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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A61B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1318351
審判番号 不服2015-12180  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-29 
確定日 2016-09-06 
事件の表示 特願2009- 8376「スペクトル-空間形成の励起エコーを用いて代謝産物を組織特異的にMR撮像するためのシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月13日出願公開、特開2009-178547、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年1月19日(パリ条約による優先権主張 2008年1月30日(US)米国)を出願日とする出願であって、平成25年8月5日付けで拒絶理由が通知され、同年11月7日に意見書及び手続補正書が提出され、これに対して、平成26年5月30日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年9月5日に意見書が提出されたが、平成27年2月23日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、同年6月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において平成28年4月12日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年7月13日に意見書及び手続補正書が提出された。


第2 本願発明
本願の請求項1?9に係る発明は、平成28年7月13日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
マグネット(52)のボアの周りに位置決めされた複数の傾斜コイル(50)と、
RFパルスシーケンスを放出するようにパルス発生器(38)と結合されかつ関心対象から得られるMR信号を受け取るように配列されたRFコイルアセンブリ(56)と、
前記複数の傾斜コイル(50)及びRFコイルアセンブリ(56)と結合されたシステム制御部(32)であって、該RFコイルアセンブリ(56)に対して、
そのうちの少なくとも1つが周期性のある励起プロフィールによるスペクトル選択性でありかつそのうちの少なくとも1つが空間選択性であるような第1のRFパルス(104)及び第2のRFパルス(106)を放出すること、
代謝混合時間(Tm)後に第3のRFパルス(112)を放出すること、
前記第3のRFパルス(112)放出後の励起エコー(114)から得られたMR信号を傾斜磁場を印加せずに検出すること、
を行わせるようにプログラムされたシステム制御部と、
を備え、
前記励起エコー(114)は、前記第1のRFパルス(104)、第2のRFパルス(106)及び第3のRFパルス(112)の組み合わせにより生成される、
磁気共鳴(MR)スペクトロスコピーシステム(10)。」


第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
本願発明及び請求項2?3、7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明及び請求項2?9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用例1:特開平7-308307号公報
周知例2:特開2001-231763号公報
周知例3:米国特許第7202665号明細書
周知例4:A.Yahya, et al.,A Modified STEAM Sequence Designed for Strongly-Coupled Spin Systems in Proton MRS,Proc. Intl. Soc. Mag. Reson. Med.,2003年 7月10日,p.671

本願発明及び請求項2?9に係る発明は、引用例1に記載された発明であるか、引用例1に記載された発明と周知例2?4に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得た発明である。


2 原査定の理由の判断
(1)引用例の記載事項及び引用例に記載された発明
ア 引用例1の記載事項
引用例1には、次の事項が記載されている。なお、以下の摘記において、引用発明の認定に関連する箇所に下線を付した。

(ア) 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、被検体に一定の磁場及び実質的に互いに垂直に位置する可変に組み合わされた3つの勾配磁場を加え、かつ、|mπ|に等しくない、即ち、180°及び180°の倍数とは異なるフリップ角度を有する3つの連続するパルスを含む高周波ないしラジオ周波数(RF)パルス系列を照射するための手段と、スピンモーメント、特に核スピンモーメントの磁気共鳴に相応する信号を検出する手段とを有する、被検体を場所的に解明する検査装置に関する。従って、本発明は、主要には、核磁気共鳴(NMR)トモグラフィの画像形成用の検査装置に関し、また、電子スピン共鳴装置にも適用されるが、それに限定されるわけではない。」

(イ)「【0018】まず、図72に略示されているように、通例のNMR装置は測定ヘッド10、電流供給部12および制御部14を含んでいる。装置の測定ヘッド10は、通例のように一定の、均質なB_(0)磁場を発生するための磁石16、さらに実質的に互いに垂直な位置関係にある3つの、一般に直線的な勾配を有する“勾配”磁場を発生するためのコイルセット18,20,22、および高周波パルスが供給されるコイル装置24を含むことができる。磁石16は、励磁ユニットに結合されている。勾配コイル18,20および22は、制御部14によって制御可能でありかつ勾配コイルにおける電流を個別に制御することができる電流供給回路28に結合されている。高周波コイル装置24は、同じく制御部によって制御される高周波発生器30によって給電され、その結果、コイル装置24には、所望の持続時間、振幅、包絡線を有する高周波パルスを所望の時間順序において供給することができる。」

