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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1318059
異議申立番号 異議2016-700444  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-17 
確定日 2016-08-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第5819987号発明「液体管理システムおよび液体管理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5819987号の請求項1、3及び4に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5819987号(以下「本件特許」という。)の請求項1-7に係る特許についての出願は、平成24年12月14日に特許出願され、平成27年10月9日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 伊勢川和江により特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明
特許第5819987号の請求項1、3及び4の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1、3及び4に記載された事項により特定されるとおりのものである。

3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として特開2003-297795号公報(以下「刊行物1」という。)及び従たる証拠として特開平9-57069号公報(以下「刊行物2」という。)を提出し、請求項1、3及び4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、請求項1、3及び4に係る特許を取り消すべきものである旨主張した。

4 刊行物の記載
(1) 刊行物1及び刊行物1発明
ア 刊行物1には、図面とともに以下の記載がある。
(ア) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は半導体ウェーハの洗浄・乾燥装置、及び洗浄・乾燥方法に係り、特にイソプロピルアルコール(IsoPropyl Alcohol;以下、IPAと略称する)と超純水とよりなる混合液を洗浄液として用い、特に洗浄液を、洗浄の行われる処理槽に供給する前に正確な濃度にあらかじめ混合することによって洗浄・乾燥効果を高められ、工程済みの洗浄液は循環させてリサイクルできる半導体ウェーハの洗浄・乾燥装置、及びこれを用いた洗浄・乾燥方法に関する。」
(イ) 「【0018】
【発明の実施の形態】以下、添付した図面に基づき、本発明を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施例に係る半導体ウェーハの洗浄・乾燥装置の全体的な構成を概略的に示す図面である。図面を参照すれば、本実施例に係る半導体ウェーハの洗浄・乾燥装置は、その内部でウェーハWの洗浄・乾燥が行われる処理槽11と、前記処理槽11内に供給される洗浄液をあらかじめ所定濃度に混合させる洗浄液混合ユニット50と、前記洗浄液混合ユニット50内で混合された洗浄液を前記処理槽11の内部に移動させて洗浄液の状態をチェックする洗浄液供給部52と、前記処理槽11内で洗浄を終えて溢れた洗浄液を前記洗浄液混合ユニット50に帰還させるリターンライン54と、必要時に前記処理槽11内の洗浄液を洗浄液混合ユニット50に帰還させるドレインライン90と、前記洗浄液混合ユニット50と連結され、汚染された洗浄液を回収して純粋なIPAとDIWとに分離する回収ユニット82を含んで構成される。
・・・・
【0023】一方、前記洗浄液混合ユニット50は、2つのIPAタンク18、19と、前記各IPAタンク18、19と各々連結される2つの混合タンク24、25とを有する。前記2つのIPAタンク18、19は並列に構成されているために、外部から供給されるIPAは両側のIPAタンク18、19に同時に供給されうる。また、前記2つの混合タンク24、25も並列に構成されているために、外部から供給される超純水は両側の混合タンク24、25内に同時に供給されうる。
【0024】また、前記各IPAタンク18、19には、多数のレベルセンサー20が備えられている。前記レベルセンサー20は、IPAタンク18、19内に供給されるIPAの流量を感知して所望量だけのIPAを供給可能にする。同様に、前記混合タンク24、25にも多数のレベルセンサー21が設けられている。前記レベルセンサー21は、混合タンク24内に供給される超純水の流量を感知して所望量だけの超純粋を供給可能にする。
【0025】図面番号44はオーバフロードレイン管である。前記オーバフロードレイン管44は、後述するようにリターンライン54やドレインライン90を通じて帰還した洗浄液が混合タンク24、25内で所定レベル以上に上昇する時、洗浄液を混合タンク24、25の外部に排出するパイプである。前記各IPAタンク18、19は連結パイプ56を通じて混合タンク24、25と連結されている。したがって、各IPAタンク18、19に供給されているIPAはそれぞれの連結パイプ56を通じて混合タンク24、25に移動しうる。
【0026】前記各混合タンク24、25内には必要量だけの超純水が独立して供給される。したがって、各混合タンク24、25の内部にはIPAタンク18、19から供給されたIPAと超純水とが所定比率で混在する。特に、前記混合タンク24、25の内部に独立して供給される超純水の量及びIPAタンク18、19に供給されるIPAの量は、各々レベルセンサー20、21を通じて計測可能なので、超純水に対するIPAの濃度が制御可能になって混合タンク24、25内で所望の濃度の洗浄液が得られる。また、図12ないし図19に示されているグラフのような濃度をも得られることは言うまでもない。
【0027】前記各連結パイプ56は、2本に分岐され、分岐された一側の連結パイプにはIPA補充ポンプ22、23が設けられる。前記IPA補充ポンプ22、23は、必要時にIPAをIPAタンク18、19から混合タンク24、25に追加供給する時に使用するものであって、正確な量のIPAを迅速に移動させうる。
【0028】前記IPAは、揮発性物質なので洗浄液の循環中に洗浄液から徐々に揮発してなくなることがある。このようにIPAが揮発した場合、洗浄液内のIPAの濃度が薄くなるので、前記IPA補充ポンプ22、23に不足分だけのIPAを補充すれば良い。
【0029】前述したように、各混合タンク24、25の内部にはIPAと超純水とが所望の比率で混在すが、超純水とIPAとを確実に混合可能に窒素気泡発生器26がさらに設けられる。前記窒素気泡発生器26は、外部から供給された窒素ガスを混合タンク24、25の内側下部に噴射して収容されている超純水とIPAとを完全に混合させる。また、本実施例では前記洗浄液混合ユニット50に2つずつのIPAタンク18、19と混合タンク24、25とを適用したが、前記IPAタンク及び混合タンクの数は実施例によって幾らでも増加させうる。
