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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01R
管理番号 1317414
審判番号 不服2015-7214  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-16 
確定日 2016-07-20 
事件の表示 特願2011-123522「光画成(photo-defined)マイクロ電気接点の形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月24日出願公開、特開2011-237437〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、2004年10月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年10月24日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2006-536806号の一部を平成23年6月1日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯の概略は、以下のとおりである。
平成24年11月28日付け 拒絶理由の通知(同年12月4日発送)
平成25年 6月 4日 意見書、手続補正書(以下,「補正1」と
いう。)の提出
平成25年 9月26日付け 拒絶理由の通知(同年10月1日発送)
平成26年 4月 1日 意見書の提出
平成26年12月12日付け 拒絶査定(同年12月16日送達)
平成27年 4月16日 手続補正書(以下,「本件補正」という。
)、審判請求書の提出
平成27年 5月27日 手続補正書(方式)の提出
平成27年 7月29日 前置報告
平成27年12月10日 上申書の提出

第2 本件補正の却下の決定
1 結論
本件補正を却下する。

2 理由
(1)補正の内容
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲(補正1により補正された特許請求の範囲をいう。以下同じ。)の請求項1を以下のように補正するものである。なお、下線は、補正箇所を示す。

(本件補正前)
「【請求項1】
1つ又は複数のマスクを準備するステップであって、前記1つ又は複数のマスクの各々が複数のプローブの形状を含み、前記複数のプローブ形状の各々が、プローブ・ベースと、前記プローブ・ベースに接続されたプローブ・シャフトと、前記プローブ・シャフトに接続されたプローブ端部と、前記プローブ・ベース、前記プローブ端部及び前記プローブ・シャフトのうちの少なくとも1つの上に1つ又は複数の隆起した表面とを含む準備するステップと、
第1の金属材料の一面に、フォトレジストを施すステップと、
前記第1の金属材料の前記フォトレジストを施した面上に、前記マスクを重畳させるステップと、
前記マスクを通りぬける光に、前記フォトレジストを曝露するステップと、
前記フォトレジストを現像するステップと、
前記第1の金属材料の一部分を露出させるために、前記フォトレジストの一部分を取り除くステップと、
前記第1の金属材料の前記露出された部分上に、第2の金属材料を電気鋳造するステップと、
前記第2の金属材料によって形成された複数のプローブを生成するために、前記第2の金属材料を取り除くステップであって、前記複数のプローブの各々が、プローブ・ベースと、前記プローブ・ベースに接続されたプローブ・シャフトと、前記プローブ・シャフトに接続されたプローブ端部と、前記プローブ・シャフトとプローブの先端との間の前記プローブ端部に1つ又は複数の隆起した表面とを含む、取り除くステップとを含む、複数のマイクロ・プローブを製造する方法。」

(本件補正後)
「【請求項1】
1つ又は複数のマスクを準備するステップであって、前記1つ又は複数のマスクの各々が複数のプローブの形状を含み、前記複数のプローブ形状の各々が、プローブ・ベースと、前記プローブ・ベースに接続されたプローブ・シャフトと、前記プローブ・シャフトに接続されたプローブ端部と、前記プローブ・ベース、前記プローブ端部及び前記プローブ・シャフトのうちの少なくとも1つの上に1つ又は複数の隆起した表面とを含む準備するステップと、
第1の金属材料の一面に、フォトレジストを施すステップと、
前記第1の金属材料の前記フォトレジストを施した面上に、前記マスクを重畳させるステップと、
前記マスクを通りぬける光に、前記フォトレジストを曝露するステップと、
前記フォトレジストを現像するステップと、
前記第1の金属材料の一部分を露出させるために、前記フォトレジストの一部分を取り除くステップと、
前記第1の金属材料の前記露出された部分上に、所望の厚さの第2の金属材料を電気鋳造するステップであって、前記第2の金属材料の前記所望の厚さが前記電気鋳造するステップの実施条件を変化させることにより制御されるステップと、
前記第2の金属材料によって形成された複数のプローブを生成するために、前記第2の金属材料を取り除くステップであって、前記複数のプローブの各々が、プローブ・ベースと、前記プローブ・ベースに接続されたプローブ・シャフトと、前記プローブ・シャフトに接続されたプローブ端部と、前記プローブ・シャフトとプローブの先端との間の前記プローブ端部に1つ又は複数の隆起した表面とを含む、取り除くステップとを含む、複数のマイクロ・プローブを製造する方法。」

