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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1317872
審判番号 不服2015-7314  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-20 
確定日 2016-08-12 
事件の表示 特願2013- 27648「セメントキルンダスト処理装置及び処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月 8日出願公開、特開2013-151414〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年3月23日に出願された特願2007-76310号の一部を平成25年2月15日に新たな特許出願とされたものであって、平成26年7月24日付けで拒絶理由が通知され、同年9月3日付けで手続補正がされると同時に意見書が提出されたが、平成27年3月6日付けで拒絶査定がされ、同年4月20日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明の認定
本願の請求項1ないし7に記載された発明は、出願当初及び平成26年9月3日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
セメントキルンから排出された燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気するプローブと、
該プローブで抽気した燃焼ガスに含まれるダストの粗粉を分離する第1の分級機と、
該第1の分級機から排出された微粉を含む抽気ガスを集塵する集塵機と、
該集塵機から排出されたダストを平均粒径が0.5μm以上5μm以下の微粉と、粗粉とに分離する第2の分級機と、
該第2の分級機で分級された微粉から、浮遊選鉱法により回収対象物を回収する浮選機とを備えることを特徴とするセメントキルンダスト処理装置。」

第3 原査定の理由
原査定の理由は、「この出願については、平成26年7月24日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。」とするものであり、上記拒絶理由通知書に記載の理由は、この出願の請求項1-7に係る発明は、その遡及出願前に日本国内又は外国において頒布された、下記の、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載の技術手段に基いて、その遡及出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
そこで、上記理由について、本願発明が依然として特許を受けることができないものかどうかを以下に検討する。



刊行物1:国際公開第2006/035630号
刊行物2:特開2006-346512号公報

第4 当審の判断
1.刊行物の記載事項
(1)刊行物1には次の記載がある。
(1ア)「請求の範囲[1] セメントキルンのキルン尻から最下段のサイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気するプローブと、該プローブで抽気した燃焼ガスに含まれるダストの粗粉を分離する第1の分級機と、該第1の分級機から排出された微粉を含む抽気ガスを集塵する集塵機と、該集塵機から排出されたダストを微粉と粗粉とに分離する第2の分級機とを備えることを特徴とするセメントキルン抽気ガス処理システム。」
(1イ)「請求の範囲[2] 前記第2の分級機によって分離された微粉を集塵する乾式集塵機と、該乾式集塵機で集塵されたダストを水に溶解させる溶解槽と、該溶解槽から排出されたスラリーを固液分離する固液分離機とを備えることを特徴とする請求項1に記載のセメントキルン抽気ガス処理システム。」
(1ウ)「[0001] 本発明は、セメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理システム及び処理方法に関し、特に、セメントキルンのキルン尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部を抽気して塩素を除去し、抽気した燃焼ガスに含まれるダストから鉛を効率よく除去する方法に関する。」
(1エ)「[0024] 図1は、本発明にかかるセメントキルン燃焼ガス抽気ダスト処理システム(以下、「処理システム」と略称する)の第1の実施の形態を示すフローチャートであって、この処 理システム1は、セメントキルン2のキルン尻から図示しない最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部を抽気するプローブ3と、このプローブ3で抽気した燃焼ガスに含まれるダストの粗粉を分離する分級機としてのサイクロン5と、サイクロン5から排出された微粉を含む抽気ガスを冷却する冷却器6と、冷却器6及びバッグフィルタ7で集塵されたダストを分級する第2の集塵機としての超微粉分級機8と、超微粉分級機8で分級された微粉を固液分離するための溶解槽11及び固液分離器12等で構成される。」
(1オ)「[0025]超微粉分級機8は、サイクロン5から冷却器6及びバッグフィルタ7を経て供給された平均粒径9μ m程度以下のダスト微粉を、さらに、平均粒径0.1μ m?5μ mの微粉 (鉛除去効率及び微粉のハンドリング性等を考慮すると、好ましくは、平均粒径1μ m ?3μ mの微粉)と、粗粉とに分離するために備えられ・・・」
(1カ)「[0028] 塩素含有率の高い微粉及びガスは、冷却器6によって冷却された後、バッグフィルタ7によって集塵される。バッグフィルタ7で集塵されたダスト、及び冷却器6から排出されたダストは、超微粉分級機8において分級され、平均粒径0.1μ m?5μ m程度の高鉛濃度の微粉がバッグフィルタ10によって回収される。一方、超微粉分級機8によって分級された低鉛濃度の粗粉は、粗粉タンク9に貯蔵され、車両等によってセメント粉砕工程に輸送される。尚、粗粉タンク9に貯蔵された粗粉を水洗脱塩した後、セメント原料として利用することもできる。」
(1キ)「[0029]バッグフィルタ10によって集塵された高鉛濃度の微粉は、溶解槽11において水と混合されてスラリー化され、固液分離器12に供給される。固液分離器12において、スラリーは固液分離され、高濃度の鉛を含んだケークと、濾液としての塩水が得られる。高鉛濃度のケークは、山元に還元して再資源化することができる。塩水は、セメントミルへ添加するか、排水処理後に下水へ放流してもよく、塩回収工程で工業塩を回収してもよい。」
(1ク)[図1]は「本発明にかかる処理システムの第1の実施の形態を示すフローチャート」([0035])であり、参考のため、本願に添付された「本発明にかかるセメントキルンダスト処理装置の一実施の形態を示す概略図」(【0017】)である【図1】もあわせて以下に示す。

