• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04M
管理番号 1317581
審判番号 不服2015-21674  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-07 
確定日 2016-08-16 
事件の表示 特願2012-166119「携帯通信装置、通信システム及び報知方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月 6日出願公開、特開2014- 27474、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成24年7月26日の出願であって、平成27年2月17日付けで拒絶理由が通知され、同年4月27日に手続補正がされ、同年9月10日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年12月7日付けで拒絶査定不服の審判が請求されるとともに同日付で手続補正がされ、さらに、当審において平成28年3月22日付けで拒絶理由が通知され、同年5月26日付けで手続補正がされたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された発明は、平成28年5月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものである。
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
特定の通信装置と通信を行う通信部と、
所定時間当たりの移動距離を算出する算出部と、
前記移動距離が前記所定時間に応じて定まる距離範囲を下回っている場合に、報知情報を、前記通信部を介して前記特定の通信装置へ送信する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記移動距離が前記距離範囲を越えている場合に、前記報知情報を、前記通信部を介して前記特定の通信装置へ送信し、
前記移動距離が前記距離範囲を下回った場合と、前記距離範囲を越えている場合とで前記特定の通信装置へ送信するモードの変更に関する処理が異なる携帯通信装置。
【請求項2】
測位部をさらに備え、
前記制御部は、前記測位部によって測定された位置を示す位置情報を、前記報知情報として前記特定の通信装置へ送信する請求項1に記載の携帯通信装置。
【請求項3】
特定の通信装置と、携帯通信装置とを含む通信システムであって、
前記携帯通信装置は、
前記特定の通信装置と通信を行う通信部と、
所定時間当たりの移動距離を算出する算出部と、
前記移動距離が前記所定時間に応じて定まる距離範囲を下回っている場合に、報知情報を、前記通信部を介して前記特定の通信装置へ送信する制御部とを備え、
前記特定の通信装置は、
前記携帯通信装置と通信を行う通信部と、
前記報知情報に基づく報知を行う制御部とを備え、
前記携帯通信装置の前記制御部は、
前記移動距離が前記距離範囲を越えている場合に、前記報知情報を、前記通信部を介して前記特定の通信装置へ送信し、
前記移動距離が前記距離範囲を下回った場合と、前記距離範囲を越えている場合とで前記特定の通信装置へ送信するモードの変更に関する処理が異なる通信システム。
【請求項4】
特定の通信装置と、携帯通信装置によって実行される報知方法であって、
前記携帯通信装置が、所定時間当たりの移動距離を算出するステップと、
前記移動距離が前記所定時間に応じて定まる距離範囲を下回っている場合に、前記携帯通信装置が、報知情報を、通信部を介して前記特定の通信装置へ送信するステップと、
前記移動距離が前記距離範囲を越えている場合に、前記携帯通信装置が、前記報知情報を、前記通信部を介して前記特定の通信装置へ送信するステップと、
前記特定の通信装置が、前記報知情報に基づく報知を行うステップと
を含み、
前記移動距離が前記距離範囲を下回った場合と、前記距離範囲を越えている場合とで前記特定の通信装置へ送信するモードの変更に関する処理が異なる報知方法。」

3.当審の拒絶理由
(1)拒絶理由通知の概要
当審において平成28年3月22日付けで通知された拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は以下のとおりである。
「1 この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

(1)請求項1、9、10に係る発明(以下「本願発明」という。)について
・引用文献1、2

引用文献1(段落【0001】、【0011】、【0012】、【0023】?【0030】、【0046】?【0048】、【0055】、図1、図4、図12)(以下「引用例」という。)の記載より、引用例には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「検索者が所持するGPS内蔵携帯端末装置と通信を行う携帯電話無線部と、
移動速度を算出し、移動速度が制限速度を超えた場合には、アラーム信号を、前記携帯電話無線部を介して前記検索者が所持するGPS内蔵携帯端末装置へ送信する制御部と
を備える被検索者が所持するGPS内蔵携帯端末装置」

