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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1317941
審判番号 不服2014-22548  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-05 
確定日 2016-08-10 
事件の表示 特願2012-526748「広げたUV透過曲線を有するカプセル材を利用する、太陽電池の分極のモジュールレベルの解決法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月 3日国際公開、WO2011/025575、平成25年 1月31日国内公表、特表2013-503478〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2010年(平成22年)6月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年 8月27日 (US)アメリカ合衆国、 2010年 6月18日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成25年12月11日付けで拒絶理由が通知され、平成26年1月23日付けで意見書及び補正書が提出され、同年5月29日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年6月27日付けで意見書が提出され、同年10月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月5日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同時に手続補正がなさ、平成27年9月9日付けで当審において拒絶理由が通知され、同年12月9日付けで意見書及び補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年12月9日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「通常動作時に太陽側を向く正面、および前記正面の反対側の背面を各々が有する、相互接続された複数の太陽電池と、
前記複数の太陽電池の前記正面を覆う透明カバーと、
前記複数の太陽電池の前記背面に設けられた背面シートと、
前記複数の太陽電池、前記透明カバー、および、前記背面シートを結合して、保護パッケージを構成するカプセル材と
を備え、
350nmの波長の光に対する前記カプセル材の透過率は、1%を超え、
前記カプセル材は、前記太陽電池の分極を抑えるべく、摂氏-40度から摂氏90度の温度範囲において、少なくとも5x10^(13)Ωcmの体積比抵抗を有する、
太陽電池モジュール。」

3.当審の拒絶理由
当審において平成27年9月9日付けで通知した拒絶の理由は、請求項1の「カプセル材」がどのようにして得られるのか、また、どのような材質、構造なのかについて、発明の詳細な説明には記載がなく、しかも、当業者の技術常識に照らしても、その材質、構造は明らかではなく、該「カプセル材」について、請求項の記載からは、当業者の技術常識に照らしても、どのような材質、構造なのか理解することができないから、請求項1に係る発明は、明確ではなく、また、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、この出願は、特許法第36条第6項第2号及び同条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものを含む。

4.当審の判断
(1)本願明細書には次の記載がある。
「【0015】
カプセル材203は、太陽電池101、透明カバー201、および背面シート205を硬化させて(cure)結合して、保護パッケージを形成する。以下の記載から明らかとなるように、一実施形態では、カプセル材203は、最適なUV(紫外線)透過曲線を有して、より多くの紫外線を透過させる。一実施形態では、カプセル材203は、従来のカプセル材よりも多くの紫外線を透過させる。
【0016】
従来の太陽電池モジュールは、透明カバーにガラスを利用して、ポリエチレンビニルアセテート(EVA:poly-ethyl-vinyl acetate)をカプセル材として利用する。図3は、ガラスおよびEVAの透過曲線を示す。ガラスは、約275nm以下の波長の光を遮り、EVAは、約350nm以下の波長の光を遮る。参考までに、紫外線の波長は10nmから400nmである。紫外線は、太陽電池を劣化させると考えられているので、太陽電池モジュールは通常、比較的狭いUV透過曲線を有するように設計され、太陽電池をなるべく紫外線光に晒さないようにする配慮が行われている。しかし、発明者たちは、UV透過曲線を広げても(opened up)、実質的に太陽電池を劣化させないことができると考えた。当業者であれば理解するように、「遮る」という用語は必ずしも完全な遮蔽を意味しない。本開示では、「遮る」を、1%以下を透過させることを含む、実質的な低減として利用する。」
「【0019】
カプセル材203の体積比抵抗を、摂氏-40度から摂氏90度の通常動作温度範囲において、少なくとも5x10^(13)Ωcm(抵抗測定のためのASTM規格D257に従って計測した値)以上に上げることによって、さらに太陽電池の分極防止効果が高まる。体積比抵抗の増加をUV透過曲線と組み合わせることで、太陽電池の分極に対するモジュールレベルの効果的な解決法が得られる。」

これらの記載によると、本願発明の「カプセル材」は、従来の、ポリエチレンビニルアセテートのような、約350nm以下の波長の光を遮る(1%以下を透過させる)カプセル材よりも、多くの紫外線を透過させるものであって、しかも、カプセル材203の体積比抵抗を、摂氏-40度から摂氏90度の通常動作温度範囲において、少なくとも5x10^(13)Ωcm以上に上げたものであることは理解できる。

(2)しかしながら、摂氏-40度から摂氏90度の通常動作温度範囲において、体積比抵抗が少なくとも5x10^(13)Ωcm以上であるカプセル材が、具体的にどのような材質であって、どのように製造されたものなのかについては、発明の詳細な説明には、記載されていない。

また、請求人は、平成27年9月9日付けの当審における拒絶理由に対して、「本願の出願時の技術常識に照らせば、これらの特性を満たす「カプセル材」が例えばポリオレフィンによって得ることができることは当業者であれば理解することができる。」と主張するものの、具体的な材質や具体的な製造方法については、何ら釈明していない。

一方、350nmの波長の光に対する透過率が1%を超え、摂氏-40度から摂氏90度の全ての温度範囲において、少なくとも5x10^(13)Ωcmの体積比抵抗を有するような材質であって、かつ、カプセル材に用いることができる材質が周知であるとはいえない。
また、そのような材質のものを得るために、どのようなポリオレフィンを選択して、どのような添加剤を用いればいいのかについては、当業者の技術常識に照らしても明らかではない。

そうすると、本願発明の「カプセル材」の材質や製造方法は、当業者の技術常識に照らしても、どのようなものか理解することができないことから、発明の詳細な説明が、該「カプセル材」を構成要件とする発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

また、出願時の技術常識に照らしても、本願発明のように、「350nmの波長の光に対する透過率が1%を超え、摂氏-40度から摂氏90度の温度範囲において、少なくとも5x10^(13)Ωcmの体積比抵抗を有する」という透過率及び体積比抵抗のみで特定されたカプセル材が具体的にどのような材質であるかを理解することは困難である。
そうすると、上記透過率及び体積比抵抗を有するために必要な材質等が何ら特定されず、上記透過率及び体積比抵抗のみで特定された「カプセル材」は、その具体的材質がわかるように技術的に十分に特定されていないことが明らかであり、また、明細書及び図面の記載を考慮しても、請求項1に係る発明を明確に把握することができない。
よって、本願発明は明確ではなく、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

5.むすび
したがって、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の請求項1の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないことから、他の請求項について論及するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-04 
結審通知日 2016-03-08 
審決日 2016-03-28 
出願番号 特願2012-526748(P2012-526748)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H01L)
P 1 8・ 536- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森江 健蔵  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 土屋 知久
川端 修
発明の名称 広げたUV透過曲線を有するカプセル材を利用する、太陽電池の分極のモジュールレベルの解決法  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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