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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1317881
審判番号 不服2015-13904  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-23 
確定日 2016-08-12 
事件の表示 特願2011-110785「配向層用原版、位相差フィルムの製造方法、長尺状配向膜および長尺位相差フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月10日出願公開、特開2012-242512〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成23年5月17日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。

平成26年12月 4日付け:拒絶理由通知書(同年同月9日発送)
平成27年 1月27日提出:意見書
平成27年 1月27日提出:手続補正書
平成27年 6月 5日付け:拒絶査定(同年同月9日送達)
平成27年 7月23日提出:審判請求書
平成27年 7月23日提出:手続補正書(以下、この手続補正書による補正を「本件補正」という。)

第2 補正の却下の決定

[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
[1] 本件補正の内容

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1及び2を次のとおりに補正しようとする事項を含むものである。(なお、下線は、本件補正による補正箇所及び本件補正前の対応箇所を示す。)

<本件補正前>
「【請求項1】
表面に微細なライン状凹凸構造が形成されたロール基材を有し、
前記微細なライン状凹凸構造の形成方向が、前記ロール基材の回転方向に対して45°の方向であり、
前記微細なライン状凹凸構造は、前記ロール基材表面の全面に一定の方向で形成されていることを特徴とする配向層用原版。
【請求項2】
前記微細なライン状凹凸構造は、ストライプ状のライン状凹凸構造であり、前記ストライプ状のライン状凹凸構造の幅は、100?1000nmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の配向膜用原版。」

<本件補正後>
「【請求項1】
表面に微細なライン状凹凸構造が形成されたロール基材を有し、
前記微細なライン状凹凸構造が略一定方向にランダムに形成された微細なライン状凹凸構造であり、
前記微細なライン状凹凸構造の形成方向が、前記ロール基材の回転方向に対して略45°の方向であり、
前記微細なライン状凹凸構造は、前記ロール基材表面の全面に前記略一定方向で形成されていることを特徴とする配向層用原版。
【請求項2】
前記略一定方向にランダムに形成された凹凸構造の幅は、0.1?100nmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の配向膜用原版。」


[2] 補正の適否について

1 補正の内容
本件補正の補正事項は、平成27年 1月27日に提出された手続補正書により補正された本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載を、本願明細書の【0032】?【0037】の記載を根拠として補正するものであって、
請求項1において、
(1)「微細なライン状凹凸構造」に関して、「前記微細なライン状凹凸構造が略一定方向にランダムに形成された微細なライン状凹凸構造であ」るとの限定を加えると共に、

(2)「微細なライン状凹凸構造の形成方向」が、「ロール基材の回転方向に対して」本件補正前は「45°の方向」であったものを、「略45°の方向」と補正し、

(3)「微細なライン状凹凸構造」が、「ロール基材表面の全面に」、本件補正前は「一定の方向」で形成されていたものを、「前記略一定方向」で形成されていると補正するものである。

また、請求項2において、
(4)本件補正前の「前記微細なライン状凹凸構造は、ストライプ状のライン状凹凸構造であり、」との構成を削除し、

(5)「ライン状凹凸構造」の幅に関して、本件補正前に「前記ストライプ状のライン状凹凸構造」の幅であって、「100?1000nm」の範囲内とされていたものを、「前記略一定方向にランダムに形成された凹凸構造」の幅であって、「0.1?100nm」の範囲内と補正するものである。

2 補正の目的に関して
(1)上記請求項2に関する補正事項(4)及び(5)は、「微細なライン状凹凸構造」が、「ストライプ状」であったものを、「略一定方向にランダムに形成された凹凸構造」に補正するものであるから、「微細なライン状凹凸構造」の形状自体を変更するものである。
また、「ストライプ状のライン状凹凸構造」の幅が「100?1000nm」の範囲内としていたものを、「略一定方向にランダムに形成された凹凸構造」の幅が「0.1?100nm」の範囲内と補正するものであるから、補正の前後において形状を異ならせ、その異ならせた形状に合わせて、幅を変更したものであり、「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものではないことは明らかであり、他の各号の目的にも該当しない。
なお、本件補正は、本件補正前の請求項2を削除し、新たな発明特定事項を記載した請求項2を追加した補正とみることもできなくはないが、この場合において、本件補正前の請求項2の削除と新たな請求項2を増項する補正となる。
ところで、東京高裁平15年(行ケ)230号、知財高裁平17年(行ケ)10192号の判決によれば、「特許請求の範囲の減縮」(2号)の規定は、請求項の発明特定事項を限定して、これを減縮補正することによって、当該請求項がそのままその補正後の請求項として維持されるという態様による補正を定めたものとみるのが相当であって、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならないと解すべきであるとされている。
上述の増項補正の目的要件についてみると、新たな請求項2を追加する補正は、特許法17条の2第5項の各目的である「請求項の削除」(1号)、「誤記の訂正」(3号)、「明りょうでない記載の釈明」(4号)に該当しないことは明らかである。
また、当該補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものではないから、「特許請求の範囲の減縮」(2号)にも該当しない。
したがって、上記補正事項(4)及び(5)は、いずれも請求人が主張する、限定的減縮および請求項の削除を目的とするものに該当しないことは明らかである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(2)上記(1)で検討したように、本件補正は却下すべきものであるが、請求項1の補正についても以下検討する。

