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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01L
管理番号 1317541
審判番号 不服2015-7513  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-22 
確定日 2016-07-27 
事件の表示 特願2013-103768「トルクアングルセンサー」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月 5日出願公開、特開2013-242312〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特許出願: 平成25年5月16日
(パリ条約による優先権主張2012年5月17日、韓国、2012年6月5日、韓国)
拒絶理由通知:平成26年3月13日(発送日:平成26年3月18日)
手続補正: 平成26年7月9日(以下、「補正1」という。)
拒絶査定: 平成26年12月16日(送達日:平成27年1月6日)
拒絶査定不服審判の請求: 平成27年4月22日
手続補正: 平成27年4月22日(以下、「本件補正」という。)


第2 補正の却下の決定

[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正によって、特許請求の範囲の請求項1は、以下のように補正された。

(補正前)
「【請求項1】
中央に回転軸が配置されるハウジングと、
前記ハウジングの内部に設けられ、入力軸と出力軸との間のトルク変化を感知するトルクセンサー部と、
前記ハウジングの内部に設けられ、前記入力軸と出力軸との間の角度変化を感知するアングルセンサー部と、を含み
前記トルクセンサー部とアングルセンサー部は、前記ハウジングの互いに異なる区域に各々設けられ、
前記トルクセンサー部は、
前記ハウジング内部に設けられるステーターと、
前記ステーター中央に前記回転軸の回転動作に連動して回転可能に設けられるトルクマグネットと、
前記ハウジングに設けられ、前記トルクマグネットの磁場を伝達するコレクターと、
個別に動作する第1及び第2磁気素子が一つのパッケージで構成され、前記コレクターを介して伝達された磁場を感知する磁気素子モジュールと、
前記磁気素子モジュールが実装される印刷回路基板と、を含み、
前記印刷回路基板は、前記回転軸の軸方向に垂直な方向に配置され、前記磁気素子モジュールが一側終端に設けられ、
前記コレクターは、
前記ステーターの上側に配置される上部コレクターと、
前記ステーターの下側に配置される下部コレクターとを含み、
前記上部及び下部コレクターは、互いに対称形状に設けられ、中央付近に各々第1及び第2伝達部材が一体に形成され、前記第1及び第2伝達部材の間に前記磁気素子モジュールが配置されることを特徴とする、トルクアングルセンサー。」

(補正後)
「 【請求項1】
中央に回転軸が配置されるハウジングと、
前記ハウジングの内部に設けられ、入力軸と出力軸との間のトルク変化を感知するトルクセンサー部と、
前記ハウジングの内部に設けられ、前記入力軸と出力軸との間の角度変化を感知するアングルセンサー部と、を含み
前記トルクセンサー部とアングルセンサー部は、前記ハウジングの互いに異なる区域に各々設けられ、
前記トルクセンサー部は、
前記ハウジング内部に設けられるステーターと、
前記ステーター中央に前記回転軸の回転動作に連動して回転可能に設けられるトルクマグネットと、
前記ハウジングに設けられ、前記トルクマグネットの磁場を伝達するコレクターと、
個別に動作する第1及び第2磁気素子が一つのパッケージで構成され、前記コレクターを介して伝達された磁場を感知する磁気素子モジュールと、
前記磁気素子モジュールが実装される印刷回路基板と、を含み、
前記印刷回路基板は、前記回転軸の軸方向に垂直な方向に配置され、前記磁気素子モジュールが一側終端に設けられ、
前記コレクターは、
前記ステーターの上側に配置される上部コレクターと、
前記ステーターの下側に配置される下部コレクターとを含み、
前記上部及び下部コレクターは、互いに対称形状に設けられ、中央付近に各々第1及び第2伝達部材が一体に形成され、前記第1及び第2伝達部材の間に前記磁気素子モジュールが配置され、
前記第1及び第2磁気素子は前記磁気素子モジュール内部で離隔配置され、
前記第1及び第2磁気素子の離隔距離は前記第1及び第2磁気素子の幅以上であることを特徴とするトルクアングルセンサー。」(下線は補正箇所。)

