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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1317810
審判番号 不服2015-8646  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-11 
確定日 2016-08-30 
事件の表示 特願2011- 10419「高圧導電路及びワイヤハーネス」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月 9日出願公開、特開2012-151056、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年1月21日の出願であって、平成25年12月18日付けで審査請求がなされ、平成26年9月16日付けで拒絶理由の通知がなされ、同年10月29日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ、平成27年3月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成27年5月11日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書の提出がなされた。同年9月3日付けで上申書の提出がなされ、当審において平成28年3月2日付けで拒絶理由が通知され、同年4月5日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1-2に係る発明は、平成28年4月5日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-2に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
中心導体を形成する単心線からなり、該単心線自身に配索経路に沿った形状保持機能を持たせて剛性を有するプラス極導体又はマイナス極導体のいずれか一方の導体と、
前記一方の導体の外側に被覆され該一方の導体の絶縁を図る第一絶縁体と、
前記第一絶縁体の外側に設けられ前記一方の導体と同心円でこれを囲む筒状の形状に形成されている前記マイナス極導体又は前記プラス極導体のいずれか他方の導体と、
前記他方の導体の外側に被覆され該他方の導体の絶縁を図る第二絶縁体と、
前記第二絶縁体の外側に設けられ、導電性の金属箔単体で筒状に形成され前記プラス極導体及びマイナス極導体とは異なる電位に接続されるシールド部材と、
前記シールド部材の外側に被覆され、PE(ポリエチレン)によって形成される第一シースと、
前記第一シースの外側に被覆され当該高圧導電路を保護し、PP(ポリプロピレン)によって形成される第二シースと
を備え、
導電性の部分が前記一方の導体と前記他方の導体と前記シールド部材とによって同軸三層構造をなし、シースの部分が前記第一シースと前記第二シースとによって二層構造を有してなることを特徴とする高圧導電路。」


第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

引用文献3にあるように、同軸ケーブルにおいて、中心導体10(本願発明の単心線)自身に任意形状に曲げ加工して用いる機能(本願発明の配索経路に沿った形状保持機能)を持たせてなることは周知技術であるから、同軸ケーブルである引用文献1の自動車用シールド線に上記周知技術を採用し本願構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。
よって、請求項1-2に係る発明は引用文献1に記載された発明及び引用文献2-3に記載された周知技術に基づいて、当業者であれば容易になし得たものであるから、依然として特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特開2009-214631号公報
2.特表2008-543017号公報
3.特開平10-74423号公報

2 原査定の理由の判断
(1)引用文献
ア 引用文献1
引用文献1には、下記の事項が記載されている。
「【0017】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図3に本発明の第1実施形態を示す。
本発明の自動車用シールド線10は、図1に示すように、ハイブリッド自動車20のバッテリBとインバータIを接続する電源線10とし、フロア板金上部側の車体内部に配索している。
【0018】
前記電源線10は、図2に示すように、断面円形状の導体11を絶縁被覆層12で被覆した1本のコア線13と、該コア線13を被覆する金属編組チューブ14からなるシールド層と、該金属編組チューブ14を被覆する絶縁樹脂からなるシース15を備えた同軸線からなるシールド線からなる。
コア線13の外周面に接触させて取り付けるシールド層の金属編組チューブ14の中心軸線P1はコア線の導体11の中心軸線P2とは一致している。
【0019】
前記コア線13の導体11の一端はバッテリBのプラス側と接続している一方、シールド層の金属編組チューブ14の一端はバッテリBのマイナス側と接続し、中心軸線が一致する導体11と金属編組チューブ14にはプラス側電流とマイナス側電流とが平行に流れると共に、導体11のプラス側電流は図2中に示すようにX方向に流れ、金属編組チューブ14のマイナス側電流はY方向に流れ、逆向きとなる。
【0020】
具体的には、コア線13の導体11の両端11a、11bは、図3に示すように、シース15および絶縁被覆層12から引き出して端子21a、21bと圧着接続し、一方の端子21aをバッテリBのプラス側と接続すると共に、他方の端子21bをインバータIのプラス側に接続している。
【0021】
コア線13の全長に渡って被覆した金属編組チューブ14は、長さ方向両側の引き出し、その引出端14a、14bに端子22a、22bを圧着接続している。一方の端子22aはバッテリBのマイナス側と接続している一方、他方の端子22bはアース端子とし、負荷(図示せず)のマイナス側に接続している。
前記バッテリBからは、導体11に通電するプラス側の通電量と、シールド層の金属編組チューブ14に通電するマイナス側の通電量は同一電流値としている。
【0022】
前記のようにシールド線をバッテリBと接続すると、金属編組チューブ14とコア線13の導体11が同一軸線P1、P2であり、同一電流値で逆向きの電流を流しているため、導体11から発生する漏れ磁界と金属編組チューブ14から発生する漏れ磁界が打ち消しあい、導体11から漏れる磁界を減少でき、原理的にゼロとすることができる。
なお、シールド層となる金属編組チューブ14の一方の端部を車体パネルに接地してシールド層の電位をゼロとしてもよい。」

