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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  E03D
審判 一部申し立て 2項進歩性  E03D
管理番号 1318093
異議申立番号 異議2016-700097  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-05 
確定日 2016-08-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第5811508号発明「便器洗浄水タンク」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5811508号の請求項1、2、4、5に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5811508号の請求項1、2、4、5に係る特許についての出願は、平成24年3月2日に特許出願され(特願2012-46363号、優先日:平成23年3月4日)、平成27年10月2日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人株式会社LIXIL(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明
特許第5811508号の請求項1、2、4、5に係る特許は、その特許請求の範囲の請求項1、2、4、5に記載された事項により特定される、下記のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」「本件発明2」などという。分説は申立人の主張に基づく。)。

(本件発明1)【請求項1】
「A 便器本体に固定される便器洗浄水タンクであって、
B 外装タンクと、
C 前記外装タンク内に装着され前記便器本体を洗浄するための洗浄水を溜める内装タンクと、
D 前記内装タンクへ洗浄水を供給すると共に手洗いのための洗浄水を吐水する手洗い吐水管と、
E 前記外装タンクの上方に着脱自在に載置され、その上面に手洗い鉢が形成されると共に前記手洗い吐水管からの洗浄水を前記内装タンクへ給水する第1の吐水口が形成された外蓋と、
F 前記内装タンクの上方に着脱自在に載置され、前記第1の吐水口からの洗浄水を前記内装タンクへ給水する第2の吐水口が形成された内蓋と、を有し、
G 前記第1の吐水口は前記外蓋の裏面より下方に突出するように形成され、
H 前記第2の吐水口は前記内蓋の上面より上方に突出するように形成され、
I 前記第2の吐水口の内径は前記第1の吐水口の外径より大きく、且つ前記第2の吐水口の上端は、前記第1の吐水口の下端より上側に位置している
J ことを特徴とする便器洗浄水タンク。」

(本件発明2)【請求項2】
「K 便器本体に固定される便器洗浄水タンクであって、
L 外装タンクと、
M 前記外装タンク内に装着され前記便器本体を洗浄するための洗浄水を溜める内装タンクと、
N 前記内装タンクへ洗浄水を供給すると共に手洗いのための洗浄水を吐水する手洗い吐水管と、
O 前記外装タンクの上方に着脱自在に載置され、その上面に手洗い鉢が形成されると共に前記手洗い吐水管からの洗浄水を前記内装タンクへ給水する第1の吐水口が形成された外蓋と、
P 前記内装タンクの上方に着脱自在に載置され、前記第1の吐水口からの洗浄水を前記内装タンクへ給水する第2の吐水口が形成された内蓋と、を有し、
Q 前記第2の吐水口は前記内蓋の上面より上方に突出するように形成され、
R 前記第2の吐水口の内径は前記第1の吐水口の内径より大きく形成され、
S 前記内蓋には前記第2の吐水口の上端位置を上下方向に移動させる弾性部が形成され、前記弾性部の弾性により前記内蓋の第2の吐水口が前記外蓋の裏面に当接する
T ことを特徴とする便器洗浄水タンク。」

(本件発明4)【請求項4】
「U 前記弾性部は、前記第2の吐水口に設けられた蛇腹部であることを特徴とする請求項2に記載の便器洗浄水タンク。」

(本件発明5)【請求項5】
「V 前記内蓋の周囲において、上方に突出した立上がり壁が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の便器洗浄水タンク。」

3 申立理由の概要
申立人は、以下の取消理由を主張している。

(1)取消理由1(新規性欠如)
請求項1に係る発明は特許法第29条第1項第3号に該当するから、同法第113条第2号の規定に該当し、その特許は取り消されるべきものである。
(2)取消理由2(進歩性欠如)
請求項1、2、4、5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、該特許は取り消されるべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2006-169840号公報(「刊行物1」という。以下同様。)
甲第2号証:特開2003-213758号公報(「刊行物2」)
甲第3号証:特開平8-13582号公報(「刊行物3」)
甲第4号証:特開平10-272069号公報(「刊行物4」)
甲第5号証:特開2001-20360号公報(「刊行物5」)
甲第6号証:実願昭60-188559号(実開昭62-99673号)のマイクロフイルム(「刊行物6」)