上記補正は、補正前の請求項1の、「第1及び第2磁気素子」について、「前記第1及び第2磁気素子は前記磁気素子モジュール内部で離隔配置され、前記第1及び第2磁気素子の離隔距離は前記第1及び第2磁気素子の幅以上である」と限定するものである。
よって、この補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

2 検討
(1)引用例記載の事項・引用発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の最先の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2007-269281号公報(以下「引用例」という。)には、「ステアリング装置」(【発明の名称】)の発明に関し、図面と共に次の事項(a)ないし(c)が記載されている。

(a)
「【0001】
本発明は、操舵トルク検出用のトルクセンサと舵角検出用の回転角センサとのコンパクトな配置を実現したステアリング装置に関する。」

(b)
「【0021】
図2は、トルクセンサ4及び回転角センサ5の取付け位置近傍を略示する断面図であり、図3は、トルクセンサ4の要部の分解斜視図である。トルクセンサ4は、図2に示すように、検出対象となるステアリング軸3をステアリングホイール30の側の入力軸33と舵取機構1の側の出力軸34とに分割し、これらの2軸を捩れ特性が既知のトーションバー32により同軸上に連結して、操舵トルクの作用によりトーションバー32の捩れを伴って入力軸33と出力軸34との間に生じる相対角変位を検出するよう構成されている。
【0022】
トルクセンサ4は、入力軸33と一体回転する円筒磁石40と、出力軸34と一体回転する2個一組の磁性材料製のヨークリング41,41と、ヨークリング41,41の外側を各別に囲繞するように配置され、夫々のヨークリング41,41内に生じる磁束を集める集磁リング42,42と、これらの集磁リング42,42間に配設された磁気センサ43,43とを備えている。 」

(c)
「【0027】
このようなヨークリング41,41に発生する磁束を集める集磁リング42,42は、ヨーク本体41a,41aの外径よりも若干大きい内径を有する磁性材料製の円環であり、周方向に適長離隔した2箇所に、軸長方向に延び、先端部を径方向外向きに屈曲成形してなる集磁突起44,44を備えている。集磁突起44,44を互いに僅かなエアギャップを隔てて対向させ、この集磁突起44,44の対向部間に、夫々磁気センサ43,43を配してある状態にて、集磁リング42,42及び磁気センサ43,43を樹脂製のモールド体45の内側に一体化することにより、捩れ検出手段が構成されている。この樹脂製のモールド体45は、集磁リング42,42の内周面がヨークリング41,41の外周面と近接対向するように後述の如く固定配置されている。
【0028】
また磁気センサ43,43は、電源回路、信号処理回路等が形成された回路基板46に各別のリードにより接続されており、回路基板46は、コラムハウジング31に取付けてある。
【0029】
以上の構成により集磁リング42,42には、ヨークリング41,41に発生する磁束が誘導され、この磁束は、集磁突起44,44の先端に集束され、夫々に対向する集磁突起44,44間のエアギャップに漏れ出す。磁気センサ43,43は、この漏れ出す磁束密度に対応する出力を発し、この出力は回路基板46を経て外部に取り出される。
【0030】
このように磁気センサ43,43により検出される磁束密度は、夫々の集磁リング42
,42に対応するヨークリング41,41のヨーク本体41a,41aに生じる磁束によって変化し、ヨーク本体41a,41aに生じる磁束は、円筒磁石40に対する夫々の相対角変位、即ち入力軸33と出力軸34との相対角変位に応じて生じるから、磁気センサ43,43の出力は、入力軸33に固設されたステアリングホイール30に加えられる操舵トルクの方向及び大きさに対応するものとなり、磁気センサ43,43の出力変化に基づいて、操舵トルクを検出することができる。
【0031】
以上のようなトルクセンサ4の上方には、ステアリング軸3の回転角度を検出する回転角センサ5が設けられている。図4は、図2のIV-IV線による横断面図であり、回転角センサ5の概略構成を示している。回転角センサ5は、図4に示すように、入力軸33と一体回転する内歯車50と、この内歯車50と噛合する歯数の異なる2つの外歯車(第1外歯車51及び第2外歯車52)とを備え、この2つの外歯車51,52の回転角度に基づいて内歯車50の複数回転に亘る回転角度を検出するように以下のように構成されている。」

