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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1318101
異議申立番号 異議2016-700449  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-18 
確定日 2016-08-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第5819200号発明「リチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用正極、及び、リチウムイオン電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5819200号の請求項1?9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5819200号の請求項1?9に係る特許についての出願は、2011年2月4日(優先権主張2010年2月5日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年10月9日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人高橋昌嗣により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第5819200号の請求項1?9の特許に係る発明(以下、「本件発明1?9」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として甲第1号証?甲第3号証を提出し、以下の1?3の理由により、請求項1?9に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 本件発明1?9は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?9に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当するにもかかわらずなされたものであるか、又は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである(以下、「申立理由1」という。)。

2 本件発明1?9は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである(以下、「申立理由2」という。)。

3 本件発明1?9は、甲第3号証に記載された発明であるか、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?9に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当するにもかかわらずなされたものであるか、又は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである(以下、「申立理由3」という。)。

[証拠方法]
甲第1号証:国際公開第03/088382号
甲第2号証:特許第4216669号公報
甲第3号証:特開2009-59710号公報

第4 甲号証の記載事項
1 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第1号証には、「非水電解質二次電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当合議体が付加したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1a) 「リチウム含有複合酸化物が、特性X線としてCuKα線を用いた粉末X線回折法による(110)面に基づく回折ピークの半値幅が0.13°以上0.20°以下であり、かつ、(003)面に基づく回折ピークの強度の(104)面に基づく回折ピークの強度に対する比率が1.2以上1.8以下であることを特徴とするものである。
なお、CuKα線を用いた粉末X線回折による(110)面に基づく回折ピークは、通常2θ=65±1°に現れる。・・・」(明細書本文2頁22行?3頁1行)
(1b) 「<実施例1>
1.リチウム含有複合酸化物の合成
1)LiNi_(0.82)Co_(0.15)Al_(0.03)O_(2)の合成
硫酸ニッケルと硫酸コバルトを所定の配合にて溶解し、この溶液に水酸化ナトリウム溶液を添加して、ニッケルコバルト共沈水酸化物を得た。次に、この共沈水酸化物に水酸化アルミニウムを添加し、ニッケル、コバルト、アルミニウムの原子数比率が、Ni:Co:Al=82:15:3となるよう調製した。次いで、リチウム原子数(Lit)とリチウム以外の金属原子の総数(Mt)の比率(Lit/Mt)が1.01となるように水酸化リチウムを添加、調整した。(なお、Liを多めに入れるのは、焼成時において僅かにLiの減失が生じてしまうためである。)
この前駆体を、600℃で5時間焼成した後に粉砕し、ついで酸素雰囲気中にて750℃で10時間焼成し、LiNi_(0.82)Co_(0.15)Al_(0.03)O_(2)により示される、リチウム含有複合酸化物を得た。
2)X線回折分析
合成されたLiNi_(0.82)CO_(0.15)Al_(0.03)O_(2)について、株式会社リガク製RINT2400を用いてX線回折測定をおこなった。X線源はCuKα(波長λ=1.5405Å)を用いて、管電圧、電流はそれぞれ50kV、200mAとし、発散スリット1.0°、散乱スリット1.0°、受光スリット0.15mmとした。測定した反射角度は10°≦2θ≦100°、走査角度は0.04°で測定した。得られたX線回折の反射ピークに対してバックグラウンド除去、Kα2除去の処理をおこなった。Kα2ピークの除去はKα2/Kα1=0.498の割合でおこなった。
2.非水電解質二次電池の作製
1)正極の作製
上記1.で得られたLiNi_(0.82)Co_(0.15)Al_(0.03)O_(2)を正極活物質とし、この正極活物質に対して結着剤としてポリフッ化ビニリデンを、導電剤としてアセチレンブラックを重量比で、正極活物質:ポリフッ化ビニリデン:アセチレンブラック=88:8:4の割合で混合し、正極合剤ペーストを調製した。このペーストを、厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に均一に塗布し、乾燥、プレスした後に裁断して、帯状の正極シートを作製した。
2)負極の作製
負極活物質としてグラファイト粉末を、このグラファイトに対して結着剤としてポリフッ化ビニリデンを重量比で、グラファイト粉末:ポリフッ化ビニリデン=92:8の割合で混合し、負極合剤ペーストを調製した。このペーストを、厚さ10μmの銅箔からなる集電体の両面に均一に塗布し、上記正極シートと同様の方法により、帯状の負極シートを作製した。
3)電解液の調製
エチレンカーボネート、およびジエチルカーボネートを、体積比3:7の割合で混合して、非水溶媒を調製した。この非水溶媒に、電解質としてリチウム塩としてLiPF_(6)を1.2mol/lの濃度で加え、非水電解液を調製した。
4)電池の作製
正極シート、ポリエチレン製のセパレータ、負極シート、ポリエチレン製セパレータの順に積層したものを巻回して発電素子を作製し、角型の電池缶に収納した。この電池缶内に上記3)で調製した電解液を充填し、絶縁体を介した電池蓋により密閉して、角型電池を組み立てた。」(明細書本文6頁18行?8頁9行)
(1c) 「<実施例3>
ニッケルコバルト共沈酸化物に水酸化アルミニウムに代えて、二酸化マンガンを添加した以外は実施例1と等しい工程により、LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)を得た。
このLiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)を用いて実施例1と同様にして電池を作製し、同様の試験を行った。」(明細書本文9頁8?13行)
(1d) 「<試験結果>
1.X線回折分析
・・・
表1にX線回折分析の結果をまとめた。なお、表1において、I(003)/I(104)は、2θ=19±1°の範囲に現れる(003)面に基づくX線回折ピークの強度の2θ=45±1°の範囲に現れる(104)面に基づくX線回折ピークの強度に対する比率を示し、「半値幅」は2θ=65±1°の範囲に現れる(110)面に基づくX線回折ピークの半値幅(単位:°)を示す。」(明細書本文11頁13?23行)
(1e) 「(表1)