4 刊行物に記載された事項
(1)刊行物1に記載された発明
本件特許の優先日前に頒布された刊行物1には、以下の記載がある(下線を付した。以下同様。)。

ア 「【0001】本発明は、ロータンクカバーの上部に手洗鉢が設けられている手洗付ロータンク設備に係り、特にロータンクカバーの少なくとも前部及び手洗鉢が昇降可能となっている手洗付ロータンク設備に関する。」

イ 「【発明の効果】
【0012】本発明の手洗付ロータンク設備は、手洗鉢が上昇しても手洗吐水管からの吐水が行われ得るよう構成されている。手洗鉢上昇時に手洗吐水管から吐水が行われると、水は手洗鉢流出口から案内部材を通って受入部に流れ込む。案内部材は、この受入部内に入り込んでおり、案内部材の下端は、該受入部の上端の最低位箇所よりも下位となっている。このため、案内部材から流出した水は、必ず受入部内に落下することになり、受入部外へ流出することが防止され、確実にロータンク内に流入する。」

ウ 「【0018】該ロータンク2は、洋風便器1の後部上面上に固定設置されている。このロータンク2の底部には便器洗浄水放出用のフロート弁(図示略)が設けられており、上部には給水用のボールタップ(図示略)が設けられている。該ボールタップの吐水側は、該ロータンク2内への給水管(図示略)と、手洗鉢4への給水管8とに分岐している。該給水管8が手洗吐水管7に接続されている。この接続構造の詳細については後で述べる。
【0019】この実施の形態では、ロータンクカバー3は、カバー前半体3Fとカバー後半体3Rとに分割されている。第1図(b)の通り、該カバー前半体3Fは、昇降装置(図示略)により洋風便器1の後部上面に対し昇降可能となっており、カバー後半体3Rは、洋風便器1の後部上面に対し昇降不能に固定設置されている。なお、本発明においては、この昇降装置の構成に特に制限はなく、例えば、シリンダ機構やバネ、あるいはモータ等を動力源としたものなど、種々の昇降装置を採用することができる。
【0020】手洗鉢4は、このカバー前半体3Fの上部に連結されており、該カバー前半体3Fと一体に上下動する。給水管8は、手洗吐水管7の後端側(上流側)に水密に且つ挿抜方向摺動可能に内嵌している。この給水管8の手洗吐水管7への差し込み深さは、手洗鉢4が下降限にあるときに、該手洗鉢4の上下動幅よりも大きなものとなっている。そのため、手洗鉢4が上昇限まで移動した場合でも給水管8が手洗吐水管7から抜けてしまうことがなく、常時給水管8から手洗吐水管7へ給水可能となっている。」

エ 「【0022】手洗鉢4の底部中央付近には、この手洗吐水管7から吐出された水の流出口9が設けられている。また、手洗鉢4の底部下面からは、該流出口9に連なる水の落下案内部材10が下方へ突設されている。この実施の形態では、該案内部材10は、上端が該流出口9に連なったパイプよりなる。
【0023】ロータンク2の上部には、蓋11が装着されている。この蓋11には、該案内部材10から流れ落ちてきた水を受け止めてロータンク2内に流し落とすための水受け部材12が設けられている。該水受け部材12は、案内部材10から流れ落ちてきた水を受け入れる受入部13と、該受入部を取り囲む壁状部14とを有している。この実施の形態では、該受入部13の中央付近(前記案内部材10の真下付近)は、その周囲部から凹陥した凹部15となっている。この凹部15の側面(この実施の形態では前側面)に、ロータンク2内に通じる水の排出口16が設けられている。」

