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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
管理番号 1318058
異議申立番号 異議2015-700347  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-24 
確定日 2016-07-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第5740694号発明「成形品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5740694号の請求項1ないし8に係る特許を取り消す。 
理由 第1 主な手続の経緯等
特許第5740694号(設定登録時の請求項の数は8。以下,「本件特許」という。)は,平成25年11月8日(先の出願に基づく優先権主張 平成25年4月11日)を出願日とする特許出願に係るものであって,平成27年5月15日に設定登録された。
特許異議申立人 丸山智貴(以下,単に「異議申立人」という。)は,平成27年12月24日付けで,本件特許の請求項1ないし8に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。
当合議体において,平成28年2月24日付けで取消理由を通知したところ,特許権者からは,何ら応答はなかった。

第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)は,本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。

「【請求項1】
半結晶性熱可塑性ポリマー製の延伸糸条を織成した織布の両面もしくは片面に,前記延伸糸条を構成する半結晶性熱可塑性ポリマーの融点よりは少なくとも10℃以上融点の低い半結晶性熱可塑性ポリマーの被覆層が形成されたラミネートシートを用意し,
該ラミネートシートを少なくとも2枚以上織布が隣接しないように重ね合せたものを,半結晶性熱可塑性ポリマーの融点以上かつ織布の融点未満の温度で熱圧着して板状シートを作製し,
得られた板状シートをプラグアシスト真空成形,圧空真空成形又はプレス成形により熱成形することを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項2】
半結晶性熱可塑性ポリマー製の延伸糸条を織成した織布と,前記延伸糸条を構成する半結晶性熱可塑性ポリマーの融点よりは少なくとも10℃以上融点の低い半結晶性熱可塑性ポリマーからなるフィルムを用意し,
織布を少なくとも2枚以上用い,各織布の両面もしくは片面にフィルムを合計1?2枚織布が隣接しないように重ね合せたものを,半結晶性熱可塑性ポリマーの融点以上かつ織布の融点未満の温度で熱圧着して板状シートを作製し,
得られた板状シートをプラグアシスト真空成形,圧空真空成形又はプレス成形により熱成形することを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項3】
ラミネートシート及び板状シートが,織布の隙間に融点の低い半結晶性熱可塑性ポリマーが侵入している状態,または,織布の隙間を融点の低い半結晶性熱可塑性ポリマーが貫通することで織布両面の被覆層が結合した状態にある,請求項1又は2に記載の成形品の製造方法。
【請求項4】
半結晶性熱可塑性ポリマーが,ポリオレフィンである,請求項1?3のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【請求項5】
ラミネートシートの厚みが,80?300μm/枚である,請求項1,3,4のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【請求項6】
成形品の密度が0.6?0.9g/cm^(3)である,請求項1?5のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【請求項7】
熱圧着がカレンダー法,プレス法又は押出法によるものである,請求項1?6のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【請求項8】
成形品が,カバン類又はケース類である,請求項1?7のいずれかに記載の成形品の製造方法。」

第3 取消理由の概要
平成28年2月24日付けで通知した取消理由は,本件特許の請求項1ないし8に係る発明は,特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから,同法第113条第4号に該当し,取り消すべきものである(以下,「取消理由1」という。)というものと,本件特許の請求項2ないし4,6ないし8に係る発明は,本件特許の優先日前に頒布された下記の刊行物1及び刊行物6に記載された発明に基いて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,その発明に係る特許は取り消すべきものである(以下,「取消理由2」という。),というものである。

刊行物1: 特許第5138222号公報(異議申立書の甲第1号証)
刊行物6: 「プラスチックフィルム-加工と応用-(第二版),1995年4月,第2版1刷発行,p.164?174(異議申立書の証拠方法である甲第6号証)

第4 当合議体の判断
以下に述べるように,本件特許の本件発明1ないし8は取り消されるべきものである。

1 取消理由1(特許法第36条第6項第2号)について
(1) 本件特許の請求項1における「融点」について,明細書にはどのような測定方法で測定した融点であるかその定義が記載されていない。そして,融点は,測定方法の違いによりその数値が変化するものであり,また,DSCの測定法においても,昇温で測定するか,降温で測定するかや昇温や降温の速度によっても変化するとの当業者の技術常識(例えば,高分子学会編「新高分子実験学8 高分子の物性(1) 熱的・力学的性質」共立出版株式会社,1997年6月15日初版1刷発行,82頁?107頁参照)を踏まえれば,当該「融点」は,明確でない。請求項2についても同様であり,請求項1又は2を引用する請求項3ないし8についても同様である。
(2) 本件特許の請求項1における「半結晶性」は,明細書に明確に定義されておらず,結晶可能なもの全てが半分程度結晶化されているものである態様を示すのか,又は,結晶化されているものと,非晶状態のものが半々に含有されているものを指すのか,また,「半結晶性」樹脂として,段落【0019】に例示されているポリオレフィン以外にどのようなポリマーが含まれることになるかが不明であるため,明確でない。
請求項2の記載についても同様であり,請求項1又は2を引用する請求項3ないし8についても同様である。