<本願【図1】>



<刊行物1[図1]>



(1ケ)[図3]は「本発明による鉛除去効果を説明するためのグラフであって、超微粉分級機に供給されたセメントキルン燃焼ガス抽気ダスト(原粉)と、超微粉分級機によって分級された粗粉及び微粉中の鉛及び塩化カリウムの含有率を比較したグラフ」([0035])であり、以下に示す。

<刊行物1[図3]>



(2)刊行物2には次の記載がある。
(2ア)「【0001】本発明は、セメントキルンの排ガスの一部を抽気する塩素バイパス技術で得られる微粉末等のカルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末の処理方法に関し、より詳しくは、カルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末に含まれているカルシウム成分及び鉛成分を分別して回収するための処理方法に関する。」
(2イ)「【0002】・・・セメントキルンの排ガスの一部を抽気した後、この抽気した高温の排ガス中の粗粉(塩素含有量が少ない固体分)をサイクロンで捕集し、セメント原料としてセメントキルンに戻す一方、サイクロンを通過した排ガスを冷却して生じる微粉末(塩素含有量が多い固体分)を、バグフィルター等の集塵機で捕集して、塩素成分を除去し、こうして浄化された排ガスを大気中に排出するものである。捕集した微粉末は、カルシウム成分、カリウム成分、鉛成分、塩素成分等を含む。なお、この微粉末は、カリウム成分、鉛成分、塩素成分等を除去すれば、カルシウム成分を主成分とするセメント原料として、セメントキルンに戻すことができる。
【0003】一方、塩素成分、カルシウム成分、鉛成分等を含むダストに対して、浮遊選鉱を行い、カルシウム成分、鉛成分等を分別して回収する技術が知られている。・・・」
(2ウ)「【0004】上述の塩素バイパス技術で得られる微粉末は、カルシウム成分、カリウム成分、鉛成分、塩素成分等を含むものである。このうち、カリウム成分、塩素成分等は、水洗処理後の濾液中の成分として回収することができる。・・・
【0005】・・・カルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末と、水と、硫酸を混合して、pHを1?4に調整し、固体分である硫酸カルシウムを含むスラリーを得た後、このスラリーに硫化剤を加えて、固体分である硫化鉛をさらに生成させ、次いで、得られた硫酸カルシウム及び硫化鉛を含むスラリーに対し、捕収剤及び起泡剤を加えて、浮遊選鉱を行なえば、沈鉱である硫酸カルシウムと、浮鉱である硫化鉛を得ることができ、カルシウム成分及び鉛成分を容易に分別回収しうる・・・」
(2エ)【図1】は「本発明のカルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末の処理方法の一例を示すフロー図」(【0021】)であり、以下に示す。

