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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 一部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1318071
異議申立番号 異議2016-700206  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-09 
確定日 2016-08-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第5775900号発明「スパッタリングターゲット、酸化物半導体膜及び半導体デバイス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5775900号の請求項1、6及び7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5775900号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成25年 4月 8日に特許出願され、平成27年 7月10日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 尾田久敏により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年 5月23日付けで取消理由を通知し、平成28年7月14日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし10の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1及び6の特許に係る発明は以下のとおりのものである。

「【請求項1】
インジウムを含有した結晶質酸化物を半導体として用いた電界効果型トランジスタであって、
前記結晶質酸化物が非縮退半導体であり、
前記結晶質酸化物が、酸化インジウムのビックスバイト構造を有し、前記インジウムを除く正三価元素を含み、
前記結晶質酸化物の電子キャリア濃度が10^(18)/cm^(3)未満であり、
前記結晶質酸化物を、チャンネル層として用いたことを特徴とする電界効果型トランジスタ。」
「【請求項6】
前記正三価元素が、B、Al、Ga、Sc、Y及びランタノイド元素のうち少なくとも一つ以上の元素であることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の電界効果型トランジスタ。」

第3 取り消し理由の概要
平成28年 5月23日付けで取消理由の概要は次のとおりである。
「 1.本件特許は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

●理由1
・請求項1,6
請求項1,6に係る発明には、「インジウムを除く正三価元素」との記載があるが、「インジウムを除く正三価元素」として、「ランタノイド以外の正三価元素」も含みうると認められる。そして、特許異議申立書第27ページ第18行-第29頁第27行の(4-1)記載不備(サポート要件)に記載された理由により、請求項1,6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであると認めることができない。
よって、請求項1,6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 」

第4 当審の判断
1 本件特許の請求項1及び6の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」及び「本件発明6」という。)は、前記第2のとおりである。

2 発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(ア) 「【0018】
上記目的を達成するために、本発明の第2の態様の半導体デバイスは、インジウムを含有した結晶質酸化物を半導体として用いた半導体デバイスであって、前記結晶質酸化物の電子キャリア濃度が10^(18)/cm^(3)未満である。
このように、非晶質に比べて優れた特性を有する結晶質酸化物を半導体として用いることにより、半導体デバイスの安定性、均一性、再現性、耐熱性、耐久性等を向上させることができる。また、半導体デバイスがTFT等の電界効果型トランジスタである場合、透明性、電気的特性、大面積均一性、再現性等に優れたトランジスタを提供することができる。なお、半導体デバイスとは、半導体素子、半導体部品、半導体装置、集積回路等をいう。
【0019】
また、好ましくは、前記結晶質酸化物が非縮退半導体であるとよい。
このようにすると、off電流を小さくすることができ、on/off比を大きくすることができる。
また、非縮退半導体とは、非縮退伝導を示す半導体をいい、ここでの非縮退伝導とは、電気抵抗の温度依存性における熱活性化エネルギーが、30meV以上の状態をいう。
・・・・
【0024】
また、好ましくは、前記結晶質酸化物が、前記インジウムを除く正三価元素を含むとよい。
このようにすると、酸素欠損の発生を抑える効果がある。また、正二価元素と正三価元素を同時に使用すれば、さらに効果的にキャリア発生を抑制することができる。
また、結晶質酸化物からなる薄膜の電子移動度は、単結晶の電子移動度と比較すると、減少するものの、大きな電子移動度を有することができる。
さらに、結晶質酸化物からなる薄膜は、酸素の固定がより安定化する。また、電界効果移動度が高く、かつ、安定した結晶質酸化物の組成範囲を広げることができる。
【0025】
また、好ましくは、前記正三価元素が、B、Al、Ga、Sc、Y及びランタノイド元素のうち少なくとも一つ以上の元素であるとよい。
このようにすると、B、Al、Ga、Sc、Y及びランタノイド元素の強いイオン結合性によって、結晶質酸化物が効果的に安定化する。
また、ランタノイド元素として、La,Nd,Sm,Eu,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu等が挙げられる。
【0026】
また、好ましくは、前記結晶質酸化物に含まれる全金属元素の原子の数(=[A])に対する前記正三価元素の原子の数(=[M3])の原子比が、
0.001≦[M3]/[A]<0.2
であるとよい。
このようにすると、非常に安定な結晶質酸化物を得ることができる。また、電子キャリア濃度を10^(18)/cm^(3)未満に制御できる。」

