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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1318357
審判番号 不服2015-6839  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-10 
確定日 2016-08-26 
事件の表示 特願2011-519943「結晶」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月29日国際公開、WO2010/150865〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2010年6月25日(優先権主張2009年6月26日3件(JP)日本国)を国際出願日とする出願であって、平成26年9月11日付けで拒絶理由が通知され、同年11月28日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年1月9日付けで拒絶査定がされ、同年4月10日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに手続補足書が提出されたものである。

第2 本願発明
この出願の発明は、平成26年11月28日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
「粉末X線回折図がCu Kα放射線を用いて得られるものであって、粉末X線回折スペクトルにおいて、次の回折角2θ:9.4度、9.8度、17.2度及び19.4度で回折ピークを示す、2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}-N-(メチルスルホニル)アセトアミドのI型結晶。」
また、その請求項2に係る発明(以下「本願発明2」という。)は、以下のとおりのものである。
「粉末X線回折図がCu Kα放射線を用いて得られるものであって、粉末X線回折スペクトルにおいて、次の回折角2θ:9.0度、12.9度、20.7度及び22.6度で回折ピークを示す、2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}-N-(メチルスルホニル)アセトアミドのII型結晶。」
上記化合物の化学構造式は、この出願の明細書(以下「本願明細書」という。補正されていない。)の段落【0001】に以下のとおり記載されている。以下、同段落の記載に倣い、この化合物を「化合物A」という。


第3 原査定の理由
原査定の理由は、平成26年9月11日付けの拒絶理由通知における理由2であり、概略、この出願の請求項1?11に係る発明は、その出願前に頒布された引用文献1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。その引用文献1は国際公開第02/088084号(以下「刊行物1」という。)であり、その引用文献2は、平山令明編著,「有機化合物結晶作製ハンドブック??原理とノウハウ??」,丸善,平成20年7月25日,p.2-3,57-59,78-79(以下「刊行物2」という。)である。本願発明1及び2は、それぞれ拒絶理由で言及された請求項1及び2に係る発明に対応するものであって、どちらも「粉末X線回折スペクトルにおいて、少なくとも次の回折角2θ・・・に回折ピークを示す」と特定されていたものを、それに代えて「粉末X線回折スペクトルにおいて、次の回折角2θ・・・で回折ピークを示す」(審決注:補正箇所に下線を付した。)と補正したものである。

第4 当審の判断
当審は、原査定の理由のとおり、本願発明1及び2は、上記刊行物1に記載された発明及びこの出願の優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 刊行物
刊行物1:国際公開第02/088084号
刊行物2:平山令明編著,「有機化合物結晶作製ハンドブック??原理とノウハウ??」,丸善,平成20年7月25日,p.2-3,57-59,78-79
刊行物3:C. G. WERMUTH編,長瀬博監訳,「最新 創薬化学 下巻」,株式会社テクノミック,平成11年9月25日,p.452-453
刊行物4:日本化学会編,「化学便覧 応用化学編 第6版」,丸善,平成15年1月30日,p.178
刊行物5:長倉三郎,井口洋夫,江沢洋,岩村秀,佐藤文隆,久保亮五編,「岩波 理化学辞典 第5版」,第5版第8刷,2004年12月20日,岩波書店,p.504
刊行物6:緒方章,菰田太郎,新延信吉著,「化学実験操作法」,訂正第36版,昭和52年6月20日,南江堂,p.55-59,526-533
刊行物7:日本化学会編,「第4版 実験化学講座1 基本操作I」,第2刷,丸善,平成8年4月5日,p.184-186
刊行物8:平山令明編著,「有機結晶作製ハンドブック」,丸善,平成12年4月20日,p.109-113
刊行物3?8は、刊行物2に加えて、この出願の優先日当時の技術常識を示すために引用するものである。

2 刊行物に記載された事項

ア 刊行物1

(1a)「1.次の一般式(1)で表される複素環誘導体またはその塩を有効成分とする ΡGI_(2) 受容体作動剤。
R^(1)、R^(2) は、同一または異なって、置換されていてもよいアリールを表す。該置換基は、同一または異なって、ハロゲン、アルキル、ハロアルキル、アリー

ルアルキル、アルコキシ、アルキルチオ、アルコキシアルキル、アルキルスルホニル、ヒドロキシ、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、カルボキシ、シアノおよびニトロからなる群から1?3個選ばれる。
Yは、N、N→OまたはCR^(5) を表し、Zは、NまたはCR^(6) を表す。R^(5)、R^(6) は、同一または異なって、水素、アルキルまたはハロゲンを表す。
Aは、NR^(7)、O、S、SO、SO_(2) またはエチレンを表す。R^(7) は、水素、アルキル、アルケニルまたはシクロアルキルを表す。
Dは、ヒドロキシで置換されていてもよいアルキレンまたはアルケニレンを表すか、または、AとDが一緒になって、次の式(2)で表される二価の基を表す。

rは、0?2の整数を表し、qは2?3の整数を表し、tは0?4の整数を表す。
Eは、フェニレンまたは単結合を表すか、または、DとEが一緒になって、 次の式(3)で表される二価の基を表す。

uは、0?2の整数を表し、vは、0または1を表す。
Gは、O、S、SO、SO_(2) またはC(R^(8))(R^(9))を表す。R^(8)、R^(9) は、同一または異なって、水素またはアルキルを表す。
R^(3)、R^(4) は、同一または異なって、水素またはアルキルを表す。
Qは、カルボキシ、アルコキシカルボニル、テトラゾリル、カルバモイル、モノアルキルカルバモイル、ジアルキルカルバモイルまたは次の式(22)で表される基を表す。

R^(10) は、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ヒドロキシ、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいアリールオキシまたは置換されていてもよい複素環基を表す。かかるアルキル、アリール、アリールオキシまたは複素環基の置換基は、同一または異なって、ハロゲン、アルキル、ハロアルキル、アリールアルキル、アルコキシ、アルキルチオ、アルコキシアルキル、アルキルスルホニル、ヒドロキシ、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、カルボキシ、シアノおよびニトロからなる群から1?3個選ばれる。
・・・・・・・・・・・・・・・
5.複素環誘導体が、次の(1)?(32)の化合物からなる群から選択される化合物である、請求項1記載の複素環誘導体またはその塩を有効成分とするPGI_(2) 受容体作動剤。
・・・・・・・・・・・・・・・
(3)2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}酢酸
・・・・・・・・・・・・・・・
(32)2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}-N-(メチルスルホニル)アセトアミド」(99?100頁及び102?105、請求の範囲の請求項1及び5)
(1b)「技術分野
本発明は、医薬として有用な新規複素環誘導体またはその塩、及びそれを有効成分として含有するPGI_(2) 受容体作動剤に関する。」(1頁3?5行)
(1c)「背景技術
プロスタグランジンI_(2)(PGI_(2))は、生体内でアラキドン酸からプロスタグランジンH_(2)(PGH_(2))を経由して産生される物質であり、強力な血小板凝集抑制作用、血管拡張作用、脂質沈着抑制作用、および白血球活性化抑制作用等の多岐に渡る薬理効果を有している。従ってPGI_(2) は、末梢循環障害(例、慢性動脈閉塞症、間欠性跛行、末梢動脈塞栓症、振動病、レイノー病)、全身性エリテマトーデス、経皮的冠動脈形成術(PTCA)後の再閉塞・再狭搾、動脈硬化症、血栓症、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、高血圧、虚血性疾患(例、脳梗塞、心筋梗塞等)、一過性脳虚血発作、糸球体腎炎等の治療、または末梢血管再建術若しくは血管新生療法における血管形成促進に有効と考えられている。
しかし、PGI_(2) は、医薬品として用いるには、化学的に不安定であり、生物学的半減期も非常に短く、さらに目的とする作用とその他の作用との分離が困難であるため副作用が生じやすいなどの問題点がある。薬効の持続、副作用の軽減ならびにコンプライアンスの改善等を目的として、プロスタグランジン類の持続性製剤の研究・開発が行われてきたが、満足な成果は得られていない。
このような状況下において、PGI_(2) 骨格を有さず、PGI_(2) 受容体に対する親和性に優れ、化学安定性においても優れたPGI_(2) 受容体作動薬は、既存のPGI_(2) 製剤よりも医薬品としての優れた治療効果を示すと期待され、研究・開発が盛んに行われている。
例えば、イミダゾール誘導体・・・、オキサゾール誘導体・・・、ピラゾール誘導体・・・、ピラジノン誘導体・・・、オキシム誘導体・・・がPGI_(2) 受容体作動作用を有することが知られている。
2,3-ジフェニルピラジン誘導体・・・が除草作用を有すること、2,3-ジフェニルピリジン誘導体および5,6-ジフェニルピリミジン誘導体・・・がロイコトリエンB_(4) 拮抗作用を有すること、および2,3-ジフェニルピリジン誘導体・・・が一酸化窒素合成阻害作用を有することが知られている。しかしながら、これらの化合物がPGI_(2) 受容体作動作用を有することは知られていない。」(1頁6行?2頁9行)
(1d)「発明の開示
本発明の目的は、新規なPGI_(2) 受容体作動剤、及び新規な複素環誘導体を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成するために、種々の化合物を合成し、検討する過程において、次の一般式(1)で表される複素環誘導体(以後、複素環誘導体(1)ともいう。)が優れたPGI_(2) 受容体作動作用を有することを見出し、本発明を完成するに到った。