上記から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「バッテリBのプラス側に接続される導体11と、
該導体11を被覆する絶縁被覆層12と、
該絶縁被覆層を被覆しバッテリBのマイナス側に接続される金属編組チューブ14からなるシールド層と、
該金属編組チューブを被覆する絶縁樹脂からなるシース15と、
を備えた同軸線からなる車体内部に配索される自動車用シールド線。」

イ 引用文献2
引用文献2には、下記の事項が記載されている。
「【0009】
ここで図1を参照し、かつ本発明の最良の実施態様に従うと、高圧送電をはじめとする送電用の配索可能な導体アセンブリ10は、電力のための良好な導体である中実な金属または合金、例えば銅およびその合金などから構成されるコア導体エレメント20を含む。またはコア導体エレメント20は、良好な導電体である撚り合わされた金属または合金でもよい。さらにコア導体エレメント20は、充分な延性および可鍛性を有するので、所定の配索に亘って導体アセンブリ10に求められる形状に曲げること、もしくは成形することができる。コア導体エレメント20は、以下本明細書で詳述するように、所定の長さに切断してもよい。」

上記から、引用文献2には、次の事項が記載されている。
「導体アセンブリ10は、電力のための良好な導体である中実な金属または合金、例えば銅およびその合金などから構成されるコア導体エレメント20を含み、コア導体エレメント20は、充分な延性および可鍛性を有するので、所定の配索に亘って導体アセンブリ10に求められる形状に曲げること、もしくは成形することができる。」

ウ 引用文献3
引用文献3には、段落【0011】及び【0012】に、
「【0011】次に、図1(b)に示すように、誘電体11の表面に下地金属(たとえばCu、Au、Ag、Al)12を蒸着する。この段階の膜厚は全体に均一であればよく、信号伝達に必要な膜厚を確保しなくてもよいから、通常の蒸着技術(たとえば化学蒸着法であるCVDや物理蒸着法であるスパッタ・真空蒸着)を利用できる。なお、膜厚の均一性を高めるためには、同軸ケーブルを回転させながら蒸着を行うのが望ましい。
【0012】下地金属12を着け終わると、次に、図1(c)に示すように、曲げ加工を行う。なお、図では便宜的にA部とB部の2箇所に曲げ加工を施しているが、実際の曲げ加工は、同軸ケーブルと他部品との干渉関係で決まり、適用装置ごとに様々な形状になることは言うまでもない。必要な曲げ加工を施すと、最後に、図1(d)に示すように、下地金属12の上に、所定膜厚(信号伝達に必要な膜厚から下地金属12の膜厚を引いた膜厚)を有する外部導体13を形成して完成する。」
が記載され、図1に、中心導体10を被覆した誘電体11の表面に下地金属が蒸着された構成が記載されている。

上記から、引用文献3には、次の事項が記載されている。
「中心導体10を被覆した誘電体11の表面に下地金属12が蒸着され、次に、曲げ加工がされ、最後に、下地金属12の上に外部導体13が形成された同軸ケーブル。」