ア 補正事項(2)及び(3)について
(ア)上記補正事項(2)及び(3)は、方向に関する限定について何れも「略」を付加する補正であるが、ここで、本願明細書における「略」の技術的意義について、微細凹凸形状に関する記載を参照すると、以下のとおり。
a 「一定方向」に関する「略」について
下記【0031】、【0032】には、「一定方向に形成される微細凹凸形状」が「ライン状凹凸構造」であることが説明されている。
また、下記【0033】?【0035】には、「微小なライン状凹凸構造」として、「微小なライン状凹凸構造が略一定方向にランダムに形成された態様」と、「ストライプ状のライン状凹凸構造に形成された態様」の2種類を挙げていることから、「略一定方向」との特定がない「ストライプ状」とする態様は「略」ではない「一定方向」に形成されているものと認められる。
したがって、「微細凹凸形状」として「一定方向に形成される」「ライン状凹凸構造」が、「微小なライン状凹凸構造が略一定方向にランダムに形成された態様」と、「略一定方向ではない一定方向」として「ストライプ状のライン状凹凸構造に形成された態様」の2種類があることとなり、これは、「一定方向」との用語の意味として、広義には、「略一定方向」と「略一定方向ではない一定方向」の両者を含んだものであり、具体的な構造を示す狭義の意味としては、「略一定方向ではない一定方向」のみを意味しているものと理解できる。

<<本願明細書の記載事項>>
「【0031】
(1)微細凹凸形状
本発明における微細凹凸形状は一定方向に形成されるものであり、このような微細凹凸形状が転写されることにより、棒状化合物を一定方向に配列させることが可能な配向層を形成することができるものである。
【0032】
本発明における微細凹凸形状は、配向層に転写された際に棒状化合物を一定方向に配列させることができるものであれば特に限定されるものではない。ここで、棒状化合物はライン状凹凸構造が形成された表面においては、当該ライン状凹凸構造の長手方向に平行に配列性質を有するため、本発明における微細凹凸形状は、ライン状凹凸構造からなるものであることが好ましい。このようなライン状凹凸構造によれば上記棒状化合物を配列される方向を予め決定することができるからである。」
「【0033】
本発明におけるライン状凹凸構造が形成される態様としては、微小なライン状凹凸構造が略一定方向にランダムに形成された態様であってもよく、あるいはライン状凹凸構造がストライプ状に形成された態様であってもよい。
【0034】
ここで、微小なライン状凹凸構造が略一定方向にランダムに形成された態様とは、例えば、表面にラビング処理がなされた場合等に形成されるような微小な傷のようなライン状凹凸構造が、略一定方向に形成された態様を意味するものである。・・(略)・・
一方、ライン状凹凸構造がストライプ状に形成された態様とは、壁状に形成された凸部が一定の間隔でストライプ状に形成された態様を意味するものである。・・(略)・・表面にラビング処理がなされた場合に形成されるような微小な傷のような凹凸形状はこれに含まれないものである。
【0035】
本発明においては、なかでも、微細凹凸形状が上記ストライプ状のライン状凹凸構造であることが好ましい。微小なライン状凹凸構造が略一定方向にランダムに形成された態様と、ストライプ状のライン状凹凸構造に形成された態様とでは、後者の方が棒状化合物に対する配向規制力を強く発現することができるからである。」

してみると、「一定方向」における「略」を付加する補正は、補正前の「微小なライン状凹凸構造」が、「微小なライン状凹凸構造が略一定方向にランダムに形成された態様」と、「略一定方向ではない一定方向」として「ストライプ状のライン状凹凸構造に形成された態様」との両者を含むのか、後者のみを含むのか不明瞭であった記載を「微小なライン状凹凸構造が略一定方向にランダムに形成された態様」とする、明りょうでない記載の釈明を目的とする補正と理解することができるが、拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてする補正には該当しない。

なお、「一定方向」との構成自体は、出願当初の特許請求の範囲において特定されておらず、本件補正前の補正によって、請求項1に「前記ロール基材表面の全面に一定の方向で形成されている」ことを限定する形で特定されたものである。
そして、その際に、「前記微細なライン状凹凸構造は、ストライプ状のライン状凹凸構造であ」るとの新たな請求項2が追加される補正も同時に行われていることから、当該請求項1の補正は、「微小なライン状凹凸構造が略一定方向にランダムに形成された態様」を除くことを意図しているように見えなくもない。
本件補正前の補正が、仮にそのような事を意図した補正であったとした場合、本件補正によって、上記除かれていた「微小なライン状凹凸構造が略一定方向にランダムに形成された態様」が加わることになり、当該補正は、限定的減縮及びその他の目的の何れにも該当しないものである。

b 「45°」における「略」について
本願明細書には、審判請求書において、主張している補正の根拠箇所である「本願明細書の(0032)-(0037)段落であります。」を含め明細書全体において「略45°」との記載そのものは無い。
一方、本願明細書の【0039】には、ストライプ状或いはランダムに関する特定がなされずに、「微細凹凸形状の形成方向として」、「ロール基材の回転方向に対して」、「45°の方向」、「45°±3°の範囲内」、「45°±2°程度の範囲内」、及び、「45°±1°程度の範囲内」であることが好ましい旨説明されている。
「45°」を「略45°」とすることで、「略」自体がどの程度の範囲を含むのかは明確ではないが、少なくとも【0039】に記載されていた各範囲を含むことを明確にしようとすることを目的としている補正であると理解することができるが、拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてする補正には該当しない。
また、「45°」を「略45°」とする補正は、限定的減縮及びその他の目的の何れにも該当しないものである。

c 補正事項(2)及び(3)についてのまとめ

本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

イ 請求項1の補正について、審判請求人は、特許請求の範囲の減縮を目的としていると主張している。
そこで、一応、本件補正によって補正された請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反していないか(特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否か)についても、以下検討する。