R^(1)、R^(2) は・・・(審決注:式(1)の置換基及び部分構造の説明は、摘示(1a)の請求項1と同じなので、省略する。)・・・選ばれる。」(2頁10行?4頁3行)
(1e)「式(1)で表される複素環誘導体の中で好ましい化合物は、具体的には次の(1)?(32)の化合物である。
・・・・・・・・・・・・・・・
(3)2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}酢酸
・・・・・・・・・・・・・・・
(32)2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}-N-(メチルスルホニル)アセトアミド」(6頁10行?8頁29行)
(1f)「本発明に係る化合物は、例えば、以下の製法により製造することができる。
下記の製法において、原料が反応させたくない置換基(例えば、ヒドロキシ、アミノ、カルボキシ)を有する場合には、原料をあらかじめ公知の方法により、保護基(例えばメトキシメチル、2-メトキシエトキシメチル、ベンジル、4-メトキシベンジル、トリフェニルメチル、4,4’-ジメトキシトリチル、アセチル、tert-ブトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、フタロイル、テトラヒドロピラニル、tert-ブチルジメチルシリル)で保護した後に反応に用いるのが一般的である。反応後に、接触還元、アルカリ処理、酸処理などの公知の方法により保護基を脱離することができる。」(24頁5?13行)
との記載に続けて、「製法1」?「製法12」(24?35頁)として、一般式(1)で表される化合物の製造スキームが記載され、「参考例1」?「参考例28」(37?52頁)として、合成中間体の製造例が記載されている。
(1g)「実施例1」?「実施例101」(52?94頁)として、一般式(1)で表される化合物の、具体的な化合物の合成実施例が記載され、以下のとおり、一部を除いて、油状物、結晶、アモルファス、固体の別が記載され、概ね、 ^(1)H-NMRデータ、融点又は元素分析値が記載されている。
油状物とされるのは、実施例1?11、14?17、20?35、39、41
結晶とされるのは、実施例12、13、19、36?38、40、43?45、47?52、54?62、65?68、71?73、76、77、79、80、82
アモルファスとされるのは、実施例18、46、53、63、69、70、78、81、83
固体と記載されるのは、実施例101
上記の区別が記載されていないのは、実施例42、64、74、75、84?100
また、「試験例1」?「試験例5」(94?97頁)として、実施例で合成された一般式(1)で表される化合物のいくつかについて生理活性の試験の手順と結果が記載されている。試験の標題と試験された化合物の実施例番号は以下のとおりである。
試験例1 ヒト血小板凝集阻害試験 実施例42、43、46、48、64、65、73?75、78
試験例2 ヒト血小板膜への ^(3)H-Iloprost結合阻害試験 実施例64
試験例3 ヒト血小板内cAMP増加作用 実施例64
試験例4 マウス簡易急性毒性試験 実施例42、64
試験例5 サルex vivo血小板凝集阻害試験 実施例84
(1h)「実施例1
2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}酢酸tert-ブチル
工程1
4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]-1-ブタノール
2-クロロ-5,6-ジフェニルピラジン30gと4-(イソプロピルアミノ)-1-ブタノール131.22gを混合し、190℃で10時間加熱攪拌した。反応液を放冷後、水に注ぎジエチルエーテルで抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して、目的化合物22.96gを得た。
無色結晶 融点102?103℃
工程2
2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}酢酸tert-ブチル
4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]-1-ブタノール22.84gをベンゼン160mlに溶解し、硫酸水素テトラ-n-ブチルアンモニウム10.73gと40%水酸化カリウム水溶液160mlを加えた。氷冷下、激しく攪拌しながら、ブロモ酢酸tert-ブチル10.73gを内温が5?10℃になるように滴下した。45分攪拌後、氷浴をはずし室温で1時間攪拌した。反応液を水でうすめ、ジエチルエーテルで抽出した。抽出液は、水洗後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧下に留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、目的化合物を淡黄色油状物21.70gとして得た。
^(1)H-NMR(CDCl_(3))δ:1.27(6H,d),1.48(9H,s),1.55?1.90(4H,m),3.45(2H,t),3.58(2H,t),3.95(2H,s),4.82(1H,qn),7.17?7.50(10H,m),8.00(1H,s) 」(52頁22行?53頁19行)
(1i)「実施例42
2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}酢酸
2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}酢酸tert-ブチル21.07gをメタノール200mlに溶解し、1N水酸化ナトリウム水溶液60mlを加えた。2時間加熱還流後、溶媒を減圧下留去し、残留物に水を加え溶解させた。ジエチルエーテルで洗浄後、水層は1N塩酸60mlで中和し、酢酸エチルで抽出した。抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下溶媒を留去後、残留物をジイソプロピルエーテルで洗浄し、目的化合物15.82gを得た。
元素分析値(C_(25)H_(29)N_(3)O_(3) として)
計算値(%) C:71.58 H:6.97 N;10.02
実測値(%) C:71.66 H:7.03 N:9.92 」(72頁10?22行)
(1j)「実施例84
2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}-N-(メチルスルホニル)アセトアミド
アルゴン雰囲気下、実施例42で得られた2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}酢酸300mgの無水テトラヒドロフラン5ml溶液に1,1’-カルボニルジイミダゾール128mgを加え、室温30分攪拌後、30分加熱還流した。室温まで放冷し、メタンスルホンアミド69mgを加え、10分攪拌後、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0.]-7-ウンデセン0.11mlを滴下した。室温で終夜攪拌後、反応液を水でうすめ、ジエチルエーテルで抽出した。無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下溶媒を留去し、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィ一で精製し、目的化合物272mgを得た。
元素分析値(C_(26)H_(32)N_(4)O_(4)Sとして)
計算値(%) C:62.88 H:6.49 N:11.28
実測値(%) C:63.06 H:6.47 N:10.98」(88頁15?29行)
(1k)「試験例5
サルex vivo血小板凝集阻害実験
実験方法
実施例84の化合物を0.3または1mg/kgの用量で、それぞれ2匹のカニクイザル(Macaca fascicularis、オス、3?5歳)に経口投与し、投与前および投与から2、4、8時間後に、3.8%クエン酸水溶液を採血量の1/10容含んだ注射筒を用いて各4.5ml採血した。クエン酸加血液を200×gで10分間遠心分離して、上層の多血小板血漿(PRP)を採取し、更に残りの血液を1500×gで10分間遠心分離してから上清を回収し、乏血小板血漿(PPP)を得た。PRP190μlを測定用キュベットに入れ、37℃で1分間加温した後、5?30μM ADP溶液10μlを添加して凝集を惹起した。PPPを盲検として、血小板凝集測定装置(PM8C、メバニクス、東京)にて血小板凝集率を測定し、薬剤投与前の凝集率と投与後の凝集率の比較から下式により血小板凝集阻害率を求めた。その結果を表3に示す。
血小板凝集阻害率(%)=
100- (薬剤投与後の凝集率) / (薬剤投与前の凝集率)×100

実施例84の化合物は投与2?8時間にかけ持続的かつ用量依存に血小板凝集を阻害し、薬効持続が長いことが明らかになった。」(96頁19行?97頁17行)

