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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1317571
審判番号 不服2015-1748  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-29 
確定日 2016-07-27 
事件の表示 特願2012-277968「中和されたアクリル性粘着パッチを備えた経皮治療システム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月 9日出願公開、特開2013- 82727〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 本願の経緯
本願は、平成12年4月7日(パリ条約による優先権主張 1999年4月22日 ドイツ)を国際出願日とする特許出願(特願2000-613409)の一部を、平成20年8月29日に新たな特許出願(特願2008-222415)とし、さらにその特許出願の一部を、平成24年12月20日に新たな特許出願としたものであって、同年12月20日に手続補正書が提出され、平成26年1月17日付けで拒絶理由が通知され、同年4月7日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月25日付けで拒絶査定され、平成27年1月29日に拒絶査定不服審判が請求され、同年3月12日付けで手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?8に係る発明は、平成26年4月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「少なくとも1種類の塩基性薬学的作用剤と感圧接着性ポリマーとを含有する経皮治療システムであり、
前記感圧接着性ポリマーが、アクリル酸またはメタクリル酸をポリマー鎖中に含むポリアクリレートであり、
前記ポリマー鎖を形成するモノマー単位の少なくとも50%(w/w)が、アクリル酸、メタクリル酸およびアクリル酸またはメタクリル酸のエステル誘導体からなる群から選択され、非エステル化アクリル酸および/または非エステル化メタクリル酸を最小で0.5%(w/w)、最大で10%(w/w)含み、
前記非エステル化アクリル酸および/または前記非エステル化メタクリル酸のカルボキシル基は、水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウムのアルコール溶液または、ナトリウムもしくはカリウムのアルコラートを用いて、70%?100%の中和度で、ナトリウムまたはカリウムで中和され、
前記経皮治療システムは、さらに0.1?5重量%の量で水結合剤を含み、
前記水結合剤の粒径は、1μm?50μmであり、
前記水結合剤を含有する前記接着性ポリマーの液状溶液が、100?1000μmの厚みの層に塗布されるシステム。」

第3 引用刊行物及び引用発明
1 引用刊行物及びその記載事項
原査定において引用文献1として引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である特許第2693212号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。

1a 「【請求項1】フリー塩基構造の塩基性薬物を粘着剤中に含有してなる薬物含有粘着剤層を、柔軟な支持体上に積層してなるテープ製剤であって、粘着剤が炭素数が4?12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルと、カルボキシル基を分子内に有する単量体から得られる共重合体のカルボキシル基の一部もしくは全部を塩基性物質によって不活性化してなる共重合体であることを特徴とする疾患治療用テープ製剤。
【請求項2】塩基性物質が、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、4級アミンから選ばれる少なくとも一種である請求項(1)記載の疾患治療用テープ製剤。」(1欄【特許請求の範囲】)

1b 「本発明はフリー塩基構造の塩基性薬物を経皮的に生体内へ投与することを目的とする疾患治療用テープ製剤に関する。」(2欄1?3行)

1c 「本発明の疾患治療用テープ製剤は、フリー塩基構造の塩基性薬物を粘着剤中に含有してなる薬物含有粘着剤層を、柔軟な支持体上に積層してなるテープ製剤であって、粘着剤が炭素数が4?12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルと、カルボキシル基を分子内に有する単量体から得られる共重合体のカルボキシル基の一部もしくは全部を塩基性物質によって不活性化してなる共重合体であることを特徴とするものである。
本発明では粘着剤として上記共重合体を用いることによって、薬物が安定的に含有されると共に放出性が顕著に向上し、さらに薬物を長時間にわたって定量的に持続放出することができるのである。」(3欄26?37行)

