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審決分類 |
審判 判定 同一 属さない(申立て成立) E04G |
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管理番号 | 1318103 |
判定請求番号 | 判定2016-600008 |
総通号数 | 201 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2016-09-30 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2016-03-11 |
確定日 | 2016-08-15 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第5816208号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号説明書及びイ号図面に示す「仮設用朝顔装置」は、特許第5816208号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
第1 請求の趣旨 本件判定請求の趣旨は、判定請求書に添付したイ号説明書及びイ号図面に示す仮設用朝顔装置は、特許第5816208号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。 なお、判定請求書において、請求の趣旨には対象となる請求項が特定されていないものの、請求項1に係る発明を本件特許発明として、イ号との対比を行っていることから、判定を求める請求項は請求項1であることは明らかである。 第2 本件特許発明 本件特許発明は、本件特許明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、本件特許の請求項1に係る発明を「本件特許発明」という。)。 「【請求項1】 主材受け金物を介して仮設足場の建枠に着脱される一対のフレーム主材と、前記フレーム主材の先端部どうしつなぐ前つなぎ材と、前記フレーム主材の後端部どうしつなぐ後つなぎ材とで枠組みされるパネル支持フレームと、前記パネル支持フレームに取り付けられるパネル材と、方杖受け金物を介して仮設足場の建枠に着脱され、前記フレーム主材を水平面に対し所定の角度で支持する一対の方杖材とを備えた朝顔装置において、前記主材受け金物および方杖受け金物は、鉛直方向に保持される板状本体の一端に前記仮設足場の建枠に着脱するためのクランプ金具を備え、他端に板状本体の両側に直角方向に延び、前記フレーム主材または方杖材の後端部を回動自在に軸支する軸部材を備えており、前記軸部材の軸長の範囲において、異なる幅のパネル支持フレームを支持できるようにしたことを特徴とする仮設用朝顔装置。」 そして、本件特許発明を構成要件ごとに分説するとともに(「主材受け金物」と「方杖受け金物」を(D-1)、(D-2)に分説。)各部材に符号を付すと次のとおりである。 「(A)主材受け金物(21)を介して仮設足場の建枠に着脱されるー対のフレーム主材(3)と、前記フレーム主材(3)の先端部どうしつなぐ前つなぎ材(4)と、前記フレーム主材(3)の後端部どうしつなぐ後つなぎ材(5)とで枠組みされるパネル支持フレーム(2)と、 (B)前記パネル支持フレーム(2)に取り付けられるパネル材(9)と、 (C)方杖受け金物(23)を介して仮設足場の建枠に着脱され、前記フレーム主材(3)を水平面に対し所定の角度で支持する一対の方杖材(8)とを備えた朝顔装置において、 (D-1)前記主材受け金物(21)は、鉛直方向に保持される板状本体の一端に前記仮設足場の建枠に着脱するためのクランプ金具(21a)を備え、他端に板状本体の両側に直角方向に延び、前記フレーム主材(3)の後端部を回動自在に軸支する軸部材(21b)を備えるとともに、 (D-2)前記方杖受け金物(23)は、鉛直方向に保持される板状本体の一端に前記仮設足場の建枠に着脱するためのクランプ金具(23a)を備え、他端に板状本体の両側に直角方向に延び、前記方杖材(8)の後端部を回動自在に軸支する軸部材(23b)を備えており、 (E)前記軸部材(21b、23b)の軸長の範囲において、異なる幅のパネル支持フレーム(2)を支持できるようにしたことを特徴とする仮設用朝顔装置(1)。」 