(イ) 「【0062】
上記のようにして得られた本発明の酸化物半導体膜は、インジウム、及びガドリニウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム及びイッテルビウムから選ばれる元素を少なくとも1種以上を含み、実質的にビックスバイト構造からなる。
本発明の酸化物半導体膜は、比較的低温で結晶化できることから、結晶中の酸素を安定化することができ、酸素欠損量の少ない酸化物半導体膜である。従って、本発明の酸化物半導体膜は、酸素欠損により発生するキャリヤーの発生が抑制でき、例えばキャリヤー密度1.0×E^(17)cm^(-3)台以下、on/off比が10^(4)台以上、及びノーマリーオフを示す等の安定した半導体特性を有する」

(ウ) 「【0063】
以下、本発明の第2の態様の半導体デバイスについて詳細に説明する。
[半導体デバイスの一実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係る半導体デバイスである、電界効果型薄膜トランジスタの要部の概略断面図を示している。
図1において、電界効果型薄膜トランジスタ1(適宜、TFT1と略称する。)は、ガラス基板10上に形成されたゲート電極25と、ガラス基板10及びゲート電極25上に形成されたゲート絶縁膜24と、ゲート電極25の上方のゲート絶縁膜24上に形成された、チャンネル層としての結晶質酸化物21と、結晶質酸化物21及びゲート絶縁膜24上に離れて形成されたソース電極22及びドレイン電極23とを備えている。
尚、TFT1は、上記構成のボトムゲート型のTFTに限定されるものではなく、例えば、トップゲート型等の様々な構成のTFTであってもよい。また、TFT1が形成される基体は、透明なガラス基板10に限定されるものではなく、例えば、樹脂基板や可撓性を有する樹脂フィルム等であってもよく、また、半透明又は遮光性の基板であってもよい。
【0064】
TFT1は、In(インジウム)を含有した結晶質酸化物21がN型半導体(本実施形態では、チャンネル層)として用いられている。また、結晶質酸化物21の電子キャリア濃度は、10^(18)/cm^(3)未満としてある。ここで、電子キャリア濃度を10^(18)/cm^(3)未満とした理由は、電子キャリア濃度が10^(18)/cm^(3)以上の酸化物をTFT1のチャンネル層に用いた場合、on-off比を十分に大きくすることができないからである。また、TFT1のゲート電圧が無印加時でも、ソース電極22とドレイン電極23の間に大きな電流が流れてしまい、ノーマリーオフ動作を実現できないからである。即ち、TFT1の活性層として、電子キャリア濃度が10^(18)/cm^(3)未満の結晶質酸化物21を用いているTFT1を作製したところ、所望の特性のTFT1が得られることを発見したものである。
【0065】
また、本発明に係る結晶質酸化物21の電子キャリア濃度は、室温で測定する場合の値である。室温とは、例えば25℃であり、具体的には約0?40℃程度の範囲から適宜選択されるある温度である。尚、本発明に係る結晶質酸化物21の電子キャリア濃度は、約0?40℃の範囲全てにおいて、10^(18)/cm^(3)未満を充足する必要はない。例えば、約25℃において、キャリア電子密度10^(18)/cm^(3)未満が実現されていればよい。また、好ましくは、電子キャリア濃度をさらに下げ、10^(17)/cm^(3)以下とするとよく、より好ましくは10^(16)/cm^(3)以下にするとよい。このようにすると、ノーマリーオフのTFT1が歩留まり良く得られる。
【0066】
また、結晶質酸化物21における電子キャリア濃度の下限値は、TFTのチャンネル層として適用できれば特に限定されるものではない。従って、本発明においては、後述する各実施例のように結晶酸化物の材料、組成比、製造条件、後処理条件等を制御して、例えば、電子キャリア濃度を、10^(12)/cm^(3)以上10^(18)/cm^(3)未満とする。また、好ましくは10^(13)/cm^(3)以上10^(17)/cm^(3)以下、さらに好ましくは、10^(15)/cm^(3)以上10^(16)/cm^(3)以下の範囲にするとよい。このようにすると、所定の大きさの電子移動度を有し、且つ、ノーマリーオフのTFT1が歩留まり良く得られる。