3 独立特許要件違反

(1)引用例及びその記載事項
本件出願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された刊行物である、特開2010-152296号公報(【公開日】平成22年7月8日、【発明の名称】位相差板の製造方法、以下「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の方向に延在する複数の溝を表面に有する基板と、
前記基板の表面に接して設けられ、前記複数の溝の延在方向に沿って配向すると共に重合した液晶材料を含む位相差層と
を備えた位相差板。
【請求項2】
・・・(中略)・・・
【請求項6】
基板表面に、特定の方向に延在する複数の溝を形成する工程と、
前記複数の溝を形成した基板の表面に、重合性を有する液晶材料を塗布する工程と、
前記液晶材料を重合させる工程と
を含む位相差板の製造方法。
【請求項7】
前記複数の溝は、第1の方向に延在した溝を含む第1の溝領域と、前記第1の方向に直交する第2の方向に延在した溝を含む第2の溝領域とを有し、
前記第1および第2の溝領域は、それぞれストライプ状であると共に交互に配置されている
請求項6に記載の位相差板の製造方法。
【請求項8】
前記基板は、プラスチック材料により構成されている
請求項7に記載の位相差板の製造方法。
【請求項9】
型を用いた転写により、前記複数の溝を前記基板の表面に一括形成する
請求項8に記載の位相差板の製造方法。
【請求項10】
・・・(中略)・・・
【請求項14】
前記型は、その表面を固定砥粒または遊離砥粒で研磨することにより、前記複数の溝の反転パターンが形成されたものである
請求項9に記載の位相差板の製造方法。」


イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶材料を用いた位相差板およびその製造方法、並びにこのような位相差板を用いた表示装置に関する。」

ウ 「【背景技術】
【0002】
近年、3次元表示が可能なディスプレイの開発が進んでいる。3次元表示方式としては、例えば、右眼用の画像と左眼用の画像とをそれぞれディスプレイの画面に表示し、これを偏光めがねをかけた状態で観察する方式がある(例えば、特許文献1参照)。この方式は、2次元表示が可能なディスプレイ、例えばブラウン管、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイの前面に、パターニングされた位相差板を配置することで実現される。このような位相差板では、左右の眼にそれぞれ入射する光の偏光状態を制御するために、リターデンションや光学軸をディスプレイの画素レベルでパターニングすることが必要となる。
【0003】
例えば、特許文献1,2では、液晶材料や位相差材料を、フォトレジストなどを用いて部分的にパターニングすることにより、上記のような位相差板を作製する手法が開示されている。ところが、このような手法では、プロセスステップ数が多く、低コストで製造しにくいという問題があった。そこで、特許文献3には、光配向膜を用いてパターニングを行うことにより位相差板を作製する手法が開示されている。具体的には、基板上に光配向膜を形成したのち、この光配向膜を、偏光紫外線を用いてパターニングする。こののち、パターニングした光配向膜上に、重合性を有する液晶材料(以下、液晶性モノマーという)を塗布し、液晶分子を所望の方向に配向させる。こののち、紫外線を照射して液晶性モノマーを重合させることにより、位相差板を作製する。また、液晶ディスプレイにおいては、ポリイミド配向膜にラビング処理を施すことによりパターニングを行う手法がよく用いられている。」

エ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献3の光配向膜を用いる手法や、ポリイミド配向膜にラビング処理を施す手法では、配向膜において光吸収や色づきが生じて透過率が低下し、利用効率が低下してしまうという問題があった。また、光配向膜による手法では、パターニングの際に偏光紫外線を用いて部分照射を行う必要があるため、プロセスステップ数が多くなるという問題があった。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、簡易な工程で製造することができると共に、光利用効率の低下を抑制することが可能な位相差板およびその製造方法並びに表示装置を提供することにある。」

オ 「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の位相差板は、・・・(中略)・・・
【0010】
本発明の位相差板の製造方法は、基板の表面に、特定の方向に延在する複数の溝を形成する工程と、複数の溝を形成した基板の表面に、重合性を有する液晶材料を塗布する工程と、液晶材料を重合させる工程とを含むものである。
【0011】
本発明の位相差板の製造方法では、複数の溝を形成した基板の表面に、重合性を有する液晶材料を塗布することにより、液晶分子は、溝の形状により溝の延在方向に基づいて配向する。その後、上記液晶材料を重合させることにより、液晶分子の配向状態が固定される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の位相差板および位相差板の製造方法によれば、複数の溝を有する基板表面に接して位相差層を設け、すなわち光配向膜やラビング用の配向膜を用いることなく、基板上の溝によって重合性液晶材料を配向させている。これにより、上記のような配向膜を用いる場合に比べ、基板と位相差層との界面付近における光損失を低減させることができる。よって、簡易な工程で製造できると共に、光利用効率の低下を抑制することが可能となる。また、本発明の表示装置によれば、上記位相差板を、表示セルの光源側もしくは表示側に設けるようにしたので、位相差板を例えば偏光めがねを用いた立体視用の位相差板や視野角補償フィルムとして用いる場合に、明るい表示を行うことが可能となる。」