(ウ) 「【0020】上記のフリップ角度は、最初の2つのパルスが、上述の形態のいずれをその都度有しているかどうかに係わりなく、有利には90°である。というのは、それが最大の信号を発生するからである。“周波数選択”パルスは、スライスパルス、ストライプパルス、選択またはズームパルスまたは場合により勾配磁場と協働して場所または周波数選択を可能にする共鳴線選択パルス(ラインパルス)のようなパルスである。」

(エ)「【0040】図33?図37は、2つまたは3つの場所選択性のパルス(スライスパルス)を用いた位置整定されたスペクトロスコピーおよびトモグラフィに対して本発明の装置のパルス系列を種々異なった勾配方向において、どのように使用することができるかを示す。殊にズームトモグラムまたは部分トモグラム、概観トモグラムとズームトモグラムの同時撮像およびポイントスペクトロスコピ-を実施することができる。図示の非選択パルスに代って、周波数選択パルスを使用することもできる。」

(オ)「【0043】図35では、ポイントスペクトロスコピ-のために用いられ、かつ3つのスライスパルスによって動作する。第1および第3スライスパルス間の位相関係は、適当な位相位置を有する複数の個別実験の加算ないし減算において(ここには簡単な例が図示されている)、所望しない信号の抑圧のために用いることができる。勾配なしに読み出されるSTE信号から、公知のように、フーリエ変換によって共鳴線スペクトラムが得られる。」

(カ)図35には、以下の図面が記載されている。当該図面、段落【0020】及び【0043】の記載より、「G-スライス、G-フェーズ、及び、G-読取りを伴う3つのスライスパルスが、時間間隔をあけて順に印加され、その後に、勾配なしに読み出される、磁気共鳴に相当する信号としてのSTE信号を検出するポイントスペクトロスコピー」が見て取れる。

(キ)図72には、以下の図面が記載されている。当該図面より、「磁石16のボアの周りに位置決めされた複数の勾配コイル18,20,22」が見て取れる。


イ 引用例1に記載された発明の認定
上記ア(ア)?(キ)を含む引用例1全体の記載を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「均質なB_(0)磁場を発生するための磁石16、及び、前記磁石16のボアの周りに位置決めされ、実質的に互いに垂直な位置関係にある3つの一般に直線的な勾配を有する“勾配”磁場を発生するためのコイルセット18,20,22と、高周波パルスが供給されるコイル装置24と、磁気共鳴に相応する信号を検出する手段と、電流供給部12および制御部14とを備え、勾配コイル18,20および22は、制御部14によって制御可能であり、かつ、勾配コイルにおける電流を個別に制御することができる電流供給回路28に接続されており、高周波コイル装置24は、同じく制御部によって制御される高周波発生器30によって給電され、その結果、コイル装置24には、所望の持続時間、振幅、包絡線を有する高周波パルスを所望の時間順序において供給する、NMR装置であって、
G-スライス、G-フェーズ、及び、G-読取りを伴う3つのスライスパルスが、時間間隔をあけて順に印加され、その後に、勾配なしに読み出される、磁気共鳴に相当する信号としてのSTE信号を検出するポイントスペクトロスコピーを行うNMR装置。」


ウ 周知例2の記載事項
(ア)「【0004】上記MRS、MRSIの方法として、PRESS法あるいはSTEAM法が挙げられる。MRSIシーケンスとして、図6にはPRESSシーケンス、図7にはSTEAMシーケンスの例を示している。いずれのシーケンスにおいても、空間3軸をi、j、kで示しており、いずれをx、y、zに対応させても良い。これらのシーケンスでは、まず、CHESS(化学シフト選択)パルスのような水信号抑圧パルスを利用して水信号を疑似飽和した後、高周波磁場パルス(高周波磁場パルス)と勾配磁場パルスで構成される局所励起パルスを3軸に印加し、3次元局所領域からのエコー信号を観測する。PRESSシーケンスではスピンエコー信号、STEAMシーケンスではスティミュレイテッドエコー信号を観測し、再構成の後、局所領域内のスペクトルを取得することができる。」