【0030】前記各混合タンク24、25は、混合液供給弁28、29を通じて供給パイプ58に連結される。前記2つの混合液供給弁28、29は同時に開放されることではなく、交互に開放される。すなわち、一方の混合液供給弁28が開放される時、他方の混合液供給弁29は閉塞され、逆に、一方の混合液供給弁28が閉塞される時、他方の混合液供給弁29は開放される。
【0031】これは一方の混合タンク24内の洗浄液だけが循環して処理槽11に供給され、その間に他方の混合タンク25内の洗浄液は混合タンク25内で待っていることを意味する。すなわち、一方の混合液供給弁28のみを開放し、一方の混合タンク24内の洗浄液だけでウェーハの洗浄を行っていて、一定時間後に洗浄液が許容値以上に汚染された場合、該当混合液供給弁28は閉塞し、他方の混合液供給弁29を開放して待っていた他方の混合タンク25内の未使用の洗浄液を循環させて洗浄し続ける。
【0032】前記のように他方の混合タンク25内の洗浄液を処理槽11に供給する間に、一方の混合タンク24の混合液排液弁30を開放して混合タンク24内の汚染された洗浄液を排出する。混合タンク24が完全に空になると、排液弁30を閉塞して外部から新しいIPAと超純水とを供給されて所望の比率に混合させた状態で待つ。
【0033】前述したように混合タンク24、25を2つ備えて交互に使用することによって、装置を止めずにきれいな洗浄液を供給し続けるために、ウェーハの洗浄・乾燥が迅速でかつ効率よく行われる。各混合タンク24、25の下部に備えられている排液管64、65は、必要時に混合タンク24内の洗浄液を回収ユニット82側に排出するパイプであって各々混合液排液弁30、31により開閉される。
【0034】基本的に、前記回収ユニット82はウェーハの洗浄により許容値以上に汚染された洗浄液を収容し、汚染された洗浄液を純粋なIPA及びDIWとリサイクルする役割を行う。前記回収ユニット82は、前記排液管64、65と連結され、汚染された洗浄液を収容する加熱タンク70と、前記加熱タンク70に各々連結するIPA回収タンク74及びDIW回収タンク78と、前記加熱タンク70からIPA回収タンク74に移動するIPA内の不純物を除去するIPAフィルター72と、前記加熱タンク70からDIW回収タンク78に移動するDIW内の不純物を除去するDIWフィルター76と、を含む。
【0035】前記加熱タンク70は、洗浄液を受け入れ、該受け入れた洗浄液を加熱して洗浄液内で沸騰点の相対的に低いIPAを蒸発させてDIWとIPAとを相互分離する。すなわち、沸騰点の違いを用いて洗浄液をIPAとDIWとに分離する。加熱タンク70の内部で気体状態に相変化したIPAはIPAフィルター72を経て不純物の除去された状態でIPA回収タンク74に移動し続けつつ冷却されて経時的に液状に再凝縮される。また、前記IPAの凝縮のために別の冷却手段を設けても良い。前記IPA回収タンク74に集まったIPA液は洗浄液混合ユニット50のIPAタンク18、19に供給されてリサイクルされる。
【0036】前記IPAが溢れ出た後の加熱タンク70内には汚染された状態の超純水が残っている。前記超純水はDIWフィルター76を通過して浄化された後、DIW回収タンク78内に臨時貯蔵される。前記DIW回収タンク78内に集まったDIW液は洗浄液混合ユニット50のDIWタンク24、25に供給されてリサイクルされる。前記のように洗浄液をリサイクルすることによって洗浄液を大きく節約できる。
・・・・
【0038】前記循環ポンプ36により処理槽11に移動する洗浄液はまずフィルター38を通過しつつ浄化される。前記フィルター38は洗浄液を通過させ、内部に混ざっている不純物をろ過して洗浄液の使用時間を最大限に延ばす。前記フィルター38に直列に連結されたIPA濃度計40は循環する洗浄液内のIPAの濃度をチェックする。前記IPAは揮発性なので、洗浄液が循環し続ける間にはその濃度が徐々に薄くなり得るので、IPA濃度計40を設けて洗浄液内のIPAの濃度を持続的に点検する。前記IPA濃度計40を通じてIPAの濃度が薄くなったことを見つけた場合には、前記IPA補充ポンプ22、23を作動させてIPAタンク18、19内のIPAを混合タンク24、25にポンピングすることによって洗浄液の最適の濃度を回復させる。
【0039】また、前記液状微粒子検出器42は循環する洗浄液内の液状微粒子の量を検出して洗浄液の入れ替えの如何を決定可能にする。前記液状微粒子は前記フィルター38によりろ過されていない汚染物質である。前記洗浄液供給部52を通過して処理槽11内に供給された洗浄液は処理槽内でウェーハWを洗浄した後、処理槽11から溢れ出てリターンライン54に移動する。
【0040】前記リターンライン54を通じて流動する洗浄液は再び液状微粒子検出器43を通過する。前記液状微粒子検出器43は、処理槽11を通過した後の洗浄液内の液状微粒子を検出して洗浄済みの洗浄液の汚染程度を再びチェックする。前記リターンライン54を通過する洗浄液は開放されているリターン弁60または61を経て混合タンク24、25内に帰還する。」
(ウ) 「【0058】図13は、一定量のIPA及びDIWが混合されて構成された一定濃度の洗浄液を濃度変化無しに処理槽に供給できることを示す。図14は、処理槽に超純水だけを供給していてIPAの添加量を漸進的に増加させてIPA濃度が一定レベルに到達した時にIPAの添加を止めることを示す。図15は、処理槽に供給される洗浄液のIPA濃度を漸進的に増加させていてIPA濃度が一定のレベルに到達した時にIPAの添加を止めることを示す。
【0059】図16は、超純水に対するIPAの濃度を漸進的に変化させず、一定の時間間隔をおいて段階的に増加させうることを示す。図17は、図16の逆過程であって処理槽に純粋なIPAだけを供給していて所定の時間間隔で超純水を供給してIPA濃度を段階的に下げられることを示す。図18は、処理槽に一定のIPA濃度を有する洗浄液を供給していて、ある時点よりIPAの添加量を減らして結局超純水だけを供給できることを示す。」
(エ) 「【0061】
【発明の効果】以上述べたように、本発明に係る半導体ウェーハの洗浄・乾燥装置、及びこれを用いた洗浄・乾燥方法は、処理槽内に供給する超純水とIPAとを処理槽に供給する前に、あらかじめ完全に混合することによって洗浄・乾燥作業を効率よく行え、かつ洗浄液をリサイクルすることによって洗浄液の浪費を防止しうる。また、本発明では、被洗浄物として半導体ウェーハを例に取ったが、ウェーハに限定されず、液晶表示装置用基板、記録ディスク用基板またはマスク用基板などを含む様々な被洗浄物にも本発明を幅広く適用しうる。」
(オ) 図1には、混合タンク24及び25の洗浄液を、IPA濃度計40を含む洗浄液供給部52を介して、処理槽11に供給するパイプが図示されている。
(カ) 図1には、混合タンク24及び25に超純水(DIW)を供給するパイプが図示されている。

