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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  F23G
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  F23G
管理番号 1318083
異議申立番号 異議2016-700273  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-04 
確定日 2016-08-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第5812630号発明「廃棄物焼却プラント」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5812630号の請求項1ないし6、8及び12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5812630号の請求項1ないし13に係る特許についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成23年3月2日に特許出願され、平成27年10月2日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成28年4月4日に特許異議申立人 土田 裕介(以下、単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
特許第5812630号の請求項1ないし6、8及び12に係る特許(以下、「請求項1ないし6、8及び12に係る特許」という。)に係る発明(以下、順に「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明3」、「本件発明4」、「本件発明5」、「本件発明6」、「本件発明8」及び「本件発明12」という。)は、それぞれ、次に示す本件出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし6、8及び12に記載された事項により特定されるとおりのものである。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物を燃焼させ、焼却処理する焼却炉に脱硝薬剤を吹き込んで脱硝する脱硝薬剤供給手段を有する廃棄物焼却プラントであって、
前記焼却炉は、前記焼却炉内に一次空気を導入して前記廃棄物を焼却処理する一次燃焼領域と、前記廃棄物の未燃焼物あるいは不完全燃焼物を二次空気により二次燃焼させる二次燃焼領域と、前記焼却炉の壁面に設けられ、前記廃棄物を焼却処理することにより生じた燃焼排ガスに脱硝薬剤溶液を噴霧する脱硝薬剤供給ノズルとを有すると共に、
前記脱硝薬剤供給ノズルよりも前記燃焼排ガスのガス流れ方向の上流側であって、前記二次空気を供給する二次空気供給ノズルよりも前記燃焼排ガスのガス流れ方向の下流側の前記焼却炉の壁面に設けられ、前記燃焼排ガスを撹拌する撹拌用空気を供給する撹拌用空気供給ノズルを有することを特徴とする廃棄物焼却プラント。
【請求項2】
請求項1において、
さらに、前記燃焼排ガスに水を噴霧する水噴霧ノズルを有する廃棄物焼却プラント。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記二次空気供給ノズルの設置位置から前記燃焼排ガス撹拌手段の設置位置との間における前記燃焼排ガスの滞留時間が、下記式(1)、(2)を満たす廃棄物焼却プラント。
1秒≦S≦2秒 ・・・(1)
S=A/G ・・・(2)
尚、式中、二次空気供給ノズルの設置位置から燃焼排ガス撹拌手段の設置位置までの間における燃焼排ガスの滞留時間をSとし、二次空気供給ノズルの設置位置から燃焼排ガス撹拌手段の設置位置までの間における空間の容積をAとし、二次燃焼室内を通過する全ガス量をGとする。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1つにおいて、
前記焼却炉は、前記撹拌用空気供給ノズルより前記燃焼排ガスのガス流れ方向の下流側の壁面に絞り部を有する廃棄物焼却プラント。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1つにおいて、
前記脱硝薬剤供給ノズルが複数設けられ、
各脱硝薬剤供給ノズルから噴霧される前記脱硝薬剤溶液の濃度および前記脱硝薬剤溶液の平均粒子径が各々異なる廃棄物焼却プラント。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1つにおいて、
前記脱硝薬剤供給ノズルに供給される前記脱硝薬剤溶液の濃度に応じて前記脱硝薬剤供給ノズルから噴霧される前記脱硝薬剤溶液の平均粒子径を調整する廃棄物焼却プラント。
【請求項7】
請求項1から6の何れか1つにおいて、
前記脱硝薬剤供給ノズルが、
前記脱硝薬剤溶液の濃度が1質量%以上?5質量%以下であって、平均粒子径が50μm以上?300μm以下の脱硝薬剤溶液を噴霧する第1の脱硝薬剤供給ノズルと、
前記脱硝薬剤溶液の濃度が3質量%以上?20質量%以下であって、平均粒子径が30μm以上?100μm以下の脱硝薬剤溶液を噴霧する第2の脱硝薬剤供給ノズルと、
を含み、
前記第1の脱硝薬剤供給ノズルの両側に前記第2の脱硝薬剤供給ノズルを設けた3つの脱硝薬剤供給ノズルを1組として前記二次燃焼室の壁面に設けられる廃棄物焼却プラント。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1つにおいて、
炉内温度に応じて前記脱硝薬剤供給ノズルに供給される前記脱硝薬剤溶液の濃度を調整する廃棄物焼却プラント。
【請求項9】
廃棄物を燃焼させ、焼却処理する焼却炉に脱硝薬剤を吹き込んで脱硝する脱硝薬剤供給手段を有する廃棄物焼却プラントであって、
前記焼却炉は、前記焼却炉内に一次空気を導入して前記廃棄物を焼却処理する一次燃焼領域と、前記廃棄物の未燃焼物あるいは不完全燃焼物を二次空気により二次燃焼させる二次燃焼領域と、前記焼却炉の壁面に設けられ、前記廃棄物を焼却処理することにより生じた燃焼排ガスに脱硝薬剤溶液を噴霧する脱硝薬剤供給ノズルとを有し、
前記脱硝薬剤供給ノズルが、
前記脱硝薬剤溶液の濃度が1質量%以上?5質量%以下であって、平均粒子径が50μm以上?300μm以下の脱硝薬剤溶液を噴霧する第1の脱硝薬剤供給ノズルと、
前記脱硝薬剤溶液の濃度が3質量%以上?20質量%以下であって、平均粒子径が30μm以上?100μm以下の脱硝薬剤溶液を噴霧する第2の脱硝薬剤供給ノズルと、
を含み、
前記第1の脱硝薬剤供給ノズルの両側に前記第2の脱硝薬剤供給ノズルを設けた3つの脱硝薬剤供給ノズルを1組とし、当該1組の脱硝薬剤供給ノズルが前記二次燃焼室の壁面に対向して設けられることを特徴とする廃棄物焼却プラント。
【請求項10】
請求項9において、
前記脱硝薬剤供給ノズルに供給される前記脱硝薬剤溶液の濃度に応じて前記脱硝薬剤供給ノズルから噴霧される前記脱硝薬剤溶液の平均粒子径を調整する廃棄物焼却プラント。
【請求項11】
請求項9または10において、
炉内温度に応じて前記脱硝薬剤供給ノズルに供給される前記脱硝薬剤溶液の濃度を調整する廃棄物焼却プラント。
【請求項12】
請求項1から11の何れか1つにおいて、
前記焼却炉から排出される前記燃焼排ガスを用いて蒸気を発生させるボイラを有する廃棄物焼却プラント。
【請求項13】
請求項12において、
前記ボイラで発生する蒸気発生量に応じて前記脱硝薬剤供給ノズルに供給される前記脱硝薬剤溶液の濃度を調整する廃棄物焼却プラント。」


第3 特許異議申立ての理由
特許異議申立人は、証拠方法として、次に示す甲第1ないし10号証を提出し、概ね以下の理由を主張している。

1 証拠方法
(1) 甲第1号証:特開2000-93741号公報
(2) 甲第2号証:特開2001-304512号公報
(3) 甲第3号証:特開平8-103627号公報
(4) 甲第4号証:特開昭62-169917号公報
(5) 甲第5号証:武谷亮他,「ごみ焼却炉内における燃焼ガスの挙動のシミュレーション」,ボイラ研究,1998年8月,第289号,32頁-40頁,写し
(6) 甲第6号証:西野昭男他,「流れの可視化技術を応用した炉形状の決定」,可視化情報,1998年9月,Vol.18 Suppl.No.2,91頁-92頁,写し
(7) 甲第7号証:特開2004-279015号公報
(8) 甲第8号証:国際公開第2008/143074号
(9) 甲第9号証:特開平4-350410号公報
(10)甲第10号証:特公平7-100131号公報


2 理由の概要
2-1 特許法第29条第1項第3号の規定に基づく理由について
(1)理由1
本件発明1は、甲第3号証に記載の発明と同一である(以下、「理由1」という。)。

(2)理由2
本件発明2は、甲第3号証に記載の発明と同一である(以下、「理由2」という。)。

2-2 特許法第29条第2項の規定に基づく理由について
2-2-1 甲第1号証に記載の発明を主とした理由
(1)理由3
本件発明1は、甲第1号証に記載の発明及び甲第2号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由3」という。)。

(2)理由4
本件発明1は、甲第1号証に記載の発明及び甲第5号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。(以下、「理由4」という。)。

(3)理由5
本件発明1は、甲第1号証に記載の発明及び甲第6号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。(以下、「理由5」という。)。

(4)理由6
本件発明2は、甲第1号証に記載の発明、甲第2号証の記載事項及び甲第3号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由6」という。)。

(5)理由7
本件発明3は、甲第1号証に記載の発明、甲第2号証の記載事項及び甲第7号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由7」という。)。

(6)理由8
本件発明4は、甲第1号証に記載の発明、甲第2号証の記載事項及び甲第8号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由8」という。)。

(7)理由9
本件発明4は、甲第1号証に記載の発明、甲第2号証の記載事項及び甲第9号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由9」という。)。

(8)理由10
本件発明5は、甲第1号証に記載の発明、甲第2号証の記載事項及び甲第10号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由10」という。)。

(9)理由11
本件発明6は、甲第1号証に記載の発明、甲第2号証の記載事項及び甲第10号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由11という。)。

(10)理由12
本件発明8は、甲第1号証に記載の発明、甲第2号証の記載事項及び甲第10号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由12」という。)。

(11)理由13
本件発明12は、甲第1号証に記載の発明及び甲第2号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由13」という。)。

2-2-2 甲第3号証に記載の発明を主とした理由
(1)理由14
本件発明1は、甲第3号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由14」という。)。

(2)理由15
本件発明2は、甲第3号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由15」という。)。

(3)理由16
本件発明3は、甲第3号証に記載の発明及び甲第7号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由16」という。)。

(4)理由17
本件発明4は、甲第3号証に記載の発明及び甲第8号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由17」という。)。

(5)理由18
本件発明4は、甲第3号証に記載の発明及び甲第9号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由18」という。)。

(6)理由19
本件発明5は、甲第3号証に記載の発明及び甲第10号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由19」という。)。