(2)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「バッテリBのプラス側に接続される導体11」、「該導体11を被覆する絶縁被覆層12」、「該絶縁被覆層を被覆しバッテリBのマイナス側に接続される金属編組チューブ14」、「該金属編組チューブを被覆する絶縁樹脂からなるシース15」、「自動車用シールド線」は、下記の点を除いて、本願発明の「プラス極導体」、「一方の導体の外側に被覆され該一方の導体の絶縁を図る第一絶縁体」、「前記第一絶縁体の外側に設けられ前記一方の導体と同心円でこれを囲む筒状の形状に形成されている前記マイナス極導体」、「第一シース」に相当している。
また、引用文献1の段落【0010】には、引用発明の「自動車用シールド線」が、「ハイブリッド自動車20のバッテリBとインバータIを接続する電源線10」であることが記載されているので、引用発明の「自動車用シールド線」は、本願発明の「高圧導電路」に相当する。
よって、本願発明と引用発明は、下記の点で一致し、また、相違する。

(一致点)
「プラス極導体の一方の導体と、
前記導体の外側に被覆され該導体の絶縁を図る第一絶縁体と、
前記第一絶縁体の外側に設けられ前記導体と同心円でこれを囲む筒状の形状に形成されているマイナス極導体の他方の導体と、
第一シースと、
を備えてなることを特徴とする高圧導電路。」

(相違点1)
本願発明の「一方の導体」は、「中心導体を形成する単心線からなり、該単心線自身に配索経路に沿った形状保持機能を持たせて剛性を有する」ものであるのに対し、引用発明の「導体11」は、単心線であるか定かではなく、また、該単心線自身に配索経路に沿った形状保持機能を持たせて剛性は有していない点。

(相違点2)
本願発明は、「前記他方の導体の外側に被覆され該他方の導体の絶縁を図る第二絶縁体」を備えているのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。

(相違点3)
本願発明は、「前記第二絶縁体の外側に設けられ、導電性の金属箔単体で筒状に形成され前記プラス極導体及びマイナス極導体とは異なる電位に接続されるシールド部材」を備えているのに対し、引用発明は、「マイナス側に接続される金属編組チューブ14」が「シールド層」とされている点。

(相違点4)
本願発明の「第一シース」は、「前記シールド部材の外側に被覆され、PE(ポリエチレン)によって形成される」のに対し、引用発明の「シース15」は、「シールド部材」に対応する部材を被覆しておらず、PE(ポリエチレン)によって形成されるものではない点。

(相違点5)
本願発明は、「前記第一シースの外側に被覆され当該高圧導電路を保護し、PP(ポリプロピレン)によって形成される第二シース」を備えているのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。

(相違点6)
本願発明は、「導電性の部分が前記一方の導体と前記他方の導体と前記シールド部材とによって同軸三層構造をなし、シースの部分が前記第一シースと前記第二シースとによって二層構造を有してなる」のに対して、引用発明は、導電部分が同軸三層構造をなしておらず、シースの部分が二層構造を有していない点。

(3)判断
上記相違点3及び6について検討する。
引用発明の「金属編組チューブ14」は、「バッテリBのマイナス側に接続される」とともに「シールド層」として機能するものであるから、引用発明では、「金属編組チューブ14」の外側に何らかの絶縁層を介してさらに「シールド層」を設ける必要性はなく、また、引用文献1乃至3には、「シールド部材」を「前記プラス極導体及びマイナス極導体とは異なる電位に接続」する点、及び「導電性の部分が前記一方の導体と前記他方の導体と前記シールド部材とによって同軸三層構造」となる点は、記載も示唆もない。

(4)小括
したがって、本願発明は、当業者が引用発明、引用文献2に記載された事項、及び引用文献3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項2に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、当業者が引用発明、引用文献2に記載された事項、及び引用文献3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。


第4 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記(引用文献等については引用文献等一覧参照)

