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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 1項1号公知  A23L
審判 全部申し立て 1項2号公然実施  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
管理番号 1318077
異議申立番号 異議2015-700053  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-02 
確定日 2016-08-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第5700507号発明「容器詰めタラコ含有ソース」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5700507号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5700507号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成22年8月19日に特許出願され、平成27年2月27日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人 日本水産株式会社及び石井宏司により特許異議の申立てがなされ、平成27年12月25日付けで取消理由が通知され、その指定期間内に平成28年3月4日付けの意見書が提出され、平成28年4月6日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内に平成28年6月8日付けの意見書が提出されたものである。

第2 本件特許
特許第5700507号の請求項1ないし3に係る発明は、特許明細書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
タラコ、バター及び蛋白加水分解物を含有し、
前記タラコ原料として、少なくとも水子及び真子が使用され、
水子と真子の含有割合が質量比で10:90?90:10であることを特徴とする
容器詰めタラコ含有ソース。
【請求項2】
タラコ含有ソースに対して、
前記タラコの含有量が生換算で3?80%、
前記バターの含有量が1?10%、
及び前記蛋白加水分解物の含有量が0.05?3%である
請求項1記載の容器詰めタラコ含有ソース。
【請求項3】
前記蛋白加水分解物が、植物性蛋白の加水分解物及び動物性蛋白の加水分解物である
請求項1又は2記載の容器詰めタラコ含有ソース。」

第3 取消理由についての判断
1 平成27年12月25日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1) 本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が「水子と真子を区別する方法、すなわち、放卵開始前と開始後を区別する方法が不明である」点で不備のため、特許法第36条第4項第1号並びに第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消すべきものである(以下、「取消理由1」という。)。
(2) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が「請求項1に記載された『少なくとも』は発明を不明確にしている」点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消すべきものである(以下、「取消理由2」という。)。
(3) 本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明であるから、特許法第29条第1項第1号に該当し、また、その出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものであるか、その出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明、または、その出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである(以下、「取消理由3」という。)。
(3-1) 本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、特許異議申立人 石井宏司の提出した甲第1号証(日清フーズ株式会社製造の商品『たらこクリーム 生風味』を写した写真)に係る発明と同一であり、その出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明であるから、特許法第29条第1項第1号に該当し、また、その出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができない(以下、「取消理由3-1」という。)。
(3-1) 本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、特許異議申立人 石井宏司の提出した甲第1号証に係る発明に基づいて、すなわち、その出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明、または、その出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(以下、「取消理由3-2」という。)。
(4) 本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物1ないし6に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである(以下、「取消理由4」という。)。
<刊行物一覧>
・刊行物1:特開2001-224344号公報(特許異議申立人 日本水産株式会社の提出した甲第3号証(以下、「1の甲3」等という。)、同じく特許異議申立人 石井宏司の提出した甲第2号証(以下、「2の甲2」等という。))
・刊行物2:ニッスイGLOBAL、No.65、2010年4月6日発行、日本水産株式会社、p2-6(1の甲1)
・刊行物3:今西一・中谷三男著、「明太子開発史-そのルーツを探る-」、初版、株式会社成山堂書店、平成20年8月28日、p.202-203(2の甲10)
・刊行物4:日高徹著、「[改訂]食品添加物のここが知りたいQ&A」、改訂第1刷、財団法人 日本食品衛生協会、2001年2月20日、p.106-107(1の甲4)
・刊行物5:特公昭59-40410号公報(2の甲7)
・刊行物6:特開2001-218571号公報(2の甲8)

2 取消理由1については、以下のとおり理由がない。
(1) 水子と真子の定義については、本件特許明細書の【0015】に明確にされている。すなわち、水子は「放卵が始まっている卵巣」、真子は「放卵開始前の卵巣」というようにそれぞれ明確に定義されており、放卵開始の前後という基準でそれぞれの意味内容を明確に理解することができる。
(2) 水子と真子の定義が明確であるから、仮に魚卵粒を取り出した状態では水子であったのか真子であったのかを区別し難いといえども、腹子の状態のそれらは区別し難いものではなく、本件特許発明を実施することが困難であるとはいえない。
(3) 本件特許明細書の【0034】の【表1】及び【0035】には、本件特許明細書中の定義に沿った水子と真子とを用いた試験例について充分に開示がなされており、いわゆるサポート要件に欠けているということはできない。

3 取消理由2については、以下のとおり理由がない。
(1) 請求項1には、「前記タラコ原料として、少なくとも水子及び真子が使用され、」と記載されている。このうち「『少なくとも』水子及び真子が使用され、」との特定により、タラコ原料として使用されるものとして、「水子」及び「真子」が使用されていれば足りる、すなわち両者を必須とし、「水子」のみあるいは「真子」のみが使用されているものを除外するものであり、さらに両者を除く「第三のもの」と呼べるものも許容されるものであると明確に理解できるから、請求項1の記載が明確でないとはいえない。
(2) また、特許明細書の【0015】における、放卵開始の前後の別による「真子」及び「水子」の定義は、「タラコ原料として使用が可能な成熟した卵巣」を前提としたものであるから、両者を除く「第三のもの」と呼べるものとしての「未成熟の卵巣」を示唆するものといえる。そして、特許明細書に例示されているものが「タラコ原料」として「水子」と「真子」のみを使用するものであることは、請求項1の記載が明確でないとする理由とはならない。
(3) そうすると、請求項1の上記記載は明確でないとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえない。

