るものであるところ、人の手は立体形状であり、また、引用文献1の製造方法に係る技術的事項によれば、作業用手袋は、繊維製手袋を手型に被せた状態で手掌部が下に向き且つ手甲部が上に向くようにして、ゴムラテックス配合物の原料液中に浸漬させ、繊維製手袋の背抜き状態、あるいは、手甲部まで含めてゴムラテックス配合物を付着させ、加熱・加硫して繊維製手袋上に成形されるのであるから、引用発明の「少なくとも指部と手掌部とが少なくともその一部が高分子材料で被覆されて形成され」、「指部と手掌部とを予め湾曲させることにより指部先端部と手掌部腕側端部との間隔を近接させ」たものは、立体状、すなわち、三次元形状の成形部であるといえる。

イ また、引用発明は「少なくとも指部と手掌部とが少なくともその一部が高分子材料で被覆されて形成され」るものであって、親指の少なくとも一部を覆うように構成されているかどうかは特定されていない。
しかし、引用文献1(前記(3)イ)の「工具の利用など握力が必要な場合に編布製の手袋では手袋と工具との間に十分な摩擦力を保持できず滑ってしまう。そこで、ゴム等の高分子材料を塗布した作業用手袋が提案されている。」(段落【0002】)との記載からみて、引用発明の「作業用手袋」の「高分子材料」で被覆される部分として、工具に保持力(摩擦力)を伝えるのに必要な部分が考慮されるはずである。
そして、人が物を掴む際に、親指と他の指(人差し指、中指、くすり指、小指)との間で物を掴むことが通常であるから、引用発明の「作業用手袋」の「高分子材料」で被覆される部分として、工具に保持力(摩擦力)を伝えるのに必要な部分である、親指の少なくとも一部を含むようにすることは、当然考慮されるべきことである。

ウ さらに、引用発明は、従来の作業用手袋では、「装着前の形状が指を伸ばした状態で形成されている。一方、実際に作業時に何らかの工具やハンドルまたはロープ等を使用する場合は、工具やハンドル等を握り続け、或いは掌握運動を繰り返す必要がある。工具やハンドル等を握り続けるためには指を曲げた状態を長時間に亘り維持する必要がある。従来の作業用手袋は上述のように指を伸ばした状態で形成されるため作業用手袋に付着するゴム等の弾性力に反して指を曲げることとなる。すなわち、工具やハンドル等を握るには指には工具やハンドル等を握ることにより生ずる反力とゴム等の弾性に対する反力の2つの力に対抗しながら工具やハンドル等を握ることとなる。この2つの反力に対抗する力を長時間維持するため、かなりのエネルギー消費を強いられることとなる」(段落【0005】)ため、「ゴム等の弾性に対する反力を削減することで長時間使用しても不必要にエネルギーを消費することのない作業用手袋を提供すること」(段落【0009】)を発明の解決しようとする課題としたもので、「作業用手袋」を、指を伸ばした状態ではなく、人が物を掴む際の手の状態に近づけて、「指部と手掌部とを予め湾曲させることにより指部先端部と手掌部腕側端部との間隔を近接させ」るようにして、その課題を解決したものである。
また、引用文献1には、「作業用手袋は、5本の指部4?12と、手甲部14と、手掌部16及び手首部18とを備え、人間の手に近い形に形成されている。」(前記(3)エ)とも記載される。
ここで、人間の手の指と掌は、骨や筋により連動して動き、手の指と掌とを予め湾曲させた際には、掌は、その縁部から中央部にかけて凹形状に湾曲するのが通常であるから、引用発明の「手掌部」の被覆は、「手掌部」に対応する高分子材料の被覆部分の縁部から凹んでいることは明らかである。
よって、引用発明は、本願補正発明と同様に、掌の中央部に対応する高分子材料の被覆部分の一部が、凹形状を形成するように、掌に対応する高分子材料の被覆部分の縁部から凹んでいるものといえる。