また、引用例の図2の記載から、「入力軸33」「出力軸34」及びこれらを連結する「トーションバー32」が「筐体57」に配置されていること、「トルクセンサ4」及び「回転角センサ5」が「筐体57」内部の互いに異なる区域に各々設けられていること、が読みとれる。また同様に、「トルクセンサ4」の「ヨークリング41,41」及び「集磁リング42,42」が「筐体57」内部に設けられていること、「円筒磁石40」が「ヨークリング41,41」の中央に設けられていること、も読みとれる。
さらに、引用例の図2,3の記載から、「集磁リング42,42」が「ヨークリング41,41」の上側に配置される上部集磁リングと下側に配置される下部集磁リングとを含み、上部集磁リングと下部集磁リングは互いに対称形状に設けられていることも明らかである。
そうすると、上記記載(a)ないし(c)、及び図2,3の記載から、引用例には、次の発明が記載されていると認められる。(各構成について、引用例における主な記載箇所を括弧書きで示す。)

「ステアリングホイール30の側の入力軸33と舵取機構1の側の出力軸34とに分割され、トーションバー32により同軸上に連結されたステアリング軸3、が配置される筐体57と、(【0021】,図2)
前記筐体57の内部に設けられ、トーションバー32の捩れを伴って入力軸33と出力軸34との間に生じる相対角変位を検出することにより操舵トルクを検出するトルクセンサ4と、(【0021】,図2)
前記筐体57の内部に設けられ、ステアリング軸3の回転角度を検出する回転角センサ5と、を含み、(【0031】,図2)
前記トルクセンサ4と回転角センサ5は、前記筐体57の互いに異なる区域に各々設けられ、(図2)
前記トルクセンサ4は、
前記筐体57の内部に設けられるヨークリング41,41と、(図2)
前記ヨークリング41,41の中央に設けられ、入力軸33と一体回転する円筒磁石40と、(【0022】,図2)
前記筐体57に設けられ、ヨークリング41,41に発生する磁束を集める集磁リング42,42と、(【0027】,図2)
ヨークリング41,41に発生する磁束が誘導される集磁リング42,42の集磁突起44,44間のエアギャップに漏れ出す磁束密度に対応する出力を発する磁気センサ43,43と、(【0029】)
前記磁気センサ43,43の出力を取り出す回路基板46と、(【0029】)を含み、
前記集磁リング42,42は、
前記ヨークリング41,41の上側に配置される上部集磁リングと、
前記ヨークリング41,41の下側に配置される下部集磁リングとを含み、(図2,図3)
前記上部集磁リングと下部集磁リングは互いに対称形状に設けられ、周方向に適長離隔した2箇所に、各々先端部を径方向外向きに屈曲成形してなる集磁突起44,44を備え、この集磁突起44,44の対向部間に、夫々磁気センサ43,43を配してある、(【0027】,図2,図3)
ステアリング装置。(【0001】)」(以下、「引用発明」という。)

(2)周知例記載の事項
ア 周知例1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の最先の優先日前に頒布された刊行物である特開2005-93420号公報(以下、「周知例1」という。)には、磁気センサであるホール素子の利用に関し、
「【0041】
前記磁気検出手段は前述のホール素子34,35であってもよいが、出力制御回路を組み込んだホールICであってもよい。また、2つのホール素子(IC)を1つにパッケージしておいてもよく、あるいは、2つのホール素子(IC)と制御用ICとを1つにパッケージしておいてもよい。」
と記載されている。