カ 「【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。

1.実施の形態(位相差領域の光学軸がストライプ方向と+45°,-45°をなす例)
・・・(中略)・・・
6.変形例5(位相差領域の光学軸が基板面内の一方向にのみ形成されている例)
7.変形例6(転写用型の溝を、端面に研削加工痕を有する金属薄板を重ね合わせることにより形成する例)
8.変形例7(転写用型の溝を、傾けて回転させた砥石による加工により形成する例)
・・・(中略)・・・
【0015】
[位相差板10の構成]
図1(A)は、本発明の一実施の形態に係る位相差板10の断面構成の一例を表すものである。図1(B)は、図1(A)の基板11を表面側からみたものである。位相差板10では、基板11の表面に溝領域11A,11Bがパターニングされており、この基板11の表面に接して位相差層12が形成されている。
【0016】
基板11は、例えばプラスチックなどの熱可塑性を有する材料、具体的には、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレンなどから構成されている。また、位相差板10を、後述の偏光めがね方式による3次元表示用に用いる場合には、基板11の位相差はできるだけ小さい方が好ましいので、非晶質シクロオレフィンポリマーや脂環式アクリル樹脂、ノルボルネン系樹脂から構成されることが好ましい。基板11の厚みは、例えば30μm?500μmである。本実施の形態では、従来のように配向膜を用いて液晶分子を配向させる場合と異なり、高温での加熱処理を必要としないため、ガラス材料などに比べて、加工し易く、かつ安価なプラスチック材料を用いることができる。
【0017】
基板11は、例えば単層構造であってもよいし、多層構造であってもよい。基板11が多層構造となっている場合には、基板11は、例えば、図2に示したように、基材31の表面に樹脂層32が形成された2層構造となっている。ここで、樹脂層32は、上記特許文献3の光配向膜や、ポリイミド配向膜とは異なっており、樹脂層32において光吸収や色づきはほとんど生じない。なお、図2には、基板11の最表層に形成された樹脂層32に、上述した溝領域11A,11Bがパターニングされている場合が例示されている。
【0018】
溝領域11A,11Bは、基板11の表面において、例えばストライプ状に、交互に配列している。これらのストライプ幅は、例えば表示装置(後述)における画素ピッチと同等の幅となっている。このうち、溝領域11Aは、複数の溝111aが配列したものであり、これら複数の溝111aは、互いに同一の方向d1に沿って延在している。溝領域11Bは、複数の溝111bが配列したものであり、これら複数の溝111bが互いに同一の方向d2に沿って延在している。また、方向d1,d2は、互いに直交している。但し、本実施の形態では、方向d1,d2は、溝領域11A,11Bのストライプ方向Sに対してそれぞれ、-45°,+45°の角度をなしている。
【0019】
位相差層12は、ストライプ状の位相差領域12a,12bが交互に配列して構成されたものである。これらの位相差領域12a,12bは、上記溝領域11A,11Bのそれぞれに対向して設けられ、互いに位相差特性が異なっている。具体的には、位相差領域12aでは、溝領域11Aにおける溝111aの延在方向d1を光学軸とし、位相差領域12bでは、溝領域11Bにおける溝111bの延在方向d2を光学軸として、それぞれ所定のリタデーション値が設定されている。本実施の形態では、位相差領域12a,12bは、光学軸方向が異なり、リタデーションの絶対値は互いに等しくなっている。」

キ 「【0025】
[位相差板10の製造方法]
次いで、上記位相差板10の製造方法について説明する。最初に、熱転写法により基板11を製造する場合について説明し、続いて、いわゆる2P成型法(Photo Polymerization:光硬化を利用した成型法)により基板11を製造する場合について説明する。その後、これらの方法により製造された基板11を利用して位相差板10を製造する方法について説明する。
【0026】
図5は、熱転写法により基板11を製造する過程を示したものである。図5に示したように、基板11の表面に溝領域11A,11Bをパターニングする。このときの基板11は、単層構造となっていてもよいし、多層構造(例えば、基材の表面に樹脂層が形成された2層構造)となっていてもよい。このとき、例えば、溝領域11A,11Bの反転パターンが形成された型ロール112を用いた転写により、溝領域11A,11Bを一括形成する。すなわち、上述した材料よりなる基板11をガラス転移温度付近まで加熱し、この加熱した基板11の表面に型ロール112を押し当てたのち、冷却、離型することにより、基板11上の全面に溝領域11A,11Bを形成する。これにより、図6に示したように、基板11の表面に溝領域11A,11Bがストライプ状に交互に形成される。
【0027】
上記型ロール112の材料としては、例えば、NiP、銅(Cu)およびステンレスなどの金属材料や、石英、シリコン、炭化ケイ素、サファイア、ダイヤモンドなどを用いることができる。型ロール112は、このような材料よりなる基材の表面に、例えばバイト切削や各種リソグラフィ法などを用いて反転パターンを形成したのち、この基材をロールに巻き付けることにより形成する。なお、バイト切削の場合には、型ロール112の材料としてはNiPを用いることが好ましい。また、転写用の型としては、本実施の形態のようなロール状の型ロール112を用いてもよいが、平板状の型を用いるようにしてもよい。但し、ロール状の型を用いた方が、量産性を向上させることができる。
【0028】
図7は、2P成型法により基板11を製造する装置の一例を表したものである。2P成型法では、例えば、基材上に紫外線や電子線で硬化する樹脂材料を塗布して樹脂層を形成し、形成した樹脂層の上から溝領域の反転パターンを有する型を押し当てる。この後、紫外線や電子線などのエネルギー線を照射して樹脂層を硬化させることにより、型のパターンを樹脂層の表面に転写するようにしている。以下に、図7に記載の製造装置の構成と、この製造装置を用いた基板11の製造方法とについて説明する。」