エ 請求人は、審判請求書(3-2.(2))において、
「(2)引用文献1は、手袋において、指部及び手掌部からなる全体を予め湾曲させることを開示し(引用文献1の[0010])、具体的な歪曲手段としては、指部の関節に相当する部分、または、指部と手掌部との境界部分に切れ込みを入れることを開示しています。しかし、引用文献1は、手掌部自体を予め湾曲させることを開示も示唆もしていません。
この点について、審査官殿は、拒絶査定で、『引用文献1の[請求項1]、段落[0010]に記載された「指部と手掌部とを予め湾曲させること」は、通常、指部と手掌部の両方を予め湾曲させると読める』と述べられています。しかし、引用文献1の[0005]で「従来の作業用手袋は上述のように指を伸ばした状態で形成されるため作業用手袋に付着するゴム等の弾性力に反して指を曲げることとなる。」と指部が掌部から真っ直ぐに伸びていることが問題点として挙げられていること、実施例1-3ではいずれも指部の第一関節、第二関節、及び第三関節でのみ湾曲が設けられていること(例えば、段落[0022])、並びに、段落[0010]に続く段落[0011]-[0014]では第二及び第三関節の湾曲のみに言及し第一関節の湾曲に言及していないことを勘案すれば、「指部と手掌部とを予め湾曲させること」とは、指部と手掌部との間の第一関節で湾曲させることを意味するものと解釈することが適切であるものと思料します。
また、引用文献1は、手首から指先の軸に沿って、指部及び手掌部からなる全体を予め湾曲させることを開示するものの、この軸と直角な軸に沿って湾曲させることや、立体的な凹形状を形成することを開示も示唆もしていません。
従って、引用文献1は、多用途手袋の三次元成形部の掌に対応する部分が凹形状を形成するように凹んでいるという構成を開示も示唆もしているとはいえません。」と主張する。
この請求人の主張は、「指部と手掌部とを予め湾曲させること」とは、手掌部は湾曲させずに、指部と手掌部との間の第一関節で湾曲させることであると主張するものと解することができる。
ここで、引用文献1の第3実施例(図10?図12)に関する「続いて指部については人差し指部106と中指部108と薬指部110と小指部112について、第二関節については各指部ごとに手掌部116側のみ人差し指106は切断線124、中指108は切断線132、薬指110は切断線136と、小指112については切断線140に沿って切断され、被覆部126,134,138,142で被覆される。」(段落【0051】)との記載、及び「また、これらの縫着や圧着後に第二関節における指の通常時に開放側の指先端側と指付け根側のなす角度は手掌部側に90°乃至180°であり好ましくは90°乃至160°である。同様に第三関節における第二関節側と手掌側のなす角度が曲がっている角度は手掌部側90°乃至180°であり好ましくは90°乃至160°である。」(段落【0052】)との記載、また、引用文献1の第4実施例(図13?図15)に関する「親指を除く指部156,158,160,162は、いずれも第三関節で屈曲しており、指部156,158,160,162と手掌部166とのなす角θ(図15)が手掌部側に90°乃至180°であり、好ましくは90°乃至160°である。」(段落【0057】)との記載からみて、指と掌の間の関節が「第三関節」とされていることから、引用文献1における「第1関節」は、指の先端側の関節を指すものと理解できる。
そうすると、請求人の「『指部と手掌部とを予め湾曲させること』とは、指部と手掌部との間の第一関節で湾曲させることを意味するものと解釈することが適切である」との主張は、手掌部を湾曲させずに、指部の先端側の第1関節を湾曲させるとするものであり、人が工具やハンドルを握る際の指と掌の通常の動きに沿った主張とはいえない。
すなわち、手掌部を湾曲させずに「指部と手掌部との間の第一関節で湾曲させる」という、通常とは違う状態に指と掌をおくことは、かえって疲労することとなる上、物を掴むまでに、手掌部に余計な(無駄な)反力が発生することになり、引用発明の解決しようとする課題を、解決することにならないことは明らかであるから、請求人の「『指部と手掌部とを予め湾曲させること』とは、指部と手掌部との間の第一関節で湾曲させることを意味する」との解釈は、適切であるとはいえない。

オ また、請求人は、平成28年1月15日付けの上申書(2-1.(2))において、
「(2)また、審査官殿は、「また引用文献1の段落[0022]及び図1に示された如く、親指部4と指部6とを近付けると、掌は、その中央部が凹状となるように、自然に湾曲する」と述べられています。
まず、ご自身の左手でにぎりこぶしをつくり、引用文献1の[0022]及び図1と同様に実施例1に属する図2及び3と比較して下さい。
そうすると、ご自身の小指と薬指が、図2及び3で示されるよりも沈み込んでいることがわかるはずです。
これは、左手の中手骨が人差し指から小指にかけて湾曲しドームを形成するためです。
図2及び3のように、小指と薬指の背が中指や人差し指の背と同程度にしか沈み込まないようにするためには、第1関節で左手の小指と薬指を後ろに反らす必要があります。
特に、図3のように、掌側からみたときに指先の先端が第1関節より上になるようにするためには、小指を後ろにかなりそらす必要があります。
このようにしますと、左手の中手骨は自然と平面上に並び、掌にくぼみはできません。
即ち、引用文献1の実施例1に従っても、掌の中央部に凹部はできません。
また、以上のように手の状態では、結局、親指を除く指の第1から第3関節までを曲げることになります。」とも主張する。
しかし、引用文献1の図2及び図3は、図1と同じ作業用手袋の第1の実施例を説明する図面であるが、必ずしも、図面において、指の曲がり具合や寸法等を、正確に表すものとはいえない。
そして、「図2及び3のように、小指と薬指の背が中指や人差し指の背と同程度にしか沈み込まないようにするためには、第1関節で左手の小指と薬指を後ろに反らす必要があります。」、「特に、図3のように、掌側からみたときに指先の先端が第1関節より上になるようにするためには、小指を後ろにかなりそらす必要があります。」と請求人は主張するが、このような手の指の状態は、人の手の通常の動きに沿ったものではなく、引用発明の解決しようとする課題からみても、このような通常とは違う状態に手の指と掌をおくようにはしないことは明らかである。

カ よって、引用発明の高分子材料の被覆を、相違点に係る本願補正発明のように構成することは、当業者が容易に想到し得たものである。
また、本願補正発明により奏される効果は、引用発明から容易に予測できるものである。

キ したがって、本願補正発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(6)まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし19に係る発明は、平成26年5月27日付けの手続補正の特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された事項により特定され、そのうち、請求項1に係る発明は、前記2.(1)において記載したとおりのものである。

(2)引用文献記載の発明及び技術的事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献及びその技術的事項は、前記2.(3)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明が「前記掌に対応する前記三次元成形部の部分の縁部」としていたものを、「前記三次元成形部の縁部」とするものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含む本願補正発明が、前記2.(4)及び(5)で述べたように、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上によれば、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-22 
結審通知日 2016-02-23 
審決日 2016-03-08 
出願番号 特願2010-102027(P2010-102027)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A41D)
P 1 8・ 575- Z (A41D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 笹木 俊男  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 蓮井 雅之
井上 茂夫
発明の名称 多用途手袋  
代理人 桜田 圭  
代理人 森川 泰司  
代理人 美恵 英樹  
代理人 原田 卓治  
代理人 毛受 隆典  
代理人 木村 満  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