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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1317823
審判番号 不服2015-11457  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-17 
確定日 2016-09-01 
事件の表示 特願2011- 9043「粘着型光学フィルムおよび画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月 8日出願公開、特開2011-175247、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成23年1月19日(優先権主張平成22年1月26日)の出願であって、平成26年8月5日付けで拒絶理由が通知され、同年10月10日付けで意見書が提出され、平成27年3月13日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して、同年6月17日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

2 平成27年6月17日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の適否
(1)補正の内容
平成27年6月17日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであって、願書に最初に添付された特許請求の範囲、すなわち、本件補正前の特許請求の範囲に、
ア 「【請求項1】
光学フィルムに、下塗り層を介して、粘着剤層が設けられている粘着型光学フィルムにおいて、
粘着剤層が、ベースポリマーとして、ガラス転移温度が0℃以下の(メタ)アクリル系重合体(A)セグメントおよびガラス転移温度が40℃以上の(メタ)アクリル系重合体(B)セグメントを有するブロック共重合体またはグラフト共重合体を含有する粘着剤により形成されており、かつ、
下塗り層は、ポリマー類を含有することを特徴とする粘着型光学フィルム。
【請求項2】
(メタ)アクリル系重合体(A)セグメントは総モノマー単位の50重量%以上がアクリル酸アルキルエステルであり、(メタ)アクリル系重合体(B)セグメントは総モノマー単位の15重量%以上がメタクリル酸アルキルエステルであることを特徴とする請求項1記載の粘着型光学フィルム。
【請求項3】
粘着剤が含有するベースポリマーが、B-A-Bのトリブロック共重合体(但し、Aは(メタ)アクリル系重合体(A)セグメント、Bは(メタ)アクリル系重合体(B)セグメントを示す)であることを特徴とする請求項1または2記載の粘着型光学フィルム。
【請求項4】
下塗り層のポリマー類が、末端に1級アミノ基を有するポリマーであることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の粘着型光学フィルム。
【請求項5】
末端に1級アミノ基を有するポリマーが、末端に1級アミノ基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステルであることを特徴とする請求項4記載の粘着型光学フィルム。
【請求項6】
末端に1級アミノ基を有するポリマーにおける1級アミノ基が、ポリエチレンイミン系材料に由来するものであることを特徴とする請求項4または5記載の粘着型光学フィルム。
【請求項7】
下塗り層が、ポリマー類100重量部に対して、酸化防止剤0.01?500重量部を含有することを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の粘着型光学フィルム。
【請求項8】
酸化防止剤が、フェノール系、リン系、イオウ系およびアミン系の酸化防止剤から選ばれるいずれか少なくとも1種であることを特徴とする請求項7記載の粘着型光学フィルム。
【請求項9】
光学フィルムが、透明基材フィルムの片面に液晶光学補償層を有しており、当該液晶光学補償層に、下塗り層を介して、粘着剤層が設けられていることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載の粘着型光学フィルム。
【請求項10】
液晶光学補償層が、ディスコティック液晶層であることを特徴とする請求項9記載の粘着型光学フィルム。
【請求項11】
光学フィルムは、液晶光学補償層が形成されない側の、透明基材フィルムの片面には偏光子が積層されていることを特徴とする請求項9または10記載の粘着型光学フィルム。
【請求項12】
請求項1?11のいずれかに記載の粘着型光学フィルムを少なくとも1枚用いた画像表示装置。」とあったものを、

イ 「【請求項1】
光学フィルムに、下塗り層を介して、粘着剤層が設けられている粘着型光学フィルムにおいて、
粘着剤層が、ベースポリマーとして、ガラス転移温度が0℃以下の(メタ)アクリル系重合体(A)セグメントおよびガラス転移温度が40℃以上の(メタ)アクリル系重合体(B)セグメントを有するブロック共重合体またはグラフト共重合体を含有する粘着剤により形成されており、かつ、
下塗り層は、ポリマー類を含有し、かつ
前記ポリマー類が、末端に1級アミノ基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステルであることを特徴とする粘着型光学フィルム。
【請求項2】
(メタ)アクリル系重合体(A)セグメントは総モノマー単位の50重量%以上がアクリル酸アルキルエステルであり、(メタ)アクリル系重合体(B)セグメントは総モノマー単位の15重量%以上がメタクリル酸アルキルエステルであることを特徴とする請求項1記載の粘着型光学フィルム。
【請求項3】
粘着剤が含有するベースポリマーが、B-A-Bのトリブロック共重合体(但し、Aは(メタ)アクリル系重合体(A)セグメント、Bは(メタ)アクリル系重合体(B)セグメントを示す)であることを特徴とする請求項1または2記載の粘着型光学フィルム。
【請求項4】
末端に1級アミノ基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステルにおける1級アミノ基が、ポリエチレンイミン系材料に由来するものであることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の粘着型光学フィルム。
【請求項5】
下塗り層が、ポリマー類100重量部に対して、酸化防止剤0.01?500重量部を含有することを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の粘着型光学フィルム。
【請求項6】
酸化防止剤が、フェノール系、リン系、イオウ系およびアミン系の酸化防止剤から選ばれるいずれか少なくとも1種であることを特徴とする請求項5記載の粘着型光学フィルム。
【請求項7】
光学フィルムが、透明基材フィルムの片面に液晶光学補償層を有しており、当該液晶光学補償層に、下塗り層を介して、粘着剤層が設けられていることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の粘着型光学フィルム。
【請求項8】
液晶光学補償層が、ディスコティック液晶層であることを特徴とする請求項7記載の粘着型光学フィルム。
【請求項9】
光学フィルムは、液晶光学補償層が形成されない側の、透明基材フィルムの片面には偏光子が積層されていることを特徴とする請求項7または8記載の粘着型光学フィルム。
【請求項10】
請求項1?9のいずれかに記載の粘着型光学フィルムを少なくとも1枚用いた画像表示装置。」
とする補正である(下線は当審で付した。以下同様。)。

(2)補正の適否
ア 本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ポリマー類」について、本件補正前の請求項4及び5の記載に基づき「末端に1級アミノ基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステルである」との限定を付加するとともに、それに伴い、請求項4及び5を削除したものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮及び特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当する。
イ また、本件補正は、特許法第17条の2第3項、第4項の規定に違反するところはない。
ウ そこで、本件補正後の請求項1ないし10(上記(1)イ)に記載された発明(以下「本願発明1」ないし「本願発明10」という。)が原査定の理由により拒絶すべきか否かについて以下に検討する。

3 原査定の理由の概要
この出願の本件補正前の請求項1ないし12に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献
1.特開2008-176270号公報
2.国際公開第2008/065982号

引用文献1に記載された発明において、光学フィルム用アクリル系粘着剤として本願出願時において公知である引用文献2に記載の上記粘着剤を採用し、本件補正前の請求項1ないし12に係る発明とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