また、電子キャリア濃度の測定は、ホール効果測定により求める。約10^(17)/cm^(3)未満の電子キャリア濃度の測定は、ACホール測定で行うことが好ましい。この理由は、DCホール測定では測定値のばらつきが大きく、測定の信頼性が低くなるおそれがあるからである。
・・・・
【0074】
また、上記結晶質酸化物21は、正二価元素の代わりに、前記インジウムを除く正三価元素を含有していてもよい。
このようにしても、酸素欠損により生じるキャリアを消滅させる効果によって、電子キャリア濃度を低減することができる。また、この結晶質酸化物21からなる薄膜の電子移動度は、単結晶の電子移動度と比較すると劣るものの、大きな電子移動度を有することができる。さらに、正三価元素を含有することにより、結晶質酸化物21からなる薄膜は、より安定化する。また、電界効果移動度が高く、且つ、安定した結晶質酸化物の組成範囲を広げることもできる。
また、上記正二価元素と正三価元素のうちいずれか一方を含有する構成に限定されるものではなく、例えば、上記正二価元素と正三価元素を含有する構成としてもよく、このようにすると、さらに効果的にキャリアの発生を抑制することができる。
尚、Inを含む結晶質酸化物21では、酸素と金属イオンとがイオン結合している。これにより、二価、三価の金属酸化物は、イオン性のキャリア散乱因子になることはない。つまり、Zn、Mg、Ni、Co及びCuのうち少なくとも一つ以上の元素、若しくは、B、Al、Ga、Sc、Y及びランタノイド元素のうち少なくとも一つ以上の元素、又は、Zn、Mg、Ni、Co及びCuのうち少なくとも一つ以上の元素とB、Al、Ga、Sc、Y及びランタノイド元素のうち少なくとも一つ以上の元素とを含む、結晶質酸化物21の電子移動度は、単結晶の電子移動度と比較すると劣るものの、同程度の大きさを有することが可能となる。
【0075】
また、好ましくは、上記正三価元素は、B、Al、Ga、Sc、Y及びランタノイド元素のうち少なくとも一つ以上の元素であるとよい。
このようにすると、B、Al、Ga、Sc、Y及びランタノイド元素の強いイオン結合性によって、結晶質酸化物が効果的に安定化する。また、イオン半径の差の小さいイオンから構成される複合酸化インジウムは、結晶相がより安定化する。例えば、In-ランタノイド元素-酸素系の結晶質酸化物21では、ランタノイド元素の原子番号が大きくなるほどイオン半径は小さくなり、インジウムのイオン半径に近づく。これにより、原子番号
の小さなイオンでは、熱処理での安定な結晶質酸化インジウム膜は得難いが、Inとランタノイド元素の比を全金属原子に対して、0.5原子%?10原子%添加することにより、安定な結晶質膜を得ることができる。また、原子番号の大きなイオンでは、熱処理で安定な結晶質酸化インジウム膜が得やすくなり、Inとランタノイド元素の比を全金属原子に対して、0.5原子%?10原子%添加することにより、非常に安定な結晶質膜を得ることができる。
また、B、Al、Ga、Sc、Y及びランタノイド元素は、酸素との結合が強く(金属の仕事関数がIn金属より小さい)、結晶化したときに酸素欠陥を生じにくい。さらに、Zn、Mg、Ni、Co及びCuのうち少なくとも一つの元素を添加し、複合酸化インジウムとすることにより、一部の酸素欠損で生じたキャリアを制御し、キャリアを発生しにくくなる。
【0076】
また、好ましくは、結晶質酸化物21に含まれる全金属元素の原子の数(=[A])に対する前記正三価元素の原子の数(=[M3])の原子比が、
0.001≦[M3]/[A]<0.2
であるとよい。
このようにすると、より安定な結晶質酸化物を得ることができる。また、電子キャリア濃度を10^(18)/cm^(3)未満に制御できる。
また、正三価元素として、通常、B、Al、Ga、Sc、Y及びランタノイド元素のうち少なくとも一つ以上の元素が用いられ、結晶質酸化物21の全金属元素に対するB、Al、Ga、Sc、Y及びランタノイド元素の添加量としては、0.1原子%以上、且つ、20原子%未満としてある。この理由は、0.1原子%未満では、添加効果が小さく、電子キャリア濃度を低減することができない場合があり、また、20原子%以上では、結晶化する温度が高くなりすぎ、実用的でなくなるからである。好ましくは、0.005≦[M3]/[A]<0.1、より好ましくは、0.01≦[M3]/[A]<0.08である。尚、例えば、Bの代わりにYを選択しても、ほぼ同様の結果が得られ、B、Al、Ga、Sc、Y及びランタノイド元素は、それぞれほぼ同様の効果を奏する。」