オ 図2として、





カ 図3として、




以上を総合すると、刊行物1には以下の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

「ロータンク2、ロータンクカバー3、手洗鉢4及び手洗吐水管7を備えた、手洗付ロータンク設備であって、
前記ロータンクカバー3は、カバー前半体3Fとカバー後半体3Rとに分割されており、
前記手洗鉢4は、前記カバー前半体3Fの上部に連結されており、該カバー前半体3Fと一体に上下動することができ、かつ、その底部中央付近には、前記手洗吐水管7から吐出された水の流出口9が設けられるとともに、該流出口9に連なる案内部材10が下方へ突設されており、
前記ロータンク2の上部には、蓋11が装着され、該蓋11には、前記案内部材10から流れ落ちてきた水を受け止めてロータンク2内に流し落とすための水受け部材12が設けられており、
前記水受け部材12は、前記案内部材10から流れ落ちてきた水を受け入れる受入部13を有しており、該案内部材10は、該受入部13内に入り込んでおり、該案内部材10の下端は、該受入部13の上端の最低位箇所よりも下位となっており、
手洗鉢4上昇時に手洗吐水管から吐水が行われたとしても、水は手洗鉢流出口から案内部材10を通って必ず受入部13内に落下し、受入部13外へ流出することが防止される、手洗付ロータンク設備。」

(2)刊行物2に記載された事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物2には、下記の記載がある。

ア 「【0012】図2は便器洗浄タンクの縦断面である。手洗い鉢3の下部には、手洗い吐水口4から吐出された手洗い水を洗浄タンク10内へ排出するための、手洗い水排出口5が形成されている。便器洗浄タンクは洗浄タンク10をタンクカバー1内に内装しており、洗浄タンク10の上部にはタンク蓋部材(手洗い水導水部材)6が取り付けられている。」

イ 図2として、





ウ 図3として、





エ 図4として、






エ 図5として、






(3)刊行物3に記載された事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物3には、下記の記載がある。

ア 「【0001】【産業上の利用分野】本発明は洋風便器に設置されるロータンクに係り、特にロータンク本体をカバーで覆ったカバー付きロータンクに関する。
【0002】【従来の技術】洋風便器後部上面に設置されるロータンク本体をカバーで覆った従来例について第7,8図を参照して説明する。
【0003】陶器製の洋風便器10の後部上面に設置される合成樹脂製のベースプレート12の上にパッキン13を介してタンク受け14が設置され、このタンク受け14の上にロータンク本体16が載設されている。このタンク受け14は下方に向って突出する凸部14aを備えている。ロータンク本体16の底部に設けられた凸部16aがこの凸部14aにリング形パッキン18を介して挿入される。」

イ 「【0010】ボールタップ装置48の手洗管用流出口にはビニルホース54a付きのノズル54が接続される。このノズル54は手洗鉢26aの手洗吐水ヘッド56に接続される。58はタンク蓋である。」

エ 図7として、





エ 図8として、





(4)刊行物4ないし刊行物6に記載された事項
本件発明2の構成要件S及び本件発明4の構成要件Uに関して、申立人が周知例として提示し、本件特許の優先日前に頒布された刊行物4ないし刊行物6には、それぞれ下記の記載がある。

ア 刊行物4に記載された事項
(ア)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、水道及び下水道等の給水及び排水設備のない環境のエリアで手洗に利用するのに適当であり、かつそれらのエリアに自由に移動することのできる移動式手洗器に関するものである。」
(イ)「【0008】なお以上のようにして用水タンク部に水道水等を充填する場合は、これに先立って、前記排水タンク部の水を放流除去しておくべきことは云うまでもない。このとき、この排水タンク部も、少なくとも上下方向に伸縮自在に構成してあるものであるから、上下方向に縮小状態になっているものである。」
(ウ)「【0017】前記排水タンク部を上下方向に伸縮し得る蛇腹状の排水袋に構成することができ、このように構成した場合は、水量に応じた排水タンク部の上下方向の伸縮状態が確実に確保できることとなる。」
(エ)「【0020】図1及び図2に示すように、この実施例の移動式手洗器は、縦型直方体状のケースである本体ケース1と、上記本体ケース1の底部上に配した用水タンク部2と、上記用水タンク部2上に載置する加圧ウエイト3と、上記加圧ウエイト3上に配置する排水タンク部4と、前記用水タンク部2の保管用水を供給するために使用する用水供給管5と、前記用水タンク部2に用水を補給するために使用する用水補給管6と、前記排水タンク部4中に溜った排水を放流する放流管7とを基本的な構成要素として構成するものである。」
(オ)「【0025】前記排水タンク部4は、本体ケース1の内部形状に対応する平面から見て四辺形で、縦方向に伸縮可能な蛇腹状袋体に構成したものであり、図1に示すように、前記排水皿1bの排水口1fに前記排水タンク部4の上部の対応する部位から立ち上げた排水導入管4aを接続する。」
(カ)図1として、