イ 刊行物2
(2a)「1.2 結晶を利用する
いま,純度99.9%の分子を結晶化させることを考える.・・・純度99.9%は一般的には非常に高い純度にみえるが・・・その純度のままで結晶になることはほとんどない.逆に,99.9%の純度の物質から結晶が得られたとすると,その結晶中での物質の純度は99.9%よりはるかに高くなっているといってよい.すなわち,通常物質を結晶化するということはその物質をきわめて高純度にすることを意味し,結晶化は精製法の重要な手段の一つになっている.
物質の性質や機能を理解するためには,その構造を詳しく知る必要がある.・・・結晶は物質の構造を解明するうえでも有用な状態であるといえる.物質の精密な立体構造の解析を目指すなら,その物質をまず結晶化させなくてはならない.
結晶中では原子群が特定の規則配列をしているが,原子群の配向が,その物質の性質や機能あるいはその物質の生産工程に重要な影響を与える場合が少なくない.二,三の例を示そう.工業的にある物質を生産し,精製する過程では結晶化を行うことが多い.原子群の配向は後で述べるようにかならずしも一通りではなく,多くの場合何通りかある.その中で特定の配向をとると非常に細かい結晶になるため,その結晶のろ過(審決注:「ろ」は、原文は「さんずいに戸」であるが、ひらがなで表記する。以下同じ。)を妨害し,精製を困難にしてしまうことがある.また,原子群がある種の配向をとった結晶はきわめて吸湿性に富み,その貯蔵を著しく難しくしてしまうことがある.さらに,非線形光学材料の場合には,結晶を構成する分子がたとえ同じであっても,結晶中の分子の配向のしかたによっては望むべき性質がまったく現れないこともある.このように,結晶中の分子の配向のしかたは物質の工業的用途を考えるうえで非常に重要である.特定の物質から望ましい性質を最大限に引き出すためには,それを実現するように,その物質を結晶化させなければならない.
以上のように結晶化は,少なくとも物質の精製,物質の構造解析,そして機能をもった物質をつくり出すうえで非常に重要な技術である.」(2頁下から7行?3頁24行)
(2b)「医薬品の大半は化学合成あるいは天然物由来の有機化合物であり,それらは製造の最終工程で晶析により結晶性粉末として調製されることが多い.
結晶は晶析条件に依存してさまざまな構造,形状,大きさ,凝集状態などを示すが,それら固体物性あるいは粉体物性は,医薬品の生物学的有効性,安定性,製剤化などに重要な影響を与える.たとえば,結晶構造の異なる多形や晶癖の異なる結晶の溶解速度は一般的に異なるため,医薬品の生物学的有効性に相違が生じる.こうした相違は,散剤,錠剤,顆粒剤,カプセル剤などといった固体状態の医薬品を経口投与する場合においてとくに顕著に表れる.医薬品の作用部位への到達濃度を決定する要因の一つに投与部位からの吸収の効果があり,経口投与される医薬品では製剤から放出される主薬の溶解性が消化管での吸収に大きく影響するからである.
結晶多形の密度や融点,格子エネルギーなどは異なり,結果として熱や湿度,光といったストレスに対する結晶の物理的あるいは化学的な安定性に相違が生じる.このような理由から保存条件によっては準安定形から安定形への結晶転移が生じ,医薬品の生物学的有効性が変わることもあり得る.したがって,安定性の観点からは,一般に常温で安定な結晶形が選択されることが多い.しかし,一方で準安定形の溶解性が安定形と比較して優位に優れる場合があることから,あえて準安定形を開発の基本形として選択し,生物学的有効性に優れた製剤を設計することもある.
結晶中に溶媒が取り込まれた溶媒和物の結晶は,厳密な意味での結晶多形と区別するため疑似結晶多形と称される.・・・溶媒和物の中でも水和物はとくに重要である.・・・
医薬品は人体に直接作用するものである.疾病の治療や予防に有効であることはもとより,期待通りの薬効が発揮されるように一定の品質をもち,安全性が確保されることが強く要求されている.したがって,ICH(International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use:日米EU医薬品規制調和国際会議)のガイドラインなどで結晶多形・溶媒和物の取り扱いに関するディシジョンツリーが提示されている.
医薬品の結晶化は通常、溶液の冷却,溶媒の蒸散,低溶解性の溶媒の添加,塩の形成などの方法と,種結晶をかくはん下添加する方法などをさまざまに組み合わせることによって達成される.これらの結晶化条件にかかわる溶媒の特性,過飽和度,温度などのさまざまな因子が,結晶の特性を決定する.したがって,晶析条件と析出する結晶のさまざまな特性の相関を明確にし^(1,2)),医薬品の品質を保証することが重要である^(3)).本章では,そのような医薬品の品質設計の観点から結晶化を概説する.」(57頁3行?58頁末行)
(2c)「4.2.1 結晶多形の検索
複数の結晶相が存在する結晶多形は,医薬品においてもしばしば認められる現象である.しかし,結晶構造と晶析条件との相間はいまだ解明されておらず,結晶多形の有無は試行錯誤を繰り返しつつ求めざるを得ないのが現状である.したがって,偶然に見いだされる場合も少なくないが,結晶多形の検索に重要な影響を与えると思われる各因子を適宜組み合わせ,比較的簡便な方法で検索しているいくつかの報告もある^(4,5)).
表4.1はその例の一つで,抗高血圧剤あるいは利尿剤として広く用いられているFurosemide(フロセミド)・・・での析出条件と,各結晶形の析出挙動をまとめたものである^(4)).医薬品における結晶多形の制御は溶媒の選択によってなされることが多いが,ここでも水を含めて18種類の溶媒が検討に用いられた.これら溶媒に対して,さまざまな冷却法や溶媒の蒸発法を組み合わせ・・・

」(59頁2?末行)
(2d)「4.5.1 一般的な結晶化条件
医薬品を開発するうえで,初期段階においては種々の条件下における結晶多形の検索を行い,製剤化検討の結果なども考慮して開発の基本形となる結晶形を選択する.その後,工業化に向けたスケールアップの検討を行い,工場での生産が安定に行えるように準備する必要がある.したがって,開発初期段階における結晶多形の有無などを含めた結晶状態の検討は,医薬品の開発を効果的に進めるうえで非常に重要である.晶析条件に関する文献も多いが^(35)),ここでは,医薬品を結晶化する一般的な条件を示し,さらに医薬品の結晶化の実例を記述する.
一般に使用される晶析溶媒としては,水,メタノール,エタノール,1-プロパノール,2-プロパノール,1-ブタノール,2-ブタノール,1-ペンタノール,酢酸エチル,アセトン,メチルエチルケトン,トルエン,シクロヘキサン,シクロヘキサノン,ジメチルホルムアミドなどである.
結晶化はおよそ以下のような方法を用いる.
(1)試料を水浴上で加温した溶媒に加え,飽和溶液を調製する.熱時ろ過し,残留試料を除いた後,室温付近まで徐々に冷却する.
(2)試料を水浴上で加温した溶媒に加え,飽和溶液を調製する.熱時ろ過し,残留試料を除いた後,氷などにより急冷する.
(3)試料を適当な溶媒に溶かした液に,試料が溶けにくい溶媒を滴下する.
(4)試料を適当な溶媒に溶かした液をエバポレーターなどを用いて脱溶媒する.
(5)試料を適当な溶媒(引火しないもの)に溶かした液を噴霧する.
(6)試料をホットステージなどを用いて融解し,室温付近まで徐々にあるいは急激に冷却する.」(78頁15行?79頁9行)
(2e)「4.5.2 結晶化および結晶データ
(1)白内障・神経障害治療薬M79175・・・
α形:β形を融解するまで過熱した後,冷却する.
β形:過熱したエタノール-水混液の試料溶液を徐冷する.
・・・・・・・・・・・・・・・
(2)抗ヒスタミン剤Doxylamine succinate(ドキシラミンコハク酸塩)・・・
I形:かくはんしながら沸点近くまで加熱した無水エタノールに溶解し,あらかじめ温めておいたフィルターおよびフラスコを用いてろ過する.得られたろ液は,室温まで徐冷する.
・・・・・・・・・・・・・・・
II形:医薬品分子を加熱融解し数時間放置する.
(3)非ステロイド型抗炎症剤Diclofenac(ジクロフェナク,N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドン・・・
無水物:試料を数種の有機溶媒から析出させる.
・・・・・・・・・・・・・・・
水和物:無水物の水溶液を40℃に加温し,室温で水を徐々に除き結晶を得る.」(79頁10?末行)

