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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1317626
審判番号 不服2015-4367  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-05 
確定日 2016-08-05 
事件の表示 特願2011- 44524「リコンビナーゼポリメラーゼ増幅」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月 2日出願公開、特開2011-103900〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成17年4月11日を国際出願日とする特願2007-514201号出願(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年6月1日 米国、2004年6月1日 米国、2004年9月1日 米国、2004年10月26日 米国、2004年12月2日 米国)の一部を平成23年3月1日に特許法第44条第1項の規定に基づき新たな出願としたものであり、平成27年3月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。
本願請求項1?26に係る発明は、平成27年3月5日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?26に記載された事項により特定される発明であると認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次の事項により特定されるものであると認める。

「【請求項1】
DNAの第1の鎖とDNAの第2の鎖を含む二本鎖標的核酸分子のDNA増幅のリコンビナーゼポリメラーゼ増幅(RPA)プロセスであって、該プロセスは、以下:
(a)リコンビナーゼ因子を、第1の核酸プライマーおよび第2の核酸プライマーと接触させて、第1のリコンビナーゼ因子/核酸プライマー複合体と、第2のリコンビナーゼ因子/核酸プライマー複合体とを形成させる工程であって、該第1および第2の核酸プライマーの各々が、その3’末端に一本鎖領域を含む、工程;
(b)該第1および第2のリコンビナーゼ因子/核酸プライマー複合体を、該二本鎖標的核酸分子と接触させることよって、
(1)該第1の鎖の第1の部分における第1の二本鎖構造、および
(2)該第2の鎖の第2の部分における第2の二本鎖構造
を形成させ、その結果、該第1のリコンビナーゼ因子/核酸プライマー複合体および該第2のリコンビナーゼ因子/核酸プライマー複合体の各々の3’末端が、同一の二本鎖鋳型核酸分子上で互いに向かって配向される、工程;
(c)該第1および第2の核タンパク質プライマーの各々の3’末端をdNTPと1種以上のDNAポリメラーゼを用いて伸長させて、第1の二本鎖核酸生成物、第2の二本鎖核酸生成物、核酸生成物の第1の被置換鎖、および、核酸生成物の第2の被置換鎖を生成する工程;ならびに
(d)(b)および(c)を繰り返して、該二本鎖標的核酸分子を増幅する工程;
を包含し、ここで、該プロセスの工程(b)がさらに、1重量%または容量%?12重量%または容量%の濃度のクラウディング剤を含み、1重量%または容量%?12重量%または容量%の該クラウディング剤の存在が増幅を刺激する、RPAプロセス。」


第2 当審の判断
1.引用例、引用発明
(1)引用例1
原査定で文献1として引用された、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である、国際公開第2003/072805号(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるため、引用例1のパテントファミリーである特表2005-518215号公報の記載を翻訳文として記載する。

「1.二本鎖標的配列のDNA増幅のRPAプロセスであって、該標的配列は、DNAの第一鎖および第二鎖を含み、該プロセスは、以下の工程:
(a)第一の核酸プライマーおよび第二の核酸プライマーとリコンビナーゼ因子とを接触させて、第一の核タンパク質プライマーおよび第二の核タンパク質プライマーを形成する工程;
(b)該第一の核タンパク質プライマーおよび第二の核タンパク質プライマーを、該二本鎖標的配列に接触させ、それによって、該第一鎖の第一の部分において第一の二本鎖構造を形成し、そして該第二鎖の第二の部分にて第二の二本鎖構造を形成し、その結果、該第一の核酸プライマーおよび第二の核酸プライマーの3’末端は、同じテンプレート核酸分子上で互いに向かい合う、工程;
(c)該第一の核タンパク質プライマーおよび第二の核タンパク質プライマーの3’末端を、1つ以上のポリメラーゼおよびdNTPを用いて伸長させて、第一の二本鎖核酸および第二の二本鎖核酸、ならびに第一の核酸置換鎖および第二の核酸置換鎖を生成する、工程、
(d)所望の程度の増幅が達成されるまで、(b)および(c)を繰り返して、該反応を継続する工程、
を包含する、プロセス。」 (特許請求の範囲、請求項1)