第3 イ号物件 判定請求書に添付したイ号説明書及びイ号図面に示す仮設用朝顔装置(以下「イ号物件」という。)の構成は、判定請求書、並びに判定請求書に添付されたイ号説明書及びイ号図面(別添参照)からみて、次のとおりのものと特定される。 「(a)支持フレーム102は、一対の竪枠103と、一対の竪枠103の上端面に取り付けられた上枠104と、一対の竪枠103の下端面に取り付けられた下枠105と、を備え、下枠105は、下枠受け金物107を介して仮設足場101の建枠108に着脱されるもので、 (b)支持フレーム102には、片面または両面に合成樹脂が塗布された織布からなる可撓性の本体シート106が取り付けられ、 (c)方杖受け金物109を介して仮設足場101の建枠108に着脱され、支持フレーム102を水平面に対し所定の角度で支持する一対の方杖材110を備え、 (d-1)下枠受け金物107は、仮設足場101の建枠108に着脱するためのクランプ金具111を備え、このクランプ金具111に広幅コ字形状本体112が取り付けられ、さらに広幅コ字形状本体112のコ字形内に狭幅コ字形状本体113が取り付けられ、広幅コ字形状本体112及び狭幅コ字形状本体113の各側板部112a、113aには貫通孔114が形成されており、支持フレーム102の下枠105を下枠受け金物107に取り付けた状態で、グラビティピン118 (軸部材)が幅コ字形状本体112及び狭幅コ字形状本体113の各側板部の貫通孔に差し込まれ、下枠105を回動自在に軸支しており、 (d-2)方杖受け金物109は、仮設足場101の建枠108に着脱するためのクランプ金具111’を備え、このクランプ金具111’にコ字形状本体115が取り付けられ、コ字形状本体115の両側板部には直角方向に延びる軸部材116が取り付けられており、 (e)広幅コ字形状本体112の側板部112aと、狭幅コ字形状本体113の側板部113aの間隙Lの範囲において、異なる幅の支持フレーム102を支持できるようにしたものであり、コ字形状本体115の軸部材116の軸長の範囲において、方杖材110を取り付けできるようにしたものである、仮設用朝顔装置。」 第4 当事者の主張 1 請求人の主張 請求人は、判定請求書において、概略次の理由によりイ号物件は、特許第5816208号の本件特許発明の技術的範囲に属しない旨主張している。 (1)構成要件(A)について 本件特許発明におけるパネル支持フレーム(2)を構成する一対のフレーム主材(3)、前つなぎ材(4)及び後つなぎ材(5)は、それぞれイ号物件における一対の竪枠103、上枠104及び下枠105が相当するから、イ号物件における支持フレーム102は、本件特許発明におけるパネル支持フレーム(2)と一致する。 しかし、本件特許発明には、「主材受け金物(21)を介して仮設足場の建枠に着脱される一対のフレーム主材(3)」と記載されているのに対して、イ号物件では、下枠受け金物107を介して仮設足場の建枠に着脱されるのは、下枠105(本件特許発明における「後つなぎ材(5)」に相当する。)であり、一対の竪枠103(同「一対のフレーム主材(3)」に相当する。)ではない。この点でイ号物件は本件特許発明と相違する。 (2)構成要件(B)について 本件特許発明においてパネル支持フレーム(2)に取り付けられるのはパネル材(9)であるのに対して、イ号物件では、片面または両面に合成樹脂が塗布された織布からなる可撓性の本体シート106である。 本件特許明細書には、パネル材(9)の構造や材質に関する記載はなされていないが、一般にパネル材にはアルミニウムやスチール材などの板材が使用されており、本件特許の図1?3からも板材であることが認められ、イ号物件のようなシート材ではない。この点においてもイ号物件は本件特許発明と相違する。 (3)構成要件(C)について イ号物件は、方杖受け金物109を介して仮設足場の建枠108に着脱され、支持フレーム102を水平面に対し所定の角度で支持する一対の方杖材110(本件特許発明における「方杖材」に相当する。)を備える点において、本件特許発明と一致する。 (4)構成要件(D-1)について 本件特許発明における主材受け金物(21)は、板状本体の一端にクランプ金具(21a)を備え、他端に軸部材(21b)を備える。 