1d 「上記共重合体を形成するために用いるアクリル酸アルキルエステルとしては、皮膚接着性の点から炭素数が4?12のアルキル基(シクロヘキシル基の如き環状アルキル基も含む)を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの1種類もしくは2種類以上を主成分単量体として用いることが好ましく、通常、50重量%以上配合して共重合体を調製する。
また、共重合体と薬物との反応性を極力低くするためには、一般に粘着剤中に極性官能基を有しないことが好ましいが、本発明者らが検討を重ねる上で、驚くべきことに上記共重合体、即ち、官能基としてのカルボキシル基を分子内に有し、この官能基の一部もしくは全部を塩基性物質で不活性化されたアクリル系共重合体からなる粘着剤は、フリー塩基構造の塩基性薬物の安定性を損ねず、長時間にわたる定量的な持続放出性、所謂疑似0次放出性を発揮することを見い出したのである。
このようなアクリル系共重合体は、前記アクリル酸アルキルエステルを主成分単量体として用い、これに、(メタ)アクリル酸、(イソ)クロトン酸、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸のようなカルボキシル基を分子内に有する単量体を1種類以上共重合し、さらに塩基性物質を添加することによって得ることができる。共重合するに際しては、上記カルボキシル基を分子内に有する単量体を0.5?20重量%、好ましくは2?10重量%の範囲で配合する。0.5重量%に満たない場合は持続放出性、特に疑似0次放出性が不充分となるおそれがあり、また、20重量%を超えると粘着剤の凝集力が高くなりすぎて皮膚接着性が低下するおそれがある。
なお、上記不活性化されたカルボキシル基を分子内に有するアクリル系共重合体には第3成分単量体として、スチレンや(メタ)アクリル酸フェニルエステル、炭素数が4以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、例えば(メタ)アクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステルなどの無官能性単量体を共重合させることもできる。
上記不活性化されたカルボキシル基を分子内に有するアクリル系共重合体を粘着剤として用いる場合、後述するようにフリー塩基構造を有する塩基性薬物がこの粘着剤中に一時的に捕捉される。従って、薬物を粘着剤中の官能基のモル数よりも多く配合することによって捕捉されない薬物が初期に放出されて速効性を発揮し、そののち捕捉された薬物が徐々に定量的に疑似0次放出されるので、長時間にわたって持続的に薬理効果を発揮するようになる。また、薬物量が粘着剤中の官能基のモル数よりも少ない場合は速効性を有しないが、捕捉されている薬物が疑似0次放出によって持続的に放出されるので、有効血中濃度域が低い薬物の場合には効果的なテープ製剤となる。」(3欄43行?4欄40行)

1e 「本発明ではカルボキシル基を分子内に有するアクリル系共重合体を粘着剤として用いたテープ製剤を皮膚面に貼付すると、皮膚刺激などが発現するおそれがあるので、カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニアやエタノールアミンなどの4級アミンを有する化合物の如き塩基性物質を配合して粘着剤中のカルボキシル基を不活性化する。この場合、塩基性物質の配合量は粘着剤中のカルボキシル基のモル数以下とする。
塩基性物質はその配合量を変化させることによって薬物の初期放出量を多くして速効性を付与することもでき、薬物の放出性を自在に変化させることができる。また、塩基性物質を配合すると粘着剤の凝集性が高まると共に親水性も向上するので、皮膚面への糊残りが防止でき、また皮膚面からの汗分の吸収も良好となり、皮膚接着性の向上や皮膚刺激の低減に効果的である。」(4欄41行?5欄6行)

1f 「本発明において用いる薬物は、上記粘着剤に安定に保持され、且つ皮膚面へ放出されて経皮的に生体内へ吸収され、その結果として各種疾患の治療や予防に効果を発揮するものである。
このような薬物としてはフリー塩基構造の塩基性薬物であれば特に制限はなく、また塩酸塩、硫酸塩、りん酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、メシル酸塩、フマール酸塩、乳酸塩、酢酸塩、臭化水素酸塩などの酸塩構造の塩基性薬物は、公知の手段にてフリー化して用いればよい。
このようなフリー塩基構造の塩基性薬物の具体例を薬理作用面から分類して以下に示す。
・・・
11(当審注:原文は○の中に11)不整脈用薬:・・・チモロール・・・
・・・
18(当審注:原文は○の中に18)鎮咳去痰薬:・・・ツロブテロール・・・
・・・など。」(5欄13行?7欄22行)