(2)引用例2
原査定で文献2として引用された、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である、国際公開第2004/027025号(以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるため、引用例2のパテントファミリーである特表2006-500028号公報の記載を翻訳文として記載する。また、下線は当審が付したものである。

「他の化学物質
塩およびpHに加えて、他の化学物質、例えば、尿素やジメチルスルホキシド(DMSO)などの変性剤をHDA反応に加えて、二本鎖DNAを部分的に変性または不安定化するようにしてもよい。HDA反応は、SSBタンパク質の存在下または非存在下にて、変性剤の濃度を変えて比較することができる。このようにして、HDA効率を高めるか、および/または一本鎖(ss)DNA安定化においてSSBの代わりとなる化学化合物を同定することができる。核酸やタンパク質などの生体マクロ分子の殆どが、生物細胞内ではin vitro実験条件よりもはるかに高い濃度で機能および/またはそれらの天然の構造を形成するように設計される。ポリエチレングリコール(PEG)は、水を排除し、溶質ポリカチオンと静電的相互作用を作り出すことにより、人工的な分子の込み合った状態を作り出すために用いられてきた(Miyoshiら、Biochemistry 41:15017-15024(2002))。PEG(7.5%)をDNAライゲーション反応に加えると、反応時間は5分間に短縮される(Quick Ligation Kit、New England Biolabs Inc.(マサチューセッツ州ベバリー))。またPEGは、反応の効率を高めるためにヘリカーゼ巻き戻しアッセイにも加えられてきた(Dongら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、93:14456?14461(1996))。HDAへのPEGまたは他の分子込み合い剤は、HDA反応における酵素および核酸の有効濃度を高めることにより、反応時間および反応に必要なタンパク質の濃度を低減するかもしれない。」(37頁1行?38頁2行)

(3)引用例3
原査定で文献4として引用された、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である、特開平8-103300号公報(以下「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである。

(3-1)「【0009】硫酸デキストランやポリエチレングリコールなどの体積排除剤の存在下では、こうした剤が占める溶液の体積から核酸が排除されるために、核酸のハイブリダイゼーション速度がかなり増加することが知られている〔Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, page 9.50, 1989 、及び米国特許第5,106,730号明細書(Van Ness ら) 〕。この排除効果が溶液中の核酸の有効濃度を高めることにより、ハイブリダイゼーション速度が増加する。こうして、これらの物質は望ましくない逆反応を前方へ「推進する」ために反応混合物へ日常的に添加されている。例えば、これらを反応混合物へ添加してリガーゼ反応を「推進する」ことが米国特許第5,185,243号(Ullman ら) 及び同第5,194,370号(Berningerら) 明細書に記載されている。
【0010】しかしながら、ハイブリダイゼーション速度は体積排除剤によって増加するが、ハイブリダイゼーションの速度が通常遅い場合、又は核酸が反応において律速する場合を除いて、Sambrookらはそれらの使用を薦めてはいない。また、これらの剤は時として高いバックグラウンドをもたらすこと、さらには得られた溶液の粘度が高くなるためにその取扱いがより一層困難になることが知られている。こうして、当該技術分野では、体積排除剤は特定のハイブリダイゼーション条件に限定されるべきであるとされており、また上記特許明細書が示すように、実際には逆反応を前方へ「推進させる」場合にのみ体積排除剤が用いられている。というのは、そうしなければ反応が適当な速度で起こらないからである。」

(3-2)実施例5の表2には、体積排除剤である「PEG」を1?10%の割合で用いたことが記載されている。(段落【0099】)

(4)引用発明
上記(1)より、引用例1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「二本鎖標的配列のDNA増幅のRPAプロセスであって、該標的配列は、DNAの第一鎖および第二鎖を含み、該プロセスは、以下の工程:
(a)第一の核酸プライマーおよび第二の核酸プライマーとリコンビナーゼ因子とを接触させて、第一の核タンパク質プライマーおよび第二の核タンパク質プライマーを形成する工程;
(b)該第一の核タンパク質プライマーおよび第二の核タンパク質プライマーを、該二本鎖標的配列に接触させ、それによって、該第一鎖の第一の部分において第一の二本鎖構造を形成し、そして該第二鎖の第二の部分にて第二の二本鎖構造を形成し、その結果、該第一の核酸プライマーおよび第二の核酸プライマーの3’末端は、同じテンプレート核酸分子上で互いに向かい合う、工程;
(c)該第一の核タンパク質プライマーおよび第二の核タンパク質プライマーの3’末端を、1つ以上のポリメラーゼおよびdNTPを用いて伸長させて、第一の二本鎖核酸および第二の二本鎖核酸、ならびに第一の核酸置換鎖および第二の核酸置換鎖を生成する、工程、
(d)所望の程度の増幅が達成されるまで、(b)および(c)を繰り返して、該反応を継続する工程、
を包含する、プロセス。」