<刊行物2【図1】>



2.引用発明の認定
刊行物1に記載された発明を認定する。
i)記載事項(1ア)(1イ)から、請求の範囲[2]の発明を独立形式で記載して、整理すると、刊行物1には次の技術に関する発明が記載されている。
「セメントキルンのキルン尻から最下段のサイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気するプローブと、
該プローブで抽気した燃焼ガスに含まれるダストの粗粉を分離する第1の分級機と、
該第1の分級機から排出された微粉を含む抽気ガスを集塵する集塵機と、 該集塵機から排出されたダストを微粉と粗粉とに分離する第2の分級機と、
前記第2の分級機によって分離された微粉を集塵する乾式集塵機と、
該乾式集塵機で集塵されたダストを水に溶解させる溶解槽と、
該溶解槽から排出されたスラリーを固液分離する固液分離機とを備える、セメントキルン抽気ガス処理システム。」
ii)同(1オ)から、「超微粉分級機8」は、「サイクロン5から冷却器6及びバッグフィルタ7を経て供給された平均粒径9μ m程度以下のダスト微粉」を、さらに、「好ましくは、平均粒径1μ m ?3μ mの微粉」と、「粗粉とに分離するために備えられ」るものである。
そして、同(1ク)の[図1]から、「バッグフィルタ7」、「超微粉分級機8」は、それぞれ上記「システム」の「集塵機」、「第2の分級機」にあたることは明らかだから、「第2の分級機」は「集塵機から排出されたダスト」を「平均粒径1μ m ?3μ mの微粉」と「粗粉」とに「分離する」ものいえる。
iii)以上から、本願発明の記載に則して整理すると、刊行物1には、 「セメントキルンのキルン尻から最下段のサイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気するプローブと、
該プローブで抽気した燃焼ガスに含まれるダストの粗粉を分離する第1の分級機と、
該第1の分級機から排出された微粉を含む抽気ガスを集塵する集塵機と、 該集塵機から排出されたダストを平均粒径1μ m ?3μ mの微粉と粗粉とに分離する第2の分級機と、
前記第2の分級機によって分離された微粉を集塵する乾式集塵機と、
該乾式集塵機で集塵されたダストを水に溶解させる溶解槽と、
該溶解槽から排出されたスラリーを固液分離する固液分離機とを備える、セメントキルン抽気ガス処理システム。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3.本願発明と引用発明との対比
i)本願の発明の詳細な説明の【0018】には「セメントキルン2のキルン尻から図示しない最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部を抽気するプローブ3」と記載され、本願発明の「セメントキルンから排出された燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気するプローブ」はそのような態様を含むから、引用発明の「セメントキルンのキルン尻から最下段のサイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気するプローブ」は、本願発明の「セメントキルンから排出された燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気するプローブ」に包含されるといえる。