4 原査定の理由についての当審の判断
(1)引用文献1の記載事項
原査定の理由に引用文献1として引用され、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である特開2008-176270号公報には、次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材フィルムの片面に液晶光学補償層を有する光学フィルムの当該液晶光学補償層に、下塗り層を介して、粘着剤層が設けられている粘着型光学フィルムにおいて、
下塗り層は、ポリマー類および酸化防止剤を含有することを特徴とする粘着型光学フィルム。
【請求項2】
下塗り層は、ポリマー類100重量部に対して、酸化防止剤0.01?1000重量部を含有することを特徴とする請求項1記載の粘着型光学フィルム。
【請求項3】
下塗り層は、ポリマー類100重量部に対して、酸化防止剤5?1000重量部を含有することを特徴とする請求項1記載の粘着型光学フィルム。
【請求項4】
液晶光学補償層が、ディスコティック液晶層であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の粘着型光学フィルム。
【請求項5】
下塗り層のポリマー類が、1級アミノ基を有するポリマーであることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の粘着型光学フィルム。
【請求項6】
1級アミノ基を有するポリマーが、末端に1級アミノ基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステルであることを特徴とする請求項5記載の粘着型光学フィルム。
【請求項7】
酸化防止剤が、フェノール系、リン系、イオウ系およびアミン系の酸化防止剤から選ばれるいずれか少なくとも1種であることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の粘着型光学フィルム。
【請求項8】
粘着剤層は、アクリル系ポリマーおよび架橋剤を含有するアクリル系粘着剤により形成されており、かつ前記架橋剤は、過酸化物を含有することを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載の粘着型光学フィルム。
【請求項9】
光学フィルムは、液晶光学補償層が形成されない側の、透明基材フィルムの片面には偏光子が積層されていることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載の粘着型光学フィルム。
【請求項10】
請求項1?9のいずれかに記載の粘着型光学フィルムを少なくとも1枚用いた画像表示装置。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着型光学フィルムに関する。さらには当該粘着型光学フィルムを用いた液晶表示装置、有機EL表示装置、CRT、PDP等の画像表示装置に関する。
【0002】
本発明の粘着型光学フィルムは、液晶光学補償層を有しており、表示コントラスト及び表示色の視角特性を改善するための光学補償フィルムとして有用であり、特に、偏光子を積層したものは、光学補償機能付き楕円偏光板として有用である。なかでも、液晶光学補償層が、ディスコティック液晶化合物が配向されたディスコティック液晶層の場合に有用である。」

ウ 「【背景技術】
【0003】
時計、携帯電話、PDA、ノートパソコン、パソコン用モニター、DVDプレイヤー、TVなどでは液晶表示装置が急速に市場展開している。液晶表示装置は、液晶のスイッチングによる偏光状態変化を可視化させたものであり、その表示原理から偏光子が用いられている。特に、TV等の用途にはますます高輝度かつ高コントラストな表示が求められ、偏光子にも、より明るく(高透過率)、より高コントラスト(高偏光度)のものが開発され導入されている。
【0004】
現在、一般的な液晶表示装置の主流方式は、TN液晶を用いたTFT-LCDである。この方式では、応答速度が速く、高いコントラストを得ることができるなどの利点がある。しかし、TN液晶を用いたパネルの表示をその法線方向より傾いた角度から見た場合、コントラストが著しく低下し、また階調表示が逆転する階調反転などが起こるため、TN液晶は非常に視野角が狭いという特性を持っている。一方、大型のPCモニターやテレビ等の用途においては、高コントラスト、広視野角、視野角による表示色変化が少ないことなどが要求される。従って、TNモードのTFT-LCDをそのような用途に用いる場合には、視野角を補償するための位相差フィルムが必要不可欠である。
【0005】
この位相差フィルムとしては、延伸複屈折ポリマーフィルムが従来から使用されていた。最近、延伸複屈折フィルムからなる光学補償フィルムに代えて、透明支持体上に液晶性分子から形成された光学異方性層を有する光学補償フィルムを使用することが提案されている。液晶性分子には多様な配向形態があるため、液晶性分子を用いることで、従来の延伸複屈折ポリマーフィルムでは得ることができない光学的性質を実現することが可能になった。
【0006】
上記のような視野角補償用の位相差フィルムとして、例えば、負の屈折率異方性を持つディスコティック液晶を用いた富士写真フイルム社製のワイドビューフィルムが提案されている(特許文献1、特許文献2参照)。この位相差フィルムでは、透明基材フィルムの片面に、光軸が傾斜配向されたディスコティック液晶層を有する。この位相差フィルムでは、主として黒表示の電圧印加状態における視野角特性を改良することが目的とされている。即ち、電圧印加状態においては、液晶セル中の液晶分子はガラス基板から傾斜した光軸を有する正の屈折率異方性を示す。この屈折率異方性による位相差を補償するために、光軸がフィルム法線方向から傾斜し且つ負の屈折率異方性を有する液晶性分子を利用した位相差フィルムとなっている。
【0007】
前記視野角補償用の位相差フィルムにおいて、透明基材フィルムには、偏光子を積層して楕円偏光板として用いられるが、一方、ディスコティック液晶層には粘着剤層が積層される。当該粘着剤層が積層された位相差フィルムまたは楕円偏光板等の粘着型光学フィルムは、当該粘着剤層を介して、液晶セル等に貼り合わされて用いられる。しかし、先述した視野角補償用の位相差フィルムまたは楕円偏光板を、粘着剤層を介して、液晶セル等に貼り合わせた液晶表示装置等を、バックライト(点灯状態)とともに組み合わせると、液晶表示装置の枠近傍においてムラ(以下、これを窓枠ムラという。)が発生し、視認性を低下させる問題があった。特に、温度が高くなったり、液晶表示装置のサイズが大きくなったりする場合に、窓枠ムラは顕著になった。
【0008】
前記楕円偏光板等を、粘着剤層を介して、液晶セル等に貼り合わせた液晶表示装置等を、加熱条件下に放置すると、偏光子の中心部と外周部で色相が異なるといった不具合がある(以下、これを額縁ムラという)。額縁ムラは窓枠ムラとは別の現象とし発生する。額縁ムラを解決するために、例えば、粘着剤層中に酸化防止剤(粘着剤のベースポリマー100重量部に対して0.001?3重量部)を加えることが提案されている(特許文献3)。しかし、前記のようにして、粘着剤層に酸化防止剤を配合したものでは、額縁ムラを解消できたとしても、窓枠ムラの問題は解消できない。」

エ 「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、透明基材フィルムの片面に、液晶光学補償層を有し、さらに当該液晶光学補償層には、粘着剤層が積層されている粘着型光学フィルムであって、バックライトの点灯状態における窓枠ムラを抑えることができる、粘着型光学フィルムを提供することを目的とする。
【0011】
また本発明は、前記粘着型光学フィルムを用いた画像表示装置を提供することを目的とする。」