請求項1及び2について
引用文献 1?4
1 引用文献1の記載と引用発明
引用文献1の図2には、導体11の外側に絶縁被覆層12が設けられ、該絶縁被覆層12の外側に金属編組チューブ14が設けられ、該金属編組チューブ14の外側にシース15を備えた自動車用シールド線10の構成が記載されている。
また、「自動車用シールド線10」について、明細書の段落【0017】には、「ハイブリッド自動車20のバッテリBとインバータIを接続する電源線10とし、フロア板金上部側の車体内部に配索」されるものであること、段落【0018】には、「断面円形状の導体11を絶縁被覆層12で被覆した1本のコア線13と、該コア線13を被覆する金属編組チューブ14からなるシールド層と、該金属編組チューブ14を被覆する絶縁樹脂からなるシース15を備えた同軸線からなるシールド線からなる」ものであること、段落【0019】には、「コア線13の導体11の一端はバッテリBのプラス側と接続している一方、シールド層の金属編組チューブ14の一端はバッテリBのマイナス側と接続」されることが記載されている。
よって、引用文献1には、下記の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「バッテリBのプラス側と接続している導体11と、該導体11の外側に設けられる絶縁被覆層12と、該絶縁被覆層12の外側に設けられバッテリBのマイナス側と接続されている金属編組チューブ14と、該金属編組チューブ14の外側に設けられるシース15とを備えた、車体内部に配索される自動車用シールド線10。」

2 対比
引用発明の「バッテリBのプラス側と接続している導体11」、「絶縁被覆層12」、「バッテリBのマイナス側と接続されている金属編組チューブ14」は、本件請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)の「プラス極導体」、「第一絶縁体」、「マイナス極導体」に相当している。
また、引用文献1の段落【0017】には、引用発明の「自動車用シールド線10」が、「ハイブリッド自動車20のバッテリBとインバータIを接続する電源線10」として用いられることが記載されているので、引用発明の「自動車用シールド線10」は、「高圧導電路」とよび得るものである。
さらに、引用文献1の段落【0018】には、「金属編組チューブ14を被覆する絶縁樹脂からなるシース15を備えたている」ことが記載されているので、引用発明の「該金属編組チューブ14の外側に設けられるシース15」は、本件発明1の「該いずれか他方の外側に設けられる第二絶縁体」に相当している。

よって、本件発明1と引用発明は、下記の点で一致し、相違する。

[一致点]
「プラス極導体及びマイナス極導体のいずれか一方と、該いずれか一方の外側に設けられる第一絶縁体と、該第一絶縁体の外側に設けられる前記プラス極導体及び前記マイナス極導体のいずれか他方と、該いずれか他方の外側に設けられる第二絶縁体とを備える
ことを特徴とする高圧導電路。」

[相違点1]
本件発明1では、「前記いずれか一方を単心線にするとともに、前記単心線自身に配索経路に沿った形状保持機能」を持たせたものであるのに対し、引用発明の「導体11」は、単心線であることが引用文献に明記されておらず、「配索経路に沿った形状保持機能」を有したものであるか不明である点。

[相違点2]
本件発明1では、「前記第二絶縁体の外側に設けられ、前記プラス極導体及び前記マイナス極導体とは異なる電位に接続されるシールド部材」を備えているのに対し、引用発明は、「前記プラス極導体及び前記マイナス極導体とは異なる電位に接続されるシールド部材」を備えていない点。

[相違点3]
本件発明1では、「シールド部材の外側に設けられ、当該高圧導電路を被覆し保護するシース」を備えているのに対し、引用発明のシース15は、金属編組チューブ14の外側に設けられている点。

3 判断
(1)相違点1について
引用文献1には、「導体11」が単心線であることは明記されていないが、段落18には、「断面円形状の導体11」と記載され、また図2(A)及び(C)には、導体11が一本の導体として記載されていることから、引用文献1の「導体11」も単心線であると認められる。
そして、引用発明と同様の技術分野であるハイブリッド自動車の送電に用いるケーブルである導体アセンブリ10が記載された引用文献2の段落【0009】には、「導体アセンブリ10は、電力のための良好な導体である中実な金属または合金、例えば銅およびその合金などから構成されるコア導体エレメント20を含む。・・・中略・・・さらにコア導体エレメント20は、充分な延性および可鍛性を有するので、所定の配索に亘って導体アセンブリ10に求められる形状に曲げること、もしくは成形することができる。」ことが記載されている。
よって、車体内部に配索される引用発明の「自動車用シールド線10」では、配索経路に沿った形状に曲げることが求められているところ、自動車の送電に用いるケーブルを求められる形状に曲げるために、ケーブルに中実な金属または合金から構成されるコア導体エレメント20を導体アセンブリ10に用いる点が引用文献2に記載されているので、引用文献2に接した当業者であれば、引用発明の導体11を「配索経路に沿った形状保持機能」を有するものとすることは、適宜なし得たものにすぎない。