エ 周知例3の記載事項
(ア)「The advent of hyperpolarized (carbon-13) has spurred interest in imaging with this isotope in a variety of in vivo applications such as vascular imaging (MRA) and metabolic flux. One of these is C-13 labeled pyruvate and its metabolites (lactate and alanine), which are of particular interest in oncology applications. The NMR spectrum of these three metabolites is relatively sparse, making them well suited for chemical shift based imaging methods such as those commonly used to separately image water and fat. As shown in FIG. 2 , these metabolites have a single peak for lactate (Lac), a single peak for alanine (AL) and two peaks for pyruvate (PE and Pyr). In a 3 Tesla polarizing field the chemical frequency shift of alanine is approximately -242 Hz relative to lactate, pyruvate has a main peak at approximately -622 Hz and a pyruvate ester peak lies at approximately -242 Hz relative to lactate.」(第1欄第30行?第45行)
(当審仮訳)
「過分極(炭素13)が現れたことによって、血管イメージング(MRA)および代謝フラックスのようなインビボでの多様な用途にこの同位元素を用いた画像解析への関心に拍車をかけた。これらのうちの1つは、C-13で標識化したピルビン酸塩及びその代謝産物(乳酸塩及びアラニン)であり、これは、腫瘍学の応用において特に重要である。これらの3種の代謝産物のNMRスペクトルは比較的分散しており、それらは、別々に水と脂肪を画像化するために一般的に使用されるものなどの、化学シフトを利用したイメージング方法に適している。図2に示すように、これらの代謝産物は、乳酸塩(Lac)、アラニン(AL)の単一ピークおよびピルビン酸(PE及びPyr)の2のピークの単一ピークを有している。アラニンの化学的周波数シフトは、乳酸塩に対して約-242Hzである3テスラの偏向磁場において、ピルビン酸はほぼ-622Hzにおいて主ピークを有し、ピルビン酸エステルピークは乳酸塩に対して約-242Hzである。」

(イ)「The present invention enables the spectrum of a metabolite such as C-13 labeled pyruvate and its metabolites lactate and alanine to be efficiently produced when a priori information is known about the metabolites. 」(第2欄第40行?第43行)
(当審仮訳)
「代謝物に関して知られている先験的情報と本発明により、C-13で標識化したピルビン酸塩及びその代謝産物である乳酸塩及びアラニンなどの代謝産物のスペクトルを効率的に製造することができる。」

オ 周知例4の記載事項
(ア)「Fig. 2 shows the spectra obtained from a 1.5x1.5x1.5cm^(3) voxel of the phantom described above. A mixing time, TM, of 30ms was used for all experiments. The results demonstrate the efficiency of the filter in suppressing signal from uncoupled Cr and weakly-coupled Lac at various echo times. The TE dependent variation of the amplitude and lineshape of the Cit peak is a result of the J-evolution of the strongly coupled spins during each TE/2. The residual Lac signal is due to the small deviation of Lac from the weak coupling limit, and the temporal variation of its signal is also due to the J-evolution of the spins.」(Results欄)
(当審仮訳)
「図2は、上述したファントムの1.5×1.5×1.5cm^(3)ボクセルから得られたスペクトルを示し、30msの混合時間TMを全ての実験に使用した。結果は、種々のエコー時間で非結合Cr及び弱く結合されたLacからの信号抑制フィルタの効率を実証している。前掲のピーク振幅及び線形のTE依存変動は、各TE/2の間に強く結合されたスピンのJ-evolutionの結果である。残留Lac信号が弱いカップリング制限からLacの小さな偏差に起因するものであり、その信号の時間的変動がスピンの発生にも起因する。」

(イ)図1には以下の図面が示されている。

(ウ)図2には以下の図面が示されている。

(2)対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「均質なB_(0)磁場を発生するための磁石16」、「前記磁石16のボアの周りに位置決めされ、実質的に互いに垂直な位置関係にある3つの一般に直線的な勾配を有する“勾配”磁場を発生するためのコイルセット18,20,22」、「高周波発生器30」及び「コイル装置24」は、本願発明の「マグネット」、「マグネットのボアの周りに位置決めされた複数の傾斜コイル」、「パルス発生器」及び「RFコイルアセンブリ」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明1の「所望の持続時間、振幅、包絡線を有する高周波パルスを所望の時間順序」となるように、「高周波発生器30」によって「高周波パルス」が「供給」される「コイル装置24」と、「磁気共鳴に相応する信号を検出する手段」からなる構成は、本願発明の「RFパルスシーケンスを放出するようにパルス発生器と結合されかつ関心対象から得られるMR信号を受け取るように配列されたRFコイルアセンブリ」に相当する。

ウ 引用発明1の「制御部14」は、「勾配コイル18,20および22」及び「高周波コイル装置24」を制御する機能を有するものであるから、本願発明の「複数の傾斜コイル及びRFコイルアセンブリと結合されたシステム制御部」であって、「プログラムされたシステム制御部」に相当する。