イ 周知例2
原査定において引用され、本願の最先の優先日前に頒布された刊行物である特開2005-345284号公報(以下、「周知例2」という。)には、トルク検出装置の構成に関し、図8,10,11と共に、
「【0058】
図8は、磁気センサ7,7の望ましい支持構造を示す説明図であり、本図においては、回路基板70上に各別のリード71,71により支持された磁気センサ7,7にスペーサ73を取り付け、磁気センサ7,7の相互間の位置関係を保つようにしている。スペーサ73は、樹脂等の絶縁材料製のクリップとし、両磁気センサ7,7の基部の近傍を一括して掴持するように取り付けられている。この支持構造によれば、組み付け時における磁気センサ7,7の位置ずれを未然に防止することができ、集磁突起60,60に対する前述した位置決めを正確に行わせることができる。」
「【0064】
図10は、本発明に係るトルク検出装置の他の実施の形態を示す分解斜視図、図11は、組立て状態を示す縦断面図である。このトルク検出装置は、集磁リング6,6の外周に、各一つの集磁突起63,63が、周方向に所定の幅を有して外向きに突設されており、これらの集磁突起63,63間に確保されたエアギャップ内に2つの磁気センサ7,7を配し、これらにより集磁突起63,63間の漏洩磁束を検出する構成となっている。・・・
【0065】
この実施の形態においても、広幅の集磁突起63,63の対向面の間への2つの磁気センサ7,7の位置決めを、煩雑な位置調整を必要とせずに容易に行わせることができ、前記位置調整を含めた組立て工数を大幅に削減しながら高精度でのトルク検出が可能となる。・・・」
と記載されている。

ウ 周知例3
上記周知例1において、背景技術を示す特許文献1として提示され、本願の最先の優先日前に頒布された刊行物である特開2005-98821号公報(以下、「周知例3」という。)には、トルク検出装置の構成に関し、図4,5と共に、
「【0019】
(実施の形態2)
図4は、本発明に係るトルク検出装置の実施の形態2の構成を示す説明図であり、(a)は分解斜視図、(b)は縦断面図、(c)は横断面図である。このトルク検出装置は、磁気ヨーク4a,4bにそれぞれ磁気結合され、磁気ヨーク4a,4bからの磁束をそれぞれ誘導する2つの集磁リング8,8(補助軟磁性体)を備えている。集磁リング8,8は、図5に示すように、平行に配置され、互いに他部分より近接する平板状の部分を有し、その近接する部分の隙間に、1又は複数のホールIC6が挿入されている。」
と記載されている。

エ 周知例4
本願の最先の優先日前に頒布された刊行物である特開2010-257292号公報(以下、「周知例4」という。)には、磁界検知センサの利用に関し、
「【0007】
ところが、変位検知センサの配置間隔を密にした場合は、隣接する変位検知センサ同士で磁界の干渉を誘起し、近づけるほど干渉が激しくなり正確に測定できなくなる。・・・」
「【0031】
なお、コイルによる磁界変化を変位検知センサとして説明したが、例えば永久磁石などをメカニカル的にON/OFFするようにしてもよい。また、MR素子(磁気抵抗素子)、MI素子(磁気インピーダンス素子)、ホール素子などの磁界検知センサを用いてもよい。」
と記載されている。

オ 周知例5
本願の最先の優先日前に頒布された刊行物である特開平4-66909号公報(以下、「周知例5」という。)には、磁気センサであるホール素子の利用に関し、
「したがって、各ホール素子相互間の磁束による干渉が従来の光による干渉に比べ小さいので、各ホール素子を近接させて配することができる。」(第3ページ右上欄第5行目?第7行目。)
と記載されている。