オ 「【発明の効果】
【0021】
従来、光学補償層として機能する液晶光学補償層を有する粘着型光学フィルムを適用した液晶表示装置等は、バックライトの点灯状態が長時間になると、窓枠部分において、中心部分よりも正面位相差値が大きくなって、窓枠ムラが生じていた。本発明の粘着型光学フィルムでは、液晶光学補償層に、ポリマー類および酸化防止剤を含有する下塗り層を介して、粘着剤層を設けており、当該下塗り層により、窓枠部分において、正面位相差値が大きくなることによる、窓枠ムラを抑えることができる。窓枠ムラは、液晶光学補償層がディスコティック液晶層の場合に生じやすく、従って、本発明は、ディスコティック液晶層が光学補償層として用いられている場合に特に有効である。
【0022】
窓枠ムラは、液晶表示装置が大きい場合に発生しやすいため、本発明の粘着型光学フィルムは、サイズの大きな粘着型光学フィルムに特に有効である。また、窓枠ムラは、環境温度が高い場合に発生しやすいため、本発明の粘着型光学フィルムは、高温環境下で用いられる粘着型光学フィルムに特に有効である。
【0023】
また、本発明の粘着型光学フィルムは、粘着剤層が、アクリル系ポリマーおよび架橋剤を含有するアクリル系粘着剤により形成されており、かつ前記架橋剤として、過酸化物を用いた場合に好適である。粘着剤の架橋剤として過酸化物を用いる場合には、粘着剤層中に残存する微量な過酸化物または当該過酸化物が分解して形成される酸等が、液晶光学補償層に影響を及ぼして窓枠ムラを生じるおそれがあるが、本発明の粘着型光学フィルムによれば、下塗り層に酸化防止剤を含有させることで、前記残存過酸化物または酸等が液晶光学補償層に及ぼす影響を抑止でき、窓枠ムラを抑制できる。」

カ 「【0045】
下塗り層は、ポリマー類および酸化防止剤を含有する下塗り剤により形成される。前記ポリマー類の材料は粘着剤層と液晶光学補償層のいずれにも良好な密着性を示し、凝集力に優れる皮膜を形成するものが望ましい。
【0046】
前記ポリマー類としては、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、分子中にアミノ基を含むポリマー類があげられる。ポリマー類の使用形態は溶剤可溶型、水分散型、水溶解型のいずれでもよい。例えば、水溶性ポリウレタン、水溶性ポリエステル、水溶性ポリアミド等や水分散性樹脂(エチレン-酢酸ビニル系エマルジョン、(メタ)アクリル系エマルジョンなど)が挙げられる。また、水分散型は、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド等の各種の樹脂を乳化剤を用いてエマルジョン化したものや、前記樹脂中に、水分散性親水基のアニオン基、カチオン基またはノニオン基を導入して自己乳化物としたもの等を用いることができる。またイオン高分子錯体を用いることができる。
【0047】
かかるポリマー類は粘着剤層に、例えば、イソシアネート系化合物を含む場合には、イソシアネート系化合物と反応性を有する官能基を有するものが好ましい。前記ポリマー類としては、分子中にアミノ基を含むポリマー類が好ましい。特に、末端に1級アミノ基を有するものが好ましく用いられ、イソシアネート系化合物との反応により強固に密着する。末端に1級アミノ基を有するポリマーは、末端に1級アミノ基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。」

キ 「【0061】
粘着剤層を形成する粘着剤は特に制限されず、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤等の各種の粘着剤を使用できるが、無色透明で、液晶セル等との接着性の良好なアクリル系粘着剤が一般的には用いられる。
【0062】
アクリル系粘着剤は、アルキル(メタ)アクリレートのモノマーユニットを主骨格とするアクリル系ポリマーをベースポリマーとする。なお、(メタ)アクリレートはアクリレートおよび/またはメタクリレートをいい、本発明の(メタ)とは同様の意味である。アクリル系ポリマーの主骨格を構成する、アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基の平均炭素数は1?12程度のものであり、アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等を例示でき、これらは単独または組み合わせて使用できる。これらの中でもアルキル基の炭素数1?9のアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0063】
前記アクリル系ポリマー中には、接着性や耐熱性の改善を目的に、1種類以上の各種モノマーが共重合により導入される。・・・略・・・
【0069】
本発明の粘着剤層を形成する粘着剤は、ベースポリマーに加えて架橋剤を含有することができる。架橋剤により、光学フィルムとの密着性や耐久性を向上でき、また高温での信頼性や粘着剤自体の形状の保持を図ることができる。ベースポリマーがアクリル系ポリマーの場合、架橋剤としては、イソシアネート系、エポキシ系、過酸化物系、金属キレート系、オキサゾリン系などを適宜に使用可能である。これら架橋剤は1種を、または2種以上を組み合わせて用いることができる。架橋剤としては、過酸化物を含有する場合に、本発明は好適に適用される。また、架橋剤は、過酸化物およびイソシアネート系架橋剤が好適である。
・・・略・・・
【0075】
さらには、前記粘着剤には、必要に応じて、粘着付与剤、可塑剤、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉、その他の無機粉末等からなる充填剤、顔料、着色剤、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤等を、また本発明の目的を逸脱しない範囲で各種の添加剤を適宜に使用することもできる。また微粒子を含有して光拡散性を示す粘着剤層などとしても良い。
【0076】
粘着剤層の形成は、前記下塗り層上に積層することにより行う。形成方法としては、特に制限されず、粘着剤(溶液)を塗布し乾燥する方法、粘着剤層を設けた離型シートにより転写する方法等があげられる。塗布法は、リバースコーティング、グラビアコーティング等のロールコーティング法、スピンコーティング法、スクリーンコーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法などを採用できる。」

