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審決分類 |
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) A61K 審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 A61K 審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更 A61K 審判 全部無効 2項進歩性 A61K 審判 全部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 A61K 審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 A61K |
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管理番号 | 1318326 |
審判番号 | 無効2015-800186 |
総通号数 | 202 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-10-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2015-09-30 |
確定日 | 2016-06-22 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4614376号発明「歯科用根管充填用シーラー組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第4614376号の請求項1、2、5ないし7に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 特許第4614376号の請求項3及び4に係る発明についての審判請求を却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 事件の経緯 本件特許無効審判事件に係る特許第4614376号の経緯は次のとおりである。 平成22年7月26日 :出願(特願2010-167267号) 平成22年9月29日 :特許査定(10月13日発送) 平成22年10月29日:特許権の設定登録(請求項の数7) 平成23年1月19日 :特許掲載公報発行 平成24年2月9日 :出願公開(特開2012-25707号) 平成27年9月30日 :請求人が本件特許無効審判を請求 平成27年12月21日:被請求人が答弁書及び訂正請求書を提出 平成28年2月3日 :当審による審理事項通知書 平成28年3月4日 :請求人が口頭審理陳述要領書を提出 平成28年3月4日 :被請求人が口頭審理陳述要領書を提出 平成28年3月18日 :被請求人が上申書を提出 平成28年3月18日 :第1回口頭審理を開催 第2 訂正請求について 被請求人による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)について検討する。 1.被請求人の請求の趣旨 本件訂正請求は、特許第4614376号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)、特許請求の範囲(以下、「本件訂正特許請求の範囲」という。)のとおり、訂正すること、すなわち下記訂正事項に係る訂正を求めるものである。 2.訂正事項 訂正事項は以下のとおりである。 (1)訂正事項1 本件特許の特許請求の範囲の請求項1に「高級脂肪酸及びロジンを含有するペーストA剤と、酸化マグネシウム及び植物油を含有するペーストB剤」とあるのを、「ペーストA剤100質量%中に、高級脂肪酸20?50質量%及びロジン40?80質量%を含有するペーストA剤と、ペーストB剤100質量%中に、酸化マグネシウム5?30質量%及び植物油10?40質量%を含有するペーストB剤」に訂正する。 (2)訂正事項2 本件特許の特許請求の範囲の請求項3及び請求項4を削除する。 (3)訂正事項3 本件特許の特許請求の範囲の請求項5に「ペーストA剤又はペーストB剤中に、X線造影剤又は不透過剤をさらに含有する、請求項1?4のいずれか1項に記載の根管充填用シーラー組成物」とあるのを、「ペーストA剤又はペーストB剤中に、X線造影剤又は不透過剤をさらに含有する、請求項1又は2に記載の根管充填用シーラー組成物」に訂正する。 (4)訂正事項4 本件特許明細書の段落【0015】に記載された、 「(1)高級脂肪酸及びロジンを含有するペーストA剤と、酸化マグネシウム、及び植物油を含有するペーストB剤とを混合、練和して得られる、ユージノールを含まない根管充填用シーラー組成物。 (2)ペーストB剤中に、酸化亜鉛をさらに含有する、(1)に記載の根管充填用シーラー組成物。 (3)ペーストA剤100質量%中に、高級脂肪酸20?50質量%及びロジン40?80質量%を含有する(1)又は(2)に記載の根管充填用シーラー組成物。 (4)ペーストB剤100質量%中に、酸化マグネシウム5?30質量%及び植物油10?40質量%含有する(1)?(3)のいずれか1項に記載の根管充填用シーラー組成物。 (5)ペーストA剤又はペーストB剤中に、X線造影剤又は不透過剤をさらに含有する、(1)?(4)に記載の根管充填用シーラー組成物。」を、 「(1)ペーストA剤100質量%中に、高級脂肪酸20?50質量%及びロジン40?80質量%を含有するペーストA剤と、ペーストB剤100質量%中に、酸化マグネシウム5?30質量%及び植物油10?40質量%を含有するペーストB剤とを混合、練和して得られる、ユージノールを含まない根管充填用シーラー組成物。 (2)ペーストB剤中に、酸化亜鉛をさらに含有する、(1)に記載の根管充填用シーラー組成物。 (3)ペーストA剤又はペーストB剤中に、X線造影剤又は不透過剤をさらに含有する、(1)又は(2)に記載の根管充填用シーラー組成物。」に訂正する。 (5)訂正事項5 本件特許の特許請求の範囲の請求項6に「高級脂肪酸及びロジンを含有するペーストA剤と、酸化マグネシウム及び植物油を含有するペーストB剤とを含む、ユージノールを含まない根管充填用シーラー組成物調整用のキット。」とあるのを、「ペーストA剤100質量%中に、高級脂肪酸20?50質量%及びロジン40?80質量%を含有するペーストA剤と、ペーストB剤100質量%中に、酸化マグネシウム5?30質量%及び植物油10?40質量%を含有するペーストB剤とを含む、ユージノールを含まない根管充填用シーラー組成物調整用のキット。」に訂正する。 (6)訂正事項6 本件特許明細書の段落【0015】に記載された、 「(6)高級脂肪酸及びロジンを含有するペーストA剤と、酸化マグネシウム及び植物油を含有するペーストB剤とを含む、ユージノールを含まない根管充填用シーラー組成物調整用のキット。 (7)ペーストB剤中に、酸化亜鉛をさらに含有する、(6)に記載の根管充填用シーラー組成物調整用のキット。」を、 「(4)ペーストA剤100質量%中に、高級脂肪酸20?50質量%及びロジン40?80質量%を含有するペーストA剤と、ペーストB剤100質量%中に、酸化マグネシウム5?30質量%及び植物油10?40質量%を含有するペーストB剤とを含む、ユージノールを含まない根管充填用シーラー組成物調整用のキット。 (5)ペーストB剤中に、酸化亜鉛をさらに含有する、(4)に記載の根管充填用シーラー組成物調整用のキット。」に訂正する。 3.訂正の目的について (1)訂正事項1について この訂正は、請求項1に係る発明を特定する事項である、ペーストA剤の高級脂肪酸、ロジンについて、訂正前には特定がなかったペーストA剤100質量%に対する配合割合を、各々「20?50質量%」「40?80質量%」に限定し、さらにペーストB剤の酸化マグネシウム、植物油について、訂正前には特定がなかったペーストB剤100質量%に対する配合割合を、各々「5?30質量%」、「10?40質量%」に限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 よって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。 (2)訂正事項2について この訂正は、請求項3及び請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 よって、訂正事項2は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。 (3)訂正事項3について この訂正は、訂正事項2の訂正により、請求項3及び請求項4を削除したことに伴い、請求項5が引用する請求項3及び4を削除して、その整合性を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 よって、訂正事項3は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものである。 (4)訂正事項4について この訂正は、特許請求の範囲に係る訂正事項1?3の訂正に伴い、特許請求の範囲と、発明の詳細な説明の記載との整合性を図るためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 よって、訂正事項4は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものである。 (5)訂正事項5について この訂正は、請求項6について、訂正事項1と同様の訂正をするものであるところ、上記3.(1)で検討したことと同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 よって、訂正事項5は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。 (6)訂正事項6について この訂正は、特許請求の範囲に係る訂正事項5の訂正に伴い、特許請求の範囲と、発明の詳細な説明の記載との整合性を図るためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 よって、訂正事項6は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものである。 4.新規事項の追加及び拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、例えば願書に添付した特許請求の範囲の請求項3及び請求項4、発明の詳細な発明の【0015】に記載がある。 