1g 「以上のように本発明の疾患治療用テープ製剤は、薬物としてフリー塩基構造の塩基性薬物を用いているので経皮吸収性が良好なものである。また、薬物を含有する粘着剤として不活性化されたカルボキシル基を分子内に有するアクリル系共重合体からなる粘着剤を用いているので、上記特性以外に薬物の持続放出性が良好となる。」(7欄44?49行)

1h 「実施例1
アクリル酸イソノニルエステル96部、アクリル酸4部を、アゾビスイソブチロニトリルを重合開始剤として酢酸エチル中にて重合を行い、粘着剤溶液を得た。
得られた粘着剤溶液に水酸化ナトリウムを配合し、粘着剤中のカルボキシル基の90%を不活性化した。
以上のようにして得られたカルボキシル基の一部を不活性化した粘着剤溶液にチモロールを配合(チモロール含量20%/対固形分)し、これを12μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に乾燥後の厚みが40μmとなるように塗布、乾燥して本発明の疾患治療用テープ製剤を得た。なお、粘着剤中の全カルボキシル基量とチモロール量とのモル比は、4.44/6.32であった。
比較例
薬物としてマレイン酸チモロールを用いた以外は、実施例1と同様にしてテープ製剤を得た。
実施例1および比較例にて得られたテープ製剤を用いて、薬物の経日安定性、皮膚接着性、皮膚刺激性およびウサギ皮膚移行量を測定した。なお、各特性については以下の方法にて行なった。結果を第1表および第1図に示した。
・・・
(皮膚接着性)
3cmφに裁断したテープ製剤片をヒト上腕内側に貼付し、24時間後の接着状態を下記基準に従い、目視にて判定した(6人平均)。
○:貼付面積の90%以上が接着している。
△:貼付面積の50?90%が接着している。
×:貼付面積の50%未満が接着している。
・・・

」(8欄8行?9欄下から2行)

2 引用発明
刊行物1には、摘示1aから、「フリー塩基構造の塩基性薬物を粘着剤中に含有してなる薬物含有粘着剤層を、柔軟な支持体上に積層してなるテープ製剤であって、粘着剤が炭素数が4?12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルと、カルボキシル基を分子内に有する単量体から得られる共重合体のカルボキシル基の一部もしくは全部を塩基性物質によって不活性化してなる共重合体である疾患治療用テープ製剤」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

第4 対比及び判断
1 対比
(1) 本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「薬物含有粘着剤層を、柔軟な支持体上に積層してなるテープ製剤」、「疾患治療用テープ製剤」は、本願発明の「経皮治療システム」、「システム」に相当し(摘示1b、1c、1g参照)、また、引用発明の「フリー塩基構造の塩基性薬物」は、本願発明の「塩基性薬学的作用剤」に相当する(摘示1f、本願明細書【0054】の「ツロブテロール」参照)。
また、引用発明の「炭素数が4?12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル」は、本願発明の「アクリル酸またはメタクリル酸のエステル誘導体」に相当し、引用発明の「カルボキシル基を分子内に有する単量体」は、本願発明の「アクリル酸、メタクリル酸」又は「非エステル化アクリル酸および/または非エステル化メタクリル酸」に相当し、引用発明の「炭素数が4?12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルと、カルボキシル基を分子内に有する単量体から得られる共重合体」は、本願発明の「アクリル酸またはメタクリル酸をポリマー鎖中に含むポリアクリレート」に相当する(摘示1d、1h参照)。
さらに、引用発明の「カルボキシル基…を…不活性化して」は、本願発明の「カルボキシル基は、…中和され」に相当し、また、引用発明の「塩基性物質」と本願発明の「ナトリウムまたはカリウム」とは、「塩基性物質」である点で共通する(摘示1e、1h参照)。
そして、引用発明の「粘着剤」は「共重合体」であることから、本願発明の「感圧接着性ポリマー」に相当する。(なお、「粘着」と「感圧接着」とは同義であることは当業者に自明である。)