」 (明細書本文12頁)

2 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第2号証には、「リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物並びにそれを正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(2a) 「【請求項1】
CuKα線を用いた粉末X線回折のミラ-指数hklにおける(003)面及び(104)面の回折ピ-ク角2θがそれぞれ 18.65°以上及び 44.50°以上で、かつそれら各面の回折ピ-ク半価幅が何れも0.18°以下であり、更に(108)面及び(110)面の回折ピ-ク角2θがそれぞれ 64.40°及び 65.15°以上で、かつそれら各面の回折ピ-ク半価幅が何れも0.18°以下であるところの、Li_(a) Ni_(x) Mn_(y) Co_(z) O_(2+b )(x+y+z=1,1.00<a<1.3 ,0≦b<0.3 )なる化学組成を持つ層状構造のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物。
【請求項2】
請求項1記載のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物を正極活物質として用いて成る、リチウムイオン二次電池。」
(2b) 「【0016】
また、bの値が0より小さくなると層状構造に酸素欠陥が生成し、充・放電特性の劣化が著しくなるので好ましくない。そして、bの値が 0.3以上になると層状構造単相ではなく別の化合物の生成が起き、同様に充・放電特性が劣化する。」

3 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第3号証には、「正極活物質およびこれを用いた非水電解質二次電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(3a) 「【0135】
[第一実施形態]
(実施例1-1)
硝酸マンガン及び硝酸ニッケルを、Mn:Niの原子比が1:1の割合で含む水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加えて共沈させ、150℃で加熱、乾燥し、マンガン-ニッケル共沈化合物を得た。水酸化リチウム水溶液に前記マンガン-ニッケル共沈化合物を添加し、攪拌後溶媒を蒸発させて乾燥した後、1000℃で12時間、酸素雰囲気下で焼成した後、粒子を分級してD50=9μmの粉末とした。BET法により測定した比表面積は1.0m^(2)/gであった。
【0136】
該粉末のCuKα線によるエックス線回折測定の結果、2θ=18.58度、36.38度、37.68度、38.02度、44.10度、48.24度、58.22度、63.92度、64.10度、64.4度及び67.68度付近にそれぞれ回折ピークが認められ、完全に一致しているわけではないが空間群R3/mに属する層状構造と思われる結晶性の高い単相が合成できていることがわかった。該粉末のエックス線回折図を図3に示す。元素分析の結果、該粉末の組成はLiMn_(0.5)Ni_(0.5)O_(2)であることがわかった。該粉末を粉末Aとする。
【0137】
該粉末Aを正極活物質として用い、次のようにして図2に示す容量約15Ahの角形非水電解質電池を作製した。
【0138】
正極活物質である粉末A、導電剤であるアセチレンブラック及び結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を重量比85:10:5で混合し、溶剤としてN-メチルピロリドンを加え、混練分散し正極塗布液を調製した。なお、前記ポリフッ化ビニリデンは固形分が溶解分散された溶解液を用い、固形分として重量換算した。前記正極塗布液を厚さ20μmのアルミ箔集電体の両面に塗布し、全体の厚さを230μmに調整し、6.3mAh/cm^(2)の容量を持つ正極シートを作製した。前記正極シートを幅61mm、高さ107mmの形状に裁断して、シートの末端に厚さ20μm、幅10mmのアルミニウムリード板を取り付け、正極板7とした。
【0139】
人造黒鉛(粒径6μm)を負極材料として用い、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を前記負極材料に対して10重量%加え、溶剤としてN-メチルピロリドンを加え、混練分散し、負極塗布液を調製した。なお、前記ポリフッ化ビニリデンは固形分が溶解分散された溶解液を用い、固形分として重量換算した。前記負極塗布液を厚さ10μmの銅箔集電体の両面に塗布し、全体の厚さを180μmに調整し、7mAh/cm^(2)の容量を持つ負極シートを作製した。前記負極シートを幅65mm、高さ111mmの形状に裁断して、シートの末端に厚さ10μm、幅10mmの銅リード板を取り付け、負極板9とした。
【0140】
前記正極板7及び負極板9を150℃で12時間減圧乾燥した。次に、セパレータ8として、幅65mm、高さ111mmの袋形状に裁断したポリエチレン製微多孔膜の袋に前記正極板を挿入し、セパレータ8付き正極板7、負極板9の順でこれらを交互に積層し、40枚のセパレータ8付き正極板7及び41枚の負極板9からなる極群を得た。
【0141】
前記極群をポリエチレン樹脂からなる絶縁フィルムに包み込み、アルミニウム製の角形電槽10に収納し、安全弁1を有するアルミニウム製の蓋2に取り付けられた正極端子5及び負極端子4に、正極板7及び負極板9のリード板をそれぞれボルトによって接続した。なお、端子5,4はポリプロピレン樹脂からなるガスケット6を用いて前記蓋2との間を絶縁してある。
【0142】
前記蓋2と電槽10とをレーザー溶接部3においてレーザー溶接し、前記電槽10の中に、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの体積比1:1の混合溶剤にLiPF_(6)を1mol/l溶解した電解液を65g注入し、封口した後、25℃において、1.5A、4.2V、15時間の定電流定電圧充電を行い、1.5A、終止電圧3Vの定電流放電を行った。このようにして、横70mm、高さ130mm(端子込み高さ136mm)、幅22mmの角形リチウム電池を得た。この電池を実施例1-1の電池とする。」
(3b) 「【0208】
[第四実施形態]
(実施例4-1)
硝酸マンガン、硝酸ニッケル及び硝酸コバルトを、Mn:Ni:Coの原子比が9:9:2の割合で含む水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加えて共沈させ、150℃で加熱、乾燥して、マンガン-ニッケル-コバルト共沈化合物を得た。水酸化リチウム水溶液に該共沈化合物を添加し、攪拌後溶媒を蒸発させて乾燥した後、1000℃で12時間、酸素雰囲気下で焼成した後、分級してD50=20μmの粉末とした。BET法で測定した比表面積は0.9m^(2)/gであった。
【0209】
該粉末のCuKα線によるエックス線回折測定の結果、2θ=18.56度、36.56度、37.76度、38.24度、44.32度、48.4度、58.4度、64.16度、64.8度、68.8度に回折ピークが認められ、空間群R3/mに属する層状構造と思われる結晶性の高い単相が合成できていることがわかった。該粉末のエックス線回折図を図5に示す。元素分析の結果、該粉末の組成はLiMn_(0.45)Ni_(0.45)Co_(0.1)O_(2)であることがわかった。該粉末を粉末Dとする。
【0210】
該粉末Dを正極活物質として用いたこと以外は(実施例1-1)と同様にして図2に示す容量約15Ahの角形リチウム電池を作製した。この電池を実施例4-1の電池とする。」

