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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08G
管理番号 1317778
審判番号 不服2014-26382  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-24 
確定日 2016-08-04 
事件の表示 特願2011-115804「プリプレグ用エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、および多層プリント配線板」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月10日出願公開、特開2012-241179〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年5月24日の出願であって、平成26年4月23日付けで拒絶理由が通知され、同年6月27日に意見書が提出されたが、同年9月12日付けで拒絶査定がされ、同年12月24日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明について
本願の請求項1?13に係る発明は、明細書及び特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
分子内にエポキシ樹脂と反応性を有するフェノール性水酸基を平均1.8個以上3個未満有し、かつ、平均0.8個以上のリン元素を有するリン化合物、分子内にエポキシ基を平均1.8個以上2.6個未満有する2官能エポキシ樹脂、1分子内にエポキシ基を平均2.8個以上含む多官能エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤、スズ酸亜鉛化合物を必須成分とするプリプレグ用エポキシ樹脂組成物であって、少なくとも、リン化合物と、2官能エポキシ樹脂及び多官能エポキシ樹脂、または2官能エポキシ樹脂のみを予め反応させた予備反応エポキシ樹脂を配合することを特徴とするプリプレグ用エポキシ樹脂組成物。」

第3 刊行物及びその記載事項
1.刊行物
刊行物:国際公開第2006/059363号(平成26年4月23日付け拒絶理由通知書において提示された引用文献等1)

2.刊行物の記載事項
本願の出願前に頒布された刊行物である国際公開第2006/059363号(以下、「引用文献」という。)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付した。

(1) 「[1] 分子内にエポキシ樹脂と反応性を有するフェノール性水酸基を平均1.8個以上3個未満有し、且つ平均0.8個以上のリン元素を有するリン化合物、分子内にエポキシ基を平均1.8個以上2.6個未満有する2官能エポキシ樹脂、1分子内にエポキシ基を平均2.8個以上含む多官能エポキシ樹脂、硬化剤、熱分解温度(5%重量減)400℃以上の無機充填剤を必須成分として含有するエポキシ樹脂組成物において、前記リン化合物のフェノール性水酸基と前記エポキシ樹脂とを予め反応させて予備反応エポキシ樹脂を得、前記リン化合物のフェノール性水酸基1当量に対して前記2官能エポキシ樹脂のエポキシ基当量が、1.2当量以上3当量未満であり、且つ、前記予備反応エポキシ樹脂をエポキシ樹脂全体に対して20質量%以上55質量%以下となるように含有し、また、2官能エポキシ樹脂として、式(1)で表されるビフェニル型エポキシ樹脂、式(2)で表されるナフタレン型エポキシ樹脂、式(3)で表される特殊2官能エポキシ樹脂、式(4)で表されるジシクロペンタジエン含有2官能エポキシ樹脂から選ばれるものを配合し、さらに、熱分解温度(5%重量減)400℃以上の無機充填剤を樹脂固形分100質量部に対して、20質量部以上180質量部未満となるように配合し、且つ、全無機充填剤量を樹脂固形分100質量部に対して、110質量部以上200質量部未満となるように配合し、硬化剤としてジシアンジアミドおよび/または多官能フェノール系化合物を用いることを特徴とするプリント配線板の製造に用いられるプリプレグ用エポキシ樹脂組成物。
[化1]

[化2]

[化3]

[化4]

」(請求の範囲の[1])

(2) 「本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、上記リン化合物とエポキシ樹脂(2官能エポキシ樹脂及び多官能エポキシ樹脂の両方あるいは、2官能エポキシ樹脂のみ)を予め予備反応させておくものである。この予備反応エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂組成物の調整に用いるリン化合物の80質量%以上のものと、エポキシ樹脂組成物の調整に用いるエポキシ樹脂の全体又は一部とを反応させて得られるものが好ましい。なお、この予備反応エポキシ樹脂の調整にあたって、リン化合物が80質量%未満であると、未反応のリン含有2官能フェノール化合物が多く残り、成形物の吸湿後のはんだ耐熱性や耐薬品性を改善することができなくなるものであり、また長期絶縁信頼性等に悪影響を及ぼす可能性がある。」(段落[0057])

第4 引用文献に記載された発明
引用文献には、前記記載事項から、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「分子内にエポキシ樹脂と反応性を有するフェノール性水酸基を平均1.8個以上3個未満有し、且つ平均0.8個以上のリン元素を有するリン化合物、分子内にエポキシ基を平均1.8個以上2.6個未満有する2官能エポキシ樹脂、1分子内にエポキシ基を平均2.8個以上含む多官能エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤を必須成分として含有するエポキシ樹脂組成物において、上記リン化合物と2官能エポキシ樹脂及び多官能エポキシ樹脂の両方あるいは、2官能エポキシ樹脂のみを予め予備反応させて予備反応エポキシ樹脂を得、前記予備反応エポキシ樹脂を含有する、プリプレグ用エポキシ樹脂組成物。」