イ 以上より、刊行物1には以下の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。
「半導体ウエーハWの洗浄の行われる処理槽11を含み、イソプロピルアルコール(IPA)と超純水とよりなる混合液を洗浄液として用い、洗浄の行われる処理槽に供給する前に正確な濃度にあらかじめ混合する洗浄・乾燥装置であって、
IPAタンク18及び19から供給されるイソプロピルアルコール(IPA)と超純水(DIW)とを混合して一定濃度の洗浄液を得る混合タンク24及び25と、
混合タンク24及び25の一定濃度の洗浄液を、IPA濃度計40を介して、処理槽11に供給するパイプと、
処理槽11から溢れ出た洗浄液を、混合タンク24及び25内に帰還させるリターンライン54と、
混合タンク24及び25の下部に備えられている排液管64及び65を通じて、混合タンク24及び25の一方の汚染された洗浄液を回収ユニット82側に排出し、
回収ユニット82は、汚染された洗浄液を加熱して、超純水(DIW)とイソプロピルアルコール(IPA)に相互分離する加熱タンク70と、加熱タンク70の内部で気体状態に相変化したIPAの不純物を除去するIPAフィルター72と、IPAフィルター72を経た不純物の除去されたIPAを回収するIPA回収タンク74とを有し、
IPA回収タンク74に集まったIPA液をIPAタンク18及び19に供給し、リサイクルすることと、
IPA供給タンク18及び19から混合タンク24及び25にIPAを供給する連結パイプ56と、
混合タンク24及び25に超純水(DIW)を供給するパイプと、
洗浄液内のIPA濃度を点検するIPA濃度計40と、
IPA濃度計40を通じてIPAの濃度が薄くなったことを見つけた場合には、パイプ56に設けられたIPA補充ポンプ22及び23を作動させてIPAタンク18及び19内のIPAを混合タンク24及び25にポンピングすることによって、洗浄液の濃度を一定の濃度にすること
を有する洗浄・乾燥装置。」