(7)理由20
本件発明6は、甲第3号証に記載の発明及び甲第10号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由20」という。)。

(8)理由21
本件発明8は、甲第3号証に記載の発明及び甲第10号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由21」という。)。

(9)理由22
本件発明12は、甲第3号証に記載の発明及び甲第2号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである(以下、「理由22」という。)。

2-3 理由のまとめ
本件発明1及び2は、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し、特許を受けることができないものであり、また、本件発明1ないし6、8及び12は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、請求項1ないし6、8及び12に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。


第4 当審の判断
1 各甲号証について
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証に記載された事項
本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、「煙ガスを脱硝する方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、SNCR法に基づいて燃焼設備において煙ガスを脱硝する方法であって、還元剤を霧化手段を用いて吹き込み箇所を介して煙ガス内に吹き込み、この際に霧化手段として循環される煙ガスを使用し、かつ吹き込み箇所の上流で2次空気を供給する形式の方法に関する。」(段落【0001】)

(イ)「【0007】また、還元剤のための吹き込み箇所及び後燃焼室の領域において付加的に大きな温度変動及び出力変動が発生する。その結果、反応のために最適な温度領域は常に移動し、吹き込み箇所における温度は一定にならない。最適な温度領域の場所の変化に追従できるようにするために、したがって還元剤は複数の平面において燃焼室に吹き込まれる。そしてこれらの平面はそれぞれの温度に応じて接続・遮断される。この解決策における欠点としては、付加的な開口を側壁に設けなくてはならないことと、方法技術的な手間及び費用がかなりかかるということが、挙げられる。国際公開第90/05000号明細書及び米国特許第5240689号明細書によれば、煙ガスの温度調整のために水が吹き込まれるかもしくは化学物質の量が変化させられるが、後者の方法は極めて面倒かつ高コストである。」(段落【0007】)

(ウ)「【0010】
【発明の効果】本発明の利点としては次のことが挙げられる。すなわち本発明による方法は、まず第一に、循環される煙ガスがほとんどコストなしに大量にしようされ得るので、極めて安価である。そしてこれによって従来の圧縮空気又は蒸気によっては不可能であった、脱硝すべき煙ガス流に増大された吹き込み量で還元剤を混入することが、改善される。同時にこの手段によって、煙ガス自体のの付加的な混合及び均一化も達成され、これによって、脱硝すべき煙ガス流における窒素酸化物変動及び温度変化も完全に均一化されることができる。比較的多量の循環される煙ガスを使用することによって、上に述べた利点が得られるのみならず、吹き込み箇所における温度に対して影響を与えることもできる。吹き込まれる量を変化させることによって、吹き込み箇所における煙ガス温度を、脱硝反応のために最適な温度範囲に一定に保つことができる。したがって本発明による方法では、複数の吹き込み平面を用いて反応領域に追従することは、もはや不要である。」(段落【0010】)

(エ)「【0016】図1にはゴミ焼却設備の一部が概略的に示されており、このゴミ焼却設備においては、燃焼ガスの非触媒式の脱硝、つまり窒素酸化物の除去が行われる。ゴミ焼却設備は火格子1を有しており、この火格子1の上方には燃焼室2が延びており、この燃焼室2には、ボイラ5の2つの鉛直な空煙道3と1つの水平な集群煙道4とが接続されている。ボイラ5の出口は、ここではエレクトロフィルタである塵埃セパレータ6の入口と接続されている。
【0017】図示の実施例ではゴミである燃焼物7は、火格子1の上に置かれ、1次空気8の供給下で燃焼させられる。この際に煙ガス9が発生する。完全燃焼を保証するために、燃焼室2には2次空気11が吹き込まれる。煙ガス9は次いで、ボイラ5の鉛直な空煙道3と水平な集群煙道4とを通って塵埃セパレータ6に達し、この塵埃セパレータ6において、煙ガス9中になお含まれている塵埃粒子12が分離されて、ホッパ13を介して排出される。塵埃12を除去された煙ガスは次いで、内部において煙ガスの脱硫が行われるスクラバ(図示せず)内に流入する。上の述べた脱硝方法は公知である。また、燃焼室2内への還元剤14(図示の実施例ではアンモニア)の供給によって、煙ガス9を非触媒式に脱硝することも公知である。還元剤14であるアンモニアはこの場合、ボイラ壁に配置された二成分ノズル15を介して圧力下にある霧化媒体を用いて、脱硝すべき煙ガス9に吹き込まれる。
【0018】霧化媒体としては循環される煙ガスが使用され、この場合ただ1つの吹き込み箇所16だけが燃焼室2に設けられている。循環される煙ガス10は塵埃セパレータ6下流において取り出され、ブロワ19、導管17及び調整フラップ18を介してノズル15に供給される。導管17には還元剤14(ガス状のアンモニア)が入れられ、そこで循環される煙ガス10と混合される。循環される煙ガス10は霧化媒体として働き、この霧化媒体を用いてアンモニアである還元剤14は理想的な箇所(吹き込み箇所16)において燃焼室2内にもたらされる。
【0019】2つのガス流の混合は、吹き込まれるガス流jと主ガス流mとの間における質量流比もしくはパルス流比J、すなわち
J=pj・vj^(2)/pm・vm^(2)
が、1に近ければ近いほど、より良好である(p=ガス密度、v=ガス速度)。循環される煙ガス10はほとんどコストなしに利用することができるので、脱硝すべき煙ガス流9へのガス状の還元剤14の混入は、増大された吹き込み量によって行うことが可能であり、ひいてはガス流の混合が改善される。このような吹き込み量の増大ひいてはガス流の改善された混合は、従来技術におけるような圧縮空気又は蒸気によっては、コストの理由から不可能である。本発明による処置によって同時に、煙ガス自体の付加的な混合及び均一化が達成され、これによって、脱硝すべき煙ガスにおける窒素酸化物及び温度の変動が平らになるつまり無くなる。
【0020】循環される煙ガス10の量の大きな変化によって、吹き込み箇所16における温度を、脱硝反応の実行のために最適な温度領域において一定に保つことが可能である。したがって、複数の吹き込み平面を用いて反応温度領域を追跡することはもはや不要であり、1つの吹き込み箇所16だけで十分である。
【0021】この効果は、吹き込み箇所16の上流において供給される2次空気11の量を変化させることによっても可能である。
【0022】第1の平面において、回転モーメントもしくはスワールつまり渦を加えられた2次空気11が燃焼室内に吹き込み、第2の平面において、2次空気11に対して逆向きの回転モーメントをもつ煙ガス10が引き込まれると、特に良好な混合が達成される。」(段落【0016】ないし【0022】)

イ 上記ア及び図面の記載から分かること
(ア)上記ア(ア)ないし(エ)並びに図1の記載によれば、甲第1号証には、ゴミ焼却設備が記載されていることが分かる。

(イ)上記ア(エ)及び図1の記載によれば、甲第1号証に記載されたゴミ焼却設備において、ゴミである燃焼物7を燃焼させ、焼却処理する焼却炉にアンモニアである還元剤14を吹き込んで脱硝する還元剤供給手段を有することが分かる。

(ウ)上記ア(エ)及び図1の記載(特に、段落【0016】及び【0017】並びに図1の記載)によれば、甲第1号証に記載されたゴミ焼却設備において、焼却炉は、火格子1上において1次空気8を供給してゴミである燃焼物7を燃焼する一次燃焼領域と、火格子1の上方に延びる燃焼室2において前記ゴミである燃焼物7の燃焼で発生した煙ガス9を2次空気11により二次燃焼させる二次燃焼領域とを有することが分かる。

(エ)上記ア(エ)及び図1の記載(特に、段落【0017】ないし【0022】及び図1の記載)によれば、甲第1号証に記載されたゴミ焼却設備において、焼却炉は、燃焼室2の壁面に設けられ、ゴミである燃焼物7を燃焼することにより生じた二次燃焼後の煙ガス9にアンモニアである還元剤14を霧化媒体を用いて吹き込む二成分ノズル15を有することが分かる。

(オ)上記ア(エ)及び図1の記載(特に、図1の記載)によれば、甲第1号証に記載されたゴミ焼却設備において、2次空気11の供給位置よりも煙ガス9のガス流れ方向の下流側に二成分ノズル15が設けられていることが分かる。

ウ 甲1発明
上記ア及び上記イを総合して、本件発明1の表現にならって整理すると、甲第1号証には、次の事項からなる技術(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「ゴミである燃焼物7を燃焼させ、焼却処理する焼却炉にアンモニアである還元剤14を吹き込んで脱硝する還元剤供給手段を有するゴミ焼却設備であって、
前記焼却炉は、火格子1上において1次空気8を供給して前記ゴミである燃焼物7を燃焼する一次燃焼領域と、火格子1の上方に延びる燃焼室2において前記ゴミである燃焼物7の燃焼で発生した煙ガス9を2次空気11により二次燃焼させる二次燃焼領域と、前記燃焼室2の壁面に設けられ、前記ゴミである燃焼物7を燃焼することにより生じた二次燃焼後の煙ガス9にアンモニアである還元剤14を霧化媒体を用いて吹き込む二成分ノズル15とを有し、
前記2次空気11の供給位置よりも前記煙ガス9のガス流れ方向の下流側に前記二成分ノズル15が設けられているゴミ焼却設備。」

(2)甲第2号証
ア 甲第2号証に記載された事項
本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、「廃棄物焼却炉」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、図6に示されるような燃焼ガス通路を狭めた構造を採用した場合、この狭めた部分において燃焼ガスの通過速度が速められることになり、この部分を通過した後は、燃焼ガスの主流が矢印Pにて示されるように二次燃焼室の中央部分に集束されるとともに、周辺部分においては矢印Qにて示されるように循環渦が形成されることになる。こうして、燃焼室54の上方での燃焼ガスの混合、撹拌が良好に行われず、大きな二次燃焼室が必要になるなどの問題点があった。
【0006】本発明は、このような問題点を解消するためになされたもので、一次燃焼後の燃焼ガスを二次燃焼させるに当たり、燃焼ガスの混合、撹拌並びに二次燃焼空気の吹込みを効率良く行わせ、燃焼ガスの完全燃焼を行わせることができ、これによってダイオキシン類の発生抑制および炉、ボイラのコンパクト化を図ることのできる廃棄物焼却炉を提供することを目的とするものである。」(段落【0005】及び【0006】)