本願発明と引用発明とを対比すると、

(あ)引用発明の「検索者が所持するGPS内蔵携帯端末装置」、「被検索者が所持するGPS内蔵携帯端末装置」は、それぞれ、本願発明の「特定の通信装置」、「携帯通信装置」に相当する。
(い)引用発明の「携帯電話無線部」は、本願発明の「通信部」に相当する。
(う)引用発明の「制御部」は、移動速度、すなわち、所定時間当たりの移動距離を算出するとともに、移動速度が制限速度を超えた場合、すなわち、移動距離が所定時間に応じて定まる距離範囲を超えた場合に、アラーム信号(報知情報)を、携帯電話無線部を介して検索者が所持するGPS内蔵携帯端末装置へ送信するので、本願発明の「算出部」及び「制御部」に相当する。

(相違点1)
本願発明は、「距離範囲を下回っている場合」であるのに対して、引用発明は、「移動速度が制限速度を超えた場合」である点。

前記相違点1を検討する。
引用文献2(段落【0001】、【0031】?【0043】、図8)には、以下に示す事項が記載されている。

「児童の移動速度が最小移動速度を下回っている場合に、父兄の携帯電話に児童の状況が異常なことを通知すること。」

引用文献2より、引用発明の「移動速度が制限速度を超えた場合」を、「移動速度が最小移動速度を下回った場合」、すなわち、所定時間当たりの移動距離が所定時間に応じて定まる距離範囲を下回った場合とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)請求項2に係る発明について
・引用文献1、2

・・・(中略)・・・

(3)請求項3に係る発明について
・引用文献1、2、3

上記請求項1、2でした検討に加えて、
引用発明は、GPS内蔵携帯端末装置であって、GPSの測位部を備えており、アラーム信号を通知した後に(S506)、被検索者の緯度と経度の情報(位置情報)を検索者へ送信(S507)(【0048】)している。

一方、引用文献3(段落【0001】、【0013】、【0014】、【0020】?【0022】、【0048】)には、「監視対象の位置情報を無線送信する携帯電話において、監視対象の位置情報の発信間隔を危険度に応じて可変させること。」が記載されている。

引用発明において、アラーム信号を通知した後に、GPSの測位部が、位置情報を送信する際に、引用文献3を適用して、その送信する間隔を変更(送信するモードの変更に含まれる)させることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)請求項4に係る発明について
・引用文献1、2、3

・・・(中略)・・・

(5)請求項5に係る発明について
・引用文献1、2、3

・・・(中略)・・・

(6)請求項6に係る発明について
・引用文献1、2、3

・・・(中略)・・・

(7)請求項7に係る発明について
・引用文献1、2、3

・・・(中略)・・・

引 用 文 献 等 一 覧

1.特開2003-174396号公報
2.特開2009-3871号公報
3.特開2007-166293号公報」

(2)引用発明
[引用文献1の記載事項]
当審拒絶理由に引用された特開2003-174396号公報(以下、「引用例1」という。)には、「GPS内蔵携帯端末装置」(発明の名称)に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、GPS(Global Positioning System )内蔵携帯端末装置に関し、特に、複数の人のそれぞれがGPS内蔵携帯端末装置を持つとき、一方の側から他方のGPS内蔵携帯端末装置の行動許可範囲等を設定でき、その設定内容に対して他方から一方のGPS内蔵携帯端末装置に自動的に応答が行えるようにしたGPS内蔵携帯端末装置に関する。」(3頁左欄)

イ.「【0011】したがって、本発明の目的は、GPS内蔵携帯端末装置の一方から他方へ行動許可範囲の設定が行え、また、他方のGPS内蔵携帯端末装置が行動許可範囲から逸脱したときの通知を一方のGPS内蔵携帯端末装置に自動的に行えるようにしたGPS内蔵携帯端末装置を提供することにある。
【0012】さらに、本発明の他の目的は、GPS内蔵携帯端末装置の一方から他方の移動速度に一定以上の変化があったとき、これを一方のGPS内蔵携帯端末装置に通知できるようにしたGPS内蔵携帯端末装置を提供することにある。」(4頁左欄?同右欄)