これに対して、イ号物件の下枠受け金物107は、イ号図面のP-3頁に示すように、クランプ金具111の先端に広幅コ字形状本体112及び狭幅コ字形状本体113をこの順で取り付けたものである。広幅コ字形状本体112及び狭幅コ字形状本体113が本件特許発明における板状本体に相当するとした場合、クランプ金具111は板状本体、すなわち広幅コ字形状本体112の中央部に取り付けられており、一端ではない。この点で、イ号物件は本件特許発明と相違する。 また、広幅コ字形状本体112及び狭幅コ字形状本体113には、本件特許発明におけるような軸部材(21b)は存在しない。 イ号物件において、下枠105を下枠受け金物107に取り付けた状態では、グラビティピン118(軸部材)が幅コ字形状本体112及び狭幅コ字形状本体113の各側板部の貫通孔に差し込まれ、下枠105を回動自在に軸支している(P-4頁を参照)。このグラビティピン118は、下枠受け金物107に設けられたものではなく、別部品である。 これに対して、本件特許発明では、図4に示されるように、軸部材(21b)は板状本体の両側に固定されている。また、本件特許明細書の段落【0038】(【発明の効果】の欄)には、「主材受け金物および方杖受け金物に設けた軸部材」と記載されており、さらに段落【0051】には「主材端部金物22の係止孔22cを、主材受け金物21の軸部材21bに通すことによって、」と記載されている。これらの記載は、すべて軸部材(21b)が板状本体に固定されていることを前提にしている。また、構成要件(E)において、「軸長の範囲において、異なる幅のパネル支持フレーム(2)を支持できるようにした」と記載されていることも軸部材(21b)が板状本体に固定されていると考えて、初めて成り立つことである。 一方、本件特許明細書には、軸部材が主材受け金物から独立した別部品であることを窺わせるような記載は一切なされていない。 従って、本件特許発明において、軸部材(21b)は主材受け金物(21)の有する板状本体の両側に固定され、請求項1に記載のように「板状本体の両側に直角方向に延び」ているのに対して、イ号物件は、グラビティピン118(軸部材)を別部品として用いている点で、本件特許発明と相違する。 また、イ号物件では、下枠105(本件特許発明の「後つなぎ材」に相当する。)を回動自在に軸支しているのに対して、本件特許発明では、フレーム主材(3)(イ号物品の竪枠)の後端部を回動自在に軸支している点でも両者は相違する。 なお、イ号物件では、グラビティピン118(軸部材)を紐119で下枠受け金物107に接続しているが(P-3、P-4頁を参照)、これはグラビティピン118が誤って落下するのを防止したり、紛失したりするのを防止するためであり、独立した別部品であることに間違いはない。 (5)構成要件(D-2)について 本件特許発明における方杖受け金物(23)は、板状本体の一端にクランプ金具(23a)を備え、他端に軸部材(23b)を備える。 これに対して、イ号物件における方杖受け金物109は、コ字形状本体115の中央部にクランプ金具111’が取り付けられ、コ字形状本体115の両側板部に直角方向に延びる軸部材116がそれぞれ取り付けられている(P-3頁を参照)。ここで、コ字形状本体115は1枚の板状本体で構成されているから、板状本体の中央部にクランプ金具111’を備え、両端に軸部材116、116を備えるというべきである。 従って、イ号物件は、方杖受け金物109の構成においても本件特許発明と相違している。 (6)構成要件(E)について 本件特許発明は、「前記軸部材(21b、23b)の軸長の範囲において、異なる幅のパネル支持フレーム(2)を支持できるようにした」と記載されている。 この点について、本件特許明細書の段落【0053】には、「例えば、主材受け金物の軸部材21bの軸長を主材端部金物22の係止部22bの幅+15mm以上とした場合、一つの建枠スパンに対して両端2箇所で30mmの幅をもたせることができ、1つの仮設用朝顔装置1でインチサイズの1829mmとメーターサイズの1800mmの2種類の建枠スパンに対応することが可能となる。」と記載されている。 