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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1317644
審判番号 不服2015-9643  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-25 
確定日 2016-08-01 
事件の表示 特願2013-237306「半導体装置およびその製造方法、ならびに半導体装置用基板およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月20日出願公開、特開2014- 53638〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年12月10日に出願した特願2007-318817号の一部を平成24年12月3日に新たな特許出願とした特願2012-264264号の一部を平成25年11月15日に新たな特許出願として出願したものであって、同年11月18日付けで手続補正がなされ、平成26年10月20日付け拒絶理由通知に対して、同年12月15日付けで手続補正がなされたが、平成27年2月20日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年5月25日付けで審判請求がなされると共に手続補正がなされ、平成28年2月23日付け当審の拒絶理由通知に対して、同年4月19日付けで手続補正がなされた。


2.本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成28年4月19日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
各々が内部端子面と外部端子面とを有する複数の端子部と、
ダイパッドと、
ダイパッド上に搭載され、各端子部の内部端子面と接続部により電気的に接続された半導体素子と、
各端子部の外部端子面を外方へ露出させるようにダイパッド、端子部、半導体素子、および接続部を封止する封止樹脂部とを備え、
各端子部の外部端子面およびダイパッドの外面は同一平面上に並び、
各端子部は、上面が粗面となり下面が前記外方へ露出する外部端子面となるニッケルめっき層と、ニッケルめっき層上に設けられたボンディング用貴金属めっき層とを有し、
該貴金属めっき層の合計厚みは、該貴金属めっき層の表面がニッケルめっき層の粗面を維持する程度の厚みとなり、
貴金属めっき層の平面形状はニッケルめっき層の平面形状と同一であり、ニッケルめっき層の側面は、粗面とはならず、かつ貴金属めっき層に覆われることなく封止樹脂部に対して露出しており、断面視において貴金属めっき層の側面と同一直線上にあり、
端子部の高さが5μm乃至20μmであることを特徴とする半導体装置。」


3.引用例
(1)平成28年2月23日付け当審の拒絶理由通知に引用された特開2007-48911号公報(平成19年2月22日公開、以下「引用例1」という。)には、「半導体装置、半導体装置の製造方法およびその製造方法に用いるシート」に関して図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

ア.「【0007】
-第1の実施形態-
本発明の第1の実施形態の半導体装置について図1を参照して説明する。図1(a)は半導体装置1Aの裏面図であり、図1(b)は図1(a)のA-A’線断面図、図1(c)は図1(a)のB-B’線断面図である。
【0008】
図1において、符号1Aは平面視矩形形状の半導体装置、2は熱硬化樹脂から成るダイボンディング材5により第1搭載パッド4bの上面に実装された半導体素子である。第1搭載パッド4bの外側には額縁形状の第2搭載パッド6bが配設され、さらにその外側には外部電極3bが配設されている。半導体素子2底面の周縁領域が第2搭載パッド6bに載置されるように半導体素子2は第1搭載パッド4bに搭載される。また、半導体装置1Aの4隅には補強パッド9bが配設されている。外部電極3b、第1搭載パッド4b、第2搭載パッド6bおよび補強パッド9bの各上面にはAg層3a,4a,6a,9aが、外部電極3b、第1搭載パッド4b、第2搭載パッド6bおよび補強パッド9bの各下面にはSn層3c,4c,6c,9cがそれぞれ形成されている。図1(a)には全てのSn層3c,4c,6cおよび9cが示されている。以下、本発明の実施形態による半導体装置1Aを詳細に説明する。
【0009】
外部電極3b、第1搭載パッド4bおよび第2搭載パッド6bはニッケル電鋳(Ni電鋳)から成り、半導体装置1の底面に設けられている。したがって、この半導体装置1はいわゆるリードフレームレスタイプである。ここで、外部電極3bとは、半導体素子2と半導体装置1Aを実装する回路基板との電気的接続をとるための電極である。第2搭載パッド6bは、ワイヤボンディング時に半導体素子2の周縁領域にかかる応力によって半導体素子2が第1搭載パッド4bから剥離するのを防止するための電極である。また、第1搭載パッド4bは半導体素子2を搭載するための電極である。外部電極3b、第1搭載パッド4bおよび第2搭載パッド6bの上面側には、Ag層3a,4a,6aが形成される。外部電極3bの上面側のAg層3aはワイヤボインディングの接続性改善のために設けられたものであり、第1搭載パッド4bおよび第2搭載パッド6bの上面側のAg層4a,6aは、外部電極3bの上面側のAg層3aを形成する際に一緒に設けられたものである。一方、外部電極3b、第1搭載パッド4bおよび第2搭載パッド6bの下面側には、Sn層3c,4c,6cが形成される。Sn層は半田濡れ性改善のために設けられる。」

