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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C23C |
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管理番号 | 1317709 |
審判番号 | 不服2015-12183 |
総通号数 | 201 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-09-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-06-29 |
確定日 | 2016-08-03 |
事件の表示 | 特願2013-536149「スパッタリングターゲット及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年4月4日国際公開、WO2013/047199〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続きの経緯 本願は、2012年9月12日(優先権主張 2011年9月30日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成26年9月26日付けで拒絶理由が通知され、同年12月5日付けで意見書が提出されたが、平成27年3月20日付けで拒絶査定されたので、同年6月29日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、平成28年2月12日付けで当審の拒絶理由が通知されるとともに同日付で平成27年6月29日付けの手続補正は却下され、これに対し、同年4月18日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願発明は、平成28年4月18日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるものであり、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「Mn:0.05?20wt%、残部CuからなるCu-Mn合金ターゲットからなるバッキングプレート一体型スパッタリングターゲットであって、スパッタ面における(111)配向率が50%以下であり、バッキングプレートは鍛造加工されたフランジ部を備えており、鍛造加工されたフランジ部が、フランジ部以外のターゲット部位に比べてフランジ部の機械的強度が高く、当該フランジ部におけるビッカース硬度Hvが90以上、かつ、フランジ部における0.2%降伏応力が6.98×10^(7)N/m^(2)以上であることを特徴とするバッキングプレート一体型スパッタリングターゲット。」 第3 当審の拒絶理由 当審において通知した拒絶理由の内容は、概ね次のとおりである。 この出願の請求項1?5に係る発明(平成25年10月7日付け手続補正書によって補正されたもの)は、その優先日前に日本国内において頒布された次の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用例1:特表2005-533930号公報 引用例2:国際公開2008/41535号公報 第4 当審の判断 請求人の提出した意見書及び手続補正書の内容を検討したが、当審は上記の拒絶理由のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。詳細な理由は次のとおりである。 1 引用例に記載された発明 (1)引用例1に記載された発明 ア 記載事項 本願優先日前に頒布された特表2005-533930号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 同一の金属から形成されたワンピースアセンブリを含んでなるモノリス型スパッタリングターゲット集成体。 ・・・・ 【請求項7】 前記ワンピースアセンブリが、スパッタリングターゲットブランク部と裏打ちプレート部とを含む、請求項1に記載のモノリス型スパッタリングターゲット集成体。 【請求項8】 前記裏打ちプレート部がフランジ部を含む、請求項7に記載のモノリス型スパッタリングターゲット集成体。 ・・・・ 【請求項11】 前記フランジ部が、前記スパッタリングターゲットブランク部と比較して、より高い耐力及び(又は)より大きな剛性を有している、請求項8に記載のモノリス型スパッタリングターゲット集成体。」 (イ)「【0009】 ・・・。本発明は、モノリス型スパッタリングターゲット集成体に関する。このモノリス型スパッタリングターゲット集成体は、同一の材料、典型的には金属から形成されたワンピースアセンブリである。」 (ウ)「【0016】 「モノリス型」なる語は、スパッタリングターゲット集成体が単一の部材片(ピース)から構成されていることを指している。本発明のターゲット集成体には、裏打ちプレートをスパッタリングターゲットのブランクに接合して形成している常用のターゲット集成体を形成するために別個の部材片を接合することによって引き起こされる繋ぎ目や継ぎ目が存在していない。」 (エ)「【0017】 モノリス型スパッタリングターゲット集成体に使用する材料は、スパッタリングもしくは堆積プロセスにおいてスパッタリング又は侵食を行うことができる任意の金属であることができる。・・・。好適な材料のその他の例としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、・・・、銅、・・・及びその合金を挙げることができる。」 (オ)「【0019】 ・・・。また、モノリス型スパッタリングターゲット集成体を形成する材料は、上記したように、任意のテクスチャ、例えばターゲット集成体の表面上及び(又は)その全厚を通して形成された混合テクスチャを有することができる。例えば、テクスチャは、主たるテクスチャであり得る(111)又は(100)テクスチャであることができる。