イ 刊行物5に記載された事項
(ア)「【0027】この接続筒46は、蛇腹チューブ60と一体のナット部62を該接続筒46に締め込むことにより該導入口44に固定されている。この蛇腹チューブ60は、下端側に該ナット部62を備えると共に、上端側には、上部ほど拡径するテーパ形状のテーパ部64を備えたものであり、合成樹脂の射出成形等により一体に成形されている。このナット部62を接続筒46に螺じ込んだ後、テーパ部64を排水筒36Aに下方から外嵌させることにより該蛇腹チューブ60の上部がフロート弁装置34Aに接続される。」
(イ)図2として、






オ 刊行物6に記載された事項
(ア)「実施例
・・・第1,2図において、5は流し台の水槽で、その水槽5は排水装置本体6が取付けられ、その中には防臭トラップ6aを設けている。さらに排水装置本体6には排水ホース7がバンド8で取付けている。」(明細書3頁9?15行)
(イ)「上記構成において、排水ホース7のナット部材7aと連結部材11とにより排水管10と排水ホース7の接続部を機密に螺合しているので、・・・」(明細書4頁8?10行、「機密」は「気密」の誤記と認める。)

5 判断
(1)取消理由1について
ア 対比
本件発明1と刊行物1発明とを対比する。
(ア)刊行物1発明の「手洗付ロータンク設備」は、本件発明1の「便器洗浄水タンク」に相当し、以下同様に、
「ロータンク2」は、「便器本体を洗浄するための洗浄水を溜める内装タンク」に、
「手洗鉢4」は、「(その上面に手洗い鉢が形成されると共に前記手洗い吐水管からの洗浄水を前記内装タンクへ給水する第1の吐水口が形成された)外蓋」に、
「手洗吐水管7」は、「前記内装タンクへ洗浄水を供給すると共に手洗いのための洗浄水を吐水する手洗い吐水管」に、
「蓋11」は、「内装タンクの上方に着脱自在に載置され、前記第1の吐水口からの洗浄水を前記内装タンクへ給水する第2の吐水口が形成された内蓋」に、
「案内部材10の下端」は、「第1の吐水口」に、
「水受け部材12」が有する「受入部13」は、「第2の吐水口」に、
相当する。
(イ)刊行物1発明の「ロータンク2」(内装タンク)と「ロータンクカバー3」を備えた構成と、本件発明1の「内装タンク」と「外装タンク」を備えた構成とは、「2重構造」という点で共通する。
(ウ)刊行物1発明の「前記ロータンク2の上部には、蓋11が装着され、該蓋11には、前記案内部材10から流れ落ちてきた水を受け止めてロータンク2内に流し落とすための水受け部材12が設けられており、
前記水受け部材12は、前記案内部材10から流れ落ちてきた水を受け入れる受入部13を有しており、該案内部材10は、該受入部13内に入り込んでおり、該案内部材10の下端は、該受入部13の上端の最低位箇所よりも下位となっており、
手洗鉢4上昇時に手洗吐水管から吐水が行われたとしても、水は手洗鉢流出口から案内部材10を通って必ず受入部13内に落下し、受入部13外へ流出することが防止される」構成は、
本件発明1の「前記第2の吐水口は前記内蓋の上面より上方に突出するように形成され、
前記第2の吐水口の内径は前記第1の吐水口の内径より大きく形成され、
前記内蓋には前記第2の吐水口の上端位置を上下方向に移動させる弾性部が形成され、前記弾性部の弾性により前記内蓋の第2の吐水口が前記外蓋の裏面に当接する」構成に対応している。

(エ)上記(ア)ないし(ウ)を踏まえると、
両者は少なくとも下記の2点で相違する。

相違点1:構成要件B(外装タンクによる2重構造)に関して、
本件発明1は、「外装タンク」と「内装タンク」とを有し、2つのタンクによる「2重構造」の「便器洗浄水タンク」であるのに対して、刊行物1発明は、「ロータンク2」と「ロータンクカバー3」で構成され、「ロータンクカバー3」は「カバー前半体3Fとカバー後半体3Rとに分割されている」点。