さらに、この訂正は、発明特定事項を直列的に付加して減縮する(各成分の配合割合)ものであって、カテゴリー、対象及び目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないといえる。 そうすると、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (2)訂正事項2について この訂正は、請求項を削除するものであるから、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そうすると、訂正事項2は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (3)訂正事項3について この訂正は、引用する請求項を削除する訂正であるから、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そうすると、訂正事項3は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (4)訂正事項4について この訂正は、特許請求の範囲に係る訂正事項1?3の訂正に伴い、明細書の発明の詳細な説明の記載を対応させるものであるから、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そうすると、訂正事項4は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (5)訂正事項5について この訂正は、請求項6に係る発明である「根管充填用シーラー組成物調整用のキット」を構成するペーストA剤及びペーストB剤に関して、上記訂正事項1と同様に成分の配合割合を特定するものであり、ペーストA剤及びペーストB剤の成分の配合割合については、例えば願書に添付した特許請求の範囲の請求項3及び請求項4、発明の詳細な発明の【0015】に記載がある。 さらに、この訂正は、発明特定事項を直列的に付加して減縮する(各成分の配合割合)ものであって、カテゴリー、対象及び目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないといえる。 そうすると、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (6)訂正事項6について この訂正は、特許請求の範囲に係る訂正事項5の訂正に伴い、明細書の発明の詳細な説明の記載を対応させるものであるから、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そうすると、訂正事項6は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 5.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、かつ同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 なお、請求人は、被請求人による本件訂正の請求を何ら争わない旨述べている(口頭審理陳述要領書第2頁6.(1)及び第1回口頭審理調書の請求人の2項)。 第3 本件発明の要旨 上記第2のとおり本件訂正は認容されるから、審決が判断の対象とすべき特許に係る発明は本件訂正後のものである。そして、その要旨は、その本件訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項の番号に応じて各発明を「本件訂正発明1」などといい、これらを併せて「本件訂正発明」という場合がある。)。 「【請求項1】 ペーストA剤100質量%中に、高級脂肪酸20?50質量%及びロジン40?80質量%を含有するペーストA剤と、ペーストB剤100質量%中に、酸化マグネシウム5?30質量%及び植物油10?40質量%を含有するペーストB剤とを混合、練和して得られる、ユージノールを含まない根管充填用シーラー組成物。 【請求項2】 ペーストB剤中に、酸化亜鉛をさらに含有する、請求項1に記載の根管充填用シーラー組成物。 【請求項3】 削除 【請求項4】 削除 【請求項5】 ペーストA剤又はペーストB剤中に、X線造影剤又は不透過剤をさらに含有する、請求項1又は2に記載の根管充填用シーラー組成物。 【請求項6】 ペーストA剤100質量%中に、高級脂肪酸20?50質量%及びロジン40?80質量%を含有するペーストA剤と、ペーストB剤100質量%中に、酸化マグネシウム5?30質量%及び植物油10?40質量%を含有するペーストB剤とを含む、ユージノールを含まない根管充填用シーラー組成物調整用のキット。 【請求項7】 ペーストB剤中に、酸化亜鉛をさらに含有する、請求項6に記載の根管充填用シーラー組成物調整用のキット。」 第4 当事者の主張 1.請求人の主張 請求人は、「特許第4614376号の請求項1乃至7に係る発明についての特許を無効とする。審判請求費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めるところ、請求人の主張する本件訂正発明を無効とする理由は、審判請求書及び平成28年3月4日付け口頭審理陳述要領書並びに第1回口頭審理における陳述のとおり、次の点にある。 (1)無効理由(進歩性欠如について) 本件訂正発明1?7に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。 (2)証拠方法 [審判請求書に添付] ・甲第1号証 特開平2-101007号公報 ・甲第2号証 特開平5-85914号公報 ・甲第3号証 「世界大百科事典9」、改訂新版、平凡社、2007年9月1日、第306頁?第307頁「高級脂肪酸」の項 ・甲第4号証 特開2001-11996号公報 ・甲第5号証 特開2005-289830号公報 ・甲第6号証 特開2007-224168号公報 ・甲第7号証 「生化学辞典」、第1版第2刷、株式会社東京化学同人、1984年8月1日、第593頁「脂肪酸」の項 ・甲第8号証 特開平3-284605号公報 ・甲第9号証 特開昭62-255403号公報 ・甲第10号証 特表2002-517425号公報 [平成28年3月4日付け口頭審理陳述要領書に添付] ・甲第11号証 特開2004-331535号公報 ・甲第12号証 国際公開第2009/131250号 ・甲第13号証 特開2010-105953号公報 以下、上記各甲号証について、甲1、甲2などということがある。 被請求人は、第1回口頭審理において、甲1?13の成立を認めている。 2.被請求人の主張 被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、請求人が主張する無効理由に対し反論している。 証拠方法 [答弁書に添付] ・乙第1号証 「歯科医学大事典 第2巻」、第1版、医歯薬出版株式会社、1987年9月15日、第987?第988頁 ・乙第2号証 「歯科医学大事典 第1巻」、第1版、医歯薬出版株式会社、1987年7月15日、第438頁 ・乙第3号証 橋本弘一ほか編、「標準歯科理工学」、第1版、株式会社医学書院、1990年9月15日、第56頁 ・乙第4号証 特公平6-67814号公報 以下、上記各乙号証について、乙1、乙2などということがある。 請求人は、第1回口頭審理において、乙1?乙4の成立を認めている。 第5 合議体の判断 当合議体は、本件特許の請求項1、2、5?7についての請求人の主張する無効理由はその理由がなく、また、同請求項3及び4についての請求は却下すべきものであるから、本件特許を無効とすることはできないものと判断する。その理由は以下のとおりである。 1.本件訂正発明について 本件訂正発明の要旨は、上記第3で認定のとおりである。 2.甲1、2、8、11?13の記載事項 無効理由は、甲1、甲2に記載された技術的事項、または甲8に示されているとする周知事項、あるいは甲11?13に示されているとする周知事項に基づく無効理由であることに鑑み、まず、甲1、2、8、11?13の記載事項を摘示する。 (1)甲1 本件特許に係る特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲1には、次の記載がある。 1ア「2.特許請求の範囲 1 歯科仮封用充填組成物に於いて 成分A 水に不溶性の液状酸性リン酸エステル及び/または水に不溶性の室温で液体の有機カルボン酸の混合物を含むベース剤組成物に微粒子シリカを5.0?50.0重量%含有するパテ状ベース剤組成物。 成分B 反応性多価金属塩を含む硬化剤組成物に20℃に於ける溶解度が0.2以下の微粒子無機質充填材を1.0?20.0重量%含有するパテ状硬化剤組成物。 上記成分A,B両剤組成物から成ることを特徴とする歯科仮封用充填組成物。 ・・・ 4 20℃に於ける溶解度が0.2以下の微粒子無機質充填材がシリカ,酸化アルミニウム,酸化チタン,酸化カルシウム,酸化ジルコニウム,酸化マグネシウム,水酸化アルミニウム,水酸化カルシウム,水酸化マグネシウム,硅酸アルミニウム,硅酸カルシウム,硅酸ジルコニウム,硅酸マグネシウム,硫酸バリウムの群から選ばれた1種または2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の歯科仮封用充填組成物。」 1イ「仮封材は日常の歯科臨床に欠くことの出来ないもので、ウ蝕歯牙除去後の窩洞の鎮静のための仮封,歯内療法時の貼薬剤の仮封などに用いられている。 従来、仮封剤は大別して次の3種類に分けられている。 (1)ガツターパーチヤを主成分とするテンポラリーストツピング, (2)水硬性仮封材, (3)酸化亜鉛ユージノールセメント, テンポラリーストツピングは熱可塑性を有し、棒状或いはペレツト状に成形されて供給されている。 使用時には之を加熱軟化させ歯牙窩洞に圧接して仮封するものであり、非常に簡便な方法として長年に亘つて用いられているものであるが、冷却硬化時の収縮が大きく、歯牙との接着が充分ではないなどのため窩洞の辺縁封鎖に対する効果が多くを期待出来ない材料である。 水硬性仮封材も硬化時間が長く(数時間)、且つ歯牙との接着力が劣つているなどのため窩洞の辺縁封鎖効果に対しては多くを期待出来ない材料であり、また窩洞からの撤去が困難である。 仮封材としての必要な条件は 1 窩洞の辺縁封鎖性の良いこと、 2 撤去時に除去し易いこと、 3 硬化時間が短いこと、 などである。 酸化亜鉛ユージノールセメントは上記の条件にほぼ適合する特性を有し、且つ流動性に優れ、適度な強度と接着力とを有しているため仮着材としても多用されている材料である。 