(2) そうすると、本願発明と引用発明とは、
「少なくとも1種類の塩基性薬学的作用剤と感圧接着性ポリマーとを含有する経皮治療システムであり、
前記感圧接着性ポリマーが、アクリル酸またはメタクリル酸をポリマー鎖中に含むポリアクリレートであり、
前記ポリマー鎖を形成するモノマー単位が、アクリル酸、メタクリル酸およびアクリル酸またはメタクリル酸のエステル誘導体からなる群から選択され、非エステル化アクリル酸および/または非エステル化メタクリル酸を含み、
前記非エステル化アクリル酸および/または前記非エステル化メタクリル酸のカルボキシル基は、塩基性物質で中和されたシステム」
である点で一致し、以下の相違点1、2で一応相違し、相違点3、4で相違している。

相違点1:
「前記ポリマー鎖を形成するモノマー単位」について、本願発明では「少なくとも50%(w/w)が、アクリル酸、メタクリル酸およびアクリル酸またはメタクリル酸のエステル誘導体からなる群から選択され、非エステル化アクリル酸および/または非エステル化メタクリル酸を最小で0.5%(w/w)、最大で10%(w/w)含」むことを特定しているが、引用発明ではかかる特定がない点

相違点2:
「前記非エステル化アクリル酸および/または前記非エステル化メタクリル酸のカルボキシル基」について、本願発明では「水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウムのアルコール溶液または、ナトリウムもしくはカリウムのアルコラートを用いて、70%?100%の中和度で、ナトリウムまたはカリウムで中和され」ると特定しているが、引用発明では「カルボキシル基の一部もしくは全部を塩基性物質によって不活性化」すると特定するにとどまる点

相違点3:
本願発明では「さらに0.1?5重量%の量で水結合剤を含み、前記水結合剤の粒径は、1μm?50μmである」と特定しているのに対し、引用発明ではかかる特定がない点

相違点4:
本願発明では「前記水結合剤を含有する前記接着性ポリマーの液状溶液が、100?1000μmの厚みの層に塗布される」と特定しているのに対し、引用発明ではかかる特定がない点

2 判断
上記相違点1?4について検討する。
(1) 相違点1について
引用発明は、「粘着剤が炭素数4?12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルと、カルボキシル基を分子内に有する単量体から得られる共重合体」であることを特定している。
そして、刊行物1には、「上記共重合体を形成するために用いるアクリル酸アルキルエステルとしては、皮膚接着性の点から炭素数が4?12のアルキル基(シクロヘキシル基の如き環状アルキル基も含む)を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの1種類もしくは2種類以上を主成分単量体として用いることが好ましく、通常、50重量%以上配合して共重合体を調製する・・・このようなアクリル系共重合体は、前記アクリル酸アルキルエステルを主成分単量体として用い、これに、(メタ)アクリル酸、(イソ)クロトン酸、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸のようなカルボキシル基を分子内に有する単量体を1種類以上共重合し、さらに塩基性物質を添加することによって得ることができる。共重合するに際しては、上記カルボキシル基を分子内に有する単量体を0.5?20重量%、好ましくは2?10重量%の範囲で配合する。」(摘示1d参照)ことが記載されている。さらに、実施例1においてアクリル酸イソノニルエステル(アクリル酸のエステル誘導体)96部及びアクリル酸4部を重合することが記載されている(摘示1h参照)。
そうであれば、引用発明は「前記ポリマー鎖を形成するモノマー単位の少なくとも50%(w/w)が、アクリル酸、メタクリル酸およびアクリル酸またはメタクリル酸のエステル誘導体からなる群から選択され、非エステル化アクリル酸および/または非エステル化メタクリル酸を最小で0.5%(w/w)、最大で10%(w/w)含」むものであるといえる。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。