4 取消理由3については、以下のとおり理由がない。
(1) 取消理由3-1について
仮に甲第1号証に係る商品が「タラコ、バター及び蛋白加水分解物を含有した容器詰めタラコ含有ソースである」としても、そのタラコについて「少なくとも水子及び真子が使用され、水子と真子の含有割合が質量比で10:90?90:10である」か否かは不明というほかない。よって、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明であるとも、その出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるともいえない。
(2) 取消理由3-2について
上記のとおり、仮に甲第1号証に係る商品が「タラコ、バター及び蛋白加水分解物を含有した容器詰めタラコ含有ソースである」としても、本件特許の請求項1に係る発明は甲第1号証に係る商品と、少なくとも
[相違点]そのタラコについて本件特許の請求項1に係る発明が「水子及び真子が使用され、水子と真子の含有割合が質量比で10:90?90:10である」のに対し、甲第1号証に係る商品では不明である点
で相違する。
上記[相違点]について検討すると、甲第1号証に係る商品はタラコ原料としてどのような思想に基づいて何を配合するかについて不明であり、甲第1号証に係る商品をして上記[相違点]に係る本件特許の請求項1に係る発明の構成を採用する動機付けがあるとはいえず、甲第1号証に係る商品をして相違点に係る本件特許の請求項1に係る発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。そして、本件特許の請求項1に係る発明は、タラコ原料として少なくとも水子及び真子が使用され、水子と真子の含有割合が質量比で10:90?90:10とすることにより、本件特許明細書の【0034】の【表1】及び【0035】に記載されているように、長期保存した場合であっても、タラコ風味とバター風味のバランスがよいとの顕著な効果を奏するものである。
よって、本件特許の請求項1に係る発明は甲第1号証に係る商品に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件特許の請求項2及び3に係る発明は、請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、本件特許の請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、甲第1号証に係る商品に基いて当業者が容易になし得るものではない。
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証に係る商品に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 取消理由4については、以下のとおり理由がない。
(1) 刊行物1には、特に実施例1を参照すると、「タラコ、バター及びアミノ酸調味料を含有し、タラコ成分としてスケトウダラの腹子から得られたバラタラコである、密封容器詰タラコパスタソース」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。
(2) 本件特許の請求項1に係る発明について
本件特許の請求項1に係る発明は刊行物1発明と、少なくとも
[相違点1]本件特許の請求項1に係る発明はタラコ原料として少なくとも水子及び真子が使用され、水子と真子の含有割合が質量比で10:90?90:10であるのに対し、刊行物1発明ではタラコ成分としてスケトウダラの腹子から得られたバラタラコである点
[相違点2]本件特許の請求項1に係る発明は蛋白加水分解物を含有するのに対し、刊行物1発明ではアミノ酸調味料を含有する点
で相違する。
上記[相違点2]について検討すると、刊行物4には、蛋白加水分解物と同様な食品添加物としてアミノ酸調味料が開示されており周知の技術といえるから、刊行物1発明をして相違点2に係る本件特許の請求項1に係る発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
しかし、上記[相違点1]について検討すると、刊行物2や刊行物3に記載されているように、パスタソースの原料や業務用タラコ等の加工食品用のタラコとしてはバラコも用いられており、通常のバラコには水子と真子の含有割合が質量比で10:90?90:10の範囲で含まれる可能性を否定できないものの、刊行物1の記載をみても、相違点1に係る本件特許の請求項1に係る発明の構成とする、積極的な動機付けがあるとはいえず、刊行物1発明をして相違点1に係る本件特許の請求項1に係る発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。そして、本件特許の請求項1に係る発明は、タラコ原料として少なくとも水子及び真子が使用され、水子と真子の含有割合が質量比で10:90?90:10とすることにより、本件特許明細書の【0034】の【表1】及び【0035】に記載されているように、長期保存した場合であっても、タラコ風味とバター風味のバランスがよいとの顕著な効果を奏するものである。
よって、本件特許の請求項1に係る発明は上記刊行物1発明及び刊行物1ないし刊行物4の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2) 本件特許の請求項2及び請求項3に係る発明について
刊行物1に記載された「実施例1」は、タラコ含有ソースに対して、各含有量がタラコ3?80%、バター1?10%、及びアミノ酸調味料0.05?3%の範囲のものである。
また、刊行物4ないし刊行物6の記載からすると、蛋白加水分解物として、植物性蛋白の加水分解物及び動物性蛋白の加水分解物があることは周知であるといえる。
しかしながら、請求項2及び3に係る発明は、請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、本件特許の請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、刊行物1発明及び刊行物1ないし刊行物6の記載事項から当業者が容易になし得るものではない。
(3) 以上のとおり、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、刊行物1発明及び刊行物1ないし刊行物6の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、上記取消理由1ないし4によっては、本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-08-09 
出願番号 特願2010-184482(P2010-184482)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A23L)
P 1 651・ 536- Y (A23L)
P 1 651・ 111- Y (A23L)
P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 112- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長谷川 茜  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 鳥居 稔
田村 嘉章
登録日 2015-02-27 
登録番号 特許第5700507号(P5700507)
権利者 キユーピー株式会社
発明の名称 容器詰めタラコ含有ソース  
代理人 中村 行孝  
代理人 砂山 麗  
代理人 小島 一真  
代理人 柏 延之  
代理人 永井 浩之  

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