ク 「【実施例】
【0124】
以下に、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各例中の部および%はいずれも重量基準である。
【0125】
実施例1
<アクリル系粘着剤の調製>
ベースポリマーとして、ブチルアクリレート:アクリル酸4-ヒドロキシブチルエチルアクリレート=99:1(重量比)の共重合体からなる重量平均分子量165万のアクリル系ポリマー(重合開示剤として、モノマー100部に対して、2,2´‐アゾビスイソブチロニトリル0.3部を使用)を含有する溶液(固形分15.5%)を用いた。上記アクリル系ポリマー溶液の固形分100部に対して、架橋剤として、ジベンゾイルパーオキサイド(日本油脂(株)製,ナイパーBMT40SV)0.3部と、トリメチロールプロパンキシレンジイソシアネート(三井武田ケミカル(株)製,タケネートD110N)0.02部と、アセトアセチル基含有シランカップリング剤(綜研化学(株)製,A‐100)0.2部を配合し、粘着剤溶液(固形分12%)を調製した。
【0126】
<粘着剤層の形成>
得られた粘着剤溶液を、離型処理を施したポリエステルフィルム(厚さ38μm)からなるセパレータ上に、乾燥後の粘着剤層の厚さが20μmになるように、リバースロールコート法により塗布し、155℃で3分間加熱処理して、溶剤を揮発させ、粘着剤層を得た。
【0127】
<光学フィルム>
富士写真フイルム社製のワイドビュー(WV)フィルムを用いた。WVフィルムは、透明基材フィルムであるセルロース系高分子フィルム上に、ディスコティック液晶分子が傾斜配向しているディスコティック液晶層を有していた。
【0128】
なお、WVフィルムを、ディスコティック液晶分子の傾斜配向層に分離し、王子計測機器社製のKOBRA-21ADHにて、λ=590nmにおける特性を測定した。面内の最大屈折率をnx、面内の最大屈折率を有する方向に直交する方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnzとした。厚みをdとした。透明支持体は、Δnd=(nx-ny)×d=12nm、Rth=(nx-nz)×d=100nmであった。一方、傾斜配向層は、光軸が傾斜している方向に-50°?50°まで入射角を変えて位相差を測定した結果、Δnd=30nm、Rth=150nm、平均傾斜角θ=17°であった。
【0129】
前記WVフィルムの透明基材フィルム側を、ケン化処理した後、そのケン化処理面と、厚さ20μmのポリビニルアルコール系偏光子(日東電工(株)製,SEG-5424WL)とをポリビニルアルコール系接着剤により、貼り合わせた。一方、偏光子の他面には、前記同様のポリビニルアルコール系接着剤により、透明保護フィルム(トリアセチルセルロースフィルム,厚さ80μm)を貼り合せて、偏光板を有する光学フィルム(光学補償層付き偏光板)を作成した。
【0130】
<下塗り剤の調製>
末端に1級アミノを有するアクリル酸エステル((株)日本触媒製,ポリメントNK380)をトルエンに固形分が2%になるように希釈した溶液に、フェノール系酸化防止剤(チバスペシャリティケミカルズ社製,イルガノックス1010)を、前記溶液の固形分100部に対して、1部添加した下塗り剤を調製した。
【0131】
<粘着型光学フィルムの作製>
上記光学補償層付き偏光板のディスコティック液晶層の表面に、上記の下塗り剤を、バーコーターを用いて、塗布、乾燥して、塗布量0.2立方センチメートルの下塗り層(厚さ80nm)を形成した。次いで、下塗り層に、上記粘着剤層を形成した離型シートを貼り合せ、粘着型光学フィルムを作製した。
【0132】
実施例2?7
実施例1において、下塗り剤の調製にあたり、フェノール系酸化防止剤の配合量を表1に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にして、粘着型光学フィルムを作製した。
【0133】
実施例8
実施例1において、下塗り剤の調製にあたり、酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤(チバスペシャリティケミカルズ社製,イルガノックス1010)およびリン系酸化防止剤(チバスペシャリティケミカルズ社製,イルガノックスB225)を、フェノール系酸化防止剤:リン系酸化防止剤=1:1(重量比)の割合で、これらの合計が、前記溶液の固形分100部に対して、1部添加したこと以外は実施例1と同様にして、粘着型光学フィルムを作製した。」

ケ 上記アないしクから、引用文献1には次の発明(段落番号等はそのまま併記する。)が記載されているものと認められる。
「【請求項1】透明基材フィルムの片面に液晶光学補償層を有する光学フィルムの当該液晶光学補償層に、下塗り層を介して、粘着剤層が設けられている粘着型光学フィルムにおいて、
下塗り層は、ポリマー類および酸化防止剤を含有し、
【請求項5】【請求項6】下塗り層のポリマー類が、末端に1級アミノ基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステルであり、
【0061】粘着剤層を形成する粘着剤は特に制限されず、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤等の各種の粘着剤を使用できる、
粘着型光学フィルム。」(以下「引用発明1」という。)

(2)引用文献2の記載事項
原査定の理由に引用文献2として引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2008/065982号には、次の事項が記載されている。
ア 「技術分野
[0001] 本発明は、偏光板、位相差フィルム、その他の光学フィルムを液晶パネルなどの被着体に貼着したり、光学フィルムに保護フィルムを貼着するのに好適に用いられる光学フィルム用粘着剤に関する。また、本発明は、前記光学フィルム用粘着剤からなる粘着剤層を有する粘着型の光学フィルムおよび粘着型の光学フィルム用保護フィルム、並びに前記粘着型の光学フィルムおよび/または粘着型の光学フィルム用保護フィルムを用いた画像表示装置に関する。」

