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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C21D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C21D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C21D
管理番号 1317599
審判番号 不服2015-6523  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-07 
確定日 2016-07-28 
事件の表示 特願2010-179589「水素環境下で長寿命である転動部品や歯車の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月23日出願公開、特開2012- 36475〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年8月10日の出願であって、平成26年6月26日付けで拒絶理由通知がなされ、同年8月18日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成27年1月5日付けで拒絶査定がなされ、同年4月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、同年6月4日付けで審査官による前置報告がなされ、同年6月22日付けで上申書が提出されたものである。

第2 平成27年4月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
<結論>
平成27年4月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

<理由>
1.補正の適否
(1)補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1、2を削除し、請求項3、4を請求項1、2に繰り上げるとともに、該請求項におけるCrの含有量及び(C+N)量について、「1.30?3.50%」及び「0.50?2.0%」を、それぞれ、「2.09?3.50%」及び「0.50?1.21%」とする補正を含むものであり、この補正は、請求項の削除及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項2に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下、検討する。

(2)本願補正発明
「【請求項2】
質量%で、C:0.10?0.45%、Si:0.01?1.0%、Mn:0.10?2.0%、P:0.030%以下、S:0.035%以下、Cr:2.09?3.50%、Al:0.003?0.10%、N:0.004?0.050%を含有し、さらにMo:0.01?1.20%、V:0.01?0.50%、Ni:0.10?2.0%、Nb:0.01?0.20%、Ti:0.01?0.17%、B:0.0001?0.005%のうち1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避不純物である鋼材からなる転動部品もしくは歯車を、浸炭もしくは浸炭窒化処理し、これらの浸炭もしくは窒化処理後の焼入れ温度をTとするとき、焼入れ温度Tは下記式(1)を満足するものとし、該転動部品もしくは歯車の鋼材表層中の(C+N)量を0.50?1.21%とすることを特徴とする水素環境下での寿命に優れた転動部品もしくは歯車の製造方法。なお、Bを鋼材に含有するときは浸炭窒化処理は行わないものとする。
800℃≦焼入れ温度T≦750℃+39×(Cr%+0.8×Mo%+3×V%)℃・・・(1)」

(3)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願日前に日本国内において頒布された特開2008-280583号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、以下の事項が記載されている(なお、下線は、当審において付した。)。

(a)「【請求項1】
質量%で
C:0.1?0.4%
Si:0.5%以下
Mn:1.5%以下
P:0.03%以下
S:0.03%以下
Cr:0.3?2.5%
Mo:0.1?2.0%
V:0.1?2.0%
Al:0.050%以下
O:0.0015%以下
N:0.025%以下
V+Mo:0.4?3.0%
残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有する、浸炭焼入れ焼戻し処理された鋼であって、焼戻し処理後の表層C濃度が0.6?1.2%で、表面硬さがHRC58以上64未満であり、且つ表層に分散析出するV系炭化物のうち粒径100nm未満の微細なV系炭化物の個数割合が80%以上であることを特徴とする水素脆性型の面疲労強度に優れた肌焼鋼。
【請求項2】
請求項1において、質量%で
Ni:0.5%未満
Nb:0.1%以下
Ti:0.5%以下
の何れか1種又は2種以上を更に含有していることを特徴とする水素脆性型の面疲労強度に優れた肌焼鋼。」

(b)「【技術分野】
【0001】
この発明は水素脆性型の面疲労強度に優れた肌焼鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や産業機器に用いられる歯車,新しい変速機構であるCVT,軸受部品等の面疲労負荷を受ける部品は、高性能化,高速化に伴って使用条件が過酷化しており、更にCVTをはじめ使用される潤滑油の種類も多様化しており、こうした状況の下で、従来とは異なる剥離形態による早期剥離を起す問題が生じている。
【0003】
これら面疲労負荷を受ける部品において、近年、高振動,高荷重,急加減速等の厳しい負荷条件下で、且つ特殊な潤滑油や水混入条件等が複合した場合に、通常の転がり疲労寿命よりも著しく短寿命の早期剥離を発生する問題が生じている。
この早期剥離の原因は、転がり過程において転走面に水素が発生し、それが内部に侵入することにより水素脆性を生じ、著しい剥離寿命の低下をもたらすものと考えられている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は以上のような事情を背景とし、代表的肌焼鋼であるSCr420或いはSCM420をベースとして合金元素を添加することにより、従来の熱処理条件等を大幅に変更することなく、使用条件によって水素脆性剥離が生じる場合においても、優れた面疲労強度を有する肌焼鋼を提供することを目的としてなされたものである。」