相違点2:構成要件E(手洗い吐水管からの洗浄水を前記内装タンクへ給水する第1の吐水口が形成された外蓋)に関して、
本件発明1は、外蓋が、外装タンクの上方に着脱自在に載置されているのに対して、刊行物1発明は、手洗鉢4(外蓋)がカバー前半体3Fの上部に連結されており、カバー前半体3Fと一体に上下動する点。

イ 申立人の主張
構成要件B及びEに関して、申立人の主張は以下のとおりである。
(ア)構成要件B「外装タンク」に関して
(本件発明1において)「外装タンク」とは、便器洗浄水タンクの2重構造の外装体を指す。
他方で、甲1には「洋風便器1の後部上面にロータンク2と温水洗浄装置等の便器機器とが設置され、これらを覆うようにロータンクカバー3が設置されている。」(段落17)、「ロータンクカバー3は、カバー前半体3Fとカバー後半体3Rとに分割されている。」(段落19)、「手洗鉢4は、このカバー前半体3Fの上部に連結されており」(段落20)と記載されているから、当該カバー前半体3F及びカバー後半体3Rは構成要件Bの「外装タンク」に相当する。

(イ)構成要件E「前記外装タンクの上方に着脱自在に載置され、その上面に手洗い鉢が形成されると共に前記手洗い吐水管からの洗浄水を前記内装タンクへ給水する第1の吐水口が形成された外蓋と、」に関して
甲1の「案内部材10」は構成要件Eにおける「第1の吐水口」に相当するから、甲1には、カバー前半体3F及びカバー後半体3Rの上部に着脱自在に載置され、その上面に手洗鉢4が形成され、手洗吐水管7からの洗浄水をロークンク2内へ給水する案内部材10が形成された構成、すなわち構成要件Eの「外蓋」に相当する蓋部材が記載されている。
なお、甲1の実施形態は、カバー前半体3F及び手洗鉢4が上下動することを前提としているため、手洗鉢4とカバー後半体3Rとが分離可能な特殊な構成を用いているが、本件の発明の詳細な説明で参照された特開2010-236276号公報(段落5)のように、互いに着脱可能なタンク本体5と蓋体6がむしろ慣用された構造である。

ウ 判断
(ア)構成要件B「外装タンク」に関して
「タンク」は、一般的な用語の意味として「気体・液体を収容する密閉容器。」(広辞苑第6版)のことであるから、便器洗浄タンクにおける「外装タンク」及び「内装タンク」は、洗浄水を収容可能な容器を意味するというべきである。
また、本件特許明細書には、「従来、便器洗浄水タンクは、外装タンクとその内側に配置された内装タンクの2つのタンクによって2重構造となっており、使用者が排泄後に手洗いを行えるように、外装タンク上部に手洗い吐水管及び手洗い鉢を設けている。」(段落【0002】)との記載があるとおり、本件発明1における「外装タンク」と「内装タンク」とは、2つのタンクによる2重構造を構成するものである。
一方、刊行物1には、「ロータンクカバー3は、カバー前半体3Fとカバー後半体3Rとに分割されている。第1図(b)の通り、該カバー前半体3Fは、昇降装置(図示略)により洋風便器1の後部上面に対し昇降可能となっており、カバー後半体3Rは、洋風便器1の後部上面に対し昇降不能に固定設置されている。」(段落【0019】)「手洗鉢4は、このカバー前半体3Fの上部に連結されており、該カバー前半体3Fと一体に上下動する。」(段落【0020】)と記載されているとおり、刊行物1発明において「ロータンクカバー3」は「カバー前半体3F」及び「カバー後半体3R」で構成されており、「カバー前半体3F」と「手洗鉢4」とは一体に上下動するのであるから、「カバー前半体3F」及び「カバー後半体3R」は、「ロータンク4」の前側と後側とをそれぞれ覆うだけで、ロータンク4の底面部を覆うものではないから、本件発明1の「外装タンク」と「内装タンク」による2重構造とは明らかに異なる。
したがって、刊行物1発明における、「カバー前半体3F」及び「カバー後半体3R」で構成される「ロータンクカバー3」は、「外装タンク」には相当しない。