ウ.「【0023】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。以下の説明においては、2つのGPS内蔵携帯端末装置が1組で用いられ、その内の一方のGPS内蔵携帯端末装置を用いる人を検索者と言い、他方のGPS内蔵携帯端末装置を用いる人を被検索者と言っている。検索者には、例えば、旅行の添乗員、保護監督者、親、管理者等が含まれ、被検索者には、例えば、旅行のツァー客、保護の必要な老人や子供、被管理者等が含まれる。
【0024】〔第1の実施の形態〕
図1は本発明のGPS内蔵携帯端末装置の構成である。GPS内蔵携帯端末装置には、携帯電話機、PHS(Personal Handyphone System)電話機、電話機能を備えたPDA(Personal Digital Assistant)装置等が含まれる。
【0025】GPS内蔵携帯端末装置1は、被検索者及び検索者のいずれが所持する場合も同一構成であり、プログラムにしたがって動作するCPU11aを備えた制御部11、GPS衛星からの電波を受信するGPS無線部12、地図情報を格納する地図情報部13、携帯電話網との通信を無線により行う携帯電話無線部14、現在地のデータ及び被検索者の行動許可範囲のデータを保存するメモリ15(記憶部)、液晶等による表示器を備えた表示部16、キーの操作に応じた入力情報を生成する操作部17で構成される。制御部11以外の各部材は、バス18を介して制御部11に接続されている。
【0026】GPS内蔵携帯端末装置1を被検索者が所持する場合、携帯電話無線部14を介して検索者のGPS端末から自由な行動が許可された範囲の地図情報が受信され、これがメモリ15に格納される。受信した地図情報に基づいて行動許可範囲が設定される。また、被検索者の現在位置は、GPS無線部12を介してGPS衛星から受信し、この受信データに基づいて緯度と経度を制御部11で算出することにより特定される。この被検索者の現在地はメモリ15に保存される。制御部11はメモリ15から行動許可範囲を読み出し、現在地(正確には被検索者側のGPS内蔵携帯端末装置の位置であるが、以下においては被検索者の現在地であるとし、同様に、検索者側においても検索者側端末装置の位置を検索者の現在地として説明する)が行動許可範囲から逸脱していないか否か、行動許可範囲外に近い位置か否かを判定する。行動許可範囲内であることが判定された場合、一定時間をおいてGPS電波の受信を開始して再び測位する。また、行動許可範囲外に近い場合は、測位間隔を短くして再び測位を開始すると共に、地図情報部13に格納してある地図情報に現在地を示す情報を重ね、表示部16に表示する。行動許可範囲から逸脱している場合は、携帯電話無線部14により現在地の緯度情報と経度情報、及びアラーム信号を検索者のGPS内蔵携帯端末装置(以下、検索者側端末装置という)へ携帯電話網を介して送信する。その後、一定時間おきに測位が行われ、その都度、現在地の緯度情報と経度情報が検索者側端末装置に送信される。」(5頁右欄?6頁左欄)