(2)相違点2及び3について
電気自動車等のバッテリからインバータへ直流電力を供給する場合、インバータ等から発生するノイズによる電波障害を対策するために、直流電力を供給するハーネスに外被シールドを施し、プラス極及びマイナス極とは別に、シールド側がインバータ等の機器に接続を行うことは、引用文献3(段落31及び図2には、直流ハーネスに外被シールド線を用い、シールド外被92がインバータの収納フレームの1ヶ所に接続される構成が記載されている。)及び引用文献4(段落28及び図1には、電源電線2がシールド線となり、シールド線のシールド側が電動コンプレッサー駆動装置3の金属ケースニ接続される構成が記載されている。)に記載されているように周知技術である。
そして、引用文献1には、引用発明の自動車用シールド線10がバッテリとインバータの間に接続されるものであることが図1に記載されているので、引用発明は、導体11がバッテリとインバータのプラス側に接続され、金属編組チューブ14がバッテリとインバータのマイナス側に接続される態様を含むものであるから、引用発明においても、インバータ等から発生するノイズによる電波障害への対策が重要である事は明らかである。
よって、引用発明の「金属編組チューブ14」と「シース15」の間に、「前記プラス極導体及び前記マイナス極導体とは異なる電位に接続されるシールド部材」を備えさせるように構成することは、当業者が普通に行い得るものである。

4 請求項2に係る発明は、「高圧導電路」を含むワイヤーハーネスである点を限定しているものの、電気自動車等の電力配線にワイヤーハーネスの用いる事も、当業者が普通に行い得るものである。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2009-214631号公報
2.特表2008-543017号公報
3.特開平8-98328号公報
4.特開平7-304327号公報

2 当審拒絶理由の判断
(1)引用文献
ア 引用文献1
当審拒絶理由における引用文献1は、拒絶査定の引用文献1と同じであるので、前記第3の2(1)アから、引用文献1には、再掲すると次の引用発明が記載されている。
「バッテリBのプラス側に接続される導体11と、
該導体11を被覆する絶縁被覆層12と、
該絶縁被覆層を被覆しバッテリBのマイナス側に接続される金属編組チューブ14からなるシールド層と、
該金属編組チューブを被覆する絶縁樹脂からなるシース15と、
を備えた同軸線からなる車体内部に配索される自動車用シールド線。」

イ 引用文献2
当審拒絶理由における引用文献2は、拒絶査定の引用文献2と同じであるので、前記第3の2(1)イから、引用文献2には、再掲すると次の事項が記載されている。
「導体アセンブリ10は、電力のための良好な導体である中実な金属または合金、例えば銅およびその合金などから構成されるコア導体エレメント20を含み、コア導体エレメント20は、充分な延性および可鍛性を有するので、所定の配索に亘って導体アセンブリ10に求められる形状に曲げること、もしくは成形することができる。」

ウ 引用文献3
引用文献3には、下記の事項が記載されている。
「【0031】図2は、請求項3に記載した第2の発明の実施例を示すものであり、図1と同一の構成要素には同一番号を付してある。図2において、インバータ4と電動機5との間の交流ハーネス6には外被シールド線を用い、そのシールド部としてのシールド外被62は電動機5側において接地線63により電動機収納フレーム51の1ヵ所の接地点58に接地される。同様にして、直流ハーネス9にも外被シールド線を用い、シールド外被92はインバータ4側において接地線93によりインバータ収納フレーム41の1ヵ所の接地点46に接地される。」