酸化亜鉛ユージノールセメントは、 1 酸化亜鉛を含む硬化剤が粉末であり、ユージノールを含むベース剤が液状である組合わせから成る形態で提供される状態、 2 酸化亜鉛を含む硬化剤とユージノールを含むベース剤とが流動性の大きなペースト状の組合わせでチユーブ詰めの形状で提供される状態、 である。 この材料の欠点はユージノール独特の臭いがある事と、ユージノール自体が粘膜組織に対して著しい刺激性を示し、特に口中に炎症や傷の有る場合には耐え難い苦痛を与える点にある。 之に対してノンユージノール系ペーストは刺激性が全く無く、特に歯髄組織に対する為害作用が無く、室温で短時間に強固に結合,硬化し得る成形可能な歯科用組成物であつて、主として暫間的な歯の欠損部分の充填用として用いられている。この様な特性を有するノンユージノールは仮封材として好適な歯科仮封用充填組成物を提供するものである。 ノンユージノール系材料は従来からペースト・ペーストの形で提供されており、特に根管充填用,仮着材,印象材として用いられ来ている。」(第2頁左上欄第17行?右下欄第12行)[審決注:甲1の本摘示箇所において、丸囲み数字が使用されているところ、これを算用数字で代替している。] 1ウ「〔発明が解決しようとする課題〕 ノンユージノールは仮封材としても用いられて来てはいるが、ペースト状のため硬化剤とベース剤との混合練和は術者の習練度によつて練り上げる時間が異なり、両成分の分散の状態が異なるため硬化物の性能に極めて大きく影響するものであつた。更にベース剤と酸化亜鉛を含む硬化剤とがペースト状の流動性の大きい場合にはチユーブから等長に練和紙に押し出して混合練和することは比較的容易であるが歯牙に仮封する場合、軟らかいため流れ出し築盛が難しく仮封形成が極めて困難であつた。この様にペーストの取り扱いが難しいのが常であつた。 また硬化物は比較的軟らかいため歯牙に仮封した場合に咬耗やブラシ摩耗が大きく、変形・脱落の原因となつていた。」(第2頁右下欄第13行?第3頁左上欄第8行) 1エ「更にパテ状にするためにベース剤に微粒子シリカを、硬化剤に20℃に於ける溶解度が0.2以下の無機質充填材を添加配合することにより、硬化物の耐摩耗性が向上することを見い出した。」(第3頁右上欄第15行?第18行) 1オ「また水に不溶性の室温で液体の有機カルボン酸は炭素数6以上の液体有機カルボン酸を用いることによつて硬化体の強度,強靱性の向上を図り、更に脂肪酸石ケンの耐水性を加味するものである。 更には硬化補助成分として炭素数5以下の1価及び2価以上の有機カルボン酸、及び粘性を付与し硬化反応を円滑にし補強材として作用するカルボキシル基を持つロジン,・・・が好適であるが、・・・熱可塑性樹脂も必要に応じて加えられる。」(第3頁右下欄第10行?第4頁左上欄第1行) 1カ「歯科仮封用充填組成物に於いて、ベース剤をパテ状にしてヘラによるベース剤の採取を容易ならしめるには微粒子シリカ量は最低5.0重量%必要であり、本来の物理的性質を損なうこと無く機能を維持するためには微粒子シリカの混合比率は最高50.0重量%が限界である。 また硬化剤をパテ状にし、粘性を上げてヘラによる硬化剤の採取を容易ならしめるためには、20℃に於ける溶解度が0.2以下の微粒子無機質充填材は最低1.0重量%必要であり、本来の物理的性質を損なうことなく機能を維持するためには、20℃に於ける溶解度が0.2以下の微粒子無機質充填材は最高20.0重量%が限界である。・・・」(第5頁右上欄第3行?第15行) 1キ「・・・公知のノンユージノール組成物の代表的な例を以下に示す。 ノンユージノール組成物 (ペースト・ペーストタイプ) (a)ベース剤(ペースト)成分 液状酸性リン酸エステル 液体有機カルボン酸 熱可塑性樹脂 (b)硬化剤(ペースト)成分 反応性多価金属塩 植物油 その他必要に応じて炭素数5以下の低分子有機カルボン酸,2価以上の固体有機カルボン酸などの反応促進剤,難溶性弗化物の反応促進助剤,着色材,香料などが用いられる。」(第5頁右下欄第8行?第6頁左上欄第3行) 1ク「本発明の目的はペースト・ペーストタイプのノンユージノール組成物を基にして、液状酸性リン酸エステル及び/または20℃に於ける溶解度が0.2以下の液体有機カルボン酸を含むベース剤組成物に、微粒子シリカを添加混合し、反応性多価金属塩を含む硬化剤組成物には20℃に於ける溶解度が0.2以下の微粒子無機質充填材を混合することによつて材料の採取を容易にし、ベース剤Aと硬化剤Bの手指による混合練り上げを容易に出来、練り上げ時間を短縮し、更に耐摩耗性の向上した耐久性の高いパテ状ノンユージノール組成物を提供することにある。・・・」(第6頁左上欄第4行?第15行) 1ケ「実施例5 成分A ダイマー酸 34重量% カプリル酸 10重量% ロジン 5重量% 微粒子シリカ(省略)48重量% 酢酸 3重量% ダイマー酸,カプリル酸及びロジンをニーダーに投入し、40分間105℃にて加熱溶解してよく攪拌を行ない、次に微粒子シリカ(・・・)及び酢酸を加えて20分間混練を行ない、缶に流し込み放冷してパテ状の成分Aとした。 ヘラによる成分Aの採取は極めて容易であつた。 成分B 酸化亜鉛 68重量% 酢酸亜鉛 5重量% 椿油 12重量% 硅酸アルミニウム(省略)15重量% 酸化亜鉛,酢酸亜鉛,椿油及び硅酸アルミニウムをニーダーに投入し、50分間混練を行ない、パテ状に練り上げて缶に詰め成分Bとした。 ヘラによる成分Bの採取は極めて容易であつた。 成分AとBを専用ヘラを用いて練和紙上に同量採り、混和時間20秒の短時間で混和することが出来た。硬化時間4分00秒、適度な操作性を持つた硬化をし、摩耗量(摩耗深さ)は75μ、比較例に比べ約40%減少し、耐久性の向上が認められた。」(第7頁左下欄第14行?右下欄最終行) 1コ「実施例6 成分A ペラルゴン酸 15重量% トリマー酸 30重量% グルタル酸 2重量% ロジン 25重量% レブリン酸 3重量% 微粒子シリカ(省略)25重量% ペラルゴン酸,トリマー酸,グルタル酸,ロジンをニーダ-に投入し、30分間100℃にて加熱溶解してよく攪拌を行ない、次にレブリン酸及び微粒子シリカ(ニプシルNS)加えて30分間混練を行ない、缶に流し込み、放冷してパテ状の成分Aとした。 ヘラによる成分Aの採取は極めて容易であつた。 成分B 酸化亜鉛 70重量% オリーブ油 12重量% 水酸化アルミニウム 10重量% 液状ポリイソプレン(平均分子量29000) 5重量% 液状ポリブタジエン(平均分子量4000) 3重量% 酸化亜鉛,オリーブ油,水酸化アルミニウム,液状ポリイソプレン及び液状ポリブタジエンをニーダーに投入し、50分間混練を行ない、パテ状に練り上げて缶に詰め成分Bとした。 ヘラによる成分Bの採取は極めて容易であつた。 成分AとBを専用ヘラを用いて練和紙上に同量採り、混和時間15秒の短時間で混和することが出来た。また手指でもヘラと同様に15秒間で混和することが出来た。 手指及び器具等にベタつかず適度な操作性を持つて3分で硬化をし摩耗量(摩耗深さ)は85μ、比較例に比べ約30%減少し、耐久性の向上が認められた。」(第8頁左上欄第1行?右上欄第13行) 1サ「比較例 成分A(ペースト) ダイマー酸 56重量% カプリル酸 10重量% ロジン 28重量% グルタル酸 2重量% 酢酸 4重量% ダイマー酸,カプリル酸,ロジン及びグルタル酸をニーダーに投入し、40分間110℃にて加熱溶解してよく攪拌を行ない、次に酢酸を加えて20分間混練を行ない、チユーブに詰め、放冷してペースト状の成分Aとした。 成分B(ペースト) 酸化亜鉛 88重量% オリーブ油 7重量% ヒマシ油 5重量% 酸化亜鉛,オリーブ油及びヒマシ油をニーダーに投入し、1時間混練を行ない、ペースト状に練り上げ、チユーブに詰め成分Bとした。 成分Aと成分Bを各々チユーブから押し出して練和紙上に同量採り、練和時間30秒で練り上げることが出来た。4分40秒で硬化した。摩耗量(摩耗深さ)は120μ、軟らかく摩耗が大きいことを示した。」(第8頁右上欄第14行?左下欄第17行) (2)甲2 本件特許に係る特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲2には、次の記載がある。 2ア「【特許請求の範囲】 【請求項1】リン酸カルシウム系粉末10?80%、酸化マグネシウム5?75%、X線造影材5?30%並びに高級脂肪酸及び/又は植物性樹脂10?80%の合計100%からなることを特徴とする硬化型糊材。」 2イ「【産業上の利用分野】本発明は、新規な1材型(ワンペーストタイプ)の硬化型糊材、より詳しくは歯科用修復材として生体親和性に優れた硬化型糊材に関する。」(【0001】) 2ウ「【問題点を解決するための手段】本発明は、練和時のセメントの操作性、硬化後のセメントの物性及び経済性等の諸性能がバランス良く整った新規な硬化型糊材を提供することを目的とする。本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、酸化マグネシウムと高級脂肪酸を含有する特定組成の材料が、水分の不存在下即ちペースト化して保存されている状態では硬化しないが、水の存在下では容易に硬化し、殊に生体内では歯髄から出てくる体内組織液等が反応開始剤となることによって治療後の硬化が生体外でのそれよりも極めて速くなるという特異な性質を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。」(【0006】) 2エ「本発明の酸化マグネシウムは下記に説明する高級脂肪酸及び植物性樹脂と反応して硬化する。この酸化マグネシウムの配合割合は5?75%とする。この割合が5%を下回る場合には硬化時間が長くなり過ぎたり、硬化し難くなる。一方、75%を上回る場合には硬化時間が極端に速くなり、治療作業が困難になる。」(【0009】) 2オ「本発明の硬化型糊材は、主として歯科治療における根管充填用材料に用いることができる。根管充填は、根管治療の最終処置として行なわれるものであり、抜髄後或いは感染根管の清掃・消毒後に根管を気密に閉塞することにより、根尖歯周組織への根管経由の機械的、細菌学的及び化学的刺激の波及防止、或いは根の歯周組織に無害な状態での長期間保存、根端組織の治療の促進等を目的として行なわれるものである。本発明硬化型糊材を使用する際には予めペースト状やパスタ状に調製された状態で用いるのが好ましく、この場合には容器から取り出してそのまま使用することができる。」(【0014】) (3)甲11 本件特許に係る特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲11には、次の記載がある。 