イ 「背景技術
[0002] 粘着剤を用いて、偏光板、位相差フィルムなどの光学フィルムを液晶パネルなどに 貼着したり、保護フィルムを光学フィルムに貼着したときに、皺、気泡、異物などのみ込みや、貼り付け位置のズレなどが生じた場合に、一旦貼着した光学フィルムや保護フィルムを剥がして再び貼着作業をやり直したり、光学フィルムを剥がした後に高価な液晶パネルを回収してリサイクルしたりすることがある。かかる点から、光学フィルムを液晶パネルなどの被着体に貼着したり、光学フィルムに保護フィルムを貼着したりするのに用いられる光学フィルム用粘着剤に対しては、糊残りがなぐ適度な剥離強度で剥離でき、再度貼着が可能なリワーク性が必要とされている。
更に、光学フィルム用粘着剤に対しては、加熱、湿熱状態に曝されても、発泡したり、被着体から剥離しない、高い耐久性が必要とされている。
[0003] 光学フィルム用粘着剤としては、(1)ガラス転移点(Tg)が50℃以上で分子量が500?100万の高Tg重合体セグメントとTgがそれよりも70℃以上低い低Tg重合体セグメントを有する、全体の分子量が40万?200万のグラフト共重合体またはブロック共重合体よりなる偏光板または位相差板用粘着剤 (特許文献1を参照)、(2)重量平均分子量100万以上のアクリル系ポリマー 100重量部に対してガラス転移温度が-5℃以下で、重量平均分子量が800?5万のアクリル系オリゴマーを1?40重量部の割合で含有する光学フィルム用粘着剤(引用文献2を参照)、(3)重量平均分子量が 好ましくは100万以上であるアクリル系ポリマーを主成分とし、単独でガラス転移温度が-5℃以下となる重合体ブロックを有するブロック共重合体よりなるアクリル系オリゴ マーを含む光学フィルム用粘着剤(引用文献3を参照)が提案されている。
[0004] しかし、特許文献1には、実際には、高Tgポリスチレンセグメントを枝部とし、アクリル酸ブチル系重合体セグメントを幹部とするグラフト共重合体よりなる粘着剤が実施例として唯一具体的に記載されているだけである。そして、特許文献1に開示されている粘着剤では、その粘着特性を発揮させるために化学架橋処理が必要であり、架橋させるために粘着剤のベースをなす前記グラフト共重合体を構成する低Tg重合体セグメント(幹部分)に水酸基やカルボキシル基のような官能基を予め導入しておき、粘着剤の塗工時に粘着剤溶液に架橋剤(3官能イソシァネート化合物である「コロネートL」など)を添加して化学的に架橋させている。そのため、特許文献1に記載されている粘着剤は、粘着型光学フィルムの製造時に化学架橋という後処理工程が必要で、生産性が低く、しかも架橋ムラによる粘着性能のバラツキが生じやすい。
[0005] また、引用文献2および3に記載されている粘着剤は、粘着剤のベースをなすアクリル系ポリマーの重量平均分子量が100万以上と極めて高いため、溶液粘度が高く、塗工性に優れる低粘度の粘着剤溶液を得るためには有機溶媒量を多量に使用して粘着剤溶液の固形分濃度を低くする必要がある。多量の有機溶媒の使用は、環境汚染、塗工後の溶媒除去工程の長時間化などの点で問題がある。その上、引用文献2および3に記載されている粘着剤においても、引用文献1に記載されている粘着剤と同様に、ベースをなすアクリル系ポリマー中に、架橋剤(3官能イソシアネート化合物である「コロネートL」など)と反応して化学架橋を生じて粘着特性を発現させるためのカルボキシル基やその他の官能基を導入しておき、粘着剤の塗工時に粘着剤溶液に架橋剤を添加して化学架橋を行っているため、粘着型光学フィルムの製造時 に化学架橋という後処理工程が別途必要であり、生産性が低い。しかも、架橋ムラによる粘着性能のバラツキが生じやすい。
[0006] また、アクリル系トリブロック共重合体を含むホットメルト型粘着剤が知られているが(特許文献4および5を参照)、これらの文献には、当該ホットメルト型粘着剤を光学フィ ルムに用いることは開示されておらず、また当該ホットメルト型粘着剤を溶融する代わりに有機溶媒に溶解して溶液型粘着剤にして光学フィルムに用いることも開示されていない。」

ウ 「発明が解決しようとする課題
[0008] 本発明の目的は、光学フィルムを被着体に貼着したり、光学フィルムに保護フィルムを貼着したりする際に、糊残りすることなく適度な剥離強度で剥離できて、リワーク性に優れ、その上加熱状態や湿熱状態に曝されても粘着力の低下や発泡などが生じず、長期にわたって良好な粘着特性を維持することができて耐久性に優れる光学フィルム用粘着剤を提供することである。
そして、本発明の目的は、化学架橋処理が不要で、化学架橋を行わずに粘着性能と耐久性能に優れる粘着型光学フィルムなどを生産性よく製造することのできる光学フィルム用粘着剤を提供することである。
更に、本発明の目的は、有機溶媒に溶解したときに低粘度の溶液を調製することができ、それによつて有機溶媒の使用量を低減しながら、塗工性および取扱性に優れる溶液型の光学フィルム用粘着剤を提供することである。
また、本発明の目的は、前記した光学フィルム用粘着剤からなる粘着剤層を有する 粘着型の光学フィルムおよび粘着型の光学フィルム用保護フィルム、並びに前記した粘着型の光学フィルムおよび/または粘着型の光学フィルム用保護フィルムを用いた画像表示装置を提供することである。

課題を解決するための手段
[0009] 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねてきた。その結果、特定のアクリル系トリブロック共重合体、すなわちガラス転移温度が-20℃以下のアクリル酸アクリルエステル重合体ブロックを中央ブロックとし、その両端にガラス転移温度が100℃以上のメタクリル酸アクリルエステル重合体がそれぞれ結合したアクリル系トリブロック共重合体であって、重量平均分子量(Mw)が50,000?300,000、分子量分布(Mw/Mn)が 1.0?1.5、および中央のアクリル酸アクリルエステル重合体ブロックの含有量が50?95質量%であるアクリル系トリブロック共重合体を用いて光学フィルム用粘着剤を調製すると、化学架橋処理を行わなくても、リワーク性、粘着特性、耐熱性、耐久性などの特性に優れる光学フィルム用粘着剤が得られることを見出した。
また、本発明者らは、前記特定のアクリル系トリブロック共重合体を有機溶媒に溶解した溶液は高濃度でも溶液粘度が低くて、当該アクリル系トリブロック共重合体を含 有する粘着剤を基材に塗工する際の取り扱い性や保存安定性に優れており、光学フィルム用粘着剤を調製する際に環境汚染や塗工後の溶媒除去工程に負荷を与える有機溶媒の使用量を低減しながら、基材に塗工できることを見出した。」