(イ)「【0008】本発明によれば、ホッパ側の炉壁に設けられた誘導部材によって乾燥ストーカの上方にて発生する可燃性ガスを多く含む燃焼ガスが燃焼ストーカの上方空間まで導かれるので、この導かれた燃焼ガスを後燃焼ストーカからの酸素リッチな燃焼ガスに衝突させて、両燃焼ガスの混合促進を図ることができる。また、このような誘導部材を設けることで、この誘導部材の先端まで導かれた後、燃焼室の略中央部を上昇する燃焼ガスに対して、その誘導部材に対向する側の炉壁に設けられた空気ノズルから吹込まれる二次燃焼空気の貫通力をより有効に与えることができ、混合、撹拌、燃焼をより確実に行わせることができる。こうして、燃焼を低空気比で行うことができて、完全燃焼を行うことが可能となる。この結果、ダイオキシン類の発生を抑制することができ、また燃焼ガスの滞留時間が短くなって、ガス量も少なくなるため、炉およびボイラのコンパクト化並びにボイラ効率の向上を図ることができる。」(段落【0008】)

(ウ)「【0015】本実施例の廃棄物焼却炉1においては、被燃焼物が投入されるホッパ2が後部に設けられるとともに、このホッパ2から投入された被燃焼物を燃焼させるストーカ3が下部に設けられ、このストーカ3の上方に炉壁(前壁4a,後壁4b等)により画定される燃焼室5が設けられ、前記ストーカ3の下流側に燃焼後の焼却灰を取り出す灰排出口6が設けられている。前記ストーカ3は、上流側から乾燥ストーカ3a、燃焼ストーカ3bおよび後燃焼ストーカ3cの順に配され、各ストーカに対応してそのストーカを通して燃焼室5内に一次燃焼空気を供給する一次燃焼空気供給装置7の各空気導入管7a,7b,7cが設けられている。これら各空気導入管7a,7b,7cには押込送風機8から一次燃焼空気が供給される。また、前記燃焼室5の上部には熱回収装置としてのボイラ(図示せず)が付設されている。」(段落【0015】)

(エ)「【0017】また、前記前壁4aには、第1ノーズ部9の先端部に対向する位置よりやや上方位置に、二次燃焼空気を吹込む空気ノズル11が設けられ、前記後壁4bには、第1ノーズ部9の上方位置にやはり二次燃焼空気を吹込む空気ノズル12が設けられている。これら空気ノズル11,12および前記第1ノーズ部9には押込送風機13から二次燃焼空気が供給される。」(段落【0017】)

(オ)「【0021】こうして、第1ノーズ部9にて導かれた燃焼ガスは、第2ノーズ部10によりガスの浮力による上昇(ショートパス)が抑えられて第1ノーズ部9および第2ノーズ部10の各先端部間を通り燃焼室5内を上昇していく。このとき前壁4aに設けられた空気ノズル11から吹込まれる二次燃焼空気によってその混合・撹拌・燃焼が促進されることになる。次いで、第2ノーズ部10の先端部と第1ノーズ部9との間を通過した燃焼ガスに対して後壁4b側の空気ノズル12から二次燃焼空気が吹込まれることになって、燃焼ガスに対する二次燃焼空気の貫通力をより有効に与えることができ、混合、撹拌、燃焼をより確実に行わせることができる。この結果、炉内の燃焼を低空気比で行うことができるとともに、完全燃焼を行うことが可能となる。」(段落【0021】)

(カ)「【0025】次に、図4には、本発明の第2実施例に係る廃棄物焼却炉の概略構成図が示されている。
【0026】本実施例においては、第1ノーズ部9Aを第2ノーズ部10と同様の構成にするとともに、この第1ノーズ部9Aの直下の炉壁に二次燃焼空気を吹込む空気ノズル12Aを設置したものである。これ以外の構成等については第1実施例と基本的に異なるところがない。したがって、第1実施例と共通する部分には図に同一符号を付すに止めてその詳細な説明は省略し、以下、本実施例に特有の構成等についてのみ説明することとする。」(段落【0025】及び【0026】)

(キ)「【0028】このような構成において、乾燥ストーカ3a上方の燃焼ガスは、第1ノーズ部9Aの下面に案内されて燃焼ストーカ3bの上方空間に導かれることによって、可燃性ガスを多く含む燃焼ガスと酸素リッチな燃焼ガスとの混合促進が図られ、また第1ノーズ部9Aの下方には空気ノズル12Aから二次燃焼空気が吹込まれることによって燃焼ガスが激しく混合・撹拌される。さらに、第1ノーズ部9Aの下方の燃焼ガスの一部はガス通過孔26を通して第1ノーズ部9Aの上方へ抜けることになるので、この第1ノーズ部9Aの下方がガスの滞留ポケットになってボイラ水管等が還元腐食するのが防止される。このようにして、第1実施例とほぼ同様の作用効果を奏し得る。」(段落【0028】)

イ 甲2技術事項1
上記ア及び図4の記載(特に、段落【0015】、【0017】、【0021】、【0025】及び【0028】及び図4の記載)によれば、甲第2号証には、次の事項からなる技術(以下、「甲2技術事項1」という。)が記載されていると認める。
「廃棄物焼却炉1において、燃焼ガスに二次燃焼空気を吹き込む複数の空気ノズル11、12、12Aを備え、複数の空気ノズル11、12、12Aは、燃焼室5の壁面における燃焼ガスの流れ方向に異なる複数箇所にそれぞれ設けられるようにした技術。」

ウ 甲2技術事項2
上記ア(ウ)及び図1の記載によれば、甲第2号証には、次の事項からなる技術(以下、「甲2技術事項2」という。)が記載されていると認める。
「廃棄物焼却炉1において、燃焼ガスの熱回収を行うボイラを敷設する技術。」

(3)甲第3号証
ア 甲第3号証に記載された事項
本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、「無触媒脱硝装置及び無触媒脱硝方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「【0003】公害成分のひとつであるNOxを低減できる簡便な方法として、アンモニアあるいは尿素などの脱硝剤を高温の燃焼ガス中に吹き込み、下記の反応によりNOxを還元する無触媒脱硝方法が知られている。
【0004】CO(NH_(2))_(2)+2NO+1/2O_(2)→2N_(2)+2H_(2)O+CO_(2)従来技術による無触媒脱硝方法を適用した流動層式ごみ焼却炉の系統を図2に示す。
【0005】ごみは投入シュート1より焼却炉2の流動層3に投入され、燃焼用空気は送風機4から空気予熱器5、空気流量調節弁6を経て空気供給管7から流動層3内に吹き込まれる。
【0006】焼却炉2の空塔部8には揮発分の燃焼量に見合った空気量を二次空気流量調節弁9、二次空気供給管10、三次空気流量調節弁11、三次空気供給管12を経て二次空気ノズル13、三次空気ノズル14から二次、三次空気が供給される。
【0007】燃焼排ガスは、煙道15を通じてガスクーラ16に入って冷却され、空気予熱器5、ガスクーラ17を経てバグフィルタ18で脱塩、脱塵処理後、誘引送風機19により煙突20を通じて排煙される。煙道15のガスクーラ16は焼却炉2の出口における800?1,100℃の高温燃焼ガスの排熱によって空気予熱器5が焼損しない程度のガス温度(300?500℃)にまで冷却するものであり、ガスクーラ17は、空気予熱器5の出口ガス温度約300℃を後流のバグフィルタ18の適正ガス温度(約200℃)にまで冷却するためのものである。
【0008】こうしたごみ焼却炉2において、焼却炉2の空塔部8の温度が高くなりすぎると、炉壁の耐火材が劣化したり、灰が溶融して炉壁に付着したり、炉出口の排ガス温度が高すぎて後流のガスクーラ6,17において充分な冷却ができなくなるといった様々な問題が生じる。そのため、冷却水噴射ノズル21から焼却炉2の空塔部8に水を噴射して排ガス温度の調節を行っている。特に近年はプラスチック系のごみの増加に伴い、ごみの発熱量が増大しており、冷却水噴射ノズル21からの冷却水の噴射による炉の温度調節は欠かすことのできないものとなっている。この冷却水は冷却水タンク22から冷却水流量調節弁23、冷却水ポンプ24で昇圧され、冷却水流量計25、弁2,6、冷却水配管27からの冷却水は冷却水吹き込み触媒ライン28からの触媒によって炉内に噴射されている。冷却水噴射ノズル21の設置場所は、炉の壁面あるいは炉の天井部に設置するが、いずれにしても、最も高温となる空塔部8の中心に向かって、焼却炉2の上半分の範囲から噴射するように設置されている。
【0009】図2において、脱硝剤の水溶液を脱硝剤タンク2,9から脱硝剤流量調節弁30を経てポンプ31により昇圧し、脱硝剤流量計32、弁33、脱硝剤供給配管34を通じて、脱硝剤吹き込み触媒(圧縮空気あるいはスチーム)ライン35に合流し、焼却炉2の上部の脱硝剤吹き込みノズル36から、焼却炉2の空塔部8に吹き込まれる。なお、37はパージライン、38は制御弁である。」(段落【0003】ないし【0009】)

(イ)「【0013】(a)脱硝剤吹込位置反応のための滞留時間を稼ぐには出来るだけ、焼却炉2の下部に吹き込んだ方が有利である。しかし、焼却炉2の下部には高温の火炎が存在し、脱硝剤がこの高温火炎と接触すると、脱硝剤中の窒素が酸化されてNOxが生成されるため、火炎よりも上部に吹き込まなければならない。従って、通常は炉内空塔部8での揮発分燃焼を目的とした三次空気ノズル14よりも、さらに上部に脱硝剤吹き込みノズル36を設置し脱硝剤を空塔部8に吹き込むことになる。」(段落【0013】)

イ 上記ア及び図面の記載から分かること
(ア)上記ア(ア)及び図2の記載(特に、段落【0004】の記載)によれば、甲第3号証には、流動層式ごみ焼却炉が記載されていることが分かる。