2 取消理由2(特許法第29条第2項)について
(1) 上記1のとおり,本件特許の請求項1の「融点」及び「半結晶性」との記載は明確でないが,「融点」が「主要な結晶融解が起こる温度」であるとし,「半結晶性」樹脂は,「ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂」と仮定したときには,以下の取消理由が存在する。

(2) 刊行物
刊行物1: 特許第5138222号公報(異議申立書の証拠方法である甲第1号証。)
刊行物6: 「プラスチックフィルム-加工と応用-(第二版),1995年4月,第2版1刷発行,p.164?174(異議申立書の証拠方法である甲第6号証。以下,単に「甲6」という。)

(3) 刊行物1の記載事項
本件特許の優先日前に頒布されたことが明かな刊行物1である特許第5138222号公報(以下、単に「甲1」という。)には,以下のことが記載されている。

ア 「【0005】
ポリエチレンフィルムをポリエチレン繊維層の間に挟み込み,その合着層を熱圧着に供した製品の使用に関する発行された研究がある。
Maraisらは,Composites Science and Technology, 45, 1992, pp.247-255において,フィルムの融点より高いが,繊維層の融点より低い温度にて圧着させるという方法を開示している。その結果得られた製品は適度な機械的特性を有する。
【0006】
Ogawaらは,Journal of Applied Polymer Science, 68, 1998, pp.1431-1439において,超高分子量ポリエチレン繊維(融点 145-152℃)層と低密度ポリエチレンフィルム(融点 118℃)層とで作られた製品を開示している。その成形温度は繊維の融点と介在層(マトリックス)の融点との間であるとされる。その繊維の体積率は0.69または0.74であるとされる。しかしながら,それら製品は,おそらく繊維とマトリックス(融解したフィルム)との間の弱い接着のために驚くほど貧弱な特性を有するとされる。別の製品はポリエチレン繊維単独で作られており,その方法条件は部分的融解を誘起して貧弱な特性を招いた。」

イ 「【0010】
“ストランド”という用語は,本発明に有用なすべてのポリマー材料の配向化伸長エレメントを意味するものとして本明細書中で使用する。それらは,繊維の形態でもフィラメントの形態でもよい。それらは,例えば,融解成形したフィルムのスリット切断によるかまたは押出しより成形されるバンド,リボン,またはテープの形態でありうる。それらが如何なる形態であろうがそれらストランドは,本発明の方法のために不織ウェブ(non-woven web)にしておいてもよい。別のやり方では,それらは,複数のフィラメントまたは繊維が含まれる糸に成形してもよいし,モノフィラメント糸の形態で使用してもよい。ストランドは,通常,織るか編むことにより織物(fabric)に形成される。場合により,ストランドをWO 98/15397に記載されているような架橋法に供してもよい。織物は,好ましくはテープ,繊維糸,またはフィラメント糸で作られ,またそれらは,繊維またはフィラメント糸とテープとの混合物を含んでもよい。前記第1および第3の層に使用するのに最も好ましいものは,平面テープから織られた織物である。この幾何学的配置は,その配向化した相の特性を最終圧着化シートの特性へ最も良く変換するものであると考えられるからである。」

