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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 H01M |
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管理番号 | 1318099 |
異議申立番号 | 異議2016-700317 |
総通号数 | 201 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-09-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-04-14 |
確定日 | 2016-08-26 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5798186号発明「強化電解質膜」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5798186号の請求項1、3、4に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第5798186号の請求項1?4に係る特許についての出願は、2011年5月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年5月25日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成27年8月28日にその特許権の設定登録がなされ、平成28年4月14日付けで、その特許のうちの請求項1、3、4に係る特許に対し、特許異議申立人山口晋太郎により特許異議の申立てがなされたものである。 2 本件発明 特許第5798186号の請求項1、3、4の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」、「本件特許発明3」、「本件特許発明4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1、3、4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 ナノファイバーマットで強化された第1のプロトン伝導性ポリマーを備える電解質膜であって、 前記ナノファイバーマットは、前記第1のプロトン電導性ポリマーで少なくとも部分的に満たされ、 前記ナノファイバーマットは、PES、及びPVDFと配合されたPESから選択される繊維材料を含むナノファイバーから作製され、前記第1のプロトン伝導性ポリマーは、高フッ化アイオノマー、全フッ化アイオノマー、炭化水素アイオノマー、及びそれらの配合物並びに組み合わせからなる群から選択される、電解質膜。」 「【請求項3】 請求項1又は2のいずれかに記載の電解質膜を備える、膜電極接合体。 【請求項4】 電解質膜を作製する方法であって、 (a)繊維材料を含むナノファイバーを含むナノファイバーマットを提供する工程において、前記繊維材料がPES、及びPVDFと配合されたPESからなる群から選択されるポリマーを含む、工程と、 (b)前記ナノファイバーマットを第1のプロトン伝導性ポリマーで少なくとも部分的に満たす工程において、前記第1のプロトン伝導性ポリマーが、高フッ化アイオノマー、全フッ化アイオノマー、炭化水素アイオノマー、及びそれらの配合物並びに組み合わせからなる群から選択される、工程と、 を含む、方法。」 3 申立理由の概要 特許異議申立人山口晋太郎は、主たる証拠として特開2007-83467号公報(以下、「刊行物1」という。)、並びに、従たる証拠として特表2003-528420号公報(以下、「刊行物2」という。)、特表2001-514431号公報(以下、「刊行物3」という。)、特開2003-297393号公報(以下、「刊行物4」という。)、及び、特開2008-308810号公報(以下、「刊行物5」という。)を提出し、請求項1、3、4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、請求項1、3、4に係る特許は取り消すべきものである旨主張している。 4 刊行物の記載 (1)刊行物1の記載 刊行物1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。 ア 発明の詳細な説明の記載 「【技術分野】 【0001】 本発明は繊維シートと樹脂とを含む複合シートに関する。より具体的には、薄く、可撓性及び引張り強度等の機械的強度の優れる複合シートに関する。」 「【発明を実施するための最良の形態】 【0012】 本発明の複合シートは有機成分からなる平均繊維径が1μm以下の有機極細繊維からなる平均流量孔径が2μm以下の繊維シートを備えているため、薄く、可撓性及び機械的強度に優れ、更には、均一な物理的性質を有するものである。つまり、平均繊維径が1μm以下と細く、平均流量孔径が2μm以下と有機極細繊維が均一に分散した状態にあるため薄く、物理的性質も均一で、前記状態に加えて有機極細繊維が文字通り有機成分からなるため可撓性に優れている。また、樹脂が繊維シートによって補強されているため、機械的強度も向上している。更には、平均繊維径が小さく、単位体積あたりにおける繊維表面積が広いため、有機極細繊維と樹脂との結合力が強く、これらが剥離しにくいという効果も奏する。 【0013】 この有機極細繊維における「有機成分」とは、炭素結合鎖を骨格とする高分子を意味する。この有機極細繊維の有機成分は複合シートを構成する樹脂、複合シートの用途などによって異なるため、特に限定するものではないが、例えば、ポリエチレングリコール、部分けん化ポリビニルアルコール、完全けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ニトロセルロースなどのセルロース化合物、更には絹フィブロインなどの天然高分子などを挙げることができる。なお、有機極細繊維は単一有機成分から構成されていても、二種類以上の有機成分から構成されていても良い。」 「【0039】 (繊維シート4の製造) 平均重合度1000の完全けん化ポリビニルアルコールを水に溶解させた、濃度12.5mass%の紡糸溶液を用意した。 【0040】 他方、シリンジにポリテトラフルオロエチレン製チューブを接続し、更に前記チューブの先端に、内径が0.5mmのステンレス製ノズルを取り付けて、紡糸装置とした。次いで、前記ノズルに高電圧電源を接続した。更に、前記ノズルと対向し、10cm離れた位置に、表面に導電シリコーンゴム加工を施したメタルドラム(直径:20cm、接地)を設置した。 【0041】 次いで、前記紡糸溶液を前記シリンジに入れ、マイクロフィーダーを用いて、重力の作用方向と直角方向へ吐出(吐出量:0.5cc/時間)するとともに、前記メタルドラムを一定速度(表面速度:6m/分)で回転させながら、前記高電圧電源からノズルに+19kVの電圧を印加して、吐出した紡糸溶液に電界を作用させて繊維化し、前記メタルドラム上に連続した有機極細繊維を集積させ、表1に示すような物性を有する、不織布繊維シート4を形成した。なお、不織布繊維シートを形成する際に、前記ノズルはメタルドラムの回転方向と直角方向に一定速度(移動速度:20cm/分)で往復揺動させて、有機極細繊維の分散性を高め、不織布繊維シートの均一性を高めた。また、不織布繊維シートの形成は温度25℃、相対湿度50±5%の環境下で行った。」 「【0043】 (表1) Aは平均繊維径(単位:μm)、Bは有機極細繊維の繊維径の標準偏差(Dd)の平均繊維径(Da)に対する比(Dd/Da)、Cは平均流量孔径(単位:μm)、Dは比(最大孔径/平均流量孔径)、Eは空隙率(単位:%)、Fは目付(単位:g/m^(2))、Gは厚さ(単位:μm)をそれぞれ意味する。」 「【0052】 (実施例5) パーフルオロスルホン酸(アルドリッチ製、5mass%ナフィオン117、メタノール-水混合溶媒)をガラス板上にキャスティングし、厚さ10μmの液膜を形成した。この液膜上に不織布繊維シート4を載せ、温度60℃で乾燥した後にガラス板から剥離し、不織布繊維シート4とパーフルオロスルホン酸とが複合一体化した複合シート(厚さ:5μm)を得た。この複合シートは図1に示すような不織布繊維シートとパーフルオロスルホン酸とが混在する領域のみからなるもので、高い透明性を有し、均一に複合一体化したものであった。この複合シートは曲げ試験の結果、破断することのない、可撓性に優れるものであった。