3ア「歯科分野における組成物としては、用途別には裏装材,合着材,模型材,仮封材,根管充填材,印象材等があり、それぞれの歯科用組成物はその用途に応じて各種の原料から構成されている。」(【0002】) 3イ「<実施例1>根管充填材1 ・・・ <実施例2>根管充填材2 ・・・ <実施例3>ペーストタイプアルギン酸塩印象材 ・・・ <実施例4>粉タイプアルジネート印象材 ・・・ <実施例5>コンポジットレジン ・・・」(【0017】?【0021】) (4)甲12 本件特許に係る特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲12には、次の記載がある。 4ア「本発明は暫間的あるいは除去する可能性がある治療に使用できる硬化性組成物、及び歯牙の根管内に適用する根管充填材料に適した硬化性組成物に関する。さらに詳しくは、最終補綴物が製作されるまでの暫間期間に適用する仮封材や仮着材などの暫間充填補綴材料として、あるいは根管治療に使用する糊材やシーラー等の根管充填材料に関する。」(第1頁第6行?第10行) (5)甲13 本件特許に係る特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲13には、次の記載がある。 5ア「酸化亜鉛ユージノールセメントは、歯科用の例えば歯牙根管充填材、仮封材、歯髄鎮痛消炎剤、覆髄剤等として用いられている。例えば歯牙根管充填用の酸化亜鉛ユージノールセメントとしては、酸化亜鉛及びクロルヘキシジン塩を含有してなる第1剤と、ユージノールを主成分とする第2剤とからなり、充填時に両方を混練して用いる酸化亜鉛ユージノールセメントが公知である(特許文献1参照)。含有成分のユージノールにより殺菌、鎮痛作用等の薬理効果が得られる。」(【0002】) (6)甲8 本件特許に係る特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲8には、次の記載がある。 6ア「粉材(A)中の他の成分である酸化マグネシウムは、下記に説明する液材(B)中の高級脂肪酸と反応して、硬化する。粉材(A)中の酸化マグネシウムの割合は、65?5%とする。酸化マグネシウムの量が、5%未満の場合には、硬化時間が著しく長くなり、一方、65%を上回る場合には、硬化時間が逆に著しく短縮されて、治療作業が困難となる。」(第3頁右上欄第7行?第14行) 6イ「本発明においては、粉材(A)100部に対し、植物性樹脂(C)を0.1?50部の割合で使用する。植物性樹脂(C)は、粉体(A)および液材(B)のいずれか一方または双方に配合することができる。この様な植物性樹脂は、その優れた撥水性の故に、体内組織液による根端部への侵入とそれに伴う炎症を防止する機能を有するとともに、本発明糊材の硬化時間を短縮させる様に硬化速度を調整する働きがある。さらに、本発明糊材が硬化反応中に過剰に吸湿して膨張することをも防止する。この様な植物性樹脂としては、ロジンおよびグアヤック樹脂の少なくとも一種が特に好適である。」(第3頁左下欄第15行?右下欄第9行) 6ウ「(5)粉材(A)と液材(B)とからなる2材型の糊材であるので、従来から使用されている固体根管充填材料と併用する場合にも、優れた効果を発揮する。」(第4頁右上欄第10行?第13行) 4.無効理由について (1)本件訂正発明1について ア 甲1に記載された発明 上記摘示(1ア)(1コ)の記載からみて、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という)が記載されている。 「成分A ペラルゴン酸15重量%、トリマー酸30重量%、グルタル酸2重量%、ロジン25重量%、レブリン酸3重量%、微粒子シリカ25重量%を含むパテ状ベース剤組成物。 成分B 酸化亜鉛70重量%、オリーブ油12重量%、水酸化アルミニウム10重量%、液状ポリイソプレン(平均分子量29000)5重量%、液状ポリブタジエン(平均分子量4000)3重量%を含むパテ状硬化剤組成物。 上記成分A、B両剤組成物から成る歯科仮封用充填組成物。」 イ 本件訂正発明1と甲1発明の対比 (ア)甲1発明の歯科仮封用充填組成物は、上記摘示(1コ)によれば、成分AとBをヘラを用いて練和紙上に同量とり、混和するものであるから、本件訂正発明1の「A剤と、B剤とを混合、練和して得られる」ことに相当する。 (イ)本件訂正発明1のB剤に含まれる「植物油」は、本件訂正明細書の【0022】によれば、その具体的一例として「オリブ油」を含むものであり、一方の甲1発明のB成分に含まれるオリーブ油は、言うまでもなく「植物油」の一種であるため、本件訂正発明1と甲1発明とは、「植物油」を含有する点において共通し、さらに含有量についても、甲1発明は「12質量%(重量%)」であるところ、本件訂正発明1は「10?40質量%」であるため、一部重複する。 (ウ)本件訂正発明1は「根管充填用シーラー組成物」であるところ、根管充填とは本件訂正明細書の【0001】によれば、歯内療法の一つであるから、甲1発明と、本件訂正発明1とは「歯科用」である点で共通する。 (エ)甲1発明の歯科仮封用充填組成物は、全成分が規定されているところであるが、ユージノールは含まれていないことからみて、本件訂正発明1と甲1発明とは「ユージノールを含まない」点で共通している。 したがって、両者は、 「A剤中に、ロジンを含有するA剤と、B剤中に、植物油12質量%を含有するB剤とを混合、練和して得られる、ユージノールを含まない歯科用組成物。」 の点で一致し、次の点で相違している。 相違点1: 本件訂正発明1は、根管充填用シーラー組成物であるのに対し、甲1発明は、仮封用充填組成物である点。 相違点2: 本件訂正発明1は、A剤、B剤ともに、ペーストであるのに対し、甲1発明は、成分A(ベース剤組成物)、B剤(硬化剤組成物)ともに、パテ状である点。 相違点3: 本件訂正発明1は、A剤中に含まれる成分として、ロジンの他には、高級脂肪酸が特定され、それ以外の成分は特定されていないのに対し、甲1発明は、成分A(ベース剤組成物)に含まれる成分として、ロジンの他に、ペラルゴン酸15重量%、トリマー酸30重量%、グルタル酸2重量%、レブリン酸3重量%、微粒子シリカ25重量%含有されることが特定されている点。 相違点4: 本件訂正発明1は、B剤中に含まれる成分として、植物油の他に、酸化マグネシウムが特定され、それ以外の成分は特定されていないのに対し、甲1発明は、成分B(硬化剤組成物)に含まれる成分として、植物油の他に、酸化亜鉛70重量%、水酸化アルミニウム10重量%、液状ポリイソプレン5重量%、液状ポリブタジエン3重量%が特定されている点。 相違点5: 本件訂正発明1は、A剤100質量%中に、高級脂肪酸20?50質量%を含有するのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。 相違点6: 本件訂正発明1は、A剤100質量%中に、ロジン40?80質量%を含有するのに対し、甲1発明は、A剤100質量%中に、ロジン25質量%(重量%)含有する点。 相違点7: 本件訂正発明1は、B剤100質量%中に、酸化マグネシウム5?30質量%含有するのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。 ウ 相違点について (ア)相違点1について 根管充填用シーラー組成物は、被請求人が提出した乙1の「根管充填」[審決注:「填」の字は、本来「土」偏に「眞」であるが、「填」で代用する。以下同様。]、「根管充填材(剤)」及び「根管充填用シーラー」の項を参照すると、根管充填は抜髄あるいは感染根管処理の最終仕上げとして、根管空隙を根尖孔まで過不足なく充塞するための材料であるため、不変性、多孔質ではないこと、適合性、密着性、持続的制腐性、X線不透過傾向、組織親和性などの性能が求められるのに対し、仮封用充填組成物は、被請求人が提出した乙2の「仮封」「仮封材(剤)」「仮封セメント」の項を参照すると、一時的に窩洞を封鎖するための暫間的な材料であるため、良好な除去性、唾液に溶解しにくいなどの性能が求められるものである。 要すれば、根管充填用シーラー組成物と、仮封用充填組成物は、使用目的及び使用箇所が異なり、それに伴って要求される性能も異なり、ことに根管充填材に求められる密着性と、仮封材に求められる良好な除去性とは相反する性能であるといえることから、根管充填用シーラー組成物と、仮封用充填組成物とを、相互に転用することが可能であるとまでは言えない。 したがって、甲1発明の仮封用充填組成物を、根管充填用シーラー組成物に転用して用いることの動機付けはなく、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 なお、請求人が、「根管充填用シーラー組成物」と「仮封用充填組成物」とは、歯科領域において使用され、機能或いは組成において共通する点が多く、共通に用いることよく知られているとして、甲1、11?13を提出しているので、これらについて念のため検討しておく。 まず、甲11についてみると、上記摘示(3ア)に記載したとおり、歯科用組成物はその用途に応じて各種の原料から構成されるものであり、上記摘示(3イ)に記載したとおり、根管充填材と、印象材とは、異なる実施例としていることからみても、甲11は、同じ処方の組成物が全ての用途に同じように使えることを示したものではなく、したがって、甲11には、根管充填用シーラー組成物と、仮封用充填組成物とが、機能或いは組成において共通する点が多く、同一組成のものを両用途に共通に用いるものであることは記載されているとはいえない。 次に、甲12についてみると、上記摘示(4ア)に記載したとおり、甲12に記載された発明の組成物が、暫間的あるいは除去する可能性がある治療に使用できる硬化性組成物、及び歯牙の根管内に適用する根管充填材料に適した硬化性組成物に使用できることは記載されているものの、同じ処方の組成物が全ての用途に同じように使えることまでを示した記載ではなく、したがって、甲12には、根管充填用シーラー組成物と、仮封用充填組成物とが、機能或いは組成において共通する点が多く、同一組成のものを両用途に共通に用いるものであることは記載されているとはいえない。 次に、甲13についてみると、上記摘示(5ア)に記載したとおり、酸化亜鉛ユージノールセメントは、歯科用の例えば歯牙根管充填材、仮封材、歯髄鎮痛消炎剤、覆髄剤等として用いられていることは記載されているものの、同じ処方の組成物が全ての用途に同じように使えることまでを示した記載ではなく、したがって、甲13には、根管充填用シーラー組成物と、仮封用充填組成物とが、機能或いは組成において共通する点が多く、同一組成のものを両用途に共通に用いるものであることは記載されているとはいえない。 