エ.「【0046】次に、本発明の第5の実施の形態を説明する。図12は、本発明の第5の実施の形態における処理を示す。本実施の形態は、被検索者の移動速度が変化したことを検出したとき、この状況を検索者側に知らせるようにしたところに特徴がある。これにより、誘拐されるなどして、自動車で連れ去られるような状況が発生した場合でも、それを検索者が把握することが可能になる。例えば、被検索者が歩行速度から車両速度へと速度が急激に変化すれば、その変化から被検索者に異常が発生したことを認識することができる。
【0047】具体的には、被検索者側端末装置が行動許可範囲24から逸脱し、或いは移動速度がある一定速度を超えた場合、被検索者側端末装置から検索者端末装置へアラーム信号が送信される。被検索者の移動速度は、被検索者側端末装置による測位が或る一定間隔おきに行われていることから、一定時間前に測位した現在地21と現在の現在地21とから算出する距離と測位間隔時間を使って求めることができる。移動距離及び移動速度の算出は、制御部11によって行われる。
【0048】 次に、図12を参照して図5の実施の形態の処理を説明する。まず、検索者により、検索者側端末装置上で被検索者の行動許可範囲24、及び行動する際の制限速度が設定され、その設定データが被検索者端末装置に送信される(S501)。被検索者側端末装置では、その現在地21を特定するため、GPS衛星からGPS電波を受信して測位を開始し、現在地21を特定する(S502)。現在地21を特定後、メモリ15から読み出す一定時間前の現在地21と最新の現在地21とから移動距離を算出し、さらに経過時間から被検索者の移動速度を求める(S503)。被検索者側端末装置では、その位置(現在地21)が予め設定しておいた被検索者の行動許可範囲24内から逸脱していないか否か、移動速度が制限速度内か否かを判定する(S504)。この判定により、設定範囲内であることが判定された場合、現在地21を表示し(S505)、一定時間をおいて再び測位を開始し、再度現在地21の特定を行う。一方、被検索者の現在地が行動許可範囲24外又は移動速度が設定範囲越えと判定された場合、被検索者側端末装置は検索者側端末装置にアラーム信号を送信し(S506)、被検索者が設定範囲外の状況であることを検索者に知らせる。S507以降の処理は、第1の実施の形態と同じであるので、説明を省略する。」(9右欄?10頁左欄)

オ.「【0055】また、本発明のGPS内蔵携帯端末装置によれば、被検索者側のGPS内蔵携帯端末装置が行動許可範囲から逸脱しそうなとき、或いは移動速度が或る一定速度を超えたとき、被検索者側のGPS内蔵携帯端末装置から検索者側のGPS内蔵携帯端末装置へ通知される。これにより、自動車で連れ去られるという様な危険な状況が発生した場合でも、検索者は迅速に把握することが可能になり、未然に或いは早期に犯罪防止等を図ることができる。」(10頁右欄)

引用例1の上記摘記事項ア.?オ.の各記載及び図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、

a.上記摘記事項ウ.の【0023】の「2つのGPS内蔵携帯端末装置が1組で用いられ、その内の一方のGPS内蔵携帯端末装置を用いる人を検索者と言い、他方のGPS内蔵携帯端末装置を用いる人を被検索者と言っている。」の記載から、引用例1には、「被検索者が所持するGPS内蔵携帯端末装置」が記載されているといえる。


b.上記摘記事項ウ.の【0026】の「携帯電話無線部14により現在地の緯度情報と経度情報、及びアラーム信号を検索者のGPS内蔵携帯端末装置(以下、検索者側端末装置という)へ携帯電話網を介して送信する。その後、一定時間おきに測位が行われ、その都度、現在地の緯度情報と経度情報が検索者側端末装置に送信される。」の記載と図1から、前記「被検索者が所持するGPS内蔵携帯端末装置」は、「検索者が所持するGPS内蔵携帯端末装置と通信を行う携帯電話無線部」を備えるといえる。

c.上記摘記事項エ.の【0047】の「移動速度がある一定速度を超えた場合、被検索者側端末装置から検索者端末装置へアラーム信号が送信される。被検索者の移動速度は、被検索者側端末装置による測位が或る一定間隔おきに行われていることから、一定時間前に測位した現在地21と現在の現在地21とから算出する距離と測位間隔時間を使って求めることができる。移動距離及び移動速度の算出は、制御部11によって行われる。」と、上記摘記事項ウ.の【0026】の「携帯電話無線部14により現在地の緯度情報と経度情報、及びアラーム信号を検索者のGPS内蔵携帯端末装置(以下、検索者側端末装置という)へ携帯電話網を介して送信する。その後、一定時間おきに測位が行われ、その都度、現在地の緯度情報と経度情報が検索者側端末装置に送信される。」の各記載から、前記「被検索者が所持するGPS内蔵携帯端末装置」は、「移動速度を算出し、移動速度が制限速度を超えた場合に、被検索者の緯度と経度の情報を、前記携帯電話無線部を介して前記検索者が所持するGPS内蔵携帯端末装置へ送信する制御部」を備えるといえる。