(イ)構成要件E「着脱自在に載置され・・・」に関して
上記(ア)で検討したとおり、刊行物1発明において、「手洗鉢4は、このカバー前半体3Fの上部に連結されており、該カバー前半体3Fと一体に上下動する」のであるから、「手洗鉢4」は、「カバー前半体3F」に「着脱自在に載置され」ているとはいえない。
したがって、仮に、刊行物1発明の「カバー前半体3F」及び「カバー後半体3R」が「外装タンク」に相当するとしても、刊行物1発明の「手洗鉢4」は、「外装タンクの上方に着脱自在に載置され」た「外蓋」には相当しない。
なお、申立人は、「甲1の実施形態は、カバー前半体3F及び手洗鉢4が上下動することを前提としているため、手洗鉢4とカバー後半体3Rとが分離可能な特殊な構成を用いているが、本件の発明の詳細な説明で参照された特開2010-236276号公報(段落5)のように、互いに着脱可能なタンク本体5と蓋体6がむしろ慣用された構造である。」とも主張する。しかし、仮に「互いに着脱可能なタンク本体5と蓋体6」が慣用された構造であったとしても、刊行物1発明が「カバー前半体3F及び手洗鉢4が上下動すること」を前提としている以上、「手洗鉢4」が「カバー前半体3F」に「着脱自在に載置され」ている構成は開示されていないし、かつ、そのような構成を採用する余地はないというべきである。

(ウ)まとめ
以上のとおり、本件発明1は、刊行物1発明ではなく、新規性を有しているから、取消理由1は理由がない。

(2)取消理由2(本件発明1)について
ア 相違点について
上記(1)で検討したとおり、本件発明1と、刊行物1発明とは、上記(1)ア(エ)の相違点1及び2で相違する。

イ 申立人の主張
申立人は、予備的主張として、「甲1には、蓋11がロータンク2に着脱自在に載置されていることが明示されていないことから、この点を相違点と認定したとしても、そのような相違点は慣用されているものにすぎない。」「甲2には、タンク蓋部材6が洗浄タンク10と別体として記載されており(図3?5)、同じく甲3には、ロータンク本体16にタンク蓋58が着脱自在に形成されることが記載されており(図8)、ロータンクの蓋を着脱自在とすることは慣用技術である。」と、進歩性欠如を主張する。
しかしながら、申立人が認めた相違点は、当審が認定した相違点1及び2とは異なり、申立人は、上記相違点1及び2に関して進歩性欠如の主張は行っていない。

ウ 刊行物2?6に記載された事項
刊行物2?6に記載された事項は、上記4(2)ないし(4)に摘記したとおりであって、相違点2に関して、一体に設けられた「手洗鉢4」(外蓋)を「ロータンクカバー3」の上方に着脱自在に載置する構成を開示するものではない。
また、「ロータンクカバー3は、カバー前半体3Fとカバー後半体3Rとに分割され」、「手洗鉢4は、このカバー前半体3Fの上部に連結されており、該カバー前半体3Fと一体に上下動する」構成に関して、刊行物2?6には、「ロータンクカバー3」に代えて「外装タンク」を採用するとともに、「手洗鉢4」を「外装タンク」の上方に着脱自在に載置する構成は記載も示唆もされていない。

エ 相違点についての判断
上記イのとおり、相違点1及び2に係る構成は、刊行物2ないし6には記載も示唆もないので、仮に組み合わせたとしても、本件発明1には到達しえないが、動機付け、課題等についても一応検討しておく。

(ア)動機付けについて
刊行物1には、
「ロータンクカバーを昇降可能とし、ロータンク前部と洋風便器上面との間を入念に清掃できるようにした手洗付ロータンク設備も周知であり(例えば特開2003-155766号)、既に広く市販されている。
この手洗鉢が上昇したときに手洗吐水管から吐水が行われると、手洗鉢の流出口から落下した水がロータンク外に飛散するおそれがある。
上記特開2003-155766号では、ロータンクカバーが上昇したことをセンサで検知し、フラッシュ動作(ロータンクから便器へ洗浄水を流すこと)を行わないようにすることが記載されている。フラッシュ動作が行わなければ、ロータンクのボールタップも開栓しないから、手洗吐水管から吐水しない。」(段落【0004】?【0006】)
「本発明は、比較的簡易な構成でありながら、手洗鉢上昇時に手洗吐水管から吐水が行われても、手洗鉢流出水が確実にロータンク内に流れ込む手洗付ロータンク設備を提供することを目的とする。」(段落【0008】)との記載がある。
したがって、刊行物1発明が解決しようとする課題は、「ロータンク前部と洋風便器上面との間を入念に清掃できるようにした手洗付ロータンク設備」において、「手洗鉢上昇時に手洗吐水管から吐水が行われても、手洗鉢流出水が確実にロータンク内に流れ込む手洗付ロータンク設備を提供すること」であるから、そもそも、「手洗鉢4」と、「カバー前半体3F」とは、一体化されていることが前提であって、「着脱自在」とする動機付けが存在しない。