上記から、引用文献3には、次の事項が記載されている。
「直流ハーネスに外被シールド線を用い、シールド外被92がインバータの収納フレームの1ヶ所に接続される。」

エ 引用文献4
引用文献4には、下記の事項が記載されている。
「【0028】図1に本発明の第1の実施例に係る電動コンプレッサー駆動装置接続図を示す。図5従来の電動コンプレッサー駆動装置接続図との相違点は、電源電線2、モーター電線5がシールド線となり、これら各シールド線のシールド側は、車体アース7に接地された電動コンプレッサー駆動装置3の金属ケースにコンデンサ6を介して接続されている点である。」

上記から、引用文献4には、次の事項が記載されている。
「電源電線2がシールド線となり、シールド線のシールド側が電動コンプレッサー駆動装置3の金属ケースに接続される。」

(2)対比
前記第3の2(3)から、本願発明と引用発明は、下記の点で一致し、また、相違する。

(一致点)
「プラス極導体の一方の導体と、
前記導体の外側に被覆され該導体の絶縁を図る第一絶縁体と、
前記第一絶縁体の外側に設けられ前記導体と同心円でこれを囲む筒状の形状に形成されているマイナス極導体の他方の導体と、
第一シースと、
を備えてなることを特徴とする高圧導電路。」

(相違点1)
本願発明の「一方の導体」は、「中心導体を形成する単心線からなり、該単心線自身に配索経路に沿った形状保持機能を持たせて剛性を有する」ものであるのに対し、引用発明の「導体11」は、単心線であるか定かではなく、また、該単心線自身に配索経路に沿った形状保持機能を持たせて剛性は有していない点。

(相違点2)
本願発明は、「前記他方の導体の外側に被覆され該他方の導体の絶縁を図る第二絶縁体」を備えているのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。

(相違点3)
本願発明は、「前記第二絶縁体の外側に設けられ、導電性の金属箔単体で筒状に形成され前記プラス極導体及びマイナス極導体とは異なる電位に接続されるシールド部材」を備えているのに対し、引用発明は、「マイナス側に接続される金属編組チューブ14」が「シールド層」とされている点。

(相違点4)
本願発明の「第一シース」は、「前記シールド部材の外側に被覆され、PE(ポリエチレン)によって形成される」のに対し、引用発明の「シース15」は、「シールド部材」に対応する部材を被覆しておらず、PE(ポリエチレン)によって形成されるものではない点。

(相違点5)
本願発明は、「前記第一シースの外側に被覆され当該高圧導電路を保護し、PP(ポリプロピレン)によって形成される第二シース」を備えているのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。

(相違点6)
本願発明は、「導電性の部分が前記一方の導体と前記他方の導体と前記シールド部材とによって同軸三層構造をなし、シースの部分が前記第一シースと前記第二シースとによって二層構造を有してなる」のに対して、引用発明は、導電部分が同軸三層構造をなしておらず、シースの部分が二層構造を有していない点。

(3)判断
上記相違点3及び6について検討する。
引用発明の「金属編組チューブ14」は、「バッテリBのマイナス側に接続される」とともに「シールド層」として機能するものであるから、引用発明では、「金属編組チューブ14」の外側に何らかの絶縁層を介してさらに「シールド層」を設ける必要性はない。また、電気自動車等のバッテリからインバータへ直流電力を供給する場合、インバータ等から発生するノイズによる電波障害を対策するために、直流電力を供給するハーネスに外被シールドを施し、プラス極及びマイナス極とは別に、シールド側がインバータ等の機器に接続を行うことは、引用文献3及び4に記載されているように周知技術であると認められるものの、引用文献1乃至4には、「導電性の部分が前記一方の導体と前記他方の導体と前記シールド部材とによって同軸三層構造」が記載も示唆もされていない。

(4)小括
したがって、本願発明は、当業者が引用発明、及び引用文献2乃至4に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえなくなった。
本願の請求項2に係る発明についても、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、当業者が引用発明、及び引用文献2乃至4に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえなくなった。
そうすると、もはや、当審で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。


第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-08-15 
出願番号 特願2011-10419(P2011-10419)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 南 正樹福田 正悟  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 河口 雅英
飯田 清司
発明の名称 高圧導電路及びワイヤハーネス  
代理人 小林 保  

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