第5 判断
1 申立理由1について
(1) 甲第1号証に記載された発明
ア 上記(1c)の記載によれば、実施例3では、LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)を用いて実施例1と同様にして電池を作製している。また、上記(1b)の記載によれば、実施例1では、LiNi_(0.82)Co_(0.15)Al_(0.03)O_(2)を正極活物質として非水電解質二次電池を作製している。
そうすると、実施例3では、LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)を正極活物質として非水電解質二次電池を作製しているといえるから、このLiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)は、非水電解質二次電池用正極活物質であるということができる。

イ 上記(1a)、(1d)及び(1e)の実施例3の記載によれば、LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)は、特性X線としてCuKα線を用いた粉末X線回折法による(003)面に基づく回折ピークの強度I(003)の(104)面に基づく回折ピークの強度I(104)に対する比率I(003)/I(104)が1.36であって、かつ、(110)面の2θは65±1°であるといえる。

ウ 上記ア?イの検討事項を、実施例3の記載に注目して整理すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)からなり、
特性X線としてCuKα線を用いた粉末X線回折法による(003)面に基づく回折ピークの強度I(003)の(104)面に基づく回折ピークの強度I(104)に対する比率(I(003)/I(104))が1.36であり、(110)面の2θが65±1°である非水電解質二次電池用正極活物質。」(以下、「甲1発明」という。)

(2) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
(ア) 本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア-1) 本件発明1の「組成式:Li(Li_(x)Ni_(1-x-y)M_(y))O_(2+α)
(前記式において、Mは必須成分としてのCo、及び、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Al、Bi、Sn、Mg、Ca、B及びZrから選択される1種以上であり、0≦x≦0.1であり、0<y≦0.7であり、0<α≦0.13である。)」において、x=0、y=0.20、MがCoとMnであって、CoとMnとの組成比が0.15:0.05の場合、甲1発明の「LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)」とは、酸素量を除いて、両者は共通している。
したがって、両者は、「組成式:Li(Li_(x)Ni_(1-x-y)M_(y))O_(z)
(前記式において、Mは必須成分としてのCo、及び、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Al、Bi、Sn、Mg、Ca、B及びZrから選択される1種以上であり、0≦x≦0.1であり、0<y≦0.7である。)」である点で共通するものの、酸素量zについて、本件発明1は、2+α(0<α≦0.13)であるのに対して、甲1発明は、2である点で相違しているといえる。

(ア-2) 甲第1号証の上記(1b)の実施例1における「2.非水電解質二次電池の作製」の記載、及び、上記(1c)の実施例3の「このLiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)を用いて実施例1と同様にして電池を作製し、同様の試験を行った。」との記載によれば、甲1発明の「非水電解質二次電池」は、LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)を正極活物質に用いた帯状の正極シート、ポリエチレン製のセパレータ、グラファイト粉末を負極活物質に用いた帯状の負極シート、ポリエチレン製のセパレータの順に積層したものを巻回して発電素子を作製し、角型の電池缶に収納し、この電池缶内に、非水溶媒に電解質としてリチウム塩(LiPF_(6))を加えた電解液を充填することによって組み立てられるものであるから、当該「非水電解質二次電池」は、リチウムイオン電池であるといえる。
したがって、甲1発明の「非水電解質二次電池用正極活物質」は、本件発明1の「リチウムイオン電池用正極活物質」に相当する。