また、この複合シートを電解質膜としての利用を想定し、24時間水に浸漬し、膨潤させた後に引張り強度を測定すると約0.8N/10mmであった。この複合シートは電池の電解質膜として好適なものであった。」 イ 上記アの記載事項の【0039】?【0041】には、「不織布シート4」の形成する工程が記載されている。 ウ 「不織布シート4」は、上記アの記載事項の【0039】?【0041】より、「完全けん化ポリビニルアルコールを水に溶解させ」、「紡糸溶液」とし、「シリンジ」に接続し、+19kVの電圧を印加した「ノズル」から「吐出した紡糸溶液に電界を作用させて繊維化し、前記メタルドラム上に連続した有機極細繊維を集積させ」て形成しているから、「極細繊維化し」た「完全けん化ポリビニルアルコール」を集積させてなるものであるといえる。 また、「不織布シート4」を形成する工程は、上記アの記載事項の【0039】?【0041】より、「極細繊維化し」た「完全けん化ポリビニルアルコール」を集積させてなる「不織布シート4」の形成工程を含むものである。 エ 「不織布シート4」は、上記アの記載事項の【0041】及び【0043】より、平均繊維径が0.15μmであるといえる。 オ 上記アの記載事項の【0052】には、実施例5として、「不織布繊維シート4とパーフルオロスルホン酸とが複合一体化した複合シート」からなる「電解質膜」及びその製造方法が記載されている。 カ 「複合シート」に関し、上記アの記載事項の【0012】には、「樹脂が繊維シートによって補強されているため、機械的強度も向上している」と記載されていることから、上記オの「不織布繊維シート4とパーフルオロスルホン酸とが複合一体化した複合シート」は、パーフルオロスルホン酸が不織布繊維シート4によって補強され、機械的強度が向上した複合シートであるといえる。 キ 「電解質膜」に関し、上記アの記載事項の【0052】より、「パーフルオロスルホン酸」は「ナフィオン117」(当審注:「ナフィオン」は登録商標。)であるといえる。 ク 「電解質膜の製造方法」に関し、上記アの記載事項の【0052】には、ナフィオン(登録商標)117を含むパーフルオロスルホン酸溶液をガラス板上にキャスティングして厚さ10μmの液膜とし、この上に不織布繊維シート4を載せ、乾燥した後にガラス板から剥離し、不織布繊維シート4とパーフルオロスルホン酸とが複合一体化した複合シート(厚さ:5μm)を得る工程が記載されている。 ケ 上記ウ?キから、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「ナフィオン(登録商標)117であるパーフルオロスルホン酸が、平均繊維径が0.15μmであり、極細繊維化した完全けん化ポリビニルアルコールを集積させてなる不織布繊維シート4によって補強され、機械的強度が向上した複合シートからなる電解質膜であって、 前記不織布繊維シート4が前記パーフルオロスルホン酸と複合一体化している、 電解質膜。」 コ 上記ウ?オ、キ、クから、刊行物1には、次の発明(以下、「引用方法発明」という。)が記載されていると認められる。 「電解質膜の製造方法であって、 (a)極細繊維化した完全けん化ポリビニルアルコールを集積させてなり、平均繊維径が0.15μmである不織布繊維シート4の形成工程と、 (b)ナフィオン(登録商標)117を含むパーフルオロスルホン酸溶液をガラス板上にキャスティングして厚さ10μmの液膜とし、この上に前記不織布繊維シート4を載せ、乾燥した後に前記ガラス板から剥離し、前記不織布繊維シート4とパーフルオロスルホン酸とが複合一体化した複合シート(厚さ:5μm)を得る工程と、 を含む方法。」 (2)刊行物2の記載 刊行物2には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。 ア 特許請求の範囲の記載 「【請求項1】 イオン伝導性物質を相互貫入させた多孔質ポリマー基材を含む複合固体ポリマー電解質膜(SPEM)であって、少なくとも約100℃の温度まで実質的に熱的に安定であるSPEM。」 「【請求項39】 請求項1又は6記載の複合固体ポリマー電解質膜を含むデバイス。 【請求項40】 デバイスが燃料電池である、請求項39記載のデバイス。」 イ 発明の詳細な説明の記載 「【0001】 発明の属する技術分野 本発明は電気化学的用途に用いるための新規複合固体ポリマー電解質膜(SPEM)に関する。本発明の複合膜を製造するための方法も開示している。」 「【0013】 多くのポリマー電解質膜が、燃料電池における固体ポリマー電解質としての用途のために長年にわたって開発されてきた。しかし、これらの膜が、液体供給直接メタノール燃料電池および水素燃料電池に適用される時、著しい制限を有する。今日の最も進んだSPEFCにおける膜は、高温で作動するために、イオン伝導性、機械的強度、耐脱水性、薬品安定性、および燃料の不透過性(例えば、メタノールのクロスオーバー)の必要な組合わせを有していない。 【0014】 デュポン(DuPont)は、Nafion(登録商標)膜として知られる一連の過フッ素化スルホン酸膜を開発した。Nafion(登録商標)膜技術は、当該技術分野においてよく知られており、米国特許第3,282,875号および第4,330,654号に記載されている。未強化Nafion(登録商標)膜は、現在、SPEFC用途におけるイオン交換膜としてほぼ独占的に使用されている。この膜は、テトラフルオロエチレン(TFE)とフッ化過フルオロビニルエーテルスルホニルとのコポリマーから加工される。ビニルエーテルコモノマーをTFEと共重合して、溶融加工可能なポリマーを形成する。一旦、所望の形になると、フッ化スルホニル基は、スルホネートのイオン形態に加水分解される。」 「【0017】 100℃より高い温度の燃料電池環境においてNafion(登録商標)膜の性能を制限するいくつかのメカニズムがある。実際に、これらの現象は、ちょうど80℃より上の温度で始まることができる。メカニズムには、膜の脱水、イオン伝導性の低下、膜中のラジカル形成(固体ポリマー電解質膜を化学的に破壊することができる)、軟化による機械強度の損失、および高い燃料透過性によって増大する寄生損失が挙げられる。」 「【0029】 高耐劣化性、高機械強度、および少なくとも約100℃、更に好ましくは少なくとも約120℃の温度に対して安定性を有する改善された固体ポリマー電解質膜の開発が高く望まれる。 【0030】 水素またはメタノール燃料電池における使用に適し、現在利用可能な膜に経済的な選択枝を提供する上述の特性を有する膜の開発も高く望まれる。こうした膜の開発は、さまざまな非常に多岐にわたる軍事および商業用途におけるSPEFCの使用を助長し、産業界にとっても、環境に対しても有益となろう。 【0031】 発明の要約 本発明は、当該技術分野におて知られたものより相当高温、高圧下で作動することが可能である革新的な固体ポリマー電解質膜を提供する。こうした膜を製造するための方法も提供する。開発した膜製造技術は、削減されたコストで改善された性能をきわだたせる。 【0032】 本発明の中心的な目的は、以下の特性:高イオン伝導性、高耐劣化性、高機械強度、酸化および加水分解中の薬品安定性、寄生損失を制限する低ガス透過性、および高温および高圧下での安定性、を有する改善された固体ポリマー電解質膜(SPEM)を提供することである。 【0033】 本発明のもう一つの目的は、ゼロに近い導電性、寸法安定性を有する改善された固体ポリマー電解質膜、および乾燥状態、湿潤状態の両方で脆化しない膜を提供することである。」 「【0043】 好ましいポリマー基材は、ひときわ優れた機械特性(約2500psiより相当大きい引張り強度、約100%より相当小さい破断までの伸び率)、寸法安定性、および高温、高圧下であってもバリヤー特性(対メタノール、水蒸気、酸素および水素)を有し、ならびにひときわ優れた厚みの一様性(+/-0.2ミリが好ましい)を有する。」 「【0045】 本発明の一部の好ましい実施形態において、SPEMのポリマー基材は、ポリベンザゾール(PBZ)またはポリアラミド(PARまたはケブラー(Kevlar)(登録商標))ポリマーなどのリオトロピック液晶ポリマーを含んでなる。好ましいベンザゾールポリマーには、ポリベンズオキサゾール(PBO)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、およびポリベンズイミダゾール(PBI)ポリマーが挙げられる。好ましいポリアラミドポリマーには、ポリパラフェニレンテレフタルイミド(PPTA)ポリマーが挙げられる。 【0046】 その他の好ましい実施形態において、SPEMのポリマー基材は、熱可塑性または熱硬化性芳香族ポリマーを含んでなる。