イ.「【0013】
次に、上述した半導体装置1Aの製造方法について、図2?図4を参照して説明する。この製造方法は、第1金属層形成工程と、半導体素子実装工程と、樹脂封止工程と、金属板剥離工程と、第2金属層形成工程と、分割工程とを含み、1つの金属板上に複数の半導体装置1Aを同時に作製する。以下、各工程を工程順に説明する。
【0014】
(イ)第1金属層形成工程
第1金属層形成工程について、図2(a)?(d)を参照して説明する。
図2(a)に示すように、可撓性を有する金属板21の両面にレジスト22を塗布またはラミネートする。金属板21は、厚さ約0.1mmの平板状のJIS規格のSUSステンレス鋼板またはCu板などの金属薄板からなる。次に、アクリルフィルムベースのパターンマスクフィルムを密着させ、紫外線により露光する。そして、現像し、図2(b)に示すように、外部電極3b、第1搭載パッド4b、第2搭載パッド6bおよび補強パッド9bを形成する部分のレジスト22を除去する。金属板21の一方の面には金属層を形成しないので、レジスト22によって全面が覆われる。次に、H2SO4-H2O2やNa2S2O8などの酸化性溶液により、レジスト22を除去した部分の金属板21面のソフトエッチングを行う。そして、硫酸などの酸で酸洗いし、酸活性処理を行う。
【0015】
次に、酸活性処理を行った金属板21をNiめっき溶液に浸漬して金属板21に電力を供給して電鋳を行い、Ni層23を形成する。次に、Agめっき溶液に金属板21を浸漬して金属板21に電力を供給することにより、Ag層24を形成する。このようにして、図2(c)に示すように、金属板21に金属層として、パターニングされたNi層23とAg層24とを形成する。金属層を形成後、図2(d)に示すように、レジスト22を金属板21から剥離する。
【0016】
(ロ)半導体素子実装工程
半導体素子実装工程について、図2(e),(f)を参照して説明する。
図2(e)に示すように、第1搭載パッド4bのAg層4aに相当するAg層24にダイボンディング材25を塗布する。ダイボンディング材25はエポキシ系またはポリイミド系の熱硬化性樹脂から成る。そして図2(f)に示すように、半導体素子2を搭載する。図2では省略しているが、金属板21には、パターニングされたNi層23が複数並列配置されており、それぞれのパターンニングされたNi層23上に半導体素子2が隣接して搭載される。半導体素子2を搭載した後、ダイボンディング材25を加熱硬化する。そして、ワイヤボンディングによって、半導体素子2の周縁領域に設けられた端子と、外部電極3bのAg層3aに相当するAg層24とをワイヤ7によって接続する。
【0017】
(ハ)樹脂封止工程
樹脂封止工程について、図3(a)および図4を参照して説明する。
樹脂封止工程では、図3(a)に示すように半導体素子2、ワイヤ7、Ni層23およびAg層24を樹脂8によって封止する。樹脂封止は次のようにして行う。図4に示すように、金属板21の半導体素子2が実装などされている面に金型41を被せる。そして、樹脂8を金型41内に注入し、金属板21に実装された複数の半導体素子2などを一括に封止する。この樹脂封止工程では、金型41は上型の役割を果たし、金属板21は下型の役割を果たす。額縁形状の第2搭載パッド6bによって半導体素子2底面と金属板21との間の隙間31には樹脂は浸入しない。
【0018】
(ニ)金属板剥離工程
金属板剥離工程について、図3(b)を参照して説明する。
樹脂8による封止が完了した後は、図3(b)に示すように、Ni層23や樹脂8から金属板21を剥離する。金属板21は可撓性を有するので、容易に剥離することができる。この金属板21を剥離したものを以下、樹脂封止体30Aと呼ぶ。
【0019】
(ホ)第2金属層形成工程
第2金属層形成工程について、図3(c)を参照して説明する。
樹脂封止体30をSnめっき溶液に浸漬し、剥離面32に電力を供給して、図3(c)に示すように、樹脂封止体30Aの剥離面31にパターニングされたSn層33を形成する。
【0020】
(ヘ)分割工程
分割工程について、図3(c),(d)を参照して説明する。
図3(c)の点線34に沿って、ダイヤモンドブレード・ダイシング法で樹脂封止体30Aをダイシングする。そして、図3(d)に示すように、一つの樹脂封止体30Aが分割され、半導体装置1Aが完成する。」