ウ 刊行物3
(3a)「IV.メソモルフィック結晶(mesomorphic crystalline)^(〔訳註5〕) の取扱い□
ある種の物質は結晶となるときに複数の結晶状態をとりうることが知られている.その結晶状態に決定する要因には,結晶化溶媒の物性,結晶化するときの温度,不純物の有無などがある.このような性質を結晶多形または単に多形(polymorphism)という.可能な結晶状態のなかには準安定な結晶がある.準安定状態(metastable state)の結晶はより安定な状態に変化して異なる物理化学性質を示すことになる.この変化は2つのタイプに分けられる.可逆的転移である互変(enantiotropy)と不可逆的転移の単変(monotropy)である.前者は文字どおり多形のそれぞれの状態が相互変換可能な場合である.後者は,熱力学的に不安定な状態からより安定な状態へ変化する現象であり,一般的にはこの種の転移が多い.ある薬物が異なる結晶形を示すときに,それぞれの結晶形を識別する方法には,融点測定,溶解度測定,示差走査熱量測定,熱重量分析,赤外分光,X線回折,走査電子顕微鏡による形態観察などがある.
一般論として,準安定状態の物質には安定状態に比べてその溶解度および溶解速度が大きいという特徴がある.極端な場合,両状態の溶解度の差が4倍以上にもなることがあるが^(21,22),通常よく観察されるのは溶解度が50?100%程度上昇する現象である^(23).一例としてここではリボフラビン(riboflavin)を挙げる.この薬物には3種の多形があり,その溶解度はそれぞれ60mg/L,810mg/L,1200mg/Lと大きな開きがみられる^(24).また,準安定状態の結晶を溶媒と接触できるようにしておくと,この結晶は最も安定な状態に徐々に変化し,これに伴って溶解度が低下することがある.たとえば,ノボビオシン(novobiocin)は酸性のアモルファス固体(無定形または非晶質固体)であるが,溶解度の非常に低い結晶に変化しやすい^(25).このためにノボビオシンを懸濁液として投与することは困難である.薬物を噴霧乾燥(spray drying)によって溶解度の高いアモルファス固体とすることがある.この場合,純粋な薬物を噴霧しても良いが,実際には均質な分散薬物を得るために添加剤を加えることが多い^(26).
ある結晶状態が他の状態に変化する現象すなわち転移は,工業的な製造プロセスにおいても起こりうる.たとえば,クロロキン二リン酸(chloroquine diphosphate)の一水和物の結晶を高温で保存しておくと無水物となることがある.この脱水反応は薬物を粉砕する際にも起こりやすい.さらにクロロキン二リン酸無水物を湿度の高い状態で保存していると他の水和物に転移することもある.また,薬物の原末を圧縮する際にも結晶形の変化が起こりうる^(27).クロラムフェニコール(chloramphenicol)のステアリン酸塩の場合は,A結晶(form A)をコロイドシリカ(coloidal silica)の存在下で粉砕するとB結晶(form B)に変化することが知られている^(28).以上の事例から明らかなことではあるが,固体の薬物を製造する場合は,プロセスを標準化するのと同時に,品質管理の一環として固体薬物の結晶状態に関するより精密な検査を行うことが特に重要であることをここで強調しておきたい.」(452頁下から12行?453頁20行)

エ 刊行物4
(4a)「4.3.3 晶析
a.晶析とその役割
晶析は,目的の特性を有する結晶を,再現性よく,確実に製造する技術である.晶析は,化学物質の製造全般に広く用いられており,分離精製のみならず,機能性固体(結晶)の生産という観点からも重要である.たとえば,糖・アミノ酸などの食品の製造,記録媒体としてのα-鉄(α-Fe)・マグへマイト(γ-Fe_(2)O_(3))などの電子材料の製造,ナノ粒子の製造,さらにその90%が結晶である医薬品(原薬)とその中間体の製造などであり,いずれも結晶特性の制御が高度に要求されている.
1998年の調査(化学工学会晶析技術特別研究会)によれば,わが国で行われている晶析は,80%が溶液からの晶析である.また,75%が回分法で行われている.次に融液からの晶析が多く,大規模の精製晶析についても優れた技術,たとえばKCP法(呉羽テクノエンジ)が開発されている.
b.結晶特性
おもな結晶特性は,晶癖・粒径・粒径分布・純度・多形・結晶化度である.これらの特性が異なれば,溶解度・溶解速度・安定性・比容・操作性(ろ過性(注:ろ過の「ろ」は原文ではさんずいに戸であるが、ひらがなで記す。以下も同じ。)・粉じん爆発性・打錠性・計量性)などが異なり,医薬品ではとくにバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が異なることから,結晶特性の制御は非常に重要である.
(i) 晶癖 ・・・
(ii) 粒径・粒径分布 ・・・
(iii) 純度 結晶への不純物の取込みについては,二つのメカニズムがある.母液の結晶への取込み,あるいは結晶表面への付着によるものと,結晶構造への組込みによるものである.前者は,結晶成長の粗さ,凝集などによって引き起こされるものであり,晶析速度の調整,洗浄などで解決する可能性がある.後者は,溶媒の変更,多形の選択など根本的な変更が必要である.結晶溶媒(結晶構造に組み込まれた溶媒)も不純物と見なすことができる.
(iv) 多形 化合物は同じで,結晶構造が異なるものである.結晶溶媒の有無で溶媒和結晶は擬多形とよばれている.多形結晶は,外観のみでは判断できない.粉末あるいは単結晶X線回折・赤外吸収(IR)・示差走査熱量測定(DSC)などで同定する必要がある.多形は,溶媒の種類・温度・冷却速度・過飽和度・かくはん速度・不純物などに影響を受ける.溶媒によって異なる多形が析出する場合が多く,重要な溶媒については混合溶媒も含めて,どのような結晶が析出するか,点検することが必要である.溶媒を選択することによって,目的の結晶多形が唯一選択的に得られる場合と,いったん析出した結晶多形(準安定結晶)が経時的に他の多形(安定結晶)に転移する,いわゆる溶媒媒介転移が起こる場合がある.溶媒媒介転移が起こるのは,準安定結晶と安定結晶の溶解度が異なるためである.どの多形が析出するかはオストワルドの段階則(Ostwald's step rule;状態の移行は,エネルギー的にもっとも近い状態を経由して順次に進行するという法則)に従うとされており,通常,溶解度が大きいほうの結晶が先に析出する.しかし,オストワルドの段階則に従わない場合もあり,多形を制御するためには,平衡論(オストワルドの段階則)のみではなく,速度論的な検討を行う必要がある.
c.晶析操作
晶析操作としては,冷却晶析,濃縮晶析,反応晶析,貧溶媒晶析が多い.・・・」(178頁左欄5行?右欄下から7行)

オ 刊行物5
(5a)「再結晶 [英 recrystallization・・・][1]結晶性物質を溶媒に溶解し,適当な方法でふたたび結晶として析出させる操作をいう.そのためには,温度による溶解度の相違を利用して高温の飽和溶液を冷却するとか,溶媒を蒸発させて濃縮するとか,溶媒に他の適当な溶媒を加えて溶解度を減少させるなどの方法が取られる.共存する不純物は多くの場合溶液中に残るので,精製の方法としてよく使われる.」(504頁右欄017の項)