好ましい芳香族ポリマーには、ポリスルホン(PSU)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンスルホキシド(PPSO)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンスルフィドスルホン(PPS/SO2)、ポリパラフェニレン(PPP)、ポリフェニルキノキサリン(PPQ)、ポリアリールケトン(PK)、およびポリエーテルケトン(PEK)ポリマーが挙げられる。 【0047】 好ましいポリスルホンポリマーには、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)、ポリアリールスルホン、ポリアリールエーテルスルホン(PAS)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、およびポリフェニレンスルホン(PPSO2)ポリマーが挙げられる。好ましいポリイミドポリマーには、ポリエーテルイミドポリマー、ならびにフッ素化ポリイミドが挙げられる。好ましいポリエーテルケトンポリマーには、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン-ケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトン-ケトン(PEEKK)、およびポリエーテルケトンエーテルケトン-ケトン(PEKEKK)ポリマーが挙げられる。」 「【0052】 別の実施形態において、本発明のSPEMのイオン導電性材料は、過フッ素化アイオノマーなどの非芳香族ポリマーを含んでなる。好ましいアイオノマーには、カルボン酸、ホスホン酸またはスルホン酸置換過フッ素化ビニルエーテルが挙げられる。」 「【0067】 詳細な説明 本発明の複合膜は、今日の固体ポリマー電解質膜、具体的には、Nafion(登録商標)および他の同様な膜(例えば、Gore-Select(登録商標))のこれまでの欠点を解決することを目的とする。 【0068】 本発明は、出力密度が改善され、かつ水素燃料中の一酸化炭素に対する感受性が低下した比較的低コストの複合固体ポリマー電解質膜(SPEM)を提供する。この膜はまた、今日のNafion(登録商標)膜型燃料電池の効率を制限する水の管理問題を軽減させることができる。」 「【0070】 本発明の複合SPEMは、イオン伝導性物質を浸透させた多孔性ポリマー基材を含む。多孔性のポリマー基材は、イオン伝導性物質(例えば、ポリマー)に対する機械的、熱的、化学的および酸化的な耐久性を有する支持体として作用する。非常に大きなイオン交換能(好ましくはIEC>1.0meq/g;より好ましくは1.5meq/g?2.0meq/gのIEC)を有するイオン伝導性ポリマー(ICP)を本発明のSPEMにおいて使用することができる。なぜなら、ICPの強度特性は膜の物理的一体性には必要ないからである。」 「【0079】 より好ましくは、多孔性のポリマー基材はPBOポリマーまたはPESポリマーを含む。最も好ましくは、多孔性ポリマー基材は、ポリ(ビスベンズオキサゾール)などのPBOポリマーを含む。」 「【0090】 高性能のPBO燃料電池膜が、水で膨潤させたPBOフィルムの内部の多孔にNafion(登録商標)またはポリエーテルスルホンスルホン酸などのイオン伝導性ポリマーの高濃度溶液または希薄溶液を浸透または注入することによって製造できることが発見された。例えば、凝固させたPBOフィルムにNafion(登録商標)の溶液を浸潤させた後、フィルムの細孔内のNafion(登録商標)領域(および表面の被覆)は、多孔性のPBO膜の基材によって支持されたイオン伝導性の大きなゼラチン状のNafion(登録商標)膜を形成する。そのようなSPEMは、PBOの強度および熱安定性を示し、かつ水で膨潤したNafion(登録商標)コポリマーの優れたイオン伝導性を示す。 【0091】 膜の弱さおよび高温での軟化などのNafion(登録商標)の通常見られる欠点は、圧縮に対向して支持し、そして適切な水含有量を可能にし、従って、大きなプロトン輸送を可能にする十分な多孔性を同時に提供するPBO基材によって改善される。好ましい実施形態において、基材は約40容量パーセント?約90容量パーセント(好ましくは、約70容量パーセント?約80容量パーセント)のイオン伝導性ポリマーを受け入れる。 【0092】 上記に記されているように、別の好ましいポリマー基材はPESポリマーを含む。PESは、高温(>175℃)で長期間の安定性を示す使用温度が高い非晶質の熱可塑性物質である。ミクロ細孔性のPES基材は、上記に議論されているような現行のNafion(登録商標)膜に固有な様々な困難を解決するために使用され得る高性能な燃料電池膜の新しいクラスを示す。 【0093】 PESは、Amoco Polymers,Inc.社(Alpharetta、Georgia、アメリカ)から低コストで大量に容易に入手することができる。このポリマーは、現在可能な温度および圧力よりもはるかに高い温度および大きな圧力(潜在的には、約175℃よりも高い温度および約100psiよりも大きな圧力)のもとで効率的な機能に必要とされる望ましい特性の組合せを示す。 【0094】 本発明のSPEMにおいて使用されるミクロ細孔性のPESフィルムは、標準的なフィルムキャスティング技術によって製造することができ、あるいは適切な販売元から直接購入することができる。他の好適なポリマー基材の場合のように、1つの好ましい実施形態において、PESは、適切な水混和性溶媒に所定濃度に溶解される。PESの溶液は、大きな多孔性を有するフィルムが得られるように選択される。その後、PES溶液は、例えば、厚さが約10ミルのフィルムを得るためにガラスプレートに注型される。プレートを水に浸漬することによって、ポリマーは凝固し、溶媒が浸出して、ミクロ細孔性の基材膜が水膨潤状態で形成される。イオン伝導性ポリマーを、その後、複合膜を得るために、溶媒交換プロセスを使用して、水膨潤PES基材膜のミクロ細孔ボイドに導入することができる。あるいは、膜を最初に乾燥し、その後、気泡を除き、細孔をイオン伝導性ポリマーで満たすために真空を使用して、イオン伝導性溶液を浸潤させることができる。膜はまた、本明細書中に記載されているように押出し成形プロセスによって製造することができる。」 ウ 上記イの記載事項の【0017】には、刊行物2における「Nafion(登録商標)膜」の課題として、「100℃より高い温度の燃料電池環境においてNafion(登録商標)膜の性能を制限するいくつかのメカニズムがある」ことが記載されている。 エ 「固体ポリマー電解質膜(SPEM)」は、上記イの記載事項の【0070】より、「イオン伝導性物質を浸透させた多孔性ポリマー基材を含む」こと、及び、「多孔性のポリマー基材は、イオン伝導性物質(例えば、ポリマー)に対する機械的、熱的、化学的および酸化的な耐久性を有する支持体として作用する」ことが記載されている。 オ 上記イの記載事項の【0090】には、「固体ポリマー電解質膜(SPEM)」の「イオン伝導性ポリマー」として「Nafion(登録商標)」を用いることが記載されている。 カ 上記イの記載事項の【0092】及び【0094】には、「固体ポリマー電解質膜(SPEM)」の「ポリマー基材」として、ミクロ細孔性のPESフィルムを使用することが記載されているといえる。 キ 上記ウ?カからすると、刊行物2には以下の点が記載されている。 「100℃より高い温度の燃料電池環境においてNafion(登録商標)膜の性能を制限することがあるから、固体ポリマー電解質膜(SPEM)を、Nafion(登録商標)を浸透させた多孔性ポリマー基材を含むものとし、さらに、Nafion(登録商標)に対する機械的、熱的、化学的および酸化的な耐久性を有する多孔性ポリマー基材として、ミクロ細孔性のPESフィルムを使用すること。」 (3)刊行物3の記載 刊行物3には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。 ア 特許請求の範囲の記載 「【請求項1】 イオン伝導性材料を相互貫入させた多孔質ポリマー基体を含む複合固体ポリマー電解質膜(SPEM)であって、少なくとも約100℃の温度に対して実質的に熱的に安定であることを特徴とする前記SPEM。」 「【請求項39】 請求の範囲第1項または第6項に記載の複合固体ポリマー電解質膜を含むことを特徴とするデバイス。 【請求項40】 燃料電池であることを特徴とする請求の範囲第39項に記載のデバイス。」 