ウ.「【0021】
以上の本発明の第1の実施形態による半導体装置1Aは次のような作用効果を奏する。
(1)電鋳によって金属層を形成すると表面に凹凸が発生し、この凹凸は、金属層の面積が大きくなるにしたがって大きくなる。・・・(以下省略)」

エ.「【0032】
以上の実施の形態の半導体装置1A,1Bを次のように変形することができる。
・・・(中略)・・・
【0037】
(6)Ni層23の下面側にSn層33またはAu層61を形成したが、外部電極4bと半田とを接合するための金属層であれば実施の形態に限定されない。たとえば、Sn-Ag層、Sn-Cu層、Sn-Bi層またはSn-Pb層を形成してもよい。また、直接外部電極4bと半田とを接合する場合は、Ni層23の下面側に金属層を設けなくてもよい。
・・・(中略)・・・
【0039】
(8)外部電極3b、第1搭載パッド部4bおよび第2搭載パッド部6bの厚さ、Ag層3a,4a,6aの厚さおよびSn層3c,4c,6cの厚さは、実施の形態には限定されない。
・・・(中略)・・・
【0041】
本発明による半導体装置は上記実施の形態や変形例に何ら限定されず、矩形形状の半導体素子と、半導体素子がその底辺中央部でダイボンディング材により固着される第1の搭載パッドと、半導体素子の底面において、第1の搭載パッドの外側に配設される第2の搭載パッドと、半導体素子とワイヤにより電気的に接続している外部電極とを備え、半導体素子とワイヤと外部電極とが樹脂により封止して成ることを特徴とする半導体装置であれば、どのようなものでもよい。」

上記アないしエ、及び図1ないし図3から、引用例1には以下の事項が記載されている。

・上記ア、イおよび図1によれば、上面にAg層3aが形成された外部電極3bが、半導体素子2の外側に複数配設されているものである。なお、外部電極3bとは、半導体装置1Aを実装する回路基板との電気的接続をとるための電極である。また、外部電極3bはNiめっき溶液に、Ag層はAgめっき溶液に浸漬して形成されるから、共にめっき層である。

・上記アおよび図1によれば、半導体素子2は、第1搭載パッド4bおよび第2搭載パッド6bに搭載されるものである。また、半導体素子2の周縁領域に設けられた端子と、外部電極3bのAg層3aとは、ワイヤ7によって接続されるものである。

・上記イ、図1および図3によれば、半導体素子2、ワイヤ7、Ni層23およびAg層24を樹脂8によって封止するものである。ここで、Ni層23は外部電極3bおよび第2搭載パッド6bに対応するものであるから、外部電極3bおよび第2搭載パッド6bは、樹脂8によって封止されるものといえる。

・上記イ、図3によれば、Ni層23は金属板21上に形成され、樹脂8による封止が完了した後に該金属板21は剥離されるものである。よって、複数のNi層23(外部電極3bおよび第2搭載パッド6bに相当。)の下面は、同一平面上に並び、外方へ露出されているものである。
なお、上記ア、イによれば、Ni層23の下面にSn層を形成している例が記載されているが、上記エによれば、Sn層等の金属層は設けなくてもよいものである。