(c)「【0025】
次に本発明における各化学成分等の限定理由を説明する。
・・・
【0034】
O:0.0015%以下
N:0.025%以下
OおよびNは鋼中に酸化物、窒化物を形成し、これが非金属介在物として疲労破壊の起点となり、転動疲労寿命を低下させるため、Oについては0.0015%、Nについては0.025%を上限とした。
・・・
【0036】
Ni:0.5%未満
Niは転動疲労過程での組織変化を抑制、転動疲労寿命を向上する。また、Niの添加は靭性および耐食性の改善にも効果がある。しかし、0.5%を超えて多量に含有すると鋼の焼入れ時に多量の残留オーステナイトを生成し、所定の硬さが得られなくなるとともに、鋼材のコストが上昇するため、Ni含有量の上限値を0.5%未満とした。

(d)「【実施例】
【0044】
次に本発明の実施例を以下に詳述する。
表1に示す化学成分の材料を50kgの真空溶解炉で溶製し、熱間鍛造により直径28mmの棒鋼を製造した。
この後、焼きならし処理として920℃に加熱し、2時間保持した後空冷した。
更に球状化焼なまし処理として760℃に加熱し、3時間保持した後、15℃/時間で650℃まで冷却した後空冷し、各試験の素材とした。
尚、表1中の比較例No.13はSCr420である。
【0045】
それらの素材から直径φ25mm,長さ100mmの試験片を削り出し、種々の浸炭条件(浸炭,焼入れ温度,浸炭時間,カーボンポテンシャル,冷却条件)で浸炭焼入れ焼戻し処理を行い、外周を深さ0.2mm研削した後、5点平均でロックウェル硬さを求めた。
図1は用いた浸炭焼入れ焼戻し条件の一例を表したものである。
【0046】
【表1】

・・・
【0048】
本発明者は、試験片に水素を陰極チャージした後、直ぐに高負荷速度のラジアル型転動疲労試験を行うことにより、水素脆性剥離型の面疲労破壊を再現できることを確認した。
実際の面疲労では、転動疲労に加えて転がり方向に滑りを伴う。この滑りが潤滑油の分解,新生面の生成等により水素侵入の重要な要因と考えられるが、水素をチャージした試験片を用いた転動疲労試験で水素脆性型の早期剥離現象を再現できることを確認した。
【0049】
そこで、ここでは上記素材から直径φ12.3mm,長さ22.6mmのラジアル転動疲労試験片を粗加工し、種々の浸炭条件(浸炭,焼入れ温度,浸炭時間,カーボンポテンシャル,冷却条件)で浸炭焼入れ焼戻し処理を行い、試験表面をダイヤモンド砥石で直径φ12mmに研削仕上げし、長さ22mmのラジアル転動疲労試験片を作製した。図1に浸炭条件の一例が示してある。

【0050】
同試験片を、3%塩化ナトリウム溶液1L中に3gのチオシアン酸アンモニウムを溶解した電解液を用い、電流密度0.2mA/cm^(2)で24時間の陰極チャージ処理を行い、水素チャージ後、10分以内にラジアル転動疲労試験を開始した。
・・・
表2にその試験結果が示してある。
【0053】
【表2】


【0054】
この表2の試験結果において、Vを添加した本発明の実施例はいずれも表面硬さHRC58以上64未満であり、粒径100nm未満の微細なV系炭化物の個数割合が80%以上、表層C量は0.6?1.2%の範囲内である。
水素チャージでの侵入水素量は1.7?3.3ppmであるが、水素チャージ材のラジアル転動疲労のL_(10)寿命は7.5?10.7×10^(7)回と優れる。」

(e)「


(4)引用刊行物記載の発明
上記記載事項(a)、(b)によれば、水素発生下での剥離寿命に優れた歯車用の肌焼鋼について記載され、上記記載事項(d)の【表1】には、実施例7として、質量%で、C:0.30%、Si:0.46%、Mn:1.34%、P:0.020%、S:0.021%、Cr:2.10%、Ni:0.09%、Mo:1.10%、V:0.33%、Al:0.045%、O:0.0013%、N:0.017%を含む鋼材が記載され、【0045】には、該鋼材からなる試験片に浸炭処理後、焼入れ温度830℃の油中焼入れ(OQ)を行うこと(【図1】)が記載され、【表2】によれば、浸炭処理後の表層C濃度は、0.75%であることが記載されている。
なお、上記実施例7として記載される鋼材は、上記記載事項(a)の【請求項2】に記載される鋼材の実施例に相当するものであるから、「質量%で、C:0.30%、Si:0.46%、Mn:1.34%、P:0.020%、S:0.021%、Cr:2.10%、Ni:0.09%、Mo:1.10%、V:0.33%、Al:0.045%、O:0.013%、N:0.017%、残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有する鋼材」であるといえる。