イ 発明の詳細な説明の記載 「【0001】 (発明の分野) 本発明は、電気化学分野で使用される新規な複合固体ポリマー電解質膜(SPEM)に関する。本発明の複合膜を製造する方法も開示している。」 「【0013】 数種のポリマー電解質膜は、燃料電池中の固体ポリマー電解質として使用するために何年にも亘って開発されてきた。しかしながら、これらの膜は、液体供給ダイレクトメタノール燃料電池及び水素燃料電池に使用するときにはかなり制限される。現在のところ最も進んでいるSPEFC中の膜は、イオン伝導率、機械的強度、脱水耐性、並びに高温で作動させるための化学的安定性及び燃料不透過性(例えば、メタノールクロスオーバ)の必要要件を有していない。 【0014】 DuPontは、Naflon(登録商標)膜として知られている一連の過フッ素化スルホン酸膜を開発した。Naflon(登録商標)膜は当業界で公知であり、例えば米国特許第3,282,875号明細書及び同4,330,654号明細書に記載されている。現在のSPEFCの分野では、未強化Naflon(登録商標)膜がイオン交換膜として専ら使用されている。この膜は、Teflon(登録商標)としても公知のテトラフルオロエチレン(TFE)及びビニルエーテルコモノマーから製造される。ビニルエーテルコモノマーをTFEと共重合すると、溶融加工可能なポリマーが成形される。所望の形状に成形されたら、スルホニルフロリド基をスルホン酸イオン形態に加水分解する。」 「【0017】 100℃を超える温度で燃料電池環境におけるNaflon(登録商標)膜の性能を制限するメカニズムは幾つかある。実際、こうした現象は80℃を超える温度で見られ始める。前記メカニズムには、膜脱水、イオン伝導率の低下、水に対する低いプロトン親和性、(固体ポリマー電解質膜を化学的に破壊する恐れがある)膜中のラジカル形成、TFEの軟化による機械的強度の損失、及び高い燃料透過による寄生ロス(parasitic loss)の増加が含まれる。」 「【0030】 高い脱水耐性、高い機械的強度及び少なくとも約100℃、より好ましくは少なくとも約120℃の温度に対する安定性を有する改善された固体ポリマー電解質膜の開発が非常に望まれている。 【0031】 水素またはメタノール燃料電池に使用するのに適しており、現在使用され得る膜に比べて経済的に選択される、上記特性を有する膜を開発することも非常に望まれている。前記膜が開発されると、各種の広範囲の軍事及び商業分野でのSPEFCの使用が促進され、産業及び環境にとって有利である。 【0032】 (発明の要旨) 本発明は、当業界で公知の膜に比して非常に高い温度及び圧力で作動し得る新規な固体ポリマー電解質膜を提供する。前記膜を製造する方法も提供する。開発された膜の製造方法は低コストで改善された性能を示す。 【0033】 本発明の主目的は、高いイオン伝導率、高い脱水耐性、高い機械的強度、酸化及び加水分解中の化学的安定性、寄生ロスを抑制する低いガス透過性及び高温・高圧での安定性を有する改良された固体ポリマー電解質膜(SPEM)を提供することにある。 【0034】 本発明の別の目的は、ゼロに近づく電子伝導率及び寸法安定性を有し、乾燥及び湿潤状態で非脆性である改良された固体ポリマー電解質膜を提供することにある。」 「【0041】 本発明の複合SPEMは、イオン伝導性材料を相互貫入させた多孔質ポリマー基体ポリマーからなる。 【0042】 本発明はまた、新規な基体及び新規な基体/イオン伝導性材料の組合せをも提供する。これらの材料は、広範囲の作動条件及び/または分野で有用な膜を製造するために適応され、組合せられ得る。 【0043】 好ましい基体ポリマーは、市販されている低コスト出発ポリマーから、たとえ薄くても(好ましい実施態様では、約1ミル未満)高い強度、優れたクリーズ/クラック耐性及び高い引裂強度を有する薄くて実質的に欠陥のないポリマーフィルムに容易に合成される。好ましい基体ポリマーは、酸、塩基、フリーラジカル及び溶媒(すなわち、メタノール)に対して実質的に化学的に安定であり、約50?300℃の温度で熱的/加水分解的に安定である。好ましい基体ポリマーは、非常に優れた機械的特性(約2,500psiを大きく超える引張特性、約100%を大きく下回る破断点伸び)、寸法安定性、たとえ高温・高圧でも(メタノール、水蒸気、酸素及び水素に対する)バリヤー特性、及び優れた厚みの均一性(±0.2ミルが好ましい)を有する。好ましい実施態様では、基体ポリマーは少なくとも約100℃の温度に対して熱的/加水分解的に安定である。」 「【0046】 他の好ましい実施態様では、SPEMの基体ポリマーは熱可塑性もしくは熱硬化性芳香族ポリマーからなる。好ましい芳香族ポリマーには、ポリスルホン(PSU)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンスルホキシド(PPSO)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンスルフィドスルホン(PPS/SO2)、ポリパラフェニレン(PPP)、ポリフェニルキノキサリン(PPQ)、ポリアリールケトン(PK)及びポリエーテルケトン(PEK)ポリマーが含まれる。 【0047】 好ましいポリスルホンポリマーには、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)、ポリアリールスルホン、ポリアリールエーテルスルホン(PAS)、ポリフェニルスルホン(PPSU)及びポリフェニレンスルホン(PPSO2)ポリマーが含まれる。好ましいポリイミドポリマーには、ポリエーテルイミドポリマー及びフッ素化(5員環)ポリイミドが含まれる。好ましいポリエーテルケトンポリマーには、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン-ケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトン-ケトン(PEEKK)及びポリエーテルケトンエーテルケトン-ケトン(PEKEKK)ポリマーが含まれる。」 「【0052】 別の実施態様では、本発明のSPEMのイオン伝導性材料は非芳香族ポリマー、例えば過フッ素化アイオノマーからなる。好ましいアイオノマーには、カルボキシル-、ホスホニル-またはスルホニル置換された過フッ素化ビニルエーテルが含まれる。」 「【0061】 (詳細な説明) 本発明の複合膜は、従来の固体ポリマー電解質膜、特にNaflon(登録商標)及び他の類似膜(例えば、Gore-Select(登録商標))の欠点を解決するように設計されている。 【0062】 本発明は、改良された出力密度及び水素燃料中の一酸化炭素に対して低い感受性を有する、比較的安価な複合固体ポリマー電解質膜(SPEM)を提供する。本発明はまた、Naflon(登録商標)膜を含む燃料電池の効率を制限する水管理の問題も軽減する。 【0063】 本発明の複合膜は各種分野で使用され得る。前記分野には、極性に基づく化学分離、電気分解、燃料電池及びバッテリー、浸透気化、逆浸透-水精製、ガス分離、透析分離、工業的電気化学(例えば、クロロアルカリ製造及び他の電気化学的分野)、水分解(water splitting)及びその後の廃水溶液からの酸及び塩基の回収、超酸触媒としての使用、酵素固定化における培地としての使用、または一般的なバッテリー中の電極セパレータとしての使用が含まれるが、これらに限定されない。 【0064】 本発明の複合SPEMは、イオン伝導性ポリマーを相互貫入させた多孔質ポリマー基体を含む。多孔質ポリマー基体は、イオン導電性材料(例えば、ポリマー)に対する機械的、熱的、化学的及び酸化的に耐久性の支持体として働く。非常に高いイオン交換容量(IEC;>2.0meq/g)を有するイオン導電性ポリマー(ICP)が本発明のSPEM中に使用され得る。なぜならば、ICPの強度特性は膜の機械的一体性のために必要でないからである。前記したイオン交換ポリマーは、代表的なNaflon(登録商標)及びNaflon(登録商標)類似材料よりも高いスルホン化度を有しており、それに対応して高いイオン伝導度を有する。」 「【0068】 好ましい基体ポリマーは、市販されている安価な出発ポリマーから薄くて実質的に欠陥のないポリマーフィルムに容易に合成される。前記したポリマーフィルムは、たとえ薄くても(好ましくは、約1ミル未満)高い強度、卓越したクリーズ/クラック耐性及び高い引裂強度を有する。好ましい基体ポリマーは、酸、塩基、フリーラジカル及び溶媒(例えば、メタノール)に対して実質的に化学的耐性であり、約50?300℃の温度で熱的/加水分解的に安定である。