ii)引用発明の「該集塵機から排出されたダストを平均粒径1μ m ?3μ mの微粉と粗粉とに分離する第2の分級機」は、本願発明の「該集塵機から排出されたダストを平均粒径が0.5μm以上5μm以下の微粉と、粗粉とに分離する第2の分級機」に相当する。
iii)引用発明の「セメントキルン抽気ガス処理システム」は、「抽気した燃焼ガスに含まれるダスト」を処理するものであるから、本願発明の「セメントキルンダスト処理装置」に相当する。
iv)本願の発明の詳細な説明の【0029】には「超微粉分級機8において分級され、平均粒径0.5μm?5μm程度の高鉛濃度の微粉がバグフィルタ10によって回収され」ることが記載されるのに対して、刊行物1の記載事項(1カ)にも、「超微粉分級機8において分級され」た「高鉛濃度の微粉」が「バグフィルタ10によって回収される」ことが示されている。
すると、同(1ク)の刊行物1の[図1]から「バッグフィルタ10」は引用発明の「第2の分級機によって分離された微粉を集塵する乾式集塵機」にあたるものだから、上記のとおり「バグフィルタ10」を有する態様を含む本願発明は、引用発明の「第2の分級機によって分離された微粉を集塵する乾式集塵機」を有する態様を包含するものといえ、斯かる点は実質的に両者の相違点とならない。
v)引用発明の「該乾式集塵機で集塵されたダストを水に溶解させる溶解槽と、該溶解槽から排出されたスラリーを固液分離する固液分離機とを備える」ことについて、「該乾式集塵機で集塵されたダスト」は「第2の分級機によって分離された微粉」であり、同(1キ)から、同「微粉」が「スラリー」化され「固液分離」により「高濃度の鉛を含んだケークと、濾液としての塩水」が得られることで「再資源化」されるものだから、「ケーク」と「塩水」は再資源化されたものとして回収されるものといえる。
よって、本願発明の「該第2の分級機で分級された微粉から、浮遊選鉱法により回収対象物を回収する浮選機とを備える」と、引用発明の「該乾式集塵機で集塵されたダストを水に溶解させる溶解槽と、該溶解槽から排出されたスラリーを固液分離する固液分離機とを備える」とは、「第2の分級機で分級された微粉」に後工程を加える装置により「回収対象物を回収する」という点で一致する。
vi)以上から、本願発明と引用発明とは、
「セメントキルンから排出された燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気するプローブと、
該プローブで抽気した燃焼ガスに含まれるダストの粗粉を分離する第1の分級機と、
該第1の分級機から排出された微粉を含む抽気ガスを集塵する集塵機と、
該集塵機から排出されたダストを平均粒径が0.5μm以上5μm以下の微粉と、粗粉とに分離する第2の分級機と、を備え、
第2の分級機で分級された微粉に後工程を加える装置により回収対象物を回収する、
セメントキルンダスト処理装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>「回収対象物を回収する」ために「第2の分級機で分級された微粉」に「後工程を加える装置」について、本願発明では「浮遊選鉱法により回収対象物を回収する浮選機とを備える」のに対して、引用発明では「乾式集塵機」に集塵された「第2の分級機によって分級された微粉」を「水に溶解させる溶解槽と、該溶解槽から排出されたスラリーを固液分離する固液分離機とを備える」ものである点。

