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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A01G
管理番号 1318345
審判番号 無効2015-800222  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-12-07 
確定日 2016-08-15 
事件の表示 上記当事者間の特許第3602948号発明「吸着型蔓性植物による緑化方法及び緑化器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成 9年 9月19日:出願(特願平9-271925号)
平成16年10月 1日:設定登録(特許第3602948号)
平成27年12月 7日:本件審判請求(差出日)
平成28年 2月18日:答弁書提出
平成28年 4月25日:審理事項通知
平成28年 5月11日:口頭審理陳述要領書(請求人)提出
平成28年 5月26日:口頭審理陳述要領書(被請求人)提出
平成28年 6月 9日:口頭審理

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1,4,6ないし10に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1,4,6ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる(以下、それぞれ、「本件発明1」などとという。AないしMの分説は請求人の主張に基づく。)。

【請求項1】(本件発明1)
「A 登攀助材(2)と、
B 網状保護材(3)と、
C スペーサー(S)を有し、
D 該登攀助材(2)は吸着型蔓性植物(H)の付着根(H”)が侵入し得る多孔質材で、
E 該網状保護材(3)に、該スペーサー(S)による該吸着型蔓性植物(H)の登攀間隙(4)を保って、
F 留金具(5)により添接されている
G ことを特徴とする吸着型蔓性植物による緑化器(11)。」

【請求項4】(本件発明4)
「H 該登攀助材(2)はそれぞれ多孔質材の化学繊維の不織布、植物繊維の
不織布、ヤシ殻繊維のシート、発泡樹脂シート、コルクボード、木毛セメント板、発泡コンクリート板、圧縮ボード、木板の内の一つである請求項1、2又は3に記載の吸着型蔓性植物による緑化器(11,21)。

【請求項6】(本件発明6)
「I 該登攀間隙(4)は5?50mm、好ましくは10?30mmである請求項1又は2に記載の吸着型蔓性植物による緑化器(11,21)。」

【請求項7】(本件発明7)
「J 該スペーサー(S)は駒の型式となっており、相対する面の一方の面(F1)が該網状保護材(3)の取付用で他方の面(F2)が該登攀助材(2)の取付用となっており、両面(F1,F2)間で該登攀間隙(4)を提供するようになっている請求項1又は2に記載の吸着型蔓性植物による緑化器(11,21)。」

【請求項8】(本件発明8)
「K 該スペーサー(S)はコ字形で、相対する袖片(S1,S2)の一方の袖片(S1)が該網状保護材(3)の取付用で他方の袖片(S2)が該登攀助材(2)の取付用となっており、両袖片(S1,S2)間で該登攀間隙(4)を提供するようになっている請求項1又は2に記載の吸着型蔓性植物による緑化器(11,21)。」

【請求項9】(本件発明9)
「L 該スペーサー(S)は互いに反対方向に突き出た袖片(S1,S2)を備えたS字形で、一方の袖片(S1)が該網状保護材(3)の取付用で他方の袖片(S2)が該登攀助材(2)の取付用となっており、両袖片(S1,S2)により該両袖片(S1,S2)間の垂直距離に呼応する該登攀間隙(4)を提供するようになっている請求項1又は2に記載の吸着型蔓性植物による緑化器(11,21)。」

【請求項10】(本件発明10)
「M 該スペーサー(S)は釘状で一端の頭部(6’)と他端側に位置する座金(6”)を備え、該頭部(6’)と該座金(6”)の間で登攀間隙(4)を提供するようになっている請求項1又は2に記載の吸着型蔓性植物による緑化器(11,21)。」

第3 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1,4,6ないし10に記載の発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠として、甲第1号証ないし甲第10号証を提出し、以下の無効理由を主張した。

<主張の概要>
無効理由(進歩性欠如)
本件特許の請求項1,4,6ないし10に記載の発明は、当業者が、甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

<具体的理由>
(請求書20頁12行?21頁8行)
本件請求項1に係る特許発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は物(G:緑化器)と方法(g:緑化方法)という相違はあるが、いずれも植物が壁面等を登攀する性質を利用して、壁面等と網等との間に植物の登攀間隙を確保しつつ(E及びe)、その枝葉を絡ませることによって脱落から保護する網等(B及びB)を構成要素とする点で共通する。
一方、甲第1号証には、本件請求項1における構成A(登攀助材を用いる点)、構成D(登攀助材が多孔質材である点)、構成E(登攀間隙を確保するためにスペーサーを用いる点)、構成F(該登輦助材が留金具により添接されている点)については記載されていない。
しかしながら、本件特許の審査の過程で発せられた拒絶理由通知でも認定されたように、当該技術分野において、多孔質材を利用した登攀助材を用いることは周知である。例えば、甲第2号証には、着生層3(構成A)について、その主材として吸水性及び保水性を有する多孔質資材が用いられること(構成D)が開示されている。
また、甲第3号証には、締結部材によって固定する技術(構成F)が開示されている。
さらに、スペーサー(構成C)を用いることにより、緑化対象物と網状保護材との間に間隙を確保する技術(構成E)は、甲第4号証乃至第6号証において構成Cおよびeとして記載されているように出願前の公知技術である。
本件特許発明の請求項1は、壁面等の緑化器(或いは緑化方法)の分野において、甲第1号証乃至6号証として開示された技術を単に組み合わせたに過ぎないものであり、当業者であれば容易になし得る。