(イ)発明が解決しようとする課題について
本件明細書には、
「前記のような構成の便器洗浄水タンクにあっては、リブ11を含む外蓋6は陶器製のものが一般的であり、形状及び寸法にバラツキが発生しやすい。したがって、リブ11の形状及び寸法によっては、「洗浄水の飛び跳ね」を防止する効果を十分に発揮できないという問題もあった。また、外蓋6に、このようなリブ11を設けること自体、製造上困難であり製造コストを増加させるといった問題があった。」(段落【0004】)
「本発明は、前記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、外装タンク又は外蓋の形状・寸法にバラツキが生じようとも、「洗浄水の飛び跳ね」を防止し、手洗い吐水管から吐水された洗浄水を確実に内装タンク内へと導く便器洗浄水タンクを提供することを目的とするものである。」(段落【0006】)と記載されている。
したがって、本件発明が解決しようとする課題は、「(陶器製のものが一般的であり、形状及び寸法にバラツキが発生しやすい)外装タンク又は外蓋の形状・寸法にバラツキが生じようとも、「洗浄水の飛び跳ね」を防止し、手洗い吐水管から吐水された洗浄水を確実に内装タンク内へと導く便器洗浄水タンクを提供すること」である。
一方、刊行物1発明は、上記(ア)で検討したとおり、「ロータンク前部と洋風便器上面との間を入念に清掃できるようにした手洗付ロータンク設備」において、「手洗鉢上昇時に手洗吐水管から吐水が行われても、手洗鉢流出水が確実にロータンク内に流れ込む手洗付ロータンク設備を提供すること」を課題としている。
そして、刊行物1発明において、「ロータンクカバー3」は合成樹脂製が一般的で、陶器製ではないから、「手洗鉢4」と「ロータンクカバー3」との間で、形状・寸法にバラツキが生じることは考えられない。
したがって、本件発明1と、刊行物1発明とは、「漏水を防止する」という点では共通するものの、前提技術や、解決しようとする課題は全く異なるから、刊行物1発明において、一体に設けられた「手洗鉢4」(外蓋)を「ロータンクカバー3」の上方に着脱自在に載置する構成を採用して、「外装タンク又は外蓋の形状・寸法にバラツキが生じようとも、洗浄水の飛び跳ねを防止」することを課題とする本件発明1に到達することはないというべきである。

(ウ)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、当業者が刊行物1発明及び刊行物2ないし6に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)取消理由2(本件発明2,4,5)について
まず、本件発明2に対する取消理由2については、本件発明2の構成要件L及びOは、本件発明1の構成要件B及びEと同じであり、本件発明1と同じ相違点1及び2が存在するから、本件発明1に関する判断と同様の理由により、本件発明2は、当業者が刊行物1発明及び刊行物2ないし6に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本件発明4,5は、本件発明1又は2を更に減縮したものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、当業者が刊行物1発明及び刊行物2ないし6に記載された事項に基いて容易になし得たものではない。
したがって、本件発明2,4,5は、当業者が刊行物1発明及び刊行物2ないし6に記載された事項に基いて容易になし得たものではない。

6 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、2、4、5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2、4、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-08-18 
出願番号 特願2012-46363(P2012-46363)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (E03D)
P 1 652・ 113- Y (E03D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 七字 ひろみ  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 赤木 啓二
住田 秀弘
登録日 2015-10-02 
登録番号 特許第5811508号(P5811508)
権利者 TOTO株式会社
発明の名称 便器洗浄水タンク  
代理人 正林 真之  
代理人 芝 哲央  
代理人 星野 寛明  

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