(イ)上記ア(ア)及び図2の記載(特に、段落【0003】ないし【0006】及び【0009】及び図2の記載)によれば、甲第3号証に記載された流動層式ごみ焼却炉は、ごみを燃焼させ、焼却処理する焼却炉2に脱硝剤を吹き込んで脱硝する脱硝剤供給手段を有することが分かる。

(ウ)上記ア(ア)及び図2の記載(特に、段落【0003】ないし【0006】及び【0009】及び図2の記載)によれば、甲第3号証に記載された流動層式ごみ焼却炉において、焼却炉2は、前記焼却炉2内に燃焼用空気を吹き込んでごみを焼却処理する流動層3による燃焼領域と、前記ごみの揮発分を二次空気により二次燃焼させる二次燃料領域と、前焼却炉2の壁面に設けられ、前記ごみを焼却処理することにより生じた燃焼排ガスに脱硝剤の水溶液を吹き込む脱硝剤吹き込みノズル36とを有することが分かる。

(エ)上記ア(ア)及び(イ)並びに図2の記載(特に、段落【0006】及び【0013】並びに図2の記載)によれば、甲第3号証に記載された流動層式ごみ焼却炉において、焼却炉2は、脱硝剤吹き込みノズル36よりも燃焼排ガスのガス流れ方向の上流側であって、二次空気を供給する二次空気ノズル13よりも前記燃焼排ガスのガス流れ方向の下流側の燃焼炉2の壁面に設けられ、ごみの揮発分を燃焼するための三次空気を供給する三次空気ノズル14を有することが分かる。

(オ)上記ア(ア)及び図2の記載(特に、段落【0008】及び図2の記載)によれば、甲第3号証に記載された流動層式ごみ焼却炉は、燃焼排ガスに水を噴射する冷却水噴射ノズル21を有することが分かる。

ウ 甲3発明1
上記ア及び上記イを総合して、本件発明1の表現にならって整理すると、甲第3号証には、次の事項からなる技術(以下、「甲3発明1」という。)が記載されていると認める。
「ごみを燃焼させ、焼却処理する焼却炉2に脱硝剤を吹き込んで脱硝する脱硝剤供給手段を有する流動層式ごみ焼却炉であって、
焼却炉2は、前記焼却炉2内に燃焼用空気を吹き込んで前記ごみを焼却処理する流動層3による燃焼領域と、前記ごみの揮発分を二次空気により二次燃焼させる二次燃料領域と、前焼却炉2の壁面に設けられ、前記ごみを焼却処理することにより生じた燃焼排ガスに脱硝剤の水溶液を吹き込む脱硝剤吹き込みノズル36とを有すると共に、
前記脱硝剤吹き込みノズル36よりも前記燃焼排ガスのガス流れ方向の上流側であって、前記二次空気を供給する二次空気ノズル13よりも前記燃焼排ガスのガス流れ方向の下流側の前記燃焼炉2の壁面に設けられ、前記ごみの揮発分を燃焼するための三次空気を供給する三次空気ノズル14を有する流動層式ごみ焼却炉。」

エ 甲3発明2
上記ア及び上記イ(特に、上記イ(オ))を総合して、本件発明1の表現にならって整理すると、甲第3号証には、次の事項からなる技術(以下、「甲3発明2」という。)が記載されていると認める。
「ごみを燃焼させ、焼却処理する焼却炉2に脱硝剤を吹き込んで脱硝する脱硝剤供給手段を有する流動層式ごみ焼却炉であって、
焼却炉2は、前記焼却炉2内に燃焼用空気を吹き込んで前記ごみを焼却処理する流動層3による燃焼領域と、前記ごみの揮発分を二次空気により二次燃焼させる二次燃料領域と、前焼却炉2の壁面に設けられ、前記ごみを焼却処理することにより生じた燃焼排ガスに脱硝剤の水溶液を吹き込む脱硝剤吹き込みノズル36とを有すると共に、
前記脱硝剤吹き込みノズル36よりも前記燃焼排ガスのガス流れ方向の上流側であって、前記二次空気を供給する二次空気ノズル13よりも前記燃焼排ガスのガス流れ方向の下流側の前記燃焼炉2の壁面に設けられ、前記ごみの揮発分を燃焼するための三次空気を供給する三次空気ノズル14を有し、
さらに、前記燃焼排ガスに水を噴射する冷却水噴射ノズル21を有する流動層式ごみ焼却炉。」

オ 甲3技術事項
上記ア(ア)及び図2の記載(特に、段落【0008】の記載)によれば、甲第3号証には、次の事項からなる技術(以下、「甲3技術事項」という。)が記載されていると認める。
「ごみ焼却炉2において、燃焼排ガスに冷却水を噴射する冷却水噴射ノズル21を設置する技術。」

(4)甲第4号証
本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 甲第4号証に記載された事項
(ア)「被焼却物を流動床炉内で流動化し、その被焼却物を熱分解させると共に燃焼し、発生した可燃ガスをフリーボード部内で二次空気により燃焼させるに際して、上記フリーボード部に、その高さ方向に複数段かつ各段ごと平行な多数のノズルを設け、該ノズルから上記フリーボード部内を横断するよう二次空気を噴出すると共に少なくとも一段のノズル群から噴出する二次空気にアンモニアなどの脱硝剤を混入させることを特徴とする流動床炉の無触媒脱硝法。」(特許請求の範囲)

(イ)「炉体1には、流動層9で被焼却物3が燃焼され、熱分解された可燃ガスを炉体1のフリーボード部16で燃焼させるためのノズル群17が設けられ、炉体1の頂部には燃焼排ガスの排気口18が設けられる。
ノズル群17は、炉体1の高さ方向に数段設けられ、例えば図示のように四段設けられ、最下段ノズル群17aと三段目ノズル群17cとが炉体1の同一壁面に、二段目ノズル群17bと四段目ノズル群17dとが夫々最下段ノズル群17a及び三段目ノズル群17cと対向する壁面に設けられ、夫々炉体1の中心Oに対して図示の矢印17A,17B,17C,17Dのように二次空気流を吹き出すように設けられ、かつ第2図に示すように各ノズル群17は、夫々のノズル19が、ノズル内径40?80φまたは30×60角?40×100角で、ノズル水平間隔lが200?600mmになるように炉体1の壁1aに取り付けられると共に風箱20に取り付けられる。」(2ページ左下欄9行ないし同ページ右上欄7行)

イ 甲4技術事項
上記ア及び図1の記載によれば、甲第4号証には、次の事項からなる技術(以下、「甲4技術事項」という。)が記載されていると認める。
「流動床炉において、フリーボード部における燃焼排ガスの流れ方向に異なる複数の段ごとに設けたノズルから二次空気を噴出することにより、燃焼ガスを燃焼させる技術。」

(5)甲第5号証
本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 甲第5号証に記載された事項
「ごみ燃焼により発生するこれらの未燃分を完全に燃焼させるために,一次燃焼により発生した排ガス中に二次空気を吹き込み,未燃分の酸化を促進する方法が考えられる。このとき、3Tの法則(Temperature=高い燃焼温度,Time=高温での充分な滞留時間,Turbulance=未燃ガスとの良好な乱流混合かくはん(攪拌)燃焼が重要となる。したがって,未燃分の酸化を効果的に行うためには,炉内において二次空気の吹き込み位置,吹き込み条件を最適化する必要がある。
2.2 焼却炉概要
解析を行ったごみ焼却炉は処理量300t/dの全連続式ストーカ炉であり,図1にその断面図を示す。燃焼ガスはストーカ上部より炉内上方へ流れ,炉側壁のA,B,Cの3箇所から注入される二次空気と混合し,十分に二次燃焼が行われ廃熱ボイラーに入る。」(32ページ右欄17行ないし33ページ左欄3行)

イ 甲5技術事項
上記ア及び図1の記載によれば、甲第5号証には、次の事項からなる技術(以下、「甲5技術事項」という。)が記載されていると認める。
「ごみ焼却炉において、炉側壁における排ガスの流れ方向に異なる複数箇所A,B,Cから二次空気を注入することにより、ごみ焼却により発生する未燃分を完全に燃焼させる技術。」

(6)甲第6号証
ア 甲第6号証に記載された事項
本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「都市ごみ焼却炉から排出されるダイオキシン類は,その毒性の強さと国内の汚染状況から,徹底した低減が求められている。ダイオキシン類の低減には完全燃焼,つまり”3T”(温度,滞留時間および混合攪拌)が重要とされており,当社では独自の混合攪拌思想により燃焼ガスの完全燃焼を実現してきた。しかし,ダイオキシン類を可能な限りゼロに近づけるという観点から,当社では炉形状と二次エアの吹き込み方法を変更して更なる完全燃焼を目指すことにした。」(91ページ左欄2行ないし10行)

(イ)「本研究では,Fig.1に示す混合攪拌対策を施して,完全燃焼を実現している全連続式ストーカ炉(230t/d×2炉)を基準炉とした。」(91ページ右欄3行ないし8行)

イ 甲6技術事項
上記ア及びFig.1の記載によれば、甲第6号証には、次の事項からなる技術(以下、「甲6技術事項」という。)が記載されていると認める。
「都市ごみ焼却炉において、燃焼ガスの流れ方向に異なる3箇所から二次エアを吹き込むことにより、燃焼ガスを完全燃焼させる技術。」