カ 刊行物6
(6a)「有機溶剤
・・・・・・・・・・・・・・・
エタノール(bp78.4°,水と混和する)
一般に無機物はエタノールに溶けにくく,有機物は溶けやすいから,エタノールは有機化合体と無機化合体とを分離するときに,よく使われる.・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
エタノールは、水と随意の比例で混和する点で,その溶剤としての価値は著しく高い.このエタノールの性質は,特に再結晶の際の溶剤として使うのに便利である.
・・・・・・・・・・・・・・・
プロパノール(bp97°,水と混和する),
イソプロパノール(bp82°,水と混和する)
・・・・・・・・・・・・・・・
ブタノール(bp117°,1:12の割合で水に溶ける)
・・・・・・・・・・・・・・・」(55頁16行?59頁末行)
(6b)「分別結晶(分別晶出)
2種あるいは,それ以上の物質の混合物を,分離精製するには,再結晶^(*)(Recrystallization・・・)なる仕方による.各物質の溶剤への,溶解度(Solubility・・・)は違っているので,その溶剤を適当に使った場合に,一方の物質は析出し,他方の物質は母液中に残る性質を利用するのである.
また2物質の,同一溶剤中から晶出する速度が,著しく異っているときにも,分別結晶の仕方によって,両物質を分離できる.」(526頁16?22行)
(6c)「飽和溶液を冷やして結晶させる仕方
この仕方は再結晶の一般的な仕方であって,普通に“再結晶を行なう”というときには,この仕方か,あるいはつぎに述べる仕方による.
再結晶を行なうには,溶質を加えた溶剤を沸点まで熱して,その中に溶質を溶けるだけ溶かし,熱時にこし分け,ろ液を冷やして結晶を析出させる.
溶剤の選び方 ・・・予試験を各種の溶剤について行ない,冷熱両時の溶解度の差の最大なものを採用する.しかし・・・結晶を母液からこし分けることが困難なものや,結晶の析出速度があまりに速いものは,操作が面倒であるから・・・他のものを選ぶ方がよい.・・・
物質の溶かし方 ・・・一般に溶剤は過量に使わないようにする.物質が固くて大きな塊になっているときには,溶剤を加えて熱しても,すぐにはその温度における飽和溶液にならない.それゆえに,まずできるだけ細かく砕き・・・,最小必要量の溶剤を加える.熱して液が沸き始めても,なおしばらくその状態をつづけて,物質がどうしても全溶しないときに,はじめて溶剤を追加する.二硫化炭素,石油エーテル,エーテル,アセトン,エタノール,ベンゼン,クロロホルムその他の揮発性溶剤を使う場合には,物質を三角フラスコに入れ,還流冷却器をつけて水浴上で加温する.
物質によっては,試験管で行なった上記の“溶剤の選び方”のときとは違って,大量に溶かそうとすると,溶剤を充分に加えてあっても,なかなか,急に溶けないものがある.そして初めに,よく粉末にしておいたものが,液中で団塊になって,いつまでも小さくならないことがある.このような場合には,引火しないように注意しながら,冷却器を一時取はずして,ガラス棒・・・で塊を砕いてから,前同様加温をつづけると速く溶ける.こうして物質が全部溶けて,異物やろ紙の遷移だけが,液中に浮遊しているようになれば,温時にろ過する.・・・
さて透明なろ液を得てから,冷やして結晶を析出させるのであるが,その冷やし方は,大きな結晶を作ろうとするのと,小さな結晶を作ろうとするのとで違ってくる・・・・大きな結晶を作る場合には・・・極ゆるゆると冷やす.また小さな結晶を作る場合には・・・急に冷やす.いずれの場合でも,液がある温度まで下がっても,すぐにその条件で析出し得る結晶が全部析出するものではないから,しばらくそのまま放置して,待たなければならない.このようにして常温で出た結晶をこし分ける.さらにその「ろ液」を冷やすと,なお多量の結晶を得る場合がある.」(527頁26行?529頁17行)
(6d)「溶液を濃縮して結晶させる仕方
物質の溶液を蒸発濃縮して,結晶を析出させることは,物質を精製する点からいえば,“飽和溶液を冷やして結晶させる仕方”(p.527)よりも好ましくはないが,溶液を冷やしただけでは,結晶の出る量が少いから,通常は適当に濃縮して結晶を出す場合が多い.濃縮結晶を行なう場合は,
○1(注:原文は○の中に1であるが、このように表記する。以下も同じ。) 溶剤を使いすぎたとき 誤って溶剤を多量に使いすぎたときは,無論のことであるが,物質が飽和溶液になる量の溶剤で溶かすことは,操作に時間がかかるから,物質を溶かしやすい程度に溶剤を幾分過量に加え,つぎに適当に濃縮して,結晶を出すことはよく行なっている.
○2 物質を熱して溶かすことができないとき 物質が熱のために,分解しやすくて,熱することができない場合には,まず物質を常温で溶剤に飽和させ,ろ過してから減圧,低温で溶剤の一部を留去する.
○3 冷熱両時の物質の溶解度に大差がないとき ・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
溶剤の一部分を蒸散させて結晶させるときの結晶容器は,物質の性質や,溶剤の蒸発を常温で行なうか,熱時で行なうかなどによって違ってくる.常温で蒸発させる場合には,口が広くて浅い「さら」を使う.
・・・・・・・・・・・・・・・
溶剤がエーテル,アセトンなどのように引火性,もしくは高価なもののときには,水浴上で蒸発することは避け,溶剤を蒸留回収する.この際には容器として三角フラスコを使い,蒸留中にフラスコ内の液の周囲に,乾燥固着してくる結晶は,ときどきフラスコを振り動かして,液中に落して溶かすか,または固着しているフラスコの外壁に,口で息を吹きかけて溶かす・・・.
第1回の結晶をこし分けた母液をそのまま放置するか,または適度の濃さまで蒸発または蒸留濃縮すると,第2回の結晶を得るが,実際には冷やして析出させる仕方と,濃縮して析出させる仕方とを,あわせて行なう場合が多い.」(531頁17行?532頁下から5行)
(6e)「溶液に他の液体を加えて結晶させる仕方
溶液を冷やすか,溶剤を蒸散または留去して,過飽和の状態に導く仕方以外に,溶液に他の液体を混ぜて,溶質の溶解度を減じ,結晶を析出させる仕方もある.
これに使う溶剤のおもな組合わせは,つぎの通りである.
・・・・・・・・・・・・・・・
この仕方のうち,最も多く使われるものは,水とエタノールとである.この二つは互に随意の比に混じるから,一方に溶けて他方に溶けない性質の物質は,この二つの溶剤を適当に使い分ければ,よく結晶する.」(533頁15?26行)

キ 刊行物7
(7a)「a.再結晶
物質の精製法として蒸留法,および再結晶法は基本的操作である.再結晶は,加熱下で溶質を溶媒に溶解して飽和溶液とし,次にこの溶液を冷却すると溶質の溶解度が下がり,過剰の溶質は沈殿(結晶)し,一方,不純物は飽和溶液に達せず,そのまま溶液に留まる.・・・不純物・・・は再結晶により除去できることになる.
(i)試料の純度 再結晶を行う試料の純度は特に有機物では最初に薄層クロマトグラフィーで確認しておく.その際,用いた展開剤の極性と薄層上のR_(f) 値との関係は再結晶の溶媒選択に役立つし,また不純物の大よその極性も分かる.精製する物質の純度は高い方が望ましく,純度があまりにも低すぎる場合には、蒸留,カラムクロマトグラフィーや活性炭による脱色を行うなどして,夾雑物をある程度除去しておいた方がよい.勿論,精製が可能かどうかは再結晶の原理からみて,溶解度曲線の形に関係するので,不純物が多い場合にも,純粋な結晶が得られることも少なくない.
(ii)溶媒の選択 再結晶溶媒の選択には一定の規則があるわけでなく,試行錯誤により選択するのが基本である.したがって,試料約20mg程度を試験管で溶媒に対する溶解性や結晶性を調べてみるとよい.既知化合物であれば,化合物辞典などで再結晶溶媒や溶解度を調べるのがよい^(1)).未知化合物においても,同族体の既知化合物のデータを参照するとよい.しかし,古くから,同族体は同族体をよく溶かすという経験則があり,これを基本にして選ぶとよい選択ができる.つまり精製しようとする化合物が,水素結合性であるのか非水素結合性か,極性基または疎水基をもっているかどうか,イオン性であるかどうかなどである.一般には水素結合性,極性を考慮すれば,次の6種の溶媒の中から選択すれば十分であろう.
ヘキサン<ベンゼン<酢酸エチル<アセトン<エタノール<水(極性小から大)
さらにこの中間の極性のものが欲しい場合には,2種の溶媒を混合するか,表4・5を参考にされたい.その際,極性値(誘電率ε,溶解度パラメーターδ,極性値E_(T);ε,δ,E_(T) は数字が大きいと極性が大きい)や沸点,融点を選択の基準とすればよい.反応性溶媒や沸点が高い溶媒はできれば避けた方がよい.このような溶媒では有機物の再結晶中に脱離や置換が起きた多数の例がある.
(iii)加熱溶解 溶解は三角フラスコを用いて水浴中でふりまぜながら行うが,溶解しにくい結晶の場合には,結晶を粉砕して,環流下,マグネチックスターラーでかくはんしながら1時間ほど加熱溶解させる.超音波による溶解法も試みてみてもよい.
(iv)結晶化 結晶が析出する速さ,大きさや形は放冷速度,溶媒,濃度などによって異なる.時には結晶組成が異なってしまうこともある.一般に低融点のものや分子量の大きな物質は結晶化しにくい傾向がある.結晶化が起きにくい場合には,○1放冷を徐々に行う(湯浴に浸したままにしておく).○2結晶の種を入れる.○3管壁をガラス棒などで擦り,種をつくる.○4冷蔵庫内に数日から数か月放置する.○5混合溶媒にして溶解度を下げる.○6自然蒸発を待つ.急冷すると結晶にならず,オイル状となり精製ができないことも多い.論文中には記載がないが,X線構造解析用の結晶が放置したNMR試料管中から偶然得られたということも少なくない.
(v)純度の確認 物質の純度はクロマトグラフィー,各種スペクトル,元素分析などの機器分析が最近の微量分析の方法であるが,融点測定も手軽にできる方法でありおろそかにしてはいけない.融点は,物質が不純であれば文献値よりも低下し,不明瞭になる.また融点測定時に液晶状態が観測される場合もあるから注意されたい.」(184頁20行?186頁末行)
(7b)「

」(186頁)