上記記載事項および図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「半導体装置1Aを実装する回路基板との電気的接続をとるためのものであって、上面にAg層3aが形成された複数の外部電極3bと、
第1搭載パッド4bおよび第2搭載パッド6bと、
第1搭載パッド4bおよび第2搭載パッド6b上に搭載され、外部電極3bのAg層3aとワイヤ7によって接続される半導体素子2と、
外部電極3b、第2搭載パッド6b、半導体素子2、およびワイヤ7を封止する樹脂8とを備え、
外部電極3bおよび第2搭載パッド6bの下面は、同一平面上に並び、外方へ露出されており、
外部電極3bはNiめっき層からなり、その上面のAg層3aはAgめっき層からなる、半導体装置。」

(2)平成28年2月23日付け当審の拒絶理由通知に引用された特開2003-303919号公報(平成15年10月24日公開、以下「引用例2」という。)には、「半導体装置及びその製造方法」に関して図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

オ.「【0046】本実施形態1及び以後の各実施形態では、一例として、導体として銅箔,銅ペースト,銅メッキ膜を使用する例について説明する。導体、即ち主金属層を銅とした場合、接続するワイヤの材質によっては接続不良を起こす場合がある。このため、主金属層の表面にメッキや印刷によって他の金属層を形成する必要がある。例えば、主金属層を銅とし、金ワイヤを接続する場合は、主金属層の表面(主面)にNiメッキ膜,Auメッキ膜等の補助金属層を順次重ねて形成し、この金メッキ膜上に金のワイヤを接続する。なお、銅の端子2に銅のワイヤを不活性雰囲気下で直接接続する方法も採用できる。また、主金属層をアルミニウムで形成した場合には金ワイヤを接続することができる。
【0047】また、主金属層上に順次重ねて異なる金属をメッキした場合、表面が粗面になるメッキ膜としてPdメッキ膜を中間層として入れることによって、後述する絶縁性樹脂層をテープ1の主面に形成した場合、端子2と絶縁性樹脂層を形成する樹脂との接着力が粗面を介在するため強くなり、絶縁性樹脂層、即ち封止体から端子2が脱落しなくなる。例えば、主金属層を銅とした場合、Ni,Pd,Auと順次メッキ膜を形成する。前記Pdメッキ膜はその表面が粗面となる。従ってPdメッキ膜上に形成されるAuメッキ膜の表面も粗面となり、結果的に端子2の主面も粗面となる。」

上記オによれば、引用例2には「端子と樹脂との接着力を強くするために、複数の金属層からなる端子において、最上層の一つ下の金属層表面を粗面にし、最上層の金属層も該粗面を維持するよう形成することによって、該端子の表面を粗面とする」技術事項が記載されている。

(3)平成28年2月23日付け当審の拒絶理由通知に引用された特開2004-339584号公報(平成16年12月2日公開、以下「引用例3」という。)には、「リードフレーム及びそのめっき方法」に関して図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