カ 周知例6
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の最先の優先日前に頒布された刊行物である特開2011-191159号公報(以下、「周知例6」という。)には、回転角度・トルク検出装置に関し、図1,2と共に、
「【0034】
そして、27は紙フェノールやガラス入りエポキシ等の配線基板で、上下面には銅箔等によって複数の配線パターン(図示せず)が形成されると共に、第一の回転体21と第二の回転体23の側方に水平に配置されている。
【0035】
さらに、28は垂直方向の磁気を検出するホール素子や、水平方向の磁気を検出するGMR素子等の磁気検出素子で、配線基板27に実装装着され、第一の磁性体24と第二の磁性体25の間に磁石22と対向するように配設されている。」
と記載されている。

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
まず、引用発明における「ステアリングホイール30の側の入力軸33と舵取機構1の側の出力軸34とに分割され、トーションバー32により同軸上に連結されたステアリング軸3」及び「筐体57」は、それぞれ本願補正発明の「回転軸」及び「ハウジング」に相当する。引用発明のステアリング軸3の位置について検討すると、引用例の図2では同軸の位置が厳密には「中央」ではないようにも見えるが、この点は本願補正発明においても同様(本願の図1及び図3を参照。)であるから、本願補正発明の「中央に回転軸が配置される」構成が、引用発明におけるステアリング軸3の配置のようなものを含むことは明らかといえる。したがって、
引用発明の「ステアリングホイール30の側の入力軸33と舵取機構1の側の出力軸34とに分割され、トーションバー32により同軸上に連結されたステアリング軸3、が配置される筐体57」は、
本願補正発明の「中央に回転軸が配置されるハウジング」に相当する。
また、引用発明の「トーションバー32の捩れを伴って入力軸33と出力軸34との間に生じる相対角変位を検出することにより操舵トルクを検出するトルクセンサ4」は、本願補正発明の「入力軸と出力軸との間のトルク変化を感知するトルクセンサー部」に相当し、同様に、引用発明の「ステアリング軸3の回転角度を検出する回転角センサ5」は、本願補正発明の「前記入力軸と出力軸との間の角度変化を感知するアングルセンサー部」に相当する。したがって、
引用発明の「前記筐体57の内部に設けられ、トーションバー32の捩れを伴って入力軸33と出力軸34との間に生じる相対角変位を検出することにより操舵トルクを検出するトルクセンサ4と、前記筐体57の内部に設けられ、ステアリング軸3の回転角度を検出する回転角センサ5と、を含み、前記トルクセンサ4と回転角センサ5は、前記筐体57の互いに異なる区域に各々設けられ」る構成は、
本願補正発明の「前記ハウジングの内部に設けられ、入力軸と出力軸との間のトルク変化を感知するトルクセンサー部と、前記ハウジングの内部に設けられ、前記入力軸と出力軸との間の角度変化を感知するアングルセンサー部と、を含み前記トルクセンサー部とアングルセンサー部は、前記ハウジングの互いに異なる区域に各々設けられ」る構成に相当するといえる。