次に、甲1には、上記摘示(1イ)に、「ノンユージノール系材料は従来からペースト・ペーストの形で提供されており、特に根管充填用,仮着材,印象材として用いられ来ている。」と記載されているものの、同じ処方の組成物が全ての用途に同じように使えることまでを示した記載ではなく、したがって、甲1には、根管充填用シーラー組成物と、仮封用充填組成物とが、機能或いは組成において共通する点が多く、同一組成のものを両用途に共通に用いるものであることは記載されているとはいえない。 そうすると、甲11ないし甲13及び甲1からは、請求人が主張する周知事項を把握することはできない。 (イ)相違点2?6について 本願訂正発明1における、特許請求の範囲では特定されていない成分、即ち任意成分については、本件訂正明細書の【0026】の「また、ペーストA剤およびB剤の粘度を調整する目的で、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタンの超微粒子や、・・・を添加してもよい。・・・。」との記載によれば、本件訂正発明1において、ペーストA剤及びペーストB剤のいずれにも、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム、酸化チタンの超微粒子を含んでいてもよいものと解され、これらの添加の目的は、粘度調整である ところ、その「粘度」は、本願訂正発明1がペースト状である以上、「ペースト状となる粘度」である。 そこで、まず甲1発明のA成分(ベース組成物)に含有される微粒子シリカに関して検討するに、上記摘示(1エ)(1カ)の記載を参酌すると、A成分(ベース剤組成物)をパテ状にするために添加されたものであり、その配合割合の下限は、ベース剤をパテ状にしてヘラによるベース剤の採取を容易ならしめる程度で決定することから、甲1発明において、微粒子シリカの配合割合とパテ状であることとは、密接に関連している。 次に、甲1発明のB成分(硬化剤組成物)に含有される水酸化アルミニウムは、上記摘示(1ア)によれば、 「20℃に於ける溶解度が0.2以下の微粒子無機質充填材」にあたり、さらに上記摘示(1エ)(1カ)によれば、B成分(硬化剤組成物)をパテ状にするために添加されたものであり、その配合割合の下限は、硬化剤をパテ状にしてヘラによる硬化剤の採取を容易ならしめる程度で決定することから、甲1発明において、水酸化アルミニウムの配合割合とパテ状であることとは、密接に関連している。 そして、甲1発明は、上記摘示(1イ)(1ウ)に記載されているとおり、従来のペースト状における使用上の課題を解決するために、パテ状としたものであることに鑑みると、パテ状とした甲1発明を、従来のペースト状に戻すこと(相違点2)の動機付けはなく、その結果、性状がパテ状で変わるところがない以上、少なくともA成分(ベース組成物)のうち、性状に密接に関連する微粒子シリカ25重量%を、ペースト状となる程度の含有量に減少させる、即ち微粒子シリカを、本件訂正発明1でいうところの、特定されない任意成分とすること(相違点3)、及び少なくともB成分(硬化剤組成物)のうち、性状に密接に関連する水酸化アルミニウム10重量%を、ペースト状となる程度の含有量に減少させる、即ち水酸化アルミニウムを、本件訂正発明1でいうところの、特定されない任意成分とすること(相違点4)はできない。 さらに、甲2の上記摘示(2ア)(2オ)より、高級脂肪酸及び/またはロジン等の植物性樹脂10?80%を含有する歯科用硬化型組成物である根管充填材料は公知であるといえるが、甲2に開示された根管充填材料は、上記摘示(2イ)に記載されているとおり、1剤でペースト状であり、甲1発明の2剤でパテ状、かつ仮封用充填材料とは、使用目的(用途)、要求性能(材料の状態、用途に応じて要求される性能等)が異なり、したがって、組成が異なること、つまり組成物中の各成分の配合割合も異なることは当業者に自明であるから、2剤でパテ状、かつ歯科仮封用充填組成物の甲1発明に、1剤でペースト状、かつ根管充填用材料の甲2の記載事項を採用し、A剤100質量%中に、高級脂肪酸20?50質量%を含有させること(相違点5)、及びロジンを40?80重量%含有させること(相違点6)の動機付けもない。 加えて、甲1に、歯科仮封用充填組成物の配合割合に関して記載があるのは、上記摘示(1ケ)(1コ)における実施例での具体的配合例の他には、上記摘示(1カ)における微粒子シリカの量と、微粒子無機質充填材の量のみであり、その他の成分についての配合割合については特に示されていないから、たとえ配合割合を調整することが設計的事項であったとしても、少なくともロジンについては、上記摘示(1オ)にあるとおり、「粘性を付与し、硬化反応を円滑にし補強材として作用する」ものであり、上記摘示(1コ)の実施例での配合量25重量%、上記摘示(1ケ)の実施例での配合量5重量%の2つの配合割合の開示から、甲1発明におけるロジンの含有量を、硬化反応を促進するために、25重量%から大きく異なる40?80重量%に変更することの動機付けが存在しない。 (ウ)相違点7について 甲2には、上記摘示(2ア)(2オ)のとおり、歯科用に用いられる硬化型糊材、主として根管充填用材料の分野において、上記摘示(2エ)のとおり、酸化マグネシウムは、高級脂肪酸及び植物性樹脂と反応して硬化する旨記載されているが、甲1発明は歯科仮封用充填組成物であるのに対し、甲2は根管充填用材料であるから、その使用目的、要求性能が異なり、したがって組成も異なるのは当然であるから、甲1発明の「反応性多価金属塩」として、甲2に記載された「酸化マグネシウム」を用いることの動機付けがなく、当業者が容易に想到し得るものではない。 仮に、甲1発明の反応性多価金属塩として、酸化マグネシウムを用いることが容易に想到し得るものであったとしても、得られる組成物は甲1発明の「歯科仮封用充填材」であって、根管充填用シーラー組成物にはなりえない。 エ 小括 以上のとおりであって、本件訂正発明1は、甲1及び甲2に記載された発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)本件訂正発明2、5について 本件訂正特許請求の範囲の請求項2、5は、請求項1の記載を引用して記載したものであるから、本件訂正発明2、5は本件訂正発明1に係る発明特定事項を有するものといえる。 そうすると、本件訂正発明2、5と甲1発明とを対比すると、上記(1)において、本件補正発明1と甲1発明とを対比した場合と同様に相違点1?7が少なくとも存在するといえる。 そして、相違点1については、上記(1)ウ(ア)に、相違点2?6については、上記(1)ウ(イ)に、相違点7については、上記(1)ウ(ウ)に、それぞれ本件訂正発明について記載した理由と同様の理由により、甲1及び甲2に記載された発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件訂正発明6について 本件訂正特許請求の範囲の請求項6に係る発明は「根管充填用シーラー組成物調整用のキット」に関する発明であり、その発明特定事項は、請求項1に係る「根管充填用シーラー組成物」を引用して記載したものではないが、「ペーストA剤100質量%中に、高級脂肪酸20?50質量%及びロジン40?80質量%を含有するペーストA剤と、ペーストB剤100質量%中に、酸化マグネシウム5?30質量%及び植物油10?40質量%を含有するペーストB剤」なる発明特定事項を有する点で、請求項1と共通し、さらにペーストA剤とペーストB剤は別々に調製し、使用時に混合練和したものは「根管充填用シーラー組成物」である一方で、混合練和前のペーストA剤とペーストB剤の組み合わせは、「キット」といえるものである。そうすると、本件訂正発明6と甲1発明とを対比した場合に、本件補正発明1と甲1発明とを対比した場合と同様に相違点1?7が少なくとも存在するといえる。 そして、相違点1については、上記(1)ウ(ア)に、相違点2?6については、上記(1)ウ(イ)に、相違点7については、上記(1)ウ(ウ)に、それぞれ本件訂正発明について記載した理由と同様の理由により、甲1及び甲2に記載された発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)本件訂正発明7について 本件訂正特許請求の範囲の請求項7は、請求項6の記載を引用して記載したものであるから、本件訂正発明7は本件訂正発明6に係る発明特定事項を有するものといえる。 そうすると、本件訂正発明7と甲1発明とを対比すると、上記(3)において、本件訂正発明6と甲1発明とを対比した場合と同様の相違点、すなわち本件訂正発明1と甲1発明とを対比した場合の相違点1?7が少なくとも存在するといえる。 そして、相違点1については、上記(1)ウ(ア)に、相違点2?6については、上記(1)ウ(イ)に、相違点7については、上記(1)ウ(ウ)に、それぞれ本件訂正発明について記載した理由と同様の理由により、甲1及び甲2に記載された発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)請求人の主張について 請求人は、そもそも甲1発明を「有機カルボン酸及びロジンを含有するペースト状成分Aと、反応性多価金属塩及び植物油を含有するペースト状成分Bとを混合練和して得られる根管充填用ノンユージノール系材料。」と認定しており(審判請求書第16頁(2-1-3)甲第1号証に記載された発明)、特に「有機カルボン酸及びロジンを含有するペースト状成分Aと、」との認定の根拠の一部に、上記摘示(1オ)、上記摘示(1キ)、上記摘示(1ケ)、上記摘示(1コ)、上記摘示(1サ)を挙げている。 しかしながら、上記摘示(1オ)には、性状に関して「ペースト状」との記載はなく、上記摘示(1キ)は、公知のノンユージノール組成物の代表的な例(ペースト・ペーストタイプ)を示すものであるが、ベース成分に含有される成分として、ロジンは特定されておらず、また全ての成分の配合割合の特定がなく、上記摘示(1ケ)は、A成分、B成分ともにパテ状タイプの実施例で配合割合の特定があり、上記摘示(1コ)は、A成分、B成分ともにパテ状タイプの実施例で配合割合の特定があり、上記摘示(1サ)は、A成分、B成分ともにペースト状の比較例で配合割合の特定がある。そして、これらの摘示箇所のうち、実施例(上記摘示(1ケ)(1コ))と比較例(上記摘示(1サ))は、少なくともその技術思想は異なり、それに加えて性状について記載のない上記摘示(1オ)との関連も不明であるため、これら摘示箇所を列記するのみでは、直ちに「有機カルボン酸及びロジンを含有するペースト状成分Aと」との事項の認定はできない。 