(ア-3) 甲1発明の「特性X線としてCuKα線を用いた粉末X線回折法」、「(003)面に基づく回折ピークの強度I(003)」、「(104)面に基づく回折ピークの強度I(104)」は、それぞれ、本件発明1の「粉末X線回折装置(CuKα線)を用いて測定」すること、「(003)面のピーク強度(Ps003)」、「(104)面のピーク強度(Ps104)」に相当する。
そうすると、甲1発明の「比率(I(003)/I(104))」の逆数I(104)/I(003)は、本件発明1の「比(Ps104/Ps003)」に相当し、甲1発明の「比率(I(003)/I(104))」である「1.36」の逆数0.73は、本件発明1の「比(Ps104/Ps003)」の「0.9以下」との範囲に含まれている。
したがって、甲1発明の「特性X線としてCuKα線を用いた粉末X線回折法による(003)面に基づく回折ピークの強度I(003)の(104)面に基づく回折ピークの強度I(104)に対する比率(I(003)/I(104))が1.36」であることは、本件発明1の「粉末X線回折装置(CuKα線)を用いて測定された粉末X線回折で(003)面のピーク強度(Ps003)と、(104)面のピーク強度(Ps104)との比(Ps104/Ps003)が0.9以下」であることに相当する。

(ア-4) 以上から、本件発明1と甲1発明とは、「組成式:Li(Li_(x)Ni_(1-x-y)M_(y))O_(z)
(前記式において、Mは必須成分としてのCo、及び、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Al、Bi、Sn、Mg、Ca、B及びZrから選択される1種以上であり、0≦x≦0.1であり、0<y≦0.7である。)
で表され、
粉末X線回折装置(CuKα線)を用いて測定された粉末X線回折で(003)面のピーク強度(Ps003)と、(104)面のピーク強度(Ps104)との比(Ps104/Ps003)が0.9以下であるリチウムイオン電池用正極活物質。」である点で一致し、以下の2点で相違する。

相違点1-1:「組成式:Li(Li_(x)Ni_(1-x-y)M_(y))O_(z)
(前記式において、Mは必須成分としてのCo、及び、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Al、Bi、Sn、Mg、Ca、B及びZrから選択される1種以上であり、0≦x≦0.1であり、0<y≦0.7である。)」の酸素量zについて、本件発明1は、2+α(0<α≦0.13)であるのに対して、甲1発明は、2である点。

相違点1-2:「(110)面の2θ」について、本件発明1は、64.6°以上であるのに対して、甲1発明は、65±1°である点。

イ 相違点についての判断
(ア) 相違点1-1について
(ア-1) まず、相違点1-1が、実質的な相違点であるか否かについて検討する。
(ア-1-1) 甲第1号証には、「LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)」(以下、「リチウム含有複合酸化物」ともいう。)の酸素量について、2であることは記載されているものの、2+α(0<α≦0.13)であることは記載も示唆もされていない。

(ア-1-2) 特許異議申立人は、特許異議申立書24頁下から12?4行において、甲第1号証においても、本件発明1の場合と同様に酸素雰囲気下で、同様の焼成条件により、前駆体を焼成することでリチウム含有複合酸化物を製造しており、本件特許明細書によれば、酸素雰囲気下で前駆体を焼成することで、得られる複合酸化物の酸素の過剰量が本件発明1で規定する範囲内となることから、甲1発明においても同様に酸素量が2よりも過剰となっており、その過剰量は、本件発明1の規定を充足するものである旨主張している。
確かに、甲第1号証の上記(1b)の実施例1における「1)LiNi_(0.82)Co_(0.15)Al_(0.03)O_(2)の合成」の記載、及び、上記(1c)の実施例3の「ニッケルコバルト共沈酸化物に水酸化アルミニウムに代えて、二酸化マンガンを添加した以外は実施例1と等しい工程により、LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)を得た。」との記載によれば、実施例3では、前駆体を大気圧(焼成時の圧力については記載がないので、大気圧であると認められる。)、酸素雰囲気下にて750℃で10時間焼成することによりリチウム含有複合酸化物を製造しているのに対して、本件特許明細書の【0030】及び【0036】の【表1】の記載によれば、実施例8?12では、いずれも、前駆体を大気圧、酸素雰囲気下、焼成温度(保持温度)750℃で10時間加熱保持することによりリチウム含有複合酸化物を製造していることから、甲第1号証の実施例3と本件特許明細書の実施例8?12とでは、同様の焼成条件(圧力、雰囲気、温度、焼成時間)で焼成することによりリチウム含有複合酸化物を製造しているといえる。
しかし、本件特許明細書における実施例8?12は、いずれも同様の焼成条件(大気圧、酸素雰囲気下、750℃、10時間)で焼成しているものの、得られたリチウム含有複合酸化物は、実施例8?12の順に、Li(Li_(0.02)Ni_(0.784)Co_(0.147)Ti_(0.0245)Mg_(0.0245)O_(2.06)(α=0.06)、Li(Li_(0.01)Ni_(0.792)Co_(0.1485)Cr_(0.0495)O_(2.05)(α=0.05)、Li(Li_(0.02)Ni_(0.784)Co_(0.147)Fe_(0.049)O_(2.05)(α=0.05)、Li(Li_(0.01)Ni_(0.792)Co_(0.1485)Al_(0.0495)O_(2.06)(α=0.06)、Li(Li_(0.02)Ni_(0.784)Co_(0.147)Cu_(0.049)O_(2.04)(α=0.04)であって、これらのリチウム含有複合酸化物中の金属の成分組成は、いずれも異なっており、また、各酸素量は、同じ値にはなっていないから、同様の焼成条件であっても、リチウム含有複合酸化物中の金属の成分組成が異なれば、当該リチウム含有複合酸化物中の酸素量は、必ずしも同じ値になるとはいえない。
そうすると、甲第1号証の実施例3で得られたリチウム含有複合酸化物はLiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)であって、この複合酸化物中の金属の成分組成は、本件特許明細書の実施例8?12で得られたリチウム含有複合酸化物中のいずれの金属の成分組成とも異なっているから、甲第1号証の実施例3で得られたリチウム含有複合酸化物中の酸素量は、本件特許明細書の実施例8?12で得られたリチウムニッケル含有複合酸化物中のいずれかの酸素量と、必ずしも同じ値になるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(ア-1-3) また、仮に、甲第1号証の実施例3で得られたリチウム含有複合酸化物中の酸素量が、2よりも大きくなっているとしても、その酸素量が、2+α(0<α≦0.13)の範囲内であると認めるに足りる証拠は提示されていない。