ク 「【0046】
[位相差板10の製造方法の作用]
また、位相差板10の製造方法では、溝領域11A,11Bを形成した基板11の表面に、液晶層12-1を塗布形成することにより、液晶性モノマーは、基板11の表面との界面における作用により、溝111a,111bの延在方向に沿って配向する。その後、上記液晶層12-1を重合させることにより、液晶分子の配向状態が固定される。」

ケ 「【0074】
(変形例5)
図20(A)は、変形例5に係る位相差板20の断面構造を表すものである。図20(B)は、基板17を表面側からみたものである。位相差板20では、基板17の表面に溝領域17Aがパターニングされており、この基板17の表面に接して位相差層18が形成されている。但し、本変形例では、基板17の全面に渡って溝領域17Aが形成されている。溝領域17Aは、一の方向d1に沿って延在する複数の溝170aによって構成されている。
【0075】
このように、基板17の表面において、溝領域は必ずしもストライプ状にパターニングされていなくともよい。上記実施の形態で説明した位相差板は、例えば3Dディスプレイの構成部品として好適であることは既に述べたが、本変形例の位相差板20は、上記のような3Dディスプレイに限らず、例えば通常の2次元表示用のディスプレイの視野角補償フィルム(例えば、後述のAプレート)として好適に用いることができる。」
【0076】
(変形例6)
図21は、変形例6に係る位相差板の製造方法において、各溝領域のパターンを基板へ転写する際に用いる型210の平面構成を模式的に表したものである。型210の表面には、例えばパターン領域210A,210Bが交互に配列している。パターン領域210A,210Bにはそれぞれ、位相差板10の溝領域11A,11Bの反転パターンとなる凹凸が形成されており、この凸(凹)部の延在方向d1,d2が互いに直交している。本変形例では、このような型210のパターン領域210A,210Bを、分割した型の組み合わせにより形成する。
【0077】
例えば、図22(A)に示したように、厚みがパターン領域210Aの幅と等しい複数の金属薄板310Aと、厚みがパターン領域210Bの幅と等しい複数の金属薄板310Bとを用意する。金属薄板310Aの一の端面には、パターン領域210Aが形成されており、金属薄板310Bの一の端面には、パターン領域210Bが形成されている。次に、図22(B)に示したように、金属薄板310Aと、金属薄板310Bとを、パターン領域210A,210Bが同一面内に配置されるように、交互に重ね合わせる。このようにして、本変形例に係る型210を作製することができる。
【0078】
金属薄板310A,310Bは、例えば、次にようにして作製することができる。まず、図23(A)に示したように、厚みがパターン領域210Aの幅と等しい複数の金属薄板311を互いに重ね合わせた積層体312を用意する。このとき、金属薄板311として、例えば、厚さ0.3mmのSUS薄板を用い、積層体312に含まれる金属薄板311の枚数を10枚とする。次に、図23(B)に示したように、積層体312を両側から鋼材320で挟み固定したのち、図23(B)の矢印Aに示したように、積層体312の一の側面に対して、筋目が+45°となるように、研削砥石を移動させて研削加工痕を入れる。さらに、図23(B)の矢印Bに示したように、積層体312の他の側面に対して、筋目が-45°となるように、研削砥石を移動させて研削加工痕を入れる。このとき研削砥石としてアルミナ系砥粒の#1000?#3000程度のものを使用する。研削加工後に、積層体312に含まれる複数の金属薄板311のうち偶数枚目のものはそのままで、奇数枚目のものだけを回転させる。具体的には、図23(C)に示したように、筋目が-45°となるように研削加工痕が入れられた面(パターン領域210A)と、筋目が45°となるように研削加工痕が入れられた面(パターン領域210B)とが互いに同一面内となるように奇数枚目の金属薄板311を回転させる。このようにして作製した型210を用いて、位相差板10を製造したところ、液晶分子120が研削筋目の方向に配向することを確認することができた。
【0079】
(変形例7)
変形例7に係る位相差板の製造方法では、図21に示した型210のパターン領域210A,210Bを、固定砥粒や遊離砥粒による加工時の加工痕を用いて形成する。
【0080】
例えば、図24に示したように、未加工の平板350を一の方向D1にスライドさせると共に、円板状の砥石340を、砥石340の法線と平行な軸AX2を中心として回転させる。このとき、図25(A)に示したように、砥石340を、中心軸AX2が方向D1に対して+45°で交差するように傾けて、砥石340の周面に形成された砥粒面を平板350の上面(のうち未研磨領域)に押し当てることにより、研削加工痕を入れる。また、図25(B)に示したように、砥石340を、中心軸AX2が方向D1に対して-45°で交差するように傾けて、砥石340の周面に形成された平板350の上面(のうち未研磨領域)に押し当てることにより、研削加工痕を入れる。このとき研削砥石としてアルミナ系砥粒の#1000?#3000程度のものを使用する。このようにして作製した型210を用いて、位相差板10を製造したところ、液晶分子120が研削筋目の方向に配向することを確認することができた。
【0081】
また、パターン領域210A,210Bをロールに形成するときには、例えば、以下のようにすればよい。すなわち、図26に示したように、未加工のロール330を、ロール330の中心軸AX1を中心として回転させると共に、円板状の砥石340を、砥石340の法線と平行な軸AX2を中心として回転させる。このとき、図27(A)に示したように、砥石340を、中心軸AX2が中心軸AX1に対して+45°で交差するように傾けて、砥石340の周面に形成された砥粒面をロール330の周面(のうち未研磨領域)に押し当てることにより、研削加工痕を入れる。また、図27(B)に示したように、砥石340を、中心軸AX2が中心軸AX1に対して-45°で交差するように傾けて、砥石340の周面に形成された砥粒面をロール330の周面(のうち未研磨領域)に押し当てることにより、研削加工痕を入れる。このとき砥石340の粒面の幅は、パターン領域210A、210Bの幅に対応する幅とすればよい。このようにして作製した型210を用いて、位相差板10を製造することができる。」