(7)甲第7号証
ア 甲第7号証に記載された事項
本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第7号証には、「流動床式廃棄物処理装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「【0018】
1次燃焼室部5は、流動床部3の上方に設けられている。1次燃焼室部5は、流動床部3の上部から、テーパ状に断面積を拡大され、その後流側、つまり上方で再びテーパ状に断面積を絞られて形成されている。このテーパ状に絞られた上端部には、2次燃焼室部7に通じる開口15が形成されている。この開口15は、流動床部3に対して、上からみたときに重なり合わない程度に水平方向にオフセットされている。また、1次燃焼室部5の側壁から、燃焼用の1次空気を吹き込むノズル17が複数挿入されている。ノズル17は、1次燃焼室部5を取り囲んで分散して配置されている。各ノズル17はそれぞれ斜め下向きに傾けられ、その先端部を1次燃焼室の内壁付近に位置させて配置されている。そして、ノズル17より下側の1次燃焼室部5の側壁に、1次燃焼室内に通じる筒状のごみ投入口19が外側に突出して形成されている。また、ごみ投入口19にごみを投入する給じん機21が設けられている。
【0019】
2次燃焼室部7の壁は上下に延在する矩形断面の筒状に形成され、その下部はテーパ状に窄められ、その下端において開口15の周縁とつながれている。また、開口15の周縁部から、燃焼用の2次空気を吹き込む複数のノズル21が内側に向けて挿入されている。ノズル21は、それぞれ斜め下方に傾けられ、その先端部を開口15内に突出させて、略同一水平面上に配置されている。図2は、図1のII-II矢視断面図であって、開口15にノズル21が配置されている状態を示す図である。図2に示すように、ノズル21は、開口15の周縁部に分散して配置されている。ノズル21の個数や設置位置は、要求される2次空気量制御の精度等を考慮して決定されるが、本実施形態の場合には、矩形の開口15の対向する長辺部にそれぞれ3個づつ、対向する短辺部にそれぞれ2個づつ計10個が設けられている。」(段落【0018】及び【0019】)

(イ)「【0031】
そして、本実施形態の廃棄物処理装置は、2次燃焼室部7の出口における排ガス温度を、例えば800℃ないし950℃の範囲に保持するように2次空気量をフィードバック制御し、さらに、2次燃焼室部7に燃焼ガスが入ってから排ガスとして排出されるまでの滞留時間を、例えば1秒ないし2秒の範囲に保持するため、流動化空気量およびごみの量をフィードバック制御していることを特徴とする。特に、2次燃焼室部7内の各領域Aiの排ガス温度および滞留時間に基いて、2次空気量等を個別に制御することを特徴とする。なお、これらの制御は、通常は廃棄物処理装置の運転開始から所定の時間が経過し、定常運転となってから開始される。」(段落【0008】)

イ 甲7技術事項
上記ア及び図1の記載によれば、甲第7号証には、次の事項からなる技術(以下、「甲7技術事項」という。)が記載されていると認める。
「廃棄物処理装置において、二次空気供給ノズル21の設置位置から下流側の2次燃焼室部7に燃焼ガスが入ってから排ガスとして排出されるまでの滞留時間を、1秒ないし2秒の範囲に保持する技術。」

(8)甲第8号証
ア 甲第8号証に記載された事項
本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第8号証には、「微粉炭ボイラと微粉炭燃焼方法及び微粉炭焚き火力発電システム並びに微粉炭ボイラの排ガス浄化システム」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「火炉100の壁面は、上部の火炉天井84と、下部のホッパ85と、側方の火炉前壁86と、火炉後壁87及び図示しない火炉側壁で囲われ、それぞれの壁面には、図示しない水管が設置される。この水管により、火炉燃焼空間1で発生した燃焼熱の一部が吸収される。火炉燃焼空間1で生成した燃焼気体は下方から上方へ流れ、パネル型熱交換器12で燃焼気体中に含まれる熱がさらに回収される。パネル型熱交換器12で熱回収された燃焼排ガス13は、エアヒータ6で燃焼用の空気を加熱した後、図示しない煙突から排出される。
火炉前壁86と火炉後壁87の下部には、対向するように、複数段のバーナ2が設置され、ここで空気不足の状態で微粉炭が燃焼する。各段には、それぞれ複数個のバーナが設置される。石炭は図示しない粉砕器で、およそ150μm以下に粉砕した後、空気でバーナ2に搬送され、1次空気と微粉炭4は、バーナ2から火炉内に噴出される。バーナ用2次と3次空気7は、ウインドボックス9を経て、バーナ2から火炉内に噴出される。
バーナ2の上方には、アフタエアポート3が設置される。アフタエアポートは主アフタエアポートのみからなる場合と、主アフタエアポートと副アフタエアポートからなる場合がある。図1では、主アフタエアポートのみからなるボイラを示している。副アフタエアポートは、主アフタエアポート間、或いは主アフタエアポートよりも上方に設置される場合が多い。ここで、アフタエアポートが火炉の上下方向に複数段備えられている場合、流量の多い段を主アフタエアポート、流量の少ない段を副アフタエアポートと定義する。」(段落[0024]ないし[0026])

(イ)「最上段バーナから主アフタエアポートまでの燃焼ガスの滞留時間は、最上段バーナから主アフタエアポートまでの距離によって概ね決定されるが、火炉の設計条件を以下のようにすると、よりコントロールしやすくなる。具体的には、最上段バーナとアフタエアポート間の距離17、すなわち最上段バーナから主アフタエアポートまでの距離を、火炉底部からノーズ11までの高さ18の比で、20-30%とする。或いは、最上段バーナから主アフタエアまでの距離を、火炉底部から最初に燃焼ガスが接触するパネル型熱交換器12までの高さ26の比で、20-30%とする。或いは、最上段バーナから主アフタエアまでの距離を、ボイラの高さ27の比で、15-22%とする。」(段落[0032])

イ 甲8技術事項
上記ア及び図1の記載によれば、甲第8号証には、次の事項からなる技術(以下、「甲8技術事項」という。)が記載されていると認める。
「火炉100において、アフタエアポート3よりも燃焼排ガスの流れ方向下流側の壁面にノーズ11を有する技術。」

(9)甲第9号証
ア 甲第9号証に記載された事項
本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第9号証には、「ごみ焼却炉」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項3】 燃焼室におけるノズルが設けられた部分よりも後流側の部分に絞り部が設けられている請求項1記載のごみ焼却炉。」(【特許請求の範囲】の【請求項】)

(イ)「【0015】ごみ焼却炉の1次燃焼室(1) の左右両側壁(1c)には、先端吹出口が1つの水平仮想円(C) と同一水平面内に位置しかつその接線方向を向いている4つの混合用流体噴射ノズル(10)が設けられている。混合用流体としては、空気、水、水蒸気、不活性ガス、および燃焼排ガスからなる群から選ばれた少なくとも1種の流体が用いられる。ノズル(10)としては、空気、水蒸気、不活性ガス、および燃焼排ガスからなる群から選ばれた少なくとも1種の気体を用いて水を霧化し、噴霧する高圧気流噴霧式水ノズルや、気体を用いずに水を霧化し、噴霧するノズルや、空気、水蒸気、不活性ガス、および燃焼排ガスからなる群から選ばれた少なくとも1種の気体を噴射するノズルが用いられる。ノズル(10)の先端吹出口は偏平状であることが好ましい。1次燃焼室(1) の左右方向の幅をL、水平仮想円(C) の直径をDとすると、両者の比L/Dは5?15の範囲内にあることが好ましい。この比L/Dの特に好ましい範囲は5?12である。また、2次燃焼室(2) の高さの中間部には絞り部(11)が設けられている。」(段落【0015】)

(ウ)「【0018】上記渦流(S) により混合された火炎(F) および未燃分と余剰空気(A) とは2次燃焼室(2) 内に入り、絞り部(11)を通過することによってその流れが乱されて撹拌され、さらにこれらのものの混合が行われ、完全燃焼化が一層促進される。しかも、偏流の発生が抑制される。」(段落【0018】)

イ 甲9技術事項
上記ア及び図1の記載によれば、甲第9号証には、次の事項からなる技術(以下、「甲9技術事項」という。)が記載されていると認める。
「ごみ焼却炉において、混合用流体噴射ノズル10よりも燃焼排ガスのガス流れ方向の下流側の壁面に絞り部11を有する技術。」

(10)甲第10号証
ア 甲第10号証に記載された事項
本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第10号証には、「酸素含有炭化水素溶媒を含む尿素溶液を使用する,窒素ベ-スの汚染物質の削減」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「本発明は炭素質燃料の燃焼の改善,更に詳述すれば,窒素をベースにした汚染物質の低い排出で大型ボイラーを焚くことの改良に関係する。」(2ページ3欄13行ないし15行)

(イ)「炭素質燃料の燃焼で生ずる酸素リッチな排出物中のアンモニアレベルを低く抑えつつ,窒素酸化物類の濃度を低下させるプロセスを提供するのが本発明の目的である。」(3ページ5欄1行ないし3行)

(ウ)「尿素は水溶液の形態で排気に供給するのが好ましく,液中濃度は少なくとも排気中のNOxレベルを軽減するのに有効な濃度である必要がある。溶液は飽和液から極めて稀薄な溶液まで使用できる。排気温度が高くなると,尿素溶液の濃度を下げて,例えば2000゜Fでは20%以下,この温度以上になると0.5%から10%にとる。一方2000゜F以下の代表的な濃度は20%から40%までである。
排気ガス中の尿素濃度は,酸化窒素レベルを低下させるのに十分な量が必要である。代表値をあげれば,ベース・ラインの窒素酸化物に対する尿素のモル比が約1対4から5対1になるように尿素を使用し,約2対1から約1対2の間になるようにとるのが好ましい。」(3ページ5欄34行ないし45行)

(エ)「本発明に則った尿素溶液は、排気中に液滴を分散させるのに十分な乱流が存在する場所で,複数個のある距離離れた点から噴射するのが好ましい。すなわち流動する排気流内へ均一な形の液滴を分散するのに有効なノズルを通して本溶液を噴射する。ノズルは均一な混合を達成するのに十分な個数だけ配置する。液滴のサイズは約10から約10000の範囲とし,約50ミクロンより大きいのが好ましい。液滴のサイズは,尿素が排気と均一に混合してからボイラー内部の十分長い行路を通過して,意図した機能を達成するために極めて重要である。液滴サイズは温度上昇と共に大きくとるのが好ましい。2000゜F以下では150ミクロン以下の液滴は好ましく,これより高温になると粒径を大きくして,500ミクロン以上にするのが好ましい。」(3ページ6欄39行ないし4ページ7欄2行)

イ 甲10技術事項
上記ア及び図1の記載によれば、甲第10号証には、次の事項からなる技術(以下、「甲10技術事項」という。)が記載されていると認める。
「大型ボイラにおける脱硝プロセスにおいて、排気ガスの排気温度に応じて、複数のノズルから排気ガスへ噴射する尿素溶液の尿素濃度を変化させるとともに、液滴サイズを変化させる技術。」