(エ) 「【0078】
成膜例1
Zn、Mg、Ni、Co及びCuの少なくとも一つを含む酸化インジウム、又は、B、Al、Ga、Sc、Y及びランタノイド元素を含む透明酸化インジウム組成を有する多結晶焼結体をターゲットとして、スパッタ法により、上記結晶質酸化物21を成膜できる。尚、一般的に、結晶質酸化インジウムの成膜方法としては、パルスレーザー蒸着法(PLD法)、スパッタ法(SP法)及び電子ビーム蒸着法等の気相法が用いられる。PLD法は、材料系の組成を制御しやすく、SP法は、量産性の点から優れている。ただし、成膜方法は、特に限定されるものではない。
上記多結晶ターゲットには、Zn、Mg、Ni、Co及びCuの少なくとも一つを含む酸化インジウム、又は、B、Al、Ga、Sc、Y及びランタノイド元素を含む酸化インジウム組成の焼結体ターゲット(サイズ:直径4インチ、厚さ5mm)を用いることができる。これは、出発原料として、In_(2)O_(3)と、Zn、Mg、Ni、Co及びCuの少なくとも一つ又はB、Al、Ga、Sc、Y及びランタノイド元素の少なくとも一つ(各4N試薬)を湿式混合した後(溶媒:エタノール)、造粒し、一軸プレス成型や静圧冷間プレス成型を行い、本焼結(1450℃にて36時間)を経て作製できる。
【0079】
上述の方法で製造したZnO換算で5wt%のZnを添加した場合のIn_(2)O_(3)ターゲット、MgO換算で3wt%のMgを添加した場合のIn_(2)O_(3)ターゲット、NiO換算で2wt%のNiを添加したIn_(2)O_(3)ターゲット、CoO換算で2wt%のCoを添加した場合のIn_(2)O_(3)ターゲット、CuO換算で1wt%のCuを添加した場合のIn_(2)O_(3)ターゲット、B_(2)O_(3)換算で2wt%のBを添加した場合のIn_(2)O_(3)ターゲット、Al_(2)O_(3)換算で2wt%のAlを添加した場合のIn_(2)O_(3)ターゲット、Ga_(2)O_(3)換算で4wt%のGaを添加した場合のIn_(2)O_(3)ターゲット、Sc_(2)O_(3)換算で3wt%のScを添加した場合のIn_(2)O_(3)ターゲット、Y_(2)O_(3)換算で3wt%のYを添加した場合のIn_(2)O_(3)ターゲット、三価のランタノイド元素酸化物換算で1wt%の三価のランタノイド元素を添加した場合のIn_(2)O_(3)ターゲットの比抵抗は、いずれもほぼ0.005(Ωcm)であった。
【0080】
次に、成膜室の到達真空を5×10^(-6)Paにして、成膜中のアルゴンガス(酸素3%を含む)を0.3Paに制御し、基板温度を室温として、上記ターゲットをそれぞれ用いてスパッタ成膜を行い、約40分にて厚さ100nmの酸化インジウム薄膜を得た。また、スパッタ圧は、約0.1Pa以上2.0Pa未満になるように制御することが望ましい。
続いて、得られた薄膜について、薄膜のすれすれ入射X線回折(薄膜法、入射角0.5度)を行ったところ、明瞭な回折ピークは認められなかったことから、作製した酸化インジウム薄膜はいずれもアモルファスであった。これら薄膜を1時間空気中で200℃以上に加熱した後、薄膜のすれすれ入射X線回折(薄膜法、入射角0.5度)を行ったところ、いずれも明瞭な回折ピークが現れ、結晶化しており、結晶質酸化物21からなる薄膜を得た。
さらに、X線反射率測定を行い、パターンの解析を行った結果、薄膜の平均二乗粗さ(Rrms)はいずれも約0.8nmであった。また、比抵抗は、いずれも約10^(2)Ωcm以上であった。このことから、いずれも電子キャリア濃度は約10^(16)/cm^(3)、電子移動度は約7cm^(2)/(V・sec)と推定された。
尚、電子キャリア濃度は、東洋テクニカ社製ホール測定装置に用いて測定した。
また、光吸収スペクトルの解析から、作製したアモルファス薄膜の禁制帯エネルギー幅は、約3.2eVであった。さらに、この半導体薄膜は、分光光度計により波長約400nmの光線についての光線透過率が約85%であり、透明性においても優れたものであった。
以上のことから、作製した結晶質酸化物21は、酸素欠損が少なく、電気伝導度が小さな透明な平坦化した薄膜であった。」