(ア-1-4) 以上から、甲1発明の「LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)」の酸素量は、2+α(0<α≦0.13)の範囲内であるとはいえない。
よって、相違点1-1は実質的な相違点である。

(ア-2) 次に、甲1発明において、相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることが、当業者にとって容易に想到し得るものであるか否か検討する。
(ア-2-1) 相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項について、本件特許明細書の【0020】には、「本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、酸素が組成式において上記のようにO_(2+α)(α>0)と示され、過剰に含まれており、リチウムイオン電池に用いた場合、容量、レート特性及び容量保持率等の電池特性が良好となる。」と記載されているところ、甲第1号証には、「LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)」の酸素量について、リチウムイオン電池に用いた場合に、容量、レート特性及び容量保持率等の電池特性が良好となるように2+α(α>0)とすることは、記載も示唆もされていない。
また、甲1発明において、「LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)」の酸素量を2+α(0<α≦0.13)とすることが、本件特許に係る出願の優先日前において周知技術であったともいえない。
したがって、甲1発明において、相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者にとって容易に想到し得るものであるとはいえない。

(ア-2-2) なお、仮に、甲1発明において、「LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)」の酸素量を2+α(0<α≦0.13)とすることが、本件特許に係る出願の優先日前において周知技術であったとして、以下検討する。
本件特許明細書の【0036】の【表1】及び【0037】の【表2】の記載によれば、実施例1、2、13では、リチウム含有複合酸化物のLi、Ni、Co、Mnの組成比は、いずれも同じ組成比であるところ、実施例1、2、13の順に、酸素量のαは、0.06、0.01、0.03と、いずれも異なっており、また、比(Ps104/Ps003)も、0.80、0.87、0.86と、いずれも異なっており、さらに、(110)面の2θも、65.11°、65.09°、65.01°と、いずれも異なっていることからすると、リチウム含有複合酸化物は、その酸素量を変えると、比(Ps104/Ps003)、及び、(110)面の2θの値も変わるものと認められる。
そうすると、甲1発明の「LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)」の酸素量を2から2+α(0<α≦0.13)に変えると、I(104)/I(003)、及び、(110)面の2θの値も変わるから、これらの値が、本件発明1に特定されている範囲内(比(Ps104/Ps003)が0.9以下で、且つ、(100)面の2θが64.6°以下)になるかどうかは不明である。
また、甲1発明の「LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)」の酸素量を2から2+α(0<α≦0.13)に変えた際に、I(104)/I(003)、及び、(110)面の2θの値が、本件発明1に特定されている範囲内になると認めるに足りる証拠は提示されていない。
したがって、甲1発明において、「LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)」の酸素量を2+α(0<α≦0.13)とすることが、本件特許に係る出願の優先日前において周知技術であったとしても、「LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)」のI(104)/I(003)、及び、(110)面の2θの値を、本件発明1に特定されている範囲内に維持しつつ、酸素量を2+α(0<α≦0.13)とすることは、当業者が容易になし得るものとはいえない。

(イ) 相違点1-2について
(イ-1) まず、相違点1-2が、実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲1発明において、「LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)」の「(110)面の2θ」は、「65±1°」であるから、64°?66°の範囲のうちのいずれかの値であるといえるものの、その値が64.6°以上であるとは、必ずしもいえない。
また、甲1発明において、「LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)」の「(110)面の2θ」が64.6°以上であると認めるに足りる証拠は提示されていない。
したがって、相違点1-2も実質的な相違点である。