(口頭審理陳述要領書)
○壁面緑化に係る技術分野において、多孔質材を利用した登攀助材を用いることが周知であること
当該技術分野において、多孔質材を利用した登攀助材を用いることは周知である」ことの甲第2号証以外の根拠について甲第8号証ないし甲第10号証を周知技術を示す文献として新たに提出する。
甲第8号証乃至甲第10号証、甲第2号証から、壁面緑化に係る技術分野において、多孔質材を利用した登攀助材を用いることが周知であることは明らかである。
○組み合わせる動機付け、組み合わせたものがどのような構成になるのかについて
甲第2号証に記載された多孔質材も、甲第1号証に記載される緑化方法と同様に、法面やビル壁面等の構造物表面を緑化させるために用いられるものであるから、技術分野は関連している。
また、甲第1号証の緑化方法は、建物の垂直壁面に植物木つたを直接密着させて登攀させるものであるが、このように壁面に直接密着させるものは、植物の吸着力によっては壁面から剥離するおそれがある上、緑化に時間もかかる。この課題は、本件明細書の段落【0006】にも・・・と指摘されているように、当業者であれば自明な課題である。
一方、甲第2号証においても、・・・構造物表面での緑化方法における課題を指摘しており、その課題を解決するために構造物表面に、多孔質資材を用いた養生層を形成している。従って、甲第2号証が提示する課題も、甲第1号証が内在する課題と共通している。
そこで、当業者が甲第1号証に記載されるような壁面緑化の実施を考える場面で、植物が剥離落下しやすく、緑化に時間がかかるという課題を解決するために、甲第2号証に例示されるような周知の登攀助材(多孔質材)を使用して壁面への吸着力を高めようと試みることは、通常の創作能力の発揮である。すなわち、甲第1号証に関連する技術分野において、甲第1号証の発明に付加可能であって且つ課題の解決に有効な周知技術が存在するものであるから、当業者が甲第1号証の発明に甲第2号証に例示される周知技術を適用する動機付けがあると言える。
被請求人は、甲第1号証は、常緑植物木づたが垂直壁面から剥離落下することを考慮しておらず、ヘデラ類等の吸着型蔓性植物を植生対象とする本件特許発明1のような登攀助材の必要性がない旨主張しているが、このような「木づた」も、学名や通称で「ヘデラ」と称されることからすると、特に甲第1号証が植生対象として吸着型蔓性植物を積極的に排除しているとは認められない。仮にそうであるとしても、常緑植物木づたが垂直壁面から剥離落下するおそれが全くないわけではないから、当該課題は内在していると言え、当業者が登攀助材を適用する妨げにはならない。
そして、甲第1号証の発明に、甲第2号証に例示される多孔質材を組み合わせた場合、甲第1号証の第1図?第3図に記載されるような壁面4に、多孔質材からなる登攀助材を、甲第2号証に示唆されるように壁面に対して密着するように設けた状態で、その登攀助材から所定の間隔をおいて金網2が固定金具3によって固定されている構成になる筈である。
○答弁書に対する反論
甲第1号証の発明に対して、甲第2号証に例示されるような周知の登攀助材を組み合わせることには動機付けがある。
また、甲第3号証は、法面の安定緑化を図るための施工方法を開示するものであるから、甲第1,2号証の発明とは技術分野が関連している。・・・甲第3号証には、法面緑化用の植生マット1を、締結部材6を用いてユニット化する技術思想が開示されていると言える。
従って、甲第1号証の発明に甲第2号証等の周知技術を適用して登攀助材と網状保護材との組み合わせを当業者が着想した際、登攀助材と網状保護材との間隔を保持した状態での施工を容易にするために、技術分野が関連する甲第3号証の示唆によって、登攀助材と網状保護材とを締結部材等の留金具によって連結することは、当業者には容易になし得ると認められ、通常の創作能力の発揮に過ぎない。被請求人は、甲第3号証のマット3が本件特許発明1の登攀助材に該当せず、シート4が本件特許発明1の網状保護材に該当しない旨主張しているが、そうであるとしても、甲第3号証も法面緑化を目的としている以上、そのための植生マットをユニット化して施工する甲第3号証の技術を当業者が参照できない理由はない。また、被請求人は、登攀助材として用いられる多孔質材は僥みやすい旨言及しているが、そうであるならなおさら登攀助材の僥み防止のために網状保護材との間を留金具で連結する発想に繋がりやすい筈である。
甲第4?6号証では、被請求人が主張するように、確かに吸着型蔓性植物を植生対象としていることは明記されていないものの、緑化対象である壁面とネットとの間隔をスペーサを用いて保持する技術思想が開示されているわけであるから、甲第1号証の発明に甲第2号証等の周知技術を適用して登攀助材と網状保護材との組み合わせを当業者が着想した際、植生対象にかかわりなく、登攀助材と網状保護材との間隔を確実に保持するために、技術分野が関連する甲第4?6号証の示唆によって、登攀助材と網状保護材との間にスペーサを設けることは、当業者には容易になし得る。