2.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「該標的配列は、DNAの第一鎖および第二鎖を含」む「二本鎖標的配列のDNA増幅のRPAプロセス」は、本願発明の「DNAの第1の鎖とDNAの第2の鎖を含む二本鎖標的核酸分子のDNA増幅のリコンビナーゼポリメラーゼ増幅(RPA)プロセス」に相当し、引用発明の(a)?(c)工程は、本願発明の(a)?(c)工程に相当し、引用発明の「(d)所望の程度の増幅が達成されるまで、(b)および(c)を繰り返して、該反応を継続する工程」は、本願発明の「(d)(b)および(c)を繰り返して、該二本鎖標的核酸分子を増幅する工程」に相当すると認められる。

したがって、両者は、
「DNAの第1の鎖とDNAの第2の鎖を含む二本鎖標的核酸分子のDNA増幅のリコンビナーゼポリメラーゼ増幅(RPA)プロセスであって、該プロセスは、以下:
(a)リコンビナーゼ因子を、第1の核酸プライマーおよび第2の核酸プライマーと接触させて、第1のリコンビナーゼ因子/核酸プライマー複合体と、第2のリコンビナーゼ因子/核酸プライマー複合体とを形成させる工程であって、該第1および第2の核酸プライマーの各々が、その3’末端に一本鎖領域を含む、工程;
(b)該第1および第2のリコンビナーゼ因子/核酸プライマー複合体を、該二本鎖標的核酸分子と接触させることよって、
(1)該第1の鎖の第1の部分における第1の二本鎖構造、および
(2)該第2の鎖の第2の部分における第2の二本鎖構造
を形成させ、その結果、該第1のリコンビナーゼ因子/核酸プライマー複合体および該第2のリコンビナーゼ因子/核酸プライマー複合体の各々の3’末端が、同一の二本鎖鋳型核酸分子上で互いに向かって配向される、工程;
(c)該第1および第2の核タンパク質プライマーの各々の3’末端をdNTPと1種以上のDNAポリメラーゼを用いて伸長させて、第1の二本鎖核酸生成物、第2の二本鎖核酸生成物、核酸生成物の第1の被置換鎖、および、核酸生成物の第2の被置換鎖を生成する工程;ならびに
(d)(b)および(c)を繰り返して、該二本鎖標的核酸分子を増幅する工程;
を包含するRPAプロセス。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本願発明では「該プロセスの工程(b)がさらに、1重量%または容量%?12重量%または容量%の濃度のクラウディング剤を含み、1重量%または容量%?12重量%または容量%の該クラウディング剤の存在が増幅を刺激する」ことが特定されているのに対して、引用発明では特定されていない点。

3.当審の判断
上記1.(2)のとおり、引用例2には、分子込み合い剤(クラウディング剤に相当)は、HDA(ヘリカーゼ依存性増幅)反応における酵素および核酸の有効濃度を高めることにより反応時間を低減するかもしれないことが記載されており、また、上記1.(3)のとおり、引用例3には、体積排除剤(クラウディング剤に相当)の存在下では、核酸のハイブリダイゼーション速度が増加することが記載されている。
そして、引用例2、3の記載に接した当業者であれば、DNA増幅反応系にクラウディング剤を用いることによって、酵素や核酸の有効濃度が高まり、核酸のハイブリダイゼーション速度が増加し、増幅反応効率が高められて増幅反応に要する時間が低減される可能性があることを理解する。
したがって、DNA増幅系に関する引用発明において、より効率的で迅速な増幅反応を行う目的で反応系にクラウディング剤を含ませること、その際、クラウディング剤の機能についてDNA増幅系反応の「増幅を刺激する」と特定し、引用例3の記載からその割合を1?10(容量または重量)%程度とすることは当業者が容易になし得ることである。