(イ-2) 次に、甲1発明において、本件発明1の相違点1-2に係る発明特定事項とすることが、当業者にとって容易に想到し得るものであるか否か検討する。
本件発明1の相違点1-2に係る発明特定事項について、本件特許明細書の【0022】には、「本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、(110)面の2θが64.6°以上である。(110)面の2θが64.6°以上あると、粉体の電子伝導性が向上するため好ましい。」と記載されているところ、甲第1号証には、「LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)」の(110)面の2θについて、粉体の電子伝導度を向上させるために、64.6°以上とすることは、記載も示唆もされていない。
また、甲1発明において、「LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)」の(110)面の2θを64.6°以上にすることが、本件特許に係る出願の優先日前において周知技術であったともいえない。
したがって、甲1発明において、相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者にとって容易に想到し得るものであるとはいえない。

(ウ) そして、本件特許明細書【0020】及び【0022】の記載によれば、本件発明1は、相違点1-1及び1-2に係る本件発明1の発明特定事項により、「リチウムイオン電池に用いた場合、容量、レート特性及び容量保持率等の電池特性が良好となる」及び「粉体の電子伝導性が向上する」という顕著な効果を奏するものである。

(エ) 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明であるとはいえないし、また、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得るものともいえない。

(3) 本件発明2?9について
本件発明2?9は、本件発明1を更に限定したものであるから、上記(2)と同様の理由により、本件発明2?9は、甲1発明であるとはいえないし、また、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得るものとはいえない。

(4) まとめ
以上から、本件発明1?9は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、また、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

2 申立理由2について
(1) 甲第2号証に記載された事項
上記(2a)及び(2b)の記載によれば、Li_(a) Ni_(x) Mn_(y) Co_(z) O_(2+b )(x+y+z=1,1.00<a<1.3 ,0≦b<0.3 )なる化学組成を持つ層状構造のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質において、bの値が0より小さくなると層状構造に酸素欠陥が生成し、充・放電特性の劣化が著しくなるので好ましくなく、bの値が 0.3以上になると層状構造単相ではなく別の化合物の生成が起き、同様に充・放電特性が劣化することが記載されているから、リチウムイオン二次電池用正極活物質であるリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物の酸素量を2+b(0≦b<0.3 )とすると、リチウムイオン二次電池の充・放電特性の劣化を防止できることは、本件特許に係る出願の優先日前において公知の技術であったといえる。

(2) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、上記1(2)ア(ア-4)で認定したとおりである。

イ 相違点についての判断
(ア) 相違点1-1について
(ア-1) 上記1(2)イ(ア-2-2)で検討したとおり、甲1発明の「LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)」の酸素量を2から2+α(0<α≦0.13)に変えると、I(104)/I(003)、及び、(110)面の2θの値も変わるから、これらの値が、本件発明1に特定されている範囲内(比(Ps104/Ps003)が0.9以下で、且つ、(100)面の2θが64.6°以下)になるかどうかは不明であり、また、甲1発明の「LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)」の酸素量を2から2+α(0<α≦0.13)に変えた際に、I(104)/I(003)、及び、(110)面の2θの値が、本件発明1に特定されている範囲内になると認めるに足りる証拠は提示されていない。

(ア-2) したがって、上記(1)で検討したとおり、リチウムイオン二次電池用正極活物質であるリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物の酸素量を2+b(0≦b<0.3 )とすると、リチウムイオン二次電池の充・放電特性の劣化を防止できることが、本件特許に係る出願の優先日前において公知の技術であっても、甲1発明において、「LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)」のI(104)/I(003)、及び、(110)面の2θの値を、本件発明1に特定されている範囲内に維持しつつ、酸素量を2+α(0<α≦0.13)とすることは、当業者が容易になし得るものとはいえない。

(イ) 相違点1-2について
上記1(2)イ(イ-2)で検討したとおり、甲第1号証には、「LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)」の(110)面の2θについて、粉体の電子伝導度を向上させるために、64.6°以上とすることは、記載も示唆もされていないし、甲1発明において、「LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)」の「(110)面の2θ」を64.6°以上にすることが、本件特許に係る出願の優先日前において周知技術であったともいえない。
また、甲2号証には、「LiNi_(0.80)Co_(0.15)Mn_(0.05)O_(2)」の「(110)面の2θ」を64.6°以上にすることについて、記載も示唆もされていない。
したがって、相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項を導出することはできず、本件発明1は、甲1発明、甲2発明及び周知技術から、当業者が容易になし得るものとはいえない。

(ウ) そして、上記1(2)イ(ウ)で検討したとおり、本件発明1は、相違点1-1及び1-2に係る本件発明1の発明特定事項により、「リチウムイオン電池に用いた場合、容量、レート特性及び容量保持率等の電池特性が良好となる」及び「粉体の電子伝導性が向上する」という顕著な効果を奏するものである。

(エ) 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明、甲2発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得るものとはいえない。

(3) 本件発明2?9について
本件発明2?9は、本件発明1を更に限定したものであるから、上記(2)と同様の理由により、本件発明2?9は、甲1発明、甲2発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得るものとはいえない。

(4) まとめ
以上から、本件発明1?9は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 申立理由3について
(1) 甲第3号証に記載された発明
ア 上記(3b)の記載によれば、実施例4-1では、LiMn_(0.45)Ni_(0.45)Co_(0.1)O_(2)を正極活物質に用いてリチウム電池を作製しているから、このLiMn_(0.45)Ni_(0.45)Co_(0.1)O_(2)は、リチウム電池用正極活物質であるといえる。

イ 以上から、甲第3号証には、「LiMn_(0.45)Ni_(0.45)Co_(0.1)O_(2)からなるリチウム電池用正極活物質。」の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