(オ) 「【0082】
[結晶質酸化物の結晶化温度と電子キャリア濃度に関する測定結果]
図2は、成膜例1に係る結晶質酸化物の結晶化温度と電子キャリア濃度のグラフを示している。
図2において、細線は、酸化インジウムに、正二価元素(Zn、Mg、Ni、Co、Cuのうち、代表としてZn)を含む結晶質酸化物21(適宜、細線の結晶質酸化物と略称する。)について示している。細線の結晶質酸化物には、酸化亜鉛を約5wt%含有し、残量が酸化インジウムであるスパッタリングターゲットを用いた。また、空気中にて各温度で1時間の熱処理を行い、ホール測定によりキャリア濃度を測定するとともに、同じサンプルを用いてX線回折法により結晶性を確認した。
また、点線は、酸化インジウムに、前記インジウム以外の正三価元素(B、Al、Ga、Sc、Y、La,Nd,Sm,Eu,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luのうち、代表としてYb)を含む結晶質酸化物21(適宜、点線の結晶質酸化物と略称する。)について示している。点線の結晶質酸化物には、酸化イッテルビウムを約1wt%含有し、残量が酸化インジウムであるスパッタリングターゲットを用いた。また、空気中にて各温度で1時間の熱処理を行い、ホール測定によりキャリア濃度を測定するとともに、同じサンプルを用いてX線回折法により結晶性を確認した。
さらに、太い破線は、酸化インジウムのみの結晶質酸化物(適宜、破線の結晶質酸化物と略称する。)について示している。
【0083】
測定に用いた各細線の結晶質酸化物、点線の結晶質酸化物及び破線の結晶質酸化物は、結晶化温度等を除き、上記成膜例1とほぼ同様に製作され、結晶化温度に対して電子キャリア濃度を測定した。
細線の結晶質酸化物は、結晶化温度が、約200℃から電子キャリア濃度が急激に低下し、約230℃でこの低下が止まり、例えば、約250℃で結晶化させると、電子キャリア濃度は約5×10^(15)/cm^(3)であった。また、X線回折により確認したところ、180℃以上の温度で加熱処理した酸化物は、明確なピークが観察され、ビックスバイト構造であることが確認できた。さらに、Znの代わりに、Mg、Ni、Co又はCuを約5原子%添加して、同様の確認をおこなったが、各場合ともほぼ同じ結果が得られた。
また、点線の結晶質酸化物は、結晶化温度が、約200℃から電子キャリア濃度が急激に低下し、約230℃でこの低下が止まり、例えば、約250℃で結晶化させると、電子キャリア濃度は約10^(16)/cm^(3)であった。また、X線回折により確認したところ、180℃以上の温度で加熱処理した酸化物は、明確なピークが観察され、ビックスバイト構造であることが確認できた。さらに、Ybの代わりに、B,Al,Ga,Sc,Y,La,Nd,Sm,Eu,Gd,Dy,Ho,Er,Tm又はLuを約4原子%添加して、同様の確認をおこなったが、各場合ともほぼ同じ結果が得られた。