(2) 相違点2について
ア 本願発明は「経皮治療システム」という物の発明であるが、「前記非エステル化アクリル酸および/または前記非エステル化メタクリル酸のカルボキシル基は、水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウムのアルコール溶液または、ナトリウムもしくはカリウムのアルコラートを用いて、70%?100%の中和度で、ナトリウムまたはカリウムで中和され」という特定は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された特定であるから、物を製造方法で特定していると解される。
そうすると、上記特定の意味するところが必ずしも明らかでないので、まずその意味するところを明らかにする。
本願明細書の【0027】の「「中和する(neutralizing)」または「中和(neutralization)」とは、酸性として作用するカルボキシル基(acidically reacting carboxyl groups)を、塩基と反応させて塩に変換することを意味する。中和とは、全ての酸性基が、この要領で完全に変換されることを意味する。パーセンテージで表される中和度は、理論上可能な完全な変換に対し、実際に起こった変換の比率を示すものである。」という記載からみて、本願発明の上記特定は「前記非エステル化アクリル酸および/または前記非エステル化メタクリル酸のカルボキシル基が、70%?100%の中和度で、ナトリウムまたはカリウム塩に変換されている状態」を意味するものと解される。(なお、本願明細書の全記載をみても、上記製造方法による特定が、本願発明に水酸化ナトリウムのアルコール溶液等に由来するアルコールが含まれることを特定しているとは解されない。)
イ そこで、上記相違点2について検討する。
引用発明は、「カルボキシル基の一部もしくは全部を塩基性物質によって不活性化」することを特定している。(上記で対比したように、不活性化は中和に相当する。)
そして、刊行物1には、「カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物、…の如き塩基性物質を配合して粘着剤中のカルボキシル基を不活性化する。この場合、塩基性物質の配合量は粘着剤中のカルボキシル基のモル数以下とする。塩基性物質はその配合量を変化させることによって薬物の初期放出量を多くして速効性を付与することもでき、薬物の放出性を自在に変化させることができる。また、塩基性物質を配合すると粘着剤の凝集性が高まると共に親水性も向上するので、皮膚面への糊残りが防止でき、また皮膚面からの汗分の吸収も良好となり、皮膚接着性の向上や皮膚刺激の低減に効果的である。」(摘示1e参照)と記載されており、また、実施例1において水酸化ナトリウムを用いてカルボキシル基の90%を不活性化することが記載されている(摘示1h参照)。
そうであれば、引用発明は、「前記非エステル化アクリル酸および/または前記非エステル化メタクリル酸のカルボキシル基が、70%?100%の中和度で、ナトリウムまたはカリウム塩に変換されている状態」を明示的に含むといえる。
したがって、相違点2は実質的な相違点ではない。

(3) 相違点3について
ア 刊行物1には、疾患治療用テープ製剤のアクリル系共重合体からなる粘着剤層が皮膚面から汗分を吸収することは記載されているが(摘示1e参照)、汗分の吸収により疾患治療用テープ製剤の接着性が低下することは明記されていない。
しかし、疾患治療用テープ製剤において、アクリル系共重合体からなる粘着剤層が皮膚面から汗分を吸収することにより接着性が低下することは広く知られた技術課題であり、当該技術課題を解決する手段として、疾患治療用テープ製剤のアクリル系共重合体からなる粘着剤層に汗分(水分)の吸収による接着力の低下を防止する機能を有する部材を配合することは広く行われていることである(例えば、下記参考文献1?3参照)。ここで、上記部材は、その機能が本願発明の水結合剤の機能(本願明細書【0019】、【0061】?【0067】参照)と同じであることから、本願発明の水結合剤に相当する。
そうであれば、皮膚面から汗分を吸収する疾患治療用テープ製剤である引用発明において、皮膚面から汗分を吸収する疾患治療用テープ製剤で広く知られた上記技術課題を解決するために、上記手段を採用し、水結合剤を含ませてみることに格別な困難性があるとは認められない。
そして、その具体化に際しては、広く行われている上記手段における上記部材(水結合剤)の通常の配合量である0.1?5重量%の量(例えば、下記参考文献3参照)及び通常の粒径である1μm?50μm(例えば、下記参考文献3参照)を配合してみるものである。