これに対して、イ号物件は、広幅コ字形状本体112の側板部112aと、狭幅コ字形状本体113の側板部113bの間隙Lの範囲において、異なる幅の支持フレーム102を支持することができる。 すなわち、イ号物件においては、グラビティピン118(軸部材)の軸長の範囲ではなく、上記間隙Lの範囲において、異なる幅の支持フレーム102を支持しているのである。この点においても、イ号物件は本件特許発明と相違している。 2 被請求人の主張 被請求人は、判定請求答弁書において、概略次の理由によりイ号物件は、特許第5816208号の本件特許発明の技術的範囲に属する旨主張している。 (1)構成要件(A)について 仮設足場の建枠に着脱されるのが、(本件特許発明における一対のフレーム主材(3)に相当する)堅枠103ではなく下枠105である点は、実質的な差異ではない。 すなわち、請求人も認めるように、イ号物件における支持フレーム102と本件特許発明におけるパネル支持フレーム(2)とは一致するのであって、支持フレーム102のどの位置に金物を取り付けるかは問題ではなく、堅枠103に取り付けても下枠105に取り付けても作用・効果上違いはない。 (2)構成要件(B)について 支持フレームに取り付けられるものが、パネル材とシートとで相違するが、本件特許発明の本質的な部分ではない。パネル材をシートに置き換えても本件特許発明の目的を達成することができ、本件特許発明の構成として、本件特許発明の技術的範囲に属する。 なお、本件特許明細書の段落【0003】にも「また、仮囲いの布やパイプを利用して組み立てる簡易なものや鋼板を用いるもの等があり、」と記載している。すなわち、一般的にパネル材を用いる朝顔装置の中にあって、簡易なものとしてシートを用いるものがあるに過ぎない。 (3)構成要件(D-1)について 中央部にクランプ金具111を備える点は、一端に備えることの一態様であり、実質的な差異はない。すなわち、クランプ金具111は、広幅コ字形状本体112の一端面の中央部に設置されているのであるから、「クランプ金具111は広幅コ字形状本体112の一端に備え付けられている」ということができる。 また、請求人によれば、イ号物件はグラビティピンが独立した別製品であることから、本件特許発明とは異なるというもの、すなわち、予め直角方向に延びるように固定されている構成と、使用時に直角方向に延びるように設置される構成は同一視できないというという考えとのものである。 しかし、請求項1は「他端に板状本体の両側に直角方向に延び、前記フレーム主材・・・の後端部を回動自在に軸支する軸部材を備えており」とあるところ、文言上、板状本体と軸部材が一体として固定されることに限定しているものではない。 一方、イ号物件は、グラビティピンをコ字型金具の貫通孔に挿通した上で抜け止めにより固定されるものである。この点からしても、文言上、「回動自在に軸支する軸部材を備えており」の記載と異なるものではなく差異はない。 なお、当該グラビティピンの他端においては、紐(ワイヤー)119をもって容易には脱落しないように接続されている点からも一体と見ることができるといえる。 (4)構成要件(D-2)について 中央部にクランプ金具111’を備える点は、一端に備えることの一態様であり、実質的な差異はない。 (5)構成要件(E)について イ号物件における「間隙Lの範囲」とは、そこに存するグラビティピンの軸長の範囲に他ならず、差異はない。 (6)構成要件(D-1)における予備的主張(均等に係る主張) 構成要件(D-1)につき、予備的に均等であることを主張する。 ア 非本質的部分 本件特許発明は、軸部材の軸長の範囲において、異なる幅のパネル支持フレームを支持できるようにした」(すなわち、建枠の水平方向のスパンの違いに対応させることができるようにした)ことが、最大の特徴である。従って、当該軸部材(イ号物件における「グラビティピン」)が接合されていないことは、本質的部分ではない。 イ 同一目的・作用効果 コ字形状本体に差し込まれたグラビティピンと、板状本体に備えた軸部材の差違は、いずれも抜け止めを備えており、ただその位置が異なるだけであって、異なる幅のパネル支持フレームを支持できることは同じである。したがって、かかる形状の差違により、作用効果に格別の差違が生じるものではない。よって、イ号物件の目的・作用効果は、本件特許発明の目的・作用効果と同一である。 