(2) 刊行物2
ア 刊行物2には、図面とともに以下の記載がある。
(ア) 「【請求項1】 水を選択的に透過させる浸透気化膜を用いて水を除去する工程を含む、イオン性不純物と水分とを含有する有機液体の精製方法において、浸透気化膜モジュールに供給する前の液体及び浸透気化膜モジュールから抜き出した膜を透過していない液体の一方又は両方をイオン交換樹脂で処理することを特徴とする有機液体の精製方法。」
(イ) 「【0002】
【従来の技術】一般に、半導体ウェーハ等の加工に於いては、被処理物の水洗後に、イソプロピルアルコール(以下IPAと称す)等のアルコール類の蒸気による乾燥を行うため、いわゆる蒸気乾燥装置が使用される。蒸気乾燥装置は、例えば特開昭62-106630号公報に記載されているように、主として、水洗後の被処理物の表面で、アルコール類を主成分とする薬液の蒸気を凝縮させて乾燥を行う蒸気処理部、および該蒸気処理部から排出される凝縮液を回収して処理する工程からなる。該回収液中には水分が数%から数10%含まれていることが多く、アルコール類と共沸混合液体または沸点の近接した混合液体を形成する。このため、かつてはアルコール類に含有される水分が多くなると薬液を廃棄処分していた。近年、環境に対する配慮やコスト削減の要請から、水分の多くなったアルコール等の薬液を分離膜モジュールを使用した浸透気化法により精製して利用することが行われるようになった。水を選択的に透過する膜を用いて浸透気化法により含水アルコール類から水分を除去する場合、未精製アルコール類を分離膜の一方(1次側)に供給し、他方(2次側)を減圧に保持するか、または不活性ガス等を流通させて、2次側の水蒸気分圧を1次側の平衡蒸気圧よりも小さく保持することにより、水分を1次側から2次側に透過させることによって水分を除去している。
(ウ) 「【0030】
【発明の効果】本発明の方法によれば、半導体産業等で使用された有機液体を再使用できる程度まで精製できるので、産業上有用である。