このテクスチャは、ターゲット集成体の表面上及び(又は)その全厚を通して主として存在することができる。したがって、金属は、主もしくは混合(111)テクスチャ又は主もしくは混合(100)テクスチャを有することができる。 」 (カ)「【0025】 モノリス型スパッタリングターゲット集成体は、いろいろな方法を使用して形成することができる。例えば、十分な厚さをもったプレート又はビレットを使用してモノリス型スパッタリングターゲット集成体を形成することができる。・・・。次いで、任意の純度を持ったこのプレート又はビレットを適宜に加工もしくは変形させて、・・・所望のテクスチャ及び(又は)粒径を付与することができる。次いで、標準的な技法、・・・常用の機械加工、・・・その他を使用して、上述のプレート又はビレットからターゲット集成体のフランジ部及び全体的な直径をもったターゲット集成体を切り出すことができる。フランジ部は、任意であるけれども、フランジ部の性質を変化させるために加工もしくは変形させることができる。例えば、フランジ部を冷間加工すると、改良された耐力及びより大きな剛性を導くことができる。例えば、平面的な円板状のスパッタリングターゲットブランクをその中央を中心にして回転させることができ、ローラ又はハンマーの間を通過させることによって円周領域の厚さを減少させることができる。さらに、この時点ではフランジ部を再結晶化させるに及ばない。フランジ部とターゲットブランク部の間の耐力の差は、10%?100%あるいはそれ以上であることができる。」 (キ)「【0032】 本発明のターゲットは、スパッタリング及び薄膜形成に由来する利点が得られるあらゆる分野において、例えば、半導体、・・・そしてそのデバイス又は部品の分野において使用することができる。」 イ 引用例1に記載された発明 記載事項(ア)によれば、引用例1には、スパッタリングターゲットブランク部と裏打ちプレート部とからなり、該裏打ちプレート部は、スパッタリングターゲットブランク部より高い耐力及び大きな剛性を有するフランジを有することからなる、モノリス型スパッタリングターゲット集成体が記載されている。 そして、同(カ)によれば、該フランジ部の高い耐力及び大きな剛性は、切り出されたターゲット集成体のフランジ部に冷間加工等の加工・変形を加えることで形成される。 また、同(イ)?(エ)によれば、このモノリス型スパッタリングターゲット集成体は、例えば銅合金からなる単一の部材片から構成される。 これらの記載事項を、本願発明の記載に沿って整理すると、引用例1には、スパッタリングターゲットに関する次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「銅合金からなる単一の部材片から構成され、スパッタリングターゲットブランク部と裏打ちプレート部とからなるモノリス型スパッタリングターゲット集成体であって、裏打ちプレート部は、冷間加工され、スパッタリングターゲットブランク部より高い耐力及び大きな剛性を有するフランジを有することからなる、モノリス型スパッタリングターゲット集成体。」 (2)引用例2に記載された技術 ア 記載事項 同じく、国際公開2008/41535号(以下、「引用例2」という。)には、次の記載がある。 (サ)「[0001] 本発明は、活性な Cuの拡散による配線周囲の汚染を効果的に防止することができる半導体用銅合金配線用スパッタリングターゲット、特に自己拡散抑制機能を備えた半導体配線を形成するために好適なCu?Mn合金スパッタリングターゲット及び半導体用銅合金配線に関する。」 (シ)「[0013] 上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、銅に適切な量のMn元素を添加し、さらに不純物であるBe, B, Mg, Al, Si, Ca, Ba, La, Ceを厳密に制御することにより、活性なCuの拡散による配線周囲の汚染を効果的に防止することができとの知見を得た。本発明は、この知見に基づき下記の半導体用銅合金配線用スパッタリングターゲット及び半導体用銅合金配線を提供するものである。 [0014] すなわち、本願発明は、 Mn0.05?20wt%を含有し、Be, B, Mg, Al, Si, Ca, Ba, La, Ceの総計が 500wtppm以下、残部がCu及び不可避的不純物であることを特徴とするCu-Mn合金スパッタリングターゲット及びこれによつて形成された Cu Mn合金半導体配線を提供する。」 (ス)「[0015] ・・・。 半導体配線形成用Cu-Mn合金スパッタリングターゲットの組織構造としては、EBSP・・・で測定した最密である(111)面が各方向に均一に分布した場合のターゲット表面の面積比を1としたとき、ターゲット表面の(111)面の面積比が4以下であることが望ましい。」 イ 記載された技術 引用例2には、記載事項(サ)によれば、半導体用銅合金配線用スパッタリングターゲットとして用いるのに適したターゲットについて記載されいる。 そして、その組成は、同(シ)によればMn0.05?20wt%、残部CuからなるCu-Mn合金であり、その組織構造は、同(ス)によれば(111)面が各方向に均一に分布した場合のターゲット表面の面積比を1としたとき、ターゲット表面の(111)面の面積比が4以下、すなわち、ターゲット表面の(111)面の面積比が小さい方が好ましいとされている。 3 対比と判断 (1)対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明における、「単一の部材片から構成され、スパッタリングターゲットブランク部と裏打ちプレート部とからなるモノリス型スパッタリングターゲット集成体」は、本願発明の「バッキングプレート一体型スパッタリングターゲット」に相当することは明らかであり、両者は、銅合金である点で共通する。 また、引用発明における「フランジ」は、裏打ちプレート部において冷間加工された部分であり、鍛造は冷間加工の周知の一態様であるので、本願発明における「鍛造されたフランジ部」に相当する。