エ 引用発明1の「コイル装置24」に対する、「G-スライス」を伴う「スライスパルス」及び「G-フェーズ」を伴う「スライスパルス」は、本願発明の「RFコイルアセンブリ」に対する「空間選択性であるような第1のRFパルス」及び「(空間選択性であるような)第2のRFパルス」にそれぞれ相当する。

オ 引用発明1の「G-スライス」を伴う「スライスパルス」、及び、「G-フェーズ」を伴う「スライスパルス」の後に、「時間間隔をあけて」、「G-読取り」を伴う「スライスパルス」を印加することと、本願発明の「代謝混合時間(Tm)後に第3のRFパルス(112)を放出すること」とは、「時間をおいてから第3のRFパルスを放出すること」という点で共通する。

カ 引用発明1の「3つのスライスパルス」によって発生される「STE信号」は、本願発明の「第1のRFパルス、第2のRFパルス及び第3のRFパルスの組み合わせにより生成される」「励起エコー」に相当する。

キ 本願発明の「励起エコーから得られたMR信号」は、本願明細書を参酌するに、「MR信号としての励起エコー」のことと解される。してみれば、引用発明1の「磁気共鳴に相当する信号としてのSTE信号」は、本願発明の「励起エコーから得られたMR信号」に相当する。そして、引用発明1の「STE信号」は、3番目のスライスパルスの後に発生していることから、引用発明1の当該「STE信号」は、本願発明の「前記第3のRFパルス放出後の励起エコーから得られたMR信号」に相当する。

ク 引用発明1の「ポイントスペクトロスコピーを行うNMR装置」は、本願発明の「磁気共鳴スペクトロスコピーシステム」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明1とは、
(一致点)
「マグネットのボアの周りに位置決めされた複数の傾斜コイルと、
RFパルスシーケンスを放出するようにパルス発生器と結合されかつ関心対象から得られるMR信号を受け取るように配列されたRFコイルアセンブリと、
前記複数の傾斜コイル及びRFコイルアセンブリと結合されたシステム制御部であって、該RFコイルアセンブリに対して、
そのうちの少なくとも1つが空間選択性であるような第1のRFパルス及び第2のRFパルスを放出すること、
時間をおいてから第3のRFパルスを放出すること、前記第3のRFパルス放出後の励起エコーから得られたMR信号を傾斜磁場を印加せずに検出すること、を行わせるようにプログラムされたシステム制御部と、
を備え、
前記励起エコーは、前記第1のRFパルス、第2のRFパルス及び第3のRFパルスの組み合わせにより生成される、磁気共鳴(MR)スペクトロスコピーシステム。」
の点で一致し、以下の点で一応相違する。

(相違点1)
「第1のRFパルス」及び「第2のRFパルス」について、本願発明は、少なくとも1つが「周期性のある励起プロフィールによるスペクトル選択性」であるのに対して、引用発明1は、そのような構成を示していない点。

(相違点2)
「第3のRFパルス」について、本願発明は、「代謝混合時間(Tm)後」に放出されるものであるのに対して、引用発明1は、そのような構成を有しているかどうか不明な点。


(3)判断
(相違点1)について
引用例1の段落【0020】には、「周波数選択を可能」にするような「周波数選択パルス」を使用することが記載されているし、段落【0040】においても、図35のMRスペクトロスコピーで周波数選択パルスを使用することが示唆されているものの、「周期性のある励起プロフィールによるスペクトル選択性」であることは、開示されていない。
また、周知例2には、MRスペクトロスコピーにおいてSTEを測定する技術が記載され、周知例3には、^(13)Cで標識化したピルビン酸塩及びその代謝産物である乳酸塩およびアラニンのスペクトルを取得するMRスペクトロスコピーが記載され、周知例4には、STEAMシーケンスによるMRスペクトロスコピ-が記載されているものの、上記(相違点1)の構成は、当該周知例2?4には開示されていない。
また、引用発明1において上記(相違点1)の構成を採用することは、単なる設計的事項ともいえない。
したがって、引用発明1は上記(相違点1)の構成を有しているとはいえず、また、引用発明1において、上記(相違点1)の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。

(4)小括
よって、本願発明は、相違点2について検討するまでもなく、引用発明1と同一でなく、また、当業者が引用発明1及び周知例2?4に記載の技術に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。
また、本願の請求項2?9に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるから、本願発明と同様に、引用発明1と同一でなく、また、当業者が引用発明1及び周知例2?4に記載の技術に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。


第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
(1)特許法第36条第6項第1号について
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。