参考文献一覧
1.特開平7-206710号公報(原査定の引用文献2、特に、特許請求の範囲、【0001】?【0005】、【0030】?【0032】、実施例2、5、8、12参照)
2.特開平7-330602号公報(原査定の引用文献3、特に、特許請求の範囲、【0001】、【0005】?【0007】、【0013】、【0015】、【0016】参照)
3.特開昭63-225314号公報(原査定の引用文献4、特に、特許請求の範囲、従来技術、2頁右上欄下から10行?3頁左下欄4行、4頁右下欄下から3行?5頁左上欄12行、実施例5、7参照)

イ 相違点3と関連する本願発明の効果について検討する。
(ア) まず、水結合剤を含有することによる効果について検討する。
本願明細書の実施例17(実施例1?16は水結合剤が配合されていない。)は、本願発明の水結合剤に対応するクロスカルメロースナトリウムを4重量%含んでいるが、少なくとも中和度及び水結合剤の粒径が不明であるから、本願発明の実施例といえるかも不明である。
ここで、本願発明が、実施例17の「完成したTTSは、24時間の装着の間、完璧に皮膚に付着しており、皮膚から剥がれることは全く無かった。」(【0081】)という効果と同程度の効果を有すると仮定しても、刊行物1において、24時間後でも貼付面積の90%以上が接着していることが示されていること(摘示1h参照)、上記手段の採用により、汗分を吸収することによる疾患治療用テープ製剤の接着性の低下は防止されることが予測されることからすれば、本願発明が有すると仮定した上記効果は予想外のものではない。
(イ) 次に、水結合剤の配合量を特定することによる効果について検討する。
本願明細書の【0067】には、「水結合剤(water-binding agent)の添加量は、必要最低限とすべきである。というのは、上記TTS中においてこの水結合剤が占める体積により、一般に、作用物質の含有可能量が低下するからである。上述の目的のためには、このような水結合性添加剤が、0.1?5重量%(作用物質を含有する感圧接着性ポリマーフィルムの総重量を基準にする)存在すれば十分である。」と記載されているが、本願発明において、上記作用物質と解される塩基性薬学的作用剤の含有量(塩基性薬学的作用剤を含有する感圧接着性ポリマーフィルムの総重量基準)は特定されていない。
また、本願発明において、水結合剤の配合量を特定することにより得られる塩基性薬学的作用剤の配合可能量について、本願明細書をみても、水結合剤を含有していない実施例1?16において、「試験を行ったTTSは、いずれも単位面積当たりの重量が80g/m^(2)の作用物質含有感圧接着層で構成されていた。作用物質の含有量は、作用物質がツロブテロール(tulobuterol)、リバスチグミン、キサノメリンの場合は5%(w/w)、テストステロンの場合は2.5%(w/w)であった。」(【0076】)と塩基性薬学的作用剤の感圧接着層における配合量が記載されているだけである。そして、水結合剤を含有している実施例17においては、表2で示される組成の第1マトリックス層から表3で示される組成の感圧接着層に拡散した後の塩基性薬学的作用剤の感圧接着層における配合量(塩基性薬学的作用剤を含有する感圧接着性ポリマーフィルムの総重量基準)は不明である。
そうすると、水結合剤の配合量に臨界的意義があるとは認められない。
(ウ) 最後に水結合剤の粒径を特定することによる効果についてであるが、便宜的に下記(4)ウで検討するものの、予想外のものとは認められない。