[証拠方法]
甲第1号証:特開昭51-13655号公報
甲第2号証:特開平6-319382号公報
甲第3号証:特開平9-151458号公報
甲第4号証:実願昭49-77620号(実開昭51-6060号)のマイクロフィルム
甲第5号証:実願昭54-109051号(実開昭56-27243号)のマイクロフィルム
甲第6号証:欧州特許出願公開第356820号明細書
甲第7号証:特開平5-276829号公報
甲第8号証:特開平9-65768号公報
甲第9号証:特開平5-130810号公報
甲第10号証:特開平4-118420号公報

なお、甲第8号証ないし甲第10号証は周知技術を示す文献として提示されたものである。

2 被請求人の主張
被請求人は,答弁書を提出し、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の無効理由に対して以下のとおり反論した。

<主張の概要>
本件の請求項1および4ならびに6ないし10に係る特許発明は、甲第1号証ないし甲第7号証に記載の技術に基づいて、出願前にいわゆる当業者が容易に発明することができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当しない。このため、同法第123条第1項第2号に該当せず、これらの特許発明に無効理由は存在しない。

<具体的主張>
(答弁書8頁7?13行)
請求人は、甲各号証に本件特許発明1の発明特定事項A?Gが個々に開示されていると主張するが、少なくとも、本件特許発明1の発明特定事項E、Fに相当あるいは対応する構成(登攀助材(2)が、網状保護材(3)に、スペーサー(S)による吸着型蔓性植物(H)の登攀間隙(4)を保って、留金具(5)により添設されている)は、甲第1号証ないし甲第7号証のいずれの証拠にも開示されていない。
(答弁書12頁5?18行)
このように、少なくとも本件特許発明1の発明特定事項E、F(登攀助材(2)が、網状保護材(3)に、スペーサー(S)による吸着型蔓性植物(H)の登挙間隙(4)を保って、留金具(5)により添設されている)が甲第1号証ないし甲第7号証のいずれの証拠にも開示されていないことから、たとえ甲第1号証?甲第7号証を組み合わせたとしても、本件特許発明1の構成とすることはできない。・・・本件特許発明1を全体として考察することなく、登攀助材、網材およびスペーサがそれぞれ単体で個別の証拠に記載されているというだけでは、請求項1に係る特許発明の進歩性を否定する根拠にはなりえない。
(口頭審理陳述要領書)
○組み合わせる動機付けに対する請求人の主張について(4頁6行?5頁3行)
甲第1号証の第1頁右欄第8行?第11行に「この常緑植物木づたはコンクリートや石などの壁面に良く密着しながら繁殖する性質があり、また垂直面に対しては真直にのびるので第2図に示すように間隙(5)を通じて金網(2)にからみ、かつ垂直壁面(4)に密着して、極めて短期間に壁面全体を緑化させることができる。」と記載され、金網に蔓が巻きつきながら繁殖するため剥離落下をほとんど生じない常緑蔓性植物(西洋木づた等が常緑蔓性植物であることは甲第1号証第3頁第7行目に記載)のみを栽培対象とすることで成り立つ緑化方法であることから、甲第1号証の緑化方法には「植物が剥離落下」との課題は存在しない。
また、甲第1号証は、金網からほとんど剥離落下しない常緑蔓性植物のみを栽培対象とすることで成り立つ緑化方法である以上、本件特許が対象とするような「植物が剥離落下しやすく、緑化に時間がかかる」吸着型蔓性植物を栽培対象から排除していることは明らかであるから、「植物が剥離落下」との課題も内在しない。
本件特許明細書の段落0006の記載に基づき課題が自明性であると主張しているが、本件特許明細書の記載のみを当業者の技術常識の根拠とすることは事後分析的で客観性に欠ける。
甲第2号証における課題は、水分等を十分に与えれば解決可能な「水分や養分不足による成長障害や落葉」であるから、もともと体を支持する力が弱い植物であってもその剥離落下を防止できるようにするとの課題は存在しない。
甲第1および2号証にはそれらを結び付ける課題および動機は存在せず、したがって、存在しない課題を解決する目的として甲第1号証に甲第2号証を適用容易とすることはできない。
○甲8?10に関して(5頁17?25行)
このように、「緑化に時間がかかる」、「植物が剥離落下しやすい」という課題を解決するための手段が具体的に提示された多孔質の登攀助材を、敢えて甲第1号証に記載された緑化方法に適用する動機付けは存在しない。また、緑化対象壁面に沿って植物を登攀させながら成長させることを意図した甲第1号証の緑化方法に対して、緑化対象壁面とは別の場所で横あるいは斜め状態で植物を定着させておく多孔質登攀助材を適用する動機付けも存在しない。このため、請求人が周知技術文献として提出した甲第8号証?甲第10号証も、甲第1号証において多孔質の登攀助材を使用することの容易性の主張を補強するものにはならない。
○「組み合わされたものがどのような構成になるのか」について(6頁末行?7頁3行)
甲1号証の発明に甲2号証に例示される登攀助材を組み合わせたとする構成は、請求人に陳述によってもなお把握することはできない。当然、甲第1号証および甲第2号証を組み合わせても特許発明1の構成にはならない。

第4 当審の判断
1 甲第1号証ないし甲第7号証について
(1)甲第1号証に記載された発明
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には以下の記載がある(下線は審決で付した。以下同じ。)。