4.相違点の検討
(1)刊行物2に記載された技術手段
i)刊行物2には、記載事項(2ア)から、「セメントキルンの排ガスの一部を抽気」して得られる「微粉末に含まれているカルシウム成分及び鉛成分を分別して回収するための処理方法」に関する技術手段が示されているといえる。
ii)同技術手段について、同(2イ)から、「セメントキルンの排ガスの一部」が「抽気」されて「サイクロン」で「粗粉(塩素含有量が少ない固体分)」と「微粉末(塩素含有量が多い固体分)」に分離され、「バグフィルター等の集塵機」で「微粉末」は「捕集」され、「捕集」された「微粉末は、カルシウム成分、カリウム成分、鉛成分、塩素成分等」を含むので、「浮遊選鉱を行い、カルシウム成分、鉛成分等を分別して回収する」ものといえる。
iii)ここで、(2ウ)の【0004】から、「カリウム成分、塩素成分等は、水洗処理後の濾液中の成分として回収」されることが理解されるので、上記「微粉末」で問題となるのは「カルシウム成分、鉛成分」である。
すると、刊行物2に記載された技術手段においては、「カルシウム成分、鉛成分」の処理について、(2ウ)の【0005】から、「カルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末と、水と、硫酸を混合して、pHを1?4に調整し、固体分である硫酸カルシウムを含むスラリーを得た後、このスラリーに硫化剤を加えて、固体分である硫化鉛をさらに生成させ、次いで、得られた硫酸カルシウム及び硫化鉛を含むスラリーに対し、捕収剤及び起泡剤を加えて、浮遊選鉱を行なえば、沈鉱である硫酸カルシウムと、浮鉱である硫化鉛を得ることができ、カルシウム成分及び鉛成分を容易に分別回収しうる」とする処理を行うものといえ、このことは同(2エ)の【図1】に開示される「微粉末の処理方法の一例を示すフロー図」からも理解される。
iv)以上から、刊行物2に記載された技術手段は、「セメントキルンの排ガスの一部」が「抽気」されて「サイクロン」で「粗粉」と「微粉末」に分離され、当該「微粉末」を「バグフィルター等の集塵機」で捕集した当該「微粉末」について、「カルシウム成分、鉛成分」に作用して、当該「微粉末」から、沈鉱である硫酸カルシウムと、浮鉱である硫化鉛を得る「浮遊選鉱」処理を行う装置であるといえる。
(2)引用発明への刊行物2に記載された技術手段の適用
i)引用発明では、刊行物1の記載事項(1キ)と上記「3.v)」から、「固液分離」された「スラリー」は「高濃度の鉛を含んだケーク」と「塩水」に分離されるものである。
そして、「セメントキルンの排ガスの一部を抽気した後」に「粗粉」を分離除去した「微粉末」は「カルシウム成分、カリウム成分、鉛成分、塩素成分等を含む」ものであるという刊行物2の記載事項(2イ)に記載された技術常識に照らせば、引用発明の「固液分離」された「スラリー」からの上記「高濃度の鉛を含んだケーク」は、上記「微粉末」がさらに「第2の分級機によって分離された微粉」からなるが、「セメントキルンの排ガスの一部を抽気した」ガスからのものであるから、さらに「カルシウム成分」も含むものといえる。
ii)よって、引用発明の「第2の分級機によって分離された微粉」も、刊行物2に記載された技術手段における「サイクロン」で分離されただけの「微粉末」も、「カルシウム成分、鉛成分」を含むものといえる。
iii)他方で、同(1キ)には「高鉛濃度のケークは、山元に還元して再資源化することができる。塩水は、セメントミルへ添加するか、排水処理後に下水へ放流してもよく、塩回収工程で工業塩を回収してもよい・・・」と記載され、引用発明は「ケーク」等の「再資源化」を考慮するから、当業者であれば、引用発明において「ケーク」に含まれる物質を可及的に分別純化して、それぞれ単一物を含むもの(例えば、鉛のみ含むもの、カルシウムのみ含むもの)にして回収することを当然に希求するものといえる。
iv)そうすると、引用発明の「微粉」及び刊行物2に示される技術手段の「微粉末」のどちらにも「カルシウム成分、鉛成分」が含まれているものであり、刊行物2に示される技術手段は、上記のように、「カルシウム成分、鉛成分」に作用して、沈鉱である硫酸カルシウムと、浮鉱である硫化鉛を得ることのできる「浮遊選鉱」処理を行う公知の技術手段である。
よって、引用発明において、カルシウム成分と鉛成分を分別回収して再資源化するために、引用発明の「水に溶解させる溶解槽と、該溶解槽から排出されたスラリーを固液分離する固液分離機」に代えて、刊行物2に示される「カルシウム成分、鉛成分」に作用して沈鉱である硫酸カルシウムと浮鉱である硫化鉛を得る「浮遊選鉱」処理を行う技術手段を採用して、「第2の分級機によって分離された微粉」を「浮遊選鉱」処理を行う装置で処理して、カルシウム成分と鉛成分を分別回収して再資源化できるようにすることに格別の困難性は見いだせない。
よって、上記相違点に係る本願発明の特定事項に想到することは、当業者が容易に成し得たことである。