本件補正は、本件補正前の「前記第1の金属材料の前記露出された部分上に、第2の金属材料を電気鋳造するステップ」を、本件補正後の「前記第1の金属材料の前記露出された部分上に、所望の厚さの第2の金属材料を電気鋳造するステップであって、前記第2の金属材料の前記所望の厚さが前記電気鋳造するステップの実施条件を変化させることにより制御されるステップ」に限定するものであり、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(2)刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された以下に掲げる引用文献1及び2は、いずれも、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である。

引用文献1:特開2001-50981号公報
引用文献2:特開2003-185678号公報
(公開日:平成15年7月3日)

ア 引用文献1に記載された事項・引用発明
引用文献1には、以下の記載がある。

(ア)段落0001
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、LSI等のウエハ上に形成された半導体集積回路の電気的諸特性を測定する際に用いられる鍔付きプローブと、鍔付きプローブの製造方法と、プローブカードとに関する。」

(イ)段落0011
「【0011】本発明の実施の形態に係る鍔付きプローブ100は、鍔部130と、この鍔部130より一方側に延設された接触部110と、前記鍔部130から他方側に延設された接続部120とを備えており、前記接触部110は第1の湾曲部111と第2の湾曲部113とを有し、前記接続部120は真っ直ぐに形成されている。

(ウ)段落0012から0018まで
【0012】従来のプローブはタングステン等の細線を折り曲げたりすることで製造されていたが、この鍔付きプローブ100は、鍔部130を有するため次のようにメッキを利用して製造される。まず、表面に導電性を有する離型剤を塗布した電極板にレジストを塗布する。ここで、導電性を有する離型剤を電極板に塗布しておかないと、メッキで形成された鍔付きプローブ100を電極板から取り外すことができないようになる。また、レジストの厚さは、製造すべき鍔付きプローブ100の厚さに等しくさせる。例えば50μmである。
【0013】次に、前記レジストに鍔付きプローブ100の形状を露光し、現像する。すなわち、図1に示すように、接触部110、接続部120及び鍔部130を有するパターンをレジストに複数個形成する。すると、レジストには鍔付きプローブ100のパターンが凹に形成される。そして、このパターンの底部には、導電性を有する離型剤が露出している。なお、このレジストの凹は、断面が矩形状になるようにする。
【0014】さらに、前記電極板をメッキ液が貯留された液槽に浸漬する。この液槽には、もう一方の電極板が浸漬されている。従って、両電極板間に電流を流すことで、電極板に形成されたレジストの凹部に金属が析出する。
【0015】ここで、凹部に析出する金属としては、ニッケル、タングステン又はモリブデンに銅を基材として、ロジウム又はイリジウム等の貴金属等の混合金属又は合金である。
【0016】金属が析出することで形成された鍔付きプローブ100は、電極板を液槽から取り出してから取り外される。
【0017】…(略)…
【0018】このように、鍔付きプローブ100はフォトリソグラフィーの技術を利用して製造されているので、従来のタングステンの細線を折り曲げたりするものよりきわめて高い寸法精度を有している。」

(エ)段落0019から0021まで
「【0019】かかる鍔付きプローブ100の鍔部130は、図1に示すように、水平に左右に伸びた部分である。この鍔部130は、後述するプローブカードAの支持手段300の支持基板310の下面312に接触するようになっている。従って、この鍔部130の上面131は、突出している接続部120以外の部分は平坦に形成されている。
【0020】また、かかる鍔付きプローブ100の接触部110は、前記鍔部130の下面132の中央から垂下されている。かかる接触部110は、図1において左側に湾曲する第1の湾曲部111と、この第1の湾曲部111に続いており、鍔部130にほぼ平行となる平行部112と、この平行部112に続いており、図1において下側に湾曲する第2の湾曲部113と、この第2の湾曲部113に続いており、先端が先鋭化された先端部114とを有している。第1の湾曲部111と第2の湾曲部113とはほぼ90度の角度で湾曲しており、かつ相互に反対の方向に湾曲しているため、電極に接触する先端部114は下向きになっている。
【0021】さらに、この鍔付きプローブ100の接続部120は、鍔部130の上面131の中央から垂直方向に真っ直ぐ延設されている。」