ア 「特許請求の範囲
高層建築物などの垂直壁面に適宜の間隔を存して網枠を順次固装し、所定の間隔を存して地上に植つけた西洋木づた等の常緑植物木づたを前記の網枠にからませながら真直に繁殖させ、垂直壁全面を緑化させるようにしたことを特徴とする垂直壁面等に常緑植物を繁殖緑化させる方法。」(1頁左下欄4?10行)

イ 「発明の詳細な説明
本発明は西洋木づた、ムーベ、サネカズラ等の常緑植物木づたを高層建造物のコンクリート壁面に急速にからませ緑化させる方法に関するものである。
本発明は高層建築物などの垂直壁面に適宜の間隔を存して網枠を順次固装し、所定の間隔を存して地上に植つけた西洋木づた等の常緑植物木づたを前記の網枠にからませながら真直に繁殖させ、垂直壁全面を緑化させるようにしたものである。
次に図示の実施例について説明すると、図中(1)は金網(2)を張設した網枠で固定金具(3)を用いて垂直壁面(4)に順次固定し、垂直壁面(4)と網枠(1)の間に間隙(5)を形成する。そして所定の間隔を存して地中に根を植つけた常緑植物木づた(6)を金網(2)にからませる。この常緑植物木づたはコンクリートや石などの壁面に良く密着しながら繁殖する性質があり、また垂直面に対しては真直にのびるので第2図に示すように間隙(5)を通じて金網(2)にからみ、かつ垂直壁面(4)に密着して、極めて短期間に壁面全体を緑化させることができる。
従って高層建築物はもとより工場、埋立地や公園の緑化を促進でき、公害防止上有益である。」(1頁左下欄11行?右下欄下から4行)

ウ 「図面の簡単な説明
図面は本発明に係る垂直壁面等に常緑植物を繁殖緑化させる方法の実施例を示したもので、第1図は正面図、第2図は縦断側面図、第3図は高層建築物に実施した斜視図である。
(1)?網枠、(2)?金網、(8)?固定金具、(4)?壁面、(5)?間隙、(6)?常緑植物木づた」(1頁右下欄下から3行?2頁左上欄4行)

エ 第1図?第3図として、





上記の事項から、甲第1号証には下記の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「高層建築物などの垂直壁面(4)に、固定金具(3)を用いて、金網(2)を張設した網枠(1)を順次固定し、垂直壁面(4)と網枠(1)の間に間隙(5)を形成し、該間隔(5)を存して地中に根を植つけた常緑植物木づた(6)を金網(2)にからませ、垂直壁面(4)に良く密着しながら繁殖させ、垂直壁全面を緑化させるようにした構造。」

(2)甲第2号証に記載された事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には以下の記載がある。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 構造物表面に、保水性を有すると共に肥料を含んだ着生層を形成し、この着生層に地被植物を着生させることを特徴とした構造物表面の緑化方法。」

イ 「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、法面、擁壁、ビル壁面、鋼構造物等の表面を地被植物によって緑化するための方法に関する。」

ウ 「【0009】【作用】本発明の構造物表面の緑化方法は、モルタル層やコンクリート層、鋼構造物表面等の上に着生層を形成する。この着生層は、保水性を有すると共に肥料を含んでいることから、この着生層によって植物(地被植物)の成育に必要な水分及び養分を長期に亘って供給することができる。これにより、着生層の表面に地被植物が繁茂し、法面やビル壁面等の構造物表面を緑化させることができる。
【0010】【実施例】以下、本発明の実施例を図面により詳述する。
図1は実施例の緑化方法で施工した法面の断面図で、図中1は地山、2は法面保護層となるモルタル層、3は着生層である。この場合、法面の途中に棚部4が形成され、この棚部4にプランタ5が配設され、このプランタ5に植栽した地被植物6が前記着生層3に吸着登攀していくものである。尚、7は側溝である。
【0011】前記着生層3は、主材と、肥料と、固結材と、添加材を成分としたもので、その各成分の例を以下に挙げる。
【0012】主材は、着生層3の基盤となるもので、吸水性及び保水性を有する多孔質資材が主に用いられている。例えば、泥炭、腐植酸質資材、ゼオライト、パーライト、ベントナイト、バーミキュライト、木炭粉、堆肥類、生の木質繊維類、発泡樹脂類、砂等があり、これらを単独あるいは組み合わせて使用する。」

エ 「【0016】又、地被植物6としては、グランドカバープランツ類(蔦類、つる植物類、ヘデラ類等)やアイスプランツ類(松葉ぼたんや松葉菊等)が用いられる。」

オ 図1として、





上記の事項から、甲第2号証には以下の事項が記載されていると認められる。

「法面、擁壁、ビル壁面等の構造物表面に、保水性を有する多孔質資材及び肥料等を含んだ着生層を形成し、この着生層に、蔦類、つる植物類、ヘデラ類等を含む地被植物を着生させた構成。」