(2)引用発明

引用例には、
【0079】の(変形例7)に係る、図21に示した型210のパターン領域210A,210Bを、固定砥粒や遊離砥粒による加工時の加工痕を用いて形成する位相差板の製造方法であって、【0076】によれば、「型210の表面」に「パターン領域210A,210Bが交互に配列し」、「パターン領域210A,210Bにはそれぞれ、位相差板10の溝領域11A,11Bの反転パターンとなる凹凸が形成されており、この凸(凹)部の延在方向d1,d2が互いに直交している」ものに関し、
「パターン領域210A,210Bをロールに形成するとき」として、【0081】及び【0081】において参照される図26,図27(特に、図27(A)において、AX1とAX2のなす角度が+45°、(B)において、AX1とAX2のなす角度が+45°である点)によれば、パターン領域210A,210Bをロールに形成する際、未加工のロール(330)に対して、砥石(340)を、その法線と平行な回転軸である中心軸AX2をロール(330)の回転軸である中心軸AX1に対して+45°で交差するように傾けて、砥石(340)の周面に形成された砥粒面をロール(330)の周面のうち未研磨領域に押し当てることにより、研削加工痕を入れ、中心軸AX2が中心軸AX1に対して-45°で交差するように傾けて、砥石(340)の周面に形成された砥粒面をロール(330)の周面のうち未研磨領域に押し当てることにより、研削加工痕を入れて、パターン領域(210A,210B)をロールに形成することが記載されている。
また、このようにして作製したロール(330)からなる型(210)として、砥石(340)を、その法線と平行な回転軸である中心軸AX2をロール(330)の回転軸である中心軸AX1に対して+45°で交差するように傾けて、砥石(340)の周面に形成された砥粒面をロール(330)の周面のうち未研磨領域に押し当てて研削加工痕が入れられたパターン領域と、中心軸AX2が中心軸AX1に対して-45°で交差するように傾けて、砥石(340)の周面に形成された砥粒面をロール(330)の周面のうち未研磨領域に押し当てて研削加工痕を入れられたパターン領域が形成され、両パターン領域が交互に配列したロール(330)からなる型(210)が把握される。

さらに、【0076】によれば、型(210)は、そのパターン領域(210A,210B)にそれぞれ位相差板(10)の溝領域(11A,11B)の反転パターンとなる凹凸が形成されており、この凸(凹)部の延在方向d1,d2が互いに直交していて、各溝領域のパターンを基板へ転写する際に用いる型であり、【0017】,【0046】によれば、単層構造あるいは樹脂層との2層構造の基板の表面の溝領域11A,11Bの溝111a,111bはその延在方向に沿って液晶性モノマーを配向する。

してみると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「ロール(330)を、ロール(330)の中心軸AX1を中心として回転させると共に、円板状の砥石(340)を、砥石(340)の法線と平行な軸AX2を中心として回転させ、砥石(340)を、その法線と平行な回転軸である中心軸AX2をロール(330)の回転軸である中心軸AX1に対して+45°で交差するように傾けて、砥石(340)の周面に形成された砥粒面をロール(330)の周面のうち未研磨領域に押し当てて研削加工痕が入れられたパターン領域と、中心軸AX2が中心軸AX1に対して-45°で交差するように傾けて、砥石(340)の周面に形成された砥粒面をロール(330)の周面のうち未研磨領域に押し当てて研削加工痕が入れられたパターン領域が形成され、両パターン領域が交互に配列したロール(330)からなる、液晶性モノマーを配向する単層構造あるいは樹脂層との2層構造の基板に用いる型(210)」

(3)対比

本件補正後発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりとなる。

まず、引用発明は、「ロール(330)を、ロール(330)の中心軸AX1を中心として回転させると共に、円板状の砥石(340)を、砥石(340)の法線と平行な軸AX2を中心として回転させ」、「砥石(340)の周面に形成された砥粒面をロール(330)の周面のうち未研磨領域に押し当てて研削加工痕が入れられたパターン領域」を具備する。
ここで、引用発明の「ロール(330)」、「周面」、「研削加工痕」及び「入れられ」は、それぞれ、本件補正後発明の「ロール基材」、「表面」、「凹凸構造」及び「形成され」に相当する。また、砥石の砥粒分布がランダムであり、かつ、砥粒及びこれによる研削加工痕が微細なことは技術常識であるから、引用発明の「ロール(330)」及び「研削加工痕」は、それぞれ、本件補正後発明の「表面に微細なライン状凹凸構造が形成されたロール基材」及び「前記微細なライン状凹凸構造が略一定方向にランダムに形成された微細なライン状凹凸構造」の要件を満たす。