好ましい基体ポリマーは、優れた機械的特性(約2,500psiを大きく超える引張特性、約100%を大きく下回る破断点伸び)、寸法安定性、たとえ高温・高圧でも(メタノール、水蒸気、酸素及び水素に対して)バリヤー特性、及び優れた厚さの均一性(好ましくは、±0.2ミル)を有する。好ましい実施態様では、基体ポリマーは少なくとも約100℃の温度に対して熱的/加水分解的に安定である。」 「【0084】 しかしながら、本発明の多孔質ポリマー基体を形成する際に、網状構造から水を乾燥させる代わりに水を所望のイオン伝導性材料で置換する。 【0085】 高性能PEO燃料電池膜が、水膨潤PBOフィルムの内部孔にイオン伝導性ポリマー、例えばNaflon(登録商標)またはポリエーテルスルホンポリスルホン酸の濃厚もしくは希釈溶液を相互貫入させることにより製造され得ることが知見された。例えば、凝固PBOフィルムに予めNaflon(登録商標)を溶浸させた後、フィルムの孔(及び表面上の膜)内のNaflon(登録商標)領域は多孔質PBO膜基体により支持された高イオン伝導性のゼラチン状Naflon(登録商標)膜を形成する。前記SPEMは、PBOの強度及び熱安定性並びに水膨潤Naflon(登録商標)コポリマーの優れたイオン伝導率を示す。 【0086】 高温で膜がもろくて軟化するといったNaflon(登録商標)でよく見られる欠陥は、圧縮に対抗して支持体に対するPBO基体により解消され、同時に十分に多孔度が与えられ、それにより高いプロトン輸送を可能にする十分な水含量が得られる。好ましい実施態様では、基体は約40?約90容量%、好ましくは約70?約80容量%のイオン伝導性ポリマーを含む。 【0087】 PESは、高温(>175℃)で長期間安定性を示す高い使用温度非晶質熱可塑性樹脂である。微孔性PES基体は、上記した従来のNaflon(登録商標)膜に固有の問題点を解決するために使用することができる新規な種類の高性能燃料電池膜である。 【0088】 PESは、米国ジョージア州Alpharettaに所在のAmano Performanceから大量に低コストで容易に入手可能であり、現在可能な温度及び圧力よりもはるかに高い温度及び圧力(約175℃を超える温度及び約100psiを超えるガス圧が可能)で十分に機能を発揮するために必要な複数の所望特性を示す。 【0089】 本発明のSPEMで使用される微孔質PESフィルムは、一般的なフィルム流延方法により製造され得るか、または適当な業者から直接購入することができる。他の好適な基体ポリマーと同様に、1つの好ましい実施態様では、PESを適当な水混和性溶媒に所望濃度まで溶解する。最小厚さ(好ましくは、約1ミル未満)のフィルムが製造されるようにPESの重量%を選択する。次いで、PES溶液をガラスプレート上で流延して、例えば約0.5ミル厚さのフィルムを形成する。プレートを水中に浸漬すると、ポリマーは凝固し、溶媒が滲出して、水膨潤状態の微孔質基体膜が形成される。次いで、水膨潤PES基体膜の微孔空隙にイオン伝導性ポリマーを溶媒交換法を用いて導入すると、複合膜が形成される。或いは、膜をまず乾燥し、次いで真空を用いてイオン伝導性溶液を溶浸して、気泡を除去し、孔をNaflon(登録商標)で充填する。膜を本明細書に記載の押出方法により製造してもよい。」 ウ 上記イの記載事項において、「Naflon(登録商標)」は「Nafion(登録商標)」の誤記であることは明らかである。 以下、刊行物3の「Naflon(登録商標)」は「Nafion(登録商標)」と表記する。 エ 上記イの記載事項の【0017】には、刊行物3における「Nafion(登録商標)膜」の課題として、「100℃を超える温度で燃料電池環境におけるNafion(登録商標)膜の性能を制限するメカニズムは幾つかある」ことが記載されている。 オ 「固体ポリマー電解質膜(SPEM)」は、上記イの記載事項の【0064】より、「イオン伝導性ポリマーを相互貫入させた多孔質ポリマー基体を含む」こと、及び、「多孔質ポリマー基体は、イオン導電性材料(例えば、ポリマー)に対する機械的、熱的、化学的及び酸化的に耐久性の支持体として働く」ことが記載されている。 カ 上記イの記載事項の【0085】には、「固体ポリマー電解質膜(SPEM)」の「イオン伝導性物質」として「Nafion(登録商標)」を用いることが記載されている。 キ 「固体ポリマー電解質膜(SPEM)」に関し、上記イの記載事項の【0089】には、「微孔質PESフィルム」の微孔空隙にNafion(登録商標)を導入し、形成されることが記載されている。 ク 上記ウ?キからすると、刊行物3には以下の点が記載されている。 「100℃を超える温度で燃料電池環境におけるNafion(登録商標)膜の性能を制限することがあるから、固体ポリマー電解質膜(SPEM)として、微孔質PESフィルムの微孔空隙にNafion(登録商標)を導入して形成されたものを用い、Nafion(登録商標)に対する機械的、熱的、化学的及び酸化的に耐久性を付与すること。」 (4)刊行物4の記載 刊行物4には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。 ア 特許請求の範囲の記載 「【請求項1】坪量あたりの引張弾性率が30N・cm^(-1)・g^(-1)・m^(2)以上であり、連続孔を有する多孔質体にイオン交換樹脂が充填されてなるイオン交換膜からなることを特徴とする固体高分子型燃料電池用電解質膜。」 「【請求項3】前記多孔質体は、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリイミド及びポリエーテルエーテルケトンからなる群から選ばれる1種以上の重合体からなる請求項1又は2に記載の固体高分子型燃料電池用電解質膜。」 「【請求項5】前記イオン交換樹脂は、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体からなる請求項1?4のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用電解質膜。」 イ 発明の詳細な説明の記載 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、固体高分子型燃料電池、特に固体高分子型燃料電池用電解質膜に関する。」 「【0003】現在、一般的に固体高分子電解質型燃料電池用の電解質には、通常厚さ20?200μmのプロトン伝導性イオン交換膜が用いられ、特にスルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体からなる陽イオン交換膜が基本特性に優れるため広く検討されている。しかし、電解質膜は含水時に膜の長さ方向に寸法が増大しやすく、様々な弊害を生じやすい。例えば、膜を一対の電極の間に挟んで接合した膜電極接合体を燃料電池セルに組込んで運転を行うと、反応により生成した水や燃料ガスとともに供給される水蒸気等により膜が膨潤し、膜の寸法が増大する。通常、膜と電極は接合しているので電極も膜の寸法変化に追従する。そして、接合体はガスの流路として溝が形成されたセパレータ等で拘束されているため、膜の寸法増大分は「しわ」となる。そして、そのしわがセパレータの溝を埋めてガスの流れを阻害することがある。」 「【0006】 【発明が解決しようとする課題】そこで本発明は、含水時の寸法変化が少ない固体高分子型燃料電池用電解質膜を提供し、安定した高出力が得られる固体高分子型燃料電池を提供することを目的とする。」 「【0009】本多孔質体の引張弾性率が30N・cm^(-1)・g^(-1)・m^(2)未満では補強効果が十分でない。特に含水時にイオン交換樹脂が膨潤し寸法が増大するのを抑制するには、高弾性率の多孔質体により補強することが有効であり、50N・cm^(-1)・g^(-1)・m^(2)以上であるとさらに好ましい。本多孔質体にイオン交換樹脂を充填した電解質膜は含水時の寸法変化率が少なく、膜を扱う雰囲気湿度による膜の寸法変化がほとんどないので取り扱いやすい。また、本電解質膜を電極の間に挟んで接合した膜電極接合体を備える燃料電池の運転を行う場合、反応により生成した水や燃料ガスとともに供給される水蒸気等による電解質膜の膨潤が抑制できるので、セパレータのガスの流路となる溝をふさぎにくい。」 「【0012】本発明における多孔質体は分子内に芳香族環を有する重合体からなることが好ましい。芳香族環が分子内にあると分子の剛直性が高くなり弾性率を上げることができる。具体的には、ポリスルフォン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン等があり、特にポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトンが好ましい。 