(3)甲第3号証に記載された事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には以下の記載がある。

ア 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は特に寒冷地や乾燥地等における硬質土、無土壌地帯等に敷設される植生用マットおよびその施工方法の技術分野に属する。
【0002】【発明が解決しようとする課題】法面の安定緑化を図るための施工方法の一つに、植生マットを法面上に敷設する方法がある。従来の植生マットは、例えばプラスチックネットに、種子、肥料、土壌改良材、保水材等の植生基材を接着剤によって付着させた比較的薄いものであった。このような薄いマットでは、保温性が低い難点があり、寒冷時における凍上を充分防ぐことができなかった。
【0003】また、厚手の麻のマットに植生基材を付着ないしは収納させた植生マットもあるが、マットが厚いため、植物の幼芽や幼根の通過が不良で、植物の発芽・生育が不完全になることが多かった。
【0004】本発明はこのような実情に鑑みてなされ、保温性が高く凍上に強い植生マットおよびその施工方法を提供することを目的としている。」

イ 「【0005】【課題を解決するための手段】本発明は、上述の課題を解決するための手段を、以下のように構成している。
すなわち、請求項1に記載の発明では、植物繊維よりなる厚手のマットと、腐食性の薄手のシートまたは網状体との間に、植生基材を充填した水溶性素材よりなる袋体を並列に配置して介在させ、そのマットとシートまたは網状体とを締結部材によって固定してなることを特徴としている。」

ウ 「【0013】請求項9に記載の方法の発明では、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の植生用マットの前記マットを地側に向け、前記シートまたは網状体を天側に向けてその植生用マットを法面上に敷設することを特徴としている。」

エ 「【0019】6は、マット3とシート4とをやや間隔をおいて締結するための締結部材でUピンもしくはそれに類する止め金具やその他固縛材であってもよく、各植生袋5、5間に例えば10cm間隔程度に設けられ、マット3とシート4に貫通掛止され、植生袋5、…を固定する。なお、マット3とシート4の周囲は縫着するものとする。」

オ 「【0025】図5は植生用マット1の異なる施工方法を示し、マット3を法面2上に載せるように敷設したものであり、この場合、そのマット3には開孔を設ける必要はなく、そのマット3によって直接法面2の凍上を防止することができ、種子が根を張る頃には、そのマット3は法面2と同化して根を定着させることができ、寒冷地における無土壌地であっても、また、寒冷時においても健全な緑化が可能となる。なお、図4に示すような植生用マット1にあってもこのような施工が可能であるのはいうまでもない。」

カ 「【0026】【発明の効果】以上説明したように、本発明の植生用マットによれば、厚手のマットで植生基材を充填した袋体を覆うように敷設するので、法面に対する植生基材の密着性が向上し、硬質土壌や軟岩法面でも、あるいは乾燥期においても確実に健全な緑化を図ることができる。」

キ 図1として、





ク 図5として、





上記の事項から、甲第3号証には以下の事項が記載されていると認められる。

「マット3とシート(または網状体)4とを袋体5を挟んでやや間隔をおいて締結部材6によって固定した、植生用マット」

(4)甲第4号証に記載された事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には以下の記載がある。

ア 「電柱等の下部には網材等の有孔素材を、該素材と電柱等との間に蔦等の植物が生育可能な育成空間を形成して巻装した植生部本体と、上記植物の上方への伸張を規制するように装設した伸張規制体とからなる植生装置。」(実用新案登録請求の範囲)

イ 「本考案は蔦等の植物を電柱の根元部に育成させるに好適な植生装置に関し、街中を緑化すると共に、電柱等への張り紙を有効に阻止しようとするものである。・・・・本考案はこの点に鑑みて、・・・・電柱(1)等との間に植物育成空間(2)を形成するよう取外し自在に巻装し、蔦植物等を絡らませることができるようにした植生部本体(3)と、該植生部本体(3)の上位に下向きとなるように設けることにより、その植物がそれ以上上方にまで伸張しないようにした伸張規制体(4)とからなるものである。」(明細書1頁末行?2頁6行)

ウ 「尚(8)(8)・・・・・、(8)’(8)’・・・・・はそれぞれ電柱(1)と内側の網材(3a)、同網材(3a)と外側の網材(3b)との間に挟着したスペーサを示す。」(明細書2頁15?18行)

エ 第1図、第2図として、





上記の事項から、甲第4号証には以下の事項が記載されていると認められる。

「柱(1)と内側の網材(3a)、同網材(3a)と外側の網材(3b)との間にスペーサを設け、網材等の有孔素材と電柱等との間に蔦等の植物が生育可能な育成空間を形成した、植生装置」

(5)甲第5号証に記載された事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には以下の記載がある。

ア 「枠体にネットを張設し、かつ、枠体の下端部に植栽容器を装着する構成よりなる電柱の緑化ネット。」(実用新案登録請求の範囲)

イ 「この実用新案は電柱等の円筒形の屋外施設を緑化するためのものである。」(1頁8?9行)

ウ 「また電柱(1)とネット(2)の間隔を適当に保つためスペーサーとして平鋼(4)に1乃至2カ所に適当な長さのボルト(7)をとりつけ、電柱との間隔をあけられるようにする。」(3頁5?8行)

エ 図面(第1図ないし第4図)として、





上記の事項から、甲第5号証には以下の事項が記載されていると認められる。

「電柱(1)とネット(2)の間隔を適当に保つためスペーサーとして、平鋼(4)に1乃至2カ所に適当な長さのボルト(7)をとりつけ、電柱との間隔をあけられるようにした、電柱の緑化ネット」