そして、請求人は発明の認定の根拠として、記載の列記の他に、「・・・甲第1号証には、ノンユージノール系の歯科仮封用充填組成物の形態として、ペースト・ペーストタイプと、パテ・パテタイプが記載されている。パテ・パテタイプは、ペースト・ペーストタイプの組成物を基にして、微粒子シリカおよび微粒子無機質充填材を含有させて、パテ・パテタイプとしたものである(上記摘示1ク)。 したがって、甲第1号証に記載されているパテ・パテタイプの実施例において、組成物から微粒子シリカを除くと、ペースト・ペーストタイプとなることは当業者にとって自明なことである。」(審判請求書第14頁下から第9行?第15頁第2行)と主張しているが、上記(1)ウ(イ)において、既に述べたとおり、パテ状を、あえてペースト状に戻すことの動機付けがない以上、上記摘示(1ク)に、微粒子シリカと微粒子無機質充填材の有無と、パテ状とペースト状の関係が記載されていたとしても、「パテ・パテタイプの実施例において、組成物から微粒子シリカを除く」ことを発想することの動機付けが欠けており、請求人の主張は採用できない。 「反応性多価金属塩及び植物油を含有するペースト状成分Bとを」との認定についても、同様である。 (6)無効理由のまとめ 以上のとおりであって、本件訂正発明1、2、5?7は、甲1及び甲2に記載された発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。 よって、請求人の主張する無効理由によって、本件訂正発明1、2、5?7に係る特許を無効とすることはできない。 5.請求項3及び4に係る発明についての審判請求について 請求項3及び4については、上記第2のとおり、本件訂正により削除された。 その結果、請求項3及び4に係る発明についての審判請求は、その対象を欠くことになったので、不適法な請求であり、その補正をすることができないものであるから、特許法第135条の規定により却下すべきものである。 第6 むすび 以上のとおりあることから、平成27年12月21日付け訂正請求書に係る訂正の請求は認めることとし、そして、本件特許の請求項1、2、5?7に係る発明についての特許は、請求人が主張する無効理由によっては無効とすることができない。 また、本件特許の請求項3及び4に係る発明についての請求は特許法第135条の規定により却下すべきものである。 さらに、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 歯科用根管充填用シーラー組成物 【技術分野】 【0001】 本発明は、歯科保存治療のうち、歯内療法において、根管充填を行う際に使用するガッタパーチャポイントと根管壁との隙間を封鎖するために使用する根管充填用シーラー組成物に関する。 【背景技術】 【0002】 グロスマン著「エンドドンティックス」によると、歯内療法には、a)覆髄、b)断髄、c)徐活断髄法、d)抜髄法、e)感染根管治療があり、このうち、根管充填材、根管充填用シーラーを用いて根管治療を行うのは、d)とe)である。抜髄とは、歯髄腔から、正常または病的な生活歯髄を全部除去する処置をいう。感染根管治療とは、無髄歯(失活歯とも言う、根尖など歯周組織に病巣を有する歯牙を含む)に対して行われる処置をいう。 抜髄は、歯髄炎、う蝕や外傷などによる露髄、便宜抜髄に適応される。感染根管治療の適応歯としては、多くはa)?d)の治療が既に為されていて、充填材等が充填されている場合であるが、根管内に失活歯髄が残存している症例をも含む。 抜髄、感染根管治療とも、術式に大差はなく、まず、歯髄腔の天蓋を除去し、髄腔の歯髄または充填物を切除または除去した後、根管内を探り、ファイルで根管歯髄組織または充填物を除去する。抜髄の場合は、根尖方向の歯髄は生活しているため、神経刺激性を有する薬剤の貼付、処置は避けるべきである。感染根管治療では、根尖狭窄部まで、根管形成するのが通例であり、根管内には生活歯髄が残存していることは殆どなく、根尖を封鎖、密閉性を高めることが重要になる。すなわち、根管内の成分が根尖に漏出しないようにすること、また、根尖周囲の組織液、浸出液などが根管内に侵入しないようにすることが必要となる。 根管拡大後、根管を十分に洗浄、乾燥し、即日充填するか、必要に応じ、貼薬、仮封し、数回にわたり症状改善を確認後に、根管充填を行う。 このような基礎的知見、共通認識を基に、d)、e)の治療の最終段階として、根管内の空隙を生体に安全な材料で封鎖し、高い密閉性を実現することで、根尖孔等、歯周組織からの細菌による二次感染を防止する目的で根管充填が広く行なわれている。そのため、生体為害性のない材料からなる根管充填材を使用し、根管治療時はできるだけ緊密に根管を充塞できることが重要となる。 【0003】 この根管充填には、これまで、例えば、歯内療法ハンドブック,p149?174,(医歯薬出版株式会社発行)、グロスマン著「エンドドンティックス 10th ed., p249?293,(医歯薬出版株式会社発行)に示されているように多種の材料、薬剤が用いられてきた。さまざまな臨床結果をもとにして、現在用いられているものを大別すると、固形のガッタパーチャポイントと、練和によりペースト状となる根管充填用シーラーに分けることができる。 【0004】 抜髄後の根管内にガッタパーチャと酸化亜鉛とを主成分とするガッタパーチャポイントと呼ばれる細い針状の根管充填材を充填し、練和によりペースト状となるシーラーを併用して封鎖する方法である。このガッタパーチャポイントを用いた根管の充填方法は、最終拡大号数と同号数のメインポイントを根管内に挿入し、スプレッダーで側方圧を加え、開いた隙間に複数本のアクセサリーポイントを挿入してスプレッダー操作を繰り返すことにより、ガッタパーチャポイントを順次根管内に充填する側方加圧充填法と呼ばれる方法が一般的に行われている。このとき、ガッタパーチャポイントを根管内に緻密に充填することが必要であるが、ガッタパーチャポイントは根管壁に対する密着性が不充分であるので、清掃及び消毒を完了した根管壁に、レンツロを用いて根管充填用シーラーを送り込んだ後に、ガッタパーチャポイントにも、根管充填用シーラーをつけてから根管内に充填して根管壁とガッタパーチャポイントとの隙間を埋めて封鎖性を高めることが行われている。 【0005】 この根管充填用シーラーとして現在広く使用されているものは、酸化亜鉛とユージノールとを主成分とした材料である。 しかし、酸化亜鉛・ユージノール系の根管充填用シーラー組成物は、永年の臨床実績があり、現在でも幅広く臨床使用されているが、ユージノールはinvitroの細胞毒性試験では陽性を示すことから、生体に対する為害作用が懸念されるという問題があった。感染根管治療の場合には、根管形成が根尖狭窄部まで行われることから、ユージノールが根尖孔に漏出する可能性があり、不都合な症状を生じるおそれがある。 【0006】 根管充填用シーラーとしては、他に酸化マグネシウムを用いたファイナペックAPC(商品名:京セラ(株))という粉剤と液剤からなる製品が知られている。これは液剤のグアヤコールとの酸塩基反応により硬化するものであるが、グアヤコールがユージノールと同じフェノール化合物であることから、ユージノール系根管充填用シーラーの1種として類別される。 【0007】 ユージノールを含まない特許文献1記載の根管充填シーラーが、粉剤と液剤からなる製品(商品名:キャナルスN、昭和薬品化工(株))として市販され、今日も汎用されている。しかし粉液タイプであるため、使用できるまでの準備が面倒であり、練和にも約1分間の時間を要していた。当該製品の添付文書には液1滴(0.03ml)に対し粉0.1gを採取して練和することが記載されている。しかし、計量天秤を用いない限り、診療室において厳密に計量を実践できるものではなく、結果として、練和物のペースト稠度(粘性)には再現性がなく、結果として練和ペーストがガッタパーチャポイントやレンツロ(充填器具)に均一に絡みつかず、流れ落ちたり、また逆にペーストが固すぎることもあり、操作性に問題をきたすことがあった。 【0008】 キャナルスNの添付文書によれば、その組成は散(粉)剤100g中、酸化亜鉛40g、ロジン30g、造影剤30gが含まれ、一方、液剤100ml中、脂肪酸50ml、プロピレングリコール50mlが含まれている。硬化反応の機序は酸化亜鉛と、ロジンおよび脂肪酸との酸塩基反応によるものである。プロピレングリコールを溶媒として用いることで、この硬化反応は特異的に活性化されるようである。実際、特許文献1には、プロピレングリコールのような多価アルコール又はポリアルキレングリコールの配合が不可欠である旨の記載がある。 【0009】 本発明者らは、この粉・液製剤の組成をペースト・ペースト製剤にすべく鋭意検討したが、ペースト剤中に配合されたプロピレングリコールは、プラスチックシリンジ容器から蒸発し、ペースト剤が乾燥し固化するという問題があった。一方、高沸点のポリエチレングリコール(PEG)やポリプロピレングリコール(PPG)を配合すると蒸発は回避できるが、硬化反応が進まず軟らかい硬化物しか得られなかったり、脂肪酸やロジンとの相溶性が悪くなり、硬化物表面にグリコール成分の液が分離して滲出するという問題があった。結局、特許文献1の組成技術をペースト・ペースト製剤の根管充填用シーラーにすることは不可能であった。 【0010】 特許文献2には、植物油と、カルシウムまたはマグネシウムの酸化物と、X線造影剤あるいは不透過剤を含有するワンペーストタイプの歯科用根管充填材組成物が開示されている。これは、根管内に充填後、暫くは(数日?数週間)硬化することがなく、乳歯の根管治療に適用できるワンペーストタイプの根管充填材である。 【0011】 特許文献3には、ポリ(カルボン酸)、脂肪族酸及び粘稠調整剤からなる第1ペーストと、酸化亜鉛、放射線不透過性材料及び粘稠調整剤からなる第2ペーストを混合して調整された、2ペーストタイプの歯内療法用シーラーペーストにおいて、酸化亜鉛がポリカルボン酸および脂肪族酸と反応することが記載されている。 非特許文献1は、ユージノール系の2ペーストタイプの根管充填用シーラー(商品名:ニシカキャナルシーラー、日本歯科薬品(株))の有用性について記載されている。根管充填シーラーを臨床で使用する上で重要なペースト稠度と根管壁へのぬれ性、さらに使用感との関連性について詳述している。