(2) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲3発明との対比
(ア) 本件発明1と甲3発明とを対比する。
(ア-1) 本件発明1の「組成式:Li(Li_(x)Ni_(1-x-y)M_(y))O_(2+α)
(前記式において、Mは必須成分としてのCo、及び、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Al、Bi、Sn、Mg、Ca、B及びZrから選択される1種以上であり、0≦x≦0.1であり、0<y≦0.7であり、0<α≦0.13である。)」において、x=0、y=0.55、MがMnとCoであって、MnとCoとの組成比が0.45:0.1の場合、甲3発明の「LiMn_(0.45)Ni_(0.45)Co_(0.1)O_(2)」とは、酸素量を除いて、両者は共通している。
したがって、両者は、「組成式:Li(Li_(x)Ni_(1-x-y)M_(y))O_(z)
(前記式において、Mは必須成分としてのCo、及び、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Al、Bi、Sn、Mg、Ca、B及びZrから選択される1種以上であり、0≦x≦0.1であり、0<y≦0.7である。)」である点で共通するものの、酸素量zについて、本件発明1は、2+α(0<α≦0.13)であるのに対して、甲3発明は、2である点で相違している。

(ア-2) 甲第3号証の上記(3a)の実施例1-1の記載、及び、上記(3b)の【0210】の「該粉末Dを正極活物質として用いたこと以外は(実施例1-1)と同様にして・・・角形リチウム電池を作製した」との記載によれば、甲3発明の「リチウム電池」は、セパレータとしてポリエチレン製多孔質膜の袋に、組成がLiMn_(0.45)Ni_(0.45)Co_(0.1)O_(2)の粉末を正極活物質に用いた正極板を挿入し、セパレータ付き正極板、人造黒鉛を負極材料として用いた負極板の順でこれらを交互に積層した極群を、アルミニウム製の角形電槽に収納し、溶剤にLiPF_(6)を溶解した電解液を注入し、封口することによって得られるものであるから、当該「リチウム電池」は、リチウムイオン電池であるといえる。
したがって、甲3発明の「リチウム電池用正極活物質」は、本件発明1の「リチウムイオン電池用正極活物質」に相当する。

(ア-3) 以上から、本件発明1と甲3発明とは、「組成式:Li(Li_(x)Ni_(1-x-y)M_(y))O_(z)
(前記式において、Mは必須成分としてのCo、及び、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Al、Bi、Sn、Mg、Ca、B及びZrから選択される1種以上であり、0≦x≦0.1であり、0<y≦0.7である。)
で表されるリチウムイオン電池用正極活物質。」である点で一致し、以下の2点で相違する。

相違点2-1:「組成式:Li(Li_(x)Ni_(1-x-y)M_(y))O_(z)
(前記式において、Mは必須成分としてのCo、及び、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Al、Bi、Sn、Mg、Ca、B及びZrから選択される1種以上であり、0≦x≦0.1であり、0<y≦0.7である。)」の酸素量zについて、本件発明1は、2+α(0<α≦0.13)であるのに対して、甲3発明は、2である点。

相違点2-2:「粉末X線回折装置(CuKα線)を用いて測定された粉末X線回折で(003)面のピーク強度(Ps003)と、(104)面のピーク強度(Ps104)との比(Ps104/Ps003)」について、本件発明1は、0.9以下であるのに対し、甲3発明は、不明である点。

相違点2-3:「(110)面の2θ」について、本件発明1は、64.6°以上であるのに対し、甲3発明は、不明である点。

イ 相違点についての判断
(ア) 相違点2-1について
(ア-1) まず、相違点2-1が、実質的な相違点であるか否かについて検討する。
(ア-1-1) 甲第3号証には、「LiMn_(0.45)Ni_(0.45)Co_(0.1)O_(2)」(以下、「リチウム含有複合酸化物」ともいう。)の酸素量について、2であることは記載されているものの、2+α(0<α≦0.13)であることは記載も示唆もされていない。

(ア-1-2) 特許異議申立人は、特許異議申立書35頁下から10行?5行において、甲第3号証においても、本件発明1の場合と同様に酸素雰囲気下で、同様の焼成条件により、前駆体を焼成することで金属成分の比が、本件発明1の規定を充足する複合酸化物を製造しているため、甲3発明においても、得られる複合酸化物は、酸素量が2よりも過剰になっており、その過剰量は、本件発明1の規定を充足するものである旨主張している。
しかし、リチウム含有複合酸化物の焼成条件について、甲第3号証の上記(3b)の【0208】の記載によれば、酸素雰囲気下、1000℃、12時間であるのに対し、本件特許明細書の【0030】及び【0036】の【表1】の記載によれば、実施例1?14では、酸素雰囲気下、750?1000℃、10時間であるから、甲第3号証と本件特許明細書とでは、同様の焼成条件ではない(なお、甲第3号証のいずれの実施例も、本件特許明細書の実施例と同様の焼成条件ではない。)。
そうすると、甲第3号証と本件特許明細書とでは、同様の焼成条件でリチウム含有複合酸化物を製造しているとはいえない。
したがって、異議申立人の上記主張は、前提において誤っている。
なお、仮に、甲第3号証と本件特許明細書とで、同様の焼成条件でリチウム含有複合酸化物を製造しているとしても、上記1(2)イ(ア-1-2)で検討したとおり、同様の焼成条件であっても、リチウム含有複合酸化物中の金属の成分組成が異なれば、当該リチウム含有複合酸化物中の酸素量は、必ずしも同じ値になるとはいえないところ、甲第3号証の実施例4-1で得られたリチウム含有複合酸化物は、LiMn_(0.45)Ni_(0.45)Co_(0.1)O_(2)であって、この複合酸化物中の金属の成分組成は、本件特許明細書の実施例1?14で得られたいずれのリチウム含有複合酸化物中の金属組成とも異なっているから、甲第3号証の実施例4-1で得られたリチウム含有複合酸化物中の酸素量は、本件特許明細書の実施例1?14によって得られたリチウム含有複合酸化物中のいずれかの酸素量と、必ずしも同じ値になるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(ア-1-3) また、仮に、甲第3号証の実施例4-1で得られたLiMn_(0.45)Ni_(0.45)Co_(0.1)O_(2)の酸素量が、2よりも大きくなっているとしても、その酸素量が、2+α(0<α≦0.13)の範囲内であると認めるに足りる証拠は提示されていない。