次に、引用発明の「ヨークリング41,41」、「円筒磁石40」、「集磁リング42,42」、及び「磁気センサ43,43」は、それぞれ、本願補正発明の「ステーター」、「トルクマグネット」、「コレクター」、及び「磁気素子モジュール」に相当し、引用発明の「回路基板46」と、本願補正発明における「印刷回路基板」とは、共に「回路基板」である点で共通する。また、引用発明において「ヨークリング41,41に発生する磁束」が「円筒磁石40」の磁場により生じるものであることは明らかであるから、「ヨークリング41,41に発生する磁束を集める」ということは、「円筒磁石40」の磁場を伝達することであるともいえる。したがって、
引用発明の「前記トルクセンサ4は、前記筐体57の内部に設けられるヨークリング41,41と、前記ヨークリング41,41の中央に設けられ、入力軸33と一体回転する円筒磁石40と、前記筐体57に設けられ、ヨークリング41,41に発生する磁束を集める集磁リング42,42と、ヨークリング41,41に発生する磁束が誘導される集磁リング42,42の集磁突起44,44間のエアギャップに漏れ出す磁束密度に対応する出力を発する磁気センサ43,43と、前記磁気センサ43,43の出力を取り出す回路基板46と、を含」む構成と、
本願補正発明における「前記トルクセンサー部は、前記ハウジング内部に設けられるステーターと、前記ステーター中央に前記回転軸の回転動作に連動して回転可能に設けられるトルクマグネットと、前記ハウジングに設けられ、前記トルクマグネットの磁場を伝達するコレクターと、個別に動作する第1及び第2磁気素子が一つのパッケージで構成され、前記コレクターを介して伝達された磁場を感知する磁気素子モジュールと、前記磁気素子モジュールが実装される印刷回路基板と、を含」む構成とは、
共に「前記トルクセンサー部は、前記ハウジング内部に設けられるステーターと、前記ステーター中央に前記回転軸の回転動作に連動して回転可能に設けられるトルクマグネットと、前記ハウジングに設けられ、前記トルクマグネットの磁場を伝達するコレクターと、前記コレクターを介して伝達された磁場を感知する磁気素子モジュールと、前記磁気素子モジュールが接続される回路基板と、を含」む構成である点で共通する。
さらに、引用発明において「前記集磁リング42,42は、前記ヨークリング41,41の上側に配置される上部集磁リングと、前記ヨークリング41,41の下側に配置される下部集磁リングとを含み、前記上部集磁リングと下部集磁リングは互いに対称形状に設けられ、周方向に適長離隔した2箇所に、各々先端部を径方向外向きに屈曲成形してなる集磁突起44,44を備え、この集磁突起44,44の対向部間に、夫々磁気センサ43,43を配してある」ことと、
本願補正発明において「前記コレクターは、前記ステーターの上側に配置される上部コレクターと、前記ステーターの下側に配置される下部コレクターとを含み、前記上部及び下部コレクターは、互いに対称形状に設けられ、中央付近に各々第1及び第2伝達部材が一体に形成され、前記第1及び第2伝達部材の間に前記磁気素子モジュールが配置され」ていることとは、
共に「前記コレクターは、前記ステーターの上側に配置される上部コレクターと、前記ステーターの下側に配置される下部コレクターとを含み、前記上部及び下部コレクターは、互いに対称形状に設けられ、各々第1及び第2伝達部材が一体に形成され、前記第1及び第2伝達部材の間に前記磁気素子モジュールが配置され」ている点で共通する。
また、引用発明の「ステアリング装置」は、本願補正発明の「トルクアングルセンサ」に相当する。