そして、引用発明における「フランジ」は、冷間加工されることで、高い機械的強度(高い耐力と大きな剛性)を有しており、この点も、本願発明において「フランジ部が、フランジ部以外のターゲット部位に比べて機械的強度が高く」なっている点と共通する。 したがって、本願発明と引用発明とは、「銅合金からなるバッキングプレート一体型スパッタリングターゲットであって、バッキングプレートは鍛造加工されたフランジ部を備えており、鍛造加工されたフランジ部が、フランジ部以外のターゲット部位に比べてフランジ部の機械的強度が高いバッキングプレート一体型スパッタリングターゲット。」である点で一致し、次の点で相違する。 a スパッタリングターゲットの組成と組織構造に関し、本願発明が「Mn:0.05?20wt%、残部CuからなるCu-Mn合金ターゲット」であって、「スパッタ面における(111)配向率が50%以下」であるのに対し、引用発明では、組成は銅合金であるものの、その組織構造については明らかではない点(以下、「相違点a」という。)。 b 本願発明におけるフランジ部の機械的強度が「フランジ部におけるビッカース硬度Hvが90以上、かつ、フランジ部における0.2%降伏応力が6.98×10^(7)N/m^(2)以上である」のに対し、引用発明のフランジ部は、高い耐力及び大きな剛性を有するとされるのみで、具体的な機械的強度は明らかではない点(以下、「相違点b」という。)。 (2)判断 ア 相違点aについて 引用発明におけるスパッタリングターゲットは、引用例1の記載によれば、半導体製造分野で使用されるもの(記載事項(キ))であり、好適な材料の例として銅合金等が例示列挙され(同(エ))、任意の混合テクスチャを有することができる(同(オ))とされている。 一方、引用例2には、半導体用銅合金配線用スパッタリングターゲットであって、Mn0.05?20wt%、残部CuからなるCu-Mn合金であり、ターゲット表面の(111)面の面積比が小さいスパッタリングターゲットが記載されている。 そして、引用例2に記載された技術は、半導体製造用スパッタリングターゲットという点で引用発明と同じ技術分野に属するので、引用発明におけるスパッタリングターゲットをMn0.05?20wt%、残部CuからなるCu-Mn合金とし、ターゲット表面の(111)面の面積比を小さいテクスチャとすることは、引用例2に記載された技術的事項を考慮して、当業者が容易になしうるところである。その際に、ターゲット表面の(111)面の面積比が小さいことの程度として、スパッタ面における(111)方向へ配向したものの量比(配向率)を尺度として採用し、その上限を50%と設定することは、当業者が適宜なしうることで格別のものとすることはできない。そして、該配向率の上限を50%とすることにより予測を超える顕著な効果が奏されるとすることはできない したがって、引用発明において相違点aに関する構成を採用することは、当業者が容易に想到するところであり、その効果も格別のものではない。 イ 相違点bについて スパッタリングターゲットの機械的特性を評価するにあたり、ビッカース硬度や降伏応力を測定することは、当業者には周知の技術である。この点について必要なら、例えば、ビッカース硬度に関しては特開2011-179054号公報(段落【0094】)、降伏応力に関しては特表2003-517101号公報(段落【0018】)等を参照されたい。 そして、引用発明においては、引用例1の記載事項(カ)によれば、ターゲット集成体のフランジ部に冷間加工等の加工・変形を加えることで該フランジ部に高い機械的強度(高い耐力及び大きな剛性)を付与しているので、引用発明における高い機械的強度を、周知のビッカース硬度と降伏応力で評価すること、及び、その下限値をビッカース硬度Hvが90以上、かつ、0.2%降伏応力が6.98×10^(7)N/m^(2)以上と設定することは、当業者が必要に応じて適宜なしうるところである。また、スパッタリングターゲットのフランジ部の機械的強度(ビッカース硬度と降伏応力)が大きければ、該スパッタリングターゲットの変形が抑えられることは当業者には明かなことである。 よって、引用発明において、相違点bに係る構成を採用することは、当業者が適宜なし得るところであり、これにより格別の効果が奏されると認めることができない。 ウ まとめ したがって、本願発明は、引用例1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得たものであり、その効果も格別のものとすることはできない。 エ 請求人の主張について 請求人は、平成28年4月18日付けの意見書において、引用例1のスパッタリングターゲットの組織・構造は、本願発明のものとは全く異なるものである旨を主張する(第3頁下から5?3行)。 しかし、アにおいて上記したように、引用例2に記載されたスパッタリングターゲットの組織・構造を、引用発明に適用することで本願発明の構成に想到することは、当業者が容易になしうるところである。 したがって、請求人の主張は採用することができない。 第5 結論 以上のとおりであるので、本願の請求項1に係る発明は、引用例1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易になしえたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、請求項2に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-05-24 |
結審通知日 | 2016-05-31 |
審決日 | 2016-06-14 |
出願番号 | 特願2013-536149(P2013-536149) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C23C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 立木 林、萩原 周治 |
特許庁審判長 |
真々田 忠博 |
特許庁審判官 |
永田 史泰 新居田 知生 |
発明の名称 | スパッタリングターゲット及びその製造方法 |
代理人 | 小越 勇 |
代理人 | 小越 一輝 |