ウ 「【0016】
好ましくは,合着層は,上記で第2の層として定義したタイプの層を複数,例えば,2?40,好ましくは4?30含み,そのような層の各々が,上記で第1および第3の層として定義したタイプの層の間に挟み込まれる。
【0017】
本発明のある態様において,第1および第3の層の配向化ポリマー材料のストランドは,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリオキシメチレン,またはポリエステル(いずれもホモポリマー,コポリマー,またはターポリマーが含まれる)を含んでもよく,好ましくはそれらから成るものであってもよい。ポリマーブレンド物および充填ポリマーは一定の態様に使用できるであろう。特に好ましい態様において,それらストランドはホモポリマー材料,最も好ましくはポリプロピレンまたはポリエチレンホモポリマーのものである。
【0018】
本発明のある態様において,第2の層(1つならばその層であり,複数であれば各々の層である(以下同様))には,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリオキシメチレン,またはポリエステル(いずれもホモポリマー,コポリマー,またはターポリマーとして含まれる)が含まれもよく,好ましくはそれらから成るものであってもよい。ポリマーブレンド物および充填ポリマーは一定の態様に使用できるであろう。特に好ましい態様において,第2の層はホモポリマー材料,最も好ましくはポリプロピレンまたはポリエチレンホモポリマーのものである。
【0019】
好ましくは,第1および第3の層は,同じタイプのポリマー材料(例えば,両者がポリプロピレン)のものである。好ましくは,第2の層は,同じタイプのポリマー材料のものである。最も好ましくは,第2の層は,それが好ましく低配向性のもの(従って,第1および第3の層よりも低い温度で融解する)である場合を除き,同じ化学組成およびグレードのものである。
【0020】
繊維を圧着すべき最低限の温度は,好ましくは,ゼロに外挿される固定ポリマー繊維の吸熱量(示差走査熱量測定(DSC)により測定される)の先端がその温度軸を横切る温度である。好ましくは,繊維を圧着させる温度は,周囲環境の圧着圧力で融解するという制約ピーク温度以下,すなわち,その吸熱量が最高点に達する温度である。
【0021】
第2の層は,第1または第3の層上にその場で形成してもよく,例えば,第1または第3の層のそれぞれに,第2の層のポリマー材料を微粒子形態で,例えばスプレーすることにより形成してもよい。別のやり方では,好ましくは,第2の層を予め成形し,第1および第3の層上に敷く。第2の層はポリマー材料のストランドから予め成形してもよい。それらストランドは,不織ウェブにしておくこともできるであろう。それらは,複数のフィラメントまたは繊維を含む糸に形成してもよいし,モノフィラメント糸の形態で使用してもよい。ストランド,例えば,フィラメント糸,繊維糸またはテープは,織るか編むことにより織物に形成してもよい。しかし,最も好ましくは,第2の層は,フィルムを含むものであり,好ましくはフィルムから成るものである。そのフィルムは,典型的には,その形成から生じる一軸または二軸配向性を有するが,その配向性の程度は典型的には第1および第3の層を成しているストランドよりもかなり小さくなる。第2の層は,複数のフィルム,例えば,2?5のフィルムで作りうるが,好ましくは,単一フィルムにより構成される。
【0022】
好ましくは,第2の層(ただし,構成されたもの)は,100μmを越えず,より好ましくは40μmを越えず,最も好ましくは20μmを越えない厚さである(合着層中に圧着されている状態であって,それの融点未満の温度でのそれの厚さによる)。
【0023】
好ましくは,第2の層(ただし,構成されたもの)は,少なくとも5μm,より好ましくは少なくとも10μmの厚さである(合着層中に圧着されている状態であって,それの融点未満の温度でのそれの厚さによる)。
【0024】
好ましくは,第1および第3の層の各々の厚さは,第2の層の厚さより大きい。好ましくは,それら各々の厚さは,第2の層の厚さの少なくとも5倍である。
好ましくは,第1および第3の層の各々の厚さは,50μmを超え,より好ましくは100μmを超える。
【0025】
好ましくは,第1および第3の層の各々の厚さは,1mmを超えず,好ましくは400μmを超えない。
好ましくは,第2の層は,第1および第3の層のピーク融解温度よりも少なくとも5℃低い,より好ましくは少なくとも10℃低い,さらに好ましくは少なくとも20℃低いピーク融解温度を有する。
【0026】
本発明の熱圧着工程は,10MPaを超えない圧着圧力を使用することが好ましい。また,熱圧着工程の全体を通して単一圧力を使用することが好ましい。最も好ましい圧力は,1?7MPa,特に2?5MPaである。熱圧着圧力は冷却の間,維持されることが好ましい。
【0027】
好ましくは,それらポリマー材料は,圧着前に例えば,WO 98/15397に記載されているタイプの架橋処理を受けてないものである。本発明は,架橋を必要とすることなく,“温度帯(temperature window)”の見地からの有益性を与えることが見出されたのである。
【0028】
好ましくは,それらポリマー材料は,圧着前に事前のコロナ放電処理を受けていないものである。より好ましくは,それらポリマー材料は,圧着前に表面処理を受けていないものである。
【0029】
ポリマー材料の圧着は,オートクレーブ中で行ってもよいし,ダブルベルトプレスまたは他の装置においてそのアッセンブリを所望の高温および圧力にかけられる圧着帯域に送り込むとしてもよい。このようにして,本法は連続的または半連続的な工程として操作しうる。冷却は,好ましくは圧着網体を,例えば,一軸上または二軸上で適用しうる伸張下に維持することによって,あるいは圧着圧力下に維持することによって,寸法変化に対する抑制を行いながら実施する。その抑制は,配向相の良好な特性の維持に役立ちうる。
【0030】
本製品は,本工程の間に製造された介在層または結合相で構成されたポリマー複合体とみなすことができ,これは,第2の層の完全な融解,第1および第33層の部分的な融解,並びに第1および第3の層の融解していない大部分の繊維である配向化相から誘導されたものである。
【0031】
本発明によれば,融解した第2の層を採用しない従来の方法を使用して得られる特性を凌ぐ一定の機械的特性を持つ製品を作ることができる。特に,剥離強度および破損強度を有意に改善することができ,引張弾性率は良好なレベルで維持されている。
【0032】
本発明の第2の側面によると,第1の側面の方法により作られる製品が提供される。
本発明の方法により作られた製品は,圧着(成形後)の後に行われる工程によって成形品に成形するのに適している。
【0033】
本発明の第3の側面によると,本発明の第3の側面の製品への熱と成形力の適用により成形品を成形する方法が提供される。適切には,第3の側面の製品は平面シートであることができ,その成形品は,例えば,湾曲状,曲面状,ドーム状またはそれ以外の非平面的なものでありうる。」