してみると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
「中央に回転軸が配置されるハウジングと、
前記ハウジングの内部に設けられ、入力軸と出力軸との間のトルク変化を感知するトルクセンサー部と、
前記ハウジングの内部に設けられ、前記入力軸と出力軸との間の角度変化を感知するアングルセンサー部と、を含み
前記トルクセンサー部とアングルセンサー部は、前記ハウジングの互いに異なる区域に各々設けられ、
前記トルクセンサー部は、
前記ハウジング内部に設けられるステーターと、
前記ステーター中央に前記回転軸の回転動作に連動して回転可能に設けられるトルクマグネットと、
前記ハウジングに設けられ、前記トルクマグネットの磁場を伝達するコレクターと、
前記コレクターを介して伝達された磁場を感知する磁気素子モジュールと、
前記磁気素子モジュールが接続される回路基板と、を含み、
前記コレクターは、
前記ステーターの上側に配置される上部コレクターと、
前記ステーターの下側に配置される下部コレクターとを含み、
前記上部及び下部コレクターは、互いに対称形状に設けられ、各々第1及び第2伝達部材が一体に形成され、前記第1及び第2伝達部材の間に前記磁気素子モジュールが配置されることを特徴とするトルクアングルセンサー。」

(相違点)
相違点1:本願補正発明の磁気素子モジュールが「個別に動作する第1及び第2磁気素子が一つのパッケージで構成され」、また「前記第1及び第2磁気素子は前記磁気素子モジュール内部で離隔配置され、前記第1及び第2磁気素子の離隔距離は前記第1及び第2磁気素子の幅以上である」のに対し、引用発明の磁気センサ43,43は2つのセンサからなるものの、一つのパッケージで構成されてはおらず、その配置間隔も特定されていない点。

相違点2:本願補正発明は、磁気素子モジュールが「印刷」回路基板に「実装」され、また「前記印刷回路基板は、前記回転軸の軸方向に垂直な方向に配置され、前記磁気素子モジュールが一側終端に設けられ」ているのに対し、引用発明においてはそのような構成はとられていない点。

相違点3:本願補正発明においては、第1及び第2伝達部材が上部及び下部コレクターの「中央付近に」一体に形成されているのに対し、引用発明の集磁突起44,44は上部集磁リングと下部集磁リングの周方向に適長離隔した2箇所に成形されている点。

(4)判断
ア 相違点1及び3について
周知例1にも記載されているように、複数の磁気センサを利用する際に、それらを1つのパッケージで構成することは周知技術(以下、「周知技術1」という。)である。また、周知例2,3にも記載されているように、トルク検出装置の集磁突起(伝達部材)を1つにまとめて形成(その場合、コレクターの中央付近への配置は通常想定される形態の範ちゅうといえる。)することも周知技術(以下、「周知技術2」という。)である。
また、磁気センサを近接配置した場合に相互に干渉するおそれがあることも、周知例4,5に記載されているように周知(以下、「周知技術3」という。)なものであるから、複数の磁気センサを1つのパッケージで構成しようとする際に、干渉が生じない程度の隔離配置を行うことは、当業者が通常配慮すべき範ちゅうの事項といえるし、その配置間隔を素子の幅以上とすることに、本願明細書の記載を参酌しても臨界的意味は認められない。

イ 相違点2について
周知例6にも記載されているように、トルク検出装置において、磁気検出素子を印刷回路基板の一側終端に実装し、回転軸の軸方向に垂直な方向に配置したものは周知(以下、「周知技術4」という。)であり、これを引用発明に採用することは当業者が容易になし得たものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術1ないし4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において、以下のように主張しているので、検討する。

(1)請求人の主張の概要
「3.補正された各請求項に係る発明と引用文献に記載の発明との比較
・・・
(2)引用文献に記載される発明との対比
引用文献1には、審査官の指摘する技術的事項が記載されているとしても、本願の補正後の請求項1に記載される「前記第1及び第2磁気素子は前記磁気素子モジュール内部で離隔配置され、前記第1及び第2磁気素子の離隔距離は前記第1及び第2磁気素子の幅以上であること」との構成は記載も示唆もされていません。また、引用文献2?5についても、本願の補正後の請求項1に係る発明の備える上記の特徴ある構成について記載も示唆もされていません。
結局、引用文献1?5のいずれにも、本願の補正後の請求項1に係る発明の備える上記の特徴ある構成は記載も示唆もされていません。
したがって、本願の補正後の請求項1に係る発明は、引用文献1?5に記載される発明に基づいて当業者が容易になし得たものではないと考えます。」

(2)当審による検討
上記「2 検討 (4)判断 ア 相違点1及び3について」において示したように、複数の磁気センサを利用する際に、それらを1つのパッケージで構成することは周知技術に過ぎず、また磁気センサを近接配置した場合に相互に干渉するおそれがあることも周知であるから、複数の磁気センサを1つのパッケージで構成しようとする際に、干渉が生じない程度の隔離配置を行うことは、当業者が通常配慮すべき範ちゅうの事項といえるし、その配置間隔を素子の幅以上とすることに臨界的意味も認められない。
したがって、審判請求人の主張は採用できない。

4 まとめ
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は前記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、補正1により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。