エ 「発明を実施するための最良の形態
[0021] 以下に本発明について詳細に説明する。
本発明は、光学フィルム用粘着剤に係るものである。
本発明の「光学フィルム用粘着剤」とは、光学用途で用いられる各種フィルム(限定されるものではないが、例えば、偏光フィルム、偏光板、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、輝度向上フィルム、反射防止フィルム、アンチグレアフィルム、カラーフィルター、導光板、拡散フィルム、プリズムシート、電磁波シールドフィルム、近赤外線吸収フィルム、複数の光学機能を複合させた機能性複合光学フィルムなど)の片面または両面の一部または全部に粘着剤層を形成して光学フィルムを他の被着体に貼着させるのに用いられる粘着剤、および前記した光学フィルムの表面保護のために保護フィルムを光学フィルムの表面に貼着するのに用いられる粘着剤の総称である。
[0022] 本発明の光学フィルム用粘着剤に用いるアクリル系トリブロック共重合体(I)は、
(E1)下記の一般式(1);
A1-B-A2 (1)
(式中、A1およびA2はそれぞれ独立してガラス転移温度が100℃以上のメタタリル酸アルキルエステル重合体ブロック、およびBはガラス転移温度が-20℃以下のアクリル酸アルキルエステル重合体ブロックを示す。)
で表されるアクリル系トリブロック共重合体である;
(E2) 重量平均分子量(Mw)が 50, 000?300, 000である;
(E3) 分子量分布(Mw/Mn)が1.0?1.5である;および、
(E4) 重合体ブロックBの含有量が50?95質量%である;
という要件(E1)?(E4)を備えるアクリル系トリブロック共重合体である。
[0023] 本発明の光学フィルム用粘着剤の主体をなすアクリル系トリブロック共重合体(I)は、メタクリル酸アルキルエステル重合体よりなる2つの重合体ブロックA1とA2の間に、アクリル酸アルキルエステルよりなる重合体ブロックBが結合した、式:A1?B?A2で表されるアクリル系トリブロック共重合体である[上記の要件(El) ]。
アクリル系トリブロック共重合体(I)における2個の重合体ブロックA1およびA2は、いずれもガラス転移温度が100℃以上のメタクリル酸アルキルエステル重合体よりなる重合体ブロックである。ガラス転移温度が100℃以上のメタクリル酸アルキルエステル重合体よりなる重合体ブロックA1およびA2は、粘着剤の通常の使用温度においてミクロ相分離構造をなすアクリル系トリブロック共重合体(I)における拘束相(物理的な擬似架橋点)として作用する。そのため、本発明の光学フィルム用粘着剤は、化学架橋を行なって粘着力を発現させている前記特許文献1?3に記載されている従来の光学フィルム用粘着剤とは異なり、架橋剤を配合する必要がなく、化学架橋を行なわなくても、十分な凝集力を発現して、優れた粘着特性および耐久性を発揮する。アクリル系トリブロック共重合体(I)における重合体ブロックA1およびA2は、ガラス転移温度が100?200℃、特に100?150℃のメタクリル酸アルキルエステル重合体ブロックであることが、耐久性、耐熱性、基材変形への追従性、適度な応力緩和性の点から好ましい。
[0024] アクリル系トリブロック共重合体(I)において、2個の重合体ブロックA1およびA2は、ガラス転移温度が100℃以上のメタクリル酸アルキルエステル重合体よりなる重合体ブロックである限りは、同じ重合体[分子量、単量体組成、立体構造(シンジオタク ティシティなど)などが互いに同じである同じメタクリル酸アルキルエステル重合体]からなっていてもよいし、または異なる重合体[分子量、単量体組成、立体構造(および シンジオタクティシティなど)などのうちの1つまたは2つ以上が互いに異なるメタクリル酸アルキルエステル重合体]からなっていてもよい。
[0025] 重合体ブロックA1およびA2を構成するメタクリル酸アルキルエステル単位としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n?ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸n-へキシル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸2?エチルへキシル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸イソボルニルなどのメタクリル酸アルキルエステルからなる単位を挙げることができ、重合体ブロックA1およびA2は、前記したメタクリル酸アルキルエステル単位の1種類のみから形成されていてもよいし、または2種類以上から形成されていてもよい。
そのうちでも、重合体ブロックA1およびA2は、ポリメタクリル酸メチルからなっていることが、原料であるメタクリル酸メチルが経済的な価格で容易に入手でき、しかもポリメタクリル酸メチルが優れた耐久性と耐候性を有する点から好ましい。
[0026] アクリル系トリブロック共重合体(I)を構成する重合体ブロックBは、アクリル酸アルキルエステルからなる、ガラス転移温度が-20℃以下の重合体ブロックであれば重合体ブロックBを構成するアクリル酸アルキルエステル単位の種類や成分組成は特に限定されない。
ガラス転移温度が20℃以下である重合体ブロックBは、通常の使用温度においてミクロ相分離構造を形成するアクリル系トリブロック共重合体(I)に優れた柔軟性と濡れ性を付与し、本発明の光学フィルム用粘着剤(以下単に「本発明の粘着剤」または「粘着剤」ということがある)に、適度な接着力と良好なリワーク性を発現させる。そのうちでも、重合体ブロックBは、ガラス転移温度が30℃以下、特に-40?-80℃のアクリル酸アルキルエステル重合体からなることが、低温条件下での耐久性に優れる点から好ましい。」

オ 「[0063] 上記したように、本発明の光学フィルム用粘着剤は、非化学架橋型の光学フィルム用粘着剤である。
ここで、「非化学架橋型」とは、粘着製品の製造工程(粘着剤の保管工程、塗工工程、乾燥工程、エージング工程、輸送工程など)において、粘着剤成分であるポリマーに共有結合の形成を伴う化学架橋反応がないことを意味する。
従来の光学フィルム用アクリル系粘着剤に使用されるアクリル系ポリマーは、特許文献1?3にみるように、通常、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸6?ヒドロキシへキシルなどが共重合されており、カルボキシル基や水 酸基などの反応性基を有している。そのような従来の光学フィルム用アクリル系粘着剤は、アクリル系ポリマーのみでは、粘着剤に必要な凝集力が発現しないため、通常、多官能の架橋剤(例えば、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、エチレンイミン化合物など)を配合し、粘着製品の製造工程でポリマー中の反応性基と架橋剤を化学架橋反応させて凝集力を発現させている。これに対して、本発明の光学フィルム用粘着剤は、粘着剤の主体をなすアクリル系トリブロック共重合体(I)中に重合体ブロックA1およびA2が物理的な擬似架橋を形成するため、従来の光学フィルム用アクリル系粘着剤で必要であった化学架橋を行わなくても、十分な耐久性を有する接着性能を発現することができる。
[0064] 本発明の光学フィルム用粘着剤は、非化学架橋型であることにより、化学架橋反応に要する時間を粘着製品の製造工程から省くことができ、生産性を大幅に上げることができる。また、本発明の光学フィルム用粘着剤は、架橋剤を配合する必要がなく、また反応性のある官能基を含有していないため、保存安定性に優れ、粘着型光学フィルムの製造時に粘着剤タンク内に余った粘着剤をそのまま長期間保管したり、回収して再利用することができる。
従来の架橋型アクリル粘着剤は、主剤と架橋剤の2液系が主流であり、2液を混合後は架橋反応が室温においても進行するため、混合後は速やかに使用しないと粘着物性や塗工特性が変化してしまう。
さらに、従来の光学フィルム用アクリル系粘着剤では、上記した架橋反応が、乾燥工程や製品の保管中に進行するため、乾燥条件(温度、風量、ラインスピードなど)や保管条件 (保管期間、温度など)によって架橋ムラが生じ、製品の粘着性能にバラツキが生じる不具合があったが、非化学架橋型の本発明の光学フィルム用粘着剤は、そのような不具合を生じない。
[0065] また、本発明の粘着剤を施した光学フィルムや光学フィルム用保護フィルムは、粘着剤が非化学架橋型であることによって経時的な接着力の上昇が低いために、長期間被着体に貼着された後でも、糊残りなどを生ずることなぐ容易に剥離することができる。
従来の架橋型アクイル粘着剤では、イソシアネートなどの架橋剤が水と反応するため、粘着剤溶液の厳密な水分管理が必要となる。そして、光学フィルムが偏光板である場合には、偏光板中に水分やアルコール類が残留していることが多ぐこれらが架橋型アクリル粘着剤中の架橋剤と反応することがあるため、粘着剤の架橋が安定して 進行せずに粘着物性が安定しないといった問題がある。これに対して、本発明の光学フィルム用粘着剤は、架橋剤が不要であるため、粘着剤溶液や光学フィルム基材 の厳密な水分管理を必要とせず、製品品質の安定性が高いというメリットもある。
・・・略・・・
[0068] 本発明の光学フィルム用粘着剤を用いて形成した粘着型の光学フィルムおよび光学フィルム用保護フィルムがリワーク性に優れるのは、官能基や架橋剤の経時的な 化学架橋反応の進行がないために接着力の経時的変化が小さいことによるものである。架橋剤を含有する従来の光学フィルム用アクリル系粘着剤においては、製品の保管中に化学架橋反応が進行し、接着力が上昇して、リワークすることが困難になる場合がある。
リワーク性が求められる用途では、リワーク操作を行なう時点での180°剥離接着力が、一般に0.05?20N/25mmであることが好ましいとされているが、一般に0.1?15 N/25mmであることがより好ましく、3?10N/25mmがさらに好ましい。本発明の光学フィルム用粘着剤は、前記した好ましい180°剥離接着力を、熱処理後であっても保持している。」