一方、破線の結晶質酸化物は、結晶化温度が、約220℃から電子キャリア濃度が急激に低下するが、約240℃でこの低下も止まり、例えば、約250℃で結晶化させたとしても、電子キャリア濃度は約10^(19)/cm^(3)であった。
即ち、点線の結晶質酸化物及び細線の結晶質酸化物は、結晶化温度を制御することにより、半導体として好ましい電子キャリア濃度(約10^(18)/cm^(3)未満)を有することができた。
また、破線の結晶質酸化物は、約160℃で結晶化が開始した。即ち、約160℃まで加熱すると、X線回折にてピークが観察され、結晶化が始まっていた。これに対し、細線の結晶質酸化物及び点線の結晶質酸化物においては、結晶化温度を低めに設定する場合には、添加量を少なめに設定すればよく、結晶化温度を高めに設定できる場合は、添加量を多めに設定すればよい。
【0084】
尚、電子キャリア濃度を測定するためのホール測定装置、及びその測定条件は下記のとおりであった。
[ホール測定装置]
東陽テクニカ製:Resi Test8310
[測定条件]
室温(約25℃)、約0.5[T]、約10^(-4)?10^(-12)A、AC磁場ホール測定
【0085】
上記測定結果等から、効果的に電子キャリア濃度を制御するには、酸素を含む雰囲気中の温度を150℃以上500℃以下、好ましくは、200℃以上300℃以下、さらに好ましくは250℃以上300℃以下で加熱するのがよい。
また、結晶化処理を、酸素を所定濃度含む雰囲気中で行うことによって、効果的に結晶化を制御することもできる。
さらに、図示してないが、正二価元素や正三価元素の添加量をさらに増やし、結晶化しやすくするために高温で成膜した後、さらに熱処理温度も高温で処理すると、電子キャリア濃度をさらに低下させることができた。
また、本発明における電子キャリア濃度の下限としては、得られる酸化インジウム膜をどのような素子や回路又は装置に用いるかにもよるが、例えば10^(14)/cm^(3)である。
尚、本実施形態では、まず、低温で非晶質の酸化物を成膜し、次に、結晶化温度まで加熱して、所望のキャリア濃度の結晶質酸化物21としているが、これに限定されるものではなく、例えば、成膜する際に、高温で成膜し結晶質酸化物21を形成する方法としてもよい。
さらに、成膜時に酸素を含む雰囲気中で行い、且つ、成膜後の結晶化処理でも酸素を含む雰囲気中で処理してもよい。また、所定の電子キャリア濃度(10^(18)/cm^(3)未満)を得られるのであれば、成膜時には、酸素分圧制御は行わないで、成膜後の後の結晶化処理を、酸素を含む雰囲気中で行ってもよい。」