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0012】 【特許文献1】特開昭60-181004号公報 【特許文献2】特開2002-173409号公報 【特許文献3】特表2002-517425号公報 【非特許文献】 【0013】 【非特許文献1】歯界展望、第114巻、第2号、349-353頁、2009年 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0014】 本発明が解決しようとする課題は、取り扱い性、生体親和性、ペースト稠度の再現性、硬化時間、根尖部封鎖性、及び保存安定性に優れた、根管充填用シーラー組成物を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0015】 本発明者らは、上記課題解決につき鋭意研究の結果、高級脂肪酸及びロジンを配合したペーストA剤と、酸化マグネシウム、植物油を配合したペーストB剤とを練和して得られる、ユージノールを含まない、2ペーストタイプの根管充填用シーラー組成物が、これらの課題解決に優れた結果を与えることを見出して、本発明を完成した。 すなわち、本発明は以下のとおりである。 (1)ペーストA剤100質量%中に、高級脂肪酸20?50質量%及びロジン40?80質量%を含有するペーストA剤と、ペーストB剤100質量%中に、酸化マグネシウム5?30質量%及び植物油10?40質量%を含有するペーストB剤とを混合、練和して得られる、ユージノールを含まない根管充填用シーラー組成物。 (2)ペーストB剤中に、酸化亜鉛をさらに含有する、(1)に記載の根管充填用シーラー組成物。 (3)ペーストA剤又はペーストB剤中に、X線造影剤又は不透過剤をさらに含有する、(1)又は(2)に記載の根管充填用シーラー組成物。 (4)ペーストA剤100質量%中に、高級脂肪酸20?50質量%及びロジン40?80質量%を含有するペーストA剤と、ペーストB剤100質量%中に、酸化マグネシウム5?30質量%及び植物油10?40質量%を含有するペーストB剤とを含む、ユージノールを含まない根管充填用シーラー組成物調整用のキット。 (5)ペーストB剤中に、酸化亜鉛をさらに含有する、(4)に記載の根管充填用シーラー組成物調整用のキット。 【発明の効果】 【0016】 本発明の根管充填用シーラー組成物において、ペーストA剤中の高級脂肪酸は、ペーストB剤中の酸化マグネシウムと接触することでケン化反応が進行し、その結果、練和ペーストのシーラーが硬化する。同じくペーストA剤中のロジンも酸化マグネシウムと接触するとケン化反応が進行するため、硬化反応を確実に生じ、適切な硬化が実現する。酸化マグネシウムは、脂肪酸やロジンとのケン化(硬化)反応が緩徐であるため、練和操作や根管充填操作に際し、時間的余裕があり、また、植物油と反応しないため、製品の保存安定性が確保される。 また、本願発明においては、ユージノールなどフェノール化合物の代替として高級脂肪酸及びロジンを用いることで、細胞毒性の少ない、即ち生体への為害作用の少ない非ユージノール系根管充填用シーラーを提供することができた。 【0017】 加えて、臨床面で重要である取り扱い性に関して、 1)準備が簡便で、練和時間も短縮することができた。すなわち、2種のペースト、ペーストA剤およびペーストB剤を市販のデュアル型シリンジ容器に充填することで、1回の押し出しで2ペーストの等量が練和紙に採取でき、練和のための準備が簡便となった。また、ペーストの練和時間は迅速で、わずか10秒程度しか必要とせず、「押し出して軽く練るだけ」という簡単操作の根管充填シーラーが完成した。 2)練和物は根管充填用シーラーに適した優れた特性を有し、誰でもが容易にその練和物を得ることができるようになった。すなわち、ペースト製剤とすることで、製品製造時に機械練和及び真空脱泡ができるため、滑らかな性状の練和物(ペースト)が容易に得られる。また練和物(ペースト)がガッタパーチャポイントやレンツロ(充填器具)に均一に絡みつくなど、充填操作に最適なペーストちょう度を設定することができる。ペースト製剤とすることで、練和物(ペースト)稠度の再現性にも優れるので、「誰が練っても、いつも同じペースト稠度で仕上がる」ため、経験の有無、長短にかかわらず、一定の性状の練和物を簡便に仕上げることができることから、根管充填用シーラーとして望まれる性状、及び効果が得られることで、安心して歯科治療を行うことが可能となった。 3)練和物(ペースト)は、直接根管内に注入できる稠度であり、シリンジ容器先端にミキシングチップを装着することで、根管内に直接充填することも可能となり、治療面でさらに使用が容易なものとなった。 【発明を実施するための形態】 【0018】 ペーストA剤中の高級脂肪酸は、ペーストB剤中の酸化マグネシウムと接触するとケン化反応が進行し、その結果、練和ペーストのシーラーが硬化する。高級脂肪酸としては、炭素数15以上であり、かつ室温付近にて液体であるものが好ましい。炭素数7?15などの低分子脂肪酸は、ペースト稠度や硬化特性などのシーラーの性能としては問題ないものの、脂肪酸自体の独特で嫌な鼻を突く刺激臭があるために好ましくない。炭素数15以上であり、かつ室温付近にて液体である高級脂肪酸が好ましく、そのうち飽和の脂肪酸であれば、炭素鎖が分岐しているようなイソステアリン酸が最も好ましく、不飽和の脂肪酸であれば、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、クルパノドン酸などが最も好ましく使用できる。ペーストA剤中の高級脂肪酸の配合量は、20?50質量%であり、好ましくは30?40質量%である。20質量%以下では硬化時間が遅れ、根尖孔外の浸出液や血液により根管内壁が汚染され、根尖部の封鎖性が低下する恐れがあり、さらには液成分が減少することでペーストA剤自体の粘稠性が高くなり、使用時のペーストちょう度が高くなりすぎて使用が困難になる。一方、50質量%以上では硬化時間が短すぎて、根管充填操作中にペーストが固くなり、根管内へのペーストの移送が困難になったり、操作余裕時間がなくなったり、さらには液成分の増加により使用時のペースト稠度が緩くなりすぎて根管内へのペーストの移送が困難になるという問題点が発生する。 【0019】 ペーストA剤中のロジンはマツ属諸種植物の分泌物から精油を除いて得た固形樹脂のことであり、特に限定されず、通常歯科用分野で使用されるものが使用できる。ロジン中の構成成分は90%の樹脂酸と10%の中性物質からなる。樹脂酸の主成分(約90%)は加熱により異性化したアビエチン酸であり、他成分としてピマール酸、イソピマール酸を含み、精油はほとんど含まない。尚、フランス産のものはピマール酸含量が高い。これらロジンの不飽和結合部分を水素添加したロジンも挙げられる。 【0020】 ロジンも酸化マグネシウムと接触するとケン化反応が進行するため、練和ペースト(即ち、シーラー)の硬化反応を促進する成分となる。ペーストA剤中のロジンの配合量は、40?80質量%であり、好ましくは50?70質量%である。 40質量%以下では硬化時間が遅れ、根尖孔外の浸出液や血液により汚染され、根尖部の封鎖性が低下する危険性を誘発することがある。一方、80質量%以上では使用時のペースト稠度が高くなりすぎ、根管内へのペーストの移送が困難になるという問題点がある。 【0021】 ペーストB剤中の酸化マグネシウムは、高級脂肪酸及びロジンと接触すると鋭敏にケン化反応が進行し、シーラーが硬化するため、硬化時間は酸化マグネシウムの配合量により制御される。具体的には酸化マグネシウムの配合量が、少ないと硬化反応が遅く、場合によっては完全に硬化しなくなる。また過剰であると、硬化反応が速くなり、根管内への充填が困難となる。最適な硬化時間(10分?30分)を制御するのに必要な酸化マグネシウムの配合量は、ペーストB剤中、5?30質量%であり、とくに10?20質量%であることが好ましい。 【0022】 ペーストB剤中の植物油としては、ペーストを作る際の基材となる天然物由来成分であれば何でもよく、オリブ油、落花生油、ナタネ油、大豆油、ベニバナ油、綿実油、コーン油、月見草油等の植物油が挙げられ、さらにリノール酸、オレイン酸、リノレン酸、パルミチン酸、イソステアリン酸等の高級脂肪酸とグリセリンのエステル化合物もこの範疇に含まれる。 【0023】 根管充填用シーラーとしての理想的なペーストちょう度は、練和物ペーストのちょう度が高すぎず、根管内で流れない稠度である。植物油の含有量が少ないと、使用時のペースト稠度が高くなりすぎて根管内へのペーストの移送が困難になったり、場合によってはペーストB剤の調製自体が困難になる。また過剰であると使用時のペースト稠度が緩くなりすぎ、操作性に問題を生ずる。理想的なペースト稠度を満足するための植物油の含有量は、ペーストB剤中、10?40質量%、とくに15?30質量%であることが好ましい。 【0024】 植物油を媒体とし、酸化亜鉛と酸化マグネシウムを併用した場合、酸化亜鉛と、ロジンおよび脂肪酸の酸塩基反応はきわめて遅く、実際には酸化マグネシウムが優先的に硬化反応に寄与していると考えられる。酸化マグネシウムの配合量が少ないと、硬化が満足に進行しない(比較例7)。 本発明の根管充填材組成物は、ペーストB剤中に、X線造影剤もしくは不透過剤を配合することにより、根管内に適性に充填されたかどうかのレントゲンによる判定、および経過観察することができる。X線造影剤もしくは不透過剤としては、ヨードホルム、硫酸バリウム、次炭酸ビスマス、ジルコニア、酸化亜鉛などの1種、もしくは2種以上を用いることができる。 【0025】 X線造影剤もしくは不透過剤の含有量については特段の制限はないが、あまり少なすぎると、根管充填後にレントゲンにて充填状況を診査する際に必要なX線造影性が得られない。根管充填シーラーに求められるX線造影性は、JIS-T6522〔歯科用根管充てん(填)シーラ〕によって“アルミニウム厚さ板3mm以上”と要求されており、用いるX線造影剤もしくは不透過剤の種類によって異なるが、たとえば硫酸バリウムであればペーストB剤中に25質量%以上の配合量が必要となる。 【0026】 また、ペーストA剤およびB剤の粘度を調整する目的で、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタンの超微粒子や、流動パラフィン、ワセリン、ロウ、樹脂、シロップ等の軟膏基剤、あるいはセルロース類、エステルガム、ガッタパーチャ等の増粘材を添加してもよい。植物油およびX線造影剤は、基本的にペーストB剤中に配合されるが、粘度を調整する目的でペーストA剤に配合することもできる。 【0027】 本発明の根管充填シーラーは、根管内に充填後、酸化マグネシウムが高級脂肪酸及びロジンとケン化反応し、5分?2時間(好ましくは10分?30分)で硬化する。本発明では、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、および水酸化マグネシウムを配合することはできず、酸化マグネシウムのみに限定される。