カ 「実施例
[0069] 以下に本発明を実施例などにより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。」
・・・略・・・
[0085] 《合成例1》 [アクリル系トリブロック共重合体(Ia-1)の合成]
(1) 2Lの三口フラスコに三方コックを付け内部を窒素で置換した後、室温にてトルエン868g、1,2ジメトキシエタン43.4g、イソブチノレビス(2, 6 ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシ)アルミニウム40. 2mmolを含有するトルエン溶液60. 0gを加え、さらに sec-ブチルリチウム5.00mmolを含有するシクロへキサンとn-へキサンの混合溶液2.89gを加えた。続いて、これにメタクリル酸メチル35.9gを加えた。反応液は当初、黄色に着色していたが、室温にて60分間攪拌後には無色となった。このとき、メタクリル酸メチルの重合転化率は99. 9%以上であった。引き続き、重合液の内部温度を-30℃に冷却し、アクリル酸n-ブチル240gを2時間かけて滴下し、滴下終了後- 30℃にて5分間攪拌した。このとき、アクリル酸n-ブチルの重合転化率は 99.9%以上であった。さらに、これにメタクリル酸メチル35.9gを加え、一晩室温にて攪拌後、メタノール3.50gを添加して重合反応を停止した。このとき、メタクリル酸メチルの重合転化率は99.9%以上であった。得られた反応液を15kgのメタノール中に注ぎ、白色沈澱物を析出させた。その後、濾過により白色沈殿物を回収し、乾燥させることにより、アクリル系トリブロック共重合体 [アクリル系トリブロック共重合体 (Ia-l)]308gを得た。
[0086] (2) 上記した方法で測定した結果、前記(1)で得られたアクリル系トリブロック共重合体(Ia?1)は、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)-ポリアクリル酸n-ブチル(PnBA)-ポリメタクリル酸メチル(PMMA)からなるトリブロック共重合体であり、重量平均分子量(Mw)は73,000および数平均分子量(Mn)は65,200であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.12であった。
また、アクリル系トリブロック共重合体 (Ia?1)における各重合体ブロックの質量比は、ΡΜΜΑ(11.5質量%) -ΡnΒΑ(77.0質量%)-ΡΜΜΑ(11.5質量%)であ つて、ΡnΒΑブロックの含有量は77. 0質量%であった。
さらに、アクリル系トリブロック共重合体(Ia?1)におけるPMMAブロックのガラス転移温度は100.3℃、およびPnBAブロックのガラス転移温度は-46.5℃であった。また、PMMAブロックのシンジオタクティシティシ[立体規則性(rr)]は67.3%であった。
・・・略・・・
[0093]《実施例1》
(1) 合成例1で得られたアクリル系トリブロック共重合体(Ia?1)を単独で用いて光学フィルム用粘着剤を調製した。
この実施例1の粘着剤の貯蔵弾性率 [G' (23℃)]および貯蔵弾性率[G' (90℃)] を上記した方法で測定したところ、下記の表3に示すとおりであった。
また、この実施例1の粘着剤の溶液粘度を上記した方法で測定したところ、下記の表3に示すとおりであった。
(2) アクリル系トリブロック共重合体 (Ia?1)をトルエンに溶解して固形分濃度30質量%の粘着剤溶液を調製し、これをポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ50 m)上に塗工し、60℃で10分間乾燥した後、粘着剤面を離型ポリエチレンテレフタレートフイルム(厚さ38μm)で覆って、離型PETフィルム/粘着剤/PET基材フィルムよりなる粘着型光学フィルム(α)を作製した。
(3) 上記(2)で作製した粘着型光学フィルム(α)を用いて、上記した方法で各種物性を測定または評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。」

キ 上記アないしカから、引用文献2には次の発明(段落番号を併記した。)が記載されているものと認められる。
「[0021] 光学用途で用いられる各種フィルムの片面または両面の一部または全部に光学フィルム用粘着剤による粘着剤層を形成した光学フィルムであって、
[0022] 前記光学フィルム用粘着剤に用いるアクリル系トリブロック共重合体(I)は、
(E1)下記の一般式(1);
A1-B-A2 (1)
(式中、A1およびA2はそれぞれ独立してガラス転移温度が100℃以上のメタタリル酸アルキルエステル重合体ブロック、およびBはガラス転移温度が-20℃以下のアクリル酸アルキルエステル重合体ブロックを示す。)
で表されるアクリル系トリブロック共重合体であり;
(E2) 重量平均分子量(Mw)が 50, 000?300, 000である;
(E3) 分子量分布(Mw/Mn)が1.0?1.5である;および、
(E4) 重合体ブロックBの含有量が50?95質量%である;
という要件(E1)?(E4)を備えるアクリル系トリブロック共重合体である、
光学フィルム。」(以下「引用発明2」という。)

(3)本願発明1と引用発明1との対比
ア 引用発明1の「透明基材フィルムの片面に液晶光学補償層を有する光学フィルム」、「下塗り層」、「粘着剤層」、「ポリマー類」、「末端に1級アミノ基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステル」及び「粘着型光学フィルム」は、それぞれ本願発明1の「光学フィルム」、「下塗り層」、「粘着剤層」、「ポリマー類」、「末端に1級アミノ基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステル」及び「粘着型光学フィルム」に相当する。

イ 引用発明1は、「透明基材フィルムの片面に液晶光学補償層を有する光学フィルム」(本願発明1の「光学フィルム」に相当。以下、引用発明1の「」に続く()内の用語は対応する本願発明1の用語を示す。)の当該液晶光学補償層に、「下塗り層」(下塗り層)を介して、「粘着剤層」(粘着層)が設けられている「粘着型光学フィルム」(粘着型光学フィルム)であるから、引用発明1の「粘着型光学フィルム」と、本願発明1の「粘着型光学フィルム」とは、「光学フィルムに、下塗り層を介して、粘着剤層が設けられている」点で一致する。