エ 「実施例セットA
織物層は,CERTRAN,つまり,Hoechest Celaneseから入手可能な配向化ホモポリマーポリエチレンの紡ぎフィラメント融解物で250デニールのマルチフィラメント糸から平面織りで織った。その特性は下記の通りである。
【0039】
【表1】

【0040】
織布の2つの層を使用して,2段階加圧法を使用するホットプレスで試料を加工した。アッセンブリが圧着温度に至る間に,0.7MPa(100psi)の初期圧力をかけた。この温度で2分間の滞留時間の後,2.8MPa(400psi)の高圧を1分間かけ,その間にアッセンブリを1分毎に約20℃の速度で100℃まで冷ました。試料は3つの条件で作製した。第1に,138℃の温度での標準的圧着とした。第2に,LDPEフィルムの層を織布の2つの層の間に配置してから126℃(そのフィルムの融点より高いが,その配向化繊維の融点より低い)で加工した。最後に,織布の2つの層の間にLDPEフィルムの層を1つ介在させ,136℃の温度で処理することにより試料を作製した。
【0041】
これらの試験の結果を下記の表に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
フィルムなしでの標準圧着技術については,138℃の圧着温度は,良好な係数とそれなりのレベルの層間結合性(剥離強度)を与えるのに最適であることがわかった。この最適化温度は,主要な結晶融解が起こる139℃に非常に近い。介在させるフィルムを使用し,その介在層フィルムを完全に融解するのにちょうど足りるが,繊維の表面を融解しない126℃で加工すると,良好な層間接着を生じるが,引張弾性率は低い。おそらくは,融解材料が繊維束に浸透することが難しいので繊維間の結合が乏しいことに起因すると考えられる。結局,介在層フィルムを使用するが136℃で加工され,配向化繊維の選択的融解を引き起こして作られた試料が,最も高い剥離強度および良好な引張弾性率を示す。加えて,それらの特性は,フィルムなしの圧着に必要とされる温度よりも2℃低い温度で得られ,139℃の温度での過剰融解という危険が少ないので加工帯(processing window)が拡がる。
【0044】
実施例セットB
これらの実施例では,米国のSynthetic Industries社により製造されたTENSYLON,配向化ポリエチレンテープを使用して,部分的に融解したモノリシック製品を製造した。それは次の特性を有する。
引張強度 1.5GPa
引張弾性率 88GPa
デニール 720
【0045】
これを織って織物にした。介在層のためにかなり類似したタイプのポリエチレンを入手した。それはデンマークのBorealis A/S社からのFL5580フィルムグレードで,融点130℃のものである。これを,標準的フィルム押出し機とフィルムダイを使用して約10?15μmの厚さのフィルムに押出し成形した。
【0046】
圧着実験は,そのフィルムの融点(約130℃)とこの材料の通常の圧着範囲(148?156℃)を含むところまでの温度との間にわたる温度範囲で行った。その織布は薄いので(面密度83g/m^(2)),圧着の間にそのアッセンブリ全体にわたり均一な圧力が得られるようにゴムシートを圧着用の正規金属板の内側に使用し,ゴムシートと圧着される合着層との間に軟性アルミニウム箔を敷いた。滞留時間は5分とした。冷却は20℃/minとした。」