よって、上記検討事項及び技術常識(浸炭処理は、歯車に成形した後に行われること)によれば、引用刊行物には、
「質量%で、C:0.30%、Si:0.46%、Mn:1.34%、P:0.020%、S:0.021%、Cr:2.10%、Ni:0.09%、Mo:1.10%、V:0.33%、Al:0.045%、O:0.013%、N:0.017%、残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有する鋼材からなる歯車を浸炭処理し、浸炭処理後の焼入れ温度を830℃とし、該歯車の鋼材表層中のC量を0.75%とする水素発生下での剥離寿命に優れた歯車の製造方法。」(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(5)対比・判断
本願補正発明と引用発明を対比すると、引用発明における「水素発生下での剥離寿命」は、本願補正発明の「水素環境下での寿命」に相当する。
また、引用発明における「焼入れ温度(T)を830℃」は、
800℃≦830℃≦750℃+39×(2.10+0.8×1.10+3×0.33)(=904.84℃)であるから、本願補正発明の「800℃≦焼入れ温度T≦750℃+39×(Cr%+0.8×Mo%+3×V%)℃・・・(1)」に相当する。
そして、引用発明においては「O:0.0013%」を含有するが、上記記載事項(c)によれば、これは、本願補正発明の「不可避不純物」に相当するものといえる。
さらに、本願明細書の【表1】、【表2】には、本願補正発明(すなわち、請求項2に係る発明)の実施例に相当する実施例鋼Eにおいて、Niを0.09質量%含んでおり、また、【0030】の「表1の実施例鋼の各成分元素の記載において、本発明における鋼の成分元素の組成範囲に満たない範囲の値は、実操業上の不可避不純物として含有されているものである。」との記載によれば、本願補正発明の鋼材においては、Niが0.09%含有されていても、当該Niは不可避不純物として扱っているから、引用発明における「Ni:0.09%」は、本願補正発明における「不可避不純物」に相当するものといえる。

よって、両者は、
「C:0.30%、Si:0.46%、Mn:1.34%、P:0.020%、S:0.021%、Cr:2.10%、Al:0.045%、N:0.017%、Mo:1.10%、V:0.33%、残部がFeおよび不可避不純物である鋼材からなる転動部品もしくは歯車を、浸炭処理し、この浸炭処理後の焼入れ温度をTとするとき、焼入れ温度Tは下記式(1)を満足するものとし、該歯車の鋼材表層中の(C+N)量を0.75%とすることを特徴とする水素環境下での寿命に優れた転動部品もしくは歯車の製造方法。
800℃≦焼入れ温度T≦750℃+39×(Cr%+0.8×Mo%+3×V%)℃・・・(1)」である点で一致し、相違点は認められない。
なお、仮に、両者の間に相違点があったとしても、その点は微差であり、当業者が適宜なし得る事項である。

よって、本願補正発明は、引用刊行物に記載された発明であるか、あるいは引用刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号あるいは同条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
(1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-4に係る発明は、平成26年8月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項4に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項4】
質量%で、C:0.10?0.45%、Si:0.01?1.0%、Mn:0.10?2.0%、P:0.030%以下、S:0.035%以下、Cr:1.30?3.50%、Al:0.003?0.10%、N:0.004?0.050%を含有し、さらにMo:0.01?1.20%、V:0.01?0.50%、Ni:0.10?2.0%、Nb:0.01?0.20%、Ti:0.01?0.17%、B:0.0001?0.005%のうち1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避不純物である鋼材からなる転動部品もしくは歯車を、浸炭もしくは浸炭窒化処理し、これらの浸炭もしくは浸炭窒化処理後の焼入れ温度をTとするとき、焼入れ温度Tは下記の式(1)を満足するものとし
、該転動部品もしくは歯車の鋼材表層面中の(C+N)量を0.50?2.0%とすることを特徴とする水素環境下での寿命に優れた転動部品もしくは歯車の製造方法。なお、Bを鋼材に含有するときは浸炭窒化処理は行わないものとする。
800℃≦焼入れ温度T≦750℃+39×(Cr%+0.8×Mo%+3×V%)℃・・・(1)」

(2)引用刊行物の記載事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物の記載事項及び引用発明は、前記「第2 1.(3)」及び「第2 1.(4)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、そのCrの含有量及び(C+N)量が、「1.30?3.50%」及び「0.50?2.0%」であり、前記「第2 1.(5)」で検討した、本願補正発明における「2.09?3.50%」及び「0.50?1.21%」の範囲を、それぞれ、含むものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらにその発明特定事項の一部を限定したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 1.(5)」に記載したとおり、引用刊行物に記載された発明であるか、あるいは引用刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用刊行物に記載された発明であるか、あるいは引用刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは同条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-27 
結審通知日 2016-05-31 
審決日 2016-06-16 
出願番号 特願2010-179589(P2010-179589)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C21D)
P 1 8・ 121- Z (C21D)
P 1 8・ 113- Z (C21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 陽一  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 鈴木 正紀
富永 泰規
発明の名称 水素環境下で長寿命である転動部品や歯車の製造方法  
代理人 横井 健至  
代理人 横井 宏理  
代理人 横井 知理  
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