イ 以上より、刊行物2には以下の発明(以下、「刊行物2発明」という。)が記載されていると認められる。
「浸透気化膜モジュールの前又は後でイオン交換樹脂で有機液体(イソプロピルアルコール)を精製するもの」


5 請求項1に係る発明(以下、「本願第1発明」という。)と刊行物1発明との対比

ア 刊行物1発明の「半導体ウエーハW」及び「洗浄の行われる処理槽」は、本願第1発明の「対象物」及び「洗浄装置」にそれぞれ相当する。そして、刊行物1発明の「洗浄・乾燥装置」は、「超純水とよりなる混合液を洗浄液として用い、洗浄の行われる処理槽に供給する前に正確な濃度にあらかじめ混合する」ことから、後述の相違点を除き、本願第1発明の「洗浄液を管理する液体管理システム」に相当するといえる。
そうすると、刊行物1発明の「半導体ウエーハWの洗浄の行われる処理槽11を含み、イソプロピルアルコール(IPA)と超純水とよりなる混合液を洗浄液として用い、洗浄の行われる処理槽に供給する前に正確な濃度にあらかじめ混合する洗浄・乾燥装置」は、後述の相違点を除き、本願第1発明の「対象物を洗浄する洗浄装置で使う洗浄液を管理する液体管理システム」に相当するといえる。

イ 刊行物1発明の「イソプロピルアルコール(IPA)」及び「超純水」は、本願第1発明の「アルコール」及び「純水」に相当する。また、刊行物1発明の「IPAタンク18及び19から供給されるイソプロピルアルコール(IPA)と超純水(DIW)とを混合して一定濃度の洗浄液を得る混合タンク24及び25」との構成から、「混合タンク24及び25」により、イソプロピルアルコール(IPA)と超純水(DIW)とを混合して洗浄液が作られていることは自明であるから、刊行物1発明の「混合タンク24及び25」は、本願第1発明の「混合手段」に相当するといえる。

ウ 刊行物1発明の「IPAタンク18及び19から供給されるイソプロピルアルコール(IPA)と超純水(DIW)とを混合して一定濃度の洗浄液を得る混合タンク24及び25」との構成及び「IPA濃度計40を通じてIPAの濃度が薄くなったことを見つけた場合には、IPA補充ポンプ22及び23を作動させてIPAタンク18及び19内のIPAを混合タンク24及び25にポンピングすることによって、混合タンク24及び25内で洗浄液の濃度を一定の濃度にすること」との構成から、刊行物1発明において、混合タンク24及び25内で、洗浄液中のアルコール濃度を所定の濃度範囲内に調整する濃度調整手段を有することは自明である。よって、刊行物1発明の上述の構成は、「前記混合手段で前記洗浄液中のアルコール濃度を所定の濃度範囲内に調整する濃度調整手段」に相当するといえる。
なお、刊行物第1発明の「濃度調整手段」と本願第1発明の「濃度調整手段」の詳細な構成とについては下記(キ、ク、ケ及びコ)において、詳細に記載する。

エ 刊行物1発明の「混合タンク24及び25の一定濃度の洗浄液を、IPA濃度計40を介して、処理槽11に供給するパイプ」との構成における、「混合タンク24及び25の一定濃度の洗浄液」は、上記ウより、本願第1発明の「その濃度調整された洗浄液」に相当するといえる。
そうすると、刊行物1発明の「混合タンク24及び25の一定濃度の洗浄液を、IPA濃度計40を介して、処理槽11に供給するパイプ」は、本願第1発明の「その濃度調整された洗浄液を前記洗浄装置へ供給するライン」に相当するといえる。