(4) 甲1に記載の発明
甲1の上記(3)ア?エの記載及び当業者の技術常識からみて,甲1には,実施例セットAのポリマー製品の製造方法が記載されており,上記(3)ウの段落【0030】?【0033】において,当該ポリマー製品は熱と成形力の適用により成形品を成形するものである旨記載があるから,実施例セットAのポリマー製品から熱と成形力の適用により成形品を製造する方法が実質的に記載されているといえるから,次のとおりの発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「CERTRAN(Hoechest Celaneseから入手可能な配向化ホモポリマーポリエチレンの紡ぎフィラメント融解物で250デニールのマルチフィラメント糸)から平面織りで織った織布の2つの層の間にLDPEフィルムの層を配置してから136℃でホットプレスで加工したポリマー製品を製造し,当該ポリマー製品から熱と成形力の適用により成形品を製造する製造方法。」

(5) 本件発明2と甲1発明との対比・判断
甲1発明の「CERTRAN(Hoechest Celaneseから入手可能な配向化ホモポリマーポリエチレンの紡ぎフィラメント融解物で250デニールのマルチフィラメント糸)」,「LDPEフィルム」,「ポリマー製品」は,それぞれ,本件発明2の「半結晶性熱可塑性ポリマー製の延伸糸条」,「半結晶性熱可塑性ポリマーからなるフィルム」,「板状シート」に相当する。
ここで,甲1の「126℃(そのフィルムの融点より高いが,その配向化繊維の融点より低い)」(段落【0040】)の記載から,甲1発明の「LDPE」の融点は,126℃より低いといえ,同じく「フィルムなしでの標準圧着技術については,138℃の圧着温度は,良好な係数とそれなりのレベルの層間結合性(剥離強度)を与えるのに最適であることがわかった。この最適化温度は,主要な結晶融解が起こる139℃に非常に近い。」(段落【0043】)との記載から,甲1発明の配向化ホモポリマーポリエチレン(延伸糸条を構成する半結晶性熱顔性ポリマー)の融点は139℃付近といえる。
そうすると,甲1発明の「LDPE」(半結晶性熱可塑性ポリマーからなるフィルムを構成するポリマー)は,配向化ホモポリマーポリエチレン(延伸糸状を構成する半結晶性熱可塑性ポリマー)の融点よりは少なくとも10℃以上融点の低いポリマーといえる。
なお,甲1発明のポリマー製品(板状シート)においては,繊維材料の14%が溶融したとされている(甲1の表2参照)が,本件明細書の「熱圧着時において被複層或いはフィルムを構成するポリマーは溶融するが,延伸糸条を構成するポリマーは溶融することがないか溶融しても最小限度程度に抑えることができるため,延伸糸条を構成するポリマーの結晶性低下による強度低下を防止することができる」(段落【0018】)との記載から,本件発明1と矛盾するものではない。
以上のことから,甲1発明と本件発明2は,
「半結晶性熱可塑性ポリマー製の延伸糸条を織成した織布と,前記延伸糸条を構成する半結晶性熱可塑性ポリマーの融点よりは少なくとも10℃以上融点の低い半結晶性熱可塑性ポリマーからなるフィルムを用意し,
織布を少なくとも2枚以上用い,各織布の両面もしくは片面にフィルムを合計1?2枚織布が隣接しないように重ね合せたものを,半結晶性熱可塑性ポリマーの融点以上かつ織布の融点未満の温度で熱圧着して板状シートを作成し,得られた板状シートから成形する成形品の製造方法。」である点で一致し,以下の点で相違している。

<相違点1>
板状シートから成形品を成形する成形手段について,本件発明2は「プラグアシスト真空成形,圧空真空成形又はプレス成形により熱成形する」と特定するのに対して,甲1発明においては,「熱と成形力の適用により成形品を製造する」との特定である点。