3 判断
ア 本件発明1について
上記2(ア)より、「前記結晶質酸化物が非縮退半導体である」(【0019】)との記載がある。また、結晶質酸化物において、B、Al、Ga、Sc、Y及びランタノイド元素が含まれることが好ましい旨の記載がある(【0024】、【0025】、【0074】及び【0075】)。そして、上記2(イ)、(エ)及び(オ)より、酸化インジウムのビックスバイト構造を有し、電子キャリア濃度が10^(18)/cm^(3)未満である結晶質酸化物の材料に、「B、Al、Ga、Sc、Y及びランタノイド元素」が含まれ、その製造方法(組成比、製造条件等(熱処理条件等))が具体的に記載されている。
よって、これらの記載から、発明の詳細な説明には、非縮退半導体であり、酸化インジウムのビックスバイト構造を有し、電子キャリア濃度が10^(18)/cm^(3)未満である結晶質酸化物の材料に、「B、Al、Ga、Sc、Y及びランタノイド元素」を含むことが記載されているといえる。
また、上記2(ア)及び(ウ)には、酸化インジウムの結晶質酸化物の材料に、電子キャリア濃度が10^(18)/cm^(3)未満である結晶質酸化物の材料に「インジウムを除く正三価元素」を含む旨が記載され、その好ましい組成比も記載されている(【0024】、【0026】、【0064】及び【0074】)。また、上記2(ウ)には、結晶酸化物の材料、組成比、製造条件、後処理条件等を制御して、電子キャリア濃度を10^(18)/cm^(3)未満とする旨の記載もある(【0066】)。
さらに、発明の詳細な説明には、インジウムを除く正三価元素を用いる効果として、「酸素欠損により生じるキャリアを消滅させる効果によって、電子キャリア濃度を低減することができる」こと、「薄膜の電子移動度は、単結晶の電子移動度と比較すると劣るものの、大きな電子移動度を有することができること」、及び、「結晶質酸化物21からなる薄膜は、より安定化すること」の記載もある(【0074】)。
これらの記載を総合的に判断すると、発明の詳細な説明には、「酸化インジウムのビックスバイト構造を有し、電子キャリア濃度が10^(18)/cm^(3)未満である結晶質酸化物の材料として、「B、Al、Ga、Sc、Y及びランタノイド元素」を含むことから、「正三化元素」を含むことまで拡張ないし一般化することができると認められる。
以上より、本発明1の「前記結晶質酸化物が、酸化インジウムのビックスバイト構造を有し、前記インジウムを除く正三価元素を含み、前記結晶質酸化物の電子キャリア濃度が10^(18)/cm^(3)未満であ」る構成は、発明の詳細な説明に記載された発明であると認められる。

イ 本件発明6について
上記アより発明の詳細な説明には、非縮退半導体であり、酸化インジウムのビックスバイト構造を有し、電子キャリア濃度が10^(18)/cm^(3)未満である結晶質酸化物の材料に、「B、Al、Ga、Sc、Y及びランタノイド元素」を含むことが記載されているといえる。
よって、本発明6の「前記正三価元素が、B、Al、Ga、Sc、Y及びランタノイド元素のうち少なくとも一つ以上の元素であること」は、発明の詳細な説明に記載された発明であると認められる。

第5 むすび
以上のとおり、上記取り消し理由によっては、本件特許の請求項1及び6に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1、6及び7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-08-01 
出願番号 特願2013-80129(P2013-80129)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (H01L)
P 1 652・ 537- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 聡一郎川原 光司岩本 勉  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 加藤 浩一

柴山 将隆
登録日 2015-07-10 
登録番号 特許第5775900号(P5775900)
権利者 出光興産株式会社
発明の名称 スパッタリングターゲット、酸化物半導体膜及び半導体デバイス  
代理人 渡邊 喜平  
代理人 佐藤 猛  
代理人 田中 有子  

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