(6)甲第6号証に記載された事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には以下の記載がある(和文抄録及び請求人提出の抄訳に基づく)。

ア 「【構成】Fig.1、Fig.2において長さ方向の棒末端8に形成される結合部分17、18は個別の格子6、7が長さ方向で互いに簡単に結合されるように相互に対応する。結合部分17、18は横方向の棒末端9に正確に付属可能で、その際個々の格子6、7の横方向に強力な結合が得られる。結合要素10、11を介して個々の格子6、7は壁15と結合され、その際結合要素10、11には間隔保持具16が付属して、格子6、7と壁15の間の間隔をそれぞれ変更可能にする。例えばこのような格子の組合せの上下端にだけ配置される安定な結合要素10、11によつて効果的な固定が可能である結果、植物容器12を植物13ととも直ちにそれに接続することが出来る。このため合目的的植物容器12はかぎを有し、それによつて植物容器12を簡単に格子6、7内に掛けることができる。」(和文抄録)

イ 「個別の格子(6、7)を壁(15)に接続するために、例えば図3?図6から見て取れる結合要素(10もしくは11)が用いられる。その際、特に図3は、有利にも、相応の長さの脚部(27,28)および安定した接続背部(29)を有する間隔保持具(16)と、相手側プレート(30)と、保持ねじ(31)とからなる結合要素(10、11)が、互いに平行に延びる棒(3)と端部分(23)とを介して押し動かされ、それによって安定的な固定が達成されることを明確に示す。その際、端部分(23)と棒(3)とが対応するループ(19)に連結しているので、自動的に個々の格子(6、7)は接続エレメント(10、11)の中に入っていく。
図4は、図3から見て取れる実施形態を示す。これは、ループ(19)を折り曲げることもまた壁(15)への迅速かつ簡単な固定のために役立つことを明確に示している。
図5および図6は、結合要素(10、11)の断面図を示す。この場合、図5では平たい相手側プレート(30)が使用され、図6では相応の長さの脚部(27’、28’)を有する相手側プレートが使用される。脚部(27、27’、28、28’)を相応の形状もしくは長さにすることによって、壁(15)に対する個別の格子(6もしくは7)の距離を事実上任意に設定することができる。格子は有利な輸送寸法を有する。格子は、積み重ねることができるとともに、突き出す部分がなく、束にして輸送することができる。」(明細書5頁7欄1?33行)

ウ 図面として、




上記の事項から、甲第6号証には以下の事項が記載されていると認められる。

「格子6、7を結合要素10、11によって壁15に接続した緑化用の装置であって、当該結合要素10、11は、間隔保持具16が相手側プレート30を挟みつつ保持ねじ31によって壁15に接続される、緑化用の装置」

(7)甲第7号証に記載された事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第7号証には以下の記載がある。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】無機質繊維を柔軟性バインダー樹脂で一体化した繊維層と有機質繊維からなる繊維層とを積層してなる緑化資材。」

イ 「【0001】【産業上の利用分野】 本発明は、法面緑化等における芝草等の成育を促進し、雑草の成長を抑え、かつ芝草等の養成及び移植作業を省力化する緑化資材にに関する。」

ウ 「【0005】【課題を解決するための手段】そこで、本発明者は、上記した問題点を解消するため鋭意検討を行った結果、無機質繊維を柔軟性バインダー樹脂で一体化した繊維層と有機質繊維からなる繊維層とを積層して使用することに気付き本発明を完成した。
すなわち、本発明は、無機質繊維を柔軟性バインダー樹脂で一体化した繊維層と有機質繊維からなる繊維層とを積層してなる緑化資材である。
【0006】以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の無機質繊維としては、ロックウール、ガラスウール、セラミックファイバー等の無機質繊維を挙げることができる。ロックウール、ガラスウール、セラミックファイバーをそれぞれ単独に使用することもできるが、これらを配合することによって、ロックウール又はガラスウール製繊維層の強度を向上することができる。
柔軟性バインダー樹脂としては、加熱によって粘着性を発現する塩ビ系、酢ビ系、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ナイロン系等の熱可塑性樹脂を使用できる。また、これらの樹脂を予め繊維状に成型加工した熱融着繊維も使用できる。また、軟化温度の異なる複数の樹脂を組み合わせて使用することも可能である。
【0007】これらを一体化して繊維層とする方法としては、無機質繊維と柔軟性バインダー樹脂とを解繊、混合した後、加熱成型して所定の厚さのシート状又はフェルト状にしたものが使用できる。
無機質繊維製のフェルト層は、例えば柔軟性バインダー樹脂を配合したロックウールをシート状或いはマット状に成型した後、剥離強度を向上させるために必要に応じてニードリング処理を行うことができる。この製造の段階或いは製造後に加熱することにより、バインダー樹脂の粘着力を発現させ、無機質繊維相互を結合する。
無機質繊維の繊維層の厚さは1?30mmが好ましく、より好ましくは2?20mmである。
密度は、30?300kg/m^(3)が好ましく、より好ましくは60?250kg/m^(3)である。
【0008】本発明でいう有機質繊維層はジュート、椰子殻繊維、綿、ラミー、羊毛、絹等の天然繊維、木質繊維、パルプ、藁、水苔、ピートモス等の繊維状の天然有機物、レーヨン等の人造繊維或いはそれらの混合物からなる布、不織布、網、紙等が用いられるが、有機質繊維層が土中で腐食分解する時の緑化植物の根に対する影響が少ない、網が特に好ましい。網を使用する理由としては、メッシュの間隔が大きいことから、伸長した根が有機質繊維層に触れる割合が少なく、有機質繊維層が腐食する時の影響を受けにくいことにある。
ここで使用する網等の糸の径としては、保水性の点から0.5?10mmであることが好ましい。」