カ.「【0016】
鉄ニッケル合金あるいは銅又は銅合金などからなるリードフレームの素材金属10(以下、LF材10という)を脱脂、酸洗し、Niめっき浴に浸漬し、極性が反転しない直流電流あるいはパルス電流を用いて、第1層目のNiめっきである平滑Niめっき層11を形成する。LF材10の溶出防止効果を得るために、第1層目のNiめっき層厚は0.01μm以上であることが望ましいが、場合によっては、以下に説明する極性反転パルス電流を制御することによって、平滑Niめっき層11の厚みを0.001?0.1μmの範囲にすることもできる。これによって、以下に説明する極性反転パルス電流による減肉厚みを確保することができる。
【0017】
さらに、第2層目のNiめっきである粗面化Niめっき層12は、pHが2.0以下で且つハロゲンイオンを含むNiめっき液中で周期的に極性が反転する電流波形により形成される。ここで、周期的に極性が反転する電流波形とは、図2(A)に示すように、周期的に極性が単純に反転する矩形PR波だけではなく、例えば、図2(B)に示すように非対称交流波であってもよい。なお、平滑Niめっき層11と粗面化Niめっき層12によって下地めっき層が形成される。
そして、0.1μm以上の平均粗さを得るには、アノード電流(反転電流)の電気量はカソード電流の電気量の20%?80%、周波数は10?1000Hz(周期1?100ms)の電流波形でめっきすることが望ましい。その平均電流密度は0.5?20A/dm2 である。なお、この粗面化Niめっき層12の厚みは、0.5?5μmの範囲であれば、経済性を考慮して十分にその表面を粗面化することができる。なお、粗面化Niめっき層12の厚みによっては、平均粗さを最大0.8μmにすることもできる。
【0018】
第2層目のNiめっきにおいて使用するNiめっき液は、Niがスムーズに溶解するように(例えばワット浴を使用する場合)、十分な溶解活性を得るために浴のpHを0.0?2.0に調整しなければならない。一方、このような溶解活性があれば、めっき液の組成と条件は特に制限されない。例えば、全塩化物浴や塩化物を含むスルファミン酸塩浴であってもよく、あるいは有機酸塩浴であってもよい。
なお、第2層目のNiめっき層の上に使用目的に応じて機能めっきを実施してもよい。例えば、全面あるいは部分的にPd、Au、Ag等のめっき又はこれらの合金めっきを行い、表面に貴金属めっき層13を形成する。例えば、PPFなら第2層目のNiめっき層の上にPdめっきを行いさらにその上にAuフラッシュめっきを行ってもよい。
・・・(中略)・・・
【0028】
(2)モールド樹脂との密着性が優れている
本発明では、第2層目のNiめっきをするとき、アノード電流を含むので、Niの析出は結晶核の生成より結晶のエピタキシャル成長の方が速くなり、Niめっき層の結晶粒径と表面粗さが大きくなり、表面が不定形の角状や針状となる。この不定形な角状/針状の表面形態により、リードフレームとモールド樹脂との間で物理的なアンカー効果が生じ、通常品に比べてモールド樹脂との密着性が約2倍になる。しかもこのようなアンカー効果はアノード電流の電気量の割合を大きくすると共に強くなる。・・・(以下省略)」

上記カおよび図1によれば、引用例3には「リードフレームと樹脂との密着性向上のために、複数の金属層からなるリードフレームにおいて、第2層目の金属層(粗面化Niめっき層)表面を粗面にし、最上層の金属層(貴金属めっき層)も該粗面を維持するよう形成することによって、該リードフレームの表面を粗面とする」技術事項が記載されている。

(4)平成28年2月23日付け当審の拒絶理由通知に引用された特開昭59-208756号公報(昭和59年11月27日公開、以下「引用例4」という。)には、「半導体装置のパッケージの製造方法」に関して図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

キ.「まず第2A図において、厚さ35〔μ〕のFe製の基板(11)の上に、厚さ1〔μ〕のAu層(12)、厚さ1〔μ〕のNi層(13)及び厚さ3〔μ〕のAu層(14)を順次メッキして、半導体装置を構成するチップ(15)の載置部(16)及び外部電極部(17)(18)のそれぞれを上記基板(11)の所定のチップ載置部位(11g)及び外部電極接続部位(11h)(11i)のそれぞれに設ける。」(公報第2頁左下欄13?19行)

上記キによれば、引用例4には「外部電極部の厚さ(高さ)を5μm」とした技術事項が記載されている。

(5)平成28年2月23日付け当審の拒絶理由通知に引用された特開2002-289739号公報(平成14年10月4日公開、以下「引用例5」という。)には、「樹脂封止型半導体装置および半導体装置用回路部材とその製造方法」に関して図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

ク.「【0051】一方、比較として、上記の3層構成のなかで、(3)Cuめっきの通電時間を10分間とした他は、上記と同様にして、半導体装置用回路部材を作製した。この半導体装置用回路部材におけるダイパッドは高さが18μmであり、基板との接触面と反対側の表面の周囲には突起部が存在しないものであった。また、端子部は高さが20μmであり、基板との接触面と反対側の表面の周囲には突起部が存在しないものであった。」

