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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01D
管理番号 1318078
異議申立番号 異議2015-700178  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-11-12 
確定日 2016-08-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第5761300号「無機多孔質支持体-ゼオライト膜複合体、その製造方法およびそれを用いた分離方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5761300号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5761300号の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、平成22年2月26日(優先権主張 平成21年11月11日 平成21年2月27日)に出願された特願2010-43366号の一部を平成25年10月24日に新たな特許出願としたものであって、平成27年6月19日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 武田昇三郎により特許異議の申立てがされ、当審より平成28年5月18日に取消理由が通知され、平成28年7月8日に意見書が提出されたものである。

第2 本件発明
特許第5761300号の請求項1ないし13の特許に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明13」と記載し、全体を総称して「本件発明」と記載する。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
無機多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、無機多孔質支持体がセラミックス焼結体を含み、かつゼオライト膜として無機多孔質支持体表面にCHA型ゼオライト結晶層を有し、該ゼオライト結晶層のSiO_(2)/Al_(2)O_(3)モル比が8以上100以下であり、有機酸と水との混合物を接触させて、該混合物から水を透過させるために用いることを特徴とする無機多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
【請求項2】
ゼオライト膜表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて2θ=17.9°付近のピーク強度が、2θ=20.8°付近のピーク強度の0.5倍以上である請求項1に記載の無機多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
【請求項3】
ゼオライト膜表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて2θ=9.6°付近のピーク強度が、2θ=20.8°付近のピーク強度の4倍以上である請求項1または2に記載の無機多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
【請求項4】
無機多孔質支持体がアルミナ、シリカ及びムライトから選ばれる少なくとも1種類を含む請求項1?3のいずれか1項に記載の無機多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載の無機多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を製造する方法であって、無機多孔質支持体表面にCHA型ゼオライトを結晶化させる工程を含むことを特徴とする無機多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項6】
無機多孔質支持体表面にゼオライトの種結晶を付着させた後、CHA型ゼオライトを結晶化させる請求項5に記載の無機多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項7】
ゼオライトの種結晶が、CHA型ゼオライトである請求項6に記載の無機多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項8】
CHA型ゼオライトの結晶化を、Si元素源及びAl元素源を含む反応混合物を、SiとAlとの比を各酸化物換算で表した(SiO_(2)/Al_(2)O_(3))モル比が8以上100以下となるように原料として用いて行うことを特徴とする請求項5?7のいずれか1項に記載の無機多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項9】
反応混合物中にアルカリ金属イオンが存在することを特徴とする請求項8に記載の無機多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項10】
原料としてさらに有機テンプレートを用い、かつ有機テンプレートが1-アダマンタンアミンから誘導されるカチオンである請求項8または9に記載の無機多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項11】
請求項1?4のいずれか1項に記載の無機多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を含むことを特徴とする分離膜。
【請求項12】
請求項1?4のいずれか1項に記載の無機多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に、有機酸と水との混合物を接触させて、該混合物から水を分離することを特徴とする分離方法。
【請求項13】
請求項1?4のいずれか1項に記載の無機多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に、有機酸と水との混合物を接触させて、該混合物から水を分離することにより有機酸を濃縮することを特徴とする濃縮方法。

第3 取消理由の概要
特許異議の申立ての取消理由を検討した結果、当審は、それらの内から、以下の概要の取消理由を通知すべきであると判断し、取消理由を通知した。

<取消理由(サポート要件違反)>
本件特許の発明の詳細な説明の【0006】-【0010】には、本件発明は、「透過流束」が「最低でも1kg/(m^(2)・h)以上」となる「有機酸/水の混合水溶液」の「無機材料分離膜による分離、濃縮において、実用上十分な処理量と分離性能を両立するゼオライト膜複合体」を得ることを解決すべき課題の一つとするものであることが示されている。
しかしながら、ゼオライト膜複合体のSiO_(2)/Al_(2)O_(3)モル比の値が22を越えて100未満の間の値である時には、透過流束は確認されておらず、また、同比が「100以上」の場合は、透過流束は1kg/(m^(2)・h)未満(実施例14(実施例6の膜)「0.9kg/(m^(2)・h)」)である。
すると、本件発明1の「ゼオライト結晶層のSiO_(2)/Al_(2)O_(3)モル比が8以上100以下であり」という特定事項は、上記課題が解決することが明らかでない部分を含むことになるから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されているものとはいえず、特許法第36条第6項第1号の規定に適合せず、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2-13についても同様である。
よって、本件発明1-13に係る特許は、同発明が発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