【0013】本多孔質体は、例えば上述の重合体を用いて種々の方法で作製することができる。例えば、相転換法、微細孔形成材抽出法、延伸法、電子線照射・エッチング法等がある。相反転法は高分子溶液の相変化を利用した方法であり、比較的、空孔率の高い多孔質体を作製でき有効である。具体的には溶媒に重合体が溶解した溶液を基材上に塗布し、それを直ちに当該重合体が溶解しない貧溶媒に浸漬することにより多孔質体を形成する方法である。」 「【0029】 【実施例】[例1(実施例)]ジメチルホルムアミド溶媒180gにポリスルフォン(商品名:ユーデルP1700、アモコ社製)を20g加え、80℃で16時間撹拌しポリスルフォンを溶解した。その溶液をガラス板上にバーコータを用いてキャストし、厚さが50μmになるように調整した。その後、直ちに貧溶媒である水に15分間浸漬し、ポリスルフォンを析出させることにより多孔質化した。得られた多孔質体の四辺を固定し、120℃のオーブン中で16時間乾燥させることにより、ポリスルフォンの多孔質体を得た。得られた多孔質体は以下の方法で評価を行い、結果を表1に示した。」 「【0033】[例2(実施例)]重合体としてポリスルフォンのかわりにポリエーテルスルフォン(商品名:スミカエクセル4100G、住友化学社製)を用いた以外は例1と同様にして多孔質体を得た。例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。」 「【0038】[電解質膜の作製]CF_(2)=CF_(2)に基づく繰り返し単位とCF_(2)=CFOCF_(2)CF(CF_(3))OCF_(2)CF_(2)SO_(3)Hに基づく繰り返し単位とからなる共重合体(イオン交換容量:1.1ミリ当量/グラム乾燥樹脂)をエタノールと混合した液(固形分濃度9質量%)を、シリコーン系離型材で表面を処理したポリエチレンテレフタレートフィルム上にダイコータ法で塗工した。その後、直ちに例1で得られた多孔質体をその塗工層に含浸させ、80℃のオーブン中で10分間乾燥後、さらに120℃オーブン中で30分間熱処理を行い電解質膜を得た。例2?5で得られた多孔質体についても、同様の処理を行い、同様に電解質膜を得た。得られた電解質膜は以下の方法で評価を行い、結果を表2に示した。」 ウ 上記イの記載事項の【0003】、【0009】、【0012】には、「固体高分子型燃料電池用電解質膜」について記載されている。 エ 上記イの記載事項の【0003】には、従来の「固体高分子型燃料電池用電解質膜」について、「スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体からなる陽イオン交換膜」は「反応により生成した水や燃料ガスとともに供給される水蒸気等により膜が膨潤し、膜の寸法が増大する」ことが記載されている。 オ 「固体高分子型燃料電池用電解質膜」は、上記イの記載事項の【0009】より、「含水時にイオン交換樹脂が膨潤し寸法が増大するのを抑制するには、高弾性率の多孔質体により補強することが有効であ」ることが記載されている。 カ 「固体高分子型燃料電池用電解質膜」は、上記イの記載事項の【00012】より、「芳香族環が分子内にあると分子の剛直性が高くなり弾性率を上げることができる」こと、及び、具体的な好ましい例として、ポリエーテルスルフォンが記載されている。 キ 上記エ?カからすると、刊行物4には以下の事項が記載されている。 「固体高分子型燃料電池用電解質膜において、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体からなる陽イオン交換膜は、反応により生成した水や燃料ガスとともに供給される水蒸気等により膜が膨潤し、膜の寸法が増大するので、芳香族環を有し、剛直性が高く、弾性率の高いポリエーテルスルフォンからなる多孔質体により補強することが有効であり、それにより、含水時にイオン交換樹脂が膨潤し寸法が増大するのを抑制できること。」 (5)刊行物5の記載 刊行物5には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。 ア 特許請求の範囲の記載 「【請求項1】 ポリエーテルスルホンを溶媒に溶解させた溶液を、電場中で電気的引力によって飛散させることにより前記ポリエーテルスルホンを繊維化する繊維化工程を含む、ポリエーテルスルホン繊維の製造方法。」 「【請求項6】 下記一般式(1)で表される構造単位を含むポリエーテルスルホンを含有し、ガラス転移温度が260℃以上であり、平均繊維径が0.01?0.5μmであるポリエーテルスルホン繊維。 【化3】 [式中、R^(11)及びR^(12)は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、フェニル基、炭素数1?6のアルキル基又は炭素数2?10のアルケニル基を示し、p及びqは、それぞれ独立に0?4の整数を示す。R^(11)又はR^(12)が複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。]」 イ 発明の詳細な説明の記載 「【0001】 本発明は、ポリエーテルスルホン繊維及びその製造方法並びにろ過用フィルターに関する。」 「【0039】 (ポリエーテルスルホン繊維の製造方法) 次に、上述したようなポリエーテルスルホン繊維の製造方法の好適な実施形態について説明する。本実施形態において、ポリエーテルスルホン繊維は、静電紡糸法によって製造することができる。ここで、静電紡糸法とは、繊維の原料を含む溶液を、電場中で電気的引力によって飛散させることにより原料を繊維化する方法である。具体的には、一対の電極を対向配置し、これらに電圧を印加して静電場を発生させる。この状態で、一方の電極側(通常は陽極)に繊維の原料を含む溶液を配置し、これによって帯電した溶液を、他方の電極側(通常は陰極)に向けて静電場中、電気的な引力によって飛散させる。この際、溶液は広く分散するとともに、この溶液に含まれる繊維の原料が、他方の電極側に引っ張られる力により伸長変形して繊維化する。このようにして形成された繊維は、対向する電極側に配置された捕集基板に捕集され、その結果、繊維の構造体が得られる。」 「【0059】 また、繊維構造体10のような繊維布は、上述したろ過用フィルターだけでなく、エアーフィルター、工業用濾材等としても用いることができる。上述したような製造方法によって得られたポリエーテルスルホン繊維からなる繊維布は、繊維径が極めて細いことから、膜厚を小さくしても十分な機械強度が得られるので、薄膜状とすることによってろ過抵抗が小さく、しかもろ過性(集塵性、微粒子の捕集性)に優れるフィルターを構成することができる。」 ウ 上記イの記載事項の【0039】は、上記アの記載事項の【請求項1】の「ポリエーテルスルホン繊維の製造方法」をより具体的に説明したものであり、また、上記アの記載事項の【請求項6】の「ポリエーテルスルホン繊維」の製造方法を説明したものである。 エ 「ポリエーテルスルホン繊維の製造方法」は、上記イの記載事項の【0039】より、「ポリエーテルスルホン繊維」の「原料を含む溶液を、電場中で電気的引力によって飛散させることにより原料を繊維化する」ものである。 オ 「ポリエーテルスルホン繊維」は、上記アの記載事項の【請求項6】より、「平均繊維径が0.01?0.5μmである」。 カ 「ポリエーテルスルホン繊維からなる繊維布」は、上記イの記載事項の【0059】より、「繊維径が極めて細いことから、膜厚を小さくしても十分な機械強度が得られる」ものである。 キ 「ポリエーテルスルホン繊維からなる繊維布」は、上記イの記載事項の【0059】より、ろ過用フィルター、エアーフィルター、工業用濾材として用いることができるものである。 ク 上記エ?キからすると、刊行物5には以下の事項が記載されている。 「平均繊維径が0.01?0.5μmであるポリエーテルスルホン繊維は、ポリエーテルスルホン繊維の原料を含む溶液を、電場中で電気的引力によって飛散させることにより原料を繊維化することによって得られ、ポリエーテルスルホン繊維からなる繊維布は、繊維径が極めて細いことから、膜厚を小さくしても十分な機械強度が得られ、ろ過用フィルター、エアーフィルター、工業用濾材として用いることができること。」 5 対比・判断 (1)本件特許発明1について まず、本件特許発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「不織布繊維シート4」は「平均繊維径が0.15μmであ」るから、本件明細書の「ナノファイバーマット100は、ナノファイバーの不織布ウェブであり得る。