2 理由3について(理由1及び2並びに14ないし22については、後記6ないし8のとおり。)
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを、その機能、構成または技術的意義を考慮して対比する。
・甲1発明における「ゴミである燃焼物7」は、本件発明1における「廃棄物」に相当し、以下同様に、「焼却炉」は「焼却炉」に、「アンモニアである還元剤14」は「脱硝薬剤」に、「還元剤供給手段」は「脱硝薬剤供給手段」に、「ゴミ焼却設備」は「廃棄物焼却プラント」に、「1次空気8」は「一次空気」に、「燃焼」は「焼却処理」に、「一次燃焼領域」は「一次燃焼領域」に、「煙ガス9」は「未燃焼物あるいは不完全燃焼物」に、「2次空気11」は「二次空気」に、「二次燃焼」は「二次燃焼」に、「二次燃焼領域」は「二次燃焼領域」に、「燃焼室2の壁面」は「焼却炉の壁面」に、「二次燃焼後の煙ガス9」は「燃焼排ガス」に、「二成分ノズル15」は「脱硝薬剤供給ノズル」に、それぞれ相当する。

・甲1発明における「火格子1上において1次空気8を供給してゴミである燃焼物7を燃焼する一次燃焼領域」は、本件発明1における「焼却炉内に一次空気を導入して廃棄物を焼却処理する一次燃焼領域」に相当する。

・甲1発明における「火格子1の上方に延びる燃焼室2においてゴミである燃焼物7の燃焼で発生した煙ガス9を2次空気11により二次燃焼させる二次燃焼領域」は、本件発明1における「廃棄物の未燃焼物あるいは不完全燃焼物を二次空気により二次燃焼させる二次燃焼領域」に相当する。

・甲1発明における「ゴミである燃焼物7を燃焼することにより生じた二次燃焼後の煙ガス9にアンモニアである還元剤14を霧化媒体を用いて吹き込む二成分ノズル15」は、本件発明1における「廃棄物を焼却処理することにより生じた燃焼排ガスに脱硝薬剤溶液を噴霧する脱硝薬剤供給ノズル」に、「廃棄物を焼却処理することにより生じた燃焼排ガスに脱硝薬剤を吹き込む脱硝薬剤供給ノズル」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「廃棄物を燃焼させ、焼却処理する焼却炉に脱硝薬剤を吹き込んで脱硝する脱硝薬剤供給手段を有する廃棄物焼却プラントであって、
前記焼却炉は、前記焼却炉内に一次空気を導入して前記廃棄物を焼却処理する一次燃焼領域と、前記廃棄物の未燃焼物あるいは不完全燃焼物を二次空気により二次燃焼させる二次燃焼領域と、前記焼却炉の壁面に設けられ、前記廃棄物を焼却処理することにより生じた燃焼排ガスに脱硝薬剤を吹き込む脱硝薬剤供給ノズルとを有する廃棄物焼却プラント。」の点で一致し、次の点で相違している。

[相違点1]
「廃棄物を焼却処理することにより生じた燃焼排ガスに脱硝薬剤を吹き込む脱硝薬剤供給ノズル」に関し、本件発明1においては、「廃棄物を焼却処理することにより生じた燃焼排ガスに脱硝薬剤溶液を噴霧する脱硝薬剤供給ノズル」であるのに対して、甲1発明においては、「ゴミである燃焼物7を燃焼することにより生じた二次燃焼後の煙ガス9にアンモニアである還元剤14を霧化媒体を用いて吹き込む二成分ノズル15」である点(以下、「相違点1」という。)。

[相違点2]
本件発明1においては、「脱硝薬剤供給ノズルよりも燃焼排ガスのガス流れ方向の上流側であって、二次空気を供給する二次空気供給ノズルよりも前記燃焼排ガスのガス流れ方向の下流側の焼却炉の壁面に設けられ、前記燃焼排ガスを撹拌する撹拌用空気を供給する撹拌用空気供給ノズルを有する」のに対して、甲1発明においては、「2次空気11の供給位置よりも前記煙ガス9のガス流れ方向の下流側に前記二成分ノズル15が設けられている」ものの、そのような攪拌用空気供給ノズルを有するものではない点(以下、「相違点2」という。)。

(2)判断
ア 相違点1について
廃棄物を焼却処理する焼却炉において、廃棄物を焼却処理することにより生じた燃焼排ガスに脱硝薬剤を吹き込む際に、脱硝薬剤溶液を噴霧することは、本件出願の出願前にごく普通に行われていることであるから、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
(ア)本件発明1の「攪拌用空気」について
上記相違点2の判断をするにあたり、まず、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項における「撹拌用空気」について、その技術的意味を以下に検討する。

a 特許明細書に記載された事項
本件出願の願書に添付された明細書等(以下、「特許明細書」という。)には、「撹拌用空気」に関し、次の事項が記載されている。なお、下線は理解の一助とするために当審で付したものである。

(a)「【請求項1】
廃棄物を燃焼させ、焼却処理する焼却炉に脱硝薬剤を吹き込んで脱硝する脱硝薬剤供給手段を有する廃棄物焼却プラントであって、
前記焼却炉は、前記焼却炉内に一次空気を導入して前記廃棄物を焼却処理する一次燃焼領域と、前記廃棄物の未燃焼物あるいは不完全燃焼物を二次空気により二次燃焼させる二次燃焼領域と、前記焼却炉の壁面に設けられ、前記廃棄物を焼却処理することにより生じた燃焼排ガスに脱硝薬剤溶液を噴霧する脱硝薬剤供給ノズルとを有すると共に、
前記脱硝薬剤供給ノズルよりも前記燃焼排ガスのガス流れ方向の上流側であって、前記二次空気を供給する二次空気供給ノズルよりも前記燃焼排ガスのガス流れ方向の下流側の前記焼却炉の壁面に設けられ、前記燃焼排ガスを撹拌する撹拌用空気を供給する撹拌用空気供給ノズルを有することを特徴とする廃棄物焼却プラント。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

(b)「【請求項9】
廃棄物を燃焼させ、焼却処理する焼却炉に脱硝薬剤を吹き込んで脱硝する脱硝薬剤供給手段を有する廃棄物焼却プラントであって、
前記焼却炉は、前記焼却炉内に一次空気を導入して前記廃棄物を焼却処理する一次燃焼領域と、前記廃棄物の未燃焼物あるいは不完全燃焼物を二次空気により二次燃焼させる二次燃焼領域と、前記焼却炉の壁面に設けられ、前記廃棄物を焼却処理することにより生じた燃焼排ガスに脱硝薬剤溶液を噴霧する脱硝薬剤供給ノズルとを有し、
前記脱硝薬剤供給ノズルが、
前記脱硝薬剤溶液の濃度が1質量%以上?5質量%以下であって、平均粒子径が50μm以上?300μm以下の脱硝薬剤溶液を噴霧する第1の脱硝薬剤供給ノズルと、
前記脱硝薬剤溶液の濃度が3質量%以上?20質量%以下であって、平均粒子径が30μm以上?100μm以下の脱硝薬剤溶液を噴霧する第2の脱硝薬剤供給ノズルと、
を含み、
前記第1の脱硝薬剤供給ノズルの両側に前記第2の脱硝薬剤供給ノズルを設けた3つの脱硝薬剤供給ノズルを1組とし、当該1組の脱硝薬剤供給ノズルが前記二次燃焼室の壁面に対向して設けられることを特徴とする廃棄物焼却プラント。」(【特許請求の範囲】の【請求項9】)

(c)「【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、炉内の温度場や燃焼排ガスのガス組成などの変動が生じた場合であっても、炉内の温度場の変動を迅速かつ適切に抑制し、安定して効率良く脱硝を行うことができると共に、簡素な装置構成で実現することができる廃棄物焼却プラントを提供することを目的とする。」(段落【0010】)

(d)「【0025】
このように、本発明によれば、焼却炉が、燃焼排ガスを攪拌するための燃焼排ガス撹拌手段を有することで、炉内の温度場や燃焼排ガスのガス組成などの変動が生じた場合であっても、炉内の温度場の変動を迅速かつ適切に抑制し、安定して効率良く脱硝を行うことができると共に、簡素な装置構成で実現することができる。」(段落【0025】)

(e)「【0034】
二次燃焼室23は、一次燃焼室22の上方に設けられ、一次燃焼室22から発生した未燃ガスを二次空気35により二次燃焼を行う炉内の領域である。本実施形態において、二次燃焼室23は、被燃焼物17の未燃焼物あるいは不完全燃焼物を二次空気35により二次燃焼を行う二次燃焼領域となる。二次燃焼室23の壁面には、二次空気供給ノズル36a?36dが設けられている。二次空気供給ノズル36a、36bは一次燃焼室22の乾燥帯側に設けられ、二次空気供給ノズル36c、36dは二次燃焼室23のおき燃焼帯側に設けられている。二次空気供給用の押込送風機(ファン)37には二次空気管38が連結されている。二次空気管38には蒸気式空気予熱器(SAH)39が設けられている。二次空気管38は蒸気式空気予熱器(SAH)39の下流側で2つに分岐しており、1本の二次空気管38aは乾燥側の二次空気供給ノズル36a、36bに接続され、1本の二次空気管38bはおき燃焼帯側の二次空気供給ノズル36c、36dに接続されている。分岐した二次空気管38a、38bには、それぞれ開閉弁34cが設けられており、乾燥帯側とおき燃焼帯側の二次空気供給ノズル36a?36dで、二次空気35の供給量を調整することができる。なお、乾燥帯側とおき燃焼帯側の二次空気供給ノズル36a?36dは、それぞれガス流に沿って二次燃焼室23に複数段設けてもよい。その場合、その数に合わせて二次空気管38を分岐する。
【0035】
燃焼排ガスは、二次空気供給ノズル36a?36dから供給される二次空気35によって二次燃焼室23において更なる高温燃焼がなされて完全燃焼される。」(段落【0034】及び【0035】)