次に、引用発明は、「砥石(340)を、その法線と平行な回転軸である中心軸AX2をロール(330)の回転軸である中心軸AX1に対して+45°で交差するように傾けて、砥石(340)の周面に形成された砥粒面をロール(330)の周面のうち未研磨領域に押し当てて研削加工痕が入れられたパターン領域」を具備するから、引用発明において「研削加工痕」が入れられる方向は、ロール(330)の回転方向に対して略45°の方向となる。そして、引用発明は、本件補正後発明の「前記微細なライン状凹凸構造の形成方向が、前記ロール基材の回転方向に対して略45°の方向であり」の要件を満たす。

最後に、引用発明の「型(210)」は、「ロール(330)からなる、液晶性モノマーを配向する単層構造あるいは樹脂層との2層構造の基板に用いる型(210)」であるから、引用発明の「型(210)」は、本件補正後発明の「配向層用原版」に相当する。

(4)一致点

本件補正後発明と引用発明とは、以下の点において一致する。

「表面に微細なライン状凹凸構造が形成されたロール基材を有し、
前記微細なライン状凹凸構造が略一定方向にランダムに形成された微細なライン状凹凸構造であり、
前記微細なライン状凹凸構造の形成方向が、前記ロール基材の回転方向に対して略45°の方向である、配向層用原版。」

(5)相違点

本件補正後発明と引用発明とは、以下の点において相違する。

(相違点)
本件補正後発明において、「前記微細なライン状凹凸構造は,前記ロール基材表面の全面に前記略一定方向で形成されている」のに対して、引用発明においては、「前記ロール基材表面の全面に前記略一定方向で」は形成されていない点。

(6)判断

上記相違点について検討する。

引用例の【0074】,【0075】,図20(A)(変形例5に係る位相差板20の断面構造を表すもの),図20(B)(基板17を表面側からみたもの)には、(変形例5)(位相差領域の光学軸が基板面内の一方向にのみ形成されている例)に関し、「本変形例では、基板17の全面に渡って溝領域17Aが形成されている。溝領域17Aは、一の方向d1に沿って延在する複数の溝170aによって構成されている。」と記載されている。
そこで、図20(B)の位相差板20を製造する場合の「ロール(330)」の構成について検討すると、以下のとおりとなる。
すなわち、位相差板20の溝領域17Aは、「基板17の全面に渡って」「形成され」、かつ、「一の方向d1に沿って延在する複数の溝170aによって構成され」るから、引用発明の「ロール(330)」の研削加工痕についても、全て「略一定方向」とすることとなる。また、その際には、研削加工痕を「ロール(330)」の全面に設けるべきである(例えば、図5においても、型ロール112の全面に溝が設けられている。)。
以上のとおり引用発明の構成を変更し、本件補正後発明の構成に到ることは、引用例の【0074】,【0075】,図20の記載に接した当業者が、容易に発明できた事項である。

また、本件補正後発明が奏する作用・効果として、「微細状凹凸形状が一定方向に形成されていることにより、棒状化合物を一定方向に配列できる優れた配向規制力を有する配向層を有する配向膜を、低コストで製造することができ、また、製造時に粉塵や静電気の発生の少ないものとすることができる。」(本件出願の発明の詳細な説明の【0012】)、「長手方向に対して45°の方向に上記微細凹凸形状が転写された配向層を形成することができ、例えば、アクティブ方式の3次元表示装置に好適に用いられるものとすることができる。」(本件出願の発明の詳細な説明の【0012】)、「より簡単に微細なライン状凹凸構造を形成することができます。」(審判請求書「3.本願が特許されるべき理由」の「(2)本願発明の説明」の欄)という作用効果や、「本発明の原版のように回転方向に対して45°の方向に微細凹凸が形成されていることにより、このような原版を用いて形成された配向層も長手方向に対して45°の方向に棒状化合物を配列させることができるものとすることができる。また、このような配向層上に位相差層を形成した場合には、長手方向に対して45°の方向に配列した棒状化合物を含む位相差層とすることができる。このため、長手方向に対して、垂直方向に位相差フィルムを裁断することのみで、遅相軸方向が第1位相差領域の遅相軸方向と平行または直交の関係となるλ/4板とすることができ、ロスなく3次元表示装置に用いられるλ/4板を得ることができるのである。」(本件出願の発明の詳細な説明の【0028】)という作用効果が挙げられている。
しかしながら、引用発明においても、型による転写を用いることにより、「光配向膜やラビング用の配向膜を用いることなく、基板上の溝によって重合性液晶材料を配向させている」(引用例の【0012】)ことから、コスト、製造時の粉塵や静電気の発生、簡便性に関して、本件補正後発明と同様な作用・効果を当然に奏するはずである。
また、回転方向に対して45°の方向に微細凹凸が形成されていることによって、このような原版を用いて形成された配向層も長手方向に対して45°の方向に棒状化合物を配列させることができるものとすることができ、このため、長手方向に対して、垂直方向に位相差フィルムを裁断することのみで、ロスなくλ/4板を得ることができることも、当業者にとって自明、あるいは、予測可能なことである。
そうすると、本件補正後発明の上記作用・効果は格別のものとは認められない。