これらのナノファイバーは、80?1000ナノメートル、より典型的には約80?700ナノメートルの範囲の平均直径を有し得る」(【0050】)との記載に照らせば、本件特許発明1の「ナノファイバーマット」に相当する。 イ 引用発明の「ナフィオン(登録商標)117」は、プロトン伝導性を有することが明らかである。 また、引用発明の「ナフィオン(登録商標)117」はペルフルオロイオノマーであり(特表2005-514747号公報の【0054】、特表2002-516472号公報の【0029】参照。特表2002-516472号公報では「ペルフルオロ系イオノマー」が「ペルフルオロイオノマー」に相当。)、通常「アイオノマー」を「イオノマー」ともいう(特開2005-210906号公報の【0020】、特開平7-207527号公報の【0026】、国際公開第2011/004754号の[0002]参照。)から、引用発明の「ナフィオン117であるパーフルオロスルホン酸」は、全フッ化アイオノマーであるといえる。 そうすると、引用発明の「ナフィオン(登録商標)117であるパーフルオロスルホン酸」は、本件特許発明1の「高フッ化アイオノマー、全フッ化アイオノマー、炭化水素アイオノマー、及びそれらの配合物並びに組み合わせからなる群から選択される」「第1のプロトン伝導性ポリマー」に相当する。 ウ 引用発明の「ナフィオン117(登録商標)であるパーフルオロスルホン酸が、」「不織布繊維シート4によって補強され、機械的強度が向上した複合シートからなる電解質膜」は、本件特許発明1の「ナノファイバーマットで強化された第1のプロトン伝導性ポリマーを備える電解質膜」に相当する。 エ 引用発明は、「不織布繊維シート4が前記パーフルオロスルホン酸と複合一体化して」おり、不織布繊維シート4が前記パーフルオロスルホン酸で少なくとも部分的に満たされているといえるから、引用発明の「不織布繊維シート4が前記パーフルオロスルホン酸と複合一体化している」ことは、本件特許発明1の「ナノファイバーマットは、前記第1のプロトン電導性ポリマーで少なくとも部分的に満たされ」ることに相当する。 オ 引用発明の「極細繊維化した完全けん化ポリビニルアルコールを集積させてなる不織布繊維シート4」と、本件特許発明1の「PES、及びPVDFと配合されたPESから選択される繊維材料を含むナノファイバーから作製され」た「ナノファイバーマット」とは、「繊維材料を含むナノファイバーから作製され」た「ナノファイバーマット」で一致する。 上記ア?オによれば、本件特許発明1と引用発明とは、 「ナノファイバーマットで強化された第1のプロトン伝導性ポリマーを備える電解質膜であって、 前記ナノファイバーマットは、前記第1のプロトン電導性ポリマーで少なくとも部分的に満たされ、 前記ナノファイバーマットは、繊維材料を含むナノファイバーから作製され、前記第1のプロトン伝導性ポリマーは、高フッ化アイオノマー、全フッ化アイオノマー、炭化水素アイオノマー、及びそれらの配合物並びに組み合わせからなる群から選択される、電解質膜。」で一致し、以下の点で相違する。 (相違点) a 「ナノファイバーマット」が作製される「ナノファイバー」に含まれる「繊維材料」が、本件特許発明1では、「PES、及びPVDFと配合されたPESから選択される」ものであるのに対し、引用発明では、「極細繊維化した完全けん化ポリビニルアルコール」である点。 以下、上記aの相違点について検討する。 刊行物2には、「100℃より高い温度の燃料電池環境においてNafion(登録商標)膜の性能を制限することがあるから、固体ポリマー電解質膜(SPEM)を、Nafion(登録商標)を浸透させた多孔性ポリマー基材を含むものとし、さらに、Nafion(登録商標)に対する機械的、熱的、化学的および酸化的な耐久性を有する多孔性ポリマー基材として、ミクロ細孔性のPESフィルムを使用すること」(上記「4」「(2)」「キ」参照。)が記載されている。 しかしながら、刊行物2には、ミクロ細孔性のPESポリマーの製造方法として【0094】には、「PESの溶液は、大きな多孔性を有するフィルムが得られるように選択される。その後、PES溶液は、例えば、厚さが約10ミルのフィルムを得るためにガラスプレートに注型される。プレートを水に浸漬することによって、ポリマーは凝固し、溶媒が浸出して、ミクロ細孔性の基材膜が水膨潤状態で形成される」という標準的なフィルムキャスティング技術によって製造することができると記載されており、この記載からすると、多孔性ポリマー基材としてのミクロ細孔性のPESフィルムは、繊維材料を含むファイバーマットとはいえない。 また、同じく【0094】には、「適切な販売元から直接購入することができる」と記載されているものの、【0094】の記載によると、「適切な販売元から直接購入」するものは、フィルムキャスティング技術によって製造することができるものといえるから、この「多孔性ポリマー基材としてのミクロ細孔性のPESフィルム」が繊維材料を含むファイバーマットであるとはいえない。 つまり、刊行物2には、電解質膜の補強材としてミクロ細孔性のPESフィルムでなる多孔性ポリマー基材が記載されているのみであり、PESからなる繊維材料を含むナノファイバーから作製されるナノファイバーマットは記載されていない。 また、ポリエーテルスルホンの繊維材料に関し、刊行物5に、「平均繊維径が0.01?0.5μmであるポリエーテルスルホン繊維は、ポリエーテルスルホン繊維の原料を含む溶液を、電場中で電気的引力によって飛散させることにより原料を繊維化することによって得られ」ることが記載されているとしても(上記「4」「(5)」「ク」参照。)、このポリエーテルスルホン繊維からなる繊維布は、「ろ過用フィルター、エアーフィルター、工業用濾材として用いる」(上記「4」「(5)」「ク」参照。)ものであって、電解質膜の補強材に用いるものではないし、フィルムキャスティング技術によって製造できるものでもない。 そのため、仮に、刊行物5に示されているポリエーテルスルホン繊維からなる繊維布が市販されており、刊行物2の【0094】に「適切な販売元から直接購入することができる」との記載があるとしても、刊行物2のミクロ細孔性のPESフィルムと刊行物5のポリエーテルスルホン繊維からなる繊維布とを、直接結びつける合理的な理由はみあたらない。 また、刊行物2及び5のいずれにも、電解質膜の補強材に用いる「ナノファイバーマット」であって、その「ナノファイバーマット」が作製される「ナノファイバー」に含まれる「繊維材料」を、PESからなる繊維材料とすることについて、開示されていないから、引用発明において、不織布繊維シートを形成するための極細繊維として、完全けん化ポリビニルアルコールに代えて、PESポリマーを採用して、本件特許発明1の「PES、及びPVDFと配合されたPESから選択される」ものとすることは、当業者が容易になし得たものであるということはできない。 よって、上記aの相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項は、引用発明において、刊行物2及び5に記載された事項を採用することにより、当業者が容易になし得たものとすることはできない。 また、刊行物3には、「100℃を超える温度で燃料電池環境におけるNafion(登録商標)膜の性能を制限することがあるから、固体ポリマー電解質膜(SPEM)として、微孔質PESフィルムの微孔空隙にNafion(登録商標)を導入して形成されたものを用い、Nafion(登録商標)に対する機械的、熱的、化学的及び酸化的に耐久性を付与すること」(上記「4」「(3)」「ク」参照。)が記載されている。 しかしながら、刊行物3の微孔質PESフィルムは、【0089】の記載からして、刊行物2のミクロ細孔性のPESフィルムと同様の製造技術で製造されるフィルムといえる。 そうすると、上記刊行物2及び5に関して述べたことと同様に、刊行物3及び5のいずれにも、電解質膜の補強材に用いる「ナノファイバーマット」であって、その「ナノファイバーマット」が作製される「ナノファイバー」に含まれる「繊維材料」を、PESからなる繊維材料とすることについて、開示されているとはいえないから、引用発明において、不織布繊維シートを形成するための極細繊維として、完全けん化ポリビニルアルコールに代えて、PESを採用して、本件特許発明1の「PES、及びPVDFと配合されたPESから選択される」ものとすることは、当業者が容易になし得たものであるということはできない。 