(f)「【0041】
よって、撹拌用空気供給ノズル14および水噴霧ノズル15を、脱硝薬剤供給ノズル44の燃焼排ガスのガス流れ方向の上流側であって、二次空気35を供給する二次空気供給ノズル36a?36dよりも燃焼排ガスのガス流れ方向の下流側の焼却炉12の壁面に設け、炉内に撹拌用空気48、水49の何れか一方又は両方を噴霧することができる。これにより、燃焼排ガスは、撹拌用空気48と水49との何れか一方又は両方により混合される。撹拌用空気48と水49との何れか一方又は両方による燃焼排ガスとの混合作用により、炉内の燃焼排ガスのガス温度の分布およびガス成分の濃度の均一化を図ることができる。この結果、脱硝薬剤を燃焼排ガスに供給する前に、脱硝に最適な温度場を形成することができると共に、燃焼排ガスの空間的な温度場、濃度場の均一化を促進することができ、脱硝性能の安定化を最小の部品点数で図ることができる。
【0042】
撹拌用空気48および水49は、燃焼排ガスを二次空気35と完全燃焼させた後に供給されることが脱硝効率の向上を図る観点から好ましく、撹拌用空気供給ノズル14および水噴霧ノズル15は、二次空気供給ノズル36b、36dの設置位置から燃焼排ガスのガス流れ方向の下流側に所定距離離れた位置に設けるのが好ましい。図2は、脱硝薬剤供給ノズル、攪拌用空気ノズル(水噴霧ノズル)、二次空気供給ノズルの位置関係を示す図である。図2に示すように、二次空気供給ノズル36b、36dの設置位置から撹拌用空気供給ノズル14と水噴霧ノズル15との何れか一方または両方の設置位置までの間における燃焼排ガスの滞留時間は、下記式(1)、(2)を満たすことが好ましい。
1sec≦S≦2sec ・・・(1)
S=A/G ・・・(2)
尚、二次空気供給ノズル36b、36dの設置位置から撹拌用空気供給ノズル14と水噴霧ノズル15との何れか一方または両方の設置位置までの間における燃焼排ガスの滞留時間をSとし、二次空気供給ノズル36b、36dの設置位置から撹拌用空気供給ノズル14と水噴霧ノズル15との何れか一方または両方の設置位置までの間における空間の容積をAとし、二次燃焼室23内を通過する全ガス量をGとする。
【0043】
燃焼排ガスの滞留時間Sを、上記式(1)のように、1秒以上とするのは、燃焼排ガスを二次空気35と完全燃焼させるために要する時間であるからである。燃焼排ガスを二次空気35と完全燃焼させることができたか否かは、例えば、燃焼排ガス中のO_(2)濃度から求めることができる。燃焼排ガスの滞留時間Sと燃焼排ガス中のO_(2)濃度との関係を予め求めておき、燃焼排ガス中のO_(2)濃度が所定値近傍になった時間まで燃焼させることで、燃焼排ガスを二次空気35と完全燃焼させることができることになる。
【0044】
図3は、滞留時間と燃焼排ガス中のO_(2)濃度との関係を示す図である。図3に示すように、燃焼排ガスの滞留時間Sが1秒程度で燃焼排ガス中のO_(2)濃度が所定値で安定する。よって、燃焼排ガスの滞留時間Sが1秒以上の場合には、燃焼排ガスは二次空気35と完全燃焼させることができるといえる。」(段落【0041】ないし【0044】)

(g)「【0046】
このように、燃焼排ガスを二次空気35と完全燃焼させた後、脱硝薬剤を燃焼排ガスに供給することができるため、被燃焼物17と二次空気35とが反応する燃焼反応が不十分であったことにより生じるCO等の未燃成分の排出を抑制することができる。また、燃焼排ガスを二次空気35と完全燃焼させた後、攪拌用空気48や水49を燃焼排ガスとの混合撹拌に活用し、排ガス温度の調整を行うことができ、脱硝薬剤を適正な温度領域に噴霧することができるため、脱硝薬剤の供給量の低減を図ることができ、脱硝効率の向上を図ることができる。」(段落【0046】)

(h)「【0065】
また、本実施形態においては、燃焼排ガス撹拌手段として、撹拌用空気供給ノズル14および水噴霧ノズル15を用いた場合について説明したが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、燃焼排ガスを撹拌できるものであれば、撹拌用空気供給ノズル14および水噴霧ノズル15にかえて用いてもよいし、これらと併用してもよい。」(段落【0065】)

b 「撹拌用空気」の技術的意味
特許明細書に記載された上記aの事項によると、燃焼排ガスは二次空気による二次燃焼により完全燃焼されるのであって、本件発明1における「撹拌用空気」は、燃焼排ガスの二次燃焼のためのものではなく、完全燃焼後の燃焼排ガスに対して脱硝を安定して効率よく行うための燃焼排ガスの攪拌を主たる機能とするものと理解できる。

(イ)甲2技術
次に、甲2技術事項1について、本件発明1の用語で表現するために、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項との対応関係を検討する。
・甲2技術事項1における「廃棄物焼却炉1」は本件発明1における「廃棄物焼却プラント」に相当し、以下同様に、「燃焼ガス」は「燃焼排ガス」に、「二次燃焼空気」は「二次空気」に、「吹き込む」は「供給する」に、「空気ノズル11、12、12A」は「二次空気供給ノズル」に、「燃焼室5の壁面」は「焼却炉の壁面」に、それぞれ相当する。
そうすると、甲2技術事項1は、本件発明1の用語を用いて表現すると、
「廃棄物焼却プラントにおいて、燃焼排ガスに二次空気を供給する複数の二次空気供給ノズルを備え、複数の二次空気供給ノズルは、焼却炉の壁面における燃焼排ガスの流れ方向に異なる複数箇所にそれぞれ設けられるようにした技術。」(以下、「甲2技術」という。)といえる。

(ウ)相違点2についての検討
そこで相違点2について検討すると、甲2技術は、上記1(2)ア(オ)及び(キ)に示した甲第2号証(段落【0021】及び【0028】)に記載された事項によれば、二次空気によって燃焼排ガスが混合・攪拌されるものであるところ、これによって炉内の燃焼について完全燃焼を行うことを可能とするものである(上記1(2)ア(キ)を参照。)。
一方、本件発明1において、攪拌用空気は、上記(ア)bで述べたように、上記相違点2に係る発明特定事項は、燃焼排ガスの二次燃焼のためのものではなく、完全燃焼後の燃焼排ガスに対して脱硝を安定して効率よく行うための燃焼排ガスの攪拌を主たる機能とするものであり、完全燃焼を行うための二次空気とは異なるから、甲1発明において、甲2技術を適用したとしても、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることはできない。

なお、燃焼排ガスの流れ方向に異なる複数箇所から二次空気を吹き込む構成については、甲第3号証ないし甲第5号証に記載されているとおり、本件出願の出願前に周知の技術であるとしても、二次空気は、完全燃焼を行うためのものであり、脱硝を安定して効率よく行うための燃焼排ガスの攪拌を主たる機能とする攪拌用空気とは異なるのであるから、甲1発明において、周知の技術を適用することにより、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることはできない。

(エ)効果について
そして、本件発明1は、甲1発明及び甲2技術からは予測し得ない、「炉内の温度場や燃焼排ガスのガス組成などの変動が生じた場合であっても、炉内の温度場の変動を迅速かつ適切に抑制し、安定して効率良く脱硝を行うことができる」という格別な効果を奏するものである。

(オ)まとめ
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲2技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 理由4について
(1)対比
本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点については、上記2(1)で示した一致点並びに相違点1及び2と同じである。

(2)判断
ア 相違点1について
上記2(2)アで示した相違点1についての検討において述べたとおりである。

イ 相違点2について
(ア)甲5技術
相違点2の検討にあたり、先ず、甲5技術事項について、本件発明1の用語で表現するために、甲5技術事項と相違点2に係る本件発明1の発明特定事項との対応関係を検討する。
・甲5技術事項における「ごみ焼却炉」は本件発明1における「廃棄物焼却プラント」に相当し、以下同様に、「炉側壁」は「焼却炉の壁面」に、「排ガス」は「燃焼排ガス」に、「二次空気」は「二次空気」に、「注入する」は「供給する」に、「ごみ焼却」は「焼却処理」に、「未燃分」は「廃棄物の未燃焼物あるいは不完全燃焼物」に、それぞれ相当する。
そうすると、甲5技術事項は、本件発明1の用語を用いて表現すると、
「廃棄物焼却プラントにおいて、焼却炉の壁面における燃焼排ガスの流れ方向に異なる複数箇所A,B,Cから二次空気を供給することにより、焼却処理により発生する廃棄物の未燃焼物あるいは不完全燃焼物を完全に燃焼させる技術。」(以下、「甲5技術」という。)といえる。

(イ)相違点2についての検討
そこで相違点2について検討すると、甲5技術における二次空気は、完全燃焼を行うためのものであり、上記2(2)イ(ア)bで述べた、脱硝を安定して効率よく行うための燃焼排ガスの攪拌を主たる機能とする攪拌用空気とは異なるのであるから、甲1発明において、甲5技術を適用することができたとしても、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることはできない。

(ウ)効果について
そして、本件発明1は、甲1発明及び甲5技術からは予測し得ない、「炉内の温度場や燃焼排ガスのガス組成などの変動が生じた場合であっても、炉内の温度場の変動を迅速かつ適切に抑制し、安定して効率良く脱硝を行うことができる」という格別な効果を奏するものである。

(エ)まとめ
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲5技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 理由5について
(1)対比
本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点については、上記2(1)で示した一致点並びに相違点1及び2と同じである。

(2)判断
ア 相違点1について
上記2(2)アで示した相違点1についての検討において述べたとおりである。

イ 相違点2について
(ア)甲6技術
相違点2の検討にあたり、先ず、甲6技術事項について、本件発明1の用語で表現するために、甲6技術事項と相違点2に係る本件発明1の発明特定事項との対応関係を検討する。
・甲6技術事項における「都市ごみ焼却炉」は本件発明1における「廃棄物焼却プラント」に相当し、以下同様に、「燃焼ガス」は「燃焼排ガス」に、「二次エア」は「二次空気」に、「吹き込む」は「供給する」に、それぞれ相当する。
そうすると、甲6技術事項は、本件発明1の用語を用いて表現すると、
「廃棄物焼却プラントにおいて、燃焼排ガスの流れ方向に異なる3箇所から二次空気を供給することにより、燃焼排ガスを完全燃焼させる技術。」(以下、「甲6技術」という。)といえる。