ウ 置換容易性 板状本体に備えた軸部材を、コ字形状本体に差し込まれたグラビティピンに置換することは容易である。 エ イ号物件の容易推考性 本件特許発明の審査経緯より明らかなとおり、本件特許発明の特徴は「軸部材の軸長によって、異なるサイズの建枠スパンに一つの朝顔装置で対応させることが可能になる」ことである。しかも、本件特許の出願前にはこのことを記載ないし示唆されている文献等は存在しない。したがって、イ号物件は、公知文献等より容易に推考し得たものではない。 オ 経緯の参酌 本件特許発明の審査経緯において、コ字形状本体に差し込まれたグラビティピンを除外する旨の記載はない。 (7)まとめ 以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明と同一か少なくとも均等であることから、本件特許発明の技術的範囲に属する。 第5 対比・判断 1 充足性について (1)構成要件(A)の充足性について ア 本件特許発明の構成要件(A)とイ号物件の構成(a)とを対比すると、イ号物件の「支持フレーム102」を構成する「一対の竪枠103」、「上枠104」及び「下枠105」は、本件特許発明における「パネル支持フレーム(2)」を構成する「一対のフレーム主材(3)」、「前つなぎ材(4)」及び「後つなぎ材(5)」にそれぞれ該当するから、イ号物件における「支持フレーム102」は、本件特許発明における「パネル支持フレーム(2)」に該当する。 イ しかしながら、本件特許発明において「主材受け金物(21)を介して仮設足場の建枠に着脱される一対のフレーム主材(3)」と特定されているのに対して、イ号物件では、(本件特許発明の「主材受け金物(21)」に相当する)「下枠受け金物107」を介して仮設足場の建枠に着脱されるのは、「下枠105」(「後つなぎ材(5)」)であって、一対の竪枠103(「一対のフレーム主材(3)」)ではない。 ウ 被請求人は、イ号物件における支持フレーム102と本件特許発明におけるパネル支持フレーム(2)とは一致するのであって、支持フレーム102のどの位置に金物を取り付けるかは問題ではなく、堅枠103に取り付けても下枠105に取り付けても作用・効果上違いはないから、仮設足場の建枠に着脱されるのが、堅枠103ではなく下枠105である点は、実質的な差異ではない旨主張するが、上記イで述べたように、本件特許発明において「主材受け金物(21)」を介して「仮設足場の建枠」に着脱されるのは「一対のフレーム主材(3)」であると明確に特定されているので、被請求人の主張は採用できない。 エ したがって、イ号物件の構成(a)は本件特許発明の構成要件(A)を充足しない。 (2)構成要件(B)の充足性について ア 本件特許発明の構成要件(B)とイ号物件の構成(b)とを対比すると、本件特許発明において「パネル支持フレーム(2)」に取り付けられるのは「パネル材(9)」であるのに対して、イ号物件では、「片面または両面に合成樹脂が塗布された織布からなる可撓性の本体シート106」であって「パネル材」ではない。そして、「パネル材」の「パネル」とは、「鏡板。羽目板。また、一定の寸法や仕様で作られた板。」(大辞泉)を意味し、「パネル材」は板材といえるから、イ号物件の「片面または両面に合成樹脂が塗布された織布からなる可撓性の本体シート106」は、「パネル材」には該当しない。 イ 被請求人は、パネル材は本件特許発明の本質的な部分ではなく、パネル材をシートに置き換えても本件特許発明の目的を達成することができるから、本件特許発明の技術的範囲に属する旨を主張するが、上記アのとおり、一般的にパネル材は板材からなるものであって、本件特許の図1ないし3からも板材であると解され、イ号物件のようなシート材ではないから、被請求人の主張は採用できない。 ウ したがって、イ号物件の構成(b)は本件特許発明の構成要件(B)を充足しない。 (3)構成要件(C)の充足性について ア 本件特許発明の構成要件(C)とイ号物件の構成(c)とを対比すると、本件特許発明は「方杖受け金物(23)を介して仮設足場の建枠に着脱され、前記フレーム主材(3)を水平面に対し所定の角度で支持する一対の方杖材(8)とを備えた」ものであるのに対して、イ号物件も「方杖受け金物109を介して仮設足場101の建枠108に着脱され、支持フレーム102を水平面に対し所定の角度で支持する一対の方杖材110を備え」ているから、イ号物件の構成(c)は本件特許発明の構成要件(C)に該当する。 