上記(イ)及び(エ)に記載され、図1に示されているように、鍔付きプローブ100は、接触部110、鍔部130、第1の湾曲部111、平行部112、第2の湾曲部113及び先端部114からなる。そして、鍔部130は、接触部110に設けられている。
また、鍔付きプローブは、フォトリソグラフィーの技術を利用して製造されている(上記(ウ)、特に段落0018参照)。したがって、レジストに鍔付きプローブの形状を露光・現像して、鍔付きプローブのパターンをレジストに複数個形成する(上記(ウ)、特に段落0013参照)際、鍔付きプローブの形状を含むマスクをあらかじめ準備し、それをレジストに重ねていることは明らかである。
以上のことを総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「マスクを準備するステップであって、前記マスクが鍔付きプローブ100の形状を含み、前記鍔付きプローブ100の形状が、接触部110、前記接触部110に設けられた鍔部130、第1の湾曲部111、平行部112、第2の湾曲部113及び先端部114を含むマスクを準備するステップと、
表面に導電性を有する離型剤を塗布した電極板に、製造すべき鍔付きプローブ100の厚さに等しい厚さのレジストを塗布するステップと、
前記レジストに前記マスクを重ねるステップと、
前記レジストに前記鍔付きプローブ100の形状を露光するステップと、
前記レジストを現像するステップと、
前記レジストに前記鍔付きプローブ100の複数個のパターンを凹に形成するステップと、
前記電極板をメッキ液が貯留された液槽に浸漬し、前記電極板に形成された前記レジストの凹部に金属を析出させるステップと、
前記金属が析出することで形成された複数個の前記鍔付きプローブ100を電極板から取り外すステップであって、前記鍔付きプローブ100が、接触部110、前記接触部110に設けられた鍔部130、第1の湾曲部111、平行部112、第2の湾曲部113及び先端部114を含む、前記鍔付きプローブ100を電極板から取り外すステップとを含む、複数個の鍔付きプローブ100を製造する方法。」

イ 引用文献2に記載された事項
引用文献2の請求項4、段落0001などを参照すれば明らかなように、引用文献2には、マイクロ・プローブに関する技術事項が記載されている。そして、図7には、マスク73は、複数のプローブ形状72および暗空間71を備えることが図示されており、図12には、エッチング前のマスク、フォトレジスト及びフラットストックの構造の斜視図が示されている。





(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。

引用発明の「鍔付きプローブ100」と本件補正発明の「プローブ」とは、「プローブ」である点で共通する。
引用発明の「接触部110」、「第1の湾曲部111、平行部112、第2の湾曲部113」及び「先端部114」は、それぞれ、本件補正発明の「プローブ・ベース」、「前記プローブ・ベースに接続されたプローブ・シャフト」及び「前記プローブ・シャフトに接続されたプローブ端部」に相当する。
引用発明の「前記接触部110に設けられた鍔部130」は、上記相当関係及び「鍔部」が接触部110の表面からそれぞれ反対方向に突出(隆起)した表面を有していることを踏まえると、本件補正発明の「前記プローブ・ベース上に複数の隆起した表面」に相当する。
したがって、引用発明の「鍔付きプローブ100の形状」は、本件補正発明の「プローブ・ベースと、前記プローブ・ベースに接続されたプローブ・シャフトと、前記プローブ・シャフトに接続されたプローブ端部と、前記プローブ・ベース、前記プローブ端部及び前記プローブ・シャフトのうちの少なくとも1つの上に1つ又は複数の隆起した表面とを含む」「プローブ形状」に相当する。

以上の相当関係を踏まえると、引用発明の「マスクを準備するステップであって、前記マスクが鍔付きプローブ100の形状を含…むマスクを準備するステップ」と、本件補正発明の「1つ又は複数のマスクを準備するステップであって、前記1つ又は複数のマスクの各々が複数のプローブの形状を含…む準備するステップ」とは、「マスクを準備するステップであって、前記マスクがプローブの形状を含み、前記プローブ形状が、プローブ・ベースと、前記プローブ・ベースに接続されたプローブ・シャフトと、前記プローブ・シャフトに接続されたプローブ端部と、前記プローブ・ベース、前記プローブ端部及び前記プローブ・シャフトのうちの少なくとも1つの上に1つ又は複数の隆起した表面とを含む準備するステップ」である点で共通する。