以上a.?c.を総合すると、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

(引用発明)
「検索者が所持するGPS内蔵携帯端末装置と通信を行う携帯電話無線部と、
移動速度を算出し、移動速度が制限速度を超えた場合に、被検索者の緯度と経度の情報を、前記携帯電話無線部を介して前記検索者が所持するGPS内蔵携帯端末装置へ送信する制御部と
を備える被検索者が所持するGPS内蔵携帯端末装置。」

[引用文献2の記載事項]
当審拒絶理由で引用され、「安全管理システム」(発明の名称)に関する特開2009-3871号公報(以下、「引用例2」という。)には、【0001】、【0031】?【0043】の各記載及び図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、「児童の移動速度が最小移動速度を下回っている場合に、父兄の携帯電話に児童の状況が異常なことを通知すること。」(公知技術2)が記載されている。

[引用文献3の記載事項]
当審拒絶理由で引用され、「位置情報発信装置および位置情報監視システム」(発明の名称)に関する【0001】、【0013】、【0014】、【0020】?【0022】、【0048】の各記載及び図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、「監視対象の位置情報の発信間隔を、監視対象の危険度の低い領域と高い領域にある場合とで変更すること。」(公知技術3)が記載されている。

(3)対比

本願発明1と引用発明とを対比する。

d.引用発明の「検索者が所持するGPS内蔵携帯端末装置」は、「本願発明1の「特定の通信装置」に相当する。

e.引用発明の「携帯無線部」は、本願発明1の「通信部」に相当する。

f.引用発明の「移動速度」は、本願発明1の「所定時間当たりの移動距離」に含まれる。

g.本願発明1の「報知情報」に関し、本願明細書【0058】に「報知情報が含む位置情報」と記載されていることから、引用発明の「被検索者の緯度と経度の情報」は、本願発明1の「報知情報」に含まれる。

h.引用発明の「移動速度を算出し、移動速度が制限速度を超えた場合に、被検索者の緯度と経度の情報を、前記携帯電話無線部を介して前記検索者が所持するGPS内蔵携帯端末装置へ送信する制御部」と、本願発明1の「前記移動距離が前記所定時間に応じて定まる距離範囲を下回っている場合に、報知情報を前記通信部を介して前記特定の通信装置へ送信する制御部」とは、「前記移動距離が前記所定時間に応じて定まる距離範囲と所定の条件にある場合に、報知情報を前記通信部を介して前記特定の通信装置へ送信する制御部」で共通する。

したがって、上記d.?h.を総合すると、本願発明1と、引用発明とは、以下の点で一致し、相違する。

(一致点)
「特定の通信装置と通信を行う通信部と、
所定時間当たりの移動距離を算出する算出部と、
前記移動距離が前記所定時間に応じて定まる距離範囲と所定の条件にある場合に、報知情報を、前記通信部を介して前記特定の通信装置へ送信する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記移動距離が前記距離範囲を越えている場合に、前記報知情報を、前記通信部を介して前記特定の通信装置へ送信する、
携帯通信装置。

(相違点1)
一致点の「所定の条件」に関し、本願発明1が、「前記移動距離が前記所定時間に応じて定まる距離範囲を下回っている場合」であるのに対して、引用発明は、「移動速度が制限速度を超えた場合」である点。

(相違点2)
本願発明1が、「前記移動距離が前記距離範囲を下回った場合と、前記距離範囲を越えている場合とで前記特定の通信装置へ送信するモードの変更に関する処理が異なる」のに対して、引用発明は、「前記移動距離が前記距離範囲を下回った場合と、前記距離範囲を越えている場合」に相当する条件を有さず、かつ、一定間隔で送信するので、「送信するモードの変更」に相当する構成を有さない点。

(4)判断
まず(相違点2)について検討する。
「前記移動距離が前記距離範囲を下回った場合と、前記距離範囲を越えている場合とで前記特定の通信装置へ送信するモードの変更に関する処理が異なる」点については、上記引用文献1ないし3には記載も示唆もされておらず、また当業者に自明のことでもない。