ウ 引用発明1の「下塗り層」は、ポリマー類および酸化防止剤を含有し、該下塗り層のポリマー類が、末端に1級アミノ基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステルであるから、引用発明1の「下塗り層」と、本願発明1の「下塗り層」とは、「ポリマー類を含有し、かつ前記ポリマー類が、末端に1級アミノ基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステルである」点で一致する。

エ 上記アないしウからみて、本願発明1と引用発明1とは、
「光学フィルムに、下塗り層を介して、粘着剤層が設けられている粘着型光学フィルムにおいて、
下塗り層は、ポリマー類を含有し、かつ
前記ポリマー類が、末端に1級アミノ基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステルである粘着型光学フィルム。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
本願発明1では、前記「粘着剤層」が、「ベースポリマーとして、ガラス転移温度が0℃以下の(メタ)アクリル系重合体(A)セグメントおよびガラス転移温度が40℃以上の(メタ)アクリル系重合体(B)セグメントを有するブロック共重合体またはグラフト共重合体を含有する粘着剤により形成されて」いるのに対し、
引用発明1では、粘着剤層を形成する粘着剤は特に制限されず、アクリル系粘着剤等の各種の粘着剤を使用できるが、粘着剤層が「ベースポリマーとして、ガラス転移温度が0℃以下の(メタ)アクリル系重合体(A)セグメントおよびガラス転移温度が40℃以上の(メタ)アクリル系重合体(B)セグメントを有するブロック共重合体またはグラフト共重合体を含有する粘着剤により形成されて」いるかどうかは明らかでない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
ア 引用文献1には、その【0010】(上記(1)エ)に「本発明は、透明基材フィルムの片面に、液晶光学補償層を有し、さらに当該液晶光学補償層には、粘着剤層が積層されている粘着型光学フィルムであって、バックライトの点灯状態における窓枠ムラを抑えることができる、粘着型光学フィルムを提供することを目的とする。」と記載され、また、【0023】(上記(1)オ)に「粘着剤の架橋剤として過酸化物を用いる場合には、粘着剤層中に残存する微量な過酸化物または当該過酸化物が分解して形成される酸等が、液晶光学補償層に影響を及ぼして窓枠ムラを生じるおそれがあるが、本発明の粘着型光学フィルムによれば、下塗り層に酸化防止剤を含有させることで、前記残存過酸化物または酸等が液晶光学補償層に及ぼす影響を抑止でき、窓枠ムラを抑制できる。」と記載され、また、【0047】(上記(1)カ)には、下塗り層の「ポリマー類」について、「かかるポリマー類は粘着剤層に、例えば、イソシアネート系化合物を含む場合には、イソシアネート系化合物と反応性を有する官能基を有するものが好ましい。・・・特に、末端に1級アミノ基を有するものが好ましく用いられ、イソシアネート系化合物との反応により強固に密着する。」と記載されている。要するに、引用発明1の下塗り層は、酸化防止剤を含有することにより、粘着剤の架橋剤としての過酸化物が液晶光学補償層に悪影響を及ぼさないようにし、また、末端に1級アミノ基を有するポリマー類を含むことにより、粘着剤のイソシアネート系化合物との反応により、粘着剤と強固に密着させるものであるから、架橋剤を含有する粘着剤を用いて粘着剤層を形成することを前提とするものと認められる。

イ 引用発明2(上記(2)キ)の光学フィルム用粘着剤に用いるアクリル系トリブロック共重合体は、ガラス転移温度が100℃以上のメタタリル酸アルキルエステル重合体ブロック、およびガラス転移温度が-20℃以下のアクリル酸アルキルエステル重合体ブロックを有するから、引用発明2は、上記相違点に係る本願発明の構成を備えるといえる。そして、引用発明2は、従来の粘着剤が粘着型光学フィルムの製造時に化学架橋という後処理工程が必要で、生産性が低く、しかも架橋ムラによる粘着性能のバラツキが生じやすかったという課題を解決するために、化学架橋処理が不要で、化学架橋を行わずに粘着性能と耐久性能に優れる粘着型光学フィルムなどを生産性よく製造することのできる光学フィルム用粘着剤を提供することを目的としたもので、粘着剤は架橋剤を含有していない。

ウ 上記アのとおり、引用発明1は、架橋剤を含有する粘着剤を用いて粘着剤層を形成することを前提としたものであるところ、上記イのとおり、引用発明2の粘着剤は架橋剤を含有していないから、引用発明1の粘着剤を形成する粘着剤として、引用発明の2の粘着剤を採用することには動機がない。

エ そして、本願発明1は、「粘着剤層」が「ベースポリマーとして、ガラス転移温度が0℃以下の(メタ)アクリル系重合体(A)セグメントおよびガラス転移温度が40℃以上の(メタ)アクリル系重合体(B)セグメントを有するブロック共重合体またはグラフト共重合体を含有する粘着剤により形成され」、かつ、「下塗り層」が「ポリマー類を含有し、かつ前記ポリマー類が、末端に1級アミノ基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステルである」という構成により、本願の明細書に「【0022】・・・特に、下塗り層に、末端に1級アミノ基を有するポリマーのなかでも、末端に1級アミノ基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステルを用いた場合には、当該ポリマーには構成モノマーとして、メタクリル酸メチルやメタクリル酸などの高いガラス転移温度を示す成分が含まれているため、粘着剤層中のベースポリマー(ブロック共重合体またはグラフト共重合体)中のガラス転移温度が40℃以上の(メタ)アクリル系重合体(B)セグメント(高いガラス転移温度を示すセグメント)との凝集による物理的架橋が形成されていると考えられる。即ち、本発明の粘着型光学フィルムが、粘着剤層として従来の官能基を有するアクリル系ポリマーの架橋物を用いた粘着型光学フィルムよりも大幅に光学フィルムと粘着剤層の密着性が向上しているのは、本発明の粘着型光学フィルムでは、粘着剤層と下塗り層の密着性が、従来の粘着型光学フィルムのように官能基含有成分の化学架橋によるものではなく、より強固な物理架橋が形成しているのはないかと考えられる。」と記載されているような効果を奏するものであり、当該効果は、引用発明1及び2の奏する効果から当業者が予測することができたものではない。

オ 以上のとおり、引用発明1において、上記相違点に係る本願発明1の構成となすことは、当業者が引用発明2に基づいて容易に想到し得たものとはいえない。

(5)本願発明2ないし10について
本願発明1は、当業者が引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものでないのであるから、本願発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加した本願発明2ないし10も同様に、当業者が引用文献1に記載された発明及び引用文献2の記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-08-22 
出願番号 特願2011-9043(P2011-9043)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大隈 俊哉居島 一仁  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 清水 康司
鉄 豊郎
発明の名称 粘着型光学フィルムおよび画像表示装置  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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