引用発明の「レジスト」及び「電極板」は、それぞれ、本件補正発明の「フォトレジスト」及び「第1の金属材料」に相当する。
したがって、引用発明の「表面に導電性を有する離型剤を塗布した電極板に、製造すべき鍔付きプローブ100の厚さに等しい厚さのレジストを塗布するステップ」、「前記レジストに前記マスクを重ねるステップ」、「前記レジストに前記鍔付きプローブ100の形状を露光するステップ」、「前記レジストを現像するステップ」及び「前記レジストに前記鍔付きプローブ100の複数個のパターンを凹に形成するステップ」は、それぞれ、本件補正発明の「第1の金属材料の一面に、フォトレジストを施すステップ」、「前記第1の金属材料の前記フォトレジストを施した面上に、前記マスクを重畳させるステップ」、「前記マスクを通りぬける光に、前記フォトレジストを曝露するステップ」、「前記フォトレジストを現像するステップ」及び「前記第1の金属材料の一部分を露出させるために、前記フォトレジストの一部分を取り除くステップ」に相当する。

引用発明の「金属」及び「メッキ液が貯留された液槽に浸漬し、…金属を析出させる」は、それぞれ、本件補正発明の「第2の金属材料」及び「電気鋳造する」に相当する。
また、引用発明は、「電極板に、製造すべき鍔付きプローブ100の厚さに等しい厚さのレジストを塗布」し、「前記電極板に形成された前記レジストの凹部に金属を析出させ」ている。ここで、「製造すべき鍔付きプローブ100の厚さ」は、「所望の厚さ」であり、レジストの塗布の厚みを制御することで析出させる金属の厚みを制御しているといえる。
したがって、引用発明の「前記電極板をメッキ液が貯留された液槽に浸漬し、前記電極板に形成された前記レジストの凹部に金属を析出させるステップ」と、本件補正発明の「前記第1の金属材料の前記露出された部分上に、所望の厚さの第2の金属材料を電気鋳造するステップであって、前記第2の金属材料の前記所望の厚さが前記電気鋳造するステップの実施条件を変化させることにより制御されるステップ」とは、共に「前記第1の金属材料の前記露出された部分上に、所望の厚さの第2の金属材料を電気鋳造するステップであって、前記第2の金属材料の前記所望の厚さが制御されるステップ」である点で共通する。

引用発明の「前記金属が析出することで形成された複数個の前記鍔付きプローブ100を電極板から取り外すステップであって、前記鍔付きプローブ100が、接触部110、前記接触部110に設けられた鍔部130、第1の湾曲部111、平行部112、第2の湾曲部113及び先端部114を含む、前記鍔付きプローブ100を電極板から取り外すステップ」と、本件補正発明の「前記第2の金属材料によって形成された複数のプローブを生成するために、前記第2の金属材料を取り除くステップであって、前記複数のプローブの各々が、プローブ・ベースと、前記プローブ・ベースに接続されたプローブ・シャフトと、前記プローブ・シャフトに接続されたプローブ端部と、前記プローブ・シャフトとプローブの先端との間の前記プローブ端部に1つ又は複数の隆起した表面とを含む、取り除くステップ」とは、「前記第2の金属材料によって形成された複数のプローブを生成するために、前記第2の金属を取り除くステップであって、前記複数のプローブの各々が、プローブ・ベースと、前記プローブ・ベースに接続されたプローブ・シャフトと、前記プローブ・シャフトに接続されたプローブ端部と、1つ又は複数の隆起した表面とを含む、取り除くステップ」である点で共通する。

引用発明の「複数個の鍔付きプローブ100を製造する方法」と本件補正発明の「複数のマイクロ・プローブを製造する方法」とは、「複数のマイクロ・プローブを製造する方法」である点で共通する。