(4) 相違点4について
ア 本願発明は「経皮治療システム」という物の発明であるが、「前記水結合剤を含有する前記接着性ポリマーの液状溶液が、100?1000μmの厚みの層に塗布される」という特定は、製造に関して経時的な要素の記載がある特定であるから、物を製造方法で特定しているといえる。
そうすると、上記特定の意味するところが必ずしも明らかでないので、まずその意味するところを明らかにする。
水結合剤を含有する接着性ポリマーの液状溶液の塗布厚について、本願明細書の【0066】では、「1997年の欧州薬局方に基づいて測定したこのような物質の膨張数(swelling number)は、2以上である必要があり、4を上回ることが好ましい。これら物質の粒径は、1?50μmの範囲である必要があり、5?25μmであることが好ましい。これらの条件下では、このような物質を含有する接着剤の溶液によるコーティングが、少なくとも100?1000μmの薄い膜厚でスムーズに(without problems)行える。」と記載されている。しかし、【0010】で「このようにして、線状ポリマー鎖(linear polymer chains)を三次元的に架橋することができる。通常、このような反応は、対応するポリマー溶液を最終製品へと加工する過程において、上記溶液を加熱、乾燥する際に起こる。」、【0078】で「この溶液を、シリコーン処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)の担体フィルム上に塗布し、ドローイングオフ空気炉(drawing-off air oven)により80℃で10分間乾燥してフィルムを形成した。得られた乾燥膜は、膜厚が15μmのPET膜でコーティングされていた。」と記載されていることからみると、本願発明の「経皮治療システム」は上記最終製品であると解されるから、所定の厚みの層に塗布された水結合剤を含有する接着性ポリマーの液状溶液は、最終製品へと加工される過程において乾燥されて、乾燥膜(フィルム)となり、最終製品と解される本願発明の「経皮治療システム」においては乾燥膜として含まれるものと解される。
ここで、本願明細書の全記載をみても、上記特定の100?1000μmという乾燥前の塗布厚と、経皮治療システムに含まれると解される乾燥後の乾燥膜の膜厚との関係は必ずしも明らかでないが、上記特定の乾燥前の塗布厚が100?1000μmなのであるから、乾燥による溶媒等の蒸散によって幾分厚みが減少するとしても、経皮治療システムに含まれると解される乾燥膜の膜厚は乾燥前の塗布厚と同程度である100?1000μm程度であると解される。
そうすると、上記特定は、「前記水結合剤を含有する前記接着性ポリマーが、100?1000μm程度の厚みの乾燥膜である状態」を意味するものと解される。
イ そこで、相違点4について検討する。
引用発明は、「粘着剤が炭素数が4?12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルと、カルボキシル基を分子内に有する単量体から得られる共重合体のカルボキシル基の一部もしくは全部を塩基性物質によって不活性化してなる共重合体である」「薬物含有粘着剤層」を含むことを特定している。
ここで、刊行物1には、「アクリル酸イソノニルエステル96部、アクリル酸4部を、アゾビスイソブチロニトリルを重合開始剤として酢酸エチル中にて重合を行い、粘着剤溶液を得た。得られた粘着剤溶液に水酸化ナトリウムを配合し、粘着剤中のカルボキシル基の90%を不活性化した。以上のようにして得られたカルボキシル基の一部を不活性化した粘着剤溶液にチモロールを配合(チモロール含量20%/対固形分)し、これを12μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に乾燥後の厚みが40μmとなるように塗布、乾燥して本発明の疾患治療用テープ製剤を得た。」(摘示1h参照)と記載されていることから、引用発明は、本願発明の上記特定に沿っていうと「前記接着性ポリマーが、40μmの厚みの乾燥膜である状態」を含んでいるといえる。
そして、上記(3)で検討したように、引用発明において、本願発明の「前記経皮治療システムは、さらに0.1?5重量%の量で水結合剤を含み、前記水結合剤の粒径は、1μm?50μmであ」るという特定を満たすことに格別な困難性は認められないところ、その具体化に際し、「前記水結合剤を含有する前記接着性ポリマーが、乾燥膜である状態」における乾燥膜の厚みを、広く行われている上記手段におけるアクリル系共重合体からなる粘着剤層の通常の厚みである100?1000μm程度の厚み(例えば、上記参考文献3参照)とすることに格別な困難性があるとは認められない。
ウ 相違点4と関連する本願発明の効果について検討する。
本願明細書には、水結合剤を含有する接着性ポリマーの乾燥膜の厚みが何ら記載されておらず、「前記水結合剤を含有する前記接着性ポリマーが、100?1000μm程度の厚みの乾燥膜である状態」であることの意義も何ら記載されていない。
ここで、本願明細書の【0066】には、「これら物質の粒径は、1?50μmの範囲である必要があり、5?25μmであることが好ましい。これらの条件下では、このような物質を含有する接着剤の溶液によるコーティングが、少なくとも100?1000μmの薄い膜厚でスムーズに(without problems)行える。」と記載されているが、当該記載から把握できる効果は、水結合剤の粒径を特定することによる「経皮治療システム」という物の製造方法が有する効果であって、「経皮治療システム」という物の発明である本願発明が有する効果ではないから、参酌することができない。
そして、上記記載から把握でき、参酌できる本願発明が有する効果(粒径1μm?50μmの前記水結合剤を含有する前記接着性ポリマーが、100?1000μm程度の厚みの乾燥膜である状態の経皮治療システムが有する効果)があると仮定しても、乾燥後において、所定の厚さの接着性ポリマーの乾燥膜が所定の粒径の水結合剤を含有できるように、当業者は、乾燥前において、所定の粒径の水結合剤を含有する接着性ポリマー溶液の塗布厚を所定の厚みとするものであるから、自明の効果であると解される。
念のため、相違点3(水結合剤の粒径の特定以外の特定に基づく相違点3)及び相違点4と関連する本願発明の効果を検討してみても、予想外の効果は認めれない。