(7) 小括

本件補正後発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができない。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法第159条1項の規定において読み替えて準用する同法第53条1項の規定により却下すべきものである。


4 まとめ
上記2から、本件補正は、特許法17条の2第5項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
また、上記3から、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?7のうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年 1月27日に提出された手続補正書により補正されたその特許請求の範囲の請求項1に記載された、上記「第2[理由][1]<本件補正前>」に記載したとおりのものであり、再掲すると次のとおりのものである。
「【請求項1】
表面に微細なライン状凹凸構造が形成されたロール基材を有し、
前記微細なライン状凹凸構造の形成方向が、前記ロール基材の回転方向に対して45°の方向であり、
前記微細なライン状凹凸構造は、前記ロール基材表面の全面に一定の方向で形成されていることを特徴とする配向層用原版。」

2 引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2、記載事項及び引用発明は、上記「第2[理由]3(1)」及「同(2)」に記載されたとおりである。

3 対比・判断
(1)本願発明は、上記「第2[理由]3」で検討した本願補正後発明の「微細なライン状凹凸構造」に関して、
ア 「前記微細なライン状凹凸構造が略一定方向にランダムに形成された微細なライン状凹凸構造であ」るとの限定を削除し、
イ 「微細なライン状凹凸構造の形成方向」が、「ロール基材の回転方向に対して」「略45°の方向」とあるものを、「略」を削除して「45°の方向」とし、さらに、
ウ 「微細なライン状凹凸構造」が、「ロール基材表面の全面に」、「前記略一定方向」で形成されていたものを、「略」を削除し「一定の方向」で形成されたとするものでる。

(2)ア ここで、上記(1)イの点については、上記第2[理由][2]2(2)ア(ア)bで検討したように、明りょうでない記載の釈明を目的としたものであり、「略」が除かれても、【0039】に記載されていた各範囲を含むという点でその技術的意義に変わりはない場合(以下「広義の場合」という。)と、狭義には「45°」であることを意味している場合(以下「狭義の場合」という。)の何れかであるか不明瞭な記載となる。

イ 次に、上記(1)ウの点については、上記第2[理由][2]2(2)ア(ア)aで検討したように、「略」が除かれた場合、「一定方向」が「微小なライン状凹凸構造が略一定方向にランダムに形成された態様」と、「略一定方向ではない一定方向」として「ストライプ状のライン状凹凸構造に形成された態様」との両者を含む場合(以下「広義の場合」という。)と、「ストライプ状のライン状凹凸構造に形成された態様」のみを含む場合(以下「狭義の場合」という。)の何れかであるか不明瞭な記載となる。

(3)そうすると、上記(1)ア、(2)アで広義の場合及び(2)イで広義の場合には、本願発明の構成要件をすべて含み、これをより限定したものである本件補正後発明が、上記「第2[理由][2]3 独立特許要件違反」において検討したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献2に記載された引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)また、上記(1)ア、(2)アで狭義の場合及び(2)イで狭義の場合について検討すると、上記「第2[理由][2]3 独立特許要件違反」において検討した引用発明と本願発明とを対比すると、本願発明が、「微細なライン状凹凸構造は、前記ロール基材表面の全面に一定の方向で形成されている」(ストライプ状のライン状凹凸構造)であるのに対して、引用発明は、「・・・・・」(本件補正後発明の「微細なライン状凹凸構造が略一定方向にランダムに形成された微細なライン状凹凸構造」に相当)である点で相違しているが、拒絶査定において引用された引用文献2の【0084】、【0101】及び図28には以下の記載がある。
【0084】
例えば、図28(A)に示したように、周面の延在方向に対して45°で交差する方向に延在する複数の溝361が形成された円板状の型360を用意する。次に、図29に示したように、未加工のロール330を、ロール330の中心軸AX1を中心として回転させると共に、円板状の型360を、型360の法線と平行な軸AX3を中心として回転させる。このとき、軸AX3が中心軸AX1と平行となり、かつ型360とロール330の周速度が同じになるように、型360を回転させる。そして、型360をロール330の周面(のうち未研磨領域)に押し当てることにより、型360の溝361をロール330に圧力転写する。
【0101】
以上の手法にて作製した型の凹凸は、その周期構造のピッチが約700nm、深さが50?250nm程度であった。

【図28】


してみると、引用例の上記【0084】、【0101】の記載及び図28(A)から、引用例には、型の凹凸のその周期構造のピッチが約700nm、深さが50?250nm程度であり、当該凹凸がロール330の全面に対してその回転方向に対して45°であること、即ち、引用例に記載された上記型は、本願発明の「微細なライン状凹凸構造の形成方向が、前記ロール基材の回転方向に対して45°の方向であること」、及び、「微細なライン状凹凸構造は、前記ロール基材表面の全面に一定の方向で形成されていること」との構成を有していることは明らかである。
したがって、本願発明は、引用発明と同一であるか、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 結言
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないか、或いは、本願発明は、引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-10 
結審通知日 2016-06-14 
審決日 2016-06-29 
出願番号 特願2011-110785(P2011-110785)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 昌伸  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 樋口 信宏
河原 正
発明の名称 配向層用原版、位相差フィルムの製造方法、長尺状配向膜および長尺位相差フィルム  
代理人 山下 昭彦  

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