「中央に回転軸が配置されるハウジングと、
前記ハウジングの内部に設けられ、入力軸と出力軸との間のトルク変化を感知するトルクセンサー部と、
前記ハウジングの内部に設けられ、前記入力軸と出力軸との間の角度変化を感知するアングルセンサー部と、を含み
前記トルクセンサー部とアングルセンサー部は、前記ハウジングの互いに異なる区域に各々設けられ、
前記トルクセンサー部は、
前記ハウジング内部に設けられるステーターと、
前記ステーター中央に前記回転軸の回転動作に連動して回転可能に設けられるトルクマグネットと、
前記ハウジングに設けられ、前記トルクマグネットの磁場を伝達するコレクターと、
個別に動作する第1及び第2磁気素子が一つのパッケージで構成され、前記コレクターを介して伝達された磁場を感知する磁気素子モジュールと、
前記磁気素子モジュールが実装される印刷回路基板と、を含み、
前記印刷回路基板は、前記回転軸の軸方向に垂直な方向に配置され、前記磁気素子モジュールが一側終端に設けられ、
前記コレクターは、
前記ステーターの上側に配置される上部コレクターと、
前記ステーターの下側に配置される下部コレクターとを含み、
前記上部及び下部コレクターは、互いに対称形状に設けられ、中央付近に各々第1及び第2伝達部材が一体に形成され、前記第1及び第2伝達部材の間に前記磁気素子モジュールが配置されることを特徴とする、トルクアングルセンサー。」(以下「本願発明」という。)

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由3は、本願発明は、その最先の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2007-269281号公報(引用例)に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用例記載の事項・引用発明
引用例に記載されている事項、及び引用発明は、上記「第2 補正却下の決定 2検討 (1)引用例記載の事項・引用発明」に示したとおりである。

4 対比
本願発明と引用発明の対比、及び一致点については、上記「第2 補正却下の決定 2検討 (3)対比」に示したものと同様である。
してみると、両者の相違点は、以下のとおりである。

(相違点)
相違点4:本願発明の磁気素子モジュールが「個別に動作する第1及び第2磁気素子が一つのパッケージで構成され」ているのに対し、引用発明の磁気センサ43,43は2つのセンサからなるものの、一つのパッケージで構成されていない点。

相違点5:本願発明は、磁気素子モジュールが「印刷」回路基板に「実装」され、また「前記印刷回路基板は、前記回転軸の軸方向に垂直な方向に配置され、前記磁気素子モジュールが一側終端に設けられ」ているのに対し、引用発明においてはそのような構成はとられていない点。

相違点6:本願発明においては、第1及び第2伝達部材が上部及び下部コレクターの「中央付近に」一体に形成されているのに対し、引用発明の集磁突起44,44は上部集磁リングと下部集磁リングの周方向に適長離隔した2箇所に成形されている点。

5 判断
相違点4,6について検討する。
周知例1にも記載されているように、複数の磁気センサを利用する際に、それらを1つのパッケージで構成することは周知技術(周知技術1)である。また、周知例2にも記載されているように、トルク検出装置の集磁突起(伝達部材)を1つにまとめて形成(その場合、コレクターの中央付近への配置は通常想定される形態の範ちゅうといえる。)することも周知技術(周知技術2)である。
したがって、引用発明の集磁突起44,44や磁気センサ43,43をそれぞれ1つにまとめて形成することは当業者が容易になし得たものである。

また、相違点5は相違点2と同一であり、これについては上記「第2 補正却下の決定 2検討 (4)判断 イ 相違点2について」で検討したとおりである。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術1,2,4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術1,2,4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-26 
結審通知日 2016-03-01 
審決日 2016-03-14 
出願番号 特願2013-103768(P2013-103768)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三笠 雄司  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 森 竜介
中塚 直樹
発明の名称 トルクアングルセンサー  
代理人 南山 知広  
代理人 河合 章  
代理人 青木 篤  
代理人 鶴田 準一  
代理人 中村 健一  

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