上記クによれば、引用例5には「端子部の高さを20μm」とした技術事項が記載されている。


4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。

a.引用発明の外部電極3bの上面に形成された「Ag層3a」は、ワイヤ7を介して半導体素子2と接続されるものであるから、本願発明の「内部端子面」に相当する。
また、引用発明の「外部電極3b」は回路基板との電気的接続をとるためのものであるから、引用発明の「外部電極3bの下面」は本願発明の「外部端子面」に相当する。
よって、引用発明の「半導体装置1Aを実装する回路基板との電気的接続をとるためのものであって、上面にAg層3aが形成された複数の外部電極3b」は、本願発明の「各々が内部端子面と外部端子面とを有する複数の端子部」に相当する。

b.引用発明の「第1搭載パッド4bおよび第2搭載パッド6b」は、半導体素子2を載置するためのものであるから、本願発明の「ダイパッド」に相当する。
また、引用発明の「ワイヤ7」は、本願発明の「接続部」に相当する。
よって、引用発明の「第1搭載パッド4bおよび第2搭載パッド6b上に搭載され、外部電極3bのAg層3aとワイヤ7によって接続される半導体素子2」は、本願発明の「ダイパッド上に搭載され、各端子部の内部端子面と接続部により電気的に接続された半導体素子」に相当する。

c.引用発明の「外部電極3b、第2搭載パッド6b、半導体素子2、およびワイヤ7を封止する樹脂8とを備え、外部電極3bおよび第2搭載パッド6bの下面は、同一平面上に並び、外方へ露出されている」は、本願発明の「各端子部の外部端子面を外方へ露出させるようにダイパッド、端子部、半導体素子、および接続部を封止する封止樹脂部とを備え、各端子部の外部端子面およびダイパッドの外面は同一平面上に並び」に相当する。
なお、引用発明の「樹脂8」は、引用例の図1ないし図3を参酌すると、「第1搭載パッド4bおよび第2搭載パッド6b」のうち第2の搭載パッド6bのみを封止する例が記載されているが、上記エによれば、引用例に記載された発明は半導体素子とワイヤと外部電極とが樹脂により封止さえすれば形状は問わないものであるところ、本願発明の「樹脂封止部」は、各端子部の外部端子面を外方へ露出させることのみを特定したものであって、どのような「ダイパット」を封止したかは特定されていないので、両者における封止についての差異は認められない。

d.引用発明の「外部電極3b」はNiめっきで形成されており、上記ウによれば、表面に凹凸はできてしまうものであるから、引用発明の「外部電極3bの上面」は「粗面」になっているといえる。そして、引用発明の「外部電極3bの下面」は、上記aでも記載したとおり、本願発明の「外方へ露出する外部端子面」に相当する。
また、引用発明の「Ag層3a」は、Agめっきで形成されており、ワイヤ7と接続されるものであるから、本願発明の「ボンディング用貴金属めっき層」に相当する。
よって、引用発明の「外部電極3bはNiめっき層からなり、その上面のAg層3aはAgめっき層からなる」は、本願発明の「各端子部は、上面が粗面となり下面が前記外方へ露出する外部端子面となるニッケルめっき層と、ニッケルめっき層上に設けられたボンディング用貴金属めっき層とを有し」に相当する。
但し、本願発明の端子部は、「上面が粗面となるニッケルめっき層」と「めっき層の表面がニッケルめっき層の粗面を維持する程度の厚みの貴金属めっき層」とを組み合わせたものであるのに対し、引用発明の端子部(外部電極3bおよびAg層3a)にはその旨の特定はされていない。

e.上記イ、図2によれば、レジスト22を除去した部分(レジストとレジストの間)を埋めるようにNi層23およびAg層24を順に形成しているから、Ni層23とAg層24とは同じ平面形状を備え、レジスト22と当接するNi層23およびAg層24の「側面」は同一直線上にあって、この側面においてAg層がNi層を覆っていないといえる。そして、本願発明の「ニッケルめっき層の側面は、粗面とはならず」とは、粗面とならないための具体的な手段や根拠は本願明細書に一切記載されておらず、本願の図面(図5等)から勘案することしかできず、該図面を参酌すると、単にレジスト層間にめっき層を形成すれば該めっき層の側面が粗面にはならないものとしか読み取ることができず、そうすると、引用発明のNi層23もレジスト22間に形成したものであるから該Ni層23の側面も同様に「粗面」にはならないといえる。
よって、引用発明の「外部電極3bはNiめっき層からなり、その上面のAg層3aはAgめっき層からなる」は、本願発明の「貴金属めっき層の平面形状はニッケルめっき層の平面形状と同一であり、ニッケルめっき層の側面は、粗面とはならず、かつ貴金属めっき層に覆われることなく封止樹脂部に対して露出しており、断面視において貴金属めっき層の側面と同一直線上にあり」の構成を備えているものである。