イ したがって、イ号物件の構成(c)は本件特許発明の構成要件(C)を充足する。 (4)構成要件(D-1)の充足性について ア 本件特許発明の構成要件(D-1)とイ号物件の構成(d-1)とを対比すると、本件特許発明における「主材受け金物(21)」は、「板状本体」の一端に「クランプ金具(21a)」を備え、他端に「軸部材(21b)」を備えるのに対して、イ号物件の「下枠受け金物107」は、「クランプ金具111」に「広幅コ字形状本体112」及び「狭幅コ字形状本体113」をこの順で取り付けたものであって、「広幅コ字形状本体112」及び「狭幅コ字形状本体113」には、本件特許発明の「軸部材」に該当する部材は存在しない。 イ 「板状」とは平らな板のような形状を意味するから、イ号物件の「広幅コ字形状本体112」(及び「狭幅コ字形状本体113」)、すなわち「コ字形状」のものは、本件特許発明の「板状本体」に該当しない。 ウ イ号物件のグラビティピン118は、以下のとおり、本件特許発明の軸部材に該当しない。 (ア)本件特許発明では、「板状本体の両側に直角方向に延び、・・・軸部材を備えており」(請求項1)と特定され、図4には、軸部材(21b)が板状本体の両側に固定されていること(一体に備えること)が図示されており、また、本件特許明細書の段落【0038】には、「主材受け金物および方杖受け金物に設けた軸部材」と記載されており、さらに段落【0051】には「主材端部金物22の係止孔22cを、主材受け金物21の軸部材21bに通すことによって、」と記載されているから、本件特許発明は、軸部材(21b)が板状本体に固定されていること、すなわち、一体に備えることを前提にしていると解される。一方、本件特許明細書には、軸部材が主材受け金物に一体に備えるものでないこと(言い換えると、軸部材が主材受け金物と別体であること)は、何ら記載も示唆もない。 (イ)一方、イ号物件では、下枠105を下枠受け金物107に取り付けた状態では、グラビティピン118が広幅コ字形状本体112及び狭幅コ字形状本体113の各側板部の貫通孔に差し込まれ、下枠105を回動自在に軸支しているとしても、グラビティピン118は、下枠受け金物107に固定されておらず、一体に備えたものではないことは明らかであるから、イ号物件のグラビティピン118は、本件特許発明の軸部材に該当しない。 エ 被請求人は、クランプ金具111は、広幅コ字形状本体112の一端面の中央部に設置されているから、一端に備えることの一態様であって、実質的な差異はない旨を主張するが、本件特許発明の「主材受け金物(21)」と、イ号物件の「下枠受け金物107」とは、本体の端部にクランプ金具を備える点で共通するとしても、本件特許発明の「板状本体」とイ号物件の「広幅コ字形状本体112(及び狭幅コ字形状本体113)」とでは形状が異なり、金物全体の構成に差異があるので、被請求人の主張は採用できない。なお、本件特許明細書及び図面を参酌しても、本件特許発明の「板状本体」がコ字形のものを含むものと解することはできない。 オ また、被請求人は、請求項1は「他端に板状本体の両側に直角方向に延び、前記フレーム主材・・・の後端部を回動自在に軸支する軸部材を備えており」とあるところ、文言上、板状本体と軸部材が一体として固定されることに限定しているものではなく、また、イ号物件は、グラビティピンをコ字型金具の貫通孔に挿通した上で抜け止めにより固定されるものであるから、文言上、「回動自在に軸支する軸部材を備えており」の記載と異なるものではなく、さらには、グラビティピンの他端においては、紐(ワイヤー)119をもって容易には脱落しないように接続されている点からも一体と見ることができる旨主張するが、以下のとおり採用できない。 (ア)上記ウで述べたように、イ号物件のグラビティピン118は、本件特許発明の軸部材に該当しない。 (イ)また、本件特許発明は、「軸部材」に「フレーム主材(3)の後端部を回動自在に軸支する」のに対して、イ号物件は、「広幅コ字形状本体112および狭幅コ字形状本体113の各側板部112a、113aには貫通孔114が形成されており、支持フレーム102の下枠105を下枠受け金物107に取り付けた状態で、グラビティピン118が幅コ字形状本体112および狭幅コ字形状本体113の各側板部の貫通孔に差し込まれ、下枠105を回動自在に軸支」するものであるから、本件特許発明の「軸部材」とイ号物件の「グラビティピン118」とでは、軸支する部材、及び、取り付け方が異なる。 (ウ)なお、イ号物件では、グラビティピン118を紐119で下枠受け金物107に接続しているが、これはグラビティピン118が誤って落下するのを防止したり、紛失したりするのを防止するための構成であって、一体に備える構成とはいえない。 カ したがって、イ号物件の構成(d-1)は本件特許発明の構成要件(D-1)を充足しない。 (5)構成要件(D-2)の充足性について ア 本件特許発明の構成要件(D-2)とイ号物件の構成(d-2)とを対比すると、本件特許発明における「方杖受け金物(23)」は、「板状本体」の一端に「クランプ金具(23a)」を備え、他端に「軸部材(23b)」を備えるのに対して、イ号物件における「方杖受け金物109」は、「クランプ金具111’」に「コ字形状本体115」が取り付けられ、「コ字形状本体115」の両側板部に直角方向に延びる「軸部材116」が取り付けられている。 イ 「板状」とは平らな板のような形状を意味するから、イ号物件の「コ字形状本体115」、すなわち「コ字形状」のものは、本件特許発明の「板状本体」に該当しない。 ウ 被請求人は、中央部にクランプ金具111’を備える点は、一端に備えることの一態様であり、実質的な差異はない旨を主張するが、本件特許発明の「方杖受け金物(23)」と、イ号物件の「方杖受け金物109」とは、本体の端部にクランプ金具を備える点で共通するとしても、本件特許発明の「板状本体」とイ号物件の「コ字形板状本体115」とでは形状が異なり、金物全体の構成に差異があるので、被請求人の主張は採用できない。なお、本件特許明細書及び図面を参酌しても、本件特許発明の「板状本体」がコ字形のものを含むものと解することはできない。 エ したがって、イ号物件の構成(d-2)は本件特許発明の構成要件(D-2)を充足しない。 (6)構成要件(E)の充足性について ア 本件特許発明の構成要件(E)とイ号物件の構成(e)とを対比すると、本件特許発明は、「前記軸部材(21b、23b)の軸長の範囲において、異なる幅のパネル支持フレーム(2)を支持できるようにした」構成であるのに対して、イ号物件は、グラビティピン118の軸長の範囲ではなく、「広幅コ字形状本体112の側板部112aと、狭幅コ字形状本体113の側板部113bの間隙Lの範囲において、異なる幅の支持フレーム102を支持できるようにした」ものである。また、イ号説明書及びイ号図面からは、コ字形状本体115の軸部材116の軸長の範囲において、方杖材110を取り付けできるようにしたことは認定できるが、コ字形状本体115の軸部材116の軸長と支持フレーム102の幅(言い換えると、支持フレーム102の幅が異なること)との関連が明らかでなく、コ字形状本体115の軸部材116の軸長の範囲において、異なる幅の支持フレーム102を支持できるようにしたものとは必ずしも認められない。なお、イ号物件においては、方杖材110は支持フレーム102の仮設足場101への取り付け後に、支持フレーム102の竪枠103の金具125と仮設足場101の方杖受け金物109へ取り付けられるものであり、また、方杖材110と支持フレーム102の竪枠103の金具125との固定は、グラビティピン126を用いたものであるから、コ字形状本体115の軸部材116の軸長の範囲が支持フレーム102の異なる幅の範囲に設定されていなければ、異なる幅の支持フレーム102が仮設足場101へ取り付けできないようなものではないと解される。 イ 被請求人は、イ号物件における「間隙Lの範囲」とは、そこに存するグラビティピンの軸長の範囲に他ならず、差異はない旨を主張するが、グラビティピン118の軸長の範囲(長さ)と、広幅コ字形状本体112の側板部112aと狭幅コ字形状本体113の側板部113bの間隙Lの範囲(長さ)とは異なるから、被請求人の主張は採用できない。 ウ したがって、イ号物件の構成(e)は本件特許発明の構成要件(E)を充足しない。 (7)まとめ 以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件(A)(B)(D-1)(D-2)及び(E)を充足しないから、本件特許発明の技術的範囲に属しない。 