(5)むすび
したがって、本願発明は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第5 請求人の主張
(1) 上記手続補正書(方式)において、請求人は、刊行物1は、「中和反応中の水の生成について、製剤に与える問題を同定していません。ゆえに、水結合剤は、引用文献1の製剤中に含まれていませんし、直接示唆もされていません。」と主張している。
上記「第4 2(3)ア」で指摘したように、本願明細書において、水結合剤は、汗分の吸収により経皮治療システムの接着性が低下するという課題を解決するために配合されるものとして記載されており、感圧接着性ポリマーの非エステル化アクリル酸および/または非エステル化メタクリル酸のカルボキシル基を中和する際に生成する水に起因する課題を解決するために配合されるものとしては記載されていないから、上記主張は本願明細書の記載に基づかない主張である。
したがって、出願人の上記主張は採用できない。

(2) また、上記意見書において、請求人は、本願発明は、その製造において、中和反応で使用する水を最大限排除できることから、水結合剤の水結合能力を皮膚からの水分の吸収に実質的に利用可能である旨、また、製造において、緩和な条件で乾燥できる旨を述べている。
しかし、上記旨は本願明細書の記載に基づかない主張であるから採用できない。(なお、上記手続補正書(方式)において、請求人は、刊行物1には、「中和反応における水の使用を教示していない点について、同意します。」と述べているように、本願発明と引用発明との間で、製造において使用する水の量の点で相違は見いだせない。)

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-29 
結審通知日 2016-03-01 
審決日 2016-03-14 
出願番号 特願2012-277968(P2012-277968)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 清子  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 関 美祝
小久保 勝伊
発明の名称 中和されたアクリル性粘着パッチを備えた経皮治療システム  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  

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