上記の事項から、甲第7号証には以下の事項が記載されていると認められる。

「無機質繊維を柔軟性バインダー樹脂で一体化した繊維層と有機質繊維からなる繊維層とを積層してなる緑化資材」

2 本件発明1に対する無効理由について
(1)甲1発明
甲1発明は、前記1(1)で認定した以下のとおりのものである。
「高層建築物などの垂直壁面(4)に、固定金具(3)を用いて、金網(2)を張設した網枠(1)を順次固定し、垂直壁面(4)と網枠(1)の間に間隙(5)を形成し、該間隔(5)を存して地中に根を植つけた常緑植物木づた(6)を金網(2)にからませ、垂直壁面(4)に良く密着しながら繁殖させ、垂直壁全面を緑化させるようにした構造。」

(2)対比
本件発明1と、甲1発明とを対比する。

ア まず、甲1発明の「常緑植物木づた(6)」には、「西洋木づた、ムーベ、サネカズラ等」(前記1(1)イ参照。)が含まれており、一方、本件発明の「吸着型蔓性植物(H)」に関して、本件特許明細書には「壁面緑化用のツル性植物にはスイカズラ、ムベ、ヘデラ等がある。」(段落【0005】)との記載があるから、甲1発明の「常緑植物木づた(6)」は、本件発明の「吸着型蔓性植物(H)」に相当する。

イ 甲1発明の「間隙(5)」は、「(該間隔(5)を存して)地中に根を植つけた常緑植物木づた(6)を金網(2)にからませ、垂直壁面(4)に良く密着しながら繁殖させ」るものであるから、本件発明1の「吸着型蔓性植物(H)の登攀間隙(4)」に相当する。

ウ 甲1発明の「金網(2)を張設した網枠(1)」は本件発明1の「網状保護材(3)」に相当し、同様に、
「固定金具(3)」は「留金具(5)」に、
「(該間隔(5)を存して地中に根を植つけた常緑植物木づた(6)を金網(2)にからませ、垂直壁面(4)に良く密着しながら繁殖させ、)垂直壁全面を緑化させるようにした構造」は「吸着型蔓性植物による緑化器(11)」に相当する。

エ 甲1発明の「高層建築物などの垂直壁面(4)に、固定金具(3)を用いて、金網(2)を張設した網枠(1)を順次固定し、垂直壁面(4)と網枠(1)の間に間隙(5)を形成し」た構成と、本件発明11の「登攀助材(2)は・・・該網状保護材(3)に、該スペーサー(S)による該吸着型蔓性植物(H)の登攀間隙(4)を保って、留金具(5)により添接されている」構成とは、「網状保護材を、吸着型蔓性植物の登攀間隙を保って、留金具により所定の面に固定した」構成で、共通する。

オ 上記アないしエを踏まえると、両者は、
「網状保護材を有し、
該網状保護材を、吸着型蔓性植物の登攀間隙を保って、留金具により所定の面に固定した、吸着型蔓性植物による緑化器(11)」で一致し、
下記の点で相違する。

相違点:「所定の面」及び「登攀間隙」に関して、
本件発明1は、「吸着型蔓性植物(H)の付着根(H”)が侵入し得る多孔質材」である「登攀助材(2)」(所定の面)を有し、「登攀助材(2)」と「網状保護材(3)」の間が「スペーサー(S)による」「登攀間隙」であるのに対して、
甲1発明は、「登攀助材」及び「スペーサー」を有しておらず、「高層建築物などの垂直壁面(4)」(所定の面)と「網枠(1)」(網状保護材)との間が「登攀間隙」である点。


(3)判断
ア 相違点に関して
(ア)甲第2号証に記載の構成
相違点に関して、甲第2号証には前記1(2)のとおり、「法面、擁壁、ビル壁面等の構造物表面に、保水性を有する多孔質資材及び肥料等を含んだ着生層を形成し、この着生層に、蔦類、つる植物類、ヘデラ類等を含む地被植物を着生させた構成。」が記載されており、この「保水性を有する多孔質資材及び肥料等を含んだ着生層」は、「吸着型蔓性植物の付着根が侵入し得る多孔質材」である「登攀助材」に相当する。
そうすると、甲第2号証には、「吸着型蔓性植物の付着根が侵入し得る多孔質材」である「登攀助材」を「法面、擁壁、ビル壁面等の構造物表面」に形成することが記載されているといえる。