以下,相違点について検討する。
甲1の熱と成形力の適用によって得られる成形品は,平面シートや湾曲状,曲面状,ドーム状またはそれ以外の非平面的なもの(段落【0033】)との例示がある。
織布と樹脂からなるシート部材の成形方法として,熱成形は周知慣用な成形方法であって,熱成形においてプレス成形,プラグアシスト成形,圧空真空成形が適宜利用されることも周知慣用技術といえるから(甲6参照),甲1発明の「熱と成形力の適用」の具体的な手法として「プラグアシスト成形,圧空真空成形,プレス成形により熱成形する」ことは,当業者が適宜選択しえた設計事項といえる。そして,ストレート法に比してプラグアシスト法が成形性に優れることは当業者の技術常識である(甲6参照)から,ストレート法に比してプラグアシスト成形法が成形性に優れるとの効果は,当業者において予測可能な範囲内の事項である。
したがって,本件発明2は,甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6) 本件発明2を引用する本件発明3と甲1発明との対比・判断
甲1発明において,そのLDPEフィルムの融点より高いが,その織布のマルチフィラメント糸の融点より低い「136℃」でホットプレス加工しているから,当該ホットプレス加工により織布の隙間に融点の低いLDPEポリマーが進入していると認められる。
してみれば,本件発明3において特定する事項である「ラミネートシート及び板状シートが,織布の隙間に融点の低い半結晶性熱可塑性ポリマーが侵入している状態,または,織布の隙間を融点の低い半結晶性熱可塑性ポリマーが貫通することで織布両面の被覆層が結合した状態にある」点は,甲1発明との対比において新たな相違点とはならない。
そうすると,その余の点については,上記で検討したとおりであって,本件発明2を引用する本件発明3は,甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(7) 本件発明2又は3を引用する本件発明4と甲1発明との対比・判断
甲1発明の織布及びLDPEフィルムの樹脂はポリオレフィンであるから,本件発明4において特定する事項である「半結晶性熱可塑性ポリマーが,ポリオレフィンである」点は,甲1発明との対比において新たな相違点とはならない。
そうすると,その余の点については,上記で検討したとおりであって,本件発明2又は3を引用する本件発明4は,甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(8) 本件発明2ないし4を引用する本件発明6と甲1発明との対比・判断
本件発明6においては「成形品の密度が0.6?0.9g/cm^(3)である」と特定するものであるが,LDPEの密度が0.90g/cm^(3)程度であり,甲1発明の成形品がLDPEフィルムと配向化ホモポリマーポリエチレンの織布とを積層しているものであることから,甲1発明の成形品においてもその密度は0.6?0.9g/cm^(3)を満足している蓋然性が高い。
そうすると,その余の点については,上記で検討したとおりであって,本件発明2ないし4を引用する本件発明6は,甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(9) 本件発明2ないし4,6を引用する本件発明7と甲1発明との対比・判断
甲1発明は,プレス法により熱圧着するものであるから,本件発明7で特定する事項である「熱圧着がカレンダー法,プレス法又は押出法によるものである」点は,新たな相違点とはならない。
そうすると,その余の点については,上記で検討したとおりであって,本件発明2ないし4,6を引用する本件発明7は,甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(10) 本件発明2ないし4,6,7を引用する本件発明8と甲1発明との対比・判断
本件発明8においては「成形品が,カバン類又はケース類である」と特定するものであるが,甲1の熱と成形力の適用によって得られる成形品は,平面シートや湾曲状,曲面状,ドーム状またはそれ以外の非平面的なもの(段落【0033】)との例示がある。これらの例示の形状を有する成形品としてケース類は最も一般的なものといえるから,成形品としてケース類を選択することは当業者が容易に想到し得たものである。そして,そのことにより格別な効果が奏されるものともいえない。
そうすると,その余の点については,上記で検討したとおりであって,本件発明2ないし4,6,7を引用する本件発明8は,甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
したがって,本件発明1ないし8については,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから,同法第113条第4号に該当し,取り消すべきものである。また,本件発明2ないし4,6ないし8は,甲1発明に基いて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,同法第113条第2号に該当し,その発明に係る特許は取り消すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-05-31 
出願番号 特願2013-231776(P2013-231776)
審決分類 P 1 651・ 121- Z (B29C)
P 1 651・ 537- Z (B29C)
最終処分 取消  
前審関与審査官 今井 拓也  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 菊地 則義
大島 祥吾
登録日 2015-05-15 
登録番号 特許第5740694号(P5740694)
権利者 株式会社KOSUGE
発明の名称 成形品の製造方法  
代理人 中山 光子  
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