したがって、本件補正発明と引用発明とは、

「マスクを準備するステップであって、前記マスクがプローブの形状を含み、前記プローブ形状が、プローブ・ベースと、前記プローブ・ベースに接続されたプローブ・シャフトと、前記プローブ・シャフトに接続されたプローブ端部と、前記プローブ・ベース、前記プローブ端部及び前記プローブ・シャフトのうちの少なくとも1つの上に1つ又は複数の隆起した表面とを含むむ準備するステップと
第1の金属材料の一面に、フォトレジストを施すステップと、
前記第1の金属材料の前記フォトレジストを施した面上に、前記マスクを重畳させるステップと、
前記マスクを通りぬける光に、前記フォトレジストを曝露するステップと、
前記フォトレジストを現像するステップと、
前記第1の金属材料の一部分を露出させるために、前記フォトレジストの一部分を取り除くステップと、
前記第1の金属材料の前記露出された部分上に、所望の厚さの第2の金属材料を電気鋳造するステップであって、前記第2の金属材料の前記所望の厚さが制御されるステップと、
前記第2の金属材料によって形成された複数のプローブを生成するために、前記第2の金属を取り除くステップであって、前記複数のプローブの各々が、プローブ・ベースと、前記プローブ・ベースに接続されたプローブ・シャフトと、前記プローブ・シャフトに接続されたプローブ端部と、1つ又は複数の隆起した表面とを含む、取り除くステップとを含む、複数のマイクロ・プローブを製造する方法。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件補正発明では、「1つ又は複数の隆起した表面」が「前記プローブ・シャフトとプローブの先端との間の前記プローブ端部」にあるのに対し、引用発明では、「鍔部130」(本件補正発明の「プローブ上の複数の隆起した表面」に相当する。)が「接触部110」(本件補正発明の「プローブ・ベース」相当する。)にある点。

(相違点2)
本件補正発明では、マスクが「複数のプローブの形状を含む」ことで、複数のプローブを製造しているのに対し、引用発明では、鍔付きプローブ100のパターンを複数個形成することで、複数個の鍔付きプローブ100を製造しているものの、どのようにしてパターンを複数個形成しているか不明な点。

(相違点3)
第2の金属材料の所望の厚さの制御を、本件補正発明は、「電気鋳造するステップの実施条件を変化させることにより」行っているのに対し、引用発明は、レジストの塗布の厚みにより行っている点。

(4)相違点についての判断
ア 相違点1について
本件補正発明のプローブが「プローブ・ベースと、前記プローブ・ベースに接続されたプローブ・シャフトと、前記プローブ・シャフトに接続されたプローブ端部と、前記プローブ端部上の1つ又は複数の隆起した表面とを含む」という技術事項は、請求人が平成26年4月1日に提出した意見書で請求人が主張するように、本願の図7や図12に示されている。
ところが、本願の図12は、エッチング前のマスク、フォトレジスト及び平らな原料の斜視図であり、エッチング前のマスク、フォトレジスト及びフラットストックの構造の斜視図である引用文献2の図12(上記(2)イ.参照)と実質的に同一である。したがって、プローブが「プローブ・ベースと、前記プローブ・ベースに接続されたプローブ・シャフトと、前記プローブ・シャフトに接続されたプローブ端部と、前記プローブ・シャフトとプローブの先端との間の前記プローブ端部に1つ又は複数の隆起した表面とを含む」という技術事項は、引用文献2に記載された技術事項である。
そして、引用発明と引用文献2に記載された技術事項とは、プローブに関するものである点で共通しているから、引用発明の鍔付きプローブ100を、「プローブ・ベースと、前記プローブ・ベースに接続されたプローブ・シャフトと、前記プローブ・シャフトに接続されたプローブ端部と、前記プローブ端部上の1つ又は複数の隆起した表面とを含む」ものに変更することは、引用文献2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

イ 相違点2について
フォトリソグラフィーの技術において、同じパターンを複数個形成したマスクを露光に用いることは、例示するまでもなく、本願の優先日前に周知慣用の技術である。なお、必要であれば、引用文献2の段落0011及び図7を参照されたい。
引用発明において、鍔付きプローブ100のパターンを複数個形成するために、そのパターンを複数個形成したマスクを用いることは、周知慣用技術の単なる適用にすぎない。