(イ)相違点2についての検討
そこで相違点2について検討すると、甲6技術における二次空気は、完全燃焼を行うためのものであり、上記2(2)イ(ア)bで述べた、脱硝を安定して効率よく行うための燃焼排ガスの攪拌を主たる機能とする攪拌用空気とは異なるのであるから、甲1発明において、甲6技術を適用することができたとしても、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることはできない。

(ウ)効果について
そして、本件発明1は、甲1発明及び甲6技術からは予測し得ない、「炉内の温度場や燃焼排ガスのガス組成などの変動が生じた場合であっても、炉内の温度場の変動を迅速かつ適切に抑制し、安定して効率良く脱硝を行うことができる」という格別な効果を奏するものである。

(エ)まとめ
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲6技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 理由6ないし13について
甲3技術事項は、本件出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項2に記載された発明特定事項に対応し、甲7技術事項は、本件出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項3に記載された発明特定事項に対応し、甲8技術事項及び甲9技術事項は、本件出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項4に記載された発明特定事項に対応し、甲10技術事項は、本件出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項5、6及び8に記載された発明特定事項に対応し、甲2技術事項2は、本件出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項12に記載された発明特定事項に対応しするものである。
しかしながら、甲3技術事項、甲7技術事項、甲8技術事項、甲9技術事項、甲10技術事項及び甲2技術事項2は、上記2(1)で示した相違点2に係る本件発明1の発明特定事項に相当する事項を充足するものではない。
そして、本件発明2ないし6、8及び12は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものである。
そうすると、上記2(2)の判断を踏まえると、本件発明2ないし6、8及び12は、甲1発明、甲2技術、並びに甲3技術事項、甲7技術事項、甲8技術事項、甲9技術事項、甲10技術事項及び甲2技術事項2のいずれかの技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6 理由1及び14について
(1)対比
本件発明1と甲3発明1とを、その機能、構成または技術的意義を考慮して対比する。
・甲3発明1における「ごみ」は、本件発明1における「廃棄物」に相当し、以下同様に、「焼却処理」は「焼却処理」に、「焼却炉2」は「焼却炉」に、「脱硝剤」は「脱硝薬剤」に、「脱硝剤供給手段」は「脱硝薬剤供給手段」に、「流動層式ごみ焼却炉」は「廃棄物焼却プラント」に、「燃焼用空気」は「一次空気」に、「吹き込んで」は「導入して」に、「流動層3による燃焼領域」は「一次燃焼領域」に、「揮発分」は「未燃焼物あるいは不完全燃焼物」に、「二次空気」は「二次空気」に、「二次燃焼」は「二次燃焼」に、「二次燃料領域」は「二次燃料領域」に、「焼却炉2の壁面」は「焼却炉の壁面」に、「燃焼排ガス」は「燃焼排ガス」に、「脱硝剤の水溶液」は「脱硝薬剤溶液」に、「吹き込む」は「噴霧する」に、「脱硝剤吹き込みノズル36」は「脱硝薬剤供給ノズル」に、「二次空気ノズル13」は「二次空気供給ノズル」に、それぞれ相当する。

・甲3発明1における「ごみの揮発分を燃焼するための三次空気を供給する三次空気ノズル14」は、本件発明1における「燃焼排ガスを撹拌する撹拌用空気を供給する撹拌用空気供給ノズル」に、「燃焼排ガスを処理する処理用空気を供給する処理用空気供給ノズル」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「廃棄物を燃焼させ、焼却処理する焼却炉に脱硝薬剤を吹き込んで脱硝する脱硝薬剤供給手段を有する廃棄物焼却プラントであって、
前記焼却炉は、前記焼却炉内に一次空気を導入して前記廃棄物を焼却処理する一次燃焼領域と、前記廃棄物の未燃焼物あるいは不完全燃焼物を二次空気により二次燃焼させる二次燃焼領域と、前記焼却炉の壁面に設けられ、前記廃棄物を焼却処理することにより生じた燃焼排ガスに脱硝薬剤溶液を噴霧する脱硝薬剤供給ノズルとを有すると共に、
前記脱硝薬剤供給ノズルよりも前記燃焼排ガスのガス流れ方向の上流側であって、前記二次空気を供給する二次空気供給ノズルよりも前記燃焼排ガスのガス流れ方向の下流側の前記焼却炉の壁面に設けられ、前記燃焼排ガスを処理する処理用空気を供給する処理用空気供給ノズルを有する廃棄物焼却プラント。」の点で一致し、次の点で相違している。

[相違点A]
「燃焼排ガスを処理する処理用空気を供給する処理用空気供給ノズル」に関し、本件発明1においては、「燃焼排ガスを撹拌する撹拌用空気を供給する撹拌用空気供給ノズル」であるのに対して、甲3発明1においては、「ごみの揮発分を燃焼するための三次空気を供給する三次空気ノズル14」である点(以下、「相違点A」という。)。

(2)判断
上記相違点Aについて検討すると、上記2(2)イ(ア)bで述べたように、本件発明1における「攪拌用空気」は、燃焼排ガスの二次燃焼のためのものではなく、完全燃焼後の燃焼排ガスに対して脱硝を安定して効率よく行うための燃焼排ガスの攪拌を主たる機能とするものであるから、甲3発明1における「ごみの揮発分を燃焼するための三次空気」とは異なるものであり、甲3発明1においては、上記相違点Aに係る本件発明1の発明特定事項を備えていないことは明らかである。
そして、本件発明1は、甲3発明1からは予測し得ない、「炉内の温度場や燃焼排ガスのガス組成などの変動が生じた場合であっても、炉内の温度場の変動を迅速かつ適切に抑制し、安定して効率良く脱硝を行うことができる」という格別な効果を奏するものである。

したがって、本件発明1は、甲3発明1と同一ではなく、また、甲3発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

7 理由2及び15について
(1)対比
本件発明2と甲3発明2とを、その機能、構成または技術的意義を考慮して対比する。
甲3発明2における「噴射する」は、本件発明2における「噴霧する」に相当し、同様に、「冷却水噴射ノズル21」は「水噴霧ノズル」に相当する。
そして、上記6(1)の検討を踏まえると、両者は、
「廃棄物を燃焼させ、焼却処理する焼却炉に脱硝薬剤を吹き込んで脱硝する脱硝薬剤供給手段を有する廃棄物焼却プラントであって、
前記焼却炉は、前記焼却炉内に一次空気を導入して前記廃棄物を焼却処理する一次燃焼領域と、前記廃棄物の未燃焼物あるいは不完全燃焼物を二次空気により二次燃焼させる二次燃焼領域と、前記焼却炉の壁面に設けられ、前記廃棄物を焼却処理することにより生じた燃焼排ガスに脱硝薬剤溶液を噴霧する脱硝薬剤供給ノズルとを有すると共に、
前記脱硝薬剤供給ノズルよりも前記燃焼排ガスのガス流れ方向の上流側であって、前記二次空気を供給する二次空気供給ノズルよりも前記燃焼排ガスのガス流れ方向の下流側の前記焼却炉の壁面に設けられ、前記燃焼排ガスを処理する処理用空気を供給する処理用空気供給ノズルを有し、
さらに、前記燃焼排ガスに水を噴霧する水噴霧ノズルを有する廃棄物焼却プラント。」の点で一致し、次の点で相違している。

[相違点B]
「燃焼排ガスを処理する処理用空気を供給する処理用空気供給ノズル」に関し、本件発明1においては、「燃焼排ガスを撹拌する撹拌用空気を供給する撹拌用空気供給ノズル」であるのに対して、甲3発明2においては、「ごみの揮発分を燃焼するための三次空気を供給する三次空気ノズル14」である点(以下、「相違点B」という。)。

(2)判断
上記相違点Bは、上記6(1)で示した相違点Aと同じである。
したがって、上記6(2)の検討を踏まえると、本件発明2は、甲3発明2と同一ではなく、また、甲3発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

8 理由16ないし22について
甲7技術事項は、本件出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項3に記載された発明特定事項に対応し、甲8技術事項及び甲9技術事項は、本件出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項4に記載された発明特定事項に対応し、甲10技術事項は、本件出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項5、6及び8に記載された発明特定事項に対応し、甲2技術事項2は、本件出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項12に記載された発明特定事項に対応しするものである。
しかしながら、甲3技術事項、甲7技術事項、甲8技術事項、甲9技術事項、甲10技術事項及び甲2技術事項2は、上記6(1)で示した相違点Aに係る本件発明1の発明特定事項に相当する事項又は上記7(1)で示した相違点Bに係る本件発明2の発明特定事項に相当する事項を充足するものではない。
そして、本件発明3ないし6、8及び12は、本件発明1の発明特定事項又は本件発明2の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものである。
そうすると、上記6(2)の判断又は上記7(2)の判断を踏まえると、本件発明3ないし6、8及び12は、甲3発明1と、甲7技術事項、甲8技術事項、甲9技術事項、甲10技術事項及び甲2技術事項2のいずれかの技術に基づいて、又は、甲3発明2と、甲7技術事項、甲8技術事項、甲9技術事項、甲10技術事項及び甲2技術事項2のいずれかの技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

9 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1及び2は、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し、特許を受けることができないものとはいえず、また、本件発明1ないし6、8及び12は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものとはいえない。
したがって、請求項1ないし6、8及び12に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しないから、取り消されるべきものとすることはできない。


第5 結語
上記第4のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし6、8及び12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし6、8及び12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-08-09 
出願番号 特願2011-44890(P2011-44890)
審決分類 P 1 652・ 113- Y (F23G)
P 1 652・ 121- Y (F23G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡邉 洋  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 槙原 進
金澤 俊郎
登録日 2015-10-02 
登録番号 特許第5812630号(P5812630)
権利者 三菱重工環境・化学エンジニアリング株式会社
発明の名称 廃棄物焼却プラント  
代理人 阿部 寛  
代理人 酒井 宏明  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 黒木 義樹  
代理人 高村 順  
代理人 荒井 寿王  

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