第4 取消理由についての判断
a)本件発明の解決すべき課題について、特許明細書の【発明が解決しようとする課題】という見出しの下に記載された【0006】?【0010】を参酌すると、【0006】には「水の透過流束については、ゼオライト膜を実用化するには透過流束は大きいほど望ましく、最低でも1kg/(m^(2)・h)以上であることが望ましいといわれている。」と記載されるが、【0010】に「本発明は、無機材料分離膜による分離、濃縮において、実用上十分な処理量と分離性能を両立するゼオライト膜複合体、その製造方法、およびその膜複合体を用いた分離、濃縮方法を提供することを課題とするものである。」と記載され、【0007】に「透過した水の濃度が95重量%以上の場合、水/エタノール系で最大0.6kg/(m^(2)・h)、水/酢酸系で0.23kg/(m^(2)・h)であり、実用化に要する処理量には不十分である。」とも記載されている。
すると、本件発明の解決すべき課題は、上記のように「無機材料分離膜による分離、濃縮において、実用上十分な処理量と分離性能を両立するゼオライト膜複合体、その製造方法、およびその膜複合体を用いた分離、濃縮方法を提供すること」であり、そのような処理量と分離性能を両立するために「透過流束」として求められるのは、望ましくは1kg/(m^(2)・h)以上であるが、例えば水/酢酸系であれば、b)において後述する「比較例2」の「0.48kg/(m^(2)・h)」を十分越えるものであればよいと解される。
これに対し、水と酢酸の混合物から水を選択的に透過分離する実験の結果を示す【表1】において、ゼオライト膜のSiO_(2)/Al_(2)O_(3)モル比の値は、「6」(実施例25【0150】)、「15」(実施例15【0131】)、「17」(実施例2,5【0105】【0115】)、「20」(実施例3【0110】)、「22」(実施例1【0101】)、「100以上」(実施例6【0120】)であり、これらのモル比の場合について上記透過流束(1.4?6.0[kg/m^(2)・h])が確認されているといえる。
してみると、本件特許発明の範囲の一部である同比が8?22の範囲であれば、望ましい透過流束が確認され、上記課題を解決していることが明らかといえる。
b)次に、【表1】の実施例14(実施例6の膜)では、ゼオライト膜のSiO_(2)/Al_(2)O_(3)モル比の値が「100以上」であり、水と酢酸の混合物の分離を行い、その透過流束は「0.9kg/(m^(2)・h)」である。
しかしながら、同条件の比較例1(0.38kg/(m^(2)・h))、比較例2(0.48kg/(m^(2)・h))と比較して十分に大きな透過流束となっていることも勘案すれば、同モル比が「100以上」である場合にも、上記課題を解決するものといえる。
そして、特許明細書【0060】?【0062】に、上記比が8?100の範囲で「CHA型ゼオライト」である本件発明のゼオライト膜複合体は「強い親水性」を示す旨記載があり、同【0031】には上記比が「上限を超過すると疎水性が強すぎるため、透過流束が小さくなる傾向がある」との記載があることを考慮すると、この実施例14から、同比が「100以下」のときの透過流束は「0.9kg/(m^(2)・h)以上」であるといえる。
c)そうであれば、本件発明1の「ゼオライト結晶層のSiO_(2)/Al_(2)O_(3)モル比が8以上100以下であり」という特定事項は、上記課題を解決できるものであり、発明の詳細な説明に記載されているものといえるから、特許法第36条第6項第1号の規定に適合する。
本件発明を直接又は間接的に引用する本件発明2-13についても同様である。
d)よって、本件発明1-13に係る特許は、同発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号の規定に適合する特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものでない。

なお、取消理由で言及したとおり、主としてFER型ゼオライトに関する甲第2号証(特開2000-237561号公報)、主としてMFI型ゼオライトに関する甲第3号証(特開2002-263456号公報)には、ゼオライトにおいては、一般的に、親水性・疎水性の変化が上記比が30?50の範囲で生じる旨が示されている。
しかし、特許明細書【0085】【0086】には、CHA型ゼオライトに関する本件発明のゼオライト膜複合体の分離機能は、分子篩としての分離機能と親水性の差を利用した分離機能の両者に基づくものであると記載されているから、上記比が22から100へ変化していく際に、たとえ親水性から疎水性への変化が生じて親水性の差を利用した分離機能が十全に機能しなくなるとしても、分子篩としての分離機能が働くから、上記比が22から100の範囲においても、十分な透過流束が確保されているものと解することができる。

第5 むすび
したがって、取消理由によっては、本件発明1ないし13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-07-29 
出願番号 特願2013-221208(P2013-221208)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 手島 理  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 後藤 政博
中澤 登
登録日 2015-06-19 
登録番号 特許第5761300号(P5761300)
権利者 三菱化学株式会社
発明の名称 無機多孔質支持体-ゼオライト膜複合体、その製造方法およびそれを用いた分離方法  
代理人 重野 剛  
代理人 上代 哲司  
代理人 神野 直美  
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