ク 刊行物8
(8a)「医薬品の大半は化学合成あるいは天然物由来の有機化合物であり,それらは製造の最終工程で晶析により結晶性粉末として調製されることが多い.
結晶は晶析条件に依存してさまざまな構造,形状,大きさ,凝集状態などを示すが,それら固体物性あるいは粉体物性は,医薬品の生物学的有効性,安定性,製剤化などに重要な影響を与える.たとえば,結晶構造の異なる多形や晶癖の異なる結晶の溶解速度は一般的に異なるため,医薬品の生物学的有効性に相違が生じる.こうした相違は,散剤,錠剤,顆粒剤,カプセル剤などといった固体状態の医薬品を経口投与する場合においてとくに顕著に表れる.医薬品の作用部位への到達濃度を決定する要因の一つに投与部位からの吸収の効果があり,経口投与される医薬品では製剤から放出される主薬の溶解性が消化管での吸収に大きく影響するからである.
結晶多形の密度や融点,格子エネルギーなどは異なり,結果として熱や湿度,光といったストレスに対する結晶の物理的あるいは化学的な安定性に相違が生じる.このような理由から保存条件によっては準安定形から安定形への結晶転移が生じ,医薬品の生物学的有効性が変わることもあり得る.したがって,安定性の観点からは,一般に常温で安定な結晶形が選択されることが多い.しかし,一方で準安定形の溶解性が安定形と比較して優位に優れる場合があることから,あえて準安定形を開発の基本形として選択し,生物学的有効性に優れた製剤を設計することもある.
結晶中に溶媒が取り込まれた溶媒和物の結晶は,厳密な意味での結晶多形と区別するため疑似結晶多形と称される.・・・
医薬品は人体に直接作用するものである.疾病の治療や予防に有効であることはもとより,期待通りの薬効が発揮されるように一定の品質をもち,安全性が確保されることが強く要求されている.医薬品の結晶化は通常、溶液の冷却,溶媒の蒸散,低溶解性の溶媒の添加,塩の形成などの方法と,種結晶をかくはん下添加する方法などをさまざまに組み合わせることによって達成される.これらの結晶化条件にかかわる溶媒の特性,過飽和度,温度などのさまざまな因子が,結晶の特性を決定する.したがって,晶析条件と析出する結晶のさまざまな特性の相関を明確にし^(1,2)),医薬品の品質を保証することが重要である^(3)).本章では,そのような医薬品の品質設計の観点から結晶化を概説する.」(109頁3行?110頁23行)
(8b)「6.2.1 結晶多形の検索
複数の結晶相が存在する結晶多形は,医薬品においてもしばしば認められる現象である.しかし,結晶構造と晶析条件との相間はいまだ解明されておらず,結晶多形の有無は試行錯誤を繰り返しつつ求めざるを得ないのが現状である.したがって,偶然に見いだされる場合も少なくないが,結晶多形に重要な影響を与えると思われる各因子を適宜組み合わせ,比較的簡便な方法で検索しているいくつかの報告もある^(4,5)).
表6.1はその例の一つで,抗高血圧剤あるいは利尿剤として広く用いられているFurosemide[図6.1(a)]での析出条件と,各結晶形の析出挙動をまとめたものである^(4)).医薬品における結晶多形の制御は溶媒の選択によってなされることが多いが,ここでも水を含めて18種類の溶媒が検討に用いられた.これら溶媒に対して,さまざまな冷却法や溶媒の蒸発法を組み合わせることにより温度や過飽和度の異なる条件を発生させた.その結果,従来はI形とII形の2種の多形についてだけ報告されていたが,新たに多形1種(III形)と,N,N-ジメチルホルムアミドおよび1,4-ジオキサンを含有した2種の溶媒和物(IV形およびV形)が見いだされた.表6.1(1)の加温溶解し徐冷する方法においてはメタノールやエタノールのような低沸点の溶媒からI形が,ブタノールなどのより高沸点の溶媒からII形が析出する傾向がみられた.(3)の有機溶媒に加温溶解し水を添加する方法でも,また(4)のN,N-ジメチルホルムアミドに加温溶解し他の溶媒を添加する方法においても,同様の傾向がみられた.」(110頁25行?111頁16行)
(8c)「

」(111?112頁表6.1)
(8d)「

」(113頁図6.1)

3 刊行物に記載された発明
刊行物1は、PGI_(2) 受容体作動剤として有用な複素環誘導体化合物に関する特許文献である(摘示(1a)?(1e))。
刊行物1には、上記化合物について、請求項1に以下の一般式(1)

が示され、請求項5にその具体的な化合物が32個記載され、そのうちの化合物(32)として、2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}-N-(メチルスルホニル)アセトアミドが記載されている(摘示(1a))。
そして、刊行物1には、上記一般式(1)の化合物の製造スキーム及び合成中間体について記載されるとともに(摘示(1f))、上記化合物(32)を実施例84(及びそれに先立つ実施例42及びそれに先立つ実施例1)において実際に合成して272mg取得し、この化合物を試験例5においてカニクイザルに0.3又は1mg/kgの用量で経口投与して採血し、この化合物が血小板凝集阻害活性を有することを確認したことが記載されている(摘示(1g)?(1k))。
したがって、刊行物1には、
「2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}-N-(メチルスルホニル)アセトアミド」
の発明(以下「引用発明」といい、その化合物を「引用化合物」という。)が記載されているということができる。

4 対比・判断

(1)本願発明1について

ア 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用化合物である「2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}-N-(メチルスルホニル)アセトアミド」は、本願発明1の「2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}-N-(メチルスルホニル)アセトアミド」すなわち「化合物A」と、同じ化合物である。
したがって、本願発明1と引用発明とは、
「化合物A」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明1においては、化合物Aが、「粉末X線回折図がCu Kα放射線を用いて得られるものであって、粉末X線回折スペクトルにおいて、次の回折角2θ:9.4度、9.8度、17.2度及び19.4度で回折ピークを示す、化合物AのI型結晶」と、粉末X線回折スペクトルパターンにおいて特定の2θ回折ピークの組を示すI型結晶であると特定されているのに対し、引用発明においてそのように特定されていない点

イ 相違点についての検討

(ア)結晶を得ることの動機付けについて
この出願の優先日当時、一般に、医薬化合物については、安定性、純度、扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れていることから、その物質を結晶化することについては強い動機付けがあり、医薬化合物が結晶で得られる条件を検討することは、文献を示すまでもなく、当業者がごく普通に行うことであるものと認められる。結晶化の条件により得られる結晶が異なることがあることも、よく知られている(摘示(2a)?(2b)、(3a)、(8a)?(8b))。
また、刊行物1には、その実施例1?101に、一般式(1)で表される化合物の、具体的な化合物の合成実施例が記載され、一部を除いて、油状物、結晶、アモルファス、固体の別が記載されている。引用化合物を記載した実施例84は、その区別が記載されていない実施例である。しかし、刊行物1には、結晶が得られた実施例も、多数記載されている(実施例12、13、19、36?38、40、43?45、47?52、54?62、65?68、71?73、76、77、79、80、82)。これらの化合物は、引用化合物が一般式(1)におけるQが-CONH-SO_(2)-R^(10) であってR^(10) がメチルである化合物であるのに対し、摘示は省略しているが、そのQがカルボキシ(化合物としてはカルボン酸)やアルコキシカルボニル(化合物としてはカルボン酸エステル)である化合物であり、一般式(1)におけるQ以外の化学構造も、引用化合物とよく似た化合物である。一方、引用化合物を記載した実施例84は、油状物、結晶、アモルファス又は固体の別が記載されていないだけで、引用化合物が固体でないものであるとか、引用化合物を結晶として得ることができない、と考える理由はない。
そうすると、化合物Aについても、当業者が結晶が得られる条件を検討したり、得られた結晶について分析することには、十分な動機付けを認めることができる。