発明の詳細な説明には、「局所的な代謝活動から全身性のものを分離する」こと、及び、「ある関心対象ボリュームについて過分極させた薬剤及びその代謝産物を励起し撮像する一方、該関心対象ボリュームの外部で形成された代謝産物は有効に除外する」ことを課題とし(段落【0007】)、当該課題を解決する手段として、段落【0019】-【0020】、及び、図2に記載された特定の励起パルスを使用し、かつ、十分な代謝の発生を可能とする代謝混合時間をオペレータが選択するもの(段落【0025】-【0026】)と認められるが、請求項1?9には、当該解決手段が反映されていない。
よって、請求項1?9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

(2)特許法第36条第6項第2号について
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。



ア 請求項1において、「事前規定の時間遅延」との記載があるが、「事前規定」とは、予め何をどのように規定することを意図しているのか、不明確である。(単に予め定められているという程度の意味では、TEを予め設定する通常のNMRと区別できない。)
請求項2?5,7?9も、同様の記載不備を有している。

イ 請求項1において、「スペクトル選択性」との記載があるが、ここでいう「スペクトル選択性」が、本願の段落【0020】?【0021】や図3で示されたような、周期性のある励起周波数を意図しているのか否か、不明確である。(このような記載のみでは、通常のMR測定において使用される、^(1)H核の選択励起や^(13)C核の選択励起を含むのか否かも、明確でない。
請求項2?9も、同様の記載不備を有している。

したがって、請求項1?9に係る発明は明確でない。

(3)特許法第29条第2項について
本願発明及び請求項2?9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用例A:特開平07-308307号公報
周知例B:米国特許第7202665号明細書
周知例C:A.Yahya, et al.,A Modified STEAM Sequence Designed for Strongly-Coupled Spin Systems in Proton MRS,Proc. Intl. Soc. Mag. Reson. Med.,2003年 7月10日,p.671

本願発明は、引用例Aに記載された発明と周知例B?Cに記載された事項に基づいて当業者が容易になし得た発明である。
ここで、引用例A、周知例B及び周知例Cは、各々、上記第3の1「原査定の理由の概要」における引用例1、周知例3及び周知例4と同じ刊行物であるが、上記拒絶理由(1)及び(2)の点で、特許請求の範囲に不備があったため、それらと併せて再度、特許法第29条第2項についても通知したものである。


2 当審拒絶理由の判断
(1)上記1の(1)の拒絶理由について
平成28年7月13日に提出された手続補正書によって、請求項1?9において、第1のRFパルス及び第2のRFパルスについて、「周期性のある励起プロフィール」によるスペクトル選択性であることが特定され、第3のRFパルスについて、「代謝混合時間(Tm)後」に放出されることが特定された。前者の技術的事項は、本願の段落【0019】?【0022】及び図2?3に記載された発明の課題を解決するための手段を反映したものであり、後者の技術的事項は、本願の段落【0025】?【0026】に記載された発明の課題を解決するための手段を反映したものといえる。
したがって、請求項1?9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとなった。

(2)上記1の(2)の拒絶理由について
平成28年7月13日に提出された手続補正書によって、請求項1において、「事前規定の時間遅延の後」との記載が、「代謝混合時間(Tm)後」と補正され、「スペクトル選択性」との記載が、「周期性のある励起プロフィールによるスペクトル選択性」と補正された。
上記補正によって、請求項1?9記載の技術的事項が、通常のNMR測定と区別できる程度に明確なものとなったため、請求項1?9に係る発明は明確となった。

(3)上記1の(3)の拒絶理由について
引用例A、周知例B及び周知例Cは、各々、上記第3の1の「原査定の理由の概要」における引用例1、周知例3及び周知例4と同じ刊行物であるから、上記第3の2の「原査定の理由の判断」で述べたように、本願発明が、引用例1に記載された発明と周知例2?4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえないのであるから、本願発明は、引用例Aに記載された発明及び周知例B?Cに記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
また、本願の請求項2?9に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるから、本願発明と同様に、当業者が引用例Aに記載された発明及び周知例B?Cに記載の技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)したがって、もはや、当審で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。


第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-08-25 
出願番号 特願2009-8376(P2009-8376)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61B)
P 1 8・ 113- WY (A61B)
P 1 8・ 537- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 島田 保  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 ▲高▼橋 祐介
田中 洋介
発明の名称 スペクトル-空間形成の励起エコーを用いて代謝産物を組織特異的にMR撮像するためのシステム  
代理人 黒川 俊久  
代理人 田中 拓人  
代理人 小倉 博  
代理人 荒川 聡志  

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