(イ)請求人の主張
請求人は、「当業者が甲第1号証に記載されるような壁面緑化の実施を考える場面で、植物が剥離落下しやすく、緑化に時間がかかるという課題を解決するために、甲第2号証に例示されるような周知の登攀助材(多孔質材)を使用して壁面への吸着力を高めようと試みることは、通常の創作能力の発揮である」などと、甲第1号証の発明に甲第2号証に例示される周知技術を適用する動機付けがある旨主張するので、動機付けについて下記(ウ)で検討する。

(ウ)動機付けについて
甲1発明と、甲第2号証に記載の構成とは、構造物等の壁面を蔦類等の植物で緑化するという、同じ技術分野に属するものであって、課題も類似するから、周知の登攀助材(多孔質材)を使用して壁面への吸着力を高めることを目的として、両者を組み合わせる動機付けは一応あるといえる。
しかしながら、甲1発明と、甲第2号証に記載の構成とは、構造物等の壁面に蔦類やつる植物を繁茂させる手段として、甲1発明は、垂直壁面(4)との間に間隙を形成して、固定した網枠(1)を採用しているのに対して、甲第2号証に記載の構成は、「吸着型蔓性植物の付着根が侵入し得る多孔質材」である「着生層」を採用しているのであるから、それぞれ異なる課題解決手段を用いているといえる。
そうすると、これらの異なる課題解決手段は代替可能な手段というべきであって、代替可能な手段を併用することはコスト高ともなるから、両方の手段を併用することは想定できない。
加えて、甲第1号証には「この常緑植物木づたはコンクリートや石などの壁面に良く密着しながら繁殖する性質があり、また垂直面に対しては真直にのびるので第2図に示すように間隙(5)を通じて金網(2)にからみ、かつ垂直壁面(4)に密着して、極めて短期間に壁面全体を緑化させることができる。」(前記1(1)イ参照。)と記載されているとおり、常緑植物木づたが垂直壁面(4)から剥離落下することを考慮していないことは明らかであるから、甲1発明に登攀助材(多孔質材)を適用する動機付けは存在しない。
したがって、甲1発明に、甲第2号証に記載の構成を組み合わせるという動機付けはないというべきである。

(エ)甲1発明に甲第2号証に記載の構成を適用したものについて
上記(ウ)のとおり、甲1発明に甲第2号証に記載の構成を組み合わせる動機付けはないといえるが、甲1発明に甲第2号証に記載の構成を適用したものがどのような構成になるのかについて一応検討しておく。
甲1発明に甲第2号証に記載の構成を適用するのであれば、甲1発明において、「構造物の垂直壁面を蔦類等の植物で緑化する手段」として、「垂直壁面(4)との間に間隙を形成して、固定した網枠(1)」を採用しているのであるから、「網枠(1)」に代えて、「吸着型蔓性植物の付着根が侵入し得る多孔質材」である「着生層」を採用することになる。
そもそも、甲1発明から本件発明1に到達するためには、甲1発明において、高層建築物などの垂直壁面(4)に、甲第2号証に記載の「着生層」を形成した上で、この「着生層」が「登攀間隙」を保って「網状保護材」に添接されなければならず、「着生層」と「網状保護材」との間に「登攀間隙」を設けるという技術思想、並びに、「登攀助材、網状保護材及びスペーサ」をユニットとして一体化した「緑化器」は、甲各号証には開示されていないのであるから、本件発明1に到達するように構成を変更すべき合理的な理由はない。
したがって、甲1発明に、甲第2号証に記載の構成又は甲第2号証に例示される周知技術を適用したとしても、本件発明1に到達することはできない。

(オ)相違点に係る構成が甲各号証に開示されていないこと
上記(エ)のとおり、「着生層」(登攀助材)と「網状保護材」との間に「登攀間隙」を設けるという技術思想は、甲各号証には開示されていないから、相違点に係る構成も甲各号証には開示されていない。

イ 本件発明1が奏する効果について
本件発明1は、「吸着型蔓性植物(H)の付着根(H”)が侵入し得る多孔質材」である「登攀助材(2)」を有することによって、「ヘデラ類は登攀が遅く、付着根で吸着するため吸着力が弱く登攀面から剥離落下しやすいなどの問題」を解決し、「吸着型蔓性植物を起立面に、容易に、早く、剥離落下させないように登攀させることのできる」という効果を奏するものである。そして、この効果は、甲第1号証ないし甲第7号証には記載も示唆もされておらず、甲第1号証ないし甲第7号証に記載の発明から予測できるものでもない。

ウ まとめ
以上のとおり、本件発明1は、当業者が甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本件発明4,6ないし10に対する無効理由について
上記2で検討したとおり、本件発明1は、当業者が甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえないのであるから、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する、本件発明4,6ないし10については、本件発明1と同様、当業者が甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許の本件発明1,4,6ないし10に係る特許を、無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-22 
結審通知日 2016-06-24 
審決日 2016-07-06 
出願番号 特願平9-271925
審決分類 P 1 123・ 121- Y (A01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 郡山 順  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 住田 秀弘
赤木 啓二
登録日 2004-10-01 
登録番号 特許第3602948号(P3602948)
発明の名称 吸着型蔓性植物による緑化方法及び緑化器  
代理人 石田 正己  
代理人 大関 光弘  
代理人 大関 光弘  
代理人 大関 光弘  
代理人 大関 光弘  
代理人 上田 恭一  
代理人 石田 喜樹  
代理人 大関 光弘  

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