(イ)特定の工程を採用する点及び粉末X線回折により結晶を特定する点について
本願明細書には、本願発明1の化合物Aの特定の粉末X線回折パターンを有するI型結晶を製造するための方法については、
段落【0011】に、
「(I)本発明I型結晶の製造
本発明I型結晶は、例えば、次に記載の方法により得ることができる。
(1)溶解工程
本工程は、化合物Aを溶媒に加熱して溶解させる工程である。本工程において使用しうる溶媒としては、例えば、アルコール系溶媒、アルコール系溶媒とケトン系溶媒との混合溶媒が適当である。本工程に使用しうるアルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、又は、2-プロパノールが適当であり、エタノールが好ましい。本工程において使用しうるケトン系溶媒としては、例えば、メチルエチルケトンが適当である。
特に、本工程において使用しうる溶媒としては、エタノール又はエタノールとメチルエチルケトンの混合溶媒が好ましい。・・・
本工程に使用しうる溶媒の全量は、化合物Aに対して2倍(mL/g)?30倍(mL/g)の範囲内が好ましく、3倍(mL/g)?20倍(mL/g)の範囲内がさらに好ましく、例えば、4倍(mL/g)?15倍(mL/g)の範囲内が特に好ましい。加熱温度は、溶媒の種類及びその使用量によって異なるが、通常、溶媒の沸点以下であって、かつ、60℃?100℃の範囲内が好ましく、70℃?90℃の範囲内が特に好ましい。
本工程において、必要であれば、不溶物を除去するために化合物Aの溶液をろ過してもよい。ろ過中の結晶析出を防ぐために、ろ過は加圧下で、加熱装置付きロートを用いて実施するのが好ましい。ろ過液に結晶析出が見られる場合には、ろ過後に再加熱して再溶解するのが好ましい。
(2)冷却工程
本工程は、上記(1)の工程で調製した溶液を冷却して本発明I型結晶を析出させる工程である。本工程は、加温機能及び撹拌機能付き晶析装置を使用することが好ましい。
冷却温度(析出結晶を採取するときの温度)は、-10℃?50℃の範囲内が適当であり、0℃?20℃の範囲内が好ましく、0℃?10℃の範囲内がより好ましい。本工程では、当該冷却温度に到達するまで3時間?95時間かけて徐冷することが好ましい。
また、本工程において、本発明I型結晶の種結晶を添加してもよい・・・。
(3)結晶採取、乾燥工程
本工程は、上記(2)の工程で得られる析出結晶をろ過、遠心分離など公知の手段によって採取し、乾燥させる工程である。
乾燥工程は、減圧乾燥、乾燥剤による乾燥等、常法により行うことができ、減圧下に行うのが好ましく、20℃?70℃、10mmHg以下で1時間?48時間の範囲内で行うことがより好ましい。
また、上記(1)の工程の後に、上記(1)の工程で調製した溶液を加熱攪拌下で溶媒を留去して結晶を一部析出させた後、上記工程(2)、(3)を行うことにより、本発明I型結晶を得ることができる。・・・」
と記載されている。
また、段落【0015】の実施例1に、
「本発明I型結晶の製造
化合物A(40g)にエタノール(440mL)を加えて、100?110℃の油浴で加熱しながら撹拌し、化合物Aを溶解した後、エタノール(280mL)を留去した。得られた濃縮液を80℃の水浴で加熱還流させながら1時間攪拌した。攪拌しながら10℃まで20時間かけて徐冷し、析出した結晶をろ取した。得られた結晶を少量のエタノール(48mL)で洗浄し、60℃で減圧乾燥して本発明I型結晶(38.93g,97.3%)を得た。本発明I型結晶の粉末X線回折スペクトルを図1に示す。
融点:140.4℃(日本薬局方、融点測定法第1法)」
と記載されている。
さらに、段落【0024】の「結晶化溶媒の検討」と題する試験例4において、種々の結晶化条件と生成する結晶形の関係を調べた表が記載される中、その表4に、エタノールからの結晶化で結晶を得ることについて、
「【表4】

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・
NA:析出物が得られなかった。」
と記載されており、ここでの結晶化条件及び結晶形の決定は、
「(1)化合物Aに結晶化溶媒(表4・・・を参照)を加えて、50℃に加熱しながら60分間撹拌し、ろ過した。ろ過後、ろ液を60℃に加熱しながら30分間撹拌した。その後、攪拌しながら5℃まで11時間かけて徐冷し、5℃で72時間撹拌し、析出物をろ取した。得られた析出物を20℃で減圧乾燥した。
得られた析出物について粉末X線回折スペクトルを測定し、結晶形を決定した。
その結果を表4(単一溶媒における検討)・・・に示す。」
である。また、その表6に、エタノールからの結晶化で結晶を得ることについて、
「【表6】

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・」
と記載されており、ここでの結晶化条件及び結晶形の決定は、
「(2)上記(1)の結晶化溶媒(表4・・・参照)の検討において結晶が得られなかった条件及びそれと類似する条件について、さらに以下の方法を用いて検討を行なった。・・・
化合物Aに上記(1)での検討よりも少ない量の結晶化溶媒を加えて、75℃に加熱しながら撹拌し、化合物Aを溶解した後、続けて65℃に加熱しながら5時間?8時間撹拌した。その後、攪拌しながら20℃まで9時間かけて徐冷し、析出した結晶をろ取した。得られた結晶を70℃で減圧乾燥した。得られた結晶について粉末X線回折スペクトルを測定し、結晶形を決定した。
その結果を表6に示す。」
である。
上記実施例1及び試験例4の化合物AのI型結晶の製造方法は、要するに、化合物Aをエタノールに溶解し、冷却して結晶を析出させるものであって、薄い溶液から出発すると析出物が得られないので、適宜濃い溶液から出発するか、調製した溶液を濃縮して濃くしてから、ゆっくり冷却する、というものである。これは、段落【0011】に記載されたI型結晶を製造するための方法の態様である。
このような操作は、ごく一般的な、溶液の冷却による結晶化であって(摘示(2b)?(2d)(4a)(5a)(6c)(7a)(8a)(8b))、溶媒の選択にしても、エタノールのような、ありふれた、医薬化合物の結晶化に際して当業者が通常選択する溶媒が用いられるものであると認められる(摘示(2c)(2d)(6a)(7a)(7b)(8c))。そして、冷却晶析では、その原理から、できるだけ濃い溶液とすることが望ましいが、短時間では濃い溶液が得られないことがあることもよく知られており(摘示(6c)(6d)(7a))、溶解に長時間をかけること(摘示(7a))や、溶かしやすい程度に溶剤を過量に用い次に適当に濃縮したり冷却晶析と濃縮晶析を適当に組合わせること(摘示(6d))も、当業者が普通に行うことである。冷却速度にしても、浴に浸しつつ行うような極めてゆっくりの徐冷も、急冷も、当業者が通常試みることである(摘示(2c)(2d)(6c)(7a))。
してみると、本願発明1の化合物AのI型結晶は、引用発明において、当業者が、通常行う再結晶の操作により得られるものであると認められる。
また、結晶の特定のために粉末X線回折の測定をして2θで特定することは、医薬化合物の結晶の技術分野では、常套手段であり、そのX線源としてCuのKα放射線は最も一般的なものである。

(ウ)以上によれば、引用発明において、化合物Aの結晶を得ることを試み、その際に結晶化条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより、相違点1に係る「粉末X線回折図がCu Kα放射線を用いて得られるものであって、粉末X線回折スペクトルにおいて、次の回折角2θ:9.4度、9.8度、17.2度及び19.4度で回折ピークを示す、化合物AのI型結晶」との構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

ウ 発明の効果について
本願明細書の段落【0004】には、「本発明は、優れた薬効を有する化合物Aの新規な結晶を提供することを主目的とするものである」と記載されている。そして、段落【0021】?【0023】の試験例及び図面において、実施例2と同様の方法でエタノールとメチルエチルケトン(9:1)の混合溶媒から結晶化して調製したI型結晶について、
「粒子径測定」と題する試験例1には、積算粒径分布において、D10が5.6μm、D50が12.8μm、D90が25.8μmであり、その走査型電子顕微鏡写真が図4であることが、
「本発明結晶中に含まれる残留溶媒濃度の測定」と題する試験例2には、エタノール371ppm、メチルエチルケトン82ppmであったことが、
「再結晶にける不純物除去効果」と題する試験例3には、原料の化合物Aの純度が98.04%であったのがI型結晶では純度99.51%(不純物除去率75%)であったことが、それぞれ記載されている。
本願発明1の効果は、請求項1に記載された化合物AのI型結晶を提供できることであると認められる。
しかし、上記イに述べたとおり、そのような結晶は、当業者が容易に得ることができるものであるから、このような効果は、格別のものであるとすることはできない。そして、本願明細書の記載をみても、請求項1に記載された化合物AのI型結晶が、当業者の予測を超える格別の効果を奏するものでもない。

エ まとめ
したがって、本願発明1は、本願優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及びこの出願の優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本願発明2について

ア 対比
上記(1)アと同様に対比すると、本願発明2と引用発明とは、
「化合物A」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点2)
本願発明2においては、化合物Aが、「粉末X線回折図がCu Kα放射線を用いて得られるものであって、粉末X線回折スペクトルにおいて、次の回折角2θ:9.0度、12.9度、20.7度及び22.6度で回折ピークを示す、化合物AのII型結晶」と、粉末X線回折スペクトルパターンにおいて特定の2θ回折ピークの組を示すII型結晶であると特定されているのに対し、引用発明においてそのように特定されていない点