第5 本願発明と引用発明との対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明において「予備反応エポキシ樹脂を含有する」ことは、本願発明において「予備反応エポキシ樹脂を配合する」ことに相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、

「分子内にエポキシ樹脂と反応性を有するフェノール性水酸基を平均1.8個以上3個未満有し、かつ、平均0.8個以上のリン元素を有するリン化合物、分子内にエポキシ基を平均1.8個以上2.6個未満有する2官能エポキシ樹脂、1分子内にエポキシ基を平均2.8個以上含む多官能エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤を必須成分とするプリプレグ用エポキシ樹脂組成物であって、少なくとも、リン化合物と、2官能エポキシ樹脂及び多官能エポキシ樹脂、または2官能エポキシ樹脂のみを予め反応させた予備反応エポキシ樹脂を配合することを特徴とするプリプレグ用エポキシ樹脂組成物。」

の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点>
本願発明においては「スズ酸亜鉛化合物」が組成物の必須成分として特定されているのに対して、引用発明においてはこのような特定がなされていない点。

相違点について検討すると、スズ酸亜鉛化合物をエポキシ樹脂組成物の難燃剤として用いることは本願出願前に周知の技術(例えば、特表平11-507976号公報(平成26年4月23日付け拒絶理由通知書において提示された引用文献等2)の第4頁第5行?第11行、特開2005-272257号公報(平成26年4月23日付け拒絶理由通知書において提示された引用文献等3)の請求項1、8、特開2002-60592号公報(平成26年4月23日付け拒絶理由通知書において提示された引用文献等4)の請求項1参照。)であり、難燃性エポキシ樹脂組成物をプリプレグに用いることも知られた事項であるから(例えば、前記特開2002-60592号公報の請求項2参照。)、引用発明において、スズ酸亜鉛化合物を必須の成分として配合して、エポキシ樹脂組成物を難燃性に優れたものとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

次に、スズ酸亜鉛化合物を用いたことによる本願発明の効果について以下に検討する。例えば、本願の明細書に記載された実施例12(段落【0090】の【表3】参照。)と比較例2(段落【0092】の【表5】参照。)は、いずれも同じエポキシ樹脂、リン化合物、無機充填剤、硬化剤、及び硬化促進剤を同じ量で用いており、両者の違いは、実施例12ではスズ酸亜鉛化合物1を5質量部含むのに対して、比較例2では当該スズ酸亜鉛化合物を含んでいないことである。
両者において、「熱時曲げ弾性率(250℃)」、「煮沸はんだ耐熱性(5片をテスト) (288℃はんだ 20S 浸漬)」、「Tg(DMA)」、「吸水率」、「吸水による寸法変化」、「銅箔引き剥がし強さ」の評価結果は同じである。よって、スズ酸亜鉛化合物を用いたことにより、これらの物性が優れたものになるとはいえない。
次に、「難燃性(UL 94)消炎時間」を検討すると、実施例12では「2秒」、比較例2では「3秒」であり、実施例12の方が時間が短いものの、スズ酸亜鉛化合物は難燃剤であり、スズ酸亜鉛化合物を用いたことにより難燃性が優れたものになることは、当業者が予測し得ることである。
次に、「耐熱性」を検討すると、実施例12では「260℃」、比較例2では「280℃」であり、むしろ比較例2の方が温度が高く、スズ酸亜鉛化合物を用いたことにより、耐熱性が優れたものになるとはいえない。
最後に、「穴位置精度」を検討する。穴位置精度は、プリプレグ用エポキシ樹脂組成物から製造したプリプレグに銅箔を重ねて銅張り積層板を製造し、銅張り積層板を4枚重ね、エントリーボード70μmアルミ板、バックアップボードベークライトの条件でドリル加工し、位置ズレ量を評価したものである(本願の明細書の段落【0076】、【0085】、【0087】参照。)。その値は実施例12では「26μm」、比較例2では「30μm」であり、実施例12の方がズレが小さいものの、穴位置精度についての効果は、上記のようにプリプレグに銅箔を重ねて銅張り積層板とし、さらに銅張り積層板を重ねてドリル加工した際に限って生じる効果である。そして、本願発明は「プリプレグ用」と特定されるエポキシ樹脂組成物の発明であり、穴位置精度についての上記効果は、本願発明全体の効果とはいえない。
してみると、スズ酸亜鉛化合物を用いたことにより、本願発明が、引用発明及び周知技術からみて、格別顕著な効果を奏するとはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明、すなわち引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明、すなわち特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-31 
結審通知日 2016-06-07 
審決日 2016-06-20 
出願番号 特願2011-115804(P2011-115804)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 繁田 えい子  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 西山 義之
小野寺 務
発明の名称 プリプレグ用エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、および多層プリント配線板  
代理人 西澤 利夫  

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