オ 刊行物1発明の「処理槽11から溢れ出た洗浄液を、混合タンク24及び25内に帰還させるリターンライン54」との構成から、「処理槽11」から排出された「洗浄液」を回収して、「混合タンク24及び25」内に戻す「リターンライン54」が特定されていることは明らかであるから、刊行物1発明の「処理槽11から溢れ出た洗浄液を、混合タンク24及び25内に帰還させるリターンライン54」は、本願第1発明の「前記洗浄装置から排出された洗浄液を回収して前記混合手段へ戻すライン」に相当するといえる。

カ 刊行物1発明は、「混合タンク24及び25の下部に備えられている排液管64及び65を通じて、混合タンク24及び25の一方の汚染された洗浄液を回収ユニット82側に排出し、回収ユニット82は、汚染された洗浄液を加熱して、超純水(DIW)とイソプロピルアルコール(IPA)に相互分離する加熱タンク70と、加熱タンク70の内部で気体状態に相変化したIPAの不純物を除去するIPAフィルター72と、IPAフィルター72を経た不純物の除去されたIPAを回収するIPA回収タンク74とを有し、IPA回収タンク74に集まったIPA液をIPAタンク18及び19に供給し、リサイクルすること」が特定されている。
上記「汚染された洗浄液」は、「汚染されている」ことから、上記オより、「処理槽11」から排出されている洗浄液であることは自明である。よって、刊行物1発明の「汚染された洗浄液」は、本願第1発明の「洗浄装置から排出された洗浄液」に相当するといえる。
また、上記「加熱タンク70」は、「超純水(DIW)とイソプロピルアルコール(IPA)に相互分離」していることから、「イソプロピルアルコール」を濃縮していることは自明である。よって、刊行物1発明の「加熱タンク70」は、本願第1発明の「アルコールを濃縮する濃縮装置」に相当するといえる。
また、上記「IPAフィルター72」は、「加熱タンク70の内部で気体状態に相変化したIPAの不純物を除去」していることから、本願第1発明の「不純物を除去する精製装置」に相当するといえる。
したがって、本願第1発明の「前記混合手段へ戻すライン上に設けられ、前記洗浄装置から排出された洗浄液中の不純物を除去する精製装置と、前記精製装置の上流側または下流側に位置し、前記洗浄装置から排出された洗浄液中のアルコールを濃縮する濃縮装置」と、刊行物1発明の「混合タンク24及び25の下部に備えられている排液管64及び65を通じて、混合タンク24及び25の一方の汚染された洗浄液を回収ユニット82側に排出し、回収ユニット82は、汚染された洗浄液を加熱して、超純水(DIW)とイソプロピルアルコール(IPA)に相互分離する加熱タンク70と、加熱タンク70の内部で気体状態に相変化したIPAの不純物を除去するIPAフィルター72と、IPAフィルター72を経た不純物の除去されたIPAを回収するIPA回収タンク74とを有し、IPA回収タンク74に集まったIPA液をIPAタンク18及び19に供給し、リサイクルすること」とは、「前記洗浄装置から排出された洗浄液中の不純物を除去する精製装置と、前記精製装置の上流側に位置し、前記洗浄装置から排出された洗浄液中のアルコールを濃縮する濃縮装置」との構成を備える点で共通するといえる。

キ 刊行物1発明の「混合タンク24及び25にIPAを供給する連結パイプ56」は、本願第1発明の「前記混合手段にアルコールを供給するアルコール供給手段」に相当する。