本願明細書の実施例には、クラウディング剤としてPEGを用いた場合の効果については具体的に記載されているが、PEG以外を用いた例は示されていない。しかも、図15Bの記載から同じPEGであっても分子量によって効果が異なること、図65の記載から含有量の違いによって効果が異なることが理解される。
そして、上記1.(3)のとおり、引用例3の段落【0010】に、クラウディング剤は高いバックグラウンドをもたらす場合があること、溶液の粘度を高くしてしまうため、取扱いが困難になること、クラウディング剤の使用は特定のハイブリダイゼーション条件に限定されるべきであることなどが示されているから、クラウディング剤としてPEGを用い、特定の反応条件によって行われた実施例の結果を、クラウディング剤の種類や反応条件を特定しない本願発明全体の効果として参酌することはできない。
したがって、本願発明が引用例1?3に記載から当業者が予測できない効果を奏するとは認められない。

よって、本願発明は、引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.請求人の主張について
審判請求人は審判請求書において、概ね以下の点を主張している。
引用文献2?4はいずれも、リコンビナーゼにより駆動される鎖侵入を伴う反応においてクラウディング剤を用いることは開示してない。
引用文献1の記載から、当業者は、効率的なRPAプロセスはプロセスに関与する様々な成分の結合速度反応および解離速度反応の間のバランスを必要とすることを理解する。
引用文献1には、ATP-γ-Sの存在下で実施されるRPA実験について、「ATPの代わりのATP-γ-Sの使用は…(中略)…より安定なRecA/ssDNAフィラメント構造をもたらす」こと、そして、ATPの代わりのATP-γ-Sの使用が、フィラメントの分解を妨げ、増幅にとって有害であったことが記載されており、当業者は、RPAプロセスにおける解離反応速度を低下させるクラウディング剤が、RPAプロセスによって達成される増幅の量の全体的な減少を媒介し得ると予測する。
対照的に、審判請求人は、RPAプロセスにおける1%?12%のクラウンディング剤(例えば、1%?12%のPEG)の使用が、増幅を有意に刺激することを発見した。

審判請求人の主張について検討する。
上記3.のとおり、引用例2、3の記載に接した当業者は、DNA増幅反応系にクラウディング剤を用いることによって、酵素や核酸の有効濃度が高まり、核酸のハイブリダイゼーション速度が増加し、増幅反応効率が高められて増幅反応に要する時間が低減されることを理解する。そして、引用発明のRPAプロセスは、引用例2、3に記載される方法と同じくDNA増幅反応であるから、当業者は、引用発明において増幅反応効率等を高めることを目的としてクラウディング剤を使用することを動機付けられるといえる。
審判請求人が指摘する引用例1の記載は、ATP-γ-Sを使用するZarling法に関するものであり、これは引用発明のRPAプロセスとは異なる方法であると認められる。そして、この記載はRecA/ssDNAフィラメント構造の複合体の形成におけるATPとATP-γ-Sの違いについて述べたものに過ぎず、この記載がRPAプロセスにおけるクラウディング剤についてまで一般化できるとはいえない。
仮に、クラウディング剤によってRecA/ssDNA複合体の解離反応速度が低下することが予測されたとしても、一方で、引用例2,3の記載から、ハイブリダイゼーションのような結合反応の速度が向上すること、酵素や核酸の有効濃度が向上すること、反応条件によっては増幅反応が促進される場合があることが予測されるから、請求人が指摘する点は、クラウディング剤を含有させようとすることの阻害事由とはならない。
そして、本願明細書の記載から、反応条件を特定せず、クラウディング剤としてPEG以外のものの使用を広く包含する本願発明全体において当業者が予測できない効果が奏されたとは認められない。

第3 むすび
以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-11 
結審通知日 2016-03-14 
審決日 2016-03-28 
出願番号 特願2011-44524(P2011-44524)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 悠美子  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 高堀 栄二
小堀 麻子
発明の名称 リコンビナーゼポリメラーゼ増幅  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  

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