5.請求人の主張について
i)審判請求人は、請求書において、「本願発明は、2段階の分級を経て第2の分級機で得られた微粉のみを浮遊選鉱法の処理対象とすることによって、第1の分級機で回収されたダストの全部を処理対象とする場合に比較して処理対象物の量の低減による薬剤の添加量の低減のみならず、処理対象物の構成成分比率を変化させ、具体的には2段階の分級によって得られた微粉におけるカルシウム分の成分比率を小さくし、カルシウム分を取り除くための硫酸等の薬剤の添加量を大幅に低減すると共に、浮遊選鉱に用いる薬剤の添加量を低減したものです。すなわち、本願発明の上記有利な効果は、第1及び第2の分級機(2段の分級機)と浮選機とを組み合わせたことによって生じる相乗効果であり、格別のものであると思料します。」と主張する。
ii)当該主張について検討する。
引用発明も、「第1の分級機」での処理後に、「第2の分級機によって分離された微粉」が、その後の処理で、「溶解槽」で「水に溶解」され「スラリー」とされてから「固液分離」されるものであり、「2段階の分級を経て第2の分級機で得られた微粉のみ」を処理するものである。
そして、刊行物1の記載事項(1ケ)には、「超微粉分級機に供給されたセメントキルン燃焼ガス抽気ダスト(原粉)と、超微粉分級機によって分級された粗粉及び微粉中の鉛及び塩化カリウムの含有率を比較したグラフ」が示され、「超微粉分級機」は「第2の分級機」にあたる。
すると、同グラフによれば、「第2の分級機」により「原粉」は「粗粉」と「微粉」に分級され、その後の処理を受ける「微粉」は、「原粉」と比較して「その他」の成分が46.5%程度(原粉)から9.5%程度(微粉)に大きく減少していることが見てとれる。
ここで、例えば、刊行物2の記載事項(2イ)に記載されるように、「セメントキルンの排ガスの一部を抽気した後、この抽気した高温の排ガス中の粗粉(塩素含有量が少ない固体分)をサイクロンで捕集し、セメント原料としてセメントキルンに戻す一方、サイクロンを通過した排ガスを冷却して生じる微粉末(塩素含有量が多い固体分)」は、「カルシウム成分、カリウム成分、鉛成分、塩素成分等を含む」ものであり、これが上記「原粉」にあたるから、上記「その他」の成分には、「カリウム成分、塩素成分、鉛成分」を除く「カルシウム成分等を含む」ものといえる。
そして、それをさらに分級した引用発明の「第2の分級機によって分離された微粉」の「その他」の成分が上記のように大きく減少しているのだから、当該「微粉」では、原粉と比較して「カルシウム成分等」が大きく減少したものといえる。
そうであれば、引用発明のその後の処理において、刊行物2に示される「浮遊選鉱」に関する技術手段を用いた場合に、特に「カルシウム成分」を処理する薬剤である「硫酸」の使用量が、「第2の分級機」を用いずに「浮遊選鉱」を行った場合に比べて減少するであろうことは明らかである。
よって、引用発明に刊行物2に示される「浮遊選鉱」処理を行う技術手段を適用した場合に薬剤の使用量が減少するという効果の奏されることは十分に予測される範囲のことであり、当該効果は相乗効果というべきで格別のものであるとする請求人の上記主張は採用できない。

第5 むすび
以上から、本願発明は、刊行物1に記載された発明および刊行物2記載の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に記載された発明に言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-13 
結審通知日 2016-06-14 
審決日 2016-06-27 
出願番号 特願2013-27648(P2013-27648)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 相田 悟  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 中澤 登
永田 史泰
発明の名称 セメントキルンダスト処理装置及び処理方法  
代理人 中井 潤  

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