また、引用文献3には、「監視対象の位置情報の発信間隔を、監視対象の危険度の低い領域と高い領域にある場合とで変更すること。」(公知技術3)が記載されている。
引用発明は、「移動速度」を監視対象とするのに対し、公知技術3は、「領域」を監視対象とするものであり、「領域」に基づいた処理を「移動速度」に基づいた処理に転用する動機づけは存在しない。また仮に適用したとしても、引用発明に公知技術3を適用したとしても、本願発明1の「前記移動距離が前記距離範囲を下回った場合と、前記距離範囲を越えている場合」について、当業者が容易に想到し得たということはできない。
よって、その余の相違点を検討するまでもなく、本願特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、当審拒絶理由で引用した引用文献1ないし3に基づいて当業者が容易に想到し得たということはできない。

本願発明3、本願発明4は、本願発明1を、それぞれ発明のカテゴリーの異なる「通信システム」、「報知方法」とした発明であって、本願発明1で(相違点2)として検討した、「前記移動距離が前記距離範囲を下回った場合と、前記距離範囲を越えている場合とで前記特定の通信装置へ送信するモードの変更に関する処理が異なる」点を、本願発明1と同様に含むものであるから、本願発明1と同様に、当審拒絶理由で引用した引用文献1ないし3に基づいて当業者が容易に想到し得たということはできない。
また、本願発明2は、前記請求項1を引用して、請求項1に記載された「報知情報」を、「前記測定部によって測定された位置を示す位置情報」である点で、さらに限定しているものであるから、本願発明1と同様に、当審拒絶理由で引用した引用文献1ないし3に基づいて当業者が容易に想到し得たということはできない。

(5)小括
以上のとおり、本願発明1ないし本願発明4は当審拒絶理由で引用した引用文献1ないし3に基づいて当業者が容易に発明し得たということはできない。

4.原審の拒絶理由
(1)拒絶理由通知及び拒絶査定の備考の概要
平成27年2月17日付けの拒絶理由通知書及び平成27年9月10日付けの拒絶査定の備考によると、原査定の拒絶の理由の趣旨は、補正後の請求項1-10に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2,3に記載された事項及び引用文献4-6に記載された周知技術に基づいて、当業者であれば容易になし得たものであるから、依然として、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

<引用文献等一覧>
1.特開2003-174396号公報
2.特開2009-230250号公報
3.特開2008-070981号公報
4.特開2001-014592号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2002-271522号公報(周知技術を示す文献)
6.特開2008-242568号公報(周知技術を示す文献;新たに引用
された文献)

(3)当審の判断
ア.本願発明
本願特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明は、それぞれ、上記「2.本願発明」の項で、「本願発明1」ないし「本願発明4」としたものである。

イ.引用発明
上記「3.当審の拒絶理由」の項中の「(2)引用発明」の項で、「引用発明」としたものである。

ウ.対比・判断
上記「3.当審の拒絶理由」の項中の「(3)対比」および「(4)判断」の(相違点2)についての引用文献1の検討に加え、引用文献2ないし6にも「前記移動距離が前記距離範囲を下回った場合と、前記距離範囲を越えている場合とで前記特定の通信装置へ送信するモードの変更に関する処理が異なる」について、記載も示唆もされておらず、また当業者にとって自明でもない。
よって、本願発明1ないし本願発明4は、原審拒絶理由で引用した引用文献1ないし3に基づいて、周知技術(原審拒絶理由において周知技術文献として引用した引用文献4、引用文献5、拒絶査定において周知技術文献として引用した引用文献6)を参酌して、当業者が容易に想到し得たとはいうことはできない。

(4)小括
以上のとおり、本願発明は原審拒絶理由で引用した引用文献1ないし3に基づいて周知技術を参酌することによって、当業者が容易に発明し得たということはできない。

5.むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては本願を拒絶することができない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-07-29 
出願番号 特願2012-166119(P2012-166119)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 相澤 祐介齋藤 正貴  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 山中 実
林 毅
発明の名称 携帯通信装置、通信システム及び報知方法  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