即ち、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、および水酸化マグネシウムを用いると、脂肪酸やロジンとのケン化(硬化)反応が迅速に起こるため、ペースト練和時に硬化が始まり、練和操作や充填操作ができなくなり実用に耐えなくなる。さらに植物油とのケン化反応が進行するため、ペーストB剤が保管中にシリンジ内で固化(硬化)するなど、操作性と安定性に問題を生じる。 【実施例】 【0028】 以下、本発明の根管充填用シーラー組成物の等量で混合して使用した場合の性能を確認した実施例について説明する。 【0029】 本発明の根管充填用シーラーとしての特性は、JIS-T6522〔歯科用根管充てん(填)シーラ〕に準じて試験を行なったときのペースト稠度が20?35mmであり、X線造影性が厚さ3mm以上のアルミニウム板相当(JIS-T6522)であり、臨床術式を加味した臨床的硬化時間が8?12分であり、JIS-T6610〔歯科用酸化亜鉛ユージノールセメント及び酸化亜鉛非ユージノールセメント〕に準じて試験を行なったときの硬化時間が10?30分であること、また根尖部封鎖性試験の基準値として、色素浸透距離が0?1mmであることが望まれる。 【0030】 表1にペーストA剤の組成A1?A7及び比較組成A1?A5を、表2にペーストB剤の組成B1?B7及び比較組成B1?B4の組成を示す。ペーストA剤及びペーストB剤の各原料をそれぞれ磁性乳鉢にて混合、練和してペーストを作製し、下記の試験項目により評価した。 【0031】 〔ペースト稠度(JIS-T6522)〕 ペーストA剤とペーストB剤を等容量採取して練和し、3分後にその0.05mL相当の量をガラス板に挟む。23℃、相対湿度50%の環境下で、120g(ガラス板込み)の加重を7分間かけ、試料の広がり径を計測し、ペースト稠度が20?35mmを合格(○判定)とし、逸脱した稠度を不合格(×判定)とした。なお、JIS-T6522による稠度の試験結果は、粘稠性の高いペーストに対しては小さな実測値を、粘稠性の低いペーストに対しては大きな実測値で観測される。 【0032】 〔臨床的硬化時間〕 ペーストA剤とペーストB剤を等容量採取して練和し、練和物を塗布したガッタパーチャポイント(マスターポイント#35)をパスツールピペットの先端部に充填する。練和から2分後から37℃、相対湿度95%以上の環境におき、12分経過時点で引き抜き荷重30gをガッタパーチャポイントにかけ、抜けないことを確認した。ガッタパーチャポイントが抜けないことを合格(○判定)とし、抜けてしまったものを不合格(×判定)とした。 【0033】 〔硬化時間(JIS-T6610)〕 ペーストA剤とペーストB剤を等容量採取して練和し、練和物をφ10mm、高さ2mmの金型に満たす。練和から2分後から37℃、相対湿度95%以上の環境におき、φ2mm、100gのビカー針を用いて、所定時間ごとに針の貫通の有無を調べた。硬化時間が10?30分を合格(○判定)とし、逸脱した硬化時間を不合格(×判定)とした。 【0034】 〔X線造影性(JIS-T6522)〕 ペーストA剤とペーストB剤を等容量採取して練和し、練和物をφ10mm、高さ1mmの金型に満たす。この試験片と、長さ50mm、幅20mmで厚さが0.5mm間隔の階段状(0.5?9.0mm)のアルミニウムステップウェッジを並べてX線装置内に置く。管電圧65kVでX線を照射し、試験片の画像を撮影する。得られた試験片画像の光学濃度(明るさ)をアルミニウムステップウェッジの光学濃度と比較して、試験片の光学濃度をアルミニウムの厚さで表し、X線造影性がアルミニウム厚さ板3mm以上を合格(○判定)とし、3mm以下を不合格(×判定)とした。 【0035】 表3に各試験の結果を示す。 ペーストA剤の組成A1?A7と、ペーストB剤の組成B1?B7と組み合わせて使用した実施例1?7は、ペースト稠度、臨床的硬化時間、硬化時間、X線造影性について、根管充填用シーラーとしての特性値のすべてを満足できるものであった。 【0036】 これに対し、ペーストA剤の比較組成A1’?A5’をペーストB剤の組成B1と組み合わせて使用した場合(比較例1?5)、いずれも根管充填用シーラーとしての特性値を満足しなかった。 すなわち、比較組成A1’は高級脂肪酸の量が少なくかつロジンの量が多いため、比較例1では、硬化時間は満足されるものの、ペースト稠度が高すぎ粘稠すぎて使用できるものとはなり得なかった。 比較組成A2’は高級脂肪酸の量が多いため、比較例2では、硬化時間が短すぎ、ペースト稠度が緩すぎるため、これもまた使用できるものとはなり得なかった。 比較組成A3’、A4’は高級脂肪酸の量が少ないために、比較例3及び4では、硬化時間が長くなり、ペースト稠度は適切な範囲であるものの根管内での硬化が期待されない。 比較組成A5’はロジンの量が少ないため、比較例5では、硬化時間が長くかつペースト稠度が緩すぎるため、やはり不適切なものとなった。 【0037】 また、ペーストB剤の比較組成B1’?B4’をペーストA剤の組成A1と組み合わせて使用した場合(比較例6?9)もまた、いずれも根管充填用シーラーとしての特性値を満足しなかった。 すなわち、比較組成B1’は植物油の量が少ないため、ペースト化することができず、粉状になり、B剤の調製自体が不可能であった。 比較組成B2’は酸化マグネシウムの量が少ないために、比較例7では、硬化が遅すぎて満足に進行せず、72時間以上硬化は確認できなかった。 比較組成B3’は酸化マグネシウムが多いために、比較例8では、硬化が非常に早く進行し、実際にはとても使用できるものではない。加えてX線造影剤の量が不足していたせいか、X線造影性も乏しいものになっている。 比較組成B4’は植物油が多いため、比較例9のペースト稠度は緩く硬化も非常に遅いものとなり、これも実際に使用することは不可能である。 【0038】 このように各比較例で挙げた組成の根管充填用シーラー組成物は、それぞれ本発明の実施例の場合のように、根管充填用シーラーとしての特性値のすべてを満足できるものにはなり得ない。 【0039】 〔根尖封鎖性試験〕 ヒト上顎前歯抜去歯20本を使用し、形成根管側壁に残存する有機質や感染象牙質の除去を目的として、リーマーやファイルなどの根管壁切削器具を用いて根管を機械的に拡大した。細い♯15リーマーを用いて根尖孔の穿通を確認後、細いファイルから順次太い号数のものに変え、♯70まで拡大するステップバック法により根管拡大を行った。#70ガタパーチャポイントを根管内に試適し、根管長に合わせる。本発明の実施例1の組成とキャナルスNの2種類のシーラーをレンツロ(ペースト充填器)にて根管壁に塗布し、#70メインポイントにシーラーを塗布して根管内に挿入し、スプレッダーで側方圧を加え、開いた隙間にアクセサリーポイントを挿入した。スプレッダー操作とアクセサリーポイント挿入を繰り返し、側方加圧根管充填を行った。最後にプラガーを熱し、余ったポイントを切断除去し垂直圧を加え、根管充填を終えた。充填の長さは根尖部より10mm以上とした。根管上部は水硬性仮封材(商品名:キャビットG、エスペ社)にて仮封、精製水中に1週間保存した。その後、根尖部約3mmを除く歯冠側にネイルバーニッシュを塗布してコーティングし、メチレンブルー溶液中に3日間浸漬した。続いてネイルバーニッシュを剥離して水洗し、10%硝酸で3日間脱灰して歯根の無機質成分とシーラーを完全溶解する。その後、5%硫酸ナトリウムで中和、エチルアルコールで脱水後、サリチル酸メチルにて透徹(歯根の有機質成分であるコラーゲンを固定化)し透明標本を作製した。得られた透明標本を実態顕微鏡で観測し、ポイント(作業長)先端からの色素浸透距離の最大到達距離を求めて評価した。 結果を表4に示した。本発明の実施例1の組成とキャナルスNともに封鎖性は良好であり、色素浸透距離は統計学的に有意差を認めなかった。 【0040】 【表1】 【0041】 【表2】 【0042】 【表3】 【0043】 【表4】 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ペーストA剤100質量%中に、高級脂肪酸20?50質量%及びロジン40?80質量%を含有するペーストA剤と、ペーストB剤100質量%中に、酸化マグネシウム5?30質量%及び植物油10?40質量%を含有するペーストB剤とを混合、練和して得られる、ユージノールを含まない根管充填用シーラー組成物。 【請求項2】 ペーストB剤中に、酸化亜鉛をさらに含有する、請求項1に記載の根管充填用シーラー組成物。 【請求項3】 削除 【請求項4】 削除 【請求項5】 ペーストA剤又はペーストB剤中に、X線造影剤又は不透過剤をさらに含有する、請求項1又は2に記載の根管充填用シーラー組成物。 【請求項6】 ペーストA剤100質量%中に、高級脂肪酸20?50質量%及びロジン40?80質量%を含有するペーストA剤と、ペーストB剤100質量%中に、酸化マグネシウム5?30質量%及び植物油10?40質量%を含有するペーストB剤とを含む、ユージノールを含まない根管充填用シーラー組成物調整用のキット。 【請求項7】 ペーストB剤中に、酸化亜鉛をさらに含有する、請求項6に記載の根管充填用シーラー組成物調整用のキット。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2016-04-22 |
結審通知日 | 2016-04-26 |
審決日 | 2016-05-12 |
出願番号 | 特願2010-167267(P2010-167267) |
審決分類 |
P
1
113・
855-
YAA
(A61K)
P 1 113・ 853- YAA (A61K) P 1 113・ 854- YAA (A61K) P 1 113・ 121- YAA (A61K) P 1 113・ 841- YAA (A61K) P 1 113・ 851- YAA (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 辰己 雅夫 |
特許庁審判長 |
松浦 新司 |
特許庁審判官 |
齊藤 光子 大熊 幸治 |
登録日 | 2010-10-29 |
登録番号 | 特許第4614376号(P4614376) |
発明の名称 | 歯科用根管充填用シーラー組成物 |
代理人 | 大貫 進介 |
代理人 | 谷口 操 |
代理人 | 伊東 忠重 |
代理人 | 野本 可奈 |
代理人 | 山口 昭則 |
代理人 | 加藤 隆夫 |
代理人 | 谷口 操 |
代理人 | 伊東 忠彦 |
代理人 | 谷口 博 |
代理人 | 谷口 博 |