f.本願発明は「端子部の高さが5μm乃至20μm」であるが、引用発明にはこの旨の特定はされていない。

そうすると、本願発明と引用発明とは以下の点で、一致ないし相違する。

<一致点>
「各々が内部端子面と外部端子面とを有する複数の端子部と、
ダイパッドと、
ダイパッド上に搭載され、各端子部の内部端子面と接続部により電気的に接続された半導体素子と、
各端子部の外部端子面を外方へ露出させるようにダイパッド、端子部、半導体素子、および接続部を封止する封止樹脂部とを備え、
各端子部の外部端子面およびダイパッドの外面は同一平面上に並び、
各端子部は、上面が粗面となり下面が前記外方へ露出する外部端子面となるニッケルめっき層と、ニッケルめっき層上に設けられたボンディング用貴金属めっき層とを有し、
貴金属めっき層の平面形状はニッケルめっき層の平面形状と同一であり、ニッケルめっき層の側面は、粗面とはならず、かつ貴金属めっき層に覆われることなく封止樹脂部に対して露出しており、断面視において貴金属めっき層の側面と同一直線上にあることを特徴とする半導体装置。」

<相違点1>
端子部の構成について、本願発明は、「上面が粗面となるニッケルめっき層」と「表面がニッケルめっき層の粗面を維持する程度の厚みの貴金属めっき層」とを組み合わせたものであるのに対し、引用発明にはその旨の特定はされていない。

<相違点2>
端子部の高さについて、本願発明は「5μm乃至20μm」であるのに対し、引用発明にはこの旨の特定はされていない。


5.判断
相違点1について判断する。
そもそも樹脂との密着性向上のために端子部の表面を粗面化させることは、例えば引用例2(上記3.(2)」を参照。)、引用例3(上記3.(3)」を参照。)、更に、平成28年2月23日付け当審の拒絶理由通知に引用された特開2003-158234号公報(段落【0028】を参照。)、特開2006-310397号公報(段落【0033】を参照。)に記載されているように周知であるところ、端子部を構成する複数層のうち、最上層の一つ下の金属層表面を粗面にし、最上層の金属層も粗面を維持するよう形成することによって、該端子部の表面を粗面とすることは、引用例2および引用例3に記載されているように周知の技術事項である。
よって、引用発明の「端子部(外部電極およびAg層)」に周知技術を採用して相違点1の構成とすることは、当業者が容易になし得た事項である。

次に、相違点2について判断する。
端子部の高さを「5μm乃至20μm」とした技術的意義は本願明細書に記載されておらず、本願発明における当該限定は格別な事項と認めることはできない。一方、引用発明の外部電極およびAg層の厚さ(高さ)は、上記エによれば、適宜設計し得るものである。そして、半導体素子と接続し樹脂で封止される端子部の高さを「5μm乃至20μm」にすることは、例えば引用例4(上記「3.(4)」を参照。)、引用例5(上記「3.(5)」を参照。)に記載されているように周知の技術事項である。
よって、引用発明の「端子部(外部電極およびAg層)」に周知技術を採用して相違点2の構成とすることは、当業者であれば容易になし得た事項である。

そして、上記相違点を総合的に判断しても、本願発明が奏する効果は、引用発明および周知の技術事項から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。


6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明および周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-07 
結審通知日 2016-06-10 
審決日 2016-06-21 
出願番号 特願2013-237306(P2013-237306)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木下 直哉  
特許庁審判長 森川 幸俊
特許庁審判官 酒井 朋広
関谷 隆一
発明の名称 半導体装置およびその製造方法、ならびに半導体装置用基板およびその製造方法  
代理人 永井 浩之  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 村田 卓久  

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