ウ 相違点3について
本願明細書には、「電気鋳造の厚みを制御する」(段落0040)ことについて、具体的手法について記載はないが、電流密度や時間などを調整することで析出する金属の厚さを制御することは、電気めっき法を用いた電気鋳造において技術常識であることに鑑みるに、本件補正発明における「電気鋳造するステップの実施条件を変化させることにより制御」するとは、電気鋳造における厚さの制御において技術常識である電流密度や時間などを調整することであると解される。
ところで、引用発明は、「電極板に、製造すべき鍔付きプローブ100の厚さに等しい厚さのレジストを塗布」し、「前記電極板に形成された前記レジストの凹部に金属を析出させ」ており、レジストの塗布の厚みを制御することで析出させる金属の厚みを制御しているところ、電気鋳造の厚みを制御する手法として技術常識である電流密度や時間などを調整する手法に変更すること、つまり、本件補正発明の「電気鋳造するステップの実施条件を変化させることにより制御」することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(5)請求人の主張について

請求人は、上申書において、「引用文献1に開示されているプローブの作製方法は「電気めっき」を用いたものです。当業者には周知のように「電気めっき」は「電気鋳造」とは異なり、本来は後から堆積した金属膜だけでなく電極となる金属も最終形成物として利用する方法なので、引用文献1では後でプローブを剥離するために、電極板上に導電性の離型剤を予め塗布する工程を必要としています(第[0008]欄)。」と主張している。
しかしながら、JISの用語解説には、電鋳法とは、「電気めっき法による金属製品の製造・補修又は複製法。」であると規定されており(JIS H 0400:1998「電気めっき及び関連処理用語」1085「電鋳法」参照。)、一般には、電気めっきの後に剥離工程を有する製造方法のことであるから、電気めっきの後にプローブを剥離する引用文献1に記載された製造方法は、電鋳法(電気鋳造法)といえるものである。

請求人は、上申書において、「これに対して本願発明の「電気鋳造法」では、電着したプローブをステンレス鋼のマンドレルから容易に分離することができる」と主張するが、請求項1に係る発明(本願発明)には、「ステンレス鋼のマンドレル」との特定事項はないから、請求人の主張は、特許請求の範囲の請求項1の記載に基づく主張ではない。
なお、請求項2に、「前記第1の材料がステンレス鋼である」とする特定がなされているが、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3(特開2002-75489号公報)の段落0024に「金型1はステンレス鋼の如きメッキの剥がれやすい金属材料により構成される」と、金型の材料としてステンレス鋼を用いること、及び「剥がれやすい」との効果が記載されており、引用発明において、メッキで形成されたプローブを外す(剥離する)ことを予定している金型に相当する電極板の材料としてステンレス鋼を用いることは、引用文献3の記載に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

したがって、請求人の上記主張は、いずれも採用することができない。

(6)むすび
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明(引用発明)、引用文献2に記載された技術事項、周知慣用技術及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願に係る発明についての判断
1 本願に係る発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1から3までのそれぞれに係る発明は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1から3までのそれぞれに記載された事項によって特定されるとおりのものである。特に、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2」2(1)(本件補正前)に記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
特に、本願発明は、前掲の引用文献1(特開2001-50981号公報)及び引用文献2(特開2003-185678号公報)に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであると判断されている。

3 引用文献1に記載された事項・引用発明
引用文献1に記載された発明(引用発明)は、上記「第2」2(2)アに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明の「前記第1の金属材料の前記露出された部分上に、所望の厚さの第2の金属材料を電気鋳造するステップであって、前記第2の金属材料の前記所望の厚さが前記電気鋳造するステップの実施条件を変化させることにより制御されるステップ」から、下線部の限定を省いたものである。
この限定は、相違点3に係る構成であるから、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明との相違点は、相違点1及び相違点2になり、それ以外の点で一致する。
そして、相違点1及び相違点2が、引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得ること、及び周知慣用技術の単なる適用にすぎないことであることは、上記「第2」2(4)ア、イで述べたとおりである。

5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献1に記載された発明(引用発明)、引用文献2に記載された技術事項及び周知慣用技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-19 
結審通知日 2016-02-23 
審決日 2016-03-09 
出願番号 特願2011-123522(P2011-123522)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 荒井 誠  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 森 竜介
清水 稔
発明の名称 光画成(photo-defined)マイクロ電気接点の形成方法  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  

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