よって、上記aの相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項は、引用発明において、刊行物3及び5に記載された事項を採用することにより、当業者が容易になし得たものとすることはできない。 さらに、刊行物4には、「固体高分子型燃料電池用電解質膜において、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体からなる陽イオン交換膜は、反応により生成した水や燃料ガスとともに供給される水蒸気等により膜が膨潤し、膜の寸法が増大するので、芳香族環を有し、剛直性が高く、弾性率の高いポリエーテルスルフォンからなる多孔質体により補強することが有効であり、それにより、含水時にイオン交換樹脂が膨潤し寸法が増大するのを抑制できること。」(上記「4」「(4)」「キ」参照。)が記載されている。 しかしながら、刊行物4のポリエーテルスルフォンからなる多孔質体は、「例えば、相転換法、微細孔形成材抽出法、延伸法、電子線照射・エッチング法」(【0013】)により作製するものであると記載されているところ、これらの方法で形成された多孔質体は、ポリエーテルスルフォンからなる繊維材料を含むファイバーマットであるとはいえない。 そうすると、上記刊行物2及び5に関して述べたことと同様に、刊行物4及び5のいずれにも、電解質膜の補強材に用いる「ナノファイバーマット」であって、その「ナノファイバーマット」が作製される「ナノファイバー」に含まれる「繊維材料」を、PESからなる繊維材料とすることについて、開示されていないから、引用発明において、不織布繊維シートを形成するための極細繊維として、完全けん化ポリビニルアルコールに代えて、ポリエーテルスルフォンを採用して、本件特許発明1の「PES、及びPVDFと配合されたPESから選択される」ものとすることは、当業者が容易になし得たものであるということはできない。 よって、上記aの相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項は、引用発明において、刊行物4及び5に記載された事項を採用することにより、当業者が容易になし得たものとすることはできない。 また、上記aの相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項は、引用発明に対し、刊行物2?5に記載された事項を如何に組み合わせたとしても、当業者が容易になし得たものとすることはできない。 以上のとおり、本件特許発明1は、引用発明及び刊行物2?5に記載された事項から、当業者が容易になし得たものではない。 (2)本件特許発明3について 本件特許発明3は、本件特許発明1を更に減縮したものであるから、上記「(1)本件特許発明1について」で述べた理由と同様の理由により、引用発明及び刊行物2?5に記載された事項から、当業者が容易になし得たものではない。 (3)本件特許発明4について まず、本件特許発明4と引用方法発明とを対比する。 ア 引用方法発明の「不織布繊維シート4」は「平均繊維径が0.15μmであ」るから、本件明細書の「ナノファイバーマット100は、ナノファイバーの不織布ウェブであり得る。これらのナノファイバーは、80?1000ナノメートル、より典型的には約80?700ナノメートルの範囲の平均直径を有し得る」(【0050】)との記載に照らせば、本件特許発明4の「繊維材料を含むナノファイバーを含むナノファイバーマット」に相当する。 イ 引用方法発明の「複合シート」の「パーフルオロスルホン酸」は、「ナフィオン117(登録商標)を含むパーフルオロスルホン酸溶液」を「乾燥」させたものであるから、上記「5」「(1)」「イ」と同様の理由で、本件特許発明4の「高フッ化アイオノマー、全フッ化アイオノマー、炭化水素アイオノマー、及びそれらの配合物並びに組み合わせからなる群から選択される」「第1のプロトン伝導性ポリマー」に相当する。 ウ 引用方法発明の「電解質膜の製造方法」は、本件特許発明4の「電解質膜を作製する方法」に相当する。 エ 引用方法発明の「(a)極細繊維化した完全けん化ポリビニルアルコールを集積させてなり、平均繊維径が0.15μmである不織布繊維シート4の形成工程」は、(a)極細繊維化した完全けん化ポリビニルアルコールを集積させてなり、平均繊維径が0.15μmである不織布繊維シート4を提供する工程であるともいえるから、引用方法発明の「(a)極細繊維化した完全けん化ポリビニルアルコールを集積させてなり、平均繊維径が0.15μmである不織布繊維シート4」と、本件特許発明4の「(a)繊維材料を含むナノファイバーを含むナノファイバーマットを提供する工程において、前記繊維材料がPES、及びPVDFと配合されたPESからなる群から選択されるポリマーを含む、工程」とは、「(a)繊維材料を含むナノファイバーを含むナノファイバーマットを提供する工程において、前記繊維材料がポリマーを含む、工程」である点で一致する。 オ 引用方法発明の「不織布繊維シート4とパーフルオロスルホン酸とが複合一体化した」ことは、不織布繊維シート4をパーフルオロスルホン酸で少なくとも部分的に満たすことといえるから、上記イの検討も勘案すると、引用方法発明の「(b)ナフィオン(登録商標)117を含むパーフルオロスルホン酸溶液をガラス板上にキャスティングして厚さ10μmの液膜とし、この上に前記不織布繊維シート4を載せ、乾燥した後に前記ガラス板から剥離し、前記不織布繊維シート4とパーフルオロスルホン酸とが複合一体化した複合シート(厚さ:5μm)を得る工程」は、本件特許発明4の「(b)前記ナノファイバーマットを第1のプロトン伝導性ポリマーで少なくとも部分的に満たす工程において、前記第1のプロトン伝導性ポリマーが、高フッ化アイオノマー、全フッ化アイオノマー、炭化水素アイオノマー、及びそれらの配合物並びに組み合わせからなる群から選択される、工程」に相当する。 上記ア?オによれば、本件特許発明4と引用方法発明とは、 「電解質膜を作製する方法であって、 (a)繊維材料を含むナノファイバーを含むナノファイバーマットを提供する工程において、前記繊維材料がポリマーを含む、工程と、 (b)前記ナノファイバーマットを第1のプロトン伝導性ポリマーで少なくとも部分的に満たす工程において、前記第1のプロトン伝導性ポリマーが、高フッ化アイオノマー、全フッ化アイオノマー、炭化水素アイオノマー、及びそれらの配合物並びに組み合わせからなる群から選択される、工程と、 を含む、方法。」で一致し、以下の点で相違する。 (相違点) b 「ナノファイバーマット」に含まれる「ナノファイバー」に含まれる「繊維材料」の「ポリマー」が、本件特許発明4では、「PES、及びPVDFと配合されたPESから選択される」ものであるのに対し、引用方法発明では、「完全けん化ポリビニルアルコール」である点。 以下、上記bの相違点について検討する。 上記bの相違点は、上記「(1)本件特許発明1について」で検討した上記aの相違点と同様の相違点であるから、「(1)本件特許発明1について」での検討と同様にして、上記bの相違点に係る本件特許発明4の発明特定事項は、引用方法発明において、刊行物2?5に記載された事項を採用することにより、当業者が容易になし得たものとすることはできない。 よって、本件特許発明4は、引用方法発明及び刊行物2?5に記載された事項から、当業者が容易になし得たものではない。 6 むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、3、4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1、3、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-08-17 |
出願番号 | 特願2013-512079(P2013-512079) |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Y
(H01M)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 守安 太郎 |
特許庁審判長 |
池渕 立 |
特許庁審判官 |
小川 進 土屋 知久 |
登録日 | 2015-08-28 |
登録番号 | 特許第5798186号(P5798186) |
権利者 | スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー |
発明の名称 | 強化電解質膜 |
代理人 | 高橋 正俊 |
代理人 | 出野 知 |
代理人 | 胡田 尚則 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 蛯谷 厚志 |