2 均等について 被請求人は、上記第4の2(6)のとおり、本件特許発明は、軸部材の軸長の範囲において、異なる幅のパネル支持フレームを支持できるようにしたことが、最大の特徴であって、当該軸部材が接合されていないことは、本質的部分ではないこと(非本質的部分)、及び、板状本体に備えた軸部材を、コ字形状本体に差し込まれたグラビティピンに置換することは容易であること(置換容易性)を前提として、本件特許発明の構成要件(D-1)について、予備的に均等であることを主張する。 しかしながら、被請求人の主張は以下のとおり採用できない。 (1)非本質的部分について 本件特許発明は、「仮設足場を構成する建枠のスパンのサイズに一種類で容易に対応し、足場側から簡単に装着できる安全性の高い仮設用朝顔装置を提供することを目的とし」(【0020】)、「(D-1)前記主材受け金物(21)は、鉛直方向に保持される板状本体の一端に前記仮設足場の建枠に着脱するためのクランプ金具(21a)を備え、他端に板状本体の両側に直角方向に延び、前記フレーム主材(3)の後端部を回動自在に軸支する軸部材(21b)を備えるとともに、(D-2)前記方杖受け金物(23)は、鉛直方向に保持される板状本体の一端に前記仮設足場の建枠に着脱するためのクランプ金具(23a)を備え、他端に板状本体の両側に直角方向に延び、前記方杖材(8)の後端部を回動自在に軸支する軸部材(23b)を備えており、(E)前記軸部材(21b、23b)の軸長の範囲において、異なる幅のパネル支持フレーム(2)を支持できるようにした」(請求項1)構成とすることにより、「(1) 主材受け金物および方杖受け金物に設けた軸部材と抜け止め部をピン接合にしたことによって、主材受け金物および方杖受け金物にフレーム主材を容易に取り付けることができる。」(【0037】)、「(2) 主材受け金物および方杖受け金物に設けた軸部材の軸長の範囲において、建枠スパンの長さの差に容易に対応させることができる。建枠スパンのサイズ毎に朝顔装置を用意する手間や費用が省け、経済的である。」(【0038】)との効果を奏するものである。 そうすると、本件特許発明の「主材受け金物(21)は、鉛直方向に保持される板状本体の・・・他端に板状本体の両側に直角方向に延び、前記フレーム主材(3)の後端部を回動自在に軸支する軸部材(21b)を備える」との構成要件(D-1)は、本件特許発明の目的を達成し、本件特許発明の効果を奏するために必要な構成、すなわち、本件特許発明の本質的部分であるといえる。 (2)置換容易性について 板状本体に軸部材を備える構成と、コ字形状本体にグラビティピンを差し込む構成とは、構造及び取り付け方が異なるから、それらの構成が互いに置換可能であるとはいえず、板状本体に備えた軸部材を、コ字形状本体に差し込まれたグラビティピンに置換することが当業者にとって容易であるとはいえない。被請求人は、単に置換することが容易であると主張するのみで、その根拠を示していない。 よって、イ号物件の構成(d-1)と本件特許発明の構成要件(D-1)とは、均等であるとはいえないので、その他の構成の均等について検討するまでもなく、イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属しない。 第6 むすび 以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。 よって、結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2016-08-04 |
出願番号 | 特願2013-28908(P2013-28908) |
審決分類 |
P
1
2・
1-
ZA
(E04G)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 渋谷 知子 |
特許庁審判長 |
赤木 啓二 |
特許庁審判官 |
住田 秀弘 小野 忠悦 |
登録日 | 2015-10-02 |
登録番号 | 特許第5816208号(P5816208) |
発明の名称 | 仮設用朝顔装置 |
代理人 | 笹岡 優隆 |
代理人 | 山上 芳和 |
代理人 | 深井 敏和 |