(ア-1-4) したがって、甲3発明の「LiMn_(0.45)Ni_(0.45)Co_(0.1)O_(2)」の酸素量は、本件発明1の酸素量である2+α(0<α≦0.13)の範囲内であるとはいえない。
よって、相違点2-1は実質的な相違点である。

(ア-2) 次に、甲3発明において、本件発明1の相違点2-1に係る発明特定事項とすることが、当業者にとって容易に想到し得るものであるか否か検討する。
(ア-2-1) 本件発明1の相違点2-1に係る発明特定事項について、本件特許明細書の【0020】には、「本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、酸素が組成式において上記のようにO_(2+α)(α>0)と示され、過剰に含まれており、リチウムイオン電池に用いた場合、容量、レート特性及び容量保持率等の電池特性が良好となる。」と記載されているところ、甲第3号証には、「LiMn_(0.45)Ni_(0.45)Co_(0.1)O_(2)」の酸素量について、リチウムイオン電池に用いた場合、容量、レート特性及び容量保持率等の電池特性が良好となるように2+α(α>0)とすることは、記載も示唆もされていない。
また、甲3発明において、「LiMn_(0.45)Ni_(0.45)Co_(0.1)O_(2)」の酸素量を2+α(0<α≦0.13)とすることが、本件特許に係る出願の優先日前において周知技術であったともいえない。
したがって、甲3発明において、相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者にとって容易に想到し得るものであるとはいえない。

(ア-2-2) なお、仮に、甲3発明において、「LiMn_(0.45)Ni_(0.45)Co_(0.1)O_(2)」の酸素量を2+α(0<α≦0.13)とすることが、本件特許に係る出願の優先日前において周知技術であったとして、以下検討する。
上記1(2)イ(ア)(ア-2)(ア-2-2)で検討したとおり、リチウム含有複合酸化物は、その酸素量を変えると、比(Ps104/Ps003)、及び、(110)面の2θの値も変わるものと認められる。
そうすると、甲3発明の「LiMn_(0.45)Ni_(0.45)Co_(0.1)O_(2)」の酸素量を2から2+α(0<α≦0.13)に変えると、I(104)/I(003)、及び、(110)面の2θの値も変わるから、これらの値が、本件発明1に特定されている範囲内(比(Ps104/Ps003)が0.9以下で、且つ、(100)面の2θが64.6°以下)になるかどうかは不明である。
また、甲3発明の「LiMn_(0.45)Ni_(0.45)Co_(0.1)O_(2)」の酸素量を2から2+α(0<α≦0.13)に変えた際に、I(104)/I(003)、及び、(110)面の2θの値が、本件発明1に特定されている範囲内になると認めるに足りる証拠は提示されていない。
したがって、甲3発明において、「LiMn_(0.45)Ni_(0.45)Co_(0.1)O_(2)」の酸素量を2+α(0<α≦0.13)とすることが、本件特許に係る出願の優先日前において周知技術であったとしても、「LiMn_(0.45)Ni_(0.45)Co_(0.1)O_(2)」のI(104)/I(003)、及び、(110)面の2θの値を、本件発明1に特定されている範囲内に維持しつつ、酸素量を2+α(0<α≦0.13)とすることは、当業者が容易になし得るものとはいえない。

(イ) そして、本件特許明細書【0020】の記載によれば、本件発明1は、相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項により、「リチウムイオン電池に用いた場合、容量、レート特性及び容量保持率等の電池特性が良好となる」という顕著な効果を奏するものである。

(ウ) 以上のとおりであるから、相違点2-2及び2-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明であるとはいえないし、また、甲3発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得るものともいえない。

(3) 本件発明2?9について
本件発明2?9は、本件発明1を更に限定したものであるから、上記(2)と同様の理由により、本件発明2?9は、甲3発明であるとはいえないし、また、甲3発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得るものとはいえない。

(4) まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1?9は、甲第3号証に記載された発明ではないし、また、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-08-03 
出願番号 特願2011-552836(P2011-552836)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小森 重樹  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 河本 充雄
富永 泰規
登録日 2015-10-09 
登録番号 特許第5819200号(P5819200)
権利者 JX金属株式会社
発明の名称 リチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用正極、及び、リチウムイオン電池  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

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