イ 相違点についての検討
上記(1)イと同様に検討すると、本願明細書には、本願発明2の化合物Aの特定の粉末X線回折パターンを有するII型結晶を製造するための方法については、
段落【0011】に、
「(II)本発明II型結晶の製造
本発明II型結晶は、例えば、次に記載の方法により得ることができる。
(1)溶解工程
本工程は、化合物Aを溶媒に加熱して溶解させる工程である。本工程において使用しうる溶媒としては、例えば、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、飽和炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、水、又はこれらの混合溶媒が適当である。混合溶媒としては、例えば、エーテル系溶媒と飽和炭化水素系溶媒若しくは水との混合溶媒、又は、アルコール溶媒とケトン系溶媒若しくは水との混合溶媒が好ましい。本工程に使用しうるアルコール系溶媒としては、例えば、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1?8のアルコール、具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノールを挙げることができる。本工程に使用しうるエーテル系溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンを挙げることができる。本工程において使用しうる飽和炭化水素系溶媒としては、例えば、直鎖状若しくは分枝鎖状の炭素数6?8のアルカン、又は、炭素数6?8のシクロアルカン、具体的には、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンを挙げることができる。本工程において使用しうるケトン系溶媒としては、例えば、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数3?8のもの、具体的には、アセトン、メチルエチルケトンを挙げることができる。
本工程において使用しうる溶媒の全量としては、例えば、化合物Aに対して2倍(mL/)?20倍(mL/g)の範囲内が適当であり、3倍(mL/g)?15倍(mL/g)の範囲内が好ましく、5倍(mL/g)?10倍(mL/g)の範囲内がより好ましい。加熱温度は、使用する溶媒の種類及び使用量によって異なるが、通常、溶媒の沸点以下であって、かつ、60℃?90℃の範囲内が適当であり、70℃?80℃の範囲内が好ましい。
本工程において、必要であれば、不溶物を除去するために化合物Aの溶液をろ過してもよい。ろ過中の結晶析出を防ぐために、ろ過は加圧下で、加温装置付きロートを用いて実施するのが好ましい。ろ過液に結晶析出が見られる場合には、ろ過後に再加熱して再溶解するのが好ましい。
(2)冷却工程
本工程は、上記(1)の工程で調製した溶液を冷却して本発明II型結晶を析出させる工程である。本工程は、加温機能及び撹拌機能付き晶析装置を使用することが好ましい。
冷却温度(析出結晶を採取するときの温度)は、例えば、-10℃?50℃の範囲内が適当であり、0℃?20℃の範囲内が好ましく、0℃?10℃の範囲内が好ましい。
また、本工程において、本発明II型結晶の種結晶を添加してもよい。・・・但し、アルコール系溶媒、又はアルコール系溶媒とケトン系溶媒との混合溶媒を用いて本発明II型結晶を製造する場合には、上記(1)の工程で調製した溶液に本発明II型結晶の種結晶を添加して冷却するか、又は、上記(1)の工程で調製した溶液を急冷する必要がある。冷却速度は、60℃/時間?600℃/時間の範囲内が適当である。
(3)結晶採取、乾燥工程
本工程は、上記(I)本発明I結晶の製造の(3)結晶採取、乾燥工程と同様の方法により行うことができる。」
と記載されている。
また、段落【0024】の「結晶化溶媒の検討」と題する試験例4において、種々の結晶化条件と生成する結晶形の関係を調べた表が記載される中、その表5に、アルコール系溶媒と水との混合溶媒からの結晶化で結晶を得ることについて、
「【表5】

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・」
と記載されており、ここでの結晶化条件及び結晶形の決定は、
「(1)化合物Aに結晶化溶媒(・・・表5を参照)を加えて、50℃に加熱しながら60分間撹拌し、ろ過した。ろ過後、ろ液を60℃に加熱しながら30分間撹拌した。その後、攪拌しながら5℃まで11時間かけて徐冷し、5℃で72時間撹拌し、析出物をろ取した。得られた析出物を20℃で減圧乾燥した。
得られた析出物について粉末X線回折スペクトルを測定し、結晶形を決定した。
その結果を・・・表5(混合溶媒における検討)に示す。
なお、混合溶媒での結晶化検討においては、それぞれの溶媒を同じ容量で混合したものを使用した。」
である。
上記試験例4の化合物AのII型結晶の製造方法は、要するに、化合物Aをエタノールと水との混合溶媒、2-プロパノールと水との混合溶媒、1-プロパノールと水との混合溶媒、2-ブタノールと水との混合溶媒又は1-ブタノールと水との混合溶媒(何れも1:1)に溶解し、冷却して結晶を析出させるものであって、ゆっくり冷却する、というものである。これは、段落【0011】に記載されたII型結晶を製造するための方法の態様である。
このような操作は、ごく一般的な、溶液の冷却による結晶化であって(摘示(2b)?(2d)(4a)(5a)(6c)(7a)(8a)(8b))、溶媒の選択にしても、エタノール、プロパノール又はブタノールのような、ありふれた、医薬化合物の結晶化に際して当業者が通常選択する溶媒(摘示(2c)(2d)(6a)(7a)(7b)(8c))が同じくよく用いられる水との混合溶媒として用いられるものである。結晶化に混合溶媒を使うのは通常のことであること(摘示(2e)(7a))、医薬化合物の技術分野では水和物結晶の検討も普通に行われること(摘示(2c))からすると、上記のエタノール等に水を混合した溶媒系からの結晶化も、当業者が当然に考えることである。この点、平成24年12月5日言渡平成23年(行ケ)第10445号判決(審決注:アトルバスタチンの結晶の特許に関する事件)においても、「水を含む系から水和物として結晶させることを試みることは、当業者にとって通常なし得ることであったというべきである」と判示されている。そして、冷却晶析では、その原理から、できるだけ濃い溶液とすることが望ましいが、短時間では濃い溶液が得られないことがあることもよく知られており(摘示(6c)(6d)(7a))、溶解に長時間をかけること(摘示(7a))も、当業者が普通に行うことである。冷却速度にしても、浴に浸しつつ行うような極めてゆっくりの徐冷も、急冷も、当業者が通常試みることである(摘示(2c)(6c)(7a))。
してみると、本願発明2の化合物AのII型結晶は、引用発明において、当業者が、通常行う再結晶の操作により得られるものであると認められる。
その余の点は、上記(1)イと同様である。
そうすると、引用発明において、化合物Aの結晶を得ることを試み、その際に結晶化条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより、相違点2に係る「粉末X線回折図がCu Kα放射線を用いて得られるものであって、粉末X線回折スペクトルにおいて、次の回折角2θ:9.0度、12.9度、20.7度及び22.6度で回折ピークを示す、化合物AのII型結晶」との構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

ウ 発明の効果について
本願明細書の段落【0004】には、「本発明は、優れた薬効を有する化合物Aの新規な結晶を提供することを主目的とするものである」と記載されている。そして、段落【0021】?【0023】の試験例及び図面において、実施例4(審決注:摘示は省略した。)と同様の方法でエタノールとメチルエチルケトン(9:1)の混合溶媒から結晶化して調製したII型結晶について、
「粒子径測定」と題する試験例1には、積算粒径分布において、D10が5.2μm、D50が11.3μm、D90が22.0μmであり、その走査型電子顕微鏡写真が図5であることが、
「本発明結晶中に含まれる残留溶媒濃度の測定」と題する試験例2には、エタノール2169ppm、メチルエチルケトン246ppmであったことが、
「再結晶にける不純物除去効果」と題する試験例3には、原料の化合物Aの純度が98.04%であったのがII型結晶では純度99.33%(不純物除去率66%)であったことが、それぞれ記載されている。
本願発明2の効果は、請求項2に記載された化合物AのII型結晶を提供できることであると認められる。
しかし、上記イに述べたとおり、そのような結晶は、当業者が容易に得ることができるものであるから、このような効果は、格別のものであるとすることはできない。そして、本願明細書の記載をみても、請求項2に記載された化合物AのII型結晶が、当業者の予測を超える格別の効果を奏するものでもない。

エ まとめ
したがって、本願発明2は、本願優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及びこの出願の優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 まとめ
以上のとおり、本願発明1及び2は、本願優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及びこの出願の優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明1及び2は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-10 
結審通知日 2016-06-21 
審決日 2016-07-04 
出願番号 特願2011-519943(P2011-519943)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早乙女 智美伊佐地 公美堀 洋樹  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 中田 とし子
冨永 保
発明の名称 結晶  

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