ク 刊行物1発明の「混合タンク24及び25に超純水(DIW)を供給するパイプ」は、本願第1発明の「前記混合手段に純水を供給する純水供給手段」に相当する

ケ 刊行物1発明において、「混合タンク24及び25の一定濃度の洗浄液を、IPA濃度計40を介して、処理槽11に供給するパイプ」との構成が特定されていることより、「IPA濃度計40」 が「混合タンク24及び25」と「処理槽11」とが接続する「パイプ」に「IPA濃度計40」が設けられていることは自明である。
本願明細書には、「混合槽4と洗浄装置100とが配管14aを介して互いに接続され、配管14aを含む第一の送液手段により、混合槽4から濃度調整された洗浄液が洗浄装置100へ送られる。ここで、混合槽4内の洗浄液の成分濃度と、混合槽4から流出した直後の洗浄液の成分濃度とは実質的に同一である。よって、配管14a上に濃度測定装置5を設ける場合も、配管14aから分岐させた不図示の配管に濃度測定装置5を接続する場合も、混合槽4内の洗浄液の成分濃度を測定することが可能である。すなわち、本発明における洗浄液の成分濃度測定には、混合槽4内の洗浄液の成分濃度を測定することと、混合槽4から流出した直後の洗浄液の成分濃度を測定することの双方が含まれる。」(【0026】)との記載があることを考慮すると、刊行物1発明の「IPA濃度計40」は、「混合タンク24及び25」の「洗浄液内のIPA濃度」を実質的に点検しているといえる。
そうすると、刊行物1発明の「IPA濃度を点検する」ことは、本願第1発明の「アルコール濃度を測定する」ことに相当するから、刊行物1発明の「洗浄液内のIPA濃度を点検するIPA濃度計40」は、本願発明の「前記混合手段によりアルコールと純水を混合した洗浄液のアルコール濃度を測定する濃度測定手段」に相当するといえる。

コ 刊行物1発明の「IPA濃度計40を通じてIPAの濃度が薄くなったことを見つけた場合には」との構成は、本願第1発明の「前記濃度測定手段の測定結果に基づいて」との構成に相当することは明らかである。
よって、上記ウ、キ、ク及びケより、本願第1発明の「前記濃度測定手段の測定結果に基づいて前記アルコール供給手段と前記純水供給手段の双方または一方を制御することにより、前記混合手段によりアルコールと純水を混合した洗浄液のアルコール濃度を所定の濃度範囲内に維持する濃度調整処理を実行する」ことと、刊行物1発明の「IPA濃度計40を通じてIPAの濃度が薄くなったことを見つけた場合には、パイプ56に設けられたIPA補充ポンプ22及び23を作動させてIPAタンク18及び19内のIPAを混合タンク24及び25にポンピングすることによって、混合タンク24及び25内で洗浄液の濃度を一定の濃度にすること」は、「前記濃度測定手段の測定結果に基づいて前記アルコール供給手段と前記純水供給手段の一方を制御することにより、前記混合手段によりアルコールと純水を混合した洗浄液のアルコール濃度を所定の濃度範囲内に維持する濃度調整処理を実行する第一の制御手段」という点で共通しているといえる。

サ 以上をまとめると、本願第1発明と刊行物1発明の、一致点及び相違点は次のとおりである。

(ア) 一致点
「 対象物を洗浄する洗浄装置で使う洗浄液を管理する液体管理システムであって、
アルコールと純水とを混合して洗浄液を作る混合手段と、
前記混合手段で前記洗浄液中のアルコール濃度を所定の濃度範囲内に調整する濃度調整手段と、
その濃度調整された洗浄液を前記洗浄装置へ供給するラインと、
前記洗浄装置から排出された洗浄液を回収して前記混合手段へ戻すラインと、
前記洗浄装置から排出された洗浄液中の不純物を除去する精製装置と、
前記精製装置の上流側に位置し、前記洗浄装置から排出された洗浄液中のアルコールを濃縮する濃縮装置と、を有し、
前記濃度調整手段は、
前記混合手段にアルコールを供給するアルコール供給手段と、
前記混合手段に純水を供給する純水供給手段と、
前記混合手段によりアルコールと純水を混合した洗浄液のアルコール濃度を測定する濃度測定手段と、
前記濃度測定手段の測定結果に基づいて前記アルコール供給手段と前記純水供給手段の一方を制御することにより、前記混合手段によりアルコールと純水を混合した洗浄液のアルコール濃度を所定の濃度範囲内に維持する濃度調整処理を実行する第一の制御手段と、
を有する液体管理システム。」

(イ) 相違点
・相違点1
本願第1発明において、「精製装置」を、「前記洗浄装置から排出された洗浄液を回収して前記混合手段へ戻すライン上」に設けることを特定しているのに対し、刊行物1発明の「IPAフィルタ72」は、「処理槽11」から排出された洗浄液を回収して「混合タンク24及び25」へ戻すライン上に設けられていない点。

・相違点2
本願第1発明において、「濃縮装置」は、「前記洗浄装置から排出された洗浄液を回収して前記混合手段へ戻すライン上」に設けられた「精製装置」の「上流側または下流側に位置し」ていることを特定しているのに対し、刊行物1発明の「加熱タンク70」は、「IPAフィルタ72」の上流側に設けられていることが特定されているものの、「加熱タンク」は、「処理槽11から溢れ出た洗浄液を、混合タンク24及び25内に帰還させるリターンライン54」上に設けられていない点。

(ウ) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本願第1発明と刊行物1発明とを対比して、「刊行物1において、洗浄液混合ユニット50の混合タンク24,25→供給パイプ58→処理槽11→リターンライン54→混合タンク24,25→排液管64,65→回収ユニット82の加熱タンク70→IPAフィルター74(DIWフィルター76)→IPA回収タンク74(DIW回収タンク78)→IPAタンク18,19→連結パイプ56→混合タンク24、25の全体を「洗浄装置である処理槽11から排出された洗浄液を回収して混合手段である洗浄液混合ユニット50に戻すライン」とみなすことができ」ると主張している。
しかしながら、特許異議申立人の上記の主張は採用できない。その理由は以下のとおりである。
処理槽11(本願第1発明の「洗浄装置」に相当)と混合タンク24及び25(本願第1発明の「混合手段」に相当)の間に設けるリターンライン54が、処理槽11から排出された洗浄液を混合タンク24及び25に戻していることから、上記オのとおり、刊行物発明の「処理槽11から溢れ出た洗浄液を、混合タンク24及び25内に帰還させるリターンライン54」が、本願第1発明の「前記洗浄装置から排出された洗浄液を回収して前記混合手段に戻すライン」に相当することは明らかである。

6 相違点についての検討
相違点1及び2をまとめて判断する。
刊行物2には、「浸透気化膜モジュール」(本願第1発明の「濃縮装置」に相当)及び「イオン交換樹脂」(本願第1発明の「精製装置」に相当)についての記載がある。

しかしながら、刊行物1及び2のいずれにも、「精製装置」を「前記洗浄装置から排出された洗浄液を回収して前記混合手段へ戻すライン上」に設けること、及び、「前記混合手段へ戻すライン上に設けられ」た「精製装置」の「上流側または下流側」に「濃縮装置」を位置させる旨の記載も示唆もされていない。
したがって、刊行物1発明において「精製装置」を「処理槽11から溢れ出た洗浄液を、混合タンク24及び25内に帰還させるリターンライン54」に設けること、及び、前記精製装置の「上流側または下流側」に「濃縮装置」を位置させることは、刊行物1及び2のいずれの記載に基づいても、当業者が容易に想到し得たということはできない。
そして、本願明細書の記載によれば、本願第1発明は、相違点1及び2それぞれに係る構成によって、「本実施形態では、洗浄装置100から混合槽4へ洗浄液を回収するための液体回収路に濃縮器16を設けたことにより、回収する洗浄液の濃縮を行い、洗浄液を循環させられる。よって、濃度調整のために添加するIPAの使用量を少なくすることができる」(【0040】)、及び「精製装置17が濃縮器16の前段と後段のいずれか一方または両方に設けられている。このため、高純度の洗浄液を安定して洗浄装置100へ供給することができる」(【0070】)との格別の作用効果を奏する。

7 小括
以上より、請求項1に係る発明(本願第1発明)は、刊行物1及び2に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

8 請求項3及び4に係る発明
請求項3及び4に係る発明は、請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記請求項1に係る発明(本願第1発明)についての判断と同様の理由により、上記刊行物1及び2に記載の発明から当業者が容易になし得るものではない。
以上のとおりであるから、請求項3及び4に係る発明は、刊行物1及び2に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

9 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申し立ての理由及び証拠によっては、請求項1、3及び4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、3及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-07-28 
出願番号 特願2013-550257(P2013-550257)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 井上 弘亘  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 小田 浩
柴山 将隆

登録日 2015-10-09 
登録番号 特許第5819987号(P5819987)
権利者 